せいじか日記 その4
「号外〜、号外〜!」
越前の町で「織田来たる」の文字が飛び交う。
まさにあっという間だった。開戦と同時に織田軍は甲斐になだれ込み、
織田の勢力圏を示すドス黒い色彩があっという間に越前・信濃を飲み込んだ。
まずい、私はかねてから依頼してあった職人町に飛び込んだ。
「おやじさん、頼んでおいた大筒の用意はできてるかい?」
『すまねぇ・・・』
おやじは申し訳なさそうに答えると、見てくれと言わんばかりに顎で大通りの方向を示した。
通りでは、そこらじゅうに兵持ちの武将たちが往路を行ったりきたりしながら
さかんに怒号を発していた。
「徴兵や徴兵や、金ならある。おまえらごっそり徴兵や!」
おやじさんは肩を落としながら問いかけた。
『おまえさん、政治家じゃろ・・・良かったら町の人に・・・』
「わかってる、それも私の役目だろう。」
私はその声をさえぎる様に、大量の米を蔵から引き出した。
街には安堵の声が広がった。
薄暗くなった帰り道、西の空に向かって大量の流星群が走った。
「大筒を雇えてたら、あれが私の弾道だったのかしれんな」
雇えぬ大筒へ想いを馳せながら、私の1603年12月は終わった。