スクールランブルIF12【脳内補完】

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610クズリ
 もう終わりですか、早いですね。クズリです。
 埋めてみようかな。

>>539さん、>>606さんに応じてチャレンジ、旗SS。
611All for you:04/08/29 08:50 ID:uSNghHYU
 目を覚ますたびに浮かんでくるその顔を、いつも苛立ちと共に愛理は頭の中から追いやる。
 出てくるな。入ってくるな、私の中に。アンタの存在なんて。
 思えば思うほどに、余計に強く浮かぶ面影に、少女の胸はひどく、痛んだ。

 All for you

「止めて」
 隣に座っていた男の話し声を、これ以上、聞いていたくなくて、愛理は車を止めさせた。
 訳もわからず、言われた通りにする男。
 つまらない奴。
 胸の中で吐き捨てながら、彼女は扉を開け、外に出た。
「楽しかったわ。それじゃ、さよなら」
 とっておきの作り笑いと共に、心にもない台詞を口にする。真に迫った偽の笑顔に、彼は心を乱
されたのだろう、精一杯の虚勢を張って、
「ああ、じゃあ、またな」
 物分かりの良い男を演出する。
 馬鹿な男。走り去った車を見送った彼女は、その影が視界から消えると同時に、蔑みを隠すこと
なく、その美しい顔に表した。
 普通の女ならば、それは見ていられないほどの醜悪な表情になることであろう。だが愛理の場合、
その素質がなくても男達は、気高さの中に浮かぶ侮蔑に被虐心を強くそそられるに違いない。
 それほどまでに少女は美しく、華やかに咲き誇る。

 だが、その内は。

 携帯を手に取り、中村を呼ぼうとして愛理は、思いとどまる。
 ――――もう少しだけ一人でいたい。
 心の命ずるままに、彼女はその足を踏み出す。目的地もなく、ふらふらと。
 消えなさいよ。
 胸の内に訪れる思い出達を、愛理は必死にかき消そうとする。
 告白をされたこと。海で羽交い絞めされたこと。体育祭でジャージを差し出され、優しくされた
こと。
 忘れようとしても、忘れられず。その記憶はより鮮明に、心に刻まれる。
612All for you:04/08/29 08:51 ID:uSNghHYU
 例えるならば彼女は、蜘蛛の糸に絡まれた一匹の蝶だ。
 羽ばたけば羽ばたくほどに、その拘束は強くなり、逃げられなくなる。
 薄々と彼女は、蜘蛛の名前に気付きながら、目をそらし続けている。
 一歩ずつ、着実に己を喰らうために近づいてきているその蜘蛛の存在を、無視している。見えな
いふりをしている。
 だがそれも、限界が近づいていたけれど。
 疲れ果てた蝶の羽ばたきは、弱々しいものに変わっている。
 蜘蛛の口が、その美しい体を飲み込もうとしているのに、逃げる気力は、もう、ない。

 あてどもない彷徨は続き、いつか彼女は駅前へと戻ってきていた。
 田中商店の前を通って、ふと彼女は歩みを止める。
 目の前には、空き地。
 つい先日まであったはずのビルが、跡形もなく姿を消していた。

 思い出の場所から消えた要素に、何故か少女は、殴られたかのような衝撃を感じた。

 そこに、少女は立ちつくしていた。雨の中。
自慢の髪が濡れ、頬を冷たい雨粒が伝って落ちていく。
 差し出された傘。見上げた顔。
「そこまでだったら送ってやるぜ――――ほんのそこまでな」
 ぶっきらぼうな台詞。

 微かにぶつかった腕に感じた、ぬくもり。

 蘇る記憶が、彼女の心を熱くする。
 まさにこの場所が、そうなのだった。
 愛理が蜘蛛の巣に触れたのは。

 しかし、同じ場所から見ているはずなのに、光景は変わってしまった。
 無くなってしまった。ビルが、ほんの少しの間に。
 訪れる喪失感。心の中に生まれた小さな穴は、徐々に徐々に、広く大きくなっていって、愛理の
心臓を圧迫する。きりきりとした痛みに、少女の瞳は微かにうるんだ。
613All for you:04/08/29 08:52 ID:uSNghHYU
 変わっていくのだ。愛理はそう、思い知らされる。
 何を感傷的になっているのだろう、私は。思いながらも、考えるのを止めることは出来ない。む
しろ加速していく。
 変わっていく。何も変わらないように思っていても、変わっていってしまうのだ。
 そして消え去ってしまう。
 私を残して。
 あの男も。
 彼の隣に立つのは、どこか儚げな少女。
 自業自得じゃない。そんなの。愛理の内に声が響く。
 貴方は何をしたの?優しくしてやったことが、これまでにあったというの?あの子は――――き
っと、優しい。自分とは違って。
 優しくする。それぐらい、とても容易いことなのに。他の男には、何時だって私は、そうしてき
たじゃない。
 ――――だから、か。
 唐突に、最後の一ピースがはまって、愛理の心の中に絵が現れた。
 彼といることで、どんなに苛立ったとしても、愛理はそれを隠そうとしなかった。隠す必要もな
かったからだ。
 つまりは、素だったのだ。自分の心の、本音をさらけ出せる相手だったということ。
 他の男の前では、無意識のうちに仮面を被ってしまう。誰も心に寄せ付けないために。
 その仮面を外して、本当の自分のままで向かい合える、それが播磨拳児という男だった。
 だから、か。惹かれたのは。
 居心地の良さを感じたのは。
 嬉しかったのは。
 あんなにも、男としての魅力など皆無なのに。
 彼の前では、演じる必要などなかった。だから、落ち着けた。
 心、安らいだ。

 だがその彼の存在は、遠い。
 その事実が、彼女の胸にのしかかり、心を潰そうとする。

 頬を雫が伝わった。
 それが雨なのか、それとも涙なのか、彼女自身にもわからなかった。
614All for you:04/08/29 08:52 ID:uSNghHYU
 ザァザァと、降り続ける雨。
 空を見上げようとして、愛理はとどまる。うつむいた瞳は、アスファルトに生まれる水溜りを映
し出している。

「何、やってんだ?お嬢」
 差し出された傘。見上げた顔。
 ぶっきらぼうな台詞。

 愛理は耳元に、確かに自分の心臓の音を聞いた。

「アンタ……何やってんの?」
「それはこっちの台詞だろーが。傘もささねぇで、何やってんだ。こんなとこで」
 問いかけに答えず、愛理は逃げるように歩き出す。
「あ、おい、待てよ、こら」
「付いてこないでよっ!!」
 その叫びに一瞬、播磨は歩みを止める。微かに顔に怒気をはらませるが、
「お嬢……泣いてんのか?」
 横顔を見て気付いたのか。どんどんと、早足で進む彼女の横に、彼は追いついてきた。
「バカ言ってんじゃないわよっ!何で私が――――」
 どうしてこういう時だけ、素直になれないのだろう。
 思ってしまった瞬間、また熱い雫が溢れ出す。
「ほっといてよ!!ほっときなさいよっ!!」
「ほっときてぇのはヤマヤマだけどな、泣いてる女をほっとけるほど、男捨ててるつもりはねえん
だよ」
 少女の叫びに、播磨は苛立ちまじりの声を返す。彼女のずぶ濡れの体を、彼の持つ傘が雨から守
っている。
 手を伸ばす彼は、代わりに自らの体を犠牲にしていた。あっという間に、今度は彼の服が濡れて
色を変えていく。
「アンタ……」
 立ち止まる彼女に、舌打ちをしながら、播磨は言った。
「ったくよ。前とおんなじ場所じゃねえか。何かあそこに思い入れでもあんのか?」
 また、跳ねる心臓の音が、大きく聞こえた。
615All for you:04/08/29 08:53 ID:uSNghHYU
「アンタ……覚えてたの?」
「あ?――――おんなじ場所でおんなじように雨に打たれてるんだから、思い出して当然だろうが」

 まずい。
 蝶は、思う。
 これは、まずい。
 目の前に、蜘蛛が大きく口を開けているのに。
 自分の体を食べようとしているのに。
 逃げる気がしない。
 むしろ喜んで、己の体を差し出そうとしている自分がいる。

 胸の内に生まれた熱の、おもむくままに愛理は言葉を紡ぐ。
「アンタってさ――――天満の妹と付き合ってる、ってホント?」
「あ?なんだよ、突然――――けど、いい機会だ。天……皆の誤解を解いてくれよ。俺は妹さんと
つきあってなんかいねぇ」
「――――そう。でも、二人っきりで会ってるんでしょう?」
「そ、それは――――頼み事をしてるだけだ。天に誓って、俺と妹さんの間に、なんらやましいこ
とはねぇっ!!」
「……ふぅん」
 言ってから、彼女は肩をすくめて続けた。
「ま、私には関係ないけれど」

 蝶は、酔っていた。
 安堵に、心が狂喜する、その感覚に酔いしれていた。
 そして思う。ああ、私は。
 望んでいたのだ。食べられるのを。

 彼女を、蝶を絡みとった蜘蛛の名前は。

 恋という。

 そして蝶は、蜘蛛に食べられ、一つになった。
616Classical名無しさん:04/08/29 09:10 ID:AvQD4gbE
>>610
⊂⌒〜⊃*。Д。)-зムッファー
こ、これぞ理想の旗展開…これでしばらくは生きて行ける
神よありがとう、GJですた
617All for you:04/08/29 09:13 ID:uSNghHYU
「――――お嬢?」
 急に黙りこくった目の前の少女を心配するように、近づいてきた彼の胸倉を、愛理はつかんで引
き寄せた。
「……!?」
 驚く播磨を気にせず、彼女は唇を寄せる。
 彼の唇に。
 凍りつく彼に構わず、押し付ける。力強く、乱暴に。
 つまるところ、それは奪う行為。
 だが同時に、それは捧げる行為でもあった。

 心ゆくまで、彼の唇のぬくもりを自らの唇に刻み込んだ後、彼女は彼からゆっくりと顔を離す。
 サングラス越しにも、彼の瞳が驚愕に見開いているのがわかって、愛理は微笑んだ。

 蜘蛛に食べられて、一つになった、蝶。
 そう、彼女は蜘蛛になったのだ。
 罠をしかけよう。絡みとろう。
 自分のものにするのだ。
 彼を。
 播磨拳児を。

「な……な……な……」
「アンタが天満の妹と付き合ってようがそうでなかろうが、関係ないわ――――奪ってやるから」
 腰に手をあて、胸を張って。
 愛理は、まるで戦乙女のように、凛とした表情で播磨を真っ直ぐ指差す。
 その気迫に押されたかのように、雨が止んだ。
「アンタが悪いんだからね?私を本気にさせたんだから」
 言葉の一つ一つが力強く、彼を縫いとめる。
「私のファースト・キスをあげたんだから、それ相応の対価はもらうわよ。わかったわね?」
 突然の出来事に呆然とする播磨を、愛理は叱咤する。
「返事はっ!?」
「お、おう」
「よろしい」
618All for you:04/08/29 09:14 ID:uSNghHYU
 その後、帰宅した愛理は熱いシャワーを浴びながら、戸惑いを隠せずにいた。
 焼け付くような熱が去った今、自分がしでかしたことに彼女は赤面する。
 何て告白だ。尋常ではない。
 もっと他にやり方はあっただろうに。
 自己嫌悪を、しかし、愛理は感じなかった。
 優しいフリだとか、しおらしいフリだとか。今更、自分を偽っていても仕方がない。
 彼に惹かれたのは、自分が自分らしくいられるからだ。
 ならば、こうして彼に想いを告げるのだって、自分らしいやり方だったということ。
 確かに自分が、こんな風に人を好きになるなんて、思ってもみなかったけれど。
 愛理は、微笑む。
 悪くない。恋をするというのも、悪くないものだ。
 あんなにも望んでいた、芯からゾクゾクするような想いが自分にも訪れた。
 冷静に考えれば、相手に不満がないわけでもないが、仕方ないことだ。
 好きになってしまったのだから。

 自室に戻って彼女は、無理やりに聞き出した彼の携帯の番号を見つめる。
 電話をかけようとして、彼女は思いとどまった。
 時間はたっぷりある。そして逃がしはしない。
 ゆっくりと、つかまえればいいのだから。
 最後には必ず。
 彼の心を、自分のものにしてみせる。
 自分なしでいられなくしてみせる。
 横になったベッドの上で、嫣然と笑いながら、沢近愛理は。
 そう、誓ったのだった。
619クズリ:04/08/29 09:16 ID:uSNghHYU
 言われる前に先に言っておきますね。

 こんなの沢近じゃな〜い。
 どうしてこうなったのやら。
 そして連続投稿にひっかかりすぎ。
 回避方法を教えてもらいたいものです。
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