数日前から夜中に、と言っても10時ごろだが、台所で妹たちが何かしているのは知っていた。
なにやら音がするので行ってみると入り口に「立ち入り禁止」と張り紙がしてあったからだ。
また何か変な遊びでも始めたのかと思ったが、微かに廊下に漂う匂いで気が付いた。
チョコレートだ。
そういえばバレンタイン・デーが近いんだ。
普段コンビニなどでも用のある場所以外は注視しないので気付かなかった。
友人たちがなにやらそわそわしていたのもこの為か……と納得した。
それにしても、夜中にこっそり、とはかわいいものだ。
ばれないはずが無いのに。
しかし気付いていない振りをしてあげるのが大人の役割だろう。
俺は足音を忍ばせて部屋に戻った。
予想外だったのはその作業が今日、バレンタイン前夜まで続いたことだ。
チョコを溶かして固めるだけのことに何故そんなに時間がかかるのかと考えたが、
どうやら優美も参加しているためのようだ。
優美は去年までは母親に貰ったお金で買ってきたチョコレートをくれていたので、
今年が初参加で、段取りが悪いのだろう。
美香と明日菜がちゃんと妹の面倒を見ているのはうれしい事だ。
あの二人に手伝ってもらえば失敗することは無いだろう。
さて、みんなどんなものをくれるのかな。
翌日、バレンタインデー当日の夜だ。
夕飯も終わったしそろそろかなと思っていると、優美が僕の袖を引いた。
「あのね、あのね、おにいちゃん。優美たちね、お兄ちゃんにプレゼントがあるの」
「プレゼント?へえ、なにかなあ」
我ながら白々しい……。
「えへへ、ないしょっ」
優美が俺を引っ張って居間に連れて行く。
居間においてあるのかと思ったが、そこには何も無い。
「もってくるからまっててね」と優美は台所へ向かった。
そうか、冷蔵庫に入れてあるのか。
……ふむ?
なんだか待たされるな。
耳をそばだてると、妹たちの声が少しだけ聞こえた。
――なにしてるの
――え?とかしちゃうの?
――えっへっへー
今まだ作ってる最中なのか?よくわからない。
そのまま数分待つとようやく三人が居間に入ってきた。
優美は手作り感あふれるラッピングだ。ギンガムチェックの模様の入った
キラキラ輝くフィルムバッグでラッピングしてある。
美香は四角い箱に赤い包装紙をリボンで止めてあるがこれも自分でラッピングしたものだろう。
明日菜は……。おや?右手には細く短い棒のようなものを数本まとめてリボンで結び、
左手には金属のボウルを持っている。
小声でせーのと言った後「お兄ちゃん!ハッピーバレンタイン!」と三人が声をそろえた。
すぐに優実が僕の膝の上に座ってきた。それを見て美香が「ずるい!」という顔をしたが、
優美は気付かないで、僕にチョコの包みを渡してきた。
「おにいちゃん、あけてみて」
開けると中には大きなハートのチョコレート。
表面には白く「おいにいちゃんだいすき」と書かれている。
「おお、がんばったなぁ」
「たべて、たべて」
一口食べるとなかなかおいしい。少なくとも失敗せずに作ってくれたわけだ。
「うん、おいしいよ、優美」
「うん!優美ね、すっごくがんばったの。その字も優美がかいたの」
「上手に書けたね」と言って頭を撫でてやると優美はうれしそうに笑った。
次は美香だった。
僕の隣に座って「私のも!」と渡してくる。
封を開けると、中には小さなハート型の紙容器が沢山入っていた。
「紙から取って食べてね」
言わずもがなのことを言う美香。
しかし外してみると驚いた。横から見ると白黒と何段かに分かれていたからだ。
「何度か重ねたんだね」
「うん。頑張ったんだよー」
味も良い。頭を撫でるときゅぅーと妙な声を出して笑った
さあ残るは明日菜だ。明日菜の方を見ると、ボウルの中身をかき混ぜている。
「明日菜、なんだいそれ」
「えっへっへー」
自信ありげににやりと笑った明日菜は、ボウルの中身を見せてくれた。
「チョコ?」
とけたチョコのようだった。
「そうだよー、柔らかくなって、なかなかかたまらないように工夫したんだから」
「これを、どうするの?」
明日菜はボウルを置き、その中身に右手に持った棒をつっこんだ。
「これね、プリッツ。甘い奴。さすがにこれは作れなかったから……」
そして棒――プリッツだ――を引き抜くとチョコが垂れ落ちないまま付いている。
「ポ、ポッキー?」
「そ、手作りポッキー」
僕があんぐり口をあけていると、明日菜は時々ベッドの上で見せる、
年に似合わない淫猥な笑顔を浮かべた。
「あたしのはね、こうして食べるの」
ポッキーの片端を口に咥えて、顔を近づけてきた。
「な、なるほど……」
「んふー。はぁふー」
「ど、どこで知ったのさこんなの」
はやくはやく、と催促してくるので端っこをかじることにした。
少しずつかじっていき、ついに唇が……。
考えてみれば「お、おれ、これしたのはいめてら」
明日菜が一層目を細めた。
そして唇が……触れない。
「だ、だめえ!」
美香が俺と明日菜の顔の間に手をはさんできたのだ。
「そ、そんなのだめっ!」
美香が叫ぶと、優美も加わった。
「あすなおねえちゃんずるいー……」
「もう、邪魔しないでよ。あたしのなんだから好きに食べさせていいでしょ」
「だめぇー!お兄ちゃんの初めては私のなのー!」
「な、なんでよ」
「ずーるーいー、優美もするー」
「お、お兄ちゃん!あたしのチョコでしよ!」
「優美もー」
「そ、そんなの駄目よポッキーじゃないんだから」
「なんでもいいからするの!お兄ちゃん早く!」
美香が口にチョコを咥えた。
「ゆーみーもー」
優美が大きなチョコを丸ごと咥えて顔を近づけてくる。
「だ、だめだめだめ!あたしがするんだから!」
明日菜が美香たちを引き剥がそうとするが、二人はしっかり俺にしがみついてはなれない。
「こ、こうなったら……」
明日菜はぽんぽんと服を脱いでいき全裸になった。
驚いて見ている俺たちの前で、自分の胸元にボウルを傾けてチョコレートをたらした。
「んっふっふー」
「あ、明日菜、まさか」
「そのまさかよお姉ちゃん」
明日菜は俺の肩に手を掛け、膨らみかけの胸を突き出すようにして立った。
「お兄ちゃん、明日菜のチョコ、食べて……」
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