ここは地獄の一丁目

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344Carpaccio
>>311-312

ラベルも何も貼られていない、一本の黒いビデオテープと手紙が包まれていた。
封筒を逆さにして振ってみたが、どうやら他のものは入っていないようだ。

とりあえずビデオを再生してみるか・・・手がかりは今のところそれしかない。
そう思った俺はテープをビデオデッキに放り込み、動き始めるまでの間、手紙を読み始めることにした。

『ひまわり荘、第十号室』

なんだ、そこそこ綺麗な字じゃないか、宛名書きを書いた人物とは違う人間が書いたのだろうか?
年配の老人を思い起こさせるその書体は、不気味さを通り越して、そこはかとなく品格さえ漂う。

・・・いかん、寝ぼけているのだろうか、書体など今はどうでもいいだろう。
え〜と、ひまわり荘とは、あの『ひまわり荘』か?

ひまわり荘とは、近所にある浅野川用水、そのすぐ脇にたたずむ二階建て木造のアパート。
その外観は真っ黒で、築何十年も経とうかというオンボロは今にも崩れ落ちそうだ。
入居者もいるのかどうか・・・大家の姿さえも見かけたことはない。
思い出といえば、昔にそばにあるグミの木に登って遊んだりしていたが、
今この時までその存在を忘れかけていた。

懐かしいな・・・
そんな甘い追憶にふけっているうち、テープはテレビのスピーカーを通して語り始めた。