中嶋日記 その1「悲しき仕官」
「おいしいとこもらいました><」
L型感染者の謙遜気味のコメントと共に、半世紀を超えた長い戦がようやく終わりを告げた。
蝦夷が陥落して、まだ一刻ほどであろうか、私の決心もすでについていた。
ここは誠意を見せて歩いて仕官したがマシだろう。
私はニュー速武将に軽く会釈した後、意を決してラウンジ陣中に赴いた。
新参不要也と書かれた門をくぐろうとすると、不意に腕をぐいと掴まれた。
目の前には、武力200オーバーは確実と思われる巨体の男が立っていた。
『おで門番。おまえ誰だ?』
男の横にいるアラブ馬をみると「馬主・ホッピー」と書いてあった。
『恐がらなくていい。おで力あるけど、計略Pない。名前言え。』
「中嶋・・・」
周りの空気が歪む。少なくとも歓迎されてはいないようだ。
『今頃どの面下げて仕官しやがった』『中嶋を解雇しろ』『海賊大将をつけろ』
55年という長い戦争、余計な場面で目立ってしまうラウンジの名を冠した中嶋ログが
確実に私とラウンジとの間に深い溝をつくってしまっていた。
だが、もし弁明の機会があるなら私はこう言うだろう。
「私は、すずめ、猫神の次にラウンジを愛している、チャンスが欲しい」と。
●【仕官】ラウンジの知識層・中嶋はラウンジ再生省国へ仕官しました。(24日0時26分)
中嶋日記 その2「たじま」
コマンドチェックを受けて、とりあえず「だな系」の仕官でないことを
確認されると、ようやくたじまが居る奥へと通された。
私は、たじまという男を、親方系の悪の枢軸武将か、あるいは、
軍事の織田のような脂くさく自己主張の強い男と思っていた。
だが実際はイメージとは違っていた。
良く言えば重厚、悪く言えば誰かの多重、そんな木彫り仏像のような男だった。
たじまは、重い口を開くと、ガイド音声のような声で様々な質問を浴びせてきた。
深夜の天鳳で会ったオダギリに興味をひかれてニュー速に仕官したこと、
ニュー速では馴染んでみようと努力したが話題についていけず孤独感を抱えていたこと、
50通近くの登用文を書き、ひとつも承諾してもらったことがないため登用は封印したこと
チベットにはさほど興味がないことなど、
私はたじまの質問にできる限り誠実に応えた。
『たじまの背中の電池を換えて、3番のボタンを押してください。』
私はたじまに言われるがままに電池を交換しボタンを押した。
『次はロッソストラーダ軍戦です、がんばりましょう!』
直後、たじまはシャットダウンして次の仕官者が呼ばれた。
決して認められたわけじゃない。
だが、これでようやく私もラウンジの仲間入りをしたことが嬉しかった。
1566年1月、鍛錬を訓練5に切り替えて、木彫り仏像に改めて忠誠を誓った。
●1月:兵の訓練を行いました。訓練度:150→150 兵糧:250 (24日6時6分)
398 :
猫神様 ◆NEKOv6/QUE :2009/02/28(土) 18:38:46 ID:M8/hFjPf
次スレあげておくお^^
中嶋日記 その3「高級兵」
統特は金だ、金がすべてだ。
武特は鍛錬で計略Pを稼ぎ、統特は高級兵で計略Pをひねり出す。
私にも自慢できることがひとつだけあった。
それは送金限度額が80万もあるということだ。
計略P的にも決して優秀じゃない私が、唯一、今後を楽しめるとすれば
この送金限度額と貢献値を活かした高級兵の数勝負。
どんなに相手が強くとも2000人オーバーの兵士相手なら無傷で抜けやしない。
嫌がらせこそゲームの愉しみ、楽しそうに話す猫神の顔を思い浮かべた。
だが現実は過酷だった。
ラウンジから送られてきた送金の明細書。
そこにはこう記されていた。
『金8万を譲与します。』
待って欲しい、わたしが雑賀衆を一度徴兵すると5万が飛ぶのだ。
80万ある枠をもっと考慮すべきではないか。
本間さんに、PC−Xのアドレスを送ろうと思ったが思い直す。
送金枠をあるだけ全部欲しいなんて、いつぞやの大物の発想だ。
軽く頭を冷やすため、近所の茶屋に入りいちばん安い飲み物を注文した。
『おまたせしました、あやしいお茶です』
某策士が私にこう囁く。
『統率で必死に遊ぶ時代なんて終わったんです、彼女を作って武特放置ですよ。』
童貞を卒業した凡将の表情は、確かにランカーときより輝いていた。
茶を飲み干すと同時に、仕官→継承で忠誠値が開戦までに100どころか
65にすら怪しいことに気づく。踏んだり蹴ったりの1566年8月を終えた。
●本間宗久から資金80000譲与されました。(24日8時28分)
中嶋日記 その4「海賊大将」
『おい中嶋、速報!速報!』
戸がガラリと開く。褌一丁の速報屋が玄関先で呼んでいる。
『やったな、おまえ海賊大将に決まったよ!』
「海賊大将?」
『ああ、おまえラウンジ板で嘆願してたろ』
この時点でだいたいの察しはついた。
誰かが私の名前を使って「海賊大将をくれ」と頼んだのだろう。
だが「それは偽者の仕業です」なんて無粋な言い方はしたくなかった。
「ありがとう、がんばります」
私がそう告げると、速報屋はわざと緩く結んでいた褌をはだけさせて
そのまま走り去った。止めても無駄だ、彼はこうすることで、不可抗力、
つまりアクシデント的に陰茎をむき出しにしているのだ。
『大将、なんかあったんですかい?』
奥の部屋から、ニュー速時代からの付き合いになる雑賀衆達が駆け寄ってきた。
「あーいやなんでもない、戦争前の守備入れ確認だとよ。」
『隠さないでいいですよ、はちまきに書いてありますよ、海賊大将って』
「・・・・」
重い空気をかき消すように古参の雑賀衆が言った。
『ニュー速時代にもらった祐筆よりいいじゃないですか!』
「あの時は、さすがにアルカパに勝手につけ替えたがな、ははは」
最高齢の雑賀衆・三郎がたまらず声を荒げる。
『しにます。中嶋さんに仕えられないなら、しにます。』
「船を雇うのは先の話・・だから、な・・」
あちこちですすり泣く声が聞こえる。
統率力215。武特には決して味わえない、この悲しみ、この一体感。
●1月:【上昇】:ラウンジの知識層・中嶋の統率力が1上がった!(24日22時6分)
中嶋日記 その5「開戦」
『たっぷりかわいがってあげる』
ドイツ製の下着を食い込ませながら花魁・ありんこが意味深な布告を返す。
夏真っ盛りの1570年7月、ついにロッソストラーダ軍との戦争がはじまった。
『暑いですね』という挨拶が、越後の合言葉になっていた。
確かに街は暑かった、厳密に言えば「熱」かった。
『何でこんなに燃えるんでしょう?』
「城壁見ました?8割近く燃えてましたよ」
『そんなに燃えるわけないでしょう、守備が紙だから城壁に届いたんでしょう?』
「本当ですって、守備は50枚近くあったのに城壁は3000でしたわ」
『そういえば、異邦人が来てから不審火が多くなったわね』
「Kevinさんのことかしら?』街の話題も、失火の噂でもちきりだった。
一方、私は依然として忠誠値が戻らずもやもやとした日々を過ごすことが多かった。
効率を考えるなら、開戦後もオール訓練がベストなのだが、人の目はそれを許さない。
ある程度は指令に従わないと送金に関わってくる、外様経験の多い武将なら常識だろう。
街を歩いていると、懐かしい武将に出会った。
「ふふんさんじゃないですか?」
『どちらさんで?』
「ニュー速でご一緒した中嶋です」
彼もまたエース級の才能を持ちながら、送金に恵まれず名前の売れてない武将の一人だった。
「ラウンジには本間さんやランカさんがいます、たくさん貰えるといいですね」
『一斉中に訓練ループしないように心がけます』
ふふんさんは苦笑しながら、怪物王女のDVDを小脇に抱え歩いていった。
『鉄なのになんで燃えるんだろ』
帰り道、鉄盾を再建設しながらそうつぶやく三角形さんの背中に、軽く頭を下げて帰途に着いた。
●【焼き討ち】ラウンジ再生省国の越後の街が燃えています!(25日0時6分)
中嶋日記 その6「一斉前夜」
練兵所の横にある軍の連絡板に人だかりがあった。
武将生活に慣れてくれば、時期的に何が告知されているのかはだいたいわかる。
ウエスト2mはあるかと思われるホッピーの巨体を押しのけながらのぞくと、
そこには真っ白な紙に、達筆な文字でこう記されていた。
『1575年10月−1月−4月 能登一斉』。
ホッピーが私に気づいて、ニコニコしながら話しかけてきた。
『なかじま、おで、さらに武力あがったど、今なら素手でも300人、ヘシ折れる!』
「でも今は武将アタック封印が多いでしょう、辛くないですか?」
『ぜんっぜん、平気!』
ホッピーはケタケタと笑うと、アラブ馬のほうを指差した。
『封印されると、馬、死ななくてすむ、おで、馬、だいすき!』
勝率30%、馬想いの勲章。
1575年を逆算したところ、私の忠誠も100に届くことがわかった。
ベストさえ尽くせれば、あとは運負けしたっていい。
そこから先はふぁらの乱数が駄目なんだし、実際、女にも振られている。
雑賀衆の泣き虫最高齢・三郎を呼びつける。
「三郎、いまさらだがロッソストラーダ軍のステータスの統計が知りたい」
『はいはい、平均武力が高いですね。武特対策が大事でしょうな』
「ということは・・・とりあえず先制・武将アタック封印でロッソ軍は」
『しにます』
ある日突然、私のはちまきから海賊大将の文字が消えたことで三郎も生き生きとしている。
外で、登用拒否数No.1の怒声が聞こえた。
『あーあ、燃えすぎて、やることひとつない!雪まで溶かすことないだろう、かけやしねぇ!」
相変わらず越後の街は何もかもが燃えていた。
●【焼き討ち】ラウンジ再生省国の越後の街の鉄盾が破壊されました!(25日21時1分)
中嶋日記 その7「戦犯(前編)」
軍の連絡板の右隅に、武将たちのちょっとしたコメントが載るPRコーナーがある。
ほとんどの人が書かないし、またほとんどの人が読まない。
だが、ほんの小さなそのコメントに武将たちの人柄・生き方を知ることもある。
ラウンジに仕官した当初、誰かがこんなことを書いていた。残念ながら今は変わってしまい、
そのコメントが誰だったのかを思い出せないが、内容はこんな感じだった。
『ランカーほどの活躍はなくても、この人がいなくなったら困る。
そんな上位よりちょっと下の武将としてラウンジに貢献したいです。』
私は、その言葉に何度も頷いた。
ランカーを狙えば無理が出る。だが、ある程度の無理をしなければ国に貢献できない。
そんなジレンマを自分なりに消化することで、自分と国の接点を探っていく。
私も憧れた。そんな武将に強く憧れていた。
だが、神様は時にドラマチックな罠を用意する。
一斉も終わり、膠着を予感させた1567年7月、突如、ロッソ軍の猛攻で蝦夷が落ちた。
カウンターできる雰囲気もあったが、唯一の蝦夷滞在者が戯言系のアル中・ありんこ、
さらに思った以上に相手の守備も重なり取り返せないでいたのだ。
そんな中、奪回のチャンスが巡ってきた。直前のコピペマンが3枚抜き、私次第では壁が間近に迫るのだ。
すぐさま私宛てに電報が届いた。『中嶋あたりがで蝦夷が落ちるミラクルに期待(倭猛)』
ドキリとした。そんなにうまくいくはずはない。
が、無能のアル中に代わって潜入したランカちゃんの守備報告で
『蝦夷の守備:うしお ピコ LILAC (3人)』ということが事前にわかったいた。
前2人は統特で3人目は運次第で切り抜けられる。勝算も賞賛も目の前に見えていた。
掴みたい、このチャンス、この栄光。高鳴り始める未来へのテーマソング。
http://www.youtube.com/watch?v=3K0-hex4jNc 私は自分の身の丈を忘れていた。
「ヒーロー」という名の地獄の門は大きな口を開けて私を待っていた。
中嶋日記 その8「戦犯(後編)」
私は、珍しく上機嫌で、三郎相手に計略の講釈を垂れていた。
もしかするとやれるかもしれないという自信が私を饒舌にさせていたのだ。
「三郎、今回は先制+敵兵種AT封印で善戦できるだろう。だが、もっと確実な方法があるな?」
『兵種カウンターですね』
「そうだ、確実に相手の可能性を潰そう、鉄壁まで入れてな」
『グヒヒヒ』まだ出兵までに3分ある。ゆっくり、慎重に、計略を組み上げて行く。
残り1分5秒、完成・・・あとは出兵の時間を待つだけだった。
『中嶋さん、中嶋さん、また電報です!』
「もうすぐ出兵だ、読み上げてくれ」
『全て中嶋に託した 副大将つけたから部隊引っ張って3枚抜きよろしく(倭猛)』
「はて、部隊???」そこから先は覚えていなかった。
気がつくと目の間には敵武将が倒れていた。
「・・・うしおじゃない、誰だ・・こいつ・・・」
『アイコンが燃えてます、紅焔です!』
『おい!後ろを見ろ!俺たちは蝦夷を攻めたのに越後を守っているぞ!』
歴戦の雑賀衆達もさすがに戸惑いを隠せなかった。
混乱を極めた私に一通の書状が届いた。
----- 中嶋に何が起きたか解説 ---------
国宛で依頼を受け慌ててバスに乗る
→隊長を乗っ取る直前に集合がかかる
→中嶋越後へ
→隊長になった中嶋、出兵が不発になり越後の守備
→見事敵の攻撃を撃退
-----------------------------------------
私は自分の部屋へ行き2時間眠った…そして…目をさましてからしばらくして
蝦夷が自分のせいで取り戻せなかったことを事を思い出し…泣いた。
中嶋日記 その9「本間宗久」
私は蝦夷攻めの失態の後、心身ともに衰弱し自宅で休養していた。
『中嶋さん、宅急便です』
誰からだろう?贈り物の中身が空っぽなら自害は覚悟しないといけないな。
そうつぶやきながら差出人欄を見ると「鬼天竺EX」と書かれてあった。
重さを確認してから箱を開けると、いくらや昆布、ぬはーじゃないほうの蟹やら
たくさんの海の幸が詰められていた。よく見ると生キャラメルも入っていた。
手紙が添えられていた。『蝦夷、取り戻しましたよ』
ちょうどその時、玄関の戸を叩く音がした。「コンコン」という
上品な叩き方からして、剥き出しやホッピーじゃないのは明らかだった。
玄関を開けて驚いた。血だらけの本間さんが立っていた。
『中嶋君、蝦夷は取り返せたみたいだよ』
「はい、さっき鬼天竺さんから手紙をいただいて」
『そりゃ良かった。ミスを気にしちゃ武官はやれん、気を取り直してラウンジに尽くしてくれ』
「ありがとうございます・・それより本間さん、その傷・・」
医者呼ぶから待っててくださいという私の制止も聞かずに、本間さんはそのまま
大通りのほうへ歩き始めた。その後ろを僅か20人くらいの大筒兵が歌いながら歩いていた。
うちらの大将は〜♪ 政治家だけどやるときゃやるぜ♪
ガルカンは〜漏らして逃げた〜♪ 粘った御牌は墓の中〜♪
心残りは観音図〜♪ 御牌が持ってた観音図〜♪
三郎を呼んで、急いで蝦夷の戦闘ログを確認させる。「本間さん・・」
私は感嘆して路地まで出ると、本間さんの背中に何度も何度も頭を下げた。
『むぅ。。』という呻き声とともに誰かが山の方へ向かって歩いているのが見えた。
あっちには何もない。たぶん涙で目がかすんだだけだろう。
●【下野】 うつぼん★★はラウンジ再生省から下野しました。
中嶋日記 その10「越後落城」
『ほぅー、ずいぶんな年季の入ったもんをお持ちですなぁ』
まだ一斉までには時間のある1581年4月、越後の商店の一角で、
私は武器屋のおやじと和やかに談笑していた。
ニュー速時代の恩師・改田さんの「武特以外は攻城兵器を」の教えを守り、
戦闘に出るたび、投石器を担いで50年。いざ城壁に直面したときに
発動するのかどうかが心配になったのでおやじに鑑定してもらっていた。
武器屋のおやじは私の投石器をいとおしそうに撫でながらこう言った。
『型式は古いがね、発動は問題ないよ、だがね・・・』
おやじは含みを持たせた言い方でこう続けた。
『これが発動するとかしないとかは全部ふぁら頼みなんだよ』
私はおやじのこういうはっきりした物言いが好きだった。おやじはさらに続けた。
『運は怖いよ、特に人数が増えてくるとね。雪崩のように城壁まで届くことがある』
私が「冗談でしょう」とばかりに笑いながら聞いていると、突然おやじの表情が変わった。
『出て行け!おまえとは取引する気はない、売りもしないし、買いもしない!』
突然のすずめ的な発作に私は仰天したが、おやじの形相を見てすべてを悟った。
「この目、この態度・・・敵地の武器屋!」
私は慌てて店から出た。ログは真っ青、空は真っ赤。越後はロッソ軍の手に落ちていた。
押されても頑張る国宛スクリプト・倭猛が叫ぶ。「陸奥に引いて、出羽に守備入れを!」
サライを歌いだそうとする者、脱力する者、鍛錬に切り替える者、
さまざまな人間模様を乗せたバスが、まだ肌寒い4月の陸奥へと向かう。
無言のバスの中、誰かが窓の外を見てぽつりとつぶやく。
「なんでこいつまでついて来るんだ・・・?」
潮だな(爆)も急いで陸奥へと移動した。
●【支配】[1581年04月]ロッソストラーダ軍の舞華は越後を支配しました。
中嶋日記 その11「困窮」
陸奥の空気にも、通夜の空気にも慣れはじめた1585年の1月、
ラウンジ奉行所から一枚のはがきが届いた。
『たじまが不在で給与の振込みができません、城内へお越しください』
私が急いで城に向かうと、城門の入り口で人だかりができていた。
『かわいそうに、戦勝の記念が珊瑚の数珠ですって』
「この時代に大包平はあまり聞かないわね」
『将軍職なのにこんなことって・・・』
ビッテンボロー提督が乞食に身をやつし、ござを敷いて座っていた。
横にある小さな茶碗にはわずかな小銭が放り込まれている。
第三の送金王・柾木剣士が札束を茶碗にねじ込もうとする。
が、小さな茶碗には入らない。ランカちゃんが柾木の肩を抱いて止める。
『無理よ、私も何度も試したの・・・枠が、枠が足りないの』
崩れ去る柾木の姿を見て、一部始終を見守っていた武将はみな嗚咽していた。
そんな時、傍らを朱色と青の豪華な塗装を施した馬車が駆け抜けていった。
『はいはい、どいて、どいてー、給料貰いに来たよ、貢献700オーバーだよ』
台湾カラーの憎い奴、Kevinだった。
にわかにあたりが殺気だつ。ひとりの新参がつぶやく。
『もう我慢の限界だ、俺がやる』誰もがそう、何度も、解雇を試みようとしたことがある。
だが、Kevinの無邪気な欲望とたどたどしい日本語は、その決心をいとも簡単に打ち砕く。
『ママー、Kevinね、ニッポンのゲームで貢献ナンバーワンになったんだよ!』
「そうーすごいわね、でもママと約束して、勉強も頑張るって」
海の向こうの明るい食卓まで解雇する権利なんて誰も欲しくない。
悪いのは仕様、貧乏仕様、あるいは腐。
そう思うことで誰かの幸福を守れるのなら恨みつらみも悪くない。
私たちはラウンジ。愛と正義と貧困の国ラウンジ。
中嶋日記 その12(最終話)「たじまへの想い」
「陸奥、ときどき蝦夷」、そんな冴えない領土になって早くも5年。
寡黙なラウンジでの意思の伝達は、ほとんどがボディランゲージで行われていた。
倭猛が手話で伝える。『1588年1月−4月−7月 出羽へ一斉攻撃 』
一斉にやられにいく月が決まった。
最後の一斉となるであろうその日、戦争に参加できるほぼすべての武将が一同に集まった。
ボロー提督の姿もあった。槍足軽1700人に先制/後方略奪、プライドを捨てた男は美しい。
それぞれの想いが出羽の郊外で散っていく。たかしが駆け、相場が舞い、提督は盗む。
ドラえもんとL型が最後の3連青文字をログに映し出す。だが、運命は誰にも変えられなかった。
1588年4月、ロッソ軍の攻撃がいっそう激しさを増してきた。・・・別れのときが近い。
『あの、みなさん・・たじまのことですが』普段は無口なファルスさんが突然口を開いた。
『・・庭に半焼した状態で埋まってました。たぶん焼き討ちの時に・・・』
「今さら、たじまなんて」そんな周りの空気を押しのけてファルスさんはこう続けた。
『みなさんに内緒で、ホッピーさんと私で、たじまさんの残骸を海に流しました。
たじまさん、木で出来てるでしょ? だから、北の海に流せば、いつか・・・
いつか、世界MAPになったときにまた建国してくれるかなって・・・』
『お、おでも、いつか、世界MAPで、アラブ馬の故郷、見る!』ホッピーもそう続けた。
一瞬、場が静まり返った後、皆が口々に叫んだ。
「ああやってくれる!たじまなら建国してくれる、多重だしそこまで手間じゃない!」
私はその光景を見届けると急いで三郎を呼んだ。亀ばカムほどに噛まれた傷がジンジン痛む。
「三郎、いよいよお別れになりそうだ。」
『しにます?』
「しにます」
キャルロの高笑いと春の陽気が陸奥を包み、新しい時代の風はたじまを遠い遠い場所へと運んでいった。
●【滅亡】[1588年04月]ラウンジ再生省は滅亡しました。(27日23時18分) 中嶋日記 -完-