1 :
名無しさん?:
やあ (´・ω・`)
ようこそ、バーボンハウスへ。
このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このスレタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、そう思って
このスレを立てたんだ。
じゃあ、注文を聞こうか。
久々にバーボン立ててみたお^^
2 :
名無しさん?:2005/11/04(金) 08:25:10 ID:6th4SpQh
___
/ ヽ. つ
/./// ! 、 l つ
{i リ/ |乂! 苺、l
y ┃ ┃) V沖 ( わっ、どうしよう …
! r ┐” ソ ) なんてレス返せば いいんだろう … )
〈i`t,不_て( /つ
ルノ(ハ) jハ
〈____,.ゝ
しし′
3 :
名無しさん?:2005/11/04(金) 08:30:19 ID:???
ワロサナイ
4 :
ププ:2005/11/07(月) 16:49:33 ID:DM/zgcMx
緊急浮上!
5 :
ププ:2005/11/07(月) 16:52:23 ID:???
○月×日
早朝漫画喫茶、最終日・・・
人の少ない早朝のラウンジで俺は遊んでいた。
「ププさんですね?」
ふと顔をあげると、そこに一人の男が立っていた。
「は?何の事でしょうか?」しらばっくれて俺は言った。
「そのサイトの名前欄の『ププ』ってのは何ですか?隠さなくても結構ですよ」
男は笑いながらそう言った。
「いや突然で失礼しました。私はこういう者です。」
男は一枚の名刺を差し出した。
6 :
ププ:2005/11/07(月) 16:53:06 ID:???
名刺にはこう書いてあった。
『東京アクセス 西村博之』
「ハハハハハ、不思議に思っているんでしょう?何故私がここに来たのか。
あなたのリモホを調べたら毎朝ここの漫画喫茶にいる事がわかりましたよ。
実はあなたにご相談がありましてね。ここでは何ですから本当の喫茶店でも
行きませんか?」
現状に戸惑う俺に向かって、快活に笑いながら西村はそう言った。
俺は漫画喫茶の清算をし、西村に言われるまま後をついていった。
そして、とある喫茶店に二人は入った。
7 :
ププ:2005/11/07(月) 16:53:48 ID:???
「まさかひろゆきにリアルで会うとは思わなかったよ。」
「まあ、大抵の人は驚きますね。私が現れるのはいつも急ですから。」
「で、相談って何なんだ?俺は悪い事して遊んでないつもりだが?」
西村はコーヒーに手を伸ばし、一息ついてこう言いはじめた。
「ププさん、ラウンジでいつも遊んでますよね?固定歴も結構長いですね。」
「まあ、何となくラウンジはいついてしまったからね。俺は一番好きな板だよ。」
「プロ固定の噂は聞いた事ありますよね?」
「あれか。あれネタでしょ?ネタ的には面白いけどね。」
「ところがネタではないんですよ。」
西村はコーヒーをカチャリと置き、真面目な顔で俺に向かって言った。
8 :
ププ:2005/11/07(月) 16:54:42 ID:???
「はあ?何それ?どういう事だよ」
「プロ固定の話は『追放されたプロ固定』が流した事実なんですよ。
まあネタに持っていく為に、かなり名無しで書き込みして誤魔化しましたがね。
率直に言いましょう。あなたにラウンジのプロ固定になってもらいたいんです。」
西村はそう言って俺の目を見つめ、書類を取り出した。
「ここにプロ固定の規約があります。目を通してください。」
プロ固定の仕事内容、給与体系、衣食住に関わる説明等が長々と書いてある。
「私のビルに来て頂ければ現場を実感できます。もしこの後時間があるようでしたら
来てみませんか?悪い話ではありませんよ。」
『プロ固定』・・・その言葉に惹かれた。
俺もプロ固定になれる。その気持ちが俺に有無を言わさずこう言わせた。
「是非、見学させて欲しい。」
9 :
ププ:2005/11/07(月) 16:55:35 ID:???
二人は店を出た。
外に一台の黒塗りの車を待たせてあったようだ。
「お疲れさまです。」
黒いサングラスをかけた謎の男が西村に頭を下げた。
「ちょっと我慢してもらいますよ。」
西村はそう言って、俺にアイマスクとヘッドフォンを渡した。
「これじゃ電波少年じゃないか。」
「まあ、気を悪くなさらず。場所がバレルと何かと不都合がありましてね。」
俺は言われるまま、アイマスクとヘッドフォンを付けた。
「行ってくれ」
西村が運転手にそう言うと車は走り出した。
しばらくして夜勤疲れからか、俺は眠りに落ちた。
10 :
ププ:2005/11/07(月) 16:56:13 ID:???
「ププさん、着きましたよ。降りてください。」
時計を見ると12:00をまわっていた。9:00くらいに喫茶店を出たはずだから
かれこれ3時間くらいは車で移動したようだ。
周りを見渡す限りでは、どうもここは山の中のようだ。遠くに富士山が見える。
目の前にどう考えても場にそぐわない近代的ビルがポツリとある。
「ここですよ。さあ入りましょう。」
入口はカードキーになっていた。かなり警備はしっかりしているようだ。
エレベーターに乗ると西村は10階のボタンを押した。最上階だ。
11 :
ププ:2005/11/07(月) 16:56:56 ID:???
10階が社長室のようだ。
「どうぞお入り下さい。」
立派な机、書類棚、ソファーがある。
「ここが2chの本拠地なのですよ。まあ座ってください。」
笑いながら西村は言った。
「ここの2階から5階まで各板のプロ固定を集めています。
いわゆる仕事場ですね。書き込み作業はそこでやってもらっています。
板とフロアは同一です。寝泊まりは6階から9階の各部屋に
一人部屋を用意してあります。後でププさんの部屋も案内しましょう。」
「こんな所があったとはねえ。」
俺はとりあえず煙草に火をつけ、落ち着く事にした。
しかし、こんな所があったとは。
12 :
ププ:2005/11/07(月) 16:57:33 ID:???
「プロ固定は2ch創設時からいます。最初はロビーくらいでしたが
各板に安定した人口を保つ為、プロ固定を雇う板を拡大しました。
ラウンジもすでに数人雇っています。私が直々に各板の書き込みを見て
引き抜いた人達ですけどね。」
「あの、ちょっと質問していい?」
「どうぞ」
落ち着きはらって西村は言った。
「これだけの設備、運営ってバナー広告だけじゃ金追いつかないんじゃないの?」
このビルを見た時から不思議に思っていた事だ。
「ハハハハハ、普通はそう思いますよね。お金などいくらでも集まるのですよ。
ある板が広告の代わりになっていますからね。」
「ある板?」
まさか広告、CM板ではないだろうし、そんな板があっただろうか?
「そんな板あったっけ?」
13 :
ププ:2005/11/07(月) 16:58:17 ID:???
「ちくり板ですよ。ちくり板」
ニヤリと笑いながら、西村は言った。
「何でちくり板が広告代わりに?」
「まあ、不思議に思うのも無理はないですね。
実はあそこでちくられているネタは企業側が意図的に
漏らしているものなのですよ。こちらからそういう話を仕掛けた
わけではないんですが、何せ日本一のアクセス数をほこる掲示板
ですから、そこに目をつけた頭のいい企業の広報部、宣伝部が
いたわけです。確かに会社の宣伝としては利用価値があるでしょう。
ほとんどは非難されるようなネタばかりですがね。
それでも会社名を売り込みたい企業はいくらでもいますよ。
こちらとしても悪い話ではないですしね。喜んで承諾しましたよ。」
なるほど、よくよく考えれば双方の利益につながる話かもしれない。
確かに納得できる話だ。
14 :
ププ:2005/11/07(月) 16:59:40 ID:???
「もしかしてこの間のavexの話は・・・」
恐る恐る俺は聞いてみた。
「よく気がつきましたね。その通りですよ。
今までJOMOさんとかケンタッキーさんにもお世話になりましたよ。
avexさんはかなりのネームバリューがありますからね。
かなり話題になりましたよ。avexさんクラスの会社までが
話を持ち掛けてきましたから、今は積極的に各企業に働きかけてますよ。
ただ複数の会社のネタを一度にやると、効果が薄れますから
今は予約待ちの状態ですよ。まあ一般企業が投資してくれてるから
ここのビルが成り立っているわけです。」
西村はそう言って満足ぎみに再度ニヤリと笑った。
15 :
ププ:2005/11/07(月) 17:00:09 ID:???
「さて、仕事場でも覗いてみるとしますか。どこ見てみますか?」
もちろん、答えは決まっている。
「『ラウンジ』を見せて欲しい。」
俺と西村はエレベーターに乗った。西村はスッと2階のボタンを押した。
『ラウンジ』は2階らしい。
2階へ着くと西村は左手に曲がりツカツカと歩きだした。
通路を歩きながら周りを見渡すと、「初心者・質問」「PC初心者」などの
表札がある。どうも2階はBBS一覧の上部の板が集まっている階のようだ。
「ここです。」
『ラウンジ』は通路の一番奥にあった。
「ここにラウンジのプロ固定が集まっているのか。」俺は期待を胸に膨らませた。
16 :
ププ:2005/11/07(月) 17:05:23 ID:???
部屋はそう大きくなかった。
パソコンが備え付けになっているデスクが10台ほどある。
プロ固定と思われる人間は3人しかおらず、あとは空席になっていた。
一人女性がいた。その後ろ姿はどこかで見かけたような気がする。
「どうぞ御自由にご覧くださって結構ですよ。」
西村がそう言うか言わないかのうちに、俺はその女性の方向へ
歩き出していた。
俺の気配に気がつき、その女性がこちらを振り向いた。
「あっ!」
俺は思わず声をあげずにはいられなかった。
17 :
ププ:2005/11/07(月) 17:13:07 ID:???
「うにじゃないか!何でここに?君、仙台じゃ?仕事はどうしたんだよ?」
うにはキーボードから手を離し、呆れ顔で俺を見ていた。
「ちょっと、久しぶりなのにいきなり質問責め?もうちょっと落ち着きなさいよ。
まったく親爺はこれだから・・・。あんまり早いと女の子に嫌われるわよ。」
軽い煽り口調でのお出迎え。相変わらずだ。
「あなたもスカウトされたのね。残念でした〜。私が一番乗りよ。
店はバイトにまかせてきたわ。だってネット遊びしながらお金もらえるのよ?
こんなオイシイ話ってある?速攻で来ちゃったわ。」
さすがうにだ。商売人という事もあるが、損得の計算が早いのには脱帽する。
18 :
ププ:2005/11/07(月) 17:14:20 ID:???
「さすが画像晒し系固定。やる事なす事、自己顕示欲全開だな。」
俺も軽く煽りで挨拶をかわした。
「画像晒しは大きなお世話。あなたもやればいいのに。」
「俺はやらんよ。会社にバレルと何かとまずいしね。」
「ま、サラリーマンじゃしょうがないわね。私は自営だから気楽だけど。
ところで あなたはもうプロ固定になる決意はできたの?
まだ夜の人員が少ないからひろゆきも人探してんのよ。」
うにがプロ固定になっていたのを確認し安心したのか
俺はプロ固定になる決意をしていた。
19 :
ププ:2005/11/07(月) 17:15:17 ID:???
「まあね。」
俺は照れ隠しであっさりと言い放った。
「またまた、スカウトされた時点でもう決めてたんじゃないの?」
「そんな事はないよ、うにタン。君みたいに自己顕示欲はないから。」
俺は軽くごまかした。
「まあ積もる話もあると思いますが、ププさんに他の人も紹介しておきましょう。」
後ろにいた西村がそう言うと、前方にいた別のプロ固定と思われる二人が
こちらを向いた。二人とも男だが画像晒し系の固定ではないらしく
俺は見た事がなかった。この二人は誰なのだろう?
20 :
ププ:2005/11/07(月) 17:16:38 ID:???
「やあププ、会うのは初めてだね。」
一人の男がそう言って俺に右手をさし出してきた。
見たところ20代前半と思われる。結構ナイスガイだ。
俺も反射的に右手を差し出し握手をかわした。
「君は?」
「ププは昼にいないからよくわからないと思うけど、リフ・ラフだよ」
リフ・ラフ・・・HNは見た事がある。あまりよく知らない。
「確かうにに熱をあげている固定だったと思うが・・・」
「ププは余計な事まで知ってるんだね。ひろゆきが『うにがいる』って
ほのめかすもんだから、俺も速攻できちゃったよ。
まあ、うにと一緒にラウンジでリアルで遊べるなら、お金なんか
いらないよって言ったくらいだし。」
そう言って、リフ・ラフは照れ笑いした。
21 :
ププ:2005/11/07(月) 17:17:25 ID:???
「やあ、はじめまして。君は?」
俺はもう一人の男に握手を求めた。
・・・・・・何のリアクションもない。
俺を上から下まで舐めるように観察すると、その男は自席に戻って
またキーボードに向かって一心不乱に打ち込み始めた。
何てつっけんどんな男だ。
うにが俺の耳元で囁いた。
「彼は名無しさんなのよ。『プロ名無し』なの。板でもそうだけど
彼、馴れ合い大っ嫌いだから。主に叩き専門でやってるわ。
ひろゆきがこういう人も必要だからって、スカウトしてきたらしいの。
黙々と馴れ合いを叩く書き込みばかりしてるわよ。」
なるほど、『プロ名無し』もいたのか。
どうも馴れ合い叩きは彼の専門分野らしい。
22 :
ププ:2005/11/07(月) 17:19:55 ID:???
「そう言えば、エナイとか鈴木いーびーあーるとかponは?
いかにもプロ固定って感じじゃん?」
素朴な疑問をうににぶつけてみた。
「エナイはね、ひろゆきがスカウトいったらしいわ。
でもね、だめだったらしい。『俺はそんなヤラセみたいな事は
できない』って。その一点張りだったらしいわよ。
現実でも真面目なのね。」
「なるほど、そんな感じだな。何となくわかるわ。」
ネット上も現実もあまり変わらないものなのだなと思った。
「残りの二人は?」
23 :
ププ:2005/11/07(月) 17:20:59 ID:???
「鈴木は素人。あれがプロ固定だと思って?
彼は天然よ。今、ラウンジで一番キーとなる素人キャラだけど。
彼をどううまく扱うかがプロ固定の見せ所ね。
煽りモードの時は煽ってあげる。塞ぎ込んでるときは慰めてあげる。
そうやって生かさず殺さずを続けて、ギャラリーを巻き込むのよ。
ponは遠距離という事と仕事が忙しいとかいう理由で断ったらしいわ。
あの人他の板とかでも色々遊んでるらしいから。」
しかし、うにはよく知ってる。よくキャラクターを見てるなあと
思わず感心させられた。
24 :
ププ:2005/11/07(月) 17:22:00 ID:???
「うにさん、せっかくだからププさんに色々システムの部分とか
教えてあげて下さい。私は色々と管理の仕事もあるので
部屋に戻ります。ではププさん、終わりましたらまた10階まで
来てくださいね。」
ひろゆきはそう言うと、俺に軽く会釈をして部屋から出ていった。
「うに先生、色々教えて下さい(*´Д`*)ハァハァ」
「リアルでやんな、エロ親爺。いいからこっちこい。」
ふざけていると、うにに軽くごつかれた。
うには自席に戻り、俺はその横の席に座った。
25 :
ププ:2005/11/07(月) 17:23:09 ID:???
モニタにはほっとゾヌ2っぽいブラウザが開いてある。
「これね、ほっとゾヌを改良したものなの。
基本的に一つのスレを追いかけるから、スレが上位にあるとか
そういうのプロ固定には関係ないのよ。盛り上げる役しなきゃ
ならないんだから。通常の2ちゃんブラウザにはない独自の機能が
あるからそれを教えるわ。」
うにはそう言うと、ウインドウ上部のメニューの「作業」をクリックした。
何やら色々ある。
26 :
名無しさん?:2005/11/07(月) 17:23:47 ID:???
すっげナツカシ
27 :
ププ:2005/11/07(月) 17:25:16 ID:???
「作業」には次のようなものがあった。
レス削除
スレッド削除
板飛ばし
過去ログ削除
ID変更
自動自作自演
「まるで削除人の機能みたいだねえ。」
「何言ってるの?プロ固定が削除人を兼任してるのよ。
まあ、ラウンジでは滅多に使わないけどね。
試しに何かしてみる?板でも飛ばしてみよっか?」
うには子悪魔のような不敵な笑みをこぼし、『板飛ばし』を選択した。
「おおっ!板が真っ白。スレなくなっとる。」
「まあ、見てて。今に『トン・ドル』スレがすぐ立つわ。見てると面白いわよ。」
うにがリロードすると、目の前には『トン・ドル』スレが。
28 :
ププ:2005/11/07(月) 17:26:11 ID:???
「ま、後で色々試してみるといいわ。わからない事があれば
遠慮なく聞いてね。」
「ああ。とりあえずひろゆきのところに戻るから、また後でな。」
うにに挨拶をして俺は『ラウンジ』を出た。
来た道を戻り、そそくさと10階の西村の部屋へと戻った。
「やあププさん、おかえりなさい。」
西村はそう言って、書斎机のところからソファーへと歩み寄り腰掛けた。
29 :
ププ:2005/11/07(月) 17:26:59 ID:???
「さて問題なければ、契約書にサインを頂きたいのですが。」
「へっぽこだがラウンジのために頑張る事にするよ。よろしく。」
俺は西村と固く握手をかわし、その後契約書にサインをした。
「ププさんの会社のほうには、すでに話をつけてあります。
会社のほうは気にしなくても大丈夫ですよ。
かなり高くつきましたがね。あと衣類とかはネットで注文して
下さい。注文すれば次の日には自分の部屋に届きますから。
その代わり給与引きですよ。」
30 :
ププ:2005/11/07(月) 17:28:52 ID:???
「これがププさんの部屋の鍵です。612号室です。
あとこれが屋内専用のPHSです。基本的にこれで連絡をとります。」
西村は部屋の鍵とPHSを手渡した。
「地下一階にレストランとかバーとか娯楽施設が色々あります。
後で行ってみるといいでしょう。とりあえずププさんには夜の部を
担当してもらいます。20:00に昼の人との引継ぎと夜の部のメンバーと
顔合わせしますから、また『ラウンジ』に来てください。
それまで一休みするといいでしょう。
ぐっすり眠れるようにおまけでもつけときましょうか。」
そう言うと西村はニヤリと笑い、PHSのボタンを押しはじめた。
「ああ、俺だ。612号室に手配をよろしく。」
31 :
ププ:2005/11/07(月) 17:29:45 ID:???
「ん?何かあるのか?」
不思議そうに俺がたずねると、西村は俺を入口のほうへ追いやるように
背中を押した。
「まあまあ、部屋に帰ってのお楽しみですよ。じゃあ20:00にまた。」
「何だかよくわからないけど、じゃあとりあえず部屋に行くよ。
夜勤明けで眠いし、一眠りするわ。
20:00に『ラウンジ』でいいんだね。」
西村はコクリとうなずいた。何故かその顔は悪戯っ子のように笑っていた。
西村の部屋を後にし、俺はエレベーターに乗り6階へと降りた。
ちょうどエレベーターを降りた目の前が612号室だった。
32 :
ププ:2005/11/07(月) 17:30:47 ID:???
部屋は普通のホテルと同じような作りで、ベッドと机、バスルームがあった。
「ふぅ。何が何だかよくわからないうちに連行されちまったな。」
とりあえずタバコに火をつけ、ゴロリとベッドに寝転がった。
「コンコン」
ドアをノックする音が聞こえた。誰だろう?
ドアのノブを引くと、そこには年の頃18〜20歳と思われる
女の子が立っていた。なかなか可愛い娘だ。
「何か?」
「あの・・・私、612号に行けって言われただけなんですけど・・・。
ひろゆきさんから何も聞いてないんでしょうか・・・。」
33 :
ププ:2005/11/07(月) 17:31:30 ID:???
「特に何も聞いてないけど?」
何の事だろう?俺は首をかしげた。
「ひろゆきさん、何も言ってないんですね・・・
とりあえず中入っていいですか?」
「ああ、どうぞどうぞ。」
そう言って、その娘を部屋に迎え入れた。
「ひろゆきもちゃんと俺に言ってくればいいのにさあ。」
そう言いながら後ろを振り向くと、その娘は真っ赤な顔をして
何か言いたそうに立ちすくんでいた。
34 :
ププ:2005/11/07(月) 17:32:21 ID:???
「・・・あの・・・シャワー借りますね・・・」
「はぁ?」
何が何だかよくわからない。
娘は隠れるようにバスルームに入りドアを閉めた。
「待てよ?ひろゆきが言ってた『ぐっすり眠れるようにおまけでも
つけときましょうか。』ってのはもしかして・・・。」
バスルームからシャワーの音が聞こえる。俺はすべてを悟った。
「ひろゆきめ。味なまねを。」
俺は西村の『おまけ』を存分に堪能し、深い眠りについた。
35 :
ププ:2005/11/07(月) 17:33:10 ID:???
プルルルルル・・・・・・
夕方なのにモーニングコールで目を覚ました。19:00だ。
隣で寝ていた娘はすでに帰ったようだ。
シャワーを浴び目を覚まし、俺は地下のレストランで簡単な食事をとる事にした。
夕食の時間でレストランはごったがえしていた。
トーストとほおばり、コーヒーをすすりながら
「『ラウンジ』の夜のプロ固定は誰なのだろう」とうつろな目をして考えていた。
「そろそろ行くか」時計の針は19:45を差していた。
俺はエレベーターで再度2階に上がり、『ラウンジ』に向かった。
36 :
ププ:2005/11/07(月) 17:34:01 ID:???
ドアを開けると西村はすでに『ラウンジ』にいた。
その脇で昼組とは違う男が二人何やら話し込んでいた。
どちらも結構若い。20代前半くらいのようだ
「あ、ププさん来ましたか。じゃあ自己紹介でもしましょうか。」
西村は俺の隣に立ち、夜組の二人に俺を紹介した。
「今日から夜に入ってもらう事になったププさんです。
初めて会うと思いますが、夜組の方、よろしくお願いしますね。」
「ププです。初めてなのでよくわかんないんだけどとりあえず宜しく。」
俺は二人に向かって軽く頭を下げ挨拶した。
37 :
ププ:2005/11/07(月) 17:35:07 ID:???
「ああ、ププか。よく煽りあいしたもんだけど、まあこれからは
仲良くやろうや。開店寿司だ。」
「sage専門だけどヨロシク、ププ。サクラメントだ。」
この二人は開店寿司とサクラメントだったのか。
しかし板上では想像しがたいが、二人ともいたって普通の青年であった。
挨拶をすませ、昼組と板の流れについての引継ぎを行なった。
「今日はあまり動きがないから、夜組の人たちはなるだけあばれてね。
不満そうな名無しさんがたくさんいるから。私も今日は張り合いが
なかったわ。じゃあ、頑張ってね。」
うにはそう言い残し『ラウンジ』から出ていった。
「待ってよ、うに〜」追いかけるようにリフ・ラフも出ていった。
38 :
ププ:2005/11/07(月) 17:35:49 ID:???
「ではププさん、初仕事です。頑張って下さいね。」
西村は俺の肩をポンと叩いた。
「あれ?あの人は?」
俺はまだモニタに向かって座っている「プロ名無し」を指差した。
「ああ、彼ですか。彼は休みいらないそうで。自由にさせてますよ。
残業つくわけじゃないんですけどね。よっぽど叩きが好きなんですね。」
西村は苦笑いしていた。
「では頑張ってください。深夜枠であなたの知っている人がもう一人来ますから。」
「またドッキリかよ。昼はマジ焦ったぞ。有り難く頂戴したけどね。」
「ハハハハハ、では頼みますよ。」
西村はまた俺の肩を軽く叩き『ラウンジ』を出ていった。
39 :
ププ:2005/11/07(月) 17:36:52 ID:???
あらかじめ指定された席につき、俺はモニタに向かった。
引継ぎにあったように、これといって盛り上がったスレもなく
とりあえずレスしやすいどうでもいいスレから書き込みを始めた。
「これじゃプロ固定でも何でもねえな。」
心の中でそう思いながら、俺に絡む名無しを相手にレスを続けた。
「どれ、暇だから板でも飛ばしてみるか。」
【板飛ばし】を選択すると、次の瞬間板は真っ白になった。
おお、これは楽しい。
「おいおい、あんま悪戯すんなよ。まだ人少ないからいいけどさ。」
開店寿司がこちらを向いて笑いながら言った。
「ごめんごめん、俺もやってみたくてね。まあ許せ。」
そう言って、リロードするとすでに「トン・ドル」スレが立っていた。
みんな??スレでギャーギャーわめいている。
ケルベロスが悪戯にスレを立てる名無しに向かって説教してるようだ。
40 :
ププ:2005/11/07(月) 17:37:44 ID:???
とりあえず俺は目立ったレスをする事もなく、ROMしたり地下スレ覗いたり
していた。すでに日付は変わっていた。
「ププ!」聞き覚えのある声だ。
もしやと思い、振り向くとやはりそこにはハピがいた。
「ゲゲッ、ハピまでプロ固定かよ。ひろゆきが言ってた『もう一人』ってのは
ハピの事だったのか。」
「おはよー!ププもスカウトされたんだね。
これから一緒にお仕事だね。私、癒し系キャラだから存分に癒してあげるね。」
「癒し系ね、はいはい。その通りでございます。こちらこそよろしくな。」
俺は半ば呆れた口調で言った。
「さあー!仕事するぞー!」
深夜だというのに、ハピは元気だ。そんなに気合入れてする仕事なんだろうか?
41 :
ププ:2005/11/07(月) 17:38:47 ID:???
深夜枠はこれといって荒れる事もなく、そのままの流れで
マターリとした早朝を迎えた。
テレホも終わり、俺の初日の仕事は終りをつげた。
朝のプロ固定はまだ見つかってないようで、夜組から朝組への
引継ぎはないようだ。
「ププ!朝ご飯食べに行こ!」
ハピと一緒に地下のレストランで朝食を食べ、二人は各自の部屋へ戻るため
5階に上がった。
「ププ、おやすみ〜」そう言って、ハピは自分の部屋へ消えていった。
(俺はまだ寝ないけどね)
そう心の中でほくそ笑みながら、俺はPHSを取り出し昨日の娘の番号を押していた。
42 :
ププ:2005/11/07(月) 17:39:29 ID:???
『プロ固定の館』(建物に名前があるかは知らない)は実に快適だった。
毎日定時に『ラウンジ』に入り、書き込みの仕事をした後、朝方に
バーで酒をひっかけて、部屋でSEXして寝るという夢のような生活を毎日続けた。
好きなだけ板で暴れ、気に食わないレスがあれば削除し『ラウンジ』に飽きたら酒と女。
何の不満もなかった。しかし不満がない事が逆に不満を増幅させたのだった。
楽しい生活は1ヶ月しか持たなかった。
43 :
ププ:2005/11/07(月) 17:40:36 ID:???
義務として強いられた「2ch遊び」が実は面白くない事に気がついて
しまったのだった。いつしか俺は地上で書き込みするよりも
地下で独り言を書く事が多くなった。たまに来る名無しさんと遊んで
いるのが楽しかった。
「プロ固定」の給与はレス獲得数に応じて歩合性となっていた。
だが地上に出なくなってから、当然のようにレスは減り
給与格付けの目安となるプロ固定ランクでも、いつしか最下位まで
落ちていた。それでも俺は地上で暴れる気力を取り戻せないでいた。
44 :
ププ:2005/11/07(月) 18:12:15 ID:???
ある日の夕方、いつも通りに仕事前に食事をとるために
レストランに行こうと思い部屋を出ようとしたところ、目の前に
一人の男が立っていた。
西村だった。
「ププさん、ちょっと社長室に一緒に社長室に来てもらえますか?」
寝ぼけまなこで俺は軽くあいづちをうち、後をついて10階に上がった。
部屋に入り二人はソファーに座った。
45 :
ププ:2005/11/07(月) 18:13:59 ID:???
唐突に西村が切り出した。
「ププさんには今日から仕事場を変わってもらいます。」
その言葉で俺も目が覚めた。
「え?何で突然・・・。」
「最近、ププさん元気ありませんね。ちょっと気分転換でもしてもらおうと
思いましてね。専門板に行ってもらいます。」
「専門板って・・・俺、知識ないよ。雑談しかできんよ。どこに行けっていうんだよ。」
俺は焦っていた。専門板で通用するような知識など持ちあわせていなかった。
46 :
ププ:2005/11/07(月) 18:14:32 ID:???
「神社仏閣板に行ってもらいます。あそこを盛り上げて下さい。」
「神社仏閣板〜?んなの見た事もないよ。っていうか、寺とか仏なんて
知識ないって。カンベンしてくれよ。」
「大丈夫です。あなたならできます。
神社仏閣板は3階のエレベーターを降りて右手に曲がったところに
あります。あとラウンジのあなたの席には、今日から新しい人が
入りますから席はありませんからね。」
珍しく西村の顔には笑みすらなかった。
47 :
ププ:2005/11/07(月) 18:15:13 ID:???
「では宜しくお願いしますね。ちょっと次の来客があるものでこのへんで。
俺に早く出て行けと言わんばかりの言い方だった。
「わかったよ。3階だな。」
しぶしぶ俺は社長室を出て、とりあえず食事をとるためにレストランへ
向かった。
※ ※ ※
「ププ、大丈夫ですかね?」
サングラスをかけた黒服の側近が西村に問いかけた。
「フン。あそこで使い物にならなきゃ後は考えるさ。
ダメな奴は何やってもダメだからな。」
西村は吐き捨てるように言った。
「そうですね。使えない奴にはアノの手もありますからね。」
黒服の男はニヤリと笑った。
48 :
ププ:2005/11/07(月) 18:16:00 ID:???
食事をすませ、俺は神社仏閣板の部屋に向かっていた。
ドアを開けると、待っていたのは寝静まったようにシーンとした部屋だった。
部屋はラウンジと同じ作りだった。
ただ違ったのは、プロ固定らしき人間が誰一人としていなかった事だけだ。
「ちっ、俺しかいねえのかよ。」
あらかじめ西村に指定された席に座り、とりあえずスレッドを眺めた。
「くっ、この板このスレで何をどうしろっていうんだ。」
俺はやけくそでスレッドを立てまくった。
49 :
ププ:2005/11/07(月) 18:16:41 ID:???
【仏様だけど何か質問ある?】
俺としては最高のボケネタだった。ラウンジあがりとしては
このネタからチャレンジしてみた。
・・・・・・全くスレッドに動きはない。
「くそったれ。じゃあ、これでどうだ。」
【マターリとみんなでお経となえようYO!】
参加しやすいようにマターリ系にふってみた。
・・・・・・全くスレッドに動きはない。
「俺のせいじゃない。人がいないんだ。人がいないだけなんだ。」
自分にそう言い聞かせるのが精一杯だった。
50 :
ププ:2005/11/07(月) 18:17:29 ID:???
・・・・・・
神社仏閣板に異動して1週間が過ぎた。
俺はすでに廃人と変わらなかった。
「ひろゆきめ、わざと俺をここに送り込みやがったな。」
神社仏閣板は俺の狂ったような荒らしレスしか見当たらなくなっていた。
もうどうでもよかった。神社仏閣板は廃墟と化していた。
※ ※ ※
「西村さん、ププもそろそろ限界のようですね。」
黒服の男が社長室のPCのモニタを見ながらそう言った。
「やはり無理だったか。根性なしが。フン。
いつも通りに処理してくれ。地下のアイツには連絡しておく。」
そう言って西村はPHSで誰かに電話をかけはじめた。
51 :
ププ:2005/11/07(月) 18:18:15 ID:???
やっとの事で朝を迎え、つまらない仕事を終えた俺はそそくさと
部屋に向かっていた。部屋のドアにメモがはさんであった。
「本日夕方17:00より健康診断をします。地下一階の医務室まで来てください。
西村 」
メモにはそう書いてあった。
「何だ一斉健康診断か?」
メモをポケットに入れ、俺は部屋に入った。
そしていつもの通りに娘を電話で呼び、狂ったようにSEXをした。
これだけは変わらない習慣だった。
52 :
ププ:2005/11/07(月) 18:18:56 ID:???
16:00のモーニングコールで目を覚まし、シャワーを浴び
準備を整えると、俺は地下一階の医務室に向かった。
医務室に入ると、医者らしき人間と助手がいた。
「あれ?俺だけ検査なの?」
「プロ固定も結構いますから、ちゃんと順番が決まってるのですよ。」
その医者は変な笑みをこぼしながらそう言った。
「じゃあこのベッドに横になってもらえますか?」
俺は医者に言われるままベッドに横たわった。
53 :
ププ:2005/11/07(月) 18:19:43 ID:???
「それではちょっと麻酔しますので」
医者が俺に向かってそう言った。
「え?何で健康診断で麻酔すんの?」
「ちょっと脳波測定をしますから。はい、気を楽にして下さい。」
医者はニヤリと笑いながら、注射器を片手にそう言った。
チクリとした軽い痛みと共に、しびれるような感覚が全身をかけめぐった。
「もう麻酔効いた頃か・・・10分後くらいから始めるか」
医者が助手にそうつぶやくのが聞こえた。
「何だ?実験って・・・」悩む間もなく、俺は深い眠りに落ちていた。。。
54 :
ププ:2005/11/07(月) 18:20:25 ID:???
「落ちたようだな。さあ運ぶぞ。」
医者はそう言って、助手と二人で餅を抱き上げ、車椅子に座らせた。
医務室を出て通路に出ると、たまたま夕食のためレストランに
向かっていたサクラメントと遭遇した。
「なんだ?ププ、怪我でもしたのか?」
「ププさんは今お休み中ですよ。体調崩したようで部屋まで送り届ける
ところなんですよ。」
医者がサクラメントに向かって言った。
「そうか。神社仏閣板に行ってからほとんど会ってなかったからなあ。」
そう言い残し、サクラメントはレストランの方向へ歩いていった。
55 :
ププ:2005/11/07(月) 18:21:09 ID:???
車椅子に押されたププはエレベーター前に着いた。
医者がエレベーターのボタンを押した。ププの部屋がある6階ではなく
地下2階だった。
エレベーターを降り「医歯薬看護板特別研究室」と表札のある部屋の前で
車椅子は止められた。ドアには「関係者以外立入禁止」と書いてある。
医者はカードキー(この建物の鍵はすべてカードキーである)を取り出し
ロックを解除すると車椅子を押しながら部屋に入った。
56 :
ププ:2005/11/07(月) 18:22:32 ID:???
部屋の真ん中に大きな手術台らしきものがあり、周りには様々な機具が
並んでいた。部屋の隅にある戸棚には恐らく薬品と思われる瓶がたくさん
あった。入口側にデスクがあり、そこに中国人もしくは韓国人らしき人物が
座って何か書き物をしていた。
「キム、仕事だ」
医者がその東洋人に向かって言った。「キム」という名前らしい。
「また仕事アルカ?さっきやったばかりアルヨ。」
「いいから黙ってやれ。西村さんの命令だ。
今回はAI実験のほうで処理しろとの事だ。外部には出さん。
わけのわからんもの作るなよ。いいな。」
「わかったアルヨ。AI実験のほうは順調に動いてるアルヨ。」
57 :
ププ:2005/11/07(月) 18:23:02 ID:???
部屋の隅にある『あるもの』を見て医者が言った。
「またあんなもの作ったのか。悪趣味なヤツだ。さっさとそこに
ある『残り』も片づけとけ。」
「あれは西村がくれたアルヨ。もういらないからって。
好きに遊ばせてもらったアルヨ。」
キムは細い目をさらにいっそう細めて笑っていた。
「じゃあ頼んだぞ。」
そう言って医者は部屋を出ていった。
58 :
ププ:2005/11/07(月) 18:23:47 ID:???
「また脳味噌ほじくり出すアルカ・・・
いい加減、嫌になってきたアルヨ。でもブラックジャックなみの
技術を持った天才外科医キムを拾ってくれた西村のためだから
頑張るアルヨ。」
キムは溜息をつきながら、手術台の上にある『残り』をとりあえず
床に下ろし、車椅子からププの体を起こし手術台の上に乗せた。
「じゃあ、ププさんとやら、ツルッパゲにさせてもらうアルネ。」
キムはカミソリを取り出した。
59 :
ププ:2005/11/07(月) 18:24:23 ID:???
キムが髪の毛を削ぎ落とそうとした瞬間、デスクにある電話が鳴った。
「もう何アルカ・・・これから忙しくなるところアルヨ。」
キムは電話をとった。
「俺だ。西村だ。警察がどうも不審な動きをしているようだ。
緊急会議を開くからキムも10階に至急来い。」
「今、手術するところアルヨ。後じゃ駄目アルカ?」
「それどころじゃない。そんなの後でやれ。わかったな。」
「ほいほい、わかったアルヨ。今行くアルヨ。」
そう言ってキムは電話を切った。
60 :
ププ:2005/11/07(月) 18:25:03 ID:???
「ププさんとやら、もうちょっと髪生やさせておいてあげるアルヨ。」
キムはしぶしぶ部屋を出ていった。明かりの消えた真っ暗な部屋で
ププはそのまま深い眠りについていた。
※ ※ ※
ふと気がつくと、俺は真っ暗な闇の中にいた。
何も見えない……脳波のテストはどうなったのだ?
俺は起き上がりあたりを触ってみた。
どうもベッドらしきものの上に寝かされているようだ。
61 :
ププ:2005/11/07(月) 18:25:41 ID:???
そろそろと足を下ろしてみると、果たして床に足がついたようだ。
ちょうど二本足でまだ立てない幼児のように、俺はあたりを
四つんばいになって這いはじめた。
ふと何だかわからないものにぶつかった。手探りで探ってみて
思わず俺は「うわっ!」っと声をあげた。
驚いて一瞬『それ』から手を離した。
俺は真っ暗闇なだけに、得体のしれない『それ』に恐怖を感じていた。
62 :
ププ:2005/11/07(月) 18:26:12 ID:???
再度『それ』に恐る恐る再度手を伸ばしてみた。
ヒンヤリとした『それ』は動かなかった。
指先の感覚から『それ』は「人間の足首」らしきものと思われた。
「死体か?」
この死体らしきものは全裸だった。
感触を確かめながら、上半身の方に向かって手を伸ばしはじめた。
この体温から予想するとどうも死んでいるらしい。
その体の曲線からそれは女性と思われた。
63 :
ププ:2005/11/07(月) 18:26:44 ID:???
腹部から胸部へ……やはり女性のようだ。
その乳房の張りは死後硬直していても、明らかに若い女性とわかる
ものだった。髪の長さがわかれば……
乳房からさらに首のほうへ手を伸ばす。
「ギャッ!」思わず後ろにのけぞった。
あるはずのものがない。
その体は首のところでプッツリと途絶えていた。
そう、首のない胴体なのだ。
64 :
ププ:2005/11/07(月) 18:27:55 ID:???
恐ろしくて俺は身動きできなかった。
暗闇の中に一体の首のない死体があるという事だけが
今分かる精一杯の現実だった。
ふとあたりに何かが蠢く気配を感じた。
真っ暗な空中を手を振りかざしながら、あたりを探ると
足元に何か毛むくじゃらの物体が蠢いている。
……暖かい。この物体は生きているようだ。
犬?猫?どうも動物のようだ。
65 :
ププ:2005/11/07(月) 18:28:36 ID:???
「ウウウウ……」
変な鳴き声のするその物体を、思い切って捕まえてみた。
確かに犬か猫のようだ。その毛並みから猫と思われた。
頭を撫でようとして一瞬手が止まった。
髪!
これは人間の頭ではないか!
66 :
ププ:2005/11/07(月) 18:29:48 ID:???
手探りで輪郭をなぞってみるが、確かに人間の頭である。
しっとりとしたその肌の感触、長い髪の毛からそれは
女性の頭部であると思われた。
「ウウウウ……」
人間の頭を持ったそのへんてこりんな猫?は
また気味の悪い鳴き声をあげた。
まさか、さっきの死体の頭部では……
67 :
ププ:2005/11/07(月) 18:30:25 ID:???
首のない死体。人間の頭がついた生き物……
暗闇の中で俺は状況把握できずに唖然としていた。
恐怖なんてどこかに飛んでいた。
この猫?(らしきものだから猫と呼ぶ事にしよう)は俺を怖がろうとしない。
妙にじゃれついてくる。それは暗闇の中でも十分感じられた。
本当にこの猫の頭が人間ならば、脳まで人間なのだろうから
こちらが人間だとわかれば安堵しているのかもしれない。
68 :
ププ:2005/11/07(月) 18:31:26 ID:???
この猫の頭は妙な位置についている。
本来猫の頭がある場所よりももっと上、前足と同一直線上の胴体の上に
のっかっている感じなのだ。猫の胴体のサイズと人間の頭のサイズが不均衡な
ためそうなったのかもしれない。いずれにせよ、気狂いによる悪戯としか思えない……
69 :
ププ:2005/11/07(月) 18:31:58 ID:???
猫が俺の顔を舐めてくる。といっても、人間の舌なのだが。
「ウウウウ」としか鳴き声をあげられないこの女は
意志伝達が動物と同じ方法しかとれないのだ。
同じ人間?がこの暗闇にいるのがわかっても、会話する事すらできない。
哀れに思い、顔を撫でてやろうとした時に、顔が濡れている事に気がついた。
泣いているのだ。
こんな不具者のような体になっても、心だけは人間のようだ。
この女は何故こんな変な物体に成り果てたのだろう?
70 :
ププ:2005/11/07(月) 18:33:55 ID:???
ふと猫が俺の手元を離れ、どこかに消えていった。
あの猫はこの暗闇で目が利くのか?
冷静さを取り戻した俺は、ここからどうやって脱出するかという事だけを
考えていた。しかし周りも見えない真っ暗闇の中でどうすればいいと
いうのだ?
猫が帰ってきた。
「ウウウウ」とうなりながら、俺の手元に顔を近づけてくる。
何かを口にくわえているようだ。
71 :
ププ:2005/11/07(月) 18:34:34 ID:???
口元からそれを取り出し、手探りで判断してみる。
小さな四角い物体だ。色々触っていると、その箱らしきものの
形が変わった。というよりも、箱の側面が押すと出てくるようになっている。
そうか!これはマッチだ。
手探りで中を触ってみると、棒状の物が数本入っている。
恐る恐る、暗闇の中でマッチ棒らしきものを取り出し
手探りで火をつけてみた……
棒に塗布された赤リンがジッという摩擦音を立てて発火する。
視界が球の径を上げるカタチで急速に広がった。
72 :
ププ:2005/11/07(月) 18:35:11 ID:???
10階の社長室には、西村と黒服の男が数名ソファーに腰掛け、医務室の医者と
助手そしてキムがその脇に立っていた。
西村が立ちあがり、窓の方に向かい歩くと外を眺めながらつぶやいた。
「どうも最近張られているようだ。アクセスログを調べるとここ最近
かなりの板に警察のIPが記録されている。どうも世の中で頻発する
怪しい事件がすべて2chが絡んでいると余計な詮索をしてるようだ。
まあ数々の交通違反を揉み消してきた俺からすれば
桜田門など取るに足りないがな。」
西村はニヤリと笑いながら部下のほうに向き直った。
73 :
ププ:2005/11/07(月) 18:35:47 ID:???
「何か詮索されるような証拠でも残したんでしょうか?
『ネタ』放出には最新の注意を払っておりますが・・・。」
黒服の一人が脅えながら西村に尋ねた。
「いや今のところそれはない。お前らもよくやってくれている。
ただ気になる事が一つある・・・。キムちょっと来い。」
西村はそう言うと、デスクのPCに向かい何やらウィンドウを開いた。
キムはツカツカと西村のそばに近寄った。
「どうかしたアルカ?」
西村はキムの顔を覗き込むようにこう言った。
「これはお前の仕業か?
http://fnn.fujitv.co.jp/headlines/CONN00000965.html」
74 :
ププ:2005/11/07(月) 18:36:32 ID:???
「そんな事あるわけナイヨ!ここ最近研究室から出てないアルヨ。
だいたい栃木まで行かないアルヨ。」
キムは慌てて言い返した。
「ならいいんだが。どうもお前のやる『クセ』と似てたものでな。
ちょっと気になっただけだ。こんな事件で桜田門に勘ぐられたのでは
たまったもんじゃないからな。」
西村は椅子に座り一息ついた。
「では各自変わった事がないか近況を報告してもらおうか。」
部下は各自の近況報告を伝え、西村は的確な指示を次々と出していった。
打ち合わせは2時間にも及んだ。
75 :
ププ:2005/11/07(月) 18:37:03 ID:???
俺は手探りで一本のマッチを取り出しあたりをつけ擦った。
棒に塗布された赤リンがジッという摩擦音を立てて発火する。
視界が球の径を上げるカタチで急速に広がった。
その円内には薄明かりでもはっきりとわかるほどの
奇妙な生き物が映し出されていた。
人間の女性の頭部を持った猫・・・。
76 :
ププ:2005/11/07(月) 18:38:01 ID:???
『猫』は泣き崩れていた。その女性は20歳前後と思われたが
恐怖のためか一層更けて見えた。ぼんやりとした赤茶けた円の中でも
その顔は青ざめているように見えた。
なんてアンバランスなのだろう。
実際の猫の頭と比較すると2倍もあろうかと思われる人間の頭部が
猫の胴体にくっついているのだ。
その異次元空間から抜け出すのに30秒とかからなかった。
マッチが燃え尽きたのだ。
もう一度明かりをつけようと、手探りで2本目を取りだそうとした時に
ふと手が止まった。この顔、どこかで見た事がある。
77 :
ププ:2005/11/07(月) 18:39:06 ID:???
「どこで見たんだろう?」
俺は記憶を振り絞って辿ってみた。
思い出せそうで思い出せない。何故か『ラウンジ』という言葉だけが
頭の中をグルグルと回っていた。
「あっ!」
思わず俺は声をあげ、慌てて2本目のマッチを擦った。
間違いない。あそこで見たのだ。再び幻想世界が蘇る。
「も、もしかして君は……ま、まろん……」
78 :
ププ:2005/11/07(月) 18:39:54 ID:???
間違いない。あれだけ騒がれたスレッドで晒した画像は
そうそう忘れていない。
「まろん、まろんなんだろ?どうしてこんな姿に…。」
「ウウウウウ…」
その『猫』は重たそうな頭を大きく上下に振りながら
また唸り声をあげた。やはり、まろんなのだ。
「誰が…誰がこんなひどい事を…。」
色の無くなった世界で俺はまろんの小さな体を抱きながら
そうつぶやいていた。
79 :
ププ:2005/11/07(月) 18:40:48 ID:???
「そうだ。明かりを探そう。まろん、ちょっと待ってろよ。」
俺はまろんを床に下ろし、立ち上がって3本目のマッチを擦った。
視界範囲が狭くあまり周りが見渡せない。
そばには手術台らしきものがある。
マッチを数本擦り、数分にわたり部屋の中をうろうろしたあげく
やっとの事でドアのそばに部屋のスイッチがあるのを見つけた。
スイッチを押すと目の前に真っ白な世界が広がった。
眩しさに目を伏せながら、とりあえず何とか暗闇の世界からは脱出する事が
できた事に俺は安堵した。
80 :
ププ:2005/11/07(月) 18:41:43 ID:???
ここは手術室のようだ。
部屋のど真ん中に手術台がある。そのまわりに機材がごちゃごちゃあり
壁際の戸棚には薬品関係の瓶がたくさん並んでいる。
手術台のそばの床に首のない女性の死体がある。
まろんはその死体の前で寂しそうな目をしながら、ちょこんと座っていた。
やはりこれがまろんの胴体なのだろうか。
「まろん、おいで」
俺はしゃがんでまろんを抱き上げた。
そして胸に抱きかかえながら聞いてみた。
「これはまろんの体なのかい?」
81 :
ププ:2005/11/07(月) 18:42:30 ID:???
まろんはまた重たそうな頭を上下に振った。
明かりの下で見るまろんの顔は一層青ざめて見えた。
胴体と首の繋ぎめの生傷が痛々しい。猫の鼓動がドクドクと激しく脈打つ。
生きているのが不思議なくらいだ。
「そうか、猫の心臓で人間の脳味噌に十分な血液を循環できるだけの
能力があるはずがないな。だからなのか。」
俺は無造作に床に放置されたまろんの裸体を手術台に上げた。
まろんは俺の腕の中で遠い目をしながら自分の体をぼんやりと眺めていた。
82 :
ププ:2005/11/07(月) 18:43:28 ID:???
まろんを手術台に乗せると、俺はとりあえず脱出路を確かめるため
部屋の入口に向かった。
そしてカードリーダーに自分のカードキーを差し込んでみた。
変化はない・・・。専用カードキーじゃないと開かないようだ。
「くそっ」
吐き捨てるように言うと、俺は部屋をもう一度見渡した。
入口と反対側にもう一つドアがある。
「ここから出られないのだろうか?」
その扉にはカードリーダーはなかった。ドアのすぐ脇のボタンを押すと
何の造作もなくドアは横にスーッと開いた。
83 :
ププ:2005/11/07(月) 18:44:17 ID:???
もう一つの部屋がある。
部屋の入口にある電気のスイッチを押し、明るくなった部屋を見渡してみた。
2chの仕事場とほぼ同じ作りになっていた。
スクール形式でデスクが10台ほど並んでおり、そのデスクの上にはノート型の
PCがそれぞれ置かれていた。ただ俺が今まで見た『ラウンジ』と『神社仏閣』とは
異なる点が一つあった。ノートPCの脇にセットになって水槽が並んでいる。
水槽の中には、何やら丸い物体がそれぞれ入っている。
84 :
ププ:2005/11/07(月) 18:46:12 ID:???
「何だろう?これは」
近くのデスクに近づいてその水槽を確かめてみた。
「これは人間の脳じゃないか!」
脳は恐らく培養液と思われる液体に浸されていた。水槽の中の台の上に
乗せられた形で脳は納まっていた。その水槽の後ろから配線らしきものが
伸びており、それはノートPCへと繋がっていた。
PCのモニタには2chの画面が表示されていた。不思議なのは、人もいないのに
淡々と文章が書き込みされ、自動でリロードされている事だ。
周りのPCを見渡しても同様に「書き込み」→「リロード」が繰り返されていた。
85 :
ププ:2005/11/07(月) 18:47:56 ID:???
「ま、まさか、これは水槽の脳が書き込みしてるのでは・・・」
状況から判断するに、そうとしか思えなかった。
ふとPCのモニタの脇にテプラが張ってあるのを見つけた。
【#004:saki/lobby:○○○○】
「まさかこれが固定だというのか?」
俺は慌てて一つ一つのPCのテプラを調べた。
やはりあった・・・entrance
それにはこう書かれてあった。
【#008:corn/entrance:オルテガ】
86 :
ププ:2005/11/07(月) 18:48:55 ID:???
「この脳があのオルテガだというのか!?」
俺の存在に気がついているのすらわからないだろうその『オルテガ』は
ただ淡々と書き込みとリロードを繰り返していた。
「なんなんだ?この部屋は!」
俺は唖然として再度あたりを見渡した。
この部屋で殺された(?)誰ともわからぬ固定達が2chをコントロールしている。
俺は『脳味噌だけになった人間』と遊んでたというのか?
ふと『オルテガ』の隣を見ると、モニタが映っていないPCがあった。
そしてそのPCを操作するであろうと思われる水槽の中には
何も入ってはいなかった。だがPCにはテプラがしっかりと張ってあった。
そこにはこう記載されていた。
【#009:corn/entrance:ププ】
87 :
ププ:2005/11/07(月) 18:50:07 ID:???
※ ※ ※
緊急会議の終わった社長室で西村は各サーバーへのアクセス状況をチェックしていた。
「むう…。日に日にアクセス数が少しずつ減ってきてるな。
それよりもアクセス数と書き込み数との乖離が大きくなってきている。
ROMが増えてきているのか…。何とかしないといけないな。」
西村はデスクの引き出しを開け「うまい棒」を取り出し、口に咥えたまま
腕組みをしながら空中を見つめ考えていた。
「ただ書き込み数を増やすだけの、空気的存在の『プロ名無し』でも雇うか。
なるべくクセのない奴を・・・。」
88 :
ププ:2005/11/07(月) 18:50:53 ID:???
西村はPHSを取り電話をかけはじめた。
「ああ、俺だ。ちょっと変わった『プロ』を入れたいんだが
今どこのジャンルが弱いか教えてくれ。一人追加する。
……ふむ。【漫画・小説等】か。わかった、そこにしよう。
明日スカウトに行くから、よさげな人物のリストを
IP毎にまとめておいてくれ。あと明日の車の手配をよろしく。」
側近に指示をすると、西村はPHSを切って胸のポケットに入れた。
「とりあえずリスト待ちだな。
たまには下のバーで飲むか。固定達と酒でも酌み交わしながら
近況でも聞く事にしよう。」
西村は部屋の電気を消し、エレベーターへと向かった。
89 :
ププ:2005/11/07(月) 18:51:51 ID:???
※ ※ ※
「これは俺用の棺桶…。死んでも2chに書き込み続けさせるための棺桶。
人間は機械じゃない!ひろゆきめっ!元々俺を殺す気でいやがったなっ!」
俺はその水槽を見つめながら狂人のように叫び、その俺の名前が刻印された
PCを床に投げつけ破壊した。
あの日、プロ固定にスカウトしてくれた西村を尊敬の眼差しで見ていた俺は
もうすでにいなかった。あるのは殺意にも近い憎悪だけだった。
「このビルは狂ってる…。絶対に潰してやる!」
いつのまにか、ドアの入口でまろんが悲しそうに俺を見つめていた。
90 :
ププ:2005/11/07(月) 18:53:16 ID:???
「こんな風になってまで、2chに書き込みして楽しいかい?
そんなわけないよな………。」
返事など返ってくるはずもない『オルテガ』に俺は独り言をつぶやいていた。
『オルテガ』は画像晒し系スレッドで「もっと晒せぇえええ!」と
延々と書き続けていた。
ふと画面がピタリと止まり、書き込みが止まった。
「どうしたんだろう?」
書き込み欄に文字が入力されていく…。
『オルテガ』が脳味噌だけになっても生きている証がそこにはあった。
たった一言、"コロシテクレ"と…。
91 :
ププ:2005/11/07(月) 18:54:09 ID:???
書き込みボタンが押される前の状態で画面は止まったままだった。
「そんな姿になっても俺がわかるのか?俺にお前を殺せというのか?」
画面に変化はなかった。『オルテガ』は待っていた。
「そうか、わかった。自分ではどうする事もできないんだな。
一生死ねないまま、このままなんて嫌だよな。
今、楽にしてやるから。もう安らかに眠れ。
できれば生身の人間でご対面したかったよ……。」
その水槽の『オルテガ』をじっと見つめながら、俺はそれでもまだ
実行できずに戸惑っていた。
92 :
ププ:2005/11/07(月) 18:54:53 ID:???
しばらくして画面が動かないままのモニタを見つめ俺は決心した。
そしておもむろにPCの電源を強制的に落とし、水槽の後ろにある
生命維持装置らしき機械の電源を落とした。
「おやすみ、オルテガ……」
複雑な気分だった。まるで植物人間状態になった患者の生命維持装置を
止めてしまったかのような後ろめたい感情に俺は苛まされた。
俺はしばらくその場に立ちつくしていた。
93 :
ププ:2005/11/07(月) 18:56:02 ID:???
ふんぎりをつけ、まろんのいる入口のほうに向かおうとして俺は足を止めた。
他のすべてのPCの画面がピタリと止まっており、その書き込み欄には
『オルテガ』と同様に、人間としての最後の意志が書かれてあった。
「そうか……。皆、同じ気持ちなのだな。」
俺は『オルテガ』対して行なったように、屍と変わらぬ固定一人一人に
同じ供養をしてまわった。そして最後に部屋の中央で両手を合わせ黙祷した。
「安らかに眠ってくれ。このビルは俺が必ず滅ぼす…。」
ふと足音に気がつき目を開けると、部屋の入口に一人の男が立っていた。
「見てしまったアルネ。ププさんとやら。」
94 :
ププ:2005/11/07(月) 18:57:05 ID:???
ドアの入口には一人の東洋人が立っていた。
その顔立ちは日本人とは、やや違っていた。
その男は左手でまろんの首だけを無造作に捕まえていた。
「ウウウウウウ……。」
まろんは体をよじらせてバタバタともがいていた。
「何をそんなに驚いているアルカ。ププさんとやら。
よくもキムの実験の邪魔をしてくれたアルネ。」
「誰だ、貴様!まろんを放せ!」
「オマエにそんな事言う権利ないアルヨ。」
キムはそう言うと、黒光りする拳銃をポケットから取り出した。
95 :
ププ:2005/11/07(月) 19:16:23 ID:???
「とりあえずここ出るアルヨ。
おっと、両手を頭の上に上げるアルネ。」
キムは右手に拳銃、左手にまろんを掴み
俺に銃口を向けたけたまま俺の背後に回り
手術室の方に歩くよう背中に銃口をつきつけた。
「そこの壁に向かって両手を挙げたまま立つアルヨ。」
俺は言われるままその異様な部屋を出て、両手を挙げたまま
手術室の壁にへばりついた。
キムはそのままデスクにある椅子に座ると、左手でまろんを掴んだまま
膝の上に乗せ、右手で拳銃を握り銃口を俺に合わせていた。
96 :
ププ:2005/11/08(火) 06:53:44 ID:???
「西村さんがあんな事でキムを呼び出したりしなければ
今頃はオマエも水槽の中だったはずアルヨ。
ちょっとだけ長生きしたアルネ。」
「ひろゆきから俺を殺せと命令されたのか?
あの水槽の脳は何だ?今まで何人殺した?貴様。」
俺は壁に向かったまま首だけをひねる格好でキムに質問した。
「『殺す』ねえ…同じようなものアルけど。
脳味噌は死んでる事になるアルかね?クククッ」
キムはいやらしい笑いをこぼした。
97 :
ププ:2005/11/08(火) 06:54:30 ID:???
「冥土の土産に教えてあげるアルヨ。
あれはオマエと同じで使えなくなったプロ固定の慣れの果てアルヨ。
わざわざ仕事場で書き込みさせるほどの価値もないから
脳だけ働かせてレスさせてるアルヨ。
まだ実験段階だったアルけどね。
人間と違ってタイプする必要もないから書き込み速いアルヨ。
連続投稿も下手なスクリプトよりも速いアルヨ。
ププさんとやらも競争してみるアルカ?アハハ。」
キムは声高々に笑った。
98 :
ププ:2005/11/08(火) 06:55:14 ID:???
「まろんを何でそんな風にした?それもひろゆきの命令か?
気狂いめっ!貴様っ!地獄へ落ちろ!」
俺は怒りに震えていた。こめかみの血管が切れんばかりだった。
「んー、この女も元々水槽行きだったアルヨ。
ただキムがお気に召してしまったアルヨ。
ちょっと悪戯しようとしたら暴れるから、頭にきて
猫とくっつけてあげたアルヨ。そしたらおとなしくなったアルネ。
アハハハハ。可愛いまろんたん、アハハハハ。
そうだ、ププさんとやらにいいもの見せてあげるアルヨ。
そのままおとなしくこっち向くアル。」
言われるまま、俺は手を挙げたまま後ろに振り返った。
99 :
ププ:2005/11/08(火) 06:55:50 ID:???
部屋の入口の隅のデスクの椅子にキムが座っている。
俺はちょうどその反対側の壁にひっついたように両手を挙げて立っていた。
キムは右手で拳銃を持ち俺に向けながら、まろんに話かけた。
「手を放すから逃げたら駄目アルヨ。
ちょっとでもおかしな動きしたら、あの男死ぬアルヨ。」
キムはそう言うと、まろんを一旦床に下ろした。
まろんはその場でじっと座り俺のほうを見つめていた。
その小さな体はブルブルと震えていた。
キムは右手で銃口を俺につきつけたまま、左手で自分のズボンを下ろしはじめた。
100 :
ププ:2005/11/08(火) 06:56:35 ID:???
「まろんた〜ん、いつものお食事の時間アルヨ〜。」
そういうと、キムは下半身全裸のまま、まろんを拾い上げ
自分の膝の上に乗せた。そしてキムは俺にわざと見えるように
右肩を俺の方に向け、椅子を90度回転させた。
右手は拳銃を持ったまま、標的を変える事はなかった。
「貴様ァアッ!何をするっ!絶対殺すっ!死んでも殺してやるっ!」
俺はぶち切れていた。
「アハハハハ。どうぞ殺すアルヨ。その前にオマエが動けるアルカ?」
キムはそういいながら、俺の目を見て、再度銃口をつきつけた。
101 :
ププ:2005/11/08(火) 06:57:20 ID:???
「そろそろ食べていいアルヨ。まろんたん。
怖がらなくてもいいアルヨ。いつも通りにすればいいアルヨ。」
キムは左手でまろんの頭を撫で回していた。
その異物の数センチ前で、まろんは石のように固まっていた。
まろんは、決して俺のほうを見ようとはしなかった。
「まろん!やめろ!何やってんだ!」
「ププさんとやら、何ならそこで自家発電してもいいアルヨ。
楽しいショータイムの始まりアルヨ。クククッ。」
102 :
ププ:2005/11/08(火) 06:58:02 ID:???
……
まろんがその異物を口に含んだ。
体のサイズに合わない不均衡な頭が小刻みに揺れている。
「そうそう、うまくなったアルネ。教え込んだかいがあったアルヨ。
上手上手。後でまたお食事あげるアルネ。
これがほんとのオナペット。アハハハハ。
なかなかこれ便利あるよ。ちっちゃくて可愛いアルし。
ププさんとやら、何なら貸してあげるアルカ?アハハハハ。」
まろんは水飲み鳥のように、機械的な動きを繰り返していた。
103 :
ププ:2005/11/08(火) 06:58:47 ID:???
「貴様!ぜってえ、ぶっ殺す!!!」
そう言いかけ、俺がキムに飛び掛かろうとした瞬間
ガァーーーーーン
弾丸が俺の右頬をかすめた。頬を血がツーッと流れるのがわかる。
「次は威嚇じゃないアルヨ。本当に殺すアルヨ。黙って見てるアルヨ。」
キムが険しい顔で俺を睨み、また俺の脳天に銃口を合わせた。
「ププさんとやら、そんなに死にたいアルカ?」
俺は反射的に壁際で立ち竦んでいた。
「くそっったれ!!!この気狂いがっ!」
104 :
ププ:2005/11/08(火) 06:59:26 ID:???
……何かこの状況を打開する方法はないものか?
俺はそればかり考えていた。武器になるもの…何かないのか。
部屋を見渡し、手術台の脇のテーブルにキラリと光るものがある。
メス……あれさえ手に入れられれば。だがこの状況でどうやって…
「まろんた〜ん、そろそろ我慢できなくなってきたアルヨ。
準備はいいアルカ〜?。」
まろんの反復運動が大きくなりはじめた、その直後
「ギャアアアアアアッ!」
105 :
ププ:2005/11/08(火) 07:00:22 ID:???
キムが叫び声をあげると同時に、俺は反射的に手術台脇のテーブルに
身をひるがえしていた。体が本能的に動いていた。
そしてメスを右手に握ると、一直線にキムに飛びかかっていった。
「このクソアマぁああっ!」
キムはまろんの頭をを両手で掴むと、そのまま床に思いきり叩きつけた。
ゴンッ
その鈍い音がするかしないかのうちに、俺はキムの右手に切りかかっていた。
「貴様ァア!!!」
拳銃がキムの右手からこぼれた。直後、俺はキムの喉元にメスを突き刺した。
「ギャァァアアアッ!!!」
俺は何度も何度も、キムの喉元をメスで刺しまくった。
真っ赤な鮮血が俺の顔面に振りかかる。赤いカーテンで視界を遮られながらも
俺の右手はキムの首を刺し続けていた。
わずか数秒の出来事だった。
キムは、もう、動かなくなっていた…
106 :
ププ:2005/11/08(火) 07:01:02 ID:???
………
目の前に、動かなくなった男が一人。動かなくなった猫が一匹。
俺はその場にしゃがみこんでいた。
危機を脱出した安堵感など感じる余裕もなく、ただ自分が何をしていたのか
理解できず、呆然としているだけだった。
まるで、ついさっきまでの出来事が、作り物の映画のように感じられた。
「俺が殺したのか…?俺が?……」
俺は動かなくなったまろんを抱き上げた。
口から噛みきられた異物を取り出し、血でそまった唇でキスをした。
「まろん……俺のために……」
もう、まろんからうめき声すら返ってくる事はなかった。
それは、もう、ただの猫の死骸でしかなかった。
107 :
ププ:2005/11/08(火) 07:01:40 ID:???
俺は立ちあがり、まろんを抱きかかえ、手術台に向かって歩き出した。
そして、手術台に乗っている『まろん』にその猫をそっと乗せた。
「自分の体だよ……。もうゆっくり休んでいいんだよ……。」
まろんを見つめながら、俺は赤い涙を流していた。
何故泣いているのか、自分でもわからなかった。
「まろん、さよなら……。」
冷静さを取り戻した俺は、近くにあったタオルで血染めの顔を拭いた。
「この館を滅ぼさねばならない。」
今、頭にあるのはそれしかなかった。
キムの胸元からカードキーを取り出し、難なくドアを開け
俺はその忌まわしい部屋を後にした。
108 :
ププ:2005/11/08(火) 07:02:17 ID:???
エレベーターに向かおうと思ったが、ふと踏みとどまった。
「この格好で見つかったのでは、さすがにマズイ。」
いくら顔に飛び散った血を拭いたとはいえ、衣服にも相当の血が飛び散っている。
「階段で部屋まで戻ろう。フロアのどこかにあるはずだ。
そもそも、ここは何階なのだ?」
周りに気をつけながら、エレベーターとは逆の方向へそろそろと歩き出した。
人の気配は感じられない。ここは地下なのか?
通路を奥へ奥へと歩くと、階段へ続くと思われる扉にぶちあたった。
扉を開けると、果たして、階段があった。振りかえって扉を見ると「B2」と書いてある。
「ここは地下2階なのか。」
誰にも会わない事を祈りながら、俺は自分の部屋のある6階へと急いだ。
109 :
ププ:2005/11/08(火) 07:02:58 ID:???
幸い、俺は誰にも会う事もなく、無事6階まで階段をあがる事ができた。
そうっと6階の階段の扉を開け、あたりをうかがった。
よしっ、誰もいない。
612号室はエレベーターの目前にある。誰に会うかもわからない。
俺は扉を開けると、全速力で自室まで戻り、鍵を開けると、すかさず部屋に飛びこんだ。
「ふうっ…」
ベッドの時計は22:00を表示していた。
とりあえず、俺はシャワーを浴び、ついさっきの悪夢を振り払うように
血のりを洗い流した。バスルームの床が赤く染まっていく。
シャワーを浴びながら、俺は考えていた。
「あの男を殺した事は、遅かれ速かれ、気づかれる。
動くなら、今しかない……。
俺、一人では無理だ。この計画を遂行するには仲間が必要だ。
ラウンジのみんななら、わかってくれるはずだ。
だてに俺もマジレスしてたわけじゃない。信じてくれるはずだ。
この館が狂っている事を……。」
110 :
ププ:2005/11/08(火) 07:03:36 ID:???
俺はシャワーを出ると、椅子にどっかと座り、煙草をふかした。
目を閉じ、ここに来てから今までの事を回想していた。
「ひろゆきのやっている事は間違っている。
プロ固定はわかる。板の活性化にはやむを得ないとも言える。
だが、あの地下で見た脳味噌だけの固定は何だ?
人間としての存在すら剥奪してまで、2chの奴隷としたいのか?
そこまで2chの運営を合理化したいのか?人間を何だと思っている。」
紫の煙をくゆらせながら、俺は憤慨していた。
「ひろゆきを殺ろう。アイツさえ殺せば……。
二度とこのようなキチガイじみた掲示板を復活させてはならぬ。
サーバーもすべて破壊せねばならぬ。」
111 :
ププ:2005/11/08(火) 07:04:19 ID:???
「まずはラウンジの有志を固めよう。」
俺は煙草を消すと、服を着て『ラウンジ』に向かう準備を始めた。
「今の時間なら、開店寿司やサクラメント、ハピがいるはずだ。
あいつらなら、俺の話も真面目に聞いてくれるだろう。
今こそ、ラウンジャーが蜂起せねばならん。
俺には頼る板はあそこしかないんだ。」
俺は何食わぬ顔で廊下に出た。周りには誰もいないようだ。
俺はエレベーターに乗りこみ、「2」のボタンを押し、扉を閉めた。
2階に着き、懐かしい『ラウンジ』へと向かった。
たかだか1週間なのに、遠い昔のように感じられた。
「ここしか頼るところはないんだ。」
そう胸に思い、懐かしいその部屋のドアを開けた。
112 :
ププ:2005/11/08(火) 07:05:15 ID:???
ドアを開けると、何故か期待していたメンバーはそこにはいなかった。
「あれっ?夜組は?」
そう、そこにいたのは、うにとリフ・ラフだったのだ。
「あらっ?ププ久しぶりね。どう?寺社仏閣板は?
なかなか楽しそうな環境でうらやましい事だわ。」
うにはPCを離れ、立ちあがりこちらに歩いてきた。
「ああ、おかげさまで元気だが……。
それより、何故昼組の君達がこんな時間に?
もう就業時間は終わってるんじゃないのか?」
「今、ラウンジも倦怠期に入っているから、昼夜のメンバーを逆転させられたのよ。
昼組、夜組で分けると、板が固まってしまうからって。ひろゆきの命令なのよ。
まあ、私もここに来る前は夜に来る事もほとんどなかったから
なかなか楽しいわよ。リフはどうも体が慣れないらしくて
ほとんど仕事してないに等しいようだけど。ウフフ。」
「そうだったのか。俺は全然知らなかったよ。」
「ところで、どうしたの?ラウンジが懐かしくなったわけ?」
うには、さも俺を蔑むようかに、いつもの言いまわしで俺に話しかけた。
ほ