震える天満を、八雲はしっかりと抱きしめる。
「大丈夫――――姉さん、大丈夫だから」
Trurururu….
電源を切ったはずの、そしてマナーモードにしてあったはずの携帯から溢れ出す音。
恐怖にか、天満の体が跳ねる。それを抑えつつポケットから彼女は携帯を取り出し、投げ捨てた。
『ころしてやる』
怨、と携帯から響く声。
轟く雷鳴、光る稲光。激しい雨が窓ガラスを叩く。
万物から敵意が溢れ出し、姉妹の精神を圧迫していく。
目には見えない『何か』が、確かに自分達の元へと集まってきていることに、否応なく二人は気
付かされる。
『ころしてやる』
『ころしてやる』
『ころしてやる』
テレビの画面に流れる文字、コンポからこぼれる声。
部屋の中が少しずつ闇に染まっていき、二人を押し潰そうと迫ってくる。
「イヤーーーーーッ」
絶叫と共に八雲の腕の中で、天満が気を失った。力なく倒れそうになる彼女を支えつつ、八雲は
少しずつ出口へと向かう。
姉さんだけでも……!!
油断なく辺りに気を配る八雲。そこに宿る、常にない力強き光に押されてか、闇は一定の距離を
保ったまま、彼女に近づこうとしない。
視界のほとんどが黒に染まる中、少女は姉の体を抱いたまま、ゆっくりと後ずさる。
そして彼女の手が扉にかかった。
よしっ!!
思うと同時に開けた扉の、その向こうには。
深い闇が広がっていた。