大事だったあの人に『ありがとう』を言わないか？

ドンが死んだ。7歳から19歳の今日まで我が家の片隅で繋がれていた
真っ黒の雑種で愛嬌が少しもない犬の話だ。
今日、口から舌を垂らしていつもの場所で死んでいた。
この5年間俺は全然ドンを顧みなかった。散歩に連れて行く事もなく
エサすら母親まかせにしていた。


俺はドンの死を母親から聞いた瞬間「ああ、そうか・・」としか
思えなかった。何の感慨も沸かなかったんだ。それを見た母親は
俺を優しさのない人間となじった。

そんな今日の夕方ドンのお墓を一人スコップで掘っていた。
掘り進むに従い俺はドンが本当にもう二度と動かない事にそこで始めて気づいた。

そういえば、子供の頃はよくシャボン玉でドンと一緒に遊んだ。
ずるずる引っ張られながらも散歩へ出かけ土筆採りをしたもんだ。
首輪がはずれ家から居なくなったときには夜も眠れなかったな・・・

でも俺はいつしか自分のことにしか頭が回らなくなっていた。受験勉強に
追われ、部活のレギュラーを採る事とかそんなことでもういっぱい
いっぱいだったんだ。お前のことを顧みる余地がなかったんだ。

いつしか俺はスコップを手にしながらここ5年で始めて声を上げて泣いていた。
ゴメンよ。ドン。許してもらおうなんて思わない。俺は動物一匹
すら飼う資格のない人間だ。もうお前以外の動物はもう飼わないよ。
でも出来ればもう一度お前にあって思いっきりお腹をなでてやりたいよ。
もうお前は尻尾をふって俺を出迎えてくれないんだね。
ああ・・そんあことよりお前は俺を憎むだろうか。
本当にゴメンよ。ドン