＜　｀ш´＞

　　 　 　 　 　∧＿∧
　　 　 　 　 ＜　｀ш´＞　
　　　　 　 ＿φ＿__⊂)_
　 　 　 ／旦／三／ ／|
　　　　|￣￣￣￣￣|　 |
　　　　| 誰彼百円　|／

おまんら
また
騙されたのか？　　　　　∧＿∧　　　　　∧＿∧
　　　　 （　´_ゝ`）　　　　（　´_ゝ`）
　　　　／　　　＼　　　 ／　　　＼
　　　 /　　|＼_/|.ヽ　　/　　|＼_/|.ヽ
　 ＿_(__ﾆつ　|| ⊂)＿(__ﾆつ　|| ⊂)＿
..　　　　　　＼||/　　.　　　　＼||/

兄者、頭、頭

>>3
実はあれであってる

(ﾟ回ﾟ)ﾃｽﾂ

(´-ω-`)南無南無

記念カキコ

>>1
勹ソスνT=τゐTょ

超先生【ちょうせんせい】［名］（Leaf・key）
Leaf/AQUAPLUS所属のシナリオライター・竹林明秀（旧名：青紫、青村早紀）のこと。実質的な葉鍵板の生みの親（※）である彼に向けられた最上級（？）の敬称でもある。
彼は高橋龍也（Leafのシナリオライター）と共にLeafの全盛期を担い、To Heartでは長岡志保、姫川琴音、宮内レミィらの萌えヒロインを世に送り出した。しかし、最近の"誰彼"などについては、彼のシナリオに否定的な見解を示す住人も多い。
（※：葉鍵板は、かつてのエロゲ板において、彼が"痕"で手がけたシナリオについて議論を闘わせる連中が多くなったことから設置されたという経緯がある隔離板である

　　 　 　 　 　∧＿∧
　　 　 　 　 ＜　｀ш´＞　←超先生のAA（アスキーアート）
　　　　 　 ＿φ＿__⊂)_
　 　 　 ／旦／三／ ／|
　　　　|￣￣￣￣￣|　 |
　　　　| 誰彼百円　|／

http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1057404716/l50
http://sports2.2ch.net/read.cgi/entrance2/1057404716/l50
http://sports2.2ch.net/test/r.i/entrance2/1057404716/l50

超先生の部屋
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1058199458/l50

八頭身の超先生は気持ち良い
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1058257883/l50

ハッキリ言ってLeaf Official Home Pageなどのサイトでは超先生の方がリーフファンよりもずっと立場は上だよ。
貧弱で弱弱しく、アグレッシブさに欠け、醜いリーフファンは超先生のストレス解消のいい的。
超先生は感感俺俺、どうすればいいんだなど迷ゼリフを多数創作してるし、リーフファンはかなり彼に見下されている。
(超先生はしぇんむーには頭があがらないためリーフファンクラブ会員相手にアビスボートを送ってストレス解消する。
また、リーフファンは作品をすぐ買ってくれる信者としてとおっている。
「100円でどうだ？(誰彼を買え）」と自分の作品を押し付ける超先生も多い。）
彼の見ていないところでこそこそ陰口しか叩けないリーフファンは滑稽。

ぬるぽ

　　　　 　 　　∧＿∧
　　 　 　 　 ＜　｀ш´＞　
　　　　 　 ＿φ＿__⊂)
　 　 　 ／旦／三／ ／|
　　　　|￣￣￣￣￣|　 |
　　　　| 誰彼百円　|／

　　 　 　 　 　∧＿∧
　　 　 　 　 ＜　｀ш´＞　
　　　　 　 ＿φ＿__⊂)_　　　　　
　 　 　 ／旦／三／ ／|
　　　　|￣￣￣￣￣|　 |
　　　　| 沈舟〇円　|／

　　　　 　 　　∧＿∧
　　 　 　 　 ＜　｀ш´＞　
　　　　 　 ＿φ＿__⊂)
　 　 　 ／旦／三／ ／|
　　　　|￣￣￣￣￣|　 |
　　　　|雫Ｒ執筆中 |／

先生ｶﾓﾝ

こいつをな

ふむ

　　　　　

　　　　

rdursokurkaokjdfoadifjoaijfdoaifdjaoidfjalkdfankldgnalhjgiagjsdoifjioaidjaifoasdfdsaofdfこんばんは。

んこ

　∩∧＿∧
　＜｀ш´　＞　規制で葉鍵板から隔離されてしまった、葉鍵っ子の諸君
　　 >　　(ヽ）　ここで思う存分、感感俺俺していってくれたまえ。
　／　　　　.）　
と　 ,⌒｀　Ｊ

　∩∧＿∧
　＜｀ш´　＞　こっちも、うまく活用してくれたまえ。
　　 >　　(ヽ）　
　／　　　　.）　 葉鍵板（蟲）
と　 ,⌒｀　Ｊ ttp://jbbs.shitaraba.com/game/1343/

　∩∧＿∧
　＜｀ш´　＞　ageてみる
　　 >　　(ヽ）　
　／　　　　.）　
と　 ,⌒｀　Ｊ

　∩∧＿∧
　＜｀ш´　＞　テレホage
　　 >　　(ヽ）　
　／　　　　.）　
と　 ,⌒｀　Ｊ

　∩∧＿∧
　＜｀ш´　＞　また雨が降雨して降ってきたな
　　 >　　(ヽ）　
　／　　　　.）　
と　 ,⌒｀　Ｊ

　∩∧＿∧
　＜｀ш´　＞　雨上がって止んだかな？
　　 >　　(ヽ）　
　／　　　　.）　
と　 ,⌒｀　Ｊ

　　　　 　 　　∧＿∧
　　 　 　 　 ＜　｀ш´＞　・・・・・・
　　　　 　 ＿φ＿__⊂)
　 　 　 ／旦／三／ ／|
　　　　|￣￣￣￣￣|　 |
　　　　|雫Ｒ執筆中 |／

超先生が午前０時をお届けします

　　　　　*　　　ね〜んね〜ん　ころ〜り〜よ　おころ〜りよ〜
　　*　　　　　　*
　　　∧＿∧
*　　(,*´∀｀)／￣￣⌒ヽ
　　　（ゞ⌒)　　＜(⌒ヽ::))))::''''-,,　　　　
　　　 | / /　　　ヽ＼ 　::::::::::::::::::ヽ　　　　　　　　　　　　　　　　 　　（゛)
　　　ﾉ/ /ヽ　ﾇｸ〜∧＿∧ヽ:::::::::::::::ヽ,￣￣￣　)　　　　　　　　　ノ　;'
　 　（/ /　　＼⊂<｀ш´⊂(　　　　　　）￣⌒＼　＼￣￣￣￣;"￣　　）
　　(⌒⌒)　(⌒￣￣￣￣￣￣￣￣￣⌒)￣￣＼.　ヽ￣￣￣""゛"'''
　　 ￣￣　　￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣　　　　　丶;;''ヽ、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　(　::;　'''⌒）

　　　　　　　　　　lヽ、　　　 　 　 　 　 /ヽ
　　　　　　　 　 　i!　ﾞヽ、 　 　,,,..-'"／ 　ﾞi!⌒ヽー-､.,,.-ｲ''⌒ヽ
　　　　 　 　 　 　l　　　 ゝ-─‐-／'　　　 i!　　ヽ、　　 　 i,　 ,ﾉ
　　　　　　　　　,／"　　　　　　　 　 　　　i!　 ....　ﾞ'';;..　　　Y"
　　　　　　　　,/'　　　　　　　　　　　　　 〈　　:::::.　　'';;...　　'i- ､,,
　　　　 　 　　i'　..,,_　　　　　　　　　　 　 'i,　 ::::::::　　 ::::　　'i! 　 ﾞ"ヽ、
　　　 　 　 　 i! 　　｀　　　　 '"´ 　 　 　'i　　:::::::::　　''':;;;　 ヽ、　　ﾞ）
　　　　　　　　'i,::::: 　 !　!　! 　　　 　　,/ヽ　''''　　　　　　　　'i,-‐'"
　　　　　　　/⌒ヽ､　i　!　!　　　　:::::,,-‐　　　　ゝ　　　.............　　　 ヽ、
　　　　　　 （　　　　ヽ、'"´　 ,,.-‐''"　　　　　　　,）　　:::::::::　　　　　　'＼,
　　　　　　　 ヽ､,,　　ﾉ,.-‐''"　　　　　　ノ-‐''"´（　::::::::::: 　 　　　　　　　）
　　　　　　　　　　"~ （　　　　　　 ,. -'"　　　　　ヽ、　　　 ＿,,... -‐─'''"
　　　　　　　　　　　　 ヽ、,,.. -‐'''"　　　　　　　　　｀`ﾞ"´~

┏━━━━━━━━━━━┓::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
┗┳┳━━┃超┃━━┳:::::::::::::ｵﾚﾆﾏｶｾﾛ::::::::::::::
　 ┃┃　 　 ┃先┃　 　 ┃┃::::::::::::∧＿∧::::::::::::::::::::
┏┻┻━━┃生┃━━━━　::::＜｀ш´　＞:::::::::::
┗┳┳━━━━━━━┳━┛::::::（　　　　）::::::::::::::::::
　 ┃┃　 　 　 　 　 　 　 ┃┃::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
　 ┃┃　 　 　 　 　 　 　 ┃┃
　 ┃┃ 　　　早く、規制が解除されますように。
　 ┃┃　 　 　 　 　 　 　 ┃┃
　 ┃┃　 　 　∧＿∧ 　 ┃┃
　 ┃　　 　 　（； ´Д｀）
　　 　 　 　＿（　　　 つ ミ＿＿＿＿＿
　　　　　　|＼＼＼＼＼＼�I＼＼＼＼＼
　　　　　　|　 ＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼＼
　　　　　　|　　 |￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣|
　　　　 　 　 　 |　 　 誰　 彼　 百　 円　 　 |

それはそうと

　　　　　　　　　 ＼　　　　　　　　　　　　　　　 ／ 　
　　　　　　　　　　　＼　　　　　　　　　　　　 ／
　　　　　　　　　　　　 ＼　　　　　　　　　 ／
　　　　　　　　　　　　　　＼ ∧∧∧∧／
　　　　　　　　　　　　 　　＜　　　 俺　＞
　　　　　　　　　　　　 　　＜　予　し　 ＞
　　　　　　　　　　　　 　　＜　　　 か　 ＞
　─────────＜　.感　い　 ＞──────────
　　　　　　　　　　　　　 　＜　　　 な　 ＞
　　　　　　　　　　　　　　 ＜　!!!!　い　 ＞
　　　　　　　　　　　　　　　／∨∨∨∨＼
　　　　　　　　　　　　　 ／　　　　　　　　　＼
　　　　　　　　　　　　／　　　　　　　　　　　　＼
　　　　　　　　　　 ／　　　　　(-＿-)　　　　　　 ＼
　　　　　　　　　／　　　　　　 (∩∩)　　　　　　　　＼

超スレリンク

超先生の部屋
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1058199458/l50

＜　｀ш´＞超先生とちゃん様はﾗﾌﾞい（｀□´ ）
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1060341147/l50

言いたい事を＜　｀ш´＞に言わせるスレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1059802110/l50

パクリキャラ総合スレッド
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1062000510/l50

【日本一】-新・超先生神社-【よせやい】
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1058757526/l50

【感感】 - 超先生神社 - 【俺俺】
http://travel.2ch.net/test/read.cgi/kyoto/1051701094/l50

●●要求。青紫はメビウスを辞めろ●●
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1044022609/l50

超先生スレッド２
http://aa.2ch.net/test/read.cgi/mona/1051644058/l50

たぶん、記念ＣＤに入ってた異能者まだ出てなかったと思うし
それでも上げてみるか。
もう、どっかで出てたらｽﾏｿ。

まえがき


Ｔｏ Ｈｅａｒｔアフターストーリー「異能者」（ファンクラブ版）
　姫川琴音は19歳。大学生の彼女は自身の持つ超能力で学生たちの探し物や常識はずれの事件を解決する、いわば解決屋を請け負っている。　
　ある夏の日、琴音は深川みどりと名乗る生徒から「兄を殺して欲しい」と依頼を受けた。
　兄は謎の超能力者組織にその能力を利用されようとしている。それを止めるには兄の命を絶つしかな
いと、みどりは言う。
　直後、組織の刺客が琴音たちを襲った。　
　組織の目的とはなにか？
　超能力の存在意義とは？
　全ての謎が解けるとき、物語はどのような結末を見るのか。

−おわび−
　「異能者」の全編を掲載すると予告しながら、実現しませんでした。
　申し訳ありません。
　ストーリーのスケールが大きすぎて、時間的な理由で書き上げることができなかったのです。
　どう短く終わろうとしても、今まで連載した量の倍のテキストが必要なのです。そして、短く終わらせるつもりはありません。書きたいことをすべて書くつもりです。
　そうなるとますます時間に余裕がなくなりました。
　中途半端にできあがっているテキストを収録するつもりでもいたのですが、それもやめました。なにしろ、次は来年ですから。
　その代わりといっては何ですが、アクアプラスホームページ上での連載を細々と続けていくつもりです。ですが更新は恐らく、すばらしく遅いでしょう。
　私にとって「異能者」は特別な作品なので、ぜひ納得のいく形で完成させたいのです。それまではお待たせするというより、忘れてください。
　忘れた頃に、完璧な形での「異能者」をみなさんにお届けできるかと思っております。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あおむらさき

著者のことば

　この小説は、琴音シナリオのエンディングから四年後のストーリーです。
　琴音の使う超能力には、じつは大げさな設定があり、ゲーム中に語られたのは極々一部です。
　今回はその設定を生かし、ゲームでは表現できなかった切り口でトゥーハートの登場人物たちの日常と非日常を描きたく、ペンを取りました。
　ＴＨとは打って変わってシリアスな文体とストーリー展開ですが、おなじみのキャラたちは相変わらずだと思います。
　連載形式であることと私自身はあくまで趣味のスタンスであるため、完結まではしばらくかかるかと思いますが、どうか長い目で見てあげてください。
　感想などは励みになりますので、本作を読んで感じたことがございましたらぜひ、メールにてお寄せ下さい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　あおむらさき

５話までは↓参照で、

ttp://www.aquaplus.co.jp/th/inousya/index.html

６・啓示 (1/2)

「今日はどうしましょう」
「学校へ行った方がいいかもしれないわ。家にも帰った方がいいかもしれないし……」
　チェックアウトしようとロビーへ向かう途中、みどりと琴音はそんな言葉を交わす。
　今のところ二人は組織に対して不利益になる行動は起こしていない。起こせなくなってしまった。
　起こしていない以上、組織から脅迫されることもない。さしあたっての危険はなくなったといえるだろう。もう二人には逃避生活を続ける必要がない。そう考えての琴音の意見であった。
「ホテル暮らしができるほど、私たち裕福じゃありませんからね」
「そうね」
　琴音は苦笑する。
　ロビーを出ると、通りを行き交う車の排ガス、夏の強烈な日差しが二人を歓迎した。
「九月の終わりも近いのに、すごく暑いですね。一日五回はシャワー浴びたくなります」
「ふふふっ」
　笑顔の琴音にとって、この暑さではさしたる苦もなかった。気にしたふうもなく歩き出す。
　みどりはそんな琴音に並びかかり、
「姫川さんってすごいですね。落ち着いてるっていうか、いつも涼しい顔なんですもの」
「能力者は暑さや寒さにバリアが張れるそうなの」
「えっ、そうなんですか？」
「紫外線も防げるんだって、安岐さんが言ってたわ」
「それって反則ですよ。メイクとか全然気にしなくていいじゃないですかぁ」
「そういえば、そうね」
　化粧をするようになってから、化粧崩れなどまったく気にしないことが自分の日常だっただけに、その指摘は斬新な思いさえする。
「私もバリア、張れたらなぁ」
「ごめんなさい。その気持ち、ちょっと実感わかないわ」
「あ〜っ、それ、自慢ですかぁ」
「あ、ごめん、そういう意味じゃないの」
　二人は笑い合った。

　そのときだった──。
　路肩に寄せて停車中の車から、白い人影が優雅に降り立った。
　まさに琴音たちが通り過ぎようとしたその瞬間、
「ちょっとごめ〜ん！」
　素っ頓狂な声音で呼びかけた。
　振り返った琴音たちだが、声の方向からはパナマ帽をかぶった白いワンピースの女性の姿しか見あたらない。
　いや、みどりが驚きの声をあげた。
「あっ!?」
　それは、純潔の白──そんな言葉の似合いそうな女だった。
　大通りの薄汚れた空気に清涼感が満たされる。
　幻想的なイメージを切り裂くように、その背後をけたたましい排気音を響かせて赤いオープンカーが走り抜けて行った。
　琴音とみどり、二人は我を取り戻す。
　その女は白魚沙月だった。白魚財閥の息女だ。
　沙月はすました表情で、濃緑のスポーツカーの鼻先を回り込んだ。
　軽やかな足取りで縁石をまたぎ、歩道に移ると、
「こんち〜！　深川みどりさん。そして──はっじめまして、姫川琴音さん」
　そのあか抜けた挨拶は、外見からとうてい想像はできない。
　〈太陽の使徒〉を名乗る能力者集団。彼女はその上位能力者であるはずなのに──。
「ダメえっ!!」
　琴音が不意に声をあげ、みどりはぎょっとした。
　ちょうどロビーの自動ドアが左右に開き、喧噪と熱気を帯びた空気が流れ込んでくる。
「ど、どうしたんですか？」
　小声でみどりが聞く。
　琴音は顔をこわばらせ、肩を怒らせてもいる。
　手を触れることさえはばかられた。

　彼女はハッと我に返り、
「みどりさん、外に出ちゃダメ。　組織のエージェントが待ち伏せていたわ」
「えっ？　どうして……？」
「見えたの、これから起こることが……」
「……予知、ですか？」
　こくりとうなずく。
「たぶん、あの人が白魚沙月……。パナマ帽に白いワンピース姿だったわ。　 びっくりするほど純粋な雰囲気の女性だった……」
「……間違いありません。その人は白魚沙月です」
「能力者の気配をうまく消していたわ。私たちを待ち伏せていたみたい」
「どうしますか？　事前に判かっているのなら、別の道を行くとか──」
　琴音は首を横に振った。
「未来は常に変化するものなの。私たちが白魚さんに会わなかったことで、どんなふうに未来が変わるのか予想できないわ。　変化した未来では、私たちもっと大変な目に遭うかも知れないのよ」
「……それじゃあ、いったいどうすれば……」
「私だけが行くわ」
「えっ!?」
「みどりさん、あなたは時間をおいて遠回りに学校へ向かって」
「そんな!?　あの人に会うなんて、危険すぎますっ」
「いいえ……きっと平気。私にはわかるの」
「じゃあ、私も一緒に──」
　立てた指でみどりの唇を押さえる仕草で、
「あなたは依頼人で、私は請負人よ。大丈夫、危険はないわ」
　みどりはじっと琴音の瞳を見つめ、
「……ひとつ、約束してください。絶対に危ない真似はやめてください。兄を助けるために姫川さんが犠牲になってしまっては意味がありません」
「ええ。約束は守るわ」
　まず琴音がホテルを出た。

　予知した場所へ向かい、沙月と会う。その間にみどりは逆方向から隣の駅へ向かう──そういう手筈だ。
　沙月の愛車はすぐにわかった。
　ありふれた国産車とは設計理念が違う。車に対する知識のない琴音にも、それがわかった。
　深く、落ち着いたグリーンのスポーツカーだ。
　車内にはあの、白い女の姿が見える。
　琴音は車に近づくと、窓越しにのぞき込んだ。左ハンドルであるため、運転席は歩道寄りだ。
　窓を軽くノックすると、運転席の沙月がこちらを見、わずかに驚きの表情を見せた。
　すぐに窓が下り、
「もお〜びっくりしたわ。そっちから声かけられるなんて」
　旧友との邂逅にもれるような口調で言う。
「ごめんなさい。判かってしまったんです……」
「あらぁ、あたしってだめねぇ……。これでも隠れてたつもりなのよ？」
　そう言って沙月は頭をかいた。
　外見からは想像もつかないほど人なつっこい仕草に、琴音は思わず笑いかけてしまう。
「私に何かご用ですか？」
「そうね、なんだと思う？」
「安岐さんから忠告を受けました。そのことですよね？」
　琴音の言葉を聞き、沙月はため息をついた。それは深呼吸だったのだろう。
「だいたい、当たり」
　その言葉を聞く前に、琴音は本題に入ったことに気づいていた。
「覚悟、できてるわよね？」
　すでに白魚沙月から親しげな雰囲気は無くなっていた。
　うなずく琴音。
　ここからが彼女のビジネスなのだろう──琴音はそう感じた。
　白魚沙月は恐ろしい幻覚を見せるという。その初弾を防ぐことができるのか。いや、もうすでに自分は幻覚を見ているのかもしれない。
　琴音は息をのんだ。

　ブオンッ！
「琴音ちゃ〜ん、お待たせ〜っ」
　弾けるような排気音と共に、一台の赤いオープンカーが沙月の車の鼻先に着けられた。同時ににこやかな女の声。
「長岡さん……」
「あっ……」
　二人はそれぞれにそんな言葉をもらした。
　赤いオープンカーのドライバーは、長岡志保だった。
　志保はシフトレバーをまたいで助手席に移り、
「ごめんごめん、ちょっと遅れちゃって」
　と手を振った。
「長岡さん……？」
「で、その子、誰？」
「あの、この方は──」
　そこで沙月がさえぎるように、
「姫川さん、これはどういうこと？」
　その問いに代わりに志保が、
「どーもこーも、あたしたち、待ち合わせしてたのよ」
「待ち合わせ……？」
　沙月は琴音に眼をやった。一方で琴音は志保にすがるような目線を送る。
　志保の眼は『そうよそうよ』と告げている。
　琴音はしかたなく、
「はい……、そうなんです」
　とうなずいた。
「ふ〜ん……。悪いけど、あたし姫川さんに用があるのよ」
　砕けた口調に戻り、沙月が言う。
「そお？　あたしなんか、約束してたんだけど？」
「悪いけど、そんなふうには見えないわ。だっておかしーじゃない姫川さんの態度が」
「え？　そお、琴音ちゃん？」
「あ……いえ……」
　うつむく琴音。その行為ですべてが台無しであった。

「長岡さんだっけ？　どうなってんの、これ？」
「あ〜あ……」
「ごめんなさい……」
「いいわよ」
　突然沙月が切り出した。
「あなた、姫川さんに用があるんでしょ？」
　そう訊かれ、うなずく志保。
「ひとつ、ゲームしましょ。勝った方が姫川さんとお出かけできるの」
「なにそれ……？」
「だから、ゲームよ。公平なやつでね」
　沙月の奇妙な申し出に、志保は怪訝な顔つきで、
「……いいけど、どんなゲームよ？」
「車で競争、ってのはどお？」
「競争……？」
「あなた、運転、自信あるんでしょ？」
　そう言った視線の先は、志保の愛車のリアタイヤだ。
　一六インチのスポークタイプのホイールは、小さな車体に不釣り合いなくらい大きい。そんなホイールに薄いゴムを巻き付けたようなタイヤも不似合いだ。フロントタイヤも無論それに習っている。
　インチアップホイールに超扁平ラジアル──その組み合わせは、まるでレーシングカーを思わせた。
「そりゃあ、ないわけじゃないけど……いったいなんの競争するのよ？」
「もち、ダウンヒル」
「はァ!?」
「心配しないで、あたしも運転得意だし」
「ダウンヒルって、あんた、どこでやんのよ？」
「どこかしらねぇ……このへんだと、大垂水かヤビツかしら？」
「あんた、地元じゃないの？」
「まあ、タルミもヤビツも近頃走ってないわ」
　志保はあきれたふうに、
「あのねぇ、JOE山って知ってる？　あたし、バリバリ地元なんだけどぉ？」
「ジョー山？　いいじゃない。のぞむところよ」
　さらりと言ってのける沙月の精神状態を、志保は疑った。

「悪いけど、それはあたしに琴音ちゃんを譲りますって言ってることになるわよ？　ちょっと車の運転うまいくらいじゃ話になんないのよ？」
「あら、言ったじゃない。のぞむところだ、って」
　沙月は不敵に微笑んだ。
　一方で志保は困惑する。
　彼女はインディーズバンドの活動のかたわら、公道レースに凝っていた。峠道を駆け抜ける、いわゆる��走り屋�♂ﾆ業に手を染めているのだ。その入れこみようは彼女らしく、かなりのもの。仲間内でも一目置かれる存在なのだ。
　当然、走り慣れている地元の峠道ともなれば、その実力を余すところなく発揮できる。
　その上で、このお嬢様は勝負しようというのか。
「……いいわ、そこまで言う以上、よっぽど走りに自信があんのね。　あんた、車はなに？」
「それよ」
　沙月が指さすは、アビスグリーンのヴァルキュリア。
「ば、バルキリー!?　これ、あんたの車なの!?」
「そうよ。相手にとって不足無し、じゃない？」
「け、けっこうよ……」
　言いながら、志保はこの女の力量を感じ取っていた。サイドウォールぎりぎりまで使い切られたタイヤを見るだけでも、自ずと見当がつく。
　いまやホンダとフェラーリを抜き、世界最高の名声をほしいままにするクルス。その旗艦であるヴァルキュリアとなれば、それなりのドライバーが操るだけでも凄まじいパフォーマンスを発揮するであろう。
「じゃあさっそく行きましょ。案内して」
「わかったわ。ついてきて。　琴音ちゃん、あたしのほうに乗って」
「は、はい……」
「長岡さん、逃げないでね」
　沙月の言葉に志保はうなずいた。さすがの彼女も町中でカーチェイスをする気はない。
　琴音が助手席に乗り込み、シートベルトを締めた時点でクラッチをつないだ。地響きにも似た排気音を響かせ、二台のスポーツカーが走り出した。
「琴音ちゃん、あの子、誰？」
　三速に入れたところで志保が訊いた。
「あの人が組織のエージェントなんです……」
「え……マジ？」
　うなずく琴音。

「あの子ってば、すっごい美人じゃないの。セーカクは問題ありそうだったけど。　しかもあんな可愛い顔してバルキリー乗ってんのよ？　ちなみに、あの車はコミコミ一八〇〇万円くらいね」
「……私、あの人と出会う予知をしてしまって……、依頼人の深川さんと別れて行動することにしたんです」
「な〜るなる。そのエージェントと出会ったところにあたしが出くわしたわけね。まさかあんな可愛らしいエスパーやくざがいるなんて思ってなかったから」
　偶然通りがかった志保は、歩道で沙月と話している琴音に気付き、路地を一周してから待ち合わせを装って現れたのだ。琴音と沙月がもめているのだと車窓から判断したのは、ゴシップ好きの彼女ならではのものか。
「ごめんなさい」
「いいってば。だいたい向こう、超能力でいきなりあたしの頭破裂させたりしなかったじゃないの。しかも、ダウンヒルバトルなんか申し込んできちゃって、いい意味でびっくりよ」
　ハイペースで峠道を下ることは車とドライバーにとっての負担が最も大きくなる。言い換えれば最も技量を要求するバトルとなる。
「どういうつもりなのでしょう……？」
「さあね。言ってるとおりめちゃくちゃ速いか、勝ち負けに関係なく琴音ちゃんを奪い取るつもりなのか──ったらあたしとバトルなんて時間の無駄よね……。　やっぱホントに速いのかしら？」
「長岡さんはどうお思います？」
「車はたしかにイイわ。サーキットじゃ逆立ちしたって勝てっこないもの。　だけど走りに行くのは峠よ。あんな車じゃ、コンビニへジェット機で買い物に行くようなもんよ。コンビニへは原チャで充分なんだから。
　峠はコーナーリングスピードが命。あんなでっかい図体で曲がり切れっこないわ」
「じゃあ長岡さんの勝ちですね」
「それがわかんないから気色悪いのよ。峠はなにが起こるかわかんないから面白い、って言葉もあるくらいだし」
「……難しいです」
「まあまあ、こっちには有利な状況なんだし。そこまで深刻じゃないわよ。　ウーロン、飲む？」
「あ、はい。いただきます」
　志保は取り出したサングラスをかけて、
「ダッシュボードに二本ほど無理やり詰め込んであるから、あたしの分も一緒に勝手に出して。あ、シロップも一緒に入ってるから」
「は、はい……」

　青梅街道を走り抜け、奥多摩大橋が見える頃、そこは奥多摩町。
　埼玉・東京エリアの走りのメッカだ。
　二台のスポーツカーは志保のホームコースである、通称��JOE山�≠ﾖ向かう。
　峠は夏休み中ともあって、大学生たちが早朝から走り込んでいた。
　派手なドリフトでギャラリーたちから歓声を浴びるS15。
　シャープな走りでコーナーを駆け抜けるEK9。
　人気再燃のAE86は思い切りのいい走りが自慢か。
　様々なドライバーたちがマシンを駆り、思い思いのパフォーマンスに興じている。
　頂上付近には道の開けた場所があり、路肩には十数台のマシンが停められていた。
　それがここJOE山の休憩地点である。
　冷房の利いた車内で涼む者や、仲間と車談義に花咲かせる者、中には麓から買ってきたジュースを売りつける者もいる。
　そういった集団からやや距離を開けるような位置にマシンを停め、二人の男がたたずんでいた。
「どうだ？　恭介」
　長身の男が隣の連れに声をかける。クールで知的なイメージの好青年だ。
「別にぃ。昨日とおなじく、にぎわってるな、とは思うけど……」
　そう曖昧に応えた男──恭介も、ラフなファッションがピタリとくる、なかなかのハンサムだ。
「そんなところだな……。　だが、時間はたっぷりある。じっくり待とうじゃないか」
「なあ兄貴、その��音速の歌姫�≠ﾁてやつ、神出鬼没なんだろ？　この峠の誰かに伝言頼んだほうがよくねえか？」
　恭介の言葉に、兄と呼ばれた男は小さく笑い、
「待つのは苦手か？　だったら走ってきたらどうだ」
「冗談よしてくれよ。こんな昼間に走り出したら、目立っちまうだろ」
「フッ……そうなったほうが、こちらにとっても好都合だ」
「それこそジョーダンじゃねえよ。デモンストレーションなら兄貴がやってくれよぉ」
　そう言って恭介は露骨に顔をしかめた。
　二人のそんなやりとりを、離れた位置から見つめる男がいる。男は口元へ運びかけたジュースの缶を止めて、
「なあ、あの二人、高崎兄弟じゃないのか？」
　連れの男に訊く。

「なんだ、知らねえのか？　昨日から来てるぜ」
　高崎兄弟とは群馬エリアで最速のグループ「レッドキャッスルズ」のトップだ。関東最速プロジェクトと称して、関東エリアの走り屋たちと交流戦すなわちバトルを繰り広げている。向かうところ敵無しとの評判だ。
「マジかよ!?　もしかして、関東最速のあれか？　俺、ホームページ知ってるぞ。　そうかぁ、奥多摩がいよいよ標的か……」
　感慨もひとしおといった面もちで男がそうつぶやいたとき、周囲がにわかに活気づいた。
「おいっ、あのPP1、もしかして……」
　誰かがそんな声をあげた。
「もう一台……うわ、バルキリーじゃん!?」
　その声の指摘どおり、赤いオープンカーと濃緑色の公道レーシングカーが休憩地点へ上ってきた。
　志保は静かに車を止め、サイドブレーキを引いた。左手の辺りから、ギッ！　とギアが擦れる音。
　この音が聞こえるとき、車を降りる場所へ着いたのだと琴音は無意識に理解していた。
「琴音ちゃん、ここで待ってて」
　そう言って志保は車を降りた。
　後ろ手にドアを閉める。
　ちょうど車を止めた沙月が車を降りるところだった。
「ここで走るの？」
「そうよ。登ってきた感想は？」
「──面白いわ。とくに、工事中の迂回路。あんなところも攻めちゃうの？」
　ここJOE山は現在、大雨で崩れた路面の修復のための工事が一カ所、行われている。迂回路は本来の道路を直角に避けて通る仮設道路だ。
「もちよ。あんたのでっかい車で大丈夫？」
　仮設道路はアスファルト舗装されているが、道幅が極端に狭い。そのことを志保は指摘する。
「たしかに大きいけど、侵入ラインのシビアさは似たり寄ったりじゃない？」
　沙月は気にしたふうもなく返した。
「上等ね……」
　対する志保は不敵な笑みを浮かべ、
「ここでバトるとさ、車とコースのせいにする輩が多くって」
「ご心配なくぅ」
　軽く手を振って応える。

　そうやっているうち、何人かの男たちが二人の周囲にやってきた。
「ちわ〜っす」
　男の一人が手を上げる。
「お、ミヤモン。いいところに来たわね」
「そっちこそ昼間っから珍しいっすねぇ。でもちょうど良かったっす、じつは──」
　男が続けようとしたところを志保がさえぎって、
「いまからバトるから、セッティングよろしく」
「えっ？　もう高崎兄弟と話がついてるんすか？」
「は？　なに言ってんのよ。あたしの相手はこっちのコ」
　そう言って指さした先には、清純可憐な白魚沙月の笑みが揺れている。
　──スタート地点。
　すでに志保と沙月の愛車は位置に着いている。まだ乗り込んではおらず、二人は路肩にたたずんでいた。
　低く、重い排気音が周囲に響いている。
　男たちが数人、携帯電話で指示を飛ばす。山はレース前の独特の緊張感に包まれていた。
　志保が沙月へ向き直り、
「遅れちゃったけど、自己紹介しましょ。あたしは──」
「知ってる。長岡志保さんでしょ」
「あらら、どうして？」
「あたし、ソリッドのファンだし。　最初見たときからキンチョーしっぱなし。まさか姫川さんと長岡志保が知り合いだなんて、ね」
　ソリッド・バイオレンサー──志保の所属するインディーズバンドのバンド名だ。沙月は初めから志保を知っていたのだ。だが、その驚きようから組織は琴音の交友関係を洗い出すには至ってないらしいと知れる。
「あっそう……ありがと。じゃ、よろしくね」
「あたしは白魚沙月」
　二人は握手を交わした。

「しらうお──白魚って、まさか白魚財閥のご令嬢ってことはないでしょうね？」
「親はたしかに儲けてるわ……」
「あんた、ホントに!?　社長の娘かなんか!?」
「おじいちゃんは会長やってるわ」
「……どーりでその若さでバルキリーなんか乗ってるわけね……」
「でも、長岡さん。バトルはお金じゃ決着つかないわよ？　あなたこそ、車のせいにしないでね」
「おーけー！　面白くなってきたわ！　志保ちゃんの走りを見て驚かないでよね？　ステージだけの女じゃないわよ」
「ふふっ、峠のSHIHOCHANにも期待してるわ」
　沙月の言葉に嘘はない。ステージ上とは違い、普段着の志保もまた魅力的な人間だった。プロフィールを読んで知ってはいたが、まさかここまで峠の世界に入り込んでいるとは。
　彼女にとって志保はますます魅力的に思えるのだった。
「おい、��音速の歌姫�≠ｪやるそうだってよ」
「マジかよ？」
「相手は誰だ？」
「高崎兄弟のどっちかだろ？」
「違う違う。ヴァルキュリアだって」
「ヴァルキュリアってあの、ルマンで勝ちまくってる車？」
「あんなので峠走れんのかよ？」
「あの女がドライバーだってよ」
「うわ、ちょーマブいじゃん」
「な、イケてるだろ？」
「オレ、どっちでもいいや」
　オフィシャルの配置が終了したと報告があった。
　見通しの悪いコーナー毎に人を立たせ、対向車やその他の危険をドライバーに身振りで通知する。走り屋と呼ばれる人間たちのルールだ。
　交通法規を無視する者たちの、ささやかな罪滅ぼしか。

「琴音ちゃん、こっちきて」
　志保が呼んだ。
「あ、はい」
「となりに乗って」
「え……!?」
「いいから。そのほうが調子でるの」
　そのやりとりに少なからず驚きを見せたのは沙月だ。
「長岡さん、あたしたち、姫川さんを賭けて勝負するのよ？」
「わかってるわ。だって、下まで降りてまた向かえに来るのメンドーじゃない」
「それは──」
「わからない？　二人乗ってると、飛ばせるのよ」
　志保の意味ありげな言い回しに、沙月は少し考えて、
「あ……そーなんだ。そういうことね」
　と破顔した。
「そゆこと」
　志保も満足げにうなずいた。
　だが、あとに続く口調とその表情は、もうそれまでの沙月のものではなかった。沈鬱としたトーンでぽつり、
「だけど、楽しいのはバトルだけよ、姫川さん」
　ハッと声の主へ顔を向ける琴音。
　沙月の眼が、冷たい輝きを放つように見えた。
　不意に、あの音が響く。キーンと、耳鳴りにも似た音だ。
　──いけないっ、精神攻撃!?
　ぞっとする感覚に琴音は身をこわばらせた。
　この感覚は知っている──。
　米島が見せた、殺意という名の意志に似ていた。
　いまこの瞬間に琴音は攻撃を受けていた。白魚沙月の精神攻撃。
　見開かれた琴音の瞳が──暗く、不吉な色に、染まってゆく。

　喧噪──。
　構内は生徒たちで賑わっている。
　かたわらの席へ無造作にバッグを叩きつけられ、上条レイジはふと眼を上げた。
　バッグの主は安岐刹那だ。
「��お嬢�≠ﾍ今日も重役出勤かよ」
　あきれたような口調で言う。
「そうとも限らないさ」
「なんだよ？」
「彼女は昨日、姫川琴音に会いに行くと言っていた」
　安岐の顔色が変わる。
「あにぃ？　まさか、早すぎねえか!?」
「悠長にことを構えるヒマはない、といったところかな……」
「くそっ！　琴音ちゃんに手ぇ出したら、ただじゃおかねえぞ！」
　バッグを引っ掴み、安岐は駆けだしていた。

　古びたスピーカーから重苦しいチャイムの音が響き渡り、その日の授業はすべて終わりを告げた。
　琴音は教科書やノートを鞄にしまう。早くこの場所から立ち去りたかった。
　学校は嫌いだ。
　人が嫌いだ。
　周囲の人間たちが。
　なにより、自分自身が嫌いだ。
　どうしてこんな能力を持つようになってしまったのか。
　目に見えない何かが身体の中に入り込んでくる。
　徐々に、徐々に──。
　能力の源ともいうべきものだ。エネルギーと呼んでもいいだろう。
　入り込んだその何かが一杯になったとき、能力が暴発する。その様は文字通り爆発だ。
　爆発は危険だ。やがて自分は爆発させないよう別の行為で代用することを覚え、爆発を物を動かす力へと変えていた。
　だが、動かすために必要なエネルギーは対象となる物品の質量に依存する。
　軽い物なら速く遠くまで動く。重い物はその逆。
　しかし、重すぎる物体。これが危険だ。
　エネルギー量に対し、重すぎる物体は動かすことができない。動かそうとして動かせなかった場合、その代償を支払わねばならない。
　自分の場合は激しいめまい、そして昏睡だった。脳しんとうだと医者が診断した。
　それ以来、動かすのが怖くなった。
　代わりに壊すようになる。
　ガラスを好んでよく壊した。理由は、もろく壊れやすいイメージがあるから。
　ガラスは加減を必要としなかった。エネルギーが少ないときは、大きく少ない破片に、エネルギーが多い場合は細かい破片に砕けるのだ。
　決まって、板ガラスは六角形に、ガラス塊はサッカーボールに似た多面体の破片に砕けるのが奇妙ではあった。
　ガラスを壊すことで、暴発はある意味、怖くはなくなった。
　だが代わりに周囲からこう呼ばれるようになった。
　悪霊女──と。
　取り憑いた悪霊がガラスを壊したり、様々な異常現象を引き起こすのだというのだ。
　ますます周囲から好奇の目で見られるようになった。
　見られるだけならばまだいい。自分は悪霊に取り憑かれ、突発的にガラスを砕く、人々から嫌悪される存在なのだ。

　有形無形の嫌がらせは日常茶飯事。
　高校に進学してからも当然のようにそれが続く。
　故に他人と接することはしない。したくはなかった。
　自分にとっての他者とは、自身に危害を与えようとする忌むべき存在でしかない。他者から見た自分とは、奇怪な現象を引き起こして彼らの平穏を乱す、憎むべき存在だ。
　この絶望的な状況において、父と母だけが──家族だけが、ただ、無害な存在であった。文字通りの、無害なだけの存在。
　自分を取り巻く現実の中で、ある意味最も辛い現実なのかもしれない。
「ちょっとどいてくれない？」
　棘のある声で言われ、琴音はハッと顔を上げた。
　クラスの女生徒だ。その声と同様、嫌悪に満ちた眼で自分を見つめている。
「掃除の邪魔だし、さっさと帰ってくれない？」
　まだ、授業が終わったばかりだ。多くの生徒たちがそれぞれの仲間の席で、放課後の予定などを話し合っている。
　なぜ彼女は自分にだけそう言うのだろうか。
　理由は判かっている。
　──わたしが悪霊女だからだ。
「ごめんなさい……」
　小さく頭を下げた。彼女を苛立たせているのは自分だ。自分の能力のせいだ。
　逃げるように脇を通り過ぎる。
「謝るくらいならお払いでもしてくりゃいいじゃない」
　そんな悪態が聞こえた。逃げるようにその場を後にする。
　廊下へ飛び出した頃には、涙で視界が曇っていた。
　なぜこんな仕打ちを受けねばならないのか。
　涙を拭いた──
　もう何度となく繰り返されてきた現実。
　いつか涙が枯れてしまうのではないのか。
　もう嫌だ──
　何度となく繰り返された言葉。
　いつか喉も枯れるのであろう。
　いくらか気の休まる下校時間も、今日は暗く陰鬱な色に染まる。

「キミ、ちょっといーかな？」
　不意に、後ろから声をかけられた。男の声だ。
　小さく驚き、恐る恐る振り返る。
　上級生──二年生の男子生徒だ。
「覚えてるだろ？　前にオレ、昼休みに階段でぶつかったヤツ」
　男はそう続けた。
　先程の同級生とは打って変わった、親しげな口調とその雰囲気に覚えがある。
　以前廊下でぶつかりそうになった人だ。そのときに能力が暴走し、目の前でガラスを砕いている。
　琴音はうなずいた。
「ちょっと話があんだけど、いいかな？」
　嫌な予感がした。
「……なんでしょうか」
　逃げ出したい気持ちを抑えて、そう訊いた。
「キミってさ、ウワサでちょこっと聞いたんだけど……、超能力、使えるんだってな」
　思ったとおりの話題だった。琴音は目を伏せた。
　自分に近付いてくる人間は、いつもこうだ。興味本位で近付いてきて、やがて汚物を避けるように逃げてゆく。
「からかいにきたんじゃねえんだ。ちょっと信じられねえからさ、確かめてみようと思ってな」
　確かめるまでもない。
「……超能力はあるんですよ」
　いつものように琴音は応える。
「マジ？　じゃあ、やっぱあのときガラスが割れたのも──」
「はい。わたしがやりました……」
　この男は初めにガラスを砕いた瞬間を見ている。話は早い。
「気になんだけど、どうしてそんなことしたんだ？」
　まじめな顔で男は訊いた。
　初めてだ。そんなふうに訊かれるのは。
　なぜ、ガラスを割るのか──。
　男はおもしろおかしく超能力についてたずねるわけではなかった。
「言えない事情があんのか？」
　黙っていると、男はそうたずねた。
　ガラスを割るには理由があるのではないのか──。

　まるで超能力を肯定した上で、その先にある自分の悩みにに気付いているかのような、そんな問いであった。
　だが、本当にそうだろうか。
　過去に一度だけ二言三言、言葉を交わしただけの人間がここまで自分のプライバシーに入り込むことができる筈がない。
　まだ自分に現状を楽観視できる余裕があったのか。琴音は少しだけ驚いた。
　淡い期待はいつも、失望と暗い絶望の色へと褪せるだけだ。
「なあ、オレに──」
「わたしに関ると、あなたにご迷惑がかかりますから……」
　なにか言いかけた男の言葉を切るように、琴音はいつもの言葉を告げた。
　ぺこりと頭を下げ、男に背を向ける。
　男が付きまとうことはなかった。
　それきり男のことは頭の中から消え失せるはずだった。
　もう幾度となく経験したやりとりである。

　どうしてそんなことしたんだ
　言えない事情があるのか

　だが、その男のことは琴音の意識から追い出すことはできなかった。
　追い出そうとすればするほど、無視できない存在になってゆく。
　──もう一度会って、あの言葉の真意を教えてもらいたい。
　いつしかそう思うようになっていた。
　そう思うことで、嫌なことを忘れることができた。
　その男のことを考えることで、不安を忘れることができた。
　──まず、名前から教えてもらわなければ。

　──いいえ、私はあの人を知っている！
　藤田浩之さんよ！
　私の大切な人なのよ!!

　パキンッ

　何かが砕けた。
　やがて、周囲に音が戻ってきた。
　色彩が帰ってきた。
　夏の日差しと、野太い車の排気音。
　目の前には、純粋さを形にしたような女性。
「あらっ、戻って来れたの？　やるじゃない、姫川さん」
　人なつっこい笑みで、沙月は言った。
「私──」
　琴音は言葉を失った。
　なぜ昔のことを思いだしたのだろうか──いや、違う。思いだしたのではない。たしかに自分は体験していた。不安で押しつぶされそうな毎日を。
　その不安を取り除いてくれたのが、藤田浩之だ。忌まわしい記憶は彼との出会いで変わっていった。
　希望の色に──。
「ま、この程度の攻撃でやられちゃうほどヤワじゃないってことよね」
　そう言い残し、沙月は愛車の元へと向かった。
「こうげき──？」
　たった今、味わった生々しいまでの過去の体験は、白魚沙月の精神攻撃だったのだ。
　精神的苦痛を与える攻撃なのか。
　個人の辛い過去を再び体験させる。──たしかに効果的な攻撃だ。
　だが、沙月は気付いていなかった。
　自分にとって、あれは辛い過去などではない。
　良き思い出なのだ。

「さ、イコ。琴音ちゃん」
　立ちすくむ琴音の手を志保が引いた。
　つい先程までの攻防戦に彼女はまったく気付いていないようだ。そのことには触れようともせず、琴音は志保に従った。
　車に乗り込むと、エアコンの冷気が向かえてくれる。
　遅れて乗り込んだ志保が吹き出し口の前に顔をかざした。
「あー涼しぃ。ここは天国ね。でも、バトル中はエアコン切っちゃうから」
「あ、はい」
　うなずく琴音。
　当人にとってはエアコンの効いた車内など、ほとんど意味はない。能力のバリアに護られているために、ただ漠然と外気温との差を感じるだけだ。
　そんな琴音の心情とは裏腹に、ギャラリーたちが緊張していた。
　走り屋にとって、峠のバトルはこの上なくエキサイティングなイベントであるのだ。
　気温が三度──いやそれ以上も上がったような錯覚さえ覚える。
　真昼のバトルという、特異なシチュエーションも体感温度の上昇に一役買う。


KS99-45
VR44C

沙月専用ワインディングアルゴリズム（低速トルク重視）
ホイールベースセッティング・ショート
MAX 460PS


E-PP1
E07A spec SHIHOchan

ハイカム
ボルトオンスーパーチャージャー
レーシングＥＸマニ＆マフラー
前後１６インチ化
MAX 99PS

６・啓示 (2/2)

　高まる緊張の中、やがて、前方に一人の男が立った。
　男はおもむろに手のひらを掲げ、
「カウント行くぞーーーっ!!　５、　４」
　順に指を折り始めた。
「琴音ちゃん、ちょっと怖いかもしんないけど、これはスポーツだから。安心してて」
　助手席の琴音へ志保は声をかけた。軽くアクセルをあおる。
　エンジンが吠え、タコメータの針が跳ね上がった。
　さらに志保がペダルを踏み込むと、針は赤い目盛りの手前で震え出す。
　琴音は息を呑んだ。
　ビーーーッ！
　排気音よりも、耳障りなノイズが背中からビリビリと吹き付けてくる。
　ギアとギアが激しくぶつかり合うような、そんな光景を思い描いた。
「３！」
　沙月の右足に合わせ、ダイナミックに、かつ、俊敏に上下するその針は、志保の操るそれとは対照的であった。
　ツオンッ！　ツオンッ！
　タコメータの針と同じリズムで、背後に搭載まれたＶ16が咆哮する。
「２！」
　鉄の獣たちのうなり声と、緊張と興奮で発熱するかのギャラリーたち。
「１！」
　琴音は眼を閉じ、身をこわばらせて来るべき瞬間に備える。
「ゼロォォォォッ!!」
　キュルキュルキュルキュルキュルッ……!!
　断続的な摩擦音を響かせ、二台の獣たちが地を蹴った。
　頭一つ抜け出したのはＮＲレッドのオープンカー──志保の��ビート�≠ｾ。
　沙月のヴァルキュリアは極太のリアタイヤから白煙を立ち上らせつつ加速する。
　しかし、迫力だけでビートのダッシュに及ばないのが明白だ。

「おいおい、キョーレツなホイルスピンだっての」
　居合わせた一人がつぶやいた。
「アクセル踏みすぎぃ」
「もしかして、下手くそ……？」
　排気音をかき消すようなメカノイズに包まれた車内で、志保は二速にギアを送る。
「なんなの？　あのコ、先に行けっての？」
　ちらりとミラーに眼をやり、完全に抜け出したところで志保は路面の中央を陣取るコースを取った。
　──そうよね。初めて走る峠だもん、最後に抜いちゃうって寸法ね。
　相手のクレバーな戦術に、心の内でほくそ笑む志保。
「せいぜいチギられないように付いてきなさいよ！」
　そう言って三速に送り込んだときには、二台の間隔は三〇メートルを超えていた。
「長岡さん!?」
　一方で状況がつかめない琴音。
「あのコ、あたしを先に行かせたのよ」
「えっ……!?」
　ギャラリーたちから充分距離を取った場所で、バトル開始を見守る二人の男の姿があった。
　自他共に認める、群馬最速の走り屋、高崎兄弟である。
「兄貴ぃ、なんだよ、ヨンゴーのスタート」
　弟恭介の戸惑いに、兄の恭一は澄まし顔で、
「KS99-45のドライバーは後追いのポジションを選んだんだ。後ろからなら、相手の技量も車の性能も手に取るように判かる。　バトルじゃ有利なポジションだぜ」
　つぶやくように言う。
「後追いって、普通にアクセル抜きゃいいだろ」
「そうだな……。ホイルスピンさせれば、タイヤの消耗を早める結果になる」
「だろ？　やっぱハッタリだけの──うおっ！」
　きつめの右。
　最初のコーナーが迫り、志保は力任せにブレーキを踏み込んだ。
　前のめりになったところでステアリングを切り込む。
　シートベルトが食い込み、琴音は悲鳴を上げそうになったが、斜め後ろ──あり得ない方向からやってきたＧに結局、悲鳴を上げた。
　三速全開のまま車体が横を向こうとする。
　琴音が知りうる自動車の挙動ではなかった。
　カーブ入り口で車の向きを一気に出口へ向けるテクニックだ。向きを変えてしまえば後は加速するだけいい。アクセルを緩めてハンドルで悠長に向きを変える、当たり前の走り方ではない。
　それを��ドリフト�≠ﾆ呼ぶことに、琴音は気付くはずもない。

　志保の１コーナーへの飛び込みにギャラリーが歓声を上げた。
「やっぱうめーや」
「JOE山の初っ端をドリフトで回れるヤツは上級者だからなぁ」
「スピードの乗せ方が違うんだよな」
「ヨンゴーのほうは──ああっ！」
　１コーナー手前、志保がブレーキを踏む前に沙月のヴァルキュリアは三〇メートルのビハインドを帳消しにしていた。
　峠向けにデチューンされているとはいえ、５リッターＶ16のパワーは１・３トンの車体をいとも容易く異次元の速度域へ導く。その加速力は、規格外の改造が施されている志保の愛車とはいえ、軽自動車ごときが及ぶものではなかった。
　あわや追突かと思われた矢先、濃緑の女戦士の鼻先が沈み込み、あらぬ方向を向いた。
　キュアアアアアアアアッ
　左──コーナーと逆方向──を向いたのだ。急激な方向転換に耐えきれず、リアタイヤの悲鳴と共にテールが半円を描く。
　車体がほとんど真横を向いた。前を行く志保のビートも同じく横向きだが、方向が逆だ。
　と思うが早いか、今度は首を逆に振った。
　キュキュキュキュキュ
　リアタイヤが空転し、悲鳴と白煙を上げ続ける。
　激しく転舵したノーズに反抗するがごとく、テールがそれまでと逆の弧を描く。
　都合二度にわたる、横向き状態のアプローチであった。
　出し抜けのパフォーマンスに、ギャラリーは驚きの声をあげる。
「ぎょえええっ、すげーフェイント」
「きもちわりぃほどケツ振ってる」
「初っ端でドリフト二回もやりやがったぞ！」
　右へ左へ交互に景色が流れるコックピットで、沙月は微笑んだ。
「ふふふっ、さすがSHIHOCHAN。相手にとって不足はないわ」

　ドリフトを決めると上級者と呼ばれるJOE山の１コーナーで、二連ドリフトを決めた彼女のテクニックは並みではない。とても微笑んでなどいられる状況ではないはずだ。
　ドリフト状態の車は加速できない。基本的に減速するだけである。
　短い直線で車速を乗せ、コーナーを待たず直線でのドリフト。さらに、速度が落ちているにもかかわらずコーナーへ反転ドリフトで進入するのだ。
　ヴァルキュリアだからこそのハイパワーハイトルクで車の向きを変えるのだが、当たり前の状況ならばリバースさせた時点で失速しコントロールを失い、コーナー半ばでスピンしてしまう。それを防ぐには慣性力を殺さない、よどみなく流れるようなハンドル捌きを必要とする。
　沙月にはそれが可能なのだ。
「兄貴──」
　恭介の声に、うなずく恭一。
「加重移動の技術はジムカーナレーサー並みか……」
　ジムカーナは低い速度域での方向転換を必要とするスポーツである。四つのタイヤそれぞれへ思い通りに車重をかけ、踏ん張らせ、滑らせるコントロールを要求する。
　沙月の力量はレーサーのそれに匹敵するのか。
　第二コーナーは傾斜した左。
　琴音は身をこわばらせるだけだった。左手はドアハンドルを、右手はシートの縁をつかんで離さない。
　──曲がれないっ！　ぶつかるっ！
　あかりや理菜たちと原付の免許を取りにいった。公道を自分の運転で走ったこともある。車と原付では感覚が違うことは知っている。車の限界など知るはずもない。だが、そんな彼女にも、この速度では遠心力に勝てないと判かった。
　常軌を逸した速度でカーブが迫る。恐怖で眼を背けることができない。眼を離すことでさらなる恐怖が襲ってくることを本能が察していた。
　自動車がこんなに恐ろしいものだとは。
　身体がガクンと前にのめり、今度は車体が回転する。車が後ろから曲がるのだ。その異常な挙動が、琴音にとって恐怖の対象であった。
　となりで志保は自分のドライビングに対し、「よし」だとか「うーん」だとかいちいち口を挟んでいた。それがまるでゲームに夢中の時の志保そのままで、余裕を感じさせる。

「あのコ、あのでっかいバルキリーを峠道でよく振り回せるわねぇ」
　ミラーからヴァルキュリアの巨体が自分と同様、ドリフトアングルで立ち上がってくる様子が見て取れた。
　五〇〇キロは重い車体で同じコーナーを同じように抜ける意味は、自分よりもコーナー進入速度が勝っている事実をいう。
　ヴァルキュリアのパワーはカタログ値でこの車の八倍弱。もともとが超高回転仕様のエンジンだけに、狭い日本の峠道では不利だ。それでいてあの１コーナーの軽快なドリフトは恐らく峠仕様のチューニング──高速を犠牲にした中低速トルクの増強──の賜物であろう。
「ちょいと甘く見たわ……」

　高崎兄弟の位置からは２コーナーが木々の切れ目に見下ろせる位置だ。
「兄貴、あの二人、ミドシップのくせにそろってドリフト使いかよ」
　恭介が訊く。
「そうだな。もともと高いミドシップの限界をあえて超え、さらに高い領域でのコントロールを得意としているようだな……」
　車体の中央にエンジンを配置したミドシップレイアウトはレーシングカーとしての一つの理想型である。重いエンジンが中心に近ければそれだけ車体が安定することは想像に難しくないだろう。
　事実、ミドシップカーはコーナーではクセのないニュートラルな挙動が続き、ハイペースでの走行が可能だ。
「それは結構だけどよぉ、あえて難しいミドシップでやることねーだろ」
「フッ……恭介、それは誤解だ。ミドシップは他のどんな駆動方式の車よりも速く走れるんだ。限界領域での気むずかしさは欠点とは言わないぜ……」
　スピードを上げていっても、ミドシップは高い領域まで安定している。他のレイアウトでは限界に近付くにつれ、オーバーステアやアンダーステアといったクセが顔を出す。
　クセを押さえながらの走りになるのだが、そういった走りは押さえるクセのために幾分かの速さを失っている。
　一方でミドシップは限界点までクセのないニュートラルステアが続く。ドライバーはマシンを速く走らせることに専念できるのだ。ミドシップが速く走れるという恭一の論拠はここにある。
　だがその代償として、ミドシップの限界の訪れは唐突だ。急激なコントロール不能に陥り、スピンアウトする。ミドシップが難しいという恭介の論拠はここだろう。
　ＦＦやＦＲの車が一般にイージーだといわれるのは、限界に近付くにつれ大きくなるクセが指標となってくれるためだ。
「そりゃわかるけど……、峠じゃどんな車も（ＦＦはともかく）ペースを上げりゃあドリフトになるんだぜ？」
　弟の言葉に、恭一は薄く笑った。
「難しく考えるな、恭介。難しいことがミドシップの欠点じゃない。いわば、速さの代償だ……。　あの二人には代償として支払うテクニックがある。それだけだ」

　背後からエンジンの高周波が突き刺すような車内。琴音はいくらか余裕を持ってこの状況を受け止めることができるようになっていた。
　一見無謀なスピードでカーブに飛び込んでいるようだが、それは単なる思い過ごしでしかない。志保の運転は的確だ。充分に速度を落としている。
　カーブの手前でタイヤを滑らせ、向きを変えることでひと息に旋回させているのだ。車を操るための操作がすべて驚くほどの速さで行われている。自動車を一秒でも早く目的地へ向かわせるテクニックを、琴音は理解し始めていた。
「琴音ちゃん……？」
　志保が呼んだ。
「はい？」
「少しは慣れた？」
「は、はい……」
「じゃあさ、後ろのお嬢様の様子をなるべく詳しく教えてもらえる？」
「あ、はい、わかりました」
　琴音は首をひねり背後のビニール窓越しに眼を凝らした。
　ヴァルキュリアとの差は二〇メートルほどだろうか。
　不意に志保がブレーキング。前のめりになる身体をシートの縁をつかむ両手と踏ん張る両足で支える。
　ギャオーンと一度エンジンが吠え、シフトダウン。
　タイヤが悲鳴を上げ、車が横に向く。
　ヴァルキュリアの姿が窓の外へ流れる。琴音は慌てて今度は横の窓に眼を移した。
　赤土の壁の向こう、辛うじてその姿がうかがえる。
「……あっ」
「なに？　どったの？」
「……あの……曲がり方はどの車も同じ、なんですよね？」
　再び背後のビニール窓に眼を移しながら、琴音。
「いろいろあるけど、あたしとスタイルは似てるんじゃない？」
　コーナーを立ち上がり、ルームミラーに眼をやる。ヴァルキュリアの立ち上がりラインから見て同じドリフトの筈だ。
　そして、近い。数メートルまで迫っていた。
　立ち上がりで詰められている。
「……早いと思いました……」
「なにが？」

　緩い右コーナー。訊きながら志保はガードレールぎりぎりにかすめ取る。
「車が横を向くタイミングが」
「あたしよりも？」
「はい……」
　その言葉で志保はある事実に気付くことができた。それが一番重要なポイントだったのだ。
「なるほどねっ」
　言いながらブレーキペダルを踏みつける。フロントタイヤに荷重が移り、軽くなったリアがステアリングに合わせて外側に流れた。
「……あ、今度は横に向きません」
「………」
　志保は応えない。
　スロットル全開──小刻みなステアリングワークで車の向きをコントロール。
　コーナーを立ち上がる頃には再び両者の差に二〇メートルの開きができていた。
「離れました……」
「だいたい判かってきたわ……」

　Ｃ＝11。
　赤いビートが鮮やかなドリフトアングルで飛び込むや、待ち伏せたギャラリーが沸いた。
「すげえええええええぇ!!」
「軽自動車のくせにドリフトだあっ！」
　駆け抜けたビートを見送るヒマもなく、ギャラリーは後続のヴァルキュリアに眼を移さねばならない。
「次はバルキ──げえっ!?」
　コーナーはるか手前でヴァルキュリアはテールスライドを起こした。
　ほとんど横向きの状態でコーナーに到達する。
「ちょ、直ドリぃ!?」
　キュアアアアアアアアアアアアアアアアッ
　道幅一杯に横向きの巨体が滑っていく。
「はえええええええええええええっ！」
　明らかにビートとはコーナーアプローチのスピードが違う。その証拠に２テンポは早めに飛び込んだビートに出口で追い付いている。
「なんなんだ、ありゃ……」
　濃緑の風が通り過ぎたあと、アスファルトの上をタイヤの削りカスがさらさらと流れていた。
　ビートは違い乾いたエキゾーストが響き渡るコックピットで、白魚沙月ははしゃいでいた。
「あはははっ、志保ちゃん最高！」
　長岡志保のドライビングは彼女の賞賛どおりのものだった。チューン済みとはいえ、非力なＫカーでしかも助手席に生きた重しを乗せてのドリフト。驚愕にも値するテクニックだ。沙月の賛辞は掛け値なしに真実だった。

　一方、スタート地点の駐車スペースで高崎兄弟がたたずんでいる。彼等の位置からはコースの一部がわずかだがいながらにして見通せた。
「なあ兄貴、どうしてビートは二人乗ってるんだ？　人一人分のウエイトはＫにゃ辛いんだぜ？」
「そうだな……。　一般常識からいえば、ここ一発の勝負に車を重くすることは利口なドライバーのすることじゃない」
「だろ」
「だがな、ダウンヒルに限ってはそうならない場合もあるのさ」
「ならないって……そりゃあ、下りなら多少のウエイトも護魔化せるだろうけど──」
「恭介、ビートはライトウエイトのミドシップスポーツだ。車にとって軽いことは何においてもも必要な条件だろう……。軽いことで車を速く前に進めることができる。コーナーでの限界も上がる」
「それなのに、あの女は隣に一人乗せて走り出しちまった……」
「彼女のスタイルはハイスピード・ドリフトスタイルだ。言うまでもないが、ドリフトというのは車が前に進んでる状態じゃない」
「そりゃ……そうだな……」
「車が横向きに走るには慣性力──つまり、勢いが必要だ。軽いものは勢いをつけるのが簡単だが、与えた勢いは軽さゆえに持続しない」
　そこまで聞いて恭介はハッと兄を見やった。
「まさか、重くしたのは──」
「そうだ。ハイスピード・ドリフトのスタイルを強めるためにあえて重くしたんだ。そしてKS99-45のドライバーも同じスタイル、あの大きく重い車体が活かされるドライビングスタイルなんだぜ？」
「重さを活かす、同じスタイル同士のバトルか……。腕の差か、車の差、どちらかで決まる」

「琴音ちゃん、あたし、やばいかも……」
「えっ!?」
　ヴァルキュリアの動きをうかがっていた琴音が思わず振り返る。
「あのコ、本物よ」
　そう言った志保の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。エアコンを切った汗とは明らかに別種の汗。
「あたしからわざと離れて走ってるでしょ？　あれはあたしの突っ込みを参考にコーナーを抜けるための作戦なのよ。　あたしに追いついたままコーナーに入るとドリフトしないのは、近すぎて対応できないからよ」
　背後から前走車のアクションを観察すればコーナーのＲを読むことができる。ドリフトかグリップか、それがわかるだけでも上級者ならば未知のコーナーへの攻略も組み立てることができるだろう。
　つい数分前から公道レースを初体験している琴音にも、それがいかに困難かつ高等な技術あるか、二台の走りを眼にしているだけに理解するのは簡単だった。
「……それは初めて走る道に対する工夫なんですよね？」
「そうよ」
「でも、上手に走れたところで、この競争は先にゴールした方が勝ちなんですよ？」
　たしかにこれはレースなのだ。初めて走るコースを、前を行くベテランに付いて上手く走り抜けたとしても自慢にしかならない。琴音の指摘は的を射たものだ。
　過程でいくら頑張っても意味はない。最終的にゴールラインを先行して突破した者が勝つのだ。先頭に立っている志保が現状では俄然有利。
「そうね。先にゴールした方が勝ちね」
「あの人は長岡さんの道案内がなければ走れないわけですから、このまま先行すれば──」
「いいえ。あのコは土壇場で抜くわよ、あたしを」
「え……!?」
　ゴールの手前で抜けばいい。それまでは二位でいいのだ。志保が問題にしているのはその点だったのだ。
　琴音はそのとき初めて、背筋に冷たいものが流れるのを感じた。
　これはただの競争ではない。この身を賭けた真剣勝負だ。志保が敗れれば、沙月の手に自分は渡ってしまう。

　沙月は強力な能力者だ。清楚でいて明るい性格の女性ではあるが、そのじつ殺人すら辞さない組織のエージェントだ。
　逃げることはできないのか。
　運転で志保を負かすような相手からどうやって逃げおおすことができるのだ。
　抵抗すれば、間違いなく実力行使──戦闘になるだろう。
　高エネルギーの戦闘は非常に危険なのです　強い能力者同士は、なるべく戦闘を避けるようにします　山岸の言葉が蘇る。
　米島を退けたことで自分はいい気になっている。現に、沙月と同等といわれる安岐刹那の攻撃を防ぐことすらできなかったではないか。そんな自分が闘って勝てるはずがない。
　先程よりも更に強力な精神攻撃を仕掛けてくるのだろう。最初の攻撃はたまたま、いい思い出を見せられた。否、浩之ができてきたおかげで救われたといったほうがいい。
浩之と知り合うもっと前、中学の頃のあの辛い時期を延々と見せられたら自分は耐えることができるのか。助けてくれる人もない、あのひとりぼっちの辛い思い出をもう一度見せられて、平静を保っていられる保証があるのか。
　もしも、辛い現実として再体験する過去に屈したとき、自分はどうなるのか。
　強力な攻撃を受けることは、死だ。精神攻撃をまともにくらえば、精神的な死が待っているだろう。
　病院のベッドの上で、焦点の定まらぬ目つきで日々を過ごす自身の姿イメージできた。それは肉体的な死と同義だ。
　残された家族はどう思うのか。
　それよりもみどりの身はどうなる。兄を助けることもできず組織の手に落ちるのか。
　そして、浩之はどうする。

「──抜けたらの話よ」
　不意に志保が言った。
「え……？」
「JOE山の追い抜き地点は後半ひとつしかないわ。そこを死守すればあたしの勝ち」
「……本当ですか？」
「モチよ。　ここはあたしの地元なのよ？　来訪者がバルキリーだろうがＦ１だろうが持ち込んだところで勝てっこないわ。なんてたって、あたしがドライブしてるんだから」
　琴音に向けて親指を立てた志保。ウインクのおまけ付きだ。
　──私が尊敬する長岡さんの顔。
　そうだ。こんなのときの志保は気休めなんか言いはしない。この人の土俵なのだ。気休めでも、まして強がりでもない。明確な理論に裏打ちされた言葉なのだ。
　不思議な安心感に包まれながら、つい一瞬前まで負けたときのことを考えていた自分が恥ずかしくなった。
「期待してます」
「任せて！」

　中間地点、Ｃ＝20に陣取ったギャラリーたちに緊張が走る。
　先程から聞こえ始めてきたスキール音が徐々に大きくなってきた。もうすぐJOE山下り最速の走りが拝める、その興奮が呼び起こす緊張であった。
　しかもその相手があのクルス・ヴァルキュリアだ。
　ミドシップスポーツの対極をなす二台のバトルともなれば、素人でも予測は簡単につく。どう頑張っても一〇〇馬力そこそこの軽自動車が七八〇馬力──沙月の愛車は四六〇馬力の峠仕様──の怪物に勝てるはずがない。
　だがこの緊張と興奮はどうだ。
　軽自動車とはいえ地元最速の名を冠する怪物と、世界のスポーツカーに君臨する怪物だ。この組み合わせの予測は容易ではない。
　だからギャラリーたちは緊張と興奮を同時に味わうのだ。

「おい、恭一さんに連絡だ」
　ギャラリーの一人が二つ折りの携帯電話を取り出した。
　高崎恭一は電話機の振動を感じ、ポケットに手を入れた。
　取り出した携帯電話のアンテナを伸ばし、通話ボタンを押す。耳に当てて、
「はい──ああ、わかった。二台の様子をなるたけ詳しく報告してくれ」
　恭一の指示を受けて男が実況する。
「ヘアピンにビートが入ってきます──うわ、すげー突っ込み！　クリッピングまでテールスライドで入り込んでます。Ｋには見えないブレーキングドリフトです──」
　無表情に男からの実況を受け取る恭一。恭介が興味深げにその表情をのぞき込んでいる。
　小さくうなずき、
「KS99-45はどうだ、どのくらい遅れてる？」
　ビートの走りは予想通りといったところだろうか。次の興味はヴァルキュリアだ。
『すぐ来てます──げっ、横向いて──！　──う、うわああああああああああああああああああっ!!」』
　スピーカーから悲鳴が上がる。横の恭介が思わず受話部に耳を寄せてしまう。
「どうした、何があった？」
　男たちの目の前でヴァルキュリアはコーナーはるか手前から横向きとなり、あわやコントロール不能かと思わせる状態でアプローチ、そのままビートと同じラインをトレースしたのだ。
「直ドリで入ってきて流しっぱなしです！　ほとんどブレーキ踏んでないからターンインまでが速すぎ！」
「ドリフトで減速させてんだよ、ありゃ」
「立ち上がりでビート煽ってるよぉ」
『ヨンゴーはブレーキではなくストレート部分からのドリフトで減速させていたんだな？』
「はい」
「兄貴ぃ、なにがあったんだよ？」
　側で見ているだけの恭介は興味津々だ。

「ヴァルキュリア──ヨンゴーはＣ20ヘアピンを直ドリからアプローチして見せたそうだ」
「なんだそりゃ？」
「普通、どんなドライバーもブレーキを踏んで減速を終了させ、それからコーナーに入る。そのセオリーを無視してコーナー手前の直線部分からドリフトに入り、車を横に走らせながらスピードを殺してコーナーに飛び込んできた」
「直ドリって……ただのパフォーマンスだろ？　実戦で使う意味あんのかよ？」
　ドリフト中はタイヤが空転し、車は慣性力だけで進んでいる状態だ。これをコーナーはるか手前で行うことは、常識では一種のパフォーマンスとしか言いようがない。
「たしかにそのとおりだ。だがな、考えてみると思ったより無駄が少ないことに気付く──」
「無駄が少ない……？」
「そうだ」
　恭介の言葉にうなずき、
「普通、ドリフトで抜けるコーナーを処理する場合、ブレーキングポイントからブレーキングを開始する──これは言うまでもない。
　必要ならばその間にシフトダウンする。
　それからステアリングを切り、テールを流す。
　あとはステアリングとアクセルでテールスライドの量をコントロールしつつ、クリップを通過、ドリフトを終了させて加速しつつコーナーを立ち上がる──」
「ああ」
「対して直ドリからのアプローチの手順は、通常のブレーキングポイントのかなり手前でブレーキを踏んでフロントに荷重を移し、ドリフトに入る。
　長い距離のドリフトだ。ステアリングは大舵角でのカウンター。アクセルはほとんど全開の状態となる。　四輪ドリフトのまま徐々に減速されてクリッピングポイントに到達し、ドリフトが終了する。
必要ならばドリフトを止めるためにシフトダウンもするだろう。　そして立ち上がり加速を開始──が直ドリスタイルのプロセスだ」
「……どこに無駄がなかったんだ？」
　お互いの手順が判かっただけで、恭介には兄の指摘する無駄の部分が判らない。
「ブレーキを踏んでいる時間の長さとペダルの踏み替えの回数だ」
「踏んでる長さと踏み替えの回数……？」
　恭介は身振りでドライブを始めた。
「ブレーキングで右足を一回踏み替えてぇ……ヒールトゥでシフトダウンして右足をアクセルに戻す──」
「それが普通のドリフトだな」

「直ドリは──最初に右足を踏み替えてブレーキを──」
「違うぜ、恭介。ドリフトのきっかけを作るだけだ。ここではまだシフトチェンジしない」
「ああ。だから右足でブレーキを──」
「恭介、お前の左足はいま何をしている？」
「左足？　左足って……まさか!?」
　弟の驚きに、恭一は微笑み、
「そうさ。左足でドリフトのきっかけを作るんだ」
　通常、運転で左足を使うのはクラッチペダルを踏む場合だけである。ブレーキペダルとアクセルペダルは右足の担当だ。だがレースの世界では右足をアクセルから離さずに、左足でブレーキを踏むことがある。
「��左足ブレーキ�≠ﾁて、そりゃＦＦや４ＷＤがアンダー消すときに使うテクだろ？」
「そうだな。だがもう一つの左足ブレーキがここにあったということだ」
「じゃあ、ドリフトのきっかけに踏み替えないとすると──」
　身振りでドライブを続ける恭介。両手でカウンターをコントロールしつつ右足でアクセルを調節する。そのままコーナーを立ち上がり、
「兄貴っ、踏み替えなんていらねえぞ？」
「そうだ。減速はドリフトでまかなってしまう。つまり、直ドリは右足でブレーキを踏まない」
「踏み替えなしってのは変わってるけど、それのどこが速いんだ？」
「フッ、恭介。お前はペダルの踏み替えを何秒でできる？」
「何秒って……知らねえけど、一秒もかかんねえだろ？」
「仮に片道〇・五秒としよう。往復で一秒だ。　考えてみれば、一秒もアクセルを踏んでいない時間がある──」
　その事実に恭介はちょっとだけ驚いて、
「あ……そういや、そうか……」

「まだあるぞ。ブレーキング中も踏んでいない」
「……たしかに」
「直ドリの方はどうだ？　アクセルは踏みっぱなしだ。強いていえばシフト操作が必要なとき、クラッチを踏んだ瞬間だけ後輪に駆動力が伝わっていない時間がある。それだけだ」
「なるほど、アクセル踏んでる時間が長いってことは、その分速いってことか」
「そうだ。直ドリと通常のドリフトを比べた場合、先にドリフトが始まる分だけ遅れをとっているように見えるが、後半で通常ドリフトがブレーキとペダルの踏み替えで空走している間に差を詰めてくる。そしてときには、その差は逆転さえするだろう」
「すげぇテクじゃねえか、兄貴」
　新しい発見だとばかりに恭介は満悦の表情だ。
「そうだな。意外な盲点だった」
「けど一旦ドリフトに入ったらごまかしは利かねーだろ？　しかも終わり際にシフトチェンジなんて、オレにできんのかよぉ？」
　新しいテクニックを発見し、恭介はすぐにでも自分の走りに加えようとイメージドライビングを始めていた。
　そのかたわらでしかし、兄の表情は複雑であった。
　恭介のその表情の意味を知るのは、もうしばらく後のことだろう。

　悲鳴を上げて二〇インチの大径リアタイヤが横に流れた。
　同時にコックピットで沙月は大きく修正舵をあててしのぐ。
「こんなに激しいドライブは久しぶりっ。志保ちゃん大好きよ！」
　本来はタイヤの転がる方向へと進む車を、斜めにあるいは横向きに運動させることは並み大抵のことではない。タイヤは路面との摩擦力を使いきり、滑り出している。そうしている間にだけ車は有り得ない方向へ、彼女の思いどおりのラインを描くのだ。
　路面の状況は常に変化している。タイヤのとの摩擦力も一定ではない。目まぐるしく移り変わるタイヤのグリップを、車の姿勢を判断し、ステアリングとアクセルでコントロールさせ得るのは沙月の経験と勘だけであった。
そしてそのテクニックに応えるポテンシャルを持った愛車があった。
　教習所で初めて自動車を運転したときから、その単純な操作系から得られる車の複雑な挙動に魅せられていた。どうせなら運転をとことん極めたいとまで考えるのにそう時間はかからなかった。
免許をとってすぐに古いＦＲ車を手に入れ、関東近沿の峠道へ夜な夜な通いだすようになる。
　沙月にとっての峠道は興奮の連続だった。詰め寄せるギャラリー、ビギナーからテクニシャンまで揃った走り屋たち。それらが奇妙な連帯感を見せて夜の峠を支配していた。まるでサーキットのレースウィークの盛り上がりだ。
　そんな空間をみんなと共有し、大好きな車の運転を楽しむことができる。沙月がのめり込むにつれてそのテクニックに驚くべき速さで磨きがかかってゆく。愛車のポテンシャルは限界まで引き出され、もはや彼女のテクを許容できなくなってしまう。
すでに、その頃には下り最速の名で呼ばれていた。
　そんな彼女には次の目標があった。
　上りで勝てない相手に勝つこと。それが目標だった。
　大排気量車、４ＷＤターボ──これらの存在は愛車の限界を超える相手だ。今のままでは勝てるはずがない。

　そんな折、来栖川自動車工業から二代目ヴァルキュリアの発表があった。
　初代のラグジュアリー路線を脱却し、絶対的な運動性能を手に入れたヴァルキュリア。ライバルたちを蹴散らすことができるのはこの車だ。沙月はすぐに手に入れた。
　だが、ヴァルキュリアでライバルたちに挑むことはなかった。
　ヴァルキュリアはサーキットでのみ、その真価を発揮する。
　多くの自動車評論家の意見である。日本の峠道を走るにはオーバースペック過ぎたのだ。
　あるとき、埼玉の某峠でアビスグリーンのヴァルキュリアが目撃される。曲芸紛いの直線ドリフトを多用し恐ろしいペースで峠を駆け降りる。そのドライバーは女性だとも。車とテクニックがあまりに常軌を逸していたがために、目撃者以外は誰も信じることがなかった。
故にウワサは広まらず、沙月の名が知れ渡ることもなかったのだ。
　──まだまだ世界は広いわ。軽自動車でこんなペースが作れるなんて……。
　久しく忘れていた興奮が蘇ってくる。
　これがバトルなのだ。
　車の性能比べではない。
「志保ちゃん、あたし一生あなたのファンよ。どこまでも付いていくわ、置いてかんどいてね！」
　興奮のあまり思わず故郷の方言が出てしまう。
　不敵な笑みを浮かべ赤いビートのテールを睨みつつ、沙月はアクセルを踏み込んだ。

中あとがき

　とりあえず６章までのプレーンテキストを用意しました。難解用語などに振られるルビがありません。通常の環境では表示できない外字もそのままになってます。
　そして、タイトルにファンクラブ版と記されているのには理由があります。
　第６章は志保と沙月のダウンヒルバトルが主になっていますが、この部分は某人気漫画の頭○字Ｄのパロディになっています。自動車の専門用語を、文章テンポを落とさないぎりぎりの範囲で丁寧に解説もしています。
私個人としてはファンサービスのつもりだったのですが、見事に空回りに終わっています。
　アクアプラスホームページ上で公開される予定のテキストはＦＣ版とは異なり、パロディ無しの本来のテキストが公開されます。ダウンヒルバトルの内容はほぼ同じですが、表現の方法はまったく違います。こちらはやや不親切な表現手法を用いております。
ですが、正式なバトルシーンはパロディ無しのほうになりますのであしからず。
　この先は舞台を函館に移します。琴音が能力者として覚醒した理由が明らかになります。新たな敵と味方も登場します。
　ご期待ください。

終わった〜。
軽い気持ちで始めたら、かなり時間かかったな…読み辛いし。＝□○＿


さて「こみパ」でもするかな。由宇シナリオ、あとちょっとだし。
今日中に終わるかな？

何が派閥だよ、馬鹿じゃねぇのか。
何が総帥だよ、何が団長だよ、糞かよお前らは。
派閥に入るとQで友軍を召還できる？
それは派閥が存在していなければ出来ないことなのか？
削除で悩んだことは。派閥が無ければ聞くことは出来ないのか？
削除に関するFAQを分散させる意味はどこにあんだよ？
派閥を作らなければ実践できないような難しいことを始めてんのかよ？
そんなにヒエラルキー遊びをしたいんだったら
自分でサイト立ち上げて、そこでチヤホヤされろよ。
２ちゃんねる内でチヤホヤされたいのなら、
幼稚園ごっこ板を作ってもらってそこに引きこもって出てくんなよ。
　
削除活動をスムースにしたいことと、
ヒエラルキーを作ることが、何故一致する？
　
ひろゆきが始めたことだから？
削除忍がやってることだから？
ボランティアでも、２ちゃんねるのフェローだったら、意見しろよ。
脳みそ使えよ。
考えてんのか？
勝手に決めて勝手に行動するのなら、おれは勝手に削除する。
　
こういう豚も食わない様な糞くだらねぇ馴れ合いが無ければ
削除人は活動できないのか？
こういう空気が、今の２ちゃんねるの流れなのか？
ならば、おれの考えている２ちゃんねるは、もう無いってことだ。
良かったな、おれを毛嫌いしてる大多数の君たち。
もう知ったことじゃない。
糞の海で溺れて死ね。
もうウンザリだ。
さよならだ。

┏━━━━━━━━━━━┓::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
┗┳┳━━┃超┃━━┳:::::::::::::ｵﾚﾆﾏｶｾﾛ::::::::::::::
　 ┃┃　 　 ┃先┃　 　 ┃┃::::::::::::∧＿∧::::::::::::::::::::
┏┻┻━━┃生┃━━━━　::::＜｀ш´　＞:::::::::::
┗┳┳━━━━━━━┳━┛::::::（　　　　）::::::::::::::::::
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　 ┃┃ 　　　また規制されました。なんとかしてください。
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　 ┃　　 　 　（； ´Д｀）
　　 　 　 　＿（　　　 つ ミ＿＿＿＿＿
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　　　　 　 　 　 |　 　 誰　 彼　 百　 円　 　 |

おね２ラジオでも聞くか・・・。

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┗┳┳━━┃超┃━━┳:::::::::::::ｿﾝﾅｺﾄｲﾜﾚﾃﾓ::::::::::::::
　 ┃┃　 　 ┃先┃　 　 ┃┃::::::::::::∧＿∧::::::::::::::::::::
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　 ┃┃　 　 　 　 　 　 　 ┃┃::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
　 ┃┃　 　 　 　 　 　 　 ┃┃
　 ┃┃ 　　　やっと解除されました。もう勘弁してください。
　 ┃┃　 　 　 　 　 　 　 ┃┃
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　 ┃　　 　 　（； ´Д｀）
　　 　 　 　＿（　　　 つ ミ＿＿＿＿＿
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　　　　 　 　 　 |　 　 誰　 彼　 百　 円　 　 |

光の射す方へ....光の射す方へ..光の射す方へ...光の射す方へ..光の射す方へ...光の射す方へ...　
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