「・・・べつに追い出してないじゃん、元気が勝手に出てくんだから」
邪魔だろうからねー、と言いながら元気が手を伸ばして俺の二の腕をつかむ。
そこにたいした意味も見つけられないままそのままにさせておくと、少しだけ腕をつかむ力が強くなる。
「・・・・・・ほっそ、」
「言うなよあんまり。気にしてんの」
「健斗さあ、腕枕とか、絶対してあげらんない腕だね」
その時の俺がどういう顔をしていたのかは分からないが、なんだか少しだけ視界がせまくなったので、
ぎゅっと目を細めたのだろうと思う。どうしてそんな顔をしたのかはやっぱり分からない。
ただ、あの腕を思い出した。
元気が触れる腕の温度が少し上がった気がしたから、ごまかそうと思って、たぶん俺は笑った。
「だからしてもらってんじゃん、腕枕は」
「へえ。・・・・だれに?」
またそれか、と苦笑しながらも、あの人の両腕の、手のひらの、記憶がよみがえれば、
あの人のそばにいる時のように、やけに正直な気持ちになる。
「かねちゃん」
今度ははっきりそう言うと、元気は目をまるくして驚いた後で、なぜか照れたように微笑んだ。