淡い紅茶色の長い髪、そして深い黒の瞳。微笑みたたずむ彼女に、月の光が絡んで踊る。
同性の目から見ても、彼女のその姿は美しいと、絃子は思った。
そう。時に、焦がれるほどに。
胸が焼かれるほどに。
If...moonlight silver
彼の携帯にメールが入ったのは、愛理の家を後にした日の昼のことだった。
『来たまえ』
ただその一言。差出人は、彼の従姉妹。
少し前までいた少女の家での出来事に気を塞いでいた播磨は、最初それを無視しようとした。
が、思いとどまる。
播磨が、高校卒業と同時にあのマンションの一室を出てからこれまで、彼女――――刑部絃子が、
彼を家に招いたことは一度もない。
そんな彼女が、唐突に彼を呼び寄せた……その裏に何かあるのではないか。ふと、彼はそう思っ
たのだ。
久しぶりに、絃子の顔を見るのも悪くない、か。
心の中で呟いて、彼は承諾のメールを返す。
その脳裏には、沈着冷静、滅多なことで落ち着きを失わぬあの女性の顔が浮かんでいた。
雑用を済ませた彼が、玄関の前に立ったのは結局、夕暮れ間近。
まだ半年しか経っていないせいか、懐かしさはない。
ただ、鍵を返していたことを忘れていて、ポケットを探した自分に彼は苦笑する。首を振って、
播磨はインターホンを押した。
「遅いぞ、拳児君」
「いや、俺にも都合があるからな……って、おめぇ」
久々に会う彼女の、体からは隠しきれないほどの酒気が溢れ出ていた。その匂いに鼻をしかめる
間もなく、播磨は絃子に腕をつかまれ、部屋の中へと連れ込まれる。
バタン。扉が背の向こうでしまる音を聞きながら、彼は戸惑いを覚えた。
「おい、大丈夫かよ」
「ああ……大丈夫さ」
アルコールに足をもつれさせる従姉妹の姿を、彼は初めて見た。