スクールランブルIF12【脳内補完】

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206lonely,lonely night
 ごくりと、喉を鳴らせながら一息で缶ビールの半分ほどを流し込む。
「ふん」
 至極つまらなそうに、絃子は髪を掻き揚げた。足元には、空になったビールやチュウハイの缶
が所狭しと転がっている。
 それを横目で見やりながら、彼女はまたも一息で手に持つ缶を空にして、その場へと投げ捨
てた。
 床に落ち、こつりと音が鳴る。それすらもわずらわしい。むしゃくしゃした心を静めるため、まだ
開いていないワインの栓ををあけ、コップに注ぐことなく直接口をつけて喉に流し込んだ。
「くそっ」
 そのような飲み方で美味いと感じるわけもない。焼けるような熱さしか味覚が伝えないことに顔
を一層険しくしながら絃子は舌打ちをする。だが、酩酊が頭だけでなく舌にまで回っていたため、
思うように動かせない。そのことがまた絃子の心をささくれ立たせる。
 このように荒い飲み方を絃子はしたことはなかった。自身が乱れることを何より嫌う彼女にとっ
て、酒に飲まれることなどあってはいけなかった。だが、今日だけは違った。
「好き、か」
 回らない舌で昼間のことを思い出す。耳元で囁かれた低い声が今も耳朶を打っている。廻さ
れた腕の力強さを身体が忘れようとしない。
 ただ、それだけでアルコールとは違う熱さが体中を駆け回った。それを、かぶりを振って追い払
う。
「何を考えているんだ、私は」
 それを――わずかとはいえ嬉しいと思っている自分などいるはずがない。
「全く、相変わらず落ち着きのないやつだ」
 毒づくことで、絃子は心の平静を取り戻そうと試みる。だが、どうしたことか。自分の声に甘い響
きが含まれていることに、飲みすぎてしまった酒が否応なしに自覚させてきた。
「いや、だ」
 手に持つビンを投げ捨て、彼女は童女のように自分の身体を抱きしめる。流れ出たワインがズボ
ンを濡らしてくるのを感じても、彼女はその場から動くことが出来なかった。