ライトノベル万歳

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155(*´゚.゚) ◆blue.UaY

晴乃日アキラちゃんは晴れの日の妖精
アキラちゃんがいるおかげで街はいつでも晴天で、暖かくポカポカとしています
街の人もみんな褒めてくれます
たまーにポカポカしすぎて頭が変になってしまう人もでてきます
そんなときには太陽をギラギラ輝かせて、ゆるんだネジをしめなおしてあげます
「えっへん、いっつ、ぱーふぇくと」
アキラちゃんは胸を張って自信満々です
アキラちゃんにはおとうさんとおかあさんがいません
でもアキラちゃんは明るい子でした
それにみんなが優しくしてくれます
アキラちゃんは、晴れていて、みんなが元気に外に出て仕事をしたり、学校にいったり、遊んでいたりしているのを見るととても嬉しくなります
それが彼女の元気の源でした
「きっと わたしはみんなを幸せにするために生まれてきたんだ」
それは彼女の存在理由になりました。生きる目的になりました
でも、ある日の朝
アキラちゃんが起きると外は大雨でした
「なんでー?」
自分がいるのなら空は快晴のはずです。アキラちゃんは混乱してしまいました。
でも窓から見た空は灰色の雲におおわれて、ゴロゴロという音をたてています
しばらくしてから、アキラちゃんは、これは雨の日の妖精が街に来たせいだ、と気づきました
雨の日の妖精は、アキラちゃんが生まれてから一度もこの街に来たことはありませんでした
雨の日の妖精がいる場所では、雨が降り、寒くなってしまいます
仕事をするにも、学校にいくにも、遊ぶのにも不便だし、気がふさいでしまいます
「許せない」
アキラちゃんは、街のみんなの嫌がることをする、雨の日の妖精が許せませんでした
怒って、雨の日の妖精を探しに外に出ると、雨でびしょびしょになりました
突然、カミナリが鳴って、アキラちゃんをおどかします
アキラちゃんはすっかり怖くなって家にひきかえしてしまいました
156(*´゚.゚) ◆blue.UaY :03/11/14 00:43 ID:kyvlfSW.

その日の雨は夜まで続いて、やっとやみました
街のみんなもカミナリが怖かっただろうし、雨に濡れて困ったはずだ、とアキラちゃんは思いました
「ああ、怖かった。雨の日の妖精って、許せない。朝になったら絶対に見つけて、街から追い出してやるから」
コンコン、と玄関のドアがノックされました
どなたですか、ときくと、「雨の日の妖精です!」と元気な声がかえってきます
アキラちゃんがそっとドアを開けると、そこにはアキラちゃんと同じくらいの小さな女の子が立っていました
髪はアキラちゃんの太陽色とは全然ちがって雨色でした
肌もアキラちゃんの小麦色とは全然ちがって青白でした
両手に、大きな、透明の球を抱えています
球のなかにはヒレがヒラヒラとした一匹の魚が泳いでいました
「こんにちは!雨乃日シズカです!」
晴れやかに笑って、すごく大きな声で言いました
アキラちゃんはめんくらっていました。敵のほうから来たんですから
「こんな夜中にごめんね!でもこの街はじめてだから迷っちゃったんです!今日中にあいさつしようってきめてたからこんな時間にきました!わがままですね!街の人にきいてやっとここを見つけました!これからいっしょにがんばりましょうね!わたしもこの街に住むからね!」
「えっと、えっと」
アキラちゃんは怒るつもりでいたので、何か言おうとします。でもシズカちゃんは、そんなこと、全然気づいてくれないみたいです
「あ、そうだ!あなたのお名前はなんていうんですか!知ってるよ!表札を見たもんね!晴乃日アキラちゃんだよね!よろしくね!仲良くしましょうね!握手しようよ!ね!」
いっぽうてきに言って、いっぽうてきに手をさしだしてきます
アキラちゃんが手を出さないと、かってに手をにぎってハンドシェイクしてきます
「挨拶はすんだね!じゃ、今日はもう遅いから帰るね!あ、そうだ!これあげるよ!おちかづきのしるしです!」
シズカちゃんは抱えていた魚の球をアキラちゃんに渡しました
すごく重いです
「じゃあね!さよなら!また明日も雨だからね!よろしくね!」
シズカちゃんは、てってってと帰っていきました
「なんなのー・・・?」
アキラちゃんはけっきょくなにも言えませんでした
ぽかんとたちつくします
157(*´゚.゚) ◆blue.UaY :03/11/14 00:47 ID:kyvlfSW.
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シズカちゃんのいったとおり、翌日も雨でした。カミナリもなりました
アキラちゃんは外に出ることができませんでした
雨は夕方に、やっとやみました
その日の夜のこと
コンコン、シズカちゃんはドアをあけます。ガチャリ
「あ、アキラちゃん、こんにちは!街の人にきいてきたのかな!そういえばわたしのいえを教えてなかったね!え、らっさい!わたしのいえにようこそ!」
シズカちゃんの、カミナリみたいな大きい声は昨日とかわりません
「ちなみにこちらにいるのが曇りの日の妖精さんの曇乃日幻八くんです!ごあいさつ!」
「あ、あのよろしく」
見ると灰色の髪と目の背の高い子がギクシャクとあいさつしてきます
なに、こいつ?(ビキリ)
「あ!魚も持ってきたんだね!それの遊び方はもう知ってるかな!知らないよね!そんな顔してるもん!それは雨の日に遊ぶんだよ!」
声がでかいんだよ。(ビキリ、ビキリ)
「ちょっと待ってね!雨を降らせるからね!いでよ!雨雲!」
よぶんじゃねえよ!(ビキキキキ)(プツン)
「よぶんじゃないうるさい黙れこの馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ」
アキラちゃんは手に持っていた魚の球を、おもいきり地面に投げつけました。球はバウンドして幻八くんの顔に直撃すると、まうえに思い切りはねあがりました
「こんなの晴の日にボール遊びをして遊べばいいのよ。雨なんか降らせるな!変なのつれてくるな!ここはわたしの街なんだからでていけ!そいつとでていけ!」
はねあがったボールをシズカちゃんはキャッチしました
突然、ゴロゴロゴロゴロと鳴ったので、アキラちゃんはびくっとしました
よく聞くと、カミナリがなるまえの音はシズカちゃんがのどをならす音でした
「あ、あのさ、アキラちゃん、ゴロゴロ」
シズカちゃんの声は小さくなっていました
「い、いきなりなんなのかな?それから、球のなかの魚は生きてるんだよ?ゴロゴロ」
158(*´゚.゚) ◆blue.UaY :03/11/14 00:47 ID:kyvlfSW.
「うるさい、死ね馬鹿ああああああああああああああああああああああああああああああ」
アキラちゃんは泣きながら走りさっていきました
シズカちゃんはぽかんと立ちつくします
「ねえ!ねえ!なんだったのかな!わたしなんか悪いことしたのかな!魚が気に入らなかったのかな!」
シズカちゃんがきいても、幻八くんは鼻血をだして倒れているだけでした
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次の日は朝から晩まで晴れでした。夜になって少し雨が降りました。カミナリはなりませんでした
アキラちゃんのいえの電話がなりました。シズカちゃんからでした
「雨がやんだら公園にでてこないかな!」

街の公園の屋根つきのベンチに、アキラちゃんがむくれた顔で座っていると
ふわりふわふわ
むこうから近づいてきたのは例の魚の球でした。ピンクのモヤにつつまれています
そのあとにつづいて、むこうからやってきたのは雨乃日シズカちゃんでした
「こんばんは!これが魚の球の遊びかただよ!」
見ると、長いひれがピンクのモヤにつつまれた球のなかで、ゆらゆらとゆらいでいます
とてもきれいだな、とアキラちゃんは思いました
159(*´゚.゚) ◆blue.UaY :03/11/14 00:50 ID:kyvlfSW.
「ね!きれいでしょ!」
「・・・うん」
「雨の日にしかこうならないんだよ!わたしの宝物なんだけどさ!ほしいですか!」
「・・・うん」
「じゃああげます!アキラちゃんのものです!でもわたしたちふたりの宝物ってことでにしませんか!」
「・・・」
アキラちゃんはコクリ、とうなずいて、それから、ごめんなさい、といいました
昨日の夕方の雨の後、アキラちゃんは、シズカちゃんを街からおいだそうとして、シズカちゃんのいえをさがしてまわりました

街の人にシズカちゃんのことをたずねてまわりました
街の人ひとりひとりに、おそるおそるたずねたのでした
みんな雨が降ってこまっているだろうと思っていました
みんなに怒られるんじゃないかと思っていました
みんなの期待をうらぎったと思っていました
みんなに見捨てられたくありませんでした
晴れの日の妖精と雨の日の妖精がいっしょに街にいるのに、雨ばかり降るのは自分の力が弱いからだと思っていました
でも誰も怒る人はいませんでした
誰もなにも責めませんでした
それどころか、みんなひさしぶりの雨を、ひさしぶりの空からの迷惑者を喜んでいるようでした
困った顔をしながらも
160(*´゚.゚) ◆blue.UaY :03/11/14 00:50 ID:kyvlfSW.

自分がものすごく馬鹿みたいに思えてきました
自分だけがいいきもちになってたみたいに思えてきました
「だからあんたにあたったの。ごめんなさい。ゆるしてください」
アキラちゃんは言いました。ちゃんと、考えたとおりに話すことができました
「もちろんだよ!」
シズカちゃんは言いました
「それに雨がいっぱい降るのはこの街が乾燥していたから多めに降っただけだよ!今まで街の天気はアキラちゃんが
ひとりでつくっていたんだね!今までひとりでたいへんでしたね!これからはわたしもいるし雲乃日幻八くんもいる
よ!ちょっとねこんでるけど、すぐに元気になるよ!それに春にも夏にも秋にも冬にも、いろんな天気の妖精さんが
くるからね!これからみんなでがんばろうね!」
アキラちゃんは泣いてしまって、うまく返事ができませんでした
雨の日も悪いことばかりじゃないな、と、涙でにじんだ視界のむこうにふわふわ浮かぶ、ピンク色の魚の球を見ながら思いました。