スクールランブルIF08【脳内補完】

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680if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:35 ID:VK7AADpo
 城戸の健闘も空しく、結局2−Cは4位、2−Dが一位で女子リレーの幕は閉じた。
 競技を終えて戻ってきた選手たちを迎える2−Cの面々の態度は、どこかぎこちないもの
だった。健闘をたたえればいいのか、悔しがればよいのか、どうするべきなのかわからず、
慰めの言葉も思いつかない、そんな態度だった。
 なんともいえぬ重い空気がたちこめ、その原因が自分にあるのだと思うと沢近の表情は
一層暗いものとなった。
「気にするなよ、あんたはよく頑張った。ただ、たまにはああいうこともある。誰だって。
ただそれだけの話なんだから」
 美琴がそっと沢近に言った。
「美琴…」
 沢近が美琴の方へ振り向くと、美琴は穏やかに微笑んで小さく頷いて見せた。
「みんな、よく頑張ってくれた!」 
 突然、沈んだ空気をまるで意に返さない大声が響きわたった。花井である。
「しかし女子の健闘も空しく2−Dに一位の座を譲ることになってしまった。これで我々が
優勝するには、次の男子リレーで一位を取るしかなくなってしまった!」
 花井が片手を腰に当て、もう一方をこぶしを握り振りかざしながら力説する。
「だがしかし! ここで僕が活躍し優勝すれば八雲君へのまたとないアピールになる
だろう!!」
 学校中に響き渡る大声で花井が叫ぶ。そしてなぜか斜め45度を見上げている。
 間違いなく本心からのその言葉に、呆れたような失笑があちこちからもれる。
681if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:37 ID:VK7AADpo
「お前のためにやってるんじゃねぇ!」
 斜め上を見上げたままの花井のガラ空きの胴に美琴のミドルキックが決まる。
 そのやり取りに、先ほどまでの空気もどこへやら、クラスに大きな笑いが湧き起る。
「でもま、確かにわかりやすくなった分だけやる気がでるな」
 麻生が言った。冷静で物事に関心の薄い麻生には珍しい発言である。
「おお、珍しい! 麻生が燃えてるぞ」
 麻生と仲の良い数人が、こぞって麻生をはやしたてる。
 すでにいつもの雰囲気に戻っているクラスメートたちを、沢近は少し離れた場所から
眺めていた。
「愛理」
 声をかけられて振り向くと、いつの間にいたのか高野晶が背後に立っていた。
「膝とか、血がでてる」
 晶に言われて見てみると、転んだ時に擦り剥いたのだろう、膝や肘などから血が流れ
ていた。
「洗ってきたほうがいいよ」
「そうね、そうするわ」
 沢近はそう言ってその場から発とうとした。
「でも、男子のリレーが始まる前には戻ってこないとダメだよ」
 その背中に晶が声をかける。
「晶、ありがとう」
 沢近は振り向かずにそう言うと、水飲み場へと向かった。
682if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:38 ID:VK7AADpo
「〜〜〜っ!」
 傷口が染みる痛みに、声にならない呻きが漏れる。
 沢近は一通り傷口を洗い終えると、そのまま水飲み場に腰掛けた。
 どうして自分はこうなのだろう? 強がって、関係ないとか、どうでもいいとか言って
おいて、そのくせ馬鹿みたいに意地張って、そしてバカをやってしまう。
 ちゃんと足を診てもらってれば、痛めたことを正直に話してれば、意地なんて張らなけ
れば、きっとこんなことにはならなかった。
 みんなに散々発破かけておいて、あのハゲにも偉そうなこと言っておいて、その結果が
これだ。あんなに頑張ったのに、みんなもあんなに頑張ってたのに……。
 腿に何かが当たる感触に思考から引き戻された。見てみると水滴が垂れたように濡れて
いた。肘を洗ったときの水が垂れたのだと思った。だが、違った。
 泣いているのだ、それも子供みたいにダラダラと。
 だが沢近はそれを拭おうという気にはならなかった。みっともないかもしれないが、そ
れでも構わない気がした。涙が流れた分だけ、気持ちが軽くなっていくのを感じていた。
「ゲ、お嬢!」
 沢近の反応は早かった。その声が誰の声か気づいた瞬間、水道の蛇口を目一杯捻ると頭
を水の中に突っ込んだ。
「な、なにやってんだオメェ…?」
 いきなり頭から水を被り始めた沢近に播磨が恐る恐る声をかける。
「なによ! なにしにきたのよ!! なんだっていいでしょ!!!」
 真っ赤な目で睨み付けながら、物凄い剣幕で沢近が怒鳴る。
「イヤ,ソノ、腹ガ減ッタノデチョット水ナドヲ飲ミニ…」
 沢近のあまりの形相に恐れをなした播磨は思わずカタコトになる。
「なによそれ…。いいのよ、どうせ私を笑いにきたんでしょ……」
 先ほどの剣幕とは打ってかわって、暗く重い口調で沢近が言った。
「……笑うといいますと?」
「とぼけないでよ! リレーでのこと、見てたんでしょ!」
「いや、なんのことだか知らねーが、とにかくリレーは見てねーんだ」
「見て、なかったの…?」
「ああ、ちょっとやることがあったもんでな」
683if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:41 ID:VK7AADpo
 見られていなかったなら、醜態を見せずに済んでよかったはずだ。そのはずなのに、見て
くれていなかったことに寂しさを感じるのは何故なのか。
「そう、ならいいわ…」
「全然よさそうに見えねぇよ、―――ちょっと待ってろ」
 そう言うと播磨は走り去ってしまった。しばらくするとジャージを手に戻ってきた。
「ほら、これでも着てろ」
 播磨はジャージを沢近に向けて放った。
「え,なんで・・・・・・?」
「馬鹿,自分の格好をよく見てみろ。汗かいたあげく,そんなずぶ濡れじゃ風邪引いちまうぞ」
たしかに髪から滴る水のせいで沢近の体操儀はびしょびしょといっていいほどに濡れていた。
「別に後で制服に着替えればいいし・・・」
「だったらそれまでの間でいい,着てろ」
「ジャージ濡れちゃうし,血もついちゃう」
「かまやしねぇよ」
 そこまで言われてはと,沢近はジャージを肩にかけるように羽織った。かまわないとはいわれ
たものの,袖を通すと肘の血がついて汚してしまうので袖は通さなかった。
 それから二人は何を言うわけでもなく互いを見やる。
「・・・・・・何か用なの?」
 沢近がおずおずと口を開いた。
「あ〜,その,なんだな。俺はリレーは見てなかったんだが,何があったかつーのはなんとなく
想像できる」
「・・・だから?」
「だから,まぁ,気にすんなってことよ」
「どういうつもり……?」
「何でアンタがそういうこと言うわけ? このジャージといい、どうして……」
684if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:43 ID:VK7AADpo
「そりゃ…」
 播磨は頬を掻きながら、言いにくそうに口ごもる。だが、一呼吸置いてからハッキリと
言った。
「女に泣かれてちゃ、知らんぷりはできねーからな」
 自分で言って恥かしいのか少し赤い。
「泣、泣いてなんてないわよ! 水よ水!」
 それ以上に赤くなりながら沢近が叫ぶ。
「そんな赤い目して何言ってやがる」
「うるさいわね! それ以上言うとひどいわよ」
「別にいいじゃねぇか、俺だってたまには泣くこともあるぜ」
 興奮する沢近とは対照的に、落ち着いた声で播磨が言った。
 播磨の意外な言葉に沢近が驚く、そこにはからかいや嘲笑といったものはなく、本気で
言っているように思えた。播磨がどうにか見せようとしている不器用な優しさが、見える
ようだった。
「だから何よ。アンタみたいなのに泣かれたったムサ苦しいだけよ」
「…っのアマ。人がガラにも無く慰めてやろうとしてるってのに…」
 沢近の言葉に多少ムッときた播磨だったが、沢近がハァ〜っと大きな溜息をつくと、言い
かけた文句を途中で引っ込めた。
「ホント情けないわね、私」
 溜息の後沢近が呟くように言った。
「だから気にすることなんかねぇって。もしこのまま負けちまっても、お前一人の責任って
わけじゃねぇ。他の競技で負けちまった奴らが勝ってりゃ、リレーに関係なく勝ってたはず
だからな」
 沢近の言葉にまだ落ち込んでるのかと思った播磨は、まくしたてるように喋った。
「ちがうわよ」
「それにあれだ、結構点差があったはずだし、まだ負けが決まっちまったってわけじゃねぇ
だろ? 結局、最後に勝ってれば誰がどんな失敗したかなんてみんな忘れちまうよ」
「だから、ちがうって」
685if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:44 ID:VK7AADpo
「ん、何がだ?」
 喋りつづけていた播磨が沢近の言葉にようやく気づき言葉を止めた。
「情けないのは、アンタなんかに慰められなきゃならないってことがよ」
 沢近が悪戯っぽく笑いながら言った。
 だが言葉とは裏腹に、沢近は自分の胸の中が暖かくなっていくのを感じていた。先程まで
の落ち込んだ心が、嘘のように満たされていた。さっきまで泣いていたはずが、もう笑うこ
とができている。
 美琴や晶も気遣ってくれていたが、彼女たちでは得られなかった。求めていたものが得ら
れたというようなこの感覚。
 もう、いい加減認めるべきなのかもしれない。自分の気持ちを、この暖かさを。すぐには
できなくても、少しずつ。
「ねぇ」
 沢近は先程の沢近の言葉に憤りながらプルプル震えている播磨に声をかけた。
「アナタ足って速いの?」
「ん? ああ、まぁそれなりにな」
 沢近の突然な質問に、意表を突かれながら播磨が答えた。
「それなりってどのくらい?」
「ん〜、そうだな……」
 播磨が考え込むように言った。自分のタイムを覚えていない播磨は、ほかの解かりやすい
答えがないものかと考える。
「そうだな、中学の時にナントカっていう陸上部の奴に勝ったな」
「ナントカってなによ?」
「いや、よく知らねぇがなんか結構有名な奴だったんだと」
「へぇ〜、じゃ随分と速いんじゃない?」
「かもな」
「じゃあ、さ」
 沢近がかすかに緊張した声で言った。
「責任とってよ」
686if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:45 ID:VK7AADpo
「は、責任?」
 なんのことかわからず播磨が訝しげな表情をする。
「そう、責任。アナタのせいで元気が出てきちゃったから。これで2−Cが負けちゃ
ったら、私また落ち込まないといけなくなっちゃう」
「え〜、その、つまり?」
 沢近が何を言いたいのか解からない播磨は、ますます混乱した表情になる。
「勝ってきてよ、私のために。勝てば私の責任なんてどっかいっちゃうんでしょ?」
 沢近が播磨から目をそらしながら言った。その横顔は少しだけ赤くなっていた。特に私の
ために、で。
「でもよ、リレーの選手ってもう決まっちまってるんだろ?」
 さすがにそこまでする気は無かった播磨が少し困ったように言った。
「そうだけど、梅津君が怪我しちゃったから一人枠が空いてるはずよ」
「怪我?」
「そう、何故か学校に入ってきた豚に蹴躓いちゃって」
(ナ、ナポレオン!? そんなことしてたのか!)
 思い切り心当たりのある播磨が心の中で思わず叫ぶ。
687if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:47 ID:VK7AADpo

「ウチのクラス他に足の速い人っていないから、どうするかって揉めてたのよ。アナタ足速い
んでしょ、だからリレー出て欲しいのよ」
 播磨は考え込んでいた。確かに沢近に勝てばいいと言ってしまったし、梅津とかいうのが
怪我をした責任の一端は播磨にある。だが、何故かリレーにでるということが、何かを背負い
込むことになるような気がしてならない。
「その、勝ってくれたら私謝るからさ」
 沢近がおずおずと言った。
「謝る?」
「ヒゲとかハ…頭のこととか、他にも色々とやったことについて」
 このお嬢がここまで言い出すとは、播磨はこれはかなり本気に違いないと感じた。
「ち、仕方ねぇな。解かった、出てやらぁ」
 播磨の言葉に沢近が表情を一瞬輝かせた。だがそれをすぐに引っ込めた。
 結局、責任や義理、誠意といったものを重んじる播磨は出ないわけにはいかないと考えた。
 そうと決まれば他に代走が決まってしまう前に申し出なければならない。播磨は沢近に背を
むけてクラスの方へ向かおうとした。
「あ、ちょっと待って」
 播磨が呼び止められて振り返ると、播磨の顔のすぐ目の前に沢近の顔が近づいてきていた。
688if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:48 ID:VK7AADpo
「あれ、塚本と沢近は?」
 美琴が辺りを見回しながら言った。
 もうそろそろ男子リレーの開始時間になろうとしていた。美琴はせっかくだから一緒に観戦
しようと思っていたのだが、二人の姿はどこにも見当たらなかった。
「塚本さんならあそこ」
 横にいた晶が体育委員用のテントを指差しながら言った。美琴がテントの方を見やると、何故
か《一等賞》という大きな字を書道している烏丸と、その周りをうろつく塚本天満がいた。
「烏丸って体育委員だったっけ? てか、彼は一体何をしてるんだ」
「確か違ったと思うよ」
 二人はなんと言っていいかわからぬまま、烏丸の書道を見守った。ちなみにかなりの達筆で
ある。
「じゃあ、沢近はどこに?」
「愛理は傷口を洗いに水飲み場にいったよ」
 気を取り直して美琴が聞くと、晶が淀みなく答えた。
「そうか。でも、それにしちゃ長くないか?」
「そうね」
 美琴はう〜んと少し唸ったあと、何かを思い切ったように頷いた。
「よし、あたし少し様子を見てくるよ」
「今は、いかない方がいいと思うよ」
「わかってる、なんかアイツ柄にもなく落ち込んでたみたいだし。確かにそっとしておいた
方がいいってこともあるかもしれないけど、でもやっぱりちょっと心配だしさ」
 放っておけないだろ、と美琴は言った。
「そうじゃなくて」
「大丈夫、これでも沢近のこと結構わかってるつもりだしさ。うまくやるよ」
 そう言って美琴は水飲み場の方へ行ってしまった。後に残された晶は、どこから取り出した
のか湯飲みで茶をすすりだした。
「それはそれでオモシロそう」
 そしてそう呟くとクスリと小さく笑った。
689if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:51 ID:VK7AADpo
「沢近〜、いるか〜?」
 美琴が呼びかけながら水飲み場のほうへ近づくが返事はない。
「こっちじゃないのか?」
 美琴は周囲を見渡すが沢近らしい人影はいない。遠間からも目立つ姿なので見落としてる
とは思えない。こちらの水飲み場にいないということは校舎の裏手の水飲み場だろうか。一人
になりたかったのだとしたら,そちらに行っている可能性の方が高いように思える。
 美琴は校舎裏の方へと回り,水飲み場の手前の角までたどり着くと,人の気配が感じられた。
沢近かと思った美琴は角から首だけ出して,水飲み場の方を覗き込んだ。
(なっ!!)
 美琴は自分の見たものが信じられず,すぐさま首を引っ込めた。そしてもう一度恐る恐る
覗きこんだ。
 そこには誰かと抱き合っている沢近の姿があった。ここからでは後姿しか見えないが,あの
金髪のツインテールは沢近愛理その人以外には考えられない。
(な,なにやってんだよ! しかもあれってキ・・・)
 沢近は相手の男の首に腕を回すようにして抱き合い,さらに二人の顔は重なり合うような
位置にあった。
690if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:52 ID:VK7AADpo
播磨が振り返ると沢近がすぐ目の前まで近づいてきていた。
 そしてスッと播磨の頭の後ろに手を回す。
「お,おい」
「ちょっと動かないで」
 突然の沢近の行動が理解できず、播磨はされるがままになってしまう。
 播磨は今にも触れてしまわんばかりの距離で、まるで抱き合うようにしているこの状況に、
いかに天満一筋の播磨といえども、鼻腔をくすぐる甘い香りと柔らかな肢体を意識せずには
いられなかった。
(くそ! 前に羽交い絞めにした時は何ともなかったってのに、やけにドキドキしやがるぜ)
 播磨が思いもかけない自らの心の動きに戸惑っていると、頭の後ろでモゾモゾと動いてい
た沢近の手が不意に止まった。
 そして次の瞬間、頭が強烈に締め付けられた。
「ぐえっ」
 何が起きたのかと播磨が頭に手をやると、ベレー帽の上から何かが巻きつけられているの
がわかった。その何かに手を沿わせていくと、頭の後ろから垂れ下がっているのがわかる。
それを持ち上げ、首を回して見やると、それは赤いハチマキだった。
「どう? それなら走っても帽子取れないでしょ」
 そう言われて播磨は軽く飛び跳ねてみたが、帽子は固く結び付けられているためビクとも
しなかった。
「なるほどな、恩に着るぜ」
「いいのよ、アナタには勝って貰わないといけないし」
「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」
「うん。応援、するから」
 播磨が小走りでクラスの方へ走っていくのを沢近は見送った。
691if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:53 ID:VK7AADpo
 それから沢近もクラスの方へ戻ろうと、ゆっくりと歩き出した。
 校舎裏の狭い道から抜け出し、校庭へ出るところで植木の陰に誰かがいるのを見つけた。
「……美琴?」
 友人によく似たその誰かに沢近が声をかけてみる。
 呼ばれたことにビクッと肩を震わせ、ばつが悪そうに陰から出てきたのはやはり周防
美琴だった。
「いや〜、あはは、はは」
 美琴は頭を掻きながら照れたような、困ったような笑みを浮かべていた。
「何やってるの、そんなところで?」
「いや、その、沢近を探しにきたんだけどな」
「いくらなんでもそんな所には居ないと思うわよ…」
 それでも曖昧な笑みを浮かべつづける美琴を訝しりながらも、沢近はそのまま歩き出す。
 美琴はあれからそれ以上見てられなくなり、しかし沢近を呼びにきた以上このまま帰る
わけにもいかず、ずっと角の手前でうろうろしていた。そして誰かが水飲み場のほうから
やってくるのに気づくと思わず隠れてしまったのだった。
 ふと美琴は沢近が肩にかけているジャージが、明らかにサイズの違う男物だと気がついた。
それに沢近の髪が随分と濡れている。一体何があったのかひどく気になった。が、先程見た
(と美琴が思っている)ものの手前、聞いてみるわけにもいかなかった。
 ちらりの沢近の着ているジャージの名札を見ると、そこには播磨の文字があった。
(播磨か、なんとなく納得しちまうな……)
 とかくこの二人は何かと因縁があったが、あれも照れ隠しの一種なのかと思い至ると、
美琴はなんだか可笑しかった。
「なに笑ってるの?」
「いや、なんでもねーよ」
 そう言いながら、実は自分よりも恋愛下手だと思われる親友を好ましげに見つめていた。
692if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:53 ID:VK7AADpo
「では代走は奈良ということでいいか?」
 播磨が2−Cの集合場所に着くと、そんな花井の声が聞こえた。
「ちょっと待ちな!」
 播磨は慌てて叫び、人垣を押しのけて花井の前に立った。突然の播磨の登場にクラスが
がやがやとざわめきだす。
「ム! 播磨、一体何の用だ」
「リレーには俺が出るぜ」
 播磨の発言にクラスはさらに色めきたった。しかし
「だめだ、代走はたった今決まったところだ」
 花井がにべもなく言い切った。それどころかその口調にはどこかしら棘がある。
「なんだとメガネ、つべこべ言わずに俺を出せや」
 花井の口調にカチンときた播磨がケンカ腰になる。播磨と花井が睨み合う中、気の抜けた
情けない声が聞こえた。
「あの〜、播磨君が出るっていうなら、僕はそれでいいです〜…」
 奈良が小さく手を挙げながら言った。元々奈良はリレーに出る気など毛頭無かったのだが
塚本天満に奈良君やってみたら? と言われてその気になってみただけだった。実際勝てる
気などまるでしていなかったので替わって貰えるならそれに越したことはなかった。
(まぁ、出なくてもやる気は見せたわけだし、好感度アップしたかも)
などとも考えているが、そんなことはない。
「本人がああ言ってるぜ、メガネよ」
「クッ、仕方ない。播磨、貴様足は速いんだろうな!?」
「テメーよりはな」
693if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:53 ID:VK7AADpo
 再び播磨と花井が睨み合う中、体育委員とおぼしき生徒が2−Cに近づき恐る恐る言った。
「あの〜、リレーのオーダーを決めてもらいたいんですけど…」
「ム、そうだった。2番菅、3番今鳥、4番麻生、アンカーが僕、播磨は奈良と入れ替わり
だから1番だ」
「ちょっと待てコラ! 俺がアンカーに決まってるだろが!」
 出るからには天満ちゃんにいいとこを見せなければ! そう考える播磨の頭の中ではすでに
播磨はアンカー以外のなにものでもない。
「勝手を言うな播磨! アンカーはこの僕だ!」
 三度播磨と花井が睨み合う中、またしても一人の生徒が2−Cに近づいてきた。ひっつめた
髪を後ろで結んだ、精悍な顔つきをしたその男は2−Dの東郷だった。
「花井よ、最後の決着をつける時がきたな」
「そうだな、だが勝つのは我々2−Cだ」
 東郷に気づいた花井が向き直り言った。
「それは終わってみればわかることだ。だが、その前に俺達の決着もつけねばなるまい。俺は
4番走者としてリレーにでる。そこで勝負だ」
 そう言うと東郷はむやみに颯爽と去っていた。
 播磨は後ろから花井の肩にポンっと手を置くと
「決まりだな」
 と、勝誇った表情で言った。
「いや、だがしかし……」
 納得いかない花井がなんとか抗議しようとする。
「テメ―、男と男の勝負から逃げんのか?」
 花井は播磨の言葉に抗弁を詰まらせた。それでも割り切れない花井がなんのかんのと言って
はいたが、既にこの時には晶が体育委員にオーダーを告げていた。
 結局、1番菅、2番今鳥、3番麻生、4番花井、5番播磨というオーダーになった。
694if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:57 ID:VK7AADpo
 沢近と美琴が戻った時には既に、リレーの走者達が位置につこうとしているところだった。
沢近と美琴は晶の姿を見止めるとその横に腰を下ろした。
「あれ、花井の奴アンカーじゃないのか?」
 選手たちの待機位置で、播磨の前にいる花井を見つけた美琴が晶に尋ねた。
「播磨君と替わったみたい」
「へぇー、播磨とねぇ。アンカーやるってあんな息巻いてたのに。それに播磨のことをなん
だか敵視してたみたいだったのにな」
「まぁ、すんなり交代ってわけにはいかなかったけどね」
 だろうな、と美琴は苦笑いした。
「美琴さんはやっぱり花井君にまず目がいくんだね」
 晶がとても真面目な声で言った。彼女にとってはこれがからかいの声に当たる。
「ば、馬鹿。そんなんじゃねえよ!」
 慌てふためく美琴を放置して晶が沢近の方を見やる。
「ところで愛理、素敵なジャージだね」
「あ、ああこれね。汗かいて冷えたからちょっとあのハゲから強奪したのよ」
 沢近は今まで肩にかけっぱなしだったジャージを慌てて脱ぐと、丸めて背後に隠した。
「へぇ〜〜、私はてっきり……」
 晶は妖しく微笑みながら言った。
「ほら、もうすぐ始まるわよ」
 必要以上の大きな声で晶の声を遮りながら、沢近がグラウンドの方を指差した。
 沢近の言う通りリレーは今まさにスタートを迎えようとしていた。
695if〜Athletic festival〜:04/06/12 21:58 ID:VK7AADpo
 各クラスの選手たちがスタート位置につく。
 全員が位置に着いたことを確認すると、審判がスッとピストルを空へと向ける。
 パァンッ
 ピストルが鳴ると同時に選手達が一斉に駆け出した。
 スタートダッシュで抜きん出たのは2−Aだった。むしろフライング気味ともいえるその
スタートに他のクラスは一歩出遅れる形となった。その後ろから2−Dの選手と2−Cの菅
が追い上げ、差を詰めていく。トラックを半周ほど周ったところで二人は2−Aを追い抜いた。
そのまま2−Dが僅かに先を行く状態で第二走者へとバトンが渡される。
 この段階で2−Dと2−Cがほぼ並び、その後ろに2−A、2−Aに僅かに遅れて他クラス
が固まっていた。2−Dの第二走者と今鳥では今鳥のほうが僅かに早く、1/3程走ったとこ
ろで今鳥が2−Dを抜く。このまま差を広げていくかと思われたが、最終コーナーを抜け、直
線に入ったところでそれは起こった。
 先頭を走る今鳥に一際大きな声援が送られた。その声は一条かれんのものだった。普段はお
となしい彼女だが、想い人である今鳥の活躍に応援にも思わず力がこもる。その鍛え上げらた
腹筋から放たれる声は非常によく通り、今鳥の耳にも確かに届いた。そしてその声に反応して
今鳥の足が僅かに鈍った。今鳥のすぐ後ろを走っていた2−Dは突然減速した今鳥を避け切る
ことが出来ず、追突しもつれ合うようにして転倒する。さらに、転倒した二人を避けようとし
てバランスを崩した2−Aが転倒、その2−Aの後ろで固まっていた他クラスたちが転倒した
2−Aの選手に蹴躓き、みんなまとめて団子のように転げまわった。
 ほんの僅かの間にトラックの中に立っているものは誰も居なくなっていた。その惨状に全校
生徒が呆然となる。
696if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:00 ID:VK7AADpo
「ナニヲヤッテイル! 立タンカー!」
「立てー! 今鳥ぃー!!」
 静まり返った中二つの声が同時に響く。2−Dのララと美琴だった。
 まず最初に立ち上がったのは今鳥の上にのしかかるようにして倒れた2−Dだった。立ちあ
がろうとする今鳥を押しつぶして立ち上がると、転んだダメージがあるのかゆっくりと先頭を
駆け出す。乗っかっていた2−Dが居なくなると今鳥も立ち上がり走り出すが、やはりその足
取りは重い。しかし、その他のクラスは立ち上がるのも苦労するような有様であり、この時点
で実質2−Dと2−Cの一騎打ちとなった。
 フラフラになりながらも2−Dが第三走者へとバトンを渡し、遅れて今鳥も麻生へとバトン
を渡す。
 2−Dの第三走者は天王寺だった。その巨体に似合わぬ足の速さで地響きを立てながら走っ
てゆく。だが速いといっても体格の割にはなので、リレーに出る選手達のなかでは遅い部類に
入る。麻生は見る間に天王寺との差を詰め、その背に張り付いた。
 だがそこまでだった。速さで劣る天王寺はその巨体を生かした巧みなブロックで麻生に前に
出ることを許さない。あからさまなその行為に周囲からブーイングが飛び出すが、元々ヒール
である天王寺には全く堪えない。
(そっちがその気なら、こっちだってやってやるよ!}
 足で勝りながらも抜くことが出来ない苛立たしさに、麻生の心の中で火がついた。
 麻生は天王寺の後ろにさらに近づくと、天王寺の蹴り足を軽くつま先で払った。思わぬ攻撃
に天王寺の体がバランスを崩し、横によれる。麻生は一気に加速すると、天王寺とは逆側に回
りこみ抜きにかかった。
697if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:01 ID:VK7AADpo
 元々短気な天王寺は反撃を受けたことで頭に血が上っていた。麻生が抜きにかかろうとして
いることに気づくと、麻生に向かって腕を振り回した。走るために腕を振るのとは全く違い、
誰がどう見ても裏拳である。しかし、その丸太のような腕は麻生の頭上を掠め空を切った。
 天王寺の攻撃を読んでいた麻生は低くしていた身を起こすと、その隙に天王寺を抜き去り一気
に突き放した。一度抜かれてしまえばスピードで劣る天王寺になすすべはなく、その差は開く
のみとなった。
 だが既に半分以上の距離を走っていたためにそれ程大きな差は開かず、3メートル程の差が
開いたところで花井へとバトンが渡される。
 バトンを受け取ると、花井は猛然と駆け出した。それまでのランナーたちと比べても一段速い
花井の走りに、大きな歓声があがる。だが2−Dの第四走者である東郷は、その花井と比べても
全く互角の足を持っていた。
 2−Cと2−Dのアンカーである播磨とハリーはスタートラインに立ったまま、花井と東郷
の走りを眺めていた。
「ほぅ、東郷と張り合うとはな」
「なかなかやるじゃねーかメガネ」
 二人は花井と東郷の走りに感心したように声をあげた。
698if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:02 ID:VK7AADpo

「だが、あの程度の差ならばどうということはない…」
 ハリーはそう呟くと、既に勝ったような笑みを浮かべ播磨の方を見やった。
「見せてもらおうか、日本のサムライの性能とやらを」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる。てめぇには原稿と帽子の借りがあるからな、ここでキッチリ
ケリをつけてやるぜ」
 サングラス越しに二人の視線が交差する。リレーへと視線を戻すと、花井と東郷はもうすぐ
そこまで近づいてきていた。
 花井と東郷は最初についていた差から全く変わらぬまま、アンカーへとバトンを渡した。
「残念ながら引き分けといったところか」
「ああ、そうだな」
 花井と東郷は走り終えると荒い息を整えながら話しだした。
「だが、優勝は俺達2−Dのものだ」
「勝負はついていないというのになにを。それに有利なのは僕達のほうだ」
「フッ、2−Cのアンカーが何者かは知らんがハリーに勝てるはずがいない」
 東郷は花井から視線を外し、播磨とハリーの二人の走りを見つめながら言った。
「ハリーは向こうじゃ≪彗星≫とまで呼ばれた男だからな。」
699if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:03 ID:VK7AADpo
(クソ! こいつマジで速え!!)
 播磨は焦っていた。
 花井からバトンを受け取った播磨は凄まじい走りを見せつけた。花井や東郷と比べてもさらに
速い播磨に観衆は割れんばかりの歓声が湧き起った。だが、その後から走り出したハリーはその
播磨をさらに上回る走りを見せ、これには観衆も驚愕の叫びを挙げざるを得なかった。
 このままでは抜かれる、播磨はその痛いほどの確信に焦りを隠すことができなかった。
(それに、この、邪魔くせえったらねぇ!)
 播磨が走るたびに播磨のサングラスがグラグラと上下にずれる。そのたびに播磨は視界がブレ
集中を乱されていた。そのせいか今ひとつ走りにキレがない。
「チィ、邪魔だ!」
 播磨は忌々しげにサングラスをむしり取ると、あさっての方向にかなぐり捨てた。視界がクリア
になると播磨の走りは一段と鋭さを増す。それでも、ハリーとの差が縮まるスピードが遅くなった
だけで、以前として差は縮まり続けていた。
「これほどとは…。だが、私の敵では無い!」
 ハリーはさらに加速すると一気に差を詰め、最終コーナー手前で播磨に追いついた。
「速え〜……」
 美琴は呆然とした表情でそう呟いた。
 播磨の速さにも驚いたが、さらに上をいくハリーの速さには驚きを通り越して呆れるしかない。
2−Cのほとんどの生徒がすでに勝負を諦めていた。誰が見てもハリーのほうが速い。追いつかれ
てしまった以上抜き返すことは不可能だった。もはや応援することも忘れ、ただぼんやりと眺める
他なかった。
700if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:04 ID:VK7AADpo
「頑張れーーー!!!」
 静まり返っている中、沢近は殆ど怒鳴るように叫んだ。皆の視線が沢近へと集まる。
「頑張りなさいよ! 勝ってくれるんでしょ!!」
 だが沢近は周囲の視線を気にすることなく声を挙げつづける。
「頑張れー!」
 その次に声をあげたのはボブカットの女の子だった。そしてそれに釣られるように次々と応援
の声があがる。2−Cのみならず他のクラスでも応援の声があがり始める。さらにハリーへの応
援も加わり播磨とハリーの二人への応援はあっという間に巨大なうねりへと成長していく。
(お嬢のやつ、本当に応援してやがった)
 今はもう凄まじい大歓声にかき消されて聞こえないが、播磨にも沢近の声は届いていた。
(勝ちてぇのは山々だが、追いつけやしねぇ!)
 最終コーナーの手前で追いつかれた播磨はすでに抜かれ、さらに2メートル近い差をつけられ
たまま最後の直線を迎えようとしていた。
(チクショウ、このままじゃ…)
 いっこうに縮まらない差に、播磨の心にも諦めの文字が浮かぶ。だが播磨はあるものに気づいた。
(あ、あれは!!!)
 ゴールのさらに向こう、直線の延長線上にある体育委員用のテント、その中に愛しの塚本天満
の姿があった。
(天満ちゃんが俺を応援している! しかもあんな紙まで用意して!!)
701if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:05 ID:VK7AADpo
 負 け ら れ ネ ェ!!!!!!!
 ≪一等賞≫と書かれた大きな紙を掲げながらこちらを見て微笑む塚本天満を見つけた瞬間
播磨の中の全てがどうにかなってしまった。
 次の瞬間には播磨はハリーに並んでいた。そしてその次の瞬間にはハリーを大きく引き離して
いた。あっという間に播磨の背中が遠くなっていく。
「日本のサムライは化け物か…!!」
 その人間の限界を完全無視した播磨の走りにハリーが唸る。ハリーは持てる全ての力で走るも
のの地面を砕くように跳ね上げ走る播磨との差は離れるばかりだった。
 そして最初からついていた差以上の差をつけて、播磨がゴールへと飛び込むと、絶叫に近い歓
声が巻き起こった。
702if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:06 ID:VK7AADpo
限界を超えた走りを見せた播磨は、ゴールと同時にその場にへたりこんだ。
その播磨の元へ2−Cのクラスメートたちが駆け寄る。一番最初にやってきたのは、元々近く
にいた同じリレーの選手である花井達だった。
「残念ながら見事だったと言わざるを得ないな!」
「ヒゲ、お前すげ―のな」
「すごかったぜ、播磨」
 口々に播磨を褒め称えるが、播磨はうつむいたまま顔を上げる元気もなかった。
 少し遅れて他のクラスメート達もやってきた。その先頭にいたのは沢近だった。
「その、ありがとうね…」
 沢近は播磨に小さな声で言った。播磨は俯いたまま手を軽くあげてそれに応えた。
 他のクラスメートたちも播磨や他の選手たちのことを称えだした。
「お疲れさん」
 美琴はそう言って花井に向かってスポーツドリンクのペットボトルを投げ渡した。
「すまんな」
 花井はそれを受け取るといかにもうまそうに飲みだす。
「ミコチ〜〜ン、俺には無いの〜〜?」
 それを見た今鳥がうらめしそうに美琴にせがむ。
「いや、お前にはあたしが渡さなくてもさ」
 美琴はそう言うと今鳥のに後ろを向くよう目配せした。今鳥が振り向くとそこには一条がおず
おずと立っていた。
「あの、今鳥さんよかったらどうぞ」
 一条はそう言って水筒を差し出した。
 今鳥が硬い表情でそれを受け取ると、一条は嬉しそうに微笑んだ。
(これ、プロティンとかステロイドとかはいってねーよな…)
 今鳥は妙なところで不安になりながら、どこか遠くを眺めていた。
703if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:07 ID:VK7AADpo
「播磨君も何か飲む? よければなにかもってくるけど」
 美琴や一条の様子を見た沢近が播磨に尋ねる。
「いや、ありがてぇが遠慮しとくぜ」
 播磨はリレーが終わってから初めて口を顔を上げて口を開いた。
「えっ…」
 沢近が固まった。
「フー、さすがにちょっとバテちまった」
 大きく深呼吸して立ち上がると播磨はなにか妙な雰囲気に気がついた。みんながみんな自分を
凝視している。
「な、なんだ?」
「…そ、そんな顔してたのね」
「顔?」
 沢近が呟くのを聞いた播磨は訝しげに自分の顔に手を当てた。そして気がつく。
「サ、サングラスが無ぇ!!」
「かっこいいー!」
 リレー中に投げ捨てたことをすっかり忘れていた播磨は慌ててサングラスを探しにいこうと
した。だが嬌声をあげる女子数名に腕をとられ身動きがとれなくなってしまった。
704if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:09 ID:VK7AADpo

「すごーい。そんな顔してたんだ〜」
「かっこよくない? っていうかかっこいいよね〜」
「なんで今までサングラスしてたの?」
 先ほどのリレーでの活躍も加わり、播磨に興味を持った女子が群がる。
「ワリィけどちょっと離してくれ、サングラス取ってこなきゃいけねーんだ」
「え〜、無い方がいいよ〜」
「俺には必要なんだよ!」
 播磨はなんとか女子の中から抜け出ようともがく。その様子を沢近と美琴は遠間から眺めていた。
「意外だなー、播磨の奴あんな顔してたんだな」
 美琴が沢近に向かって言った。
 だが沢近はそれに答えず強張った表情を浮かべている。
「沢近……?」
「え、ああ、そうね」
 沢近は反射的に返事をしたが、心ここにあらずなのは明らかだった。
なによあんなデレデレしちゃって。みんなも現金よね、ちょっと格好いいからってあんなに
態度変えちゃって。私は別にそういうじゃないし、ってなんで私がでてくるのよ、関係ない
じゃない。意地にならないって決めたのに、意地になんかなってない。もっと素直に、ああ
なんか腹立つわね、鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!!
705if〜Athletic festival〜:04/06/12 22:11 ID:VK7AADpo
「へー、播磨君そういう顔してたんだ〜」
 播磨はその声に慌てて振り向く。
「ヒゲがないと随分違うね〜〜」
 その声はやはり塚本天満の声だった。播磨の顔から凄まじい勢いで血の気が失せる。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! ばれちまう!!!)
 ばれたら終わっちまう、何もかもが。播磨は恐怖に竦みあがった。
「こっちのほうが全然格好いいねー」
「そうだな、こっちのほういいな」
 美琴が天満に相づちを打つ
(気、気づいてない!? それに格好いいだと!!!!)
 神は俺と共にあった! 播磨は思わず天を仰いだ。
「そ、そうか、格好いいか」
 播磨の表情が目も当てられないほどだらしなくなる。
 素直になる。沢近の結論はでた。自分の思ったとおりに行動するのだ。
 沢近は播磨に向かってスタスタと歩み寄っていく。その足取りには微塵の迷いもない。
「播磨君」
 沢近がにっこりと笑いながら声をかける。
「ああ、お嬢か」
「ハチマキ返して貰いたいんだけど」
「あぁ、そうか。ちょっと待ってな」
 播磨は結び目をほどこうと頭の後ろに手をやろうとした。だがそれよりも早く沢近の手
が動いた。沢近はハチマキの端を掴むと、それを力任せに思い切り引っ張った。

 スポン!

 小気味よい音とともにハチマキとベレー帽が宙を舞った。
 播磨の頭上に輝かしい光が生まれ、その光の中で金の髪と悪戯な笑顔が踊っていた。
 そしてその日一番の叫びがあたりに響き渡った。
706Classical名無しさん:04/06/12 22:15 ID:VK7AADpo
というわけで長々とすいませんでした。
書いたのが先週のマガジンの前だったので沢近のリレーの
ところとか本編と違いますが、それも含めてifということで。
さらに冒頭の部分が貼れてなかったというミスをかまして
しまいました。ああ、なんてこった。

707Classical名無しさん:04/06/12 23:59 ID:opBzHrkk
今日はネタバレスレで体育祭祭(←なんか変な感じだ)やってるからタイミングが悪かったね。
なんにせよ乙

どうでもいいけど、まとめサイトの中の人、更新期待しております
708Classical名無しさん:04/06/13 00:59 ID:2/xo3W9.
神と呼んでいいですか?
709Classical名無しさん:04/06/13 02:23 ID:m2/N8Yc.
>>676-706
なんて気持ちのいいSSなんだ。
本編のリレーより気に入った!!
家に来て妹をFuckしていいぞ。
710Classical名無しさん:04/06/13 06:45 ID:jCJ2GJLk
乙です。
テンポよくてすごい楽しめました。
ちょっと素直な沢近がすごくかわいいですね。
711Classical名無しさん:04/06/13 11:46 ID:9Wb3Irnk
>>676-706

少しだけだけど奈良を出してくれてありがとう。

奈良厨(六商健一)
712Classical名無しさん:04/06/13 11:50 ID:VzxpbRqA
もう490KBって表示されてないか? 誰か立てて―!
 
713Classical名無しさん:04/06/13 12:08 ID:VK7AADpo
ハートマン軍曹からお褒めがいただけるとは…。
まだ体育祭終わるまで何週かあるって思ってたら
3話一挙放送で次で終わりとは…、少しタイミング
悪かったかも知れませんね
714浮舟:04/06/13 12:39 ID:1HPeLaRY
次スレ立てました。

スクールランブルIF09【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087097681/
715Classical名無しさん:04/06/13 12:42 ID:JZhPq7ak
716Classical名無しさん:04/06/13 12:43 ID:JZhPq7ak
あら…かぶった…
717Classical名無しさん:04/06/13 12:47 ID:JZhPq7ak
スマソ(;´Д`)
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087098062/
がタイムスタンプ遅いので、次々スレに再利用するなりして下さい。
削除依頼だしましょうか?
718Classical名無しさん:04/06/13 12:49 ID:1HPeLaRY
_| ̄|○ すみませんです。次スレ立てる旨を送信したはずだったんですが…
719浮舟:04/06/13 13:06 ID:1HPeLaRY
・・・どちらを削除依頼出しますか?
720浮舟:04/06/13 13:21 ID:1HPeLaRY
一応、削除ガイドラインに則した判断で
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1087098062/
の方を削除依頼しておきました・・・
_| ̄|○ 迷惑をおかけしましたー。
721Classical名無しさん:04/06/13 14:17 ID:JZhPq7ak
>>720
スマソ(;´Д`)
迷惑かけますた
722Classical名無しさん:04/06/13 16:37 ID:9u9mt3js
>>706
GJ!
マジで神ですね。面白かったです。
けどラストが。・゚・(ノД`)・゚・。
723Classical名無しさん:04/06/13 17:57 ID:0XNUd2Yw
>>706
この時期に何とも挑戦的なSSですね。

播磨の素顔バレ、ハゲ落ちなどは各スレで語り尽くされている感がありますが
それを上手に纏めて各キャラがそれぞれよく書けていると思います。

ですが少々違和感を感じるところもしばしば。
ララの口調やハリーのカタカナ表記、って難しいものばかりですが(;´Д`)

あとは沢近に対して播磨が優しすぎるような気がします。
もう少しツンケンした間柄で話を進めた方がラストは盛り上がったかと。

でも全体を通してレベルの高い文章だったと思います。
かなりの長文を一度に読ませるその筆力は、これからの作品も期待してしまいます。

以上、長々とした感想ではありますが、最後に一言。
面白かったです。
724Classical名無しさん:04/06/13 21:51 ID:IM/J8nsg
>>635-640の鉛筆オチも面白かったけど
こういう直球旗展開もいいですな

ああ、水曜日が待ち遠しい…
725Classical名無しさん:04/06/14 11:57 ID:8A0sLFPU
今後どう展開させるにしても「結局播磨が好きなのは誰なのか」で一悶着は必須だろうし
そこで女の戦い編で完全に消化されたかどうか不明でむしろ播磨断髪式話で強化されてるようにも見える
鉛筆誤解伏線を起爆剤に使う展開はかなり面白そうだけど、それは何も播磨と美琴の間にイベント起こさなくても
例えば保管庫の無題(43)みたいな持っていき方でも十分だからなぁ…

というわけで今回の展開予想としては直球旗展開を推しておく。
726埋め:04/06/14 23:46 ID:yDGxjJHk
>14
お姉さん、あれだけ美人で積極的なのにどんな理由で振られ続けてるんでしょうね。
猫特有のきまぐれな行動で翻弄するかと思いきやつれない態度の伊織もそれはそれで。
>20
なんで結婚してるのかとか全部すっとばして書きたいものだけ書く姿勢、嫌いじゃない。
面白いとは思ったので、あとは読みやすくするために何度も推敲することをオススメ。
>37
不良どもが証明書を出しているのに推測でそこまで言う播磨の破天荒さに笑いました。
晶までが播磨に惹かれたりしてたらこの先いったいどうなっちゃうんだ一体。
>54 >73
縦笛神に言葉では言い尽くせないほど感謝! 花井の一言一言が全部胸にきました。
完結おめでとうございます。そして、二人がいつまでも幸せでいてくれますように。
>65
右向け―、右ッ! 何いきなりここでエロパロやろうとしてますか貴方は。
色々ありますが神津視点・美琴視点・三人称と目まぐるしく切り替わるのは流石に。
>107
「人の気持ちを弄ぶのは」なんて言っちゃう実はかなり素直な沢近にやや萌え。
重厚な描写に大満足したので次はさらに削って展開重視がいいなーとか言っちゃいます。
>128
サラがめちゃかわええっ! ちゃんと性格は黒いのに何故だ(笑)
五分間も壊れた状態の花井のモノマネをする彼女の照れ具合を想像して萌え尽きました。
>147
麻生の奴め、それだけはっきり言われてるのにぶっきらぼうにもほどがあるぞ!
そして常に男を弄ぶ立場として描かれるサラの位置取りにちょっと同情。
>161
GJ。しかしそのオチに「ありうる」と思ってしまう今までの本編の展開っていったい。
悩みを吐き出す美琴と聞く事に徹するマスターの姿がなんとも微笑ましく思いました。
>176
まっすぐそう言われたら美琴は確実に退くと知っていたその黒さ。いいぞ黒サラ!
でもその甘い罠に毒はないぞ花井。そして高野はとっとと美琴に財布返せ(笑)
727埋め:04/06/14 23:47 ID:yDGxjJHk
>196
騎馬戦の蹴りまで誉めている純粋なナポレオンかわええ。でも梅津については反省しる。
そして実は「一緒に動物園に帰ろう」で檻に囚われ見世物にされる播磨を想像して爆笑。
>204
ああもうっ! 読んでるこっちが恥ずかしくなるほどの素晴らしいサラをありがとう。
ラストのくだりのサラの決意がいいなぁ。ごちそうさまです。
>218
何故か絃子さんのほうが気になりました。若い女性が夜道の一人歩きはいけませんよ?
光を帯びて通常の三倍状態のハリーより速くなる播磨は…… V−MAXか!!(違
>225
沢近と天満に挟まれてツッコミ放題という美味しくない状況にある美琴に萌え。
エージェント設定なんてどこにもないはずなのに、晶は随分と不憫なキャラです。
>241
縦読み乙。高校は天満が歩いて通っているのでそう遠い場所ではないと思われ。
動物と同列で好きと言われても、それを理解しろってほうが無茶ですわなぁ……。
>254 >259
そこまでしてまでししゃもが食べたかったのか伊織。この手のコメディは大好きです。
「セミロングの生徒」で肩甲骨近くまである髪を想像してそれは違うだろと思いましたが。
>268 >333 >367
播磨や美琴といった周囲の言葉の一言一言に重みがあって好き。
回想の沢近が周囲の人間関係について知りすぎている気もしますが、年度末ですしね。
>269
軽い捻挫ならしっかりとテーピングしておけばちゃんと走れます。痛いですけど。
お姉さんがもう少し積極的に、例えばライバル宣言なんてしてたらと思うとわくわく。
>288 >344
SSにするときはボリュームに注意。他を参考にするとどうしても長くなります。
沢近が本編以上にいやな性格をしていて好感が持てました。あとは惨敗フラグだ!
>291
天満が幸せそうだなぁ。妹の親友が招待されて家に来る時ってこんな感じか。
ヤクモンの骨董品のお買い物、値切るより先に割り引いてもらえるような気がします。
728埋め:04/06/14 23:47 ID:yDGxjJHk
>302
流石ナポレオン。体育祭プログラムに不可能の文字を刻み付けやがった!
八雲が名前で呼ばれた喜びを外に出しすぎなのが気になりました。嬉しがるならひっそり。
>317
その写真で八雲が傷つく理由を播磨が理解していたらそれは鬱展開というやつでは。
ここは播磨が不幸にならない修治と姉妹でダブルデートとかいう神展開を信じてます。
>359
お互いがナポレオンの脱走に責任感を感じている律儀な性格なのがいいですね。
行動と言葉だけで周囲やら表情やらの描写が寂しいので一度過剰描写への挑戦を希望。
>379
ニヤニヤさせられましたよ。卑怯臭くも感じるけれどその叙述トリックはGJ!  
名前で呼んであげたいけれど読者にはその手段が未だありませぬ。萌へ。
>392
麻生もこんなプレッシャーが追尾してきたらたまったもんじゃないでしょうな。
本心は「好きかどうかは別にして、すごく気持ちよかった」であったろうと予想。
>395
毎回思いますけど、編集者顔負けのタイトル通りの話をよく書かれますねぇ……。
冬木の代弁に大笑いしました。麻生が完全にむっつりスケベ扱いされちゃってるよ。
>402
どれが誰のなんという曲かという説明がほとんどない不親切さがいい感じ。
天満のマキシCDが待ちきれないので播磨の気持ちはよーくわかります。そして隣子萌え。
>415 >512
オールスター最高。花井の顔面に突きを叩き込む美琴の容赦のなさに爆笑しました。
地味でこそあるものの序盤に晶の出番が多かったあたりにも喝采を送りたい。
>431
沢近を抱きとめ、さらには抱き上げる。さああとは日頃の恨みを込めて放り投げれ(違
ナポレオンにちゃんと役割を与えているところがいいなと思いました。
>443
超高速演算少女絃子さん、激燃え。完全先読み理論はもはやゼロシステムの領域です。
葉子お姉さんが教えて播磨が強くなったというのはすごく愉快なことのような気が。
729埋め
>489
意識しっかり、脳波異常なし、外傷はスリキズ程度…… ってこら播磨(笑)
入室が許可されるはずもない集中治療室に忍び込んだのであろう沢近に萌え。
>572
少年も過去の花井のように、彼女の「強さ」を目標にしてゆくのでしょうか。
息抜きを許可した花井のらしくない態度にも何らかの理由があったと思いますが、省略?
>584
三原さん参戦は素顔ネタで天満不在という穴を埋めるのに充分な威力でした。GJ。 
#2あたりでは新任教師に裏拳入れる不良だったんだから処分なんて恐れるなよ播磨。
>603
素晴らしきかな鉛筆フラグ。その「学校来なよ」を伏線と捉える観察眼には驚嘆です。
今の人間関係を大きく動かすにはそのイベントが一番効きそうですね……。
>618
お約束まっしぐらの少年漫画そのものな展開、勢いもあって実にいいですな。
欲を言えば私情が出すぎているのが惜しい。播磨も沢近には素直に優しくしないほうが。
>623
うわー! 天満にこんな勘違いされたら立ち直れないぞ播磨。リレー前に気付くなよ?
間違いなくヅラなタレントがそれを外さないと同様、ハゲは隠し通すのがマナーですね。
>629
「誰を」はわかるとして「どういった理由で」心配するのかというヒントはなし?
抽象論に過ぎて伝道師サラに篭絡されてしまう絃子さんはちょっと弱すぎるのではと。
>635
各登場人物の心情がのめり込むのに充分なほどリアルでわくわくしながら読めました。
鉛筆外しというよりオチの麻生の態度こそが最萌えだと感じてしまったので吊ってきます。
>646
あんまり変わってない美琴に笑い、確実に変わった花井に羨望を含んだ敵愾心(を
十年以上続けた呼び名を変えるのは勇気がいりますよね。言ったそばから違和感とか。
>677
ある種理想的だと思っていた本編を遥かに凌駕する熱く萌えるこの展開。神!
隣子を含めた全員に見せ場を用意するそのエンターティナー魂、堪能させて頂きました。

もう(・∀・)があっても羞恥心がなくなりました。次スレも楽しみにしてます。