刑部絃子は子供のような大人である。
イタズラに悪ふざけ、およそ子供のような行為を大人の知恵を以て実行する、そんな女性である。
したがって。
「イトコ、今日暇か?」
その無愛想な居候がぶっきらぼうに声をかけてきたとき、次のような会話が交わされたのは、ある種当然
であると言える。
「拳児君」
「な、なんだよ。んなマジな顔しやがって」
「熱でもあるのかな? 君の方から私の都合を訊いてくるとは」
「うるせぇっ! で、どうなんだよ」
「これと言って用事はないが……一体何かな、そんなにムキになって」
「……寝ぼけてんのか? 今日はテメェの」
「おお、そうか。今日は私の誕生日だったね。去年はどこかの誰かさんが見事にすっぽかしてくれたからね、
すっかり忘れていたよ」
「くっ……」
「いや、あのときは来年はどうしてやろうかといろいろ計画も練ったけどね、今の今まで思い出せなかった。
人間忘れるときは忘れるものだ、なあ拳児君?」
「だぁっ! 俺が悪かったよ謝りゃいいんだろ謝りゃ。スミマセンでした絃子さん! ほらよ」
「誠意が感じられないが……まあよしとしよう。それで、どんな趣向なのかな? 君にあまり無理をさせるのも
私としては心苦しいところだし、一応聞かせてくれ」
「んなおおげさなもんじゃねぇよ。近所でいつも祭やってるだろ、あれに行かねぇか」
「祭……」
「昔よく行ってただろ……ってなんだよ、何がおかしいんだよ」
「いや、悪い。そうだな、君が選ぶプレゼント、というのも見てみたい気がするが、それよりこっちの方が
ずっといい。うん、君にしては随分と気が利いているね、拳児君」