チャプチャプ
プールサイドで足を動かすたびにプールの水が音を奏でる。
チャプチャプ
「ふぅ〜」
八雲は小さく溜め息をついた。
ワァー、ワァー、キャー、キャー
人のざわめきが聞こえてくる。
チャプチャプ
「はぁ〜」
八雲は再び溜め息をついた。
「なに溜め息ついてるの?」
「え? ……ああ、サラ」
声がした方を見ると友人のサラが流れるプールから上がってきたところだった。
「Nonnon! 溜め息なんて辛気臭いよ」
「それは分かっているけど……」
けれど溜め息をつかずにはいられなかった。
「ん? 何かあったの?」
八雲の様子に気づいたのかサラが少し心配そうに訊ねてきた。
「あの……男の人が……」
「男の人?」
「うん。……その、声をかけられて……」
それで彼女は少々参ってしまっていたのだ。
「え? でも学校でもよく声をかけられてるでしょ? いまさら一人や二人くらい」
男の人に声をかけられることは八雲にとって日常だし、そもそも恋愛音痴の彼女にとってナンパされたとしても
相手が何をしたいのか、いまいち理解できないだろうからそれほど気疲れしないはずなのにとサラは考えていた。
「一人や二人じゃなくて……その……十人ほど……」
「へ? 十人? えと、私が戻ってくるまでだよね?」
こく
八雲は小さく頷いた。
「はぁ〜、凄いんだねぇ」
サラは少々呆れていた。
自分がプールに入っていたのはせいぜい10分に満たなかったはずだ。なのにそんなにもナンパされているとは。