感傷的な空気に影響されたのかもしれない。卒業式という非日常のイベントが、私達の気持ちを高揚させるのを期
待していたのかもしれない。そういった理由によって、すでに蒸し返す必要があまりないそのことを、無駄に重要視
し始めたのかもしれない。私は変な焦燥感に駆られていた。
もう思い出しさえするな、という気持ちと、今日解決せずにいつ解決させる?という気持ちが同時に私の中に存在し
ていた。私にはどちらがよりまともな方法なのか、すっかり分からなくなってしまった。どちらも同じくらい正しくて、
同じくらい間違っているような気がした。
おかげで起立や着席のタイミングが何度か遅れてしまった。それがさらに私の焦りを強くした。少しでも気を抜けば、
誰かが壇上で喋っている途中にも、つい叫び出してしまいそうだった。将来この日を思い出すたびに、土壇場になっ
て焦り出したことまで思い出すんだろうな、と思った。
今日、Sと二人きりになる機会があれば言おう。考えあぐねた結果、式も終盤に差し掛かったころにそう決めた。状
況に判断を任せることで、少しでも私の負担を少なくしたかった。もうこんなことをいつまでも、いじいじと考え続け
たくなかったから。でも、それも今日で終わらせよう、そう思った。
Sと二人きりになる、というのはどう考えてもかなり確立は低い、と自分でも思っていた。わざと起こり難い条件を課
したのも、本当はまたトラブルを起こしたくない、という弱気な意思の仕業だ、ということは自分でもよく分かってい
た。だからといって、私は私の意思の弱さを責めることはできなかった。
誰だ
誰だ
私は、自己嫌悪も含めた全ての感情を抑えようと躍起になった。覚悟を決めようとする意味もあったし、現実にSと二
人きりになったとき、極力無感動で無表情のまま話すべきことを話したかったから。感情に任せて言いたいことを言
いたいだけ言ったなら、私はきっと後悔する。そんな感じがした。
仮に条件が揃って私が話さなければならなくなっても、冷静さを保ってさえすれば、これが後々いい思い出になると
は考えていなかった。全ては私の言葉を聞いたSの出方次第だ。私はただ誰かが条件を揃えるのを待って、揃いさ
えすれば私が一番良いと思う方法でそれに臨み、また誰かの判断を待つだけだった。
式は何事もなく無事に終わった。在校生たちによって体育館の後片付けが行われた後、今度は親達を含めた謝恩
会が始められた。厳格な卒業式とは違って終始和やかなムードだったけど、私はそれがいつ私の肩を叩いて私に
行動を催促してくるのか、辺りを警戒しながらびくびくしていた。
時間が経っていくに連れて、私に求められる行動のためのエネルギーが、どんどんと減っていくような気分だった。
生殺し、というのだろうか、いつまで経っても、一向に私とSとが二人きりにされるような状況は訪れる気配すらなく
て、まさにそんな感じだった。
謝恩会の最中、私は一度もSの姿を見なかった。あれだけ辺りに気を配っていたはずだったのに、不思議と私の視
界にSの姿を捉えることがなかった。もしかしたらSは、私の計画に感付いて意図的に私から逃れていたのではない
んだろうか?なんてことまで考えたりもした。
そんなことはあるはずもなく、ただ単純に見過ごしていたか、もしくは私が無意識に見ないようにしていたり、もしSの
姿を目にしても、見なかったことにして処理していたのかもしれない。Sが視線から逃れていたとしても、私が自分の
都合のいい解釈をしていたとしても、とにかく私はSを見なかった。見付けられなかった。
しかし、雑然とした人波の中からSの姿を見付けたからといって、それが私をいい方向へと連れて行ってくれただろ
うか?多分焦りや苛立ちというような、ネガティブな感情を逆撫でするだけだったと思う。理由がどうであれ、私とSが
二人きりになる機会はここまでなかったのだから、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
謝恩会が安全だと悟ると、私は次の機会の可能性について考えを巡らした。あらゆる場所とタイミングで、私とSがば
ったり遭遇する確立はゼロではなかった。けれど、具体的なイメージを駆り立てられるほどリアルな想像はできなか
った。どんなに低い確率だろうと、起こるときは起こる。そうとしか言えなかった。
そんな私とは関係のないところで、会は滞りなく進行していったようだった。ときどき聞こえる周囲の音に合わせて、
私も拍手をしたり笑い声を上げたりした。誰かが代わる代わる壇上に上がっていろんな話をしていた。ほとんど耳
に入ってこなかった。
けれど、上の空で話もほとんど聞いていなかったとしても、謝恩会が続いている間は私は安全だった。来るか来な
いかはっきりしないことで悩んだり、実際そうなったときのことを想像したり、また失態を繰り返すんじゃないかと杞
憂したり、とにかく考えるだけで済んでいたから。
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エロシーンまーーだーー?(チソチソ AAry
考えれば考えるほど意気込みが削がれていき、同時に可能性の現実味もあせていくような気がした。このままずっ
と会が終わりを迎えることなく、私もずっと考え続けるだけでよかったのなら、相当の時間が過ぎさえすれば迷い自
体が消えてしまうのかもしれなかった。
周囲の音が急に大きくなったような気がした。すでに誰かが始まったときと同じように壇上に立って、一方的に会の
終了を宣言した後だった。座ったままお喋りを続けていたり、人ごみの中をゆっくり歩き回ったり、さっさと出口に向
かったり、みんな思い思いの行動を取り始めていた。また私は変な焦燥感に駆られた。
次第に人が減っていく体育館に残っていた方がいいのか、出口に向かう人ごみにまぎれて退場した方がいいのか、
私には分からなかった。それが起こるべくして起こるのなら、それは私がどういうことをしようと向こうからやって来る
ような気がして仕方なかった。
私は立ち上がった。下手に動き回りたくはなかったけど、辺りの雰囲気に飲まれて体が勝手に動き出した。頭の中
もそわそわしていた。どこへという目的もないまま、私の足は歩き始めた。歩きながら私は、だんだんどうでもいい
ような気になってきた。誰かが私にやりなさいと言うのなら、やりますと答えよう。それでいい、と考え始めていた。
相変わらずSの姿は見付からなかった。周囲の人達も、自分たちのお喋りに夢中なようで、私を気に留める様子は
なかった。卒業式の終わりだというのに、嫌に華やいだ雰囲気だったのが印象的だった。それは式自体が悲壮感
で包まれているものだ、という思い込みよりもむしろ、私の心理状態が影響していたのかもしれない。
ふいに後ろから声をかけられ、同時に肩を叩かれた。私はいきなり引き戻されたような気がした。恐る恐る振り返る
と、同じクラスだった女子が3人立っていた。彼女達は私の驚きように一瞬怪訝な表情を浮かべたけれど、すぐに用
件を話し出した。この後クラス全員で卒業パーティーやるから、6時に××集合よ。遅れず来てね。
会話はちゃんと改行して「」で収めたほうが見やすいよ。
そんな・・・
私が心配していたものとは違うと分かって安堵するのと、彼女達が要件を告げ終わるのがほぼ同時だった。3人は、
絶対よ、と念を押して早々に私から離れていった。彼女達が片っ端から同じクラスだった人達を捕まえては、一方
的に用件を告げて立ち去ることを繰り返すのを眺めながら、私はやっと告げられたことを理解できた。
私も含めて用件を告げられた人達には、3人は初めから選択肢を与えていなかった。こんな素敵な申し出をむげに
断る人なんかいない、と思っていたのか、それとも用件を言うだけ言ったら、あとは来るも来ないもどうでもよかった
のかもしれない。企画自体よりもちょっと強引な勧誘の方法に、私は少し気後れした。
私がSに対して今からやろうとしていたことも、Sに選択の余地を与えない種類のことがらであることに変わりなかっ
た。それを偶然私とSが二人きりで居合わせたら、という条件で、本来の姿を曖昧にしているだけのような気がしてき
た。つまり、Sのためにそうしたいのではなく、私はただ私の不満を解消したいだけなのではなかったのか、と。
3人組の勧誘には、まだ断り直したり最悪すっぽかすという手段があった。だけどSには、偶然的条件が揃ってしま
えばあとは私の気持ち次第で、S自身がそれを望まない場合の回避する方法がなかった。しかも私がそんなことを
計画しているということも、Sは知っているはずがなかった。
スレタイエロイ
小学生の唯一のオカズみたいな名前だ
私は真面目に私とSの問題を解決するつもりだった。私が誠意を持ってSに伝えれば、きっと分かってくれると思って
いた。せっかく戻ってきたSとの親交が絶たれるかもしれない、というリスクに悲劇のヒロインでも気取っていたせいな
のか、私は私のやろうとしていることが見えていなかった。
Sが以前私を意図的に避けたように、私もSに親交の終わりをちらつかせながら、私の要求を飲ませようとしていた
のだ。さらに騙し討ちのようにしてこそこそ計画を立て、しかもその計画の実行を自分の意思でなく状況に一任した
つもりにして……。いや、もしかしたら私は、Sに仕返しがしたかっただけかもしれない。