1 :
名無しさん?:
去年 の 夏 の 出来事
いまでも ときどき
終了
ふぉーえばーやんぐ
4 :
名無しさん?:03/07/31 23:38 ID:eAyYO7Y1
4だったら男塾で抜く
8 :
財前直見 ◆rQZAI00002 :03/07/31 23:38 ID:MCKrL54z
10 :
名無しさん?:03/07/31 23:41 ID:eAyYO7Y1
鬼髭の口=マ○コ
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去年の夏、私とSは16歳だった。
今年の夏、私は17歳で、Sは16歳のままだ。
私は日がな照りつける日差しの中を歩き、Sは光の届かない土の中にいる。
未だに私は、Sがいなくなったことを正しく認識していないのかもしれない。
近頃になって思うのは、きちんと彼女の葬儀でSの死に顔を
確認しておけばよかった、とか、せめて彼女の葬られた墓の位置くらい
知っておけばよかった、というようなことだ。
14 :
山崎 渉:03/08/02 00:08 ID:???
(^^)
15 :
山崎 渉:03/08/02 05:23 ID:???
(^^)
Sは去年の夏、無免許運転の男友達の車に乗り、
ダッシュボードで顔をぐちゃぐちゃにして、
5時間あまりも苦しみぬいた末に、死んだ。
Sの家族は葬儀が済んだあと、早々に家を引き払って
どこかに移ってしまった。いろいろな噂が私の耳にまで入ってきた。
どこに引っ越して行ったのかは、もちろん誰にも分からない。
保守はスレへの信任票
保って守ろうスレ一つ
地方紙に小さく記事が載った。死んだSの名前は報道されたが、
運転していた無免許の男友達の名は知らされなかった。
きっと、まだどこかで静かに生活しているのだろう。
今更彼をどうこうしようという気は全くないし、
それは私の役目ですらない。
会ったこともない彼も、多分未だに背負い続けていると思う。
顔も知らぬSの男友達よりも、私はむしろS自身に対して憤りを覚えた。
憤り、という言葉で分類できる類の感情とは少し違うかもしれない。
ときどき、ふとした拍子にSのことが浮かんでくると、少し考えてみたりもするが、
今でもよく分からない。そして、そのよく分からない憤りのような感情は、
今も私の中に存在し続ける。
葬儀の日、私は外へ出なかった。自分の部屋に篭ってSのことを考え続け、
明日になったらもうそれ以降、2度とSのことを思い出さない、イメージもしないと
決めた。葬儀にも出ず、墓参りにも行かず、思い出しもしない。それが
私の中にある、憤りのようなものを静めるための方法だと思い込もうとした。
23 :
山崎 渉:03/08/05 12:57 ID:???
(^^)
しかしSの残影は、そんな私の決意を嘲笑うようにしばしば私の頭の中に現れる。
そのときのSは、彼女の生涯における様々な容姿をもって浮かび上がってくる。
幼稚園時代のS、小学校時代のS、中学校時代のS、それから何故か、私の
見たことのないはずの潰れた顔を持った最後のS。
やはり私は、Sの死に顔をしっかり確認しておくべきだった。どんなに酷い状態で
あったとしても、そうすることによって、私の中のSを確かに殺しておくべきだったのだ。
私は、Sが私の頭の中に浮かんでくる度、私がSを陵辱していることを自覚している。
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激しい衝撃が彼女の全身を覆い、Sの顔をダッシュボードに突き倒す。何とも形容しようがない
音と共に額が割れ、眼球が潰れ、鼻が折れる。皮膚が弾け、唇が千切れ、歯が折れる。
べっとりと血にまみれて表情もなくなった顔で、果たしてSは呻いただろうか。
もの凄い衝突音を聞いて、民家から住人が飛び出してくる。粉々に粉砕されたブロック塀と、
くしゃくしゃに潰された車をおろおろ見比べ、咄嗟に家の中に引き返して電話機を捕まえる。
やがて近付いてきたサイレンを、彼女は果たして聴いただろうか。
運び込まれたSを見て、医者は内心もう助からないかもしれない、と思う。Sは、彼女の口だった
穴から僅かに音を漏らす。Sの体は様々な機器に繋がれ、血塗れの顔にメスが入れられる。
室内に広がる鮮血の匂いが、徐々に死臭に変わっていく。医者が静かに治療室を出る。
所々しか照明のついていない寒々しい廊下で、頭を抱えて座り込んでいるSの両親を見て、
医者は一瞬たじろいで、己の役目を見失いそうになる。むしろ見失いたい、とさえ思うかもしれない。
Sの父親は、医者の表情を見た瞬間に訃報を悟るが、もしかしたら、と医者の口元に淡い期待を寄せる。
こうやって私は、私の中のSを何度も死なせる。
事故後しばらくは、中学校の同級生に会うたびにSの旧友としてのコメントを
求められたりもしたが、Sの家族が引っ越して2ヶ月も経つと、友人達の誰もが
Sの事を口にしなくなった。Sが社会的に死に絶えるまでの2ヶ月、これは
標準的な時間だったのだろうか。
世の事象の受け取り方、そしてその応対法は人それぞれだ。葬儀で泣く人もいれば
泣かない人だっているし、参列すらしない者もいる。それと同じことで、さっと
気持ちを切り替えられる人と、今でもちょくちょく夢を見てしまう人がいるのだ。
そうかもしれないが、私は私の事象をそんな乱暴な理屈で説明されたくない。
感受性がどうとか、人によって受け取り方が違うなどと言われても、私がSの事を
考えなくて済むようになるわけではないのだ。
あるいは時間が経てば、少しはましになるかもしれない。その可能性は大いにある。
むしろ期待すらしているところだが、本当にそうなるのかは誰にも分からない。
明日にはすっきりしているかもしれないし、墓場まで付いてくるのかもしれない。
どちらであるにしても、またはその両極の間に無数に存在する結果のひとつが得られ
るとしても、Sを抱え続けている今の私には関係ない。未来を予測するには私はまだ
未熟過ぎる。そして今、私に必要なのは未来予測ではなく、現状打破なのだ。
現状打破、などと言ってはみたが、果たして私はSの死に対してそこまで特別な
思い入れがあるのだろうか。もしくは何らかのダメージを負ったのか。
私が自身を内省してみた結果、そのような類の感情的理由は皆無に近いと思う。
では何故、Sの姿や彼女の最後の瞬間が頻繁に私の頭の中でリフレインされるのか。
Sの短い人生、その最後の瞬間に至っては、私がこの目で見たわけでもないのに。
そこまで考えてきて、やはり、と私はいつもの結論に至らざるを得なくなる。
Sは私を恨んでいるか、もしくは私がSを憎んでいる。
Sと私は、前述した通り幼稚園の頃からの幼馴染だった。私の家からSの住んでいた家まで
300メートルと離れていない。幼稚園の通園バスには同じ所から乗り、小学校の頃は
毎日一緒に登下校した。Sの家に遊びに行くと、Sの母親が手作りのおやつを出してくれた。
Sの母親は私のことをとても可愛がってくれて、私が両親と言い争いをして家を飛び出した
ときにも、私の両親へ電話を入れてSの家に泊めてくれた。今度はお父さんとお母さんに
泊まってきて良い、って言ってもらってから遊びにいらっしゃい。Sの母親はそう言って
翌日の朝に私を家まで送ってくれた。
中学校に入ってからは、それぞれ違う部活動を始めたせいもあって、彼女の家に遊びに
行ったり、Sが私の家を訪れたりする機会も少なくなっていった。しかし、たまたま私と
Sが登校中に出会ったりしたときや、帰り道にお互いの姿を見つけたときなどは、以前の
ようにお喋りをしながら歩いたものだった。
中学卒業後、私は地元の県立高校に進学し、Sは街の私立高校に入学した。私は毎朝
自転車でSの家の前を通って通学していたが、そのときに家から出てくるSの姿は
一度も見なかった。彼女は私立高校の進学コースに在籍していて、課外を受ける
ために早朝からバスで通学していたらしい。
52 :
さげ婆改:03/08/14 01:03 ID:???
50年も前の話なんで勘弁してください
53 :
周公旦:03/08/14 03:14 ID:???
709/709
54 :
グスタフ:03/08/14 03:20 ID:???
最下部にあったのであげてみました。ごめんなさい。さようなら。
お盆なので帰ってきました!
雑談スレはここですか?
牛乳飲めよ
イライラボーイ
ボーイと書けばみんな左眼か?(ワラ
反応してんなよカス
それぞれが新しい環境へと移り、私は私の、SはSの高校生活に追われて、しばらくは
互いに連絡を交わす暇もないくらいに忙しい日々を送った。私は中学校のときと同じく
バスケット部に入部し、Sは入学まもなくから朝夕の課外授業に邁進していたようだ。
高校生活にも慣れてくると、同じ中学の出身者たちが個々の学校でどうしているか、
などという噂が人づてに届いてくるようになった。Sの近況もそうやって知った。
他の同級生たちも皆元気でやっていたようだった。
64 :
山崎 渉:03/08/15 08:40 ID:???
(⌒V⌒)
│ ^ ^ │<これからも僕を応援して下さいね(^^)。
⊂| |つ
(_)(_) 山崎パン
そうしているうちにどこからともなく、出身中学の同級生たちで集まろう、という
言わば同窓会のような催しの計画が持ち上がってきた。その話を持ちかけてきた
同窓生のクラスメイトは、私に参加を促した後に、Sにも声をかけて欲しいと頼んできた。
Sへの連絡役は確かに私が適任だったが、しばらく顔も見ていないSにいきなり連絡を
しなければならくなって、少しばかり気後れした。つまり私は、用件を伝える際に
少なからず交わさなければならない、会話の話題を見付けられずにいたのだ。
ただ単に必要事項のみを伝えれば役目は果たせるのだが、それではあまりに他人行儀
すぎる様な気がした。といって、ある程度知り得ているSの近況を改めて根掘り葉掘り
聞きかえすのもためらわれた。さらに少し驚いたのだが、私は小学校や中学校のときに
Sとどんなことを話していたのか、すっかり忘れてしまっていたのだ。
少し会わなくなった程度で、これほどまでにSとの交友がギクシャクしてしまうとは
考えてもみなかった。いや、もともと私は人との交友というものをほとんど他人任せ
にして、自分から積極的にはたらきかけるということをしてこなかった。だから
新しい環境で、いくらか変化したSと会うのが怖かったのかもしれない。
つまり、変わったSは以前のようには私を受け入れてくれないか、もしくは私が
持っている対S用の受け答え方というか、対処法というか、そのようなものでは
もうSと打ち解けられないかもしれない、と思ったのだ。非常に狡猾な正確だと
自分でも思う。そしてその狡猾さは、今でもまだ私から消えていない。
他人に拒絶されるのが怖かった。だから相手の求めるままに身を任せてきた。
相手が求めるなら相応の受け答えはしたつもりだし、相手が望まないのならば
不必要な気遣いはしなかった。こういう態度が裏目に出たのだと思う。
そういう性分だから、ちょっとでも離れてしまった他人が私に対してどういう
応対をとってくるのかが、まるで想像もつかなかった。変わってしまった
Sのパターンを即座に読みとって、改めてそれに合わせることも考えたが、
完全に安心できる方法ではなさそうだった。
しかし、結論が出る前に大抵期限の方が迫ってきて、次第に使える手段が
限られて行き、結局方法がひとつになってしまって悩んだ意味がなくなる。
これもまた私の性分のひとつだ。狡猾さとの因果関係はよくわからない。
けれど根はきっと同じなのだ。
715/715 最深部へようこそ
去年 の 夏 の 出来事
いまでも ときどき
テスト
721/721
ぷ
ぷッ
そういうわけで、私は最終手段的なSへの連絡方法をとることになった。
つまり、制服のままでSが帰ってくる時間まで待ち、Sの姿を見つけたら偶然
私も今帰ってきてSの家の前を通った、という状況を装って話し掛けるのだ。
たかが幼馴染に話し掛けるのに、どうしてこんな細かい筋書きまで用意しな
くてはならないのだ。私はだいぶ気を滅入らせながらSの帰りを待った。
Sの反応は、私の記憶する限り特に変わっていなかった。私は計画どおりに
偶然を演出し、当り障りのない言葉を二、三交わしてから、「そういえば」
と用件を切り出した。
Sは「もしかしたら行けないかもしれない」とは言ったが、一応了承してくれた。
私は、数日間存在していた重責から開放されてほっとしつつ、「勉強がんばって」
というあまり気の利かない言葉をかけてからSと別れた。
保守
当日、私はクラスメイトと連れ立ってその場所へ行った。すでに何人か
集まっていて、その中には見なれた姿のままの者もいれば、著しく外見を
変化させている者もいた。参加したのは失敗だったか、という疑問が
頭を掠めた。
当初は困惑し、ぎこちない応対を続けていたが、同級生たちは内面的には
あまり変化していないらしく、警戒していたよりは割とすんなり打ち解ける
ことができた。といっても、もっぱら聞き手に回ることの方が多かったが。
いくつかのグループに分かれて雑談を交わしていた。1、2時間もすると
ちらほら帰宅し出す者が現れ始めた。塾の時間だったり、バイトの時間
だったり、単純に飽きただけだったりと、各々の理由で半分以上が帰っていき、
それらと入れ替わるようにSがやって来た。
その頃、会は次第にだれてきていた。小人数で排他的な話題を語らうグループが
2、3でき、いずれにもあぶれた者たちは所在なさ気に空を見たり、グループの
お喋りを聞くでもなしに聞いていたり、という構図が展開しつつあった。
私はとっくにSの姿を見つけていたが、第一声を掛けるのがためらわれたため、
他の者がSを見つけて声を掛けるのを期待して、気付かないふりをした。
案の定、誰かが彼女の姿を見つけ、大袈裟に驚いた声をあげた。
その声のおかげでSの来訪は全員に知れ渡り、「久しぶり」や「元気だった」
と、いろいろな言葉がSに浴びせられ、全員からの注目を受けた。Sは律儀に
それらの一つ一つに受け答えていた。
彼らはSとの応対が済むと、興味をなくした様にまた自分達の会話に戻って
いった。Sがその挨拶回りを終わらせたとき、Sは全員の真ん中で孤立していた。
彼女がそのことに気付いたのは、儀式めいたようなやり取りのあと、彼女が
何気なくその場に腰を下ろして一息ついたときだった。
私は連れ立って来たクラスメイトのいるグループに入っていた。相変わらず
ほとんど人の会話を聞いていただけで、たまに話題を振られたときにだけ
相槌を打ったり、頷いてみせたり、簡潔な返答をしたりしていた。
流れを読まずにage
そのように私は、グループのひとつに紛れ込むようにして混じっていたため、
Sを私のグループに招いていいものかどうか、そんなことをしたらグループ内に
かどが立つのではないか、しかしSに連絡して呼び出したのは私なので、Sの
ことを何とかしなければいけないのではないか、などと悶々としていた。
そういったことをしばらく続けていると、ふとした拍子に私と、孤立して
手持ち無沙汰にあたりを眺めていたSと目が合った。私は一瞬気まずくなって、
すぐにグループの輪の中に視線を戻した。それから少し嫌な気持ちになった。
Sは何気ない風を装ってそのまま私から目を逸らし、反対方向を眺め、
私のいる方向よりやや手前を眺め、空に顔を向けたあと、自分の足元の
地面を見つめ、そこで視線をさまよわせるのを止めた。
私は焦りながら、状況を一変させる方法を思案し始めた。Sと目が合って
しまった以上彼女に対して無関心を貫くことは、今以上にSと私の距離が
離れてしまい、今後どこかで本当に偶然に遭遇してしまったときに、ど
うしようもなくなってしまうことを意味すると思った。
思案するといっても、この場合の一番簡単な打開策はすでに私の頭の中に
存在していた。ただその決心を固めていただけだということもできる。
簡単なことだ、Sを私の所属するグループに引き入れてやればいい。
しかし、私が思案しているという名目の元に、台詞の内容や発言のタイミ
ングなどを図っているうちにも、どんどん時間が過ぎていった。Sはさっ
きの格好から変化していない。ずっと俯いていて、私には彼女がどんな
表情を浮かべているのか、はっきり確認できなかった。
単純に考えて、一番スムーズにSに声を掛けられるのは、このグループの
中での会話が一旦途切れたときだろう。しかも途切れた途端に、急いて
声をかけるのではなく、可能な限り自然に、あたかもSの置かれた立場を
たった今把握した、という風に装わなくてはいけない。
だが、だいぶ時間が経過した今になって、白々しくそういった形で声を
かけるのもためらわれた。決心やタイミングなどを考えれば考えるほど、
どんどんその機会を逃していっているような気がした。
あぼーん
タイミングは唐突にやって来た。見事なまでに何の脈絡もなく会話が途切れた。
皆会話が途切れたことを知ると、一息ついて周りを見たり、次の話題を探して
みたりしていた。私は何気ない様にSを確認した。
私は妙なことに気付いた。会話が途切れて沈黙していたのは、私達のグループ
だけではなかったようだ。ふとした拍子に偶然が重なって、そこにいた全員が
水を打ったような沈黙の中に放り込まれていた。
自分達のお喋りに夢中になっていた皆は、自分達が黙りこくると周囲も沈黙して
いたのに気付き、一様に周囲を観察し始めた。中には顔を見合わせてクスクス笑
う者もいた。周囲の変化を察したSも顔を上げてあたりを見回した。
よりにもよって、最悪な形で会話が途切れた。今私がSに声をかければ、グループ
内だけではなく、この場の全員の耳に私の声が入るだろう。今まで会話に夢中に
なっていて、私が呼び出したSのことを忘れていた、と皆に解釈させることも不
可能ではなかったが、夢中になっていなかったのはグループ内の者達が知っている。
ねえ、ととっさに私は声をあげていた。Sに対してではなく、皆に向いて言っていた。
どこか場所を変えよう、だったか、どこか他のところに行こう、だったかは覚えていない。
とにかく私は、全員に向かって移動の提案を発していた。
移動することによってグループの再編が起こり、Sもすんなりどこかに入れるかもしれない。
あるいは、帰るタイミングを逃していたのなら、この機にそう宣言するかもしれない。
だれてきていた周りの連中にも、何らかのいいきっかけになるかもしれない。私は
全員に向き直ったまま、そのような希望的推測をいくつか思考していた。
私の提案に対して、何人かはいい反応を見せた。それがいい、とか、何処がいいだろうか
などと各々が次第に盛り上がり始め、全体的にはすでに移動することが決定した状態で
勝手に話が進み出した。提案が通り、皆がその気になり始めたのを見て私は少しほっとした。
あとは放っておいても、おのずと行き先が決められるだろう。私は安心し、集団の奥まった
ところに後退してそのやり取りが結論を出すのを待つことにした。Sは先ほどの場所から
動かずに、顔だけをそのやり取りの中心に向けて腰を下ろしていた。
sage
なかなか決まりかねないようだった。候補地が膨大にあるわけではなく、あまり移動したくない
連中と、遠くても楽しめる場所に行きたい連中とが折り合わない状態のようだった。だんだん
皆は焦れてきて、当初乗り気だった者も次第に倦怠感が顔に浮かんできていた。
このままいくと、決まらないままだらだらと時間が過ぎて、皆どうでもよくなって最悪の場合、
こういった雰囲気のまま会が自然消滅してしまうかもしれない。私が提案してしまったばっかりに、
それまで楽しく話していた者たちの雰囲気を壊し、後味の悪いお開きが訪れてしまうのは避けたかった。
じゃあ、と私は前に出て再び提案した。希望者が一番多そうな方にしたらどうだろうか?
私が発言した途端、あまり動きたくない少数派の間に不穏な空気が流れ込んだようだ。
その変わり様が私にはよく理解できなかった。私は自分がそれほど不当なことを言ったのだろうか。
少数派の中の一人が、私に言った。
語尾の詳細は忘れたが、趣旨は大体こんな感じだったと思う。
何故おまえが何でも決めようとする? リーダーでもあるまいし。
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.| 一家そろってシラネーヨ
\
 ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧ ∧ チラネーヨ ∧∞∧
( ´ー`) ∧∧ (‘ー‘*) シラナイワ
ノ ノ、 ( ´ー)/| ,_ソ ヽ、
( UU,,,)フ (uu,,)ノ∠(,,,UU )
少々のいさかいごとで、毒を吐きつけられることはこれまでも幾度かあった。だがそのとき
だけは私は、いつものように冗談で切り返したり、曖昧な笑いでごまかしたりできなかった。
正面切っていきなり刺されたのは初めてだった。ダメージよりも驚きの方が強かった。
体は硬直したままだった。頭が言葉を反芻し、事態を把握しようと躍起になったが、
私は冷静さを欠いていた。ただ動揺が私の頭の中で膨らんでいっただけで、感情を
高ぶらせることもできずに突っ立っていた。
(= ゚仝゚)<M字開脚キボンヌ
彼がどのような意図で私に向かってそれを言ったのか、解析しようとしてもうまく頭が
回らない。私の何気ない(と思っていた)提案が他人にここまでの反撃を誘発するほどの
何かを含んでいたのだろうか。私はただ立っているだけだった。
私の言葉が彼にダメージを与えた。彼は私にやり返した。私は激しく動揺した。私の動揺と
彼のダメージは同等なのか。私の言葉にはダメージを与える意図は含まれていなかったはずだ。
だが、意に反して彼の感情に触れてしまい、彼の口からあれが吐き出された。悪意がなかった分、
私の方が配慮を欠いた言動だったのか。
絶賛age
それとも彼は、前々から私のことをよく思っていなかったのかもしれない。私が彼の望まない
方向へ全体を動かそうとしたため、ついつい日頃からの敵対心が現れ出たのか。もしくは
ずっとこんなきっかけを淡々と狙っていたのか。もしそうだったとしたら、そのような素振りも
気配も全く私に感じさせなかった彼は相当な策士だろう。
そこまで考えて、私は全てが面倒になってきた。はっきりしない彼の発言の意図を邪推するのも、
私の発言に含まれた悪意を内省してみるのも、この後集団全体がどういった判断を選択するのか、
そしてその結果私達が対面するであろう結末の予測。いまさら私がどう取り繕ったって、私自身の
傷を深めるだけだ。
彼の発言は、集団内では特に障害にはならなかったようだ。ほとんどの者が彼に同意していたのか
もしれない。よくぞ言ってくれた、こう思っているのも何人かいるのかもしれない。どの連中も
私と彼のやり取りを聞いていなかったか、あるいはもう忘れてしまったかのように振るまい、
事実上存在しなかったことに認定されたようだった。
帰ろう、と思った。集団の結論が出るときを待って、そのどさくさに乗じて帰ろうと思った。
私のことをいろいろと言う者もいるだろうが、今はそのことよりもその場にいることのほうが
苦痛だった。
それから後のことはあまり覚えていない。何人かが私に別れを惜しむような声をかけてくれた
と思う。私は努めて平静を装いそれらに応え、動揺したことをを悟られぬよう、ことさらゆっくり
歩いてその場を離れた。
家に帰りついてからSのことを思い出した。結局あの場で私達が言葉を交わすことはなかった。
あの集団の中でいまごろどうしているんだろうか、と少し想像しようとしたがすぐに止めた。
今日はこれ以上考えない方がいい、そう思おうとしたが、ちらちらと残像のようなものが頭
に浮かび、その夜はうまく寝つけなかった。
翌日、私と昨日連れ立って会に参加したクラスメートが教えてくれた。あの後、私のことで
ひどい中傷を言った者が数人いたらしい。気をつけた方がいいよ、と彼女は言った。気に
してないから、と私は答えたが、昨日の出来事が気まぐれや誤解で生じたものではなかった
ことに、私の淡い期待が打ち砕かれたような気がした。
だが、何に気をつけろというのだろう。彼女は名指ししなかった。今後あのような集会では
でしゃばらない方がいい、と言いたかったのか。参加を控えろということか。彼女の言葉を
どんなに善意的に受け止めようとしても、それは結局私にとっては、集団からの最後通告
のように聞こえて仕方なかった。
私にも、もうあのような場には行かない方がいい、という考えがあった。誰が私を憎んでいて、
誰が私を憎んでいないか、そういう詮索ももう無用だった。とにかくもうあのような所に
行かなければいい。恐らく今後は声をかけられることもないだろう。
私はクラスメートも極力遠ざけるようにした。私に接してくる者もやんわりと遠ざけた。
次第に私の意思がクラスメート達にも伝わり、私はクラス中を複雑に行き来する人間関係
とは無縁の存在になっていた。いきなり露見する敵対心の恐怖よりも、孤独の方がずっと
ましだった。
クラスはいくつかのグループを形成して、表面上は互いのグループ間に問題があるようには
見えなかったが、その実互いの目の届かないところではかなりひどい陰口や悪口が飛び交う
のはざらだった。教室内に私がいても、中傷相手のグループがいなければ、彼らは悪びれも
せずに言いたいことを口にしていた。
誰かを傷付けるような発言を聞くたび、中学校のときもこうだったのだろうか、という
疑問が浮かんできた。当時はここまで露骨な悪口合戦は展開されていなかったものの、
私の知らない水面下では同じようなことが行われてきたのだろう。
766/766 ここがラウンジの最深部だ。
魯迅発見
yatta!!ラウンジの最下層だ!!
自分の陰口を聞くのも嫌だったが、他人の悪口を聞くのも多いに私の気を滅入らせた。
数ヶ月あまりで高校生活に何の期待も持てなくなった。これからどうやって凌いでいこうか、
そういうことばかり考えるようになった。
私はSのように勉学に励むタイプではなかった。一心不乱に勉学に打ち込む方法は論外だった。
といって部活動に精を出すにしても、部員は全学年合わせて7人しかいない弱小チームで、
真面目に練習するどころか集まってもお喋りばかり、という状態だった。
こ、か
ことら
ろ、だ
♥
とりてす
本文わすれてた
色々試してみたい年頃
これでもかと
これでもかと
152 :
名無しさん?:03/09/14 09:01 ID:yJg7kBHo
これでもかと
最初こそ私達新入部員4人だけでも練習のようなことをしていたが、上級生は来たり来な
かったり、来ても着替えもせずに隅で雑談しているだけだったし、顧問は入部のときに顔を
見たきりで、一度も練習中に現れなかった。当然私達の間にも怠惰な雰囲気が入り始め、
バスケット部は事実上雑談クラブになっていった。
あの会から二週間ほど経ったころ、私は退部した。といってもだいぶ前からもう行かなく
なっていた。お喋りに参加するつもりも在籍しておく意味もないので、退部届を書いて
一度見たきりの顧問のところへ持っていった。ああそう、と顧問が言って私の退部届は
受理された。
正式に退部してもしなくてもすでに違いはなかった。部員たちにも私にもさしたる影響は
与えなかったようだった。そうして私は、家と学校を決まった時刻に往復する生活を続けた。
授業中も登下校中も家にいるときさえも、ほとんど何も考えなかった。
そうした日々をやり過ごしながら、私は自分の中によくわからないものが蓄積されていく
のを感じていた。他人のいざこざと全く関係のない立場に身を置いたはずなのだが、
それは確実に私の気力を削ぎながら大きくなっていくようだった。
コッソリ
ある朝目が覚めたとき、私はとてつもない倦怠感に包まれていた。しばらくベッドの中で
悶々としていたが、やがてそれも面倒になり、そのまま再び眠りについた。途中母親が私
の部屋のドアを叩きながら何か言っていたようだが、黙殺して眠り続けた。
私が二度目に目覚めたとき、すでにもう夕方だった。家の前の道路を小中学生達が
声高に話しながら通っていて、私の時間の感覚を狂わせかけた。朝方の倦怠感は
幾分弱くなっていたが、いまだに私の中に存在していた。
私は少しの間呆然としていた。自分が学校を無断欠席したことに驚いていた。母親を
はじめ家族の者が夕方になるまで私を放っておいたことに驚いていた。この後父親や
母親や、もしかすると学校からも何か私に言ってくるかもしれない。そういったことを
考えてうんざりしていた。
それから私は、こんなことをしてしまう原因となったあの倦怠感について思いを巡らせた。
そもそも私がこんなものを抱いてしまうことになった原因。そして日に日に大きく成長して
いった理由。最後に今日無断欠席という結果でいきなり現れた奇行のきっかけ。
いくら考えてみても結論は同じだった。最終的に私がそれを認められるかどうか、それだけ
が問題だったのだ。理由は誰が見ても明確だったが、それを受け入れるのは私にとって
多大な屈辱だった。
母親や父親が私に対して様々な苦言を呈してくると思われたが、予想していたよりもはるかに
穏やかなものだったため、私は少々拍子抜けた。具体的には、どうして行かなかった?
と母親が聞いてきた後に私が黙っていると、明日はちゃんと行きなさい、と父親が言って
おしまいだった。
168
翌日いつものように登校しても、特に変わりはなかった。ホームルームでも担任は何も
言わなかった。後で呼び出されるのかと思ったが、放課後になってもそのような気配すら
感じられなかった。しばらく放送で私の名前が呼ばれるのを待とうかとも考えたが、馬鹿
馬鹿しくなったので帰ることにした。
私は自分の考えや行動に少し戸惑っていた。まるで呼び出されたり叱られたりするのを
期待しているような振る舞いだ。確かに私は誰かに何かを話したかったのかもしれない。
しかし誰かに問いただされたとしても、おそらく私は何も話そうとしなかっただろう。
.
不毛な論争のようなものが、頭の中で勝手に展開していった。それは私の意識をすでに
離れており、私のわだかまりを増徴する代わりに気力をすり減らした。翌朝再び多大な
倦怠感に苛まれた私は、それから3日間学校を無断欠席した。
4日目の朝、担任から電話がかかってきた。電話を取った母親が、ただならぬ剣幕で
私の部屋のドアを叩くので、仕方なしに私はドアを開けて事情を聞いた。母親は娘の
連続無断欠席と唐突な担任からの電話で酷く動揺していた。私は仕方なしに受話器を
取った。
175
176 :
おまけ:03/09/21 22:44 ID:???
おまけdっす
どうした?3日も休んで。と担任は開口一番に言った。しかも連絡してないじゃないか。
私は何と答えればいいのか分からなかった。どこか具合でも悪いのか?担任の矢継ぎ早な
質問に私がうろたえていると、焦れたのか本題を繰り出してきた。今日は来るのか?
私はとっさにはい、と答えた。担任は安心したのか、三時間目までには間に合うように、
と言って電話を切った。時計を見ると一時間目が始まって少し経ったくらいだった。
面倒なことになった、私はそう思ってため息をついた。
687/687
答えてしまった以上、行かないわけにはいかなくなった。はい、と言ったくせにまたも無断で
欠席したら、今朝の電話くらいで済む事態ではなくなりそうだ。いまさら担任に電話し直して、
さっきの返事を取り消すのはもっと面倒臭そうだった。
私は仕方なしに登校した。仕度にもたついたりしたため、学校に着いたのは三時間目の
終頃だった。休み時間の間に教室に入った。四時間目が始まる寸前まで時間を潰して
調節したので、クラスメイトの反応を十分に受ける前に教師が教室に入ってきた。
って、最深部じゃないし・・・あぅぅぅぅぅ・・・
692/693
何だ貴様は?
184 :
名無しさん?:03/09/23 18:15 ID:MLgeeFmp
あ
ミニモニ。 mp3
186 :
名無しさん?:03/09/24 02:08 ID:jonT2PC1
てst
教師は教卓の上の出席簿と教室全体を見比べて、私の顔に目を止めた。もう一度出席簿と
私を見比べて、今来た?と聞いた。はい、と答えると、教師は出席簿に何やら書き込み、
おもむろに授業を始めた。私の想像以上に簡単な手続きだった。
さすがに三日も休むと授業もだいぶ進んでいた。三日間で6〜7ページ程、それの全教科分
だけが私の無断欠席を証明しているかのようだった。両親の顔を見るよりも、教師からの電話
を受けるよりも、気まずい思いをして休み時間に教室に紛れ込むよりも、授業の進展の埋め
合わせをすることの方が余程面倒なことかもしれない、と思った。
*
倦怠感とその原因については考えないようにした方がいい。解決の見込みを見出せないだけ
でなく、また堂々巡りな結果が訪れるだけだ。それから目を背けられるようなものごとを
見つけて、そちらに邁進した方がまだ建設的なのかもしれない。例えば……。
そこで私は、自身にそれ相当のものごとが存在しないのに気がついた。部活動はすでに退部済み
だった。邁進できるほど熱心に打ち込める趣味なども持ち合わせていなかった。一人で遊び歩け
るほど器用でもなかった。自棄を起こしてやりたい放題にやる、そんな度胸は持っていなかった。
192
別に無理してまで邁進にこだわらなくてもいいのかもしれない。とにかく高校を卒業するまで、
私がそのことを考えないようにできればいいのだ。ならばスムーズに卒業できるように、欠席
せずに授業を受け続け、定期テストで赤点を取らないようにしながら生活していけばいいだけ
のことだ。
私は普通の高校生の本分に邁進することにした。恐ろしく味気ない生活になるのは必死だったが、
欠席し続けて留年になるよりはましだろう、と思い込むことにした。留年してしまうことになれば
卒業までの日数が増えるだけだし、嫌気に任せて自主退学などしようものなら、恐らくものすごく
後悔することになるかもしれない。
何も考えないようにしながら、普通の高校生活を続けるというのは意外と大変な作業だった。初めの
何日かは日数を数えたりしていたが、無駄なことだと気付いて早々にやめた。こういうことすら考え
ないように暮らしていれば、気付かないうちに時間が流れているのものなのだ。
一週間、ニ週間と経過するうちに、意識しなくても何も考えないようになっていった。機械的に体が
動くような感覚だったと思う。授業は欠かさず受けた。ノートは取ったり取らなかったりだった。
宿題が配られると、次の休み時間や昼休みを使って処理した。教科書やノートは教室の机に置きっ
ぱなしだった。
@
朝起きて無事に家を出られさえすれば、後は私の体が勝手にやってくれた。私が意識して体を動かさ
なければならないのは起床の後から家を出るまでで、それさえ済めば私の意識は一日中体の奥底で眠
っているような感じだった。
時折私の意識がどこか遠くから、自動的に動く私の体をぼんやりと眺めているような錯覚に陥ったり
した。半覚醒状態の意識では、幸いなことにあまり感情の起伏が起こらなかった。ゆえにそうやって
見る自分の姿に哀れみを感じたりしなかったし、他人の心無い立ち振る舞いを目の当たりにしても、
もう腹も立たなかった。
またんき
んたま
いつのまにか期末テストの時期になり、これまでの日々と同じようにまたいつのまにか過ぎていった。
特にイレギュラーな出来事がなかったので、恐らく赤点などは取らずに済んだようだった。返却された
良くも悪くもない答案用紙も、教科書と一緒に机に入れっぱなしにしてあった。
期末テストを終えたあたりから、私の意識は目を覚ましていることが多くなっていった。それまでは
まるで夢のように断片的な記憶しか残らなかったのだが、この頃の記憶は比較的鮮明に記録されている。
決して控えている夏休みに浮かれていたわけではなく、どちらかというと途方に暮れていた、と言う
べきかもしれない。
ii
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお
またんき!またんき!またんき!
今まではただ機械的に生活していればよかった。それはある一定のサイクルを形作っていて、丁度人工
衛星のように同じ所を廻っていさえすれば上手くいっていたのだ。安定軌道に入っていた私に、今更
夏休みという自由を与えられても、ただ有り難迷惑なだけだった。
周囲は浮き立っていたのだろうが、私は呆然として一ヶ月近くもある長い休みについて考えていた。
思わぬ障壁が立ちはだかって来たものだ。一体どのようにして乗り切ればいいのだろう。いつもの
日曜日のように一日中寝て暮らす。宿題の処理を機械的にこなす。街の図書館にでも行って時間を
潰す。
1
一ヶ月近くも中途半端な生活が続くのもうんざりしたが、長い休みの後に再び安定軌道を構築しなければ
ならないことも私の気を滅入らせた。休みの間に倦怠感が慢性のものになるのが怖かった。染み付いた
性質は思った以上に体から消え難く、精神に多大な影響を与えるものだ。
わざわざこういうことを考えてしまう、あるいは考えざるを得ない自分自身に滑稽さを感じた。私は何を
やっているのだ、と自嘲気味に思ったりもした。予想もしなかった夏休みの形に私は少し戸惑い、憤って
いたのかもしれない。ひとまず思いつく限りの手段で軌道を維持することにした。
事前にいろいろと考えていたにもかかわらず、いざ休みに入ってみると以外にやることがなくて少し焦った。
宿題は一週間も経たないうちに終わらせてしまった。図書館の雰囲気が肌に合わず、たった一日で行くの
を止めてしまった。連続で一日中寝続けるのは私でも無理だった。
気まぐれにCDをかけてみてはすぐに不快になって停止ボタンを押したり、本棚から読み古した本を引っ張り
出して適当にページをめくっては面倒になって部屋の角に放り投げたり、テレビを付けたり消したりを繰り返
したりした。普段私は自分の部屋で何をしていたのだろう。
sage
息が詰まるような居心地の悪さを感じて、私はどこへ行くというあてもないまま家を出た。むせ返るような
熱気と蝉の声が玄関を出たとたんに私を包み込んだ。家の前の道は誰の往来もなかった。強い日差しのせい
で生じた陽炎が、道の両端に揺れているだけだった。
私は表通りの方に向かって歩き出した。学校や図書館へ行くのとは反対方向で、高校に入学してからは
こちらには向かうことがなかった。特に理由や目的があったわけではなく、ただ体がそちらを向いただ
けの話だ。しばらく振りに見る風景は変わっているはずもなかったが、日の光に熱されて茹だり、辛う
じて息を吐いているように見えた。
216
217 :
麻美ですοおねがいしま〜すο:03/10/03 14:11 ID:WZ9X55Zn
Silvaの曲であるよねο
218 :
名無しさん?:03/10/03 14:13 ID:j0ML6X/X
メンヘル?
Sの家の前を通った。小さいとき、まだ私とSがよくこの道を行き来していたときには考えもしなかったが、
私とSの家は意外と離れていたのだ。そう思えたのがこの暑さのせいなのか、久し振りに歩いたせいなのか、
あるいはそれ以外の理由があるのかは分からなかった。私は立ち止まらずに歩いた。
表通りに出た。片側ニ車線の道路に車がちらほらと流れていた。対向車線の車のフロントグラスが太陽を
反射し、私の眼を焼いた。歩道のすぐそばの車線をバスや大型トラックが通るたびに、私に排気ガスを含
んだ熱風を吹き付けていった。私は無遠慮なバスやトラックを追い掛けるようにして歩き続けた。
道に沿って続く建物にはめ込まれたたくさんのガラス窓のせいなのか、表通りは家の前の道より一層暑かっ
た。私の前方に歩行者の影は見受けられなかった。反対側のバス停に、雨よけの屋根が作り出すささやかな
日陰に入って、しきりにハンカチで額を拭いながらバスを待っている老婆が一人いるだけだった。
真夏の早い午後に外を出歩くなどという愚行を冒すのは、余程やむにやまれぬ事情があったからなのか。
それとも私のようにただ酔狂な行動をとってみたかっただけなのか。老婆は時計と時刻表をしきりに見
比べていた。私はただ歩き続けていた。
では今宵もこのスレに一票を投じて寝る
h
道はほぼ真っ直ぐに駅前まで伸びていた。その上に点在する交差点の信号が赤に変わり、表通りを走る
何台かの車を逐一止めていた。わき道から出てくる車も、表通りを横切る歩行者もいなかったが、彼ら
は文句を言うこともなく、従順な犬の群のように大人しく赤信号に従っていた。
気温はどんどん上がっているようだった。私は酷暑に焼かれながら何も考えずに歩いていた。どこへ
行こうかという目的もなく、何故こんなところを歩いているのかという疑問もなく、いよいよ特異な
行動を取り出した私自身への猜疑心もなく、ただ夏の暑さだけはしっかりと感じていた。
しばらく進んだあたりで、私の足は急に方向転換をし始めた。道と道の交わりに到達する度でたらめに
向きを変え、よく分からない場所に向かって闇雲に歩き始めた。道は次第に細くなり、複雑に入り組ん
でいった。幾重にも続くごちゃごちゃした道を私の足はほとんど歩みを留めることなく選び、進んでい
った。
そこは住宅街だった。もちろん路上に私以外の人影はなく、あちこちの庭の木々から蝉の鳴き声が聞こえて
いた。路面から熱気が立ち上っているのは私の家の前の道と同じだったが、まるで知らない所だった。表通
りから少し入っただけで、一度も来たことがない場所に辿り付いたのが少し可笑しかった。しかしそれは
当たり前の話で、私は今まで一度もこんなところに用事などなかったのだ。
h
b
心とは体とは女とは男とは何か
蝉の声が聞こえる他は何の物音もしなかった。私一人だけが、この一角に存在するただ一人の人間かと思える
ほどに、周囲からは生活の音、生きた人の立てる物音が欠如していた。もっとも、住宅街のどの家の窓も締め
切られていたし、この蝉の声だ。単一な音と暑さで孤立したような錯覚に陥ったのかもしれない。
ある民家の庭先に犬が繋がれていた。小さな木陰に腹ばいになり、どこも見ていないような眼で一点を
見つめながら、半開きにした口から舌を出して喘いでいた。私と目が合ってもすぐに興味をなくしたように
また視線を戻し、一定の呼吸を繰り返していた。犬小屋の前に二つ並んだ皿には、どちらにも何も入って
いなかった。
236
hosyu
さらにいくつかの方向転換を繰り返していると、不意に小学校のグラウンドに行き当たった。私が通っていた
所とは違う小学校だった。校舎にも遊具の周りにも人影がないのは辿ってきた道と同じだった。ただ、
グラウンドの一角にあるフェンスに囲まれた所から、子供の嬌声と水飛沫の音が聞こえて来た。プールだった。
私は急に喉の渇きを覚えた。辺りを見回すと、校舎の入り口の前に蛇口が並んでいるのを見付けた。誰もいない
グラウンドに入るのに少し躊躇したが、考えよりも渇きの方が勝っていた。私は知らない小学校のグラウンドに
闖入し、校舎入り口を目指して歩き出した。
グラウンド内はまたさらに暑かった。太陽を遮るものが一つもなかったからかもしれない。無機質な土の上を
歩いていると、ちょっとした砂漠を横断しているような気分になった。校舎に近づくに連れて蝉の声が徐々に
遠くなっていき、代わりに私の立てる足音が校舎に反響して不思議な感覚に陥っていった。
蛇口からは熱湯のように熱い水が噴き出した。しばらく出しっぱなしにしていると、段々生温い水が出るよう
になった。これ以上冷たい水にならないことを確認してから、ようやく私は水に口を付けた。思っていた以上
に体は乾いていたようで、生温い水道水を一時そのまま飲み続けた。
体が求めるだけ量の水を飲み終え、私は一息ついてあたりを眺め回した。家を出てからどれくらい時間が
経ったのか分からなかったが、相変わらず太陽は随分高い位置にあった。私は玄関のひさしが作り出す
ささやかな日陰に入ってしゃがみ込んだ。プールの方向から間欠的に歓声と水音が聞こえてきていた。
いろいろなことが脳裏に蘇ってきたが、どれも現実味を欠いた幻のようなものばかりだった。恐らく
記憶というものは、一人だけで認証できるものではないのだ。誰かと共有し、互いに「確かにあった」
と認め合うことで、初めて存在し得るのかもしれない。
不意に風が吹き、グラウンド上に砂埃が舞った。私はその馬鹿げた考えを曖昧な記憶と共に風に委ねた。
風は私の頬を撫で、髪を揺らして消えた。未だに日光が辺りを熱し、蝉は遠くで鳴き続け、グラウンド
には誰の姿もなく、プールからは嬌声と水の音が届き、私は呆けたように座り込んでいた。
日陰に入ったにも関わらず、私の体はまだ随分と熱を帯びているようだった。頭が少しクラクラして、
頬が火照っていた。血流も普段より随分早いような気がした。衝動的になり過ぎたのかもしれない、
そう思った。発作的に家を飛び出して、この日差しの中を歩き回ったのは失敗だった、そう考えても
もはやどうなるものでもなかった。
age
入り口の扉のガラス窓に頬を付けると、幾分火照りが和らぐような気がした。乾きに気をとられていたが、
疲れもだいぶ溜まっていたようだった。熱射病だかただの貧血だかは分からなかったが、しばらく休んで
いれば何でもないだろう、と思った。そのままの姿勢で私は目を閉じた。
目を閉じてみると、あったのかどうか分からない曖昧な記憶の断片が、一層その鮮明さを増して瞼の裏に
浮かび上がってきた。ちょうど太陽を直接見た直後に目を閉じて見える模様のように、意識して消せる範疇
のものではなかった。精神の方も疲れていたのかもしれない。
脈絡も止め処もないイメージと思考が入り乱れ、それに体内外の熱が手伝って私の意識を朦朧とさせた。
イメージは徐々に現実味を失い、思考も統制を乱し始め、熱は段々と高まっていくような気がした。
私はしばらく抵抗したが、諦めて意識をそれらに受け渡してしまった。
要するに、私は眠ってしまっていたらしい。無理矢理呼び戻されたような感覚を覚えながら目を開けると、
夕立でもやって来るのか、空が黒くなっていた。相変わらず体は熱っぽかったが、意識は落ち付いてい
た。剥離した現実との統合に時間が掛かっていただけかもしれない。
OK
KO
私は頭を振りながら立ち上がった。先程までうるさく鳴いていた蝉の声が、ちらほらとしか聞こえなくなって
いた。プールの子供達も帰ってしまったらしく、嬌声も水音もしなかった。雲に覆われて薄暗くなったグラウ
ンドを見ていると、私は急に妙な不安感に襲われた。訳のわからないまま何かに急かされるような気がした。
これまでの空気とは明らかに異なる、冷たい風が吹いてきた。気味が悪いくらい冷たい風だったが、私の
体には心地よく感じられた。もう間もなく雨が落ち始めるだろうことは明白だったが、私は校舎の玄関から
離れてグラウンドを歩き出した。家路につくか、それともまだ知らないところを歩き回るかは決め兼ねていた。
グラウンドの真ん中まで差し掛かったとき、遠くで雷が鳴った。音のした方を見極めようとしていると、最初の
一粒が私の顔に落ちてきた。グラウンドの乾いた土の上にもポツポツと落ちかかり、雨と土の匂いと熱気が
地面から辺りに立ち昇っていった。
あっという間に土砂降りになり、私はどうするか決まらないまま雨に打たれていた。日の光とはまた違った熱気
と、体中を濡らす雨に包まれて私はしばらく呆然となった。それは決して不快なものではなく、むしろ心地よい
感じがした。雨に打たれながら歩くという、子供地味たことをしてみるのも悪くない。私はそう思い始めていた。
私は正門から小学校を出て、再び住宅街の道路に戻った。ここもすでにまんべんなく雨に覆われ、不器用に
補修されてでこぼこしているアスファルトの上を、雨水が行き場をなくしたように迷走していた。大半は
すんなりと、あるいは辛うじて道の両端にある側溝に流れ込んでいたが、一部の運の悪い雨粒達はどこにも
移動できずに水溜りの底に佇んでいた。
また私は行き当たりばったりに歩き始めた。知らない土地と雨のせいで、私の方向感覚は全く機能していない
ようだった。事実適当に歩いたつもりだったが、いつの間にか表通りに出てきてしまっていた。通りを行き交う
車がヘッドライトを点けているのを見て、初めて私はこの薄暗さが雨雲のせいだけではないことに気付いた。
263
保って守ろうスレ一つ
それがスレへの信任票
そこは私が入り込んだ脇道よりもさらに駅側にある小さな交差点だった。昼間私が通ったときよりも交通量が
増えていた。傘をさして歩道を歩く人達の姿も見受けられた。通りに面した建物からこぼれる照明の灯りが
濡れた路面に映っていた。私は急に家に帰りたい衝動に駆り立てられた。
表通りを家の方向に向かって歩き出した。時折すれ違う人がずぶ濡れの私を観察しているような気がした。
効果があるのかは疑問だったが、傘をさして歩く人達に私の姿が悲壮感を伴なって映らないように努めた。
つまり、歩道の端をこそこそと歩いたり、目を合わせないように俯いたりせずに歩いたのだ。
バス停に停まったバスから、数人の勤め帰りらしき人達が吐き出された。それぞれ降りると同時に傘を広げ、
思い思いの方向に歩き出した。私の方を見る人もいたようだが、特に興味もないようにすぐに目を逸らして
そそくさと通り過ぎていった。この時間帯に、傘を持たずに歩いているのは私だけのようだった。
以前として雨は勢いよく降り続いていた。すでに私は頭からつま先までずぶ濡れだった。しかしそれは
心地良くもあった。顔は俯けず、視線はただ遠くにやって、視界に入る人々や時々私を照らす車のライト
を無視しながら、急ぐわけでもなく私は家路へと歩き続けた。雨は夜半過ぎにようやく上がった。
良
翌日、昼過ぎに電話の音で起こされた。家には私以外誰もいないらしく、長い間鳴り続けていた。
一旦諦めたように鳴り止んだが、私と根競べでもやっているように再び鳴り出した。私はベッドの
中でベルの音を40回まで数えたが、とうとう根負けしてのそのそと起き上がった。
受話器を掴み耳に当て、はい、と言った。電話の相手は驚いたらしく、少しの間無言だった。だが
すぐに我を取り戻して喋り出した。あ、もしもし。……さんのお宅ですか? はい。向こうは私の
名前を出してきて、いらっしゃいますか?と聞いてきた。私ですけど、と私は答えた。
文字保守UZEEEEEEEE
相手は急に親しげな口調に切り替えて自分の名を名乗った。今度は私が少しの間沈黙する番だった。
もしもし?と電話の相手が私に催促した。私はようやく相手の名を思い出し、口に出した。露骨と
までは行かなかったが、電話の向こうで相手の安堵する様子が伺えた。どうしたの?と私は聞いた。
それは、あの忠告をくれたクラスメイトだった。彼女はまず何から話していいのか考えているかのように
間を取った。私はそれ以上彼女を急かすことはせずに、彼女が私に電話をかけてくる必要性とその用件
について考えていた。あの、驚かないで聞いてね、と少しの沈黙の後彼女が話し出した。
age
昨夜未明にSが死んだこと。原因は交通事故らしいこと。今夜通夜が執り行われて明日葬儀という
日取りになっていること。葬儀に中学校の同級生として全員で参列するように決まったこと。その
ための連絡を今電話で回している最中だということ。彼女は一気にそこまで喋った。私は黙ったまま
聞いていた。
あの、もしもし?と彼女が言った。大丈夫? ええ、ちょっと……、そこで私は言葉を失った。自然に
そうなったのか、何かの目的を持って意図的に沈黙したのかは自分でも分からなかった。彼女も
つられたように黙り込んだ。彼女は私に何か言葉をかけようとしてためらっているようだった。あるいは
言葉を注意深く選んでいたのかもしれない。
長い沈黙の後、彼女が先に口を開いた。とにかくみんなで集まるようになってるから、来れるようだったら
来て。彼女は場所と時間を私に告げて、それじゃあ、と言って電話を切った。私は電話機の前で随分
立ちすくんでいた。ショックを受けたと言うよりも、状況がよく理解できなかったのだ。
私は居間に行ってテレビを付けた。ニュースソースで客観的事実を得ようとしたのだが、画面はメロ
ドラマの真っ最中だった。私自身がショックを受けているのかどうかははっきりしなかったが、どうやら
酷く動揺していることは間違いないようだった。私はテレビを消して、新聞を探した。
酷い記事だった。400字詰め原稿用紙一枚分にも満たない文章で、一人の少女の死が淡々と綴られていた。
改行していないだけの記事のメモのようにも見て取れた。こんな事故などありふれ過ぎていて、今さら
珍しくも何ともないのだろうか。私は記事を何度か読み返したが、それ以上のことは分からなかった。
私はカッターを持ってきて、その記事を丁寧に切り抜いた。必要以上に時間をかけて、丁寧に切り抜いた。
その後それをどうするのかは、全く考えていなかった。時間をかけて切り抜くことで、私は気持ちを落ち
着かせようとしたのだろうか。裏のテレビ欄に大穴が開いた新聞を居間のテーブルに放り出して、私は
自室へと戻った。
さっきまで寝ていたベッドに再び寝転んだが、もう眠る気はしなかった。ぼんやりと天井を見上げながら
私はSのことを思い返していた。私とSは、あの集会以来一度も会っていなかった。姿を見掛けたことすら
なかった。現実に私が見た最後のSと、事故死という事実がうまく結び付かなかった。
だが、現実にSは死んでいた。ご丁寧にも新聞というメディアを通して、Sのことを全然知らない人達にまで
彼女の死は伝えられていた。しかも誰が言い出したか、彼女の中学の同級生達が葬儀に参列する計画まで
立てられているという。ここまで取り上げられ晒し者にされたSのことを、敢えて私までがその死の詳細まで
想像しなくてもいいのかもしれなかった。
だが、意に反して次々に記憶が氾濫し、私の頭の中いっぱいに広がっていった。全てが断片的なイメージで
あり、大半が私も忘れていたような些細なことだった。幼い頃の記憶も近年の記憶も、時勢の順に従うこと
なく涌き出てきた。それは丁度、整頓する前に乱雑に写真を貼り並べたアルバムを見ているような感覚だった。
それらは一枚一枚見る度に少しの間回想できたが、私の言った台詞やSの言った台詞がほとんど抜け
落ちていた。私は、私がSのことを何と呼んでいたのか、Sが私のことを何と呼んでいたのかさえも
思い出せなかった。ただ短い回想シーンが連続する、音楽も字幕もない無声映画のようなものだった。
私が取り乱したり泣いたりせずに、こういった無意味で無感情の回想をしているところを見たら、Sは
どう思うのだろうか。Sに限らず、これまで最後に若干の注目を集めた死者達は、こうやって自分を思い
返され回想されることを喜ぶものなのだろうか。
私が最初に参列した葬儀は、母方の祖父のものだった。春休みの最中慌しく母の田舎に帰省し、私は小
学校の制服を着せられて大人しく座らせられ、参列者の中に泣いたり取り乱したりする者は皆無だった。
知らない人が次々にやって来ては遺影に手を合わせ、祖母に向かって皆同じようなことを言っていた。
長時間の正座に疲れた私は、母に言って抜け出させてもらった。まだこたつの出してあった茶の間に
行くと、早々に引っ込んだ伯父や伯母や従兄弟達がいて、喪服を来たまま世間話をしていた。私は
こたつの端に座ってみかんを一つ食べ終えると、従兄弟達を誘って外へ遊びに出かけた。
比較の参考になるかどうかは分からない。恐らく状況の違いなのだ。祖父は天寿を全うしたが、Sは若く
して壮絶な事故死を遂げた。それだけでも十分に悲劇的に脚色されている。それに中学校の同級生全員
による参列が加えられ、Sが望もうが望むまいが大袈裟な演出を施された葬儀になるだろう。
Sが死者である以上、誰も彼女に気を使うなどということはあり得そうにもなかった。私でさえ、やたらと
Sが取り沙汰されるのがSにとって迷惑かもしれないと思っているが、それすらもSの心中を察している言動
とは確証できていないのだ。本当はSは、皆に泣きながら送って欲しいのかもしれなかった。
しかしもう、当たり前だが死者の望みを聞くことは誰にもできはしない。私達は、私達の中に残った死者
の残影を状況と照らし合わせて、彼らの望むであろうことを推測して実行するしかないのだ。いささかの
解釈の違いや誤解から、実行することが全員で一致するのもまずあり得ないだろうが、そのときは各々が
思うように行動すればいいだけなのかもしれない。
ふと、私に連絡をくれたクラスメイトのことを思い出した。彼女は私に伝えるべきことを考え込んで、
少しの間口篭っていた。慣れた調子で一気に喋ってしまわなかったところを見ると、彼女は比較的初
めの方で、私に連絡をくれたのだろうか。
彼女が初めの方で私に連絡をくれる理由、しばらくそれを考えてみたが、特筆すべき理由は思い当たら
なかった。彼女の同情心の表れか、もしくは中学時代の連絡網、彼女の欄の下に私の電話番号が記され
ていて、彼女はその順番に連絡を取ろうと思っただけなのかもしれない。
それにしても、と私は思った。この間のことといい、今回のことといい、彼女はどうして私に気を回して
くれるのだろうか。前回は不注意な発言で孤立した私に、今回は幼馴染の親友を失った私に同情してくれ
ただけなのだろうか。だが彼女の気配りは、ほんの少しだけ迷惑な感がしないでもなかった。
彼女は自身を、集団の中の最後の良心と位置付けていたのかもしれない。所属する集団が進むところと、
彼女自身の志とが離反したときに自身と集団を守り保つため、私に気を使って整合性を保持しようとし
ていたのかもしれない。もっと器用に振舞えばいいのに、と思ったが、それは私が言うことではなかった。
age
今日も窓の外で太陽が力強く照り付け、まだ予定を控えているSの身体にとっては、あまり優しくない日に
なりそうだった。既に棺に移されドライアイスなどで冷却され続けるよりは、早々に灰にしてやった方が
余程Sのためだと思った。
Sの事故は、夕方のニュースでも夜のニュースでも報じられた。2度とも全く同じ内容で、まずSの名前が
読み上げられ、続いて熱中症で3人が病院に運ばれたという出来事を伝えると、アナウンサーは無表情に
頭を下げて画面から消えた。
それでいいのかもしれなかった。たかが一人、16歳の少女が死んだからといって世の全てに同情や哀れみ
を強要すべきではないのだろう。きりがないのだ。16歳の人間は、きっと毎日どこかで死んでいる。その
一つ一つを取り上げたところで、何にもなりはしない。第一私自身でさえ、Sの死をよく理解していないのだ。
何歳だろうが死ぬときは死ぬ。Sにとってのそのときが、たまたま昨夜未明だっただけのことだ。その事実
に同情や哀れみなどの感情は、おそらく意味を持つものではないのだろう。私達は、自身の価値観に従って、
死者を惜しんだりすればいいだけなのだ。彼らはもう何も喋らないのだから。
死というもの、今までは私にとってとても遠い存在だと思っていた。それが
Sの身によって私の中にいきなり投げ込まれた。もしくはSが出し抜けに私へ
押し付けた。まるで他人の心に土足で踏み入るように。
そうして彼らは結果だけを私達に押し付け、もはや聞く耳を持たなくなる。
私達が泣いても叫んでも、もう彼らには届かないのだ。理不尽だと思った。
身勝手だと思った。例え死者といえども、ある程度の同情によって幾ばく
かが免責されるといっても、このような道理は許されないと思った。
私はSに、あの集会のときのことを弁解したかった。次第に疎遠になっていった
理由を説明したかった。私の性質のことを理解してほしかった。Sの私に対する
誤解を解きたかった。私がSを嫌っていたのではないことを知ってほしかった。
遅過ぎて、しかも見苦しい言い訳が、行き場をなくしてうごめいていた。気持
ちの悪い生き物のように這い回り、立ち上がり、脱出を試みようとして挫折し、
声もなく咆哮した。私自身も恐ろしく身勝手だということが、さらに救いよう
のない様を増長した。
323 :
わむて ◆XLW.65ZUto :03/11/04 10:30 ID:u/qTZqA9
\ │ /
/ ̄\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
─( ゚ ∀ ゚ )< みる、みる、みる、
\_/ \_________
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<_葱看> <_葱看>
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ . / i レノノ))) \ / (ハ((iヽl, i \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
みるまら〜! > (人il.゚ ヮ゚ノ人 人゚ヮ ゚∠イ) < みるまらみるまら!
_____/ ヽ Yi/ ヽiY / \______
く_ :|〉 〈|: _>
し'ノ .ヽ∪
何もしたくなかった。考えたくもなかったし、動きたくもなかった。ここにいたく
なかったが、どこにも行きたくなかった。眠ろうと目を瞑ってみたが、眠りは私を
助けようとはしてくれなかった。
だいぶ長い間、私はそのままでいた。窓を締め切ってエアコンを付けていたせいで、
部屋の中に聞こえるのはエアコンの作動音だけだった。それも初めのうちだけで、
耳が慣れたせいなのか、次第に無音になっていった。
日が傾き、暮れ、沈んて夜になった。私の周囲は以前として無音で、眠気が寄り付いて
来る気配もなかった。目を開けてみても真っ暗で、閉じているときとの区別も付かなか
った。今何時だろう、と思ったが、起き上がって時間を確かめようとはしなかった。
夜。通夜。別れを惜しむ夜。焼香が漂う仏間。並んだSの家族と、次々に訪れる弔問客。
Sの遺影と菊の華。それから、Sの棺。棺の窓は開いているのだろうか。よく知らない
者達にまで、死に顔を晒されているのだろうか。
夜も更けていき、やがて月が出てきて、カーテンも引いていない窓からぼんやりとその
淡い光が差し込んできた。光の強さから察するに、満月よりも若干欠けた月齢であるよう
だった。じきに目が慣れ、部屋の中を何となく見分けられるようになった。
「頭部を強く打ち……」と新聞には書いてあった。とすると、窓は開いていないかもしれ
ない。潰れたSの顔。ある程度は修復されたのだろうか。済めばすぐに灰にされても、見た
人の心には存在し続けることを考えれば、たとえどういう状況でも開いていない方が、Sに
とっても客にとっても相応しいのではないだろうか。
私は既に、明日の葬儀には行かないと考えていた。しかし、行かないことを明確に説明し、
自分で納得できるだけの理由を見付けられないでいた。他の者から見れば、Sと特に親し
かったはずの私が義理を著しく欠くような真似をすることに、軽蔑の表情さえ浮かべるか
もしれない。
もしくは、親しい友人を亡くしたショックのあまり、葬儀にも参列「できなかった」と
同情的、悲劇的に脚色した目で私を見る者もいるかもしれない。大抵のクラスメイトは
恐らく前者で、葬儀の連絡をくれた彼女は後者だろうか。
どちらにしても、もう参列するつもりはなかった。何かのイベント事のように、大勢で
押し掛けるようなことに賛同できなかったし、Sの家族に私もその一員であると思われた
くなかった。
Sにも、Sの家族にも、中学校の同級生達にも会いたくなかった。一人で部屋に閉じ篭って
いても、決着が着く可能性は極めて低いだろうが、誰かに会うことで今以上に掻き乱され
るよりはましだった。Sの葬儀には参列しない、私はそう決めた。
age
窓の外が白んできて、雀の声が聞こえ出した。兆しが現れ出してから、意外な速さで夜が
明けた。私は一睡もできずに朝を迎えた。葬儀の朝、Sの体に訪れる最後の朝。Sにとって
今日一日がいい日であればいい、と思った。
何故か痛む頭を抱えて、カーテンの開いたままだった窓のそばへ近付いた。夜のうちに
いくらかでも、熱気を冷まして澄んだ空気が、また太陽によって熱を加えられ、徐々に
膨らみながら動き出した様子が見えるような気がした。今日も暑くなりそうだった。
私は全部のカーテンを引いて、再びベッドに横になった。未だに眠れそうになかったが、
いまさら眠ろうとも思わなかった。眠くなるまで寝転がっていればいい。幸いなことに
今日、私は外出する予定がなかったのだから。
しかしながら、自分で決めたにもかかわらず、後味の悪さのようなものがいつまでも喉に
引っ掛かっているような気がした。私が行かないと決定するに至った理由は、行かなかっ
たことで失われるものと比べて、下らな過ぎたのではないだろうか。
hsy
誰にも会いたくない、というのは確かだったが、それを理由に参列しないというのは、少し
我が侭に過ぎただろうか。他人から見れば、それは深く悲しみに沈んだ者の取る行動に映る
かもしれなかったが、そうではないことは私自身が一番よく知っていた。
ではどうすればいいのか、どう理由をつければ気が済むのか、私には皆目見当がつかなかった。
そうやって考える振りをしていれば、いつのまにか時間が流れて否応無しにどちらかの結果に
落ち付くはずだった。
突然、母親の声で我に返った。友達が来ている、と母親は言っていた。私の範囲外から,この
ようにして参列に参加させようとはたらきかける者がいるかもしれない、とは考えていたが、
本当に誘いに来るとは思わなかった。私は起き上がってドアを開けた。
母親は、私に電話で知らせてくれた彼女の名前を言った。今日私を訪ねてくる者がいるとし
たら、彼女が恐らく一番あり得そうなことだった。私が玄関先に歩いて行く途中、母親が後
ろから声をかけてきた。行かなかったの?と。
母親の言葉には、いくらか非難の感情が篭っているように聞こえた。私の画策した通りに、
すでに葬儀は終わっていた。誰の顔も見ずに、誰にも会うこともなく済んだわけだが、懸
念したほどの後味の悪さは感じなかったと思う。
彼女は制服姿だった。帰りに私の家に寄ったのだろうか。彼女は私の姿を認めると、ちょっと
話してもいい?と聞いてきた。私は彼女がどんな話をするつもりなのか、全く見当がつかなか
ったが、何とも言えずにただ黙って頷いた。私は彼女を部屋に通した。
彼女をベッドに腰掛けさせ、私は椅子に座った。私は彼女の話を聞くために黙り、彼女は話を
始めるために黙った。一点を凝視して考え込んでいる彼女の姿が、ふといつかの孤立したSの
姿と重なって見えた。あのときのSは、それから彼女は、それぞれ何を考えていたのだろう。
あのときのSも、ここにいる彼女も、既に考えは固まっていたのかもしれなかった。Sは自身の
置かれた状況を知ったときから、彼女は私の家を訪れると決めたときから。ただその通り行動
するための決心を養っていたのかもしれない。少なくとも目の前にいる彼女はそう見えた。
彼女の沈黙の長さが、これから彼女の話すことになるものの重さを雄弁に語っているようだった。
それが長くなればなるほど、彼女の中でも膨らんでいき、じきに彼女だけでは支えられなくなり、
彼女の理性に反するような方法で彼女から飛び出し、私に向かってくるのかもしれなかった。
つまり、話すことが重過ぎて、あるいは多過ぎて、彼女は一種の錯乱状態に陥り、感情に強く
影響されながら思いつくままに物事をまくし立て始めることも起こり得るだろう。黙り込んだ
ままの彼女は、何とか必死にそうなることを回避しようとしているようだった。
彼女が敢えて理性を保とうとしている間にも、少しずつ時間が流れて行った。こうしている
間にも私と彼女は徐々に焦りを大きくしていき、役目を終えたSの体は、既に荼毘に付されて
いなければ、棺の中で少しずつ元の場所に帰ろうとしているはずだった。
よくわからない、と彼女が言った。いきなり耳に飛び込んできたその言葉に、私は半ば強引
に現実に引き戻された。思わず彼女の顔を凝視しそうになったが、私の視線はすんでの所で
彼女の姿を捉える直前で止まった。彼女の顔を見るのが怖かったのだ。
再び彼女は沈黙の中に戻っていった。私は彼女の顔色を伺うことも、何?と聞き返すことも、
それから?と話の続きを催促することもせずに、ただ彼女がもう一度口を開くのを待った。
彼女も言ったが、私にだってよく分からなかった。
私達は、一分一秒経過していくうち、徐々に焦りや苛立ちを強くしていった。それらが猜疑
心へと転じる少し前に、彼女はふいに何か言葉を口にした。現実に彼女が発した声だという
ことに気付くのに若干のタイムラグが生じた。私は思わず彼女を見た。彼女は先ほどと変わ
らぬ姿勢のまま、次の言葉を続けた。
今日18人集まった、と彼女が言った。それが多いのか少ないのかは、私にも分からない。
泣いた人は一人もいなかった。でも、それは仕方ないと思う。みんなSの事故に戸惑っていた
みたいだから。
私は思い当たることがあったけど、誰にも言わなかった。みんなに話してもSのためによくな
い、と思ったし、どうしてかみんなにはあまり話したくなかったから。でもあなたには話して
おいた方がいいかな、と思って来てみたの。
あなたを見たとき、やっぱり来ない方がよかったかな、と思った。考えていた以上にショック
を受けているみたいに見えたから。何とか言い訳してすぐ帰ろうと思ってたんだけど、そうで
きないうちに部屋に上げられちゃったから。
でも、さっきまであなたを見ていたら、ショックとかいうんじゃなくて、もっと別のことを考
え込んでるように見えた。あなた前からそういうところあって、誰かと話している最中でも、
全然別のこと考え込んだりしてるような感じがすることがあったし。
その別のことというのが一体どんなものなのか、私には全く想像もできない。相手の話す事柄
に関連する内容なのかもしれないし、もしかしたら本当に全然関係ない、例えば明日の天気の
ことなのかもしれない。
もしあなたが本当に全然別のことを考えていたんだとしたら、私が話すことに意味がなくなる
と思う。今から私が話すことだけでなく、今まで誰かがあなたに対して問いかけてきた事柄全
てが無意味なものだった、ということになるかもしれない。
でも、私はあなたのそういう姿勢を批判するために来たんじゃないから。ただ、あなたのそう
いったところは可哀想だとは思うけれど、私が干渉する問題でもないから。私は私の言いたい
ことを完全に伝えたいだけなの。
自分の考えていることを他人に理解してもらうというのは、以外に大変なことだと思う。増し
て相手の性質を、ある程度知っていると自負する場合はなお更に。私もSから断片的な事柄は伝
えられたつもりだけど、それもどこまで彼女の望んだ通りに伝わっているかはわからない。
どうして話す前から言い訳をするのだ?私自身の狡猾さを責めているような事柄を、次々に並べ
立てている割には、彼女は全く自分自身のことが見えていないではないか。彼女とて彼女自身が
目の前で弾劾している私と同じだ。その彼女が、この私に一体何を諭そうというのか。
もっとも、私自身とて彼女に助言できる立場にあるわけでもない。生まれてたかだか16年、何
かを誰かに語るには、到底おこがましい年齢だった。私は偉そうなことを誰かに語れるほど、
自身を買い被ってはいないつもりだった。だから、私は黙っていた。
Sが私に話したことを、私がこうやってあなたに話そうとするのは、S自身は望んでないかもし
れない。でも突然死んじゃったし、どうせだったら黙って行ってくれた方が私には有り難かっ
た。言ってみれば彼女は一方的に残して、一方的にいなくなったの。
しかもそれが未完結の、中途半端な状態で放り出されたようなものだから。彼女は全部話した
わけじゃなかった。なのに、突然死んじゃった。残された私はどうしたらいいの?これからずっと
Sの話を引きずっていかなきゃならないなんて、そんなの誰だって嫌よね。
保身
とにかく、Sの話の内容と状況を考えてみたら、あなたに話すのが一番妥当というか、筋が通っ
てるというか、むしろ話しておくべきかも、って思った。Sの真意はもうどうしようもないから。
私が考えて、判断するしかないと思う。
あなたもSのことに関して何か、思い悩んでることがあるかもしれない。ただ単純に悲しめない
ところを見ると、そうじゃないかな?って思うんだけど。もしかしたら、それを解決できる糸
口になるかもしれない。もしかしたら、だけど。
707/707
彼女はここまで、たっぷり時間を掛けて話した。話の合間にときどき、これまで自分の発した言
葉を確認するように、口を閉じて考え込んだりした。彼女の意図する方向から逸れてないことを
自ら確かめると、また注意深く言葉を選びながら、時間を掛けて慎重に話を続けた。
多分彼女は、漠然とした内容だけを持ってここに来たのだろう。話す事柄の子細なところまで
あらかじめ考えていたわけではなさそうだった。何とか考えている通りに伝えようとする彼女の
努力は、巨大な岩の塊から端麗な石像を掘り起こそうとする彫刻家を彷彿とさせた。
私とて、そのような彼女の尽力を無辜にするつもりはなかった。自分の努力を最大限に発揮しよ
うとするのであれば、相当と認めるつもりが全くないわけではなかった、と自負できる。ただ、私
達がまだ若すぎるゆえ、彼女の、あるいはS自身の深遠な部分を汲み取れなかった罪は大きい
のかもしれない。
思えば私は、表現する側にも、それを受けとめる側にもうまくなり得なかったのだろう。ある
種の感情が起こってもそれを上手に表す言葉を知らず、また相手が発する文句に込められ
たものも、結局は己の都合で曲解していたのかもしれなかった。
hoshu
おもむろに彼女は語り出した。
一番最初は中学2年のときの6月30日だった。何故か最初だけは日付まで覚えているのよね、変な
ことだけど。昼休みのときで、教室に私とSだけがいて、私は保健委員の仕事で保健便りだったっ
け、あれをまとめていたの。もう一人の保健委員の男子はどっか遊びに行っちゃってて、私一人だ
けでやっていた。
誰かと教室に二人きりって、何だか気になるものよね。Sは私よりも前の席だったから、意識しな
くても目に入ってくる。そのSが、ぼんやり外を見てため息なんかついたりしてて、何となくだる
そうっていうか気分が悪そうな感じがしたから、私はSに近付いていって、どうしたの?気分でも
悪いの?と声をかけた。
S
そのときはSが、ううん何でもない、って言ってその場を離れて終わりだった。私は何でもないなら
まぁいいか、と思ってまた保健便りの製作に戻った。そういえば、立ち去るSの姿を目で追っていた
ら、黒板に書かれた日付が目に入った。6月30日って。だからそんなこと覚えているのかもしれない。
次の日だったか、次の次の日だったかは覚えてないけど、とにかくその日の後、Sが私に話し掛けて
きた。何て言ったと思う?……昔の友達に手紙を書きたいんだけど、書き出しは何て書いたらいい
と思う?って聞いてきたの。
ホ
sh
私は深く勘ぐったりもしないで、そんなの普通に「元気だった?」とか「久し振り」とか書けばいいんじゃ
ない?って答えた。Sの望んでた言葉はそんな平凡なものじゃなかったみたいで、何となく私の極普通
の回答に期待外れた様子だった。ちょっとイライラして、いちいちそんなことに気を使うくらいなら手紙
なんて出さなきゃいいんじゃないの、って言ったらSは慌てて説明してきた。
相手は幼馴染だ、って。別れ際にある出来事があって、ちょっと簡単にこちらから便りを出せる状況じ
ゃない、って。でも今の状況だと心苦しいままだから、どうにかして以前のようにやり取りしたい、って。
あなたが相手に対して何かしたの?って聞いたら、Sはそういうわけじゃない、って答えた。
相手がSに対して何かやったわけでも、別れ際に派手な喧嘩を演じてみせたわけでもないらしい。その
相手はどこに住んでるの?って聞いたら、同じ学校にいるって言った。じゃあ顔を合わせる機会もある
だろうから、そのときに話してみればいいじゃない、手紙とか面倒くさいことせずに。
そう言ったらSは、それはそうなんだけど……、って口篭もった。考えてみたら、話し掛けることができる
なら手紙なんて発想は出て来ないわけで、相当Sと相手との間に距離が開いてしまってるのかな、と思
った。だったらなおのこと、手紙よりも勇気を出して直接話した方が解決に近いんじゃないの?
ホシュ
400get!
でもSは、直接話すことには抵抗があるようだった。でも、でも……、と繰り返すだけで、それ以上の進展
は望めそうになかった。とにかく、と少し大袈裟に前置きして、手紙はあくまできっかけにしかならないと
思うから、根本的解決をしたいのなら話し掛けるしかないと思うわ、と言ったの。
多分Sにも解っていたんだと思う。彼女が望んだのは、それを決断するための誰かの後押しだったんじゃ
ないかな、って。でも、当時の私はそんなこと思いつきもしなかった。ただ、煮え切らないSに少しイライラ
していただけだった。もうちょっと上手く振舞えれば、って思うこともあるけど、そんなこと考えてももうしよう
がないんだけどね。
h
ホシュ
結局Sは手紙を出すこともせずに、というかできずに、と言う方がいいのかもしれないけど、結構長い間
考え続けてたみたいだった。私は別にお節介を焼くつもりはなかったんだけど、どうにもSのことが気に
なって、一応相談を受けた身でもあったし、その後の状況を聞いてみることにした。
この間話してた件はその後どうなったの?って。そうしたらSは、ああそれは……、と言ったきり黙り込
んだ。やっぱり何もできずにそのまんまにしてたみたい。私も黙ってたら、どうしたらいいと思う?って
聞いてきたから、以前言ったことをもう一回Sに言った。話しかけるしかないと思う、って。
0
すげー長いコピペだな・・・
かなり以前にまったく同じ文章読んだのだが・・・
通夜の夜の棺桶の窓のはなしとか〜。
正直UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!
>>408 すげー短いコピペだな・・・
かなり以前にまったく同じ文章読んだのだが・・・
根拠のない煽りとか中傷とか〜。
正直UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!
さっきも言ったけど、今思うとSの本当に欲しかったのは多分、自分自身を強力に後押しする半ば命令
口調の言葉だったんじゃないかな。私は何々だと思う、とか、何々した方がいいんじゃない?とかじゃ
なくて、何々しなさい、とか、何々するべきだ、とか。
でも、だからといってSは決断力が足りないわけでも、気が弱過ぎるわけでもなかったと思う。必死に
そのことを自分で考えていたと思うし、S自身でも一番いい方法が何か分かっていたはず。それを誰か
に、その通りだと認めて欲しかったんじゃないかな。
どちらにしても私は、と思う、とSに言った。そう言われたSはただ躊躇うばかりで、結局行動を取れない
みたいだった。その後も、何度か経過を聞いては同じことを言ってSが黙りこくる、というのが数回続い
た。どうしても、浮かない顔したSを見るたび気になって仕方なかった。
回を重ねるごとに、Sは私が話しかけると憂鬱さを増していくみたいだった。何度目かのSの沈黙を目の当
たりにしたとき、私はふと違う方向からアプローチしてみようと思った。あまりいい方法じゃないと思っ
てそれまで避けていたんだけど、それ以外にもう思い付かなかった。
sage
私はいつものようにSに話しかけた。Sは毎度のことのように黙り込んだ。まるでSを苛めているみたいに
感じた。Sをもっと苦しめる結果になるかもしれない。でも現状のままでは解決しない、それに途中放棄
するにも私はかなり顔を突っ込みすぎた。自分にそう言い聞かせてから、Sに言った。
本当はもう、相手のことなんかどうでもいいと思っているんじゃないの?Sははっとした表情で私を見返
してきた。何か喋ろうとしたけど、言葉にならなかったみたいだった。Sは、そのことをもうどうでもいいと
考えているわけじゃなかった。それを確認してから、私は続けて言った。
本当にどうにかしたいんなら、いつまでも口篭っているわけにはいかないんじゃない?あなたの言動には、
少なくとも私を突き動かすような、強い意思を感じなかったわ。一体どこまで本気で考えているのかしら?
Sは意表を付かれたような顔をしたけど、言ってしまった後にはもうどうしようもなかった。
Sはまた黙り込んだ。所在なさ気に視線をうろつかせていた。でも、私の詰問を全く予想していなかった様
子じゃなかった、多分何となく。そういうSを見て、私はちょっと嫌な気分になった。もしかしたら彼女は、私
がこう言い出すのをずっと待っていたんじゃないか?って思ったから。
.
私がずっと、と思う、って言い続けていたのは、少し責任逃れみたいなところもあったと思う。いくらSが命令
口調の言葉を欲しがっていたかもしれないといっても、私の言葉で彼女が失敗したら、私にだって何らかの
責任が出てくるもの。そういうのを誤魔化すために間接的な言葉を使ったのかもしれない。
どっちにしても私は、もう後に引けない状況になってしまった。できればあまり深く関わらずに解決して
ほしかったんだけど、こうなったらもうそんなことも言ってられなかった。何とかしてみんなが喜べるよ
うな結果を、Sと模索してみるしかなかった。
age
いいかげんにしろよ。きちがい。
あげんじゃねー!
相手って誰?まずそう聞いた。もう分かっているとは思うけど、Sはあなたの名前を言った。本当のことを
言うと、ちょっと意外な感じがした。悪い意味じゃなくて、私はSとあなたがそういう関係だったことなん
か知らなかったから。単に私が抱いてたSとあなたのイメージが合致しなかったの。
どうしてそうなったと思う?って続けて聞いてみた。Sはしばらく考え込んだ。ひょっとしたら言うのを躊
躇っていたのかもしれない。自分でもわからないの?と、私は言った。そういうわけじゃないんだけど……、
Sは消え入りそうな声でそう言った。
h
Sはそのまま少し黙り込んでいたんだけど、突然さっきと同じような小声でぼそぼそと話し出した。
近所の幼馴染から始まって、小学校はずっと同じクラスだった。よくお互いの家に行き来していた……。
Sはあなたのことを親友だと思っていたし、あなたもSのことをそう思っていると考えていた。
でも、Sは段々あなたに対して変な感情を持つようになった。何て言えばいいか、つまり次第にクラスの
中心的な存在になっていったあなたに対して、ちょっと近寄り難いというか、話し掛け辛いというか。どち
らかというと、S自身はそういうタイプじゃなかったから。
私なんかが話し掛けられる雰囲気じゃなくなったような気がする、って言ってた。どうして?って聞いたら、
よく分からないけど意識的に私を避けてるのかもしれない、って。そういえば、あまりあなたとSが話して
るところは見たことがなかった。だから私も、あなたとSにそんな接点があったとは知らなかったし。
避けられてるって言うけど、何か心当たりがあるの?私がそう聞いたら、さっきよりも小さな声でSは言った。
何だか困っているような気がするの……。私と向かい合ったとき、私と話さなければいけないとき、困って
いるような気がするの。どこかよそよそしいような感じもするし。
てす
てす
てす
てす
すまんageてた。
てす
439 :
▼-ω-。o〇海 ◆Kveoxyl9RE :03/12/11 01:58 ID:siBQrv7R
えーと、エロ小説晒せばいいんですか?
妄想晒せばいいみたいだにょ
思い込み、って可能性もあるんじゃないの?相手にされにくいあまりに被害者意識というか、ちょっと
あれだけど、やっかみみたいな感情がそう思わせているんじゃないの?本当に確かな確証を得た上で、
避けられてると思うのね?
Sはしばらく考え込んだ。それまでのあなたの反応を、逐一思い返しているようだった。私は、あなたと
Sとの接点すら知らなかったから、Sの言うようなことが実際にあるのか、それともSの思い過ごしなのか
判断できなかった。わからない、とSも言った。
守
保
私はSのその言葉に拍子抜けて、それじゃあ協力できないじゃないの。一体どうしたいの?って、つい
少し声を荒げてしまった。Sは俯いて黙ったままだった。そういう姿を見てたら何か私が悪いことした
ような気になってしまって、私は何も言わずにその場を離れた。
そのときの私は、まだ他の人のことについて考えたことなどなかった。人が何を考えて、どういう思惑、
信念で行動しているのか想像してみたこともなかった。馬鹿みたいな話だけど、ある程度共通する行動
理由をみんなが持ってて、それに従ってみんな行動してると思ってた。
447
mawarikudoi
だから私は、精一杯理解しようと努めさえすれば誰のことでも理解できるし、同じように理解してもら
おうと精一杯励めば誰にでも理解してもらえる、と思ってた。理解できない、理解してもらえないのは
自分の努力が足りないせいだ、って。今ではそんなこと思わないけど。
とにかくその後、私はしばらくSに話しかけなかった。Sに冷静にいろいろ考えて欲しかったし、私にも
考える時間が必要だったから。それとSの言ったように、あなたが話しかけ難い人なのかどうかを見極め
るために、密かにあなたを観察していたの。
別に変な先入観を持ってあなたを見てたわけじゃなくて、努めて客観的にあなたのことを見ていたつもり
だった。Sの言ったことに囚われて偏見を持たないように気を付けながら。でも私が見た限り、あなたに
Sの言ったようなことは確認できなかった。
やっぱりSの思い込みなんじゃないかな、と思った。ちょっとしたきっかけで一度変な風に考え出すと、
凝り固まってますます変な考え方に囚われてしまうことってあるじゃない。Sの場合もそういうものだ
ったんじゃないか、そう思った。
そんなとき、クラスの子があなたのことをひそひそ話している場面にたまたま出くわしたことがあった。
他人が見た客観的なあなたの姿の参考になるかな、と思って聞いていたんだけど、彼女達は私がいたの
に気付いていなかったようだった。
ひそひそ話していたくらいだから、決していい内容じゃなかった。というより、私が聞いていても大分
気が滅入るような悪口だった。私が見た限りでは、あなたという人間がそこまで酷く中傷される理由が
分からなかった。
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一人の人間を見る人によって、こうも捕らえ方に差が出てくるものなのかしら。陰で中傷していた彼女
達は、そう思わざるを得ないような仕打ちをあなたから受けたのかな。どっちにしてもかなりショッキ
ングな出来事だった。その内容とか、誰がとか、今更言わないけど。
私が見たあなたという人物像と、彼女達の抱いていたイメージは、とてもかけ離れていた。それで私は
自分が見ていたことだけで、あなたという人間を判断してしまうのが正しいのかどうか分からなくなっ
てしまった。客観的を心掛けてはいたけど、本当に中立した判断だったのか自信がなくなった。
私と彼女達の捕らえ方が極端だったのかもしれない。中立的に見たつもりでも、実は偏っていたのかも
しれない。Sの話を聞く前から私が抱いていたイメージに影響され過ぎたのかもしれない。Sから聞いた
話が、あなたを観察することに変な影響を及ぼしたのかもしれない。
いろいろ可能性を考えてみたけど、それすらも正しいのか正しくないのか分からなかった。一体何が
原因で、見る人の意見が両極端になってしまうんだろう。そもそも私は、あなたのどういったところ
を見て、Sの言ったようなこととか陰の中傷とかと正反対の捕らえ方をしていたんだろう。
あげ
散々考えたんだけど、どうしても分からなかった。でもね、多分どんなに考えても、どんなにあなたを
観察しても、その答えが見付かることなんてないんじゃないか、って思った。だってあなたが私に見せ
る態度が、あなたの全てじゃないわけだし。
私が見た人物像だけで、その人が形成されているわけじゃないもの。Sや陰口を言ってた子達にしか見せ
なかった部分があるんだと思った。いや、見せなかったというより、見せてしまったのかもしれないけど。
ともかく、私は私の見える部分でしか、あなたを判断していなかったんだと思った。
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それに、例えばあなたとSとが接するときに、私が持ってるイメージっていうのは無関係よね。Sが話しかけ
難いって言ってても、私はあなたに対してそんなことなかったし。つまり、私があなたに対してどんな印象
を持っていたとしても、Sにとってはやっぱり話しかけ難かったのよ。
だから、いくら私があなたのイメージをSに話して、そんなことないよって言っても、根本的解決にはなら
ないんだと思った。S自身があなたと接する機会を作ってから、そのときにSの持ってる話しかけ難いという
イメージを払拭しなければいけない。
こうなると、ただ単にSを焚き付けてあなたと会話させるだけではだめだった。あなたに対しても私から
何かはたらきかけて、Sと対峙するときにぎくしゃくした雰囲気を抑えなければいけない、と思った。両
方をうまく取り持てばきっと解決できる、そう考えていた。
お節介と言われればそうなんだけど、私は良かれと思って行動することにした。放っておくには深く関わり
過ぎたと思ったし、相談を受けたのに途中で放り出すのは後味が悪過ぎる。私の中では、私は既に当事者の
一人だと思っていた。そして、実際に行動を起こす前にSにそのことを告げた。
手放しで喜んでくれる、とはさすがに思っていなかったけど、猛烈に反対されるとは予想もしていなかった。
Sは目を見開いて私を見ると、そういうのはやめて、お願いだからやめて、と繰り返して言った。私はSが、
ここまで強く拒否したことに驚いた。
何でだめなの?他にいい方法があるの?って聞いたらSは、とにかくその方法だけはやめて欲しい、と言い
続けるだけだった。そこまで必死に言われたら、さすがに強行することなんてできなかった。少し釈然と
しなかったけど、私はひとまずあなたにはたらきかけるのを押し留まった。
こういうとき、私だったらとにかく行動する方法を取ると思う。確かにいろんな感情がそれを邪魔しようと
してくるけど、そんなことを気にするよりは、早く問題解決をやった方がその後いちいち悩まなくて済むし、
実際私の経験上、上手く解決出来る確立も上がると思うのに。
内心、Sのネガティブな思考にいらいらしてたんだけど、強制的にでもSが行動せざるを得ない状況に持って
いきたかったんだけど、思い留まった。まだSには説得の余地があって自発的に行動を取らせられると思った
し、強制的なことを仕掛けるのはもう少し先のような気がしたから。
だからしばらくは、Sに干渉しないようにしていた。自分から行動を起こすまで放っておいて、もし私に助け
を求めてきたときには、喜んで協力しよう。そう考えていた。何にしても誰かに強制的にやらされるよりは、
自分からやった方がいいに決まってる。私はお節介を焼きたくなるのを堪えながら、待ち続けた。
でもSは、結局何もしなかったみたいだった。出来なかったのかもしれない。私は、ここで我慢できずにしゃ
しゃり出て折角のSの決意とか覚悟とか、そういうものを台無しにしてはだめだ、と自分に言い聞かせながら
不干渉を貫き続けた。そのまま夏休みになってしまって、Sと顔を合わせることがなくなった。
普段から姿を見る機会があるのと、全くないのとでは随分違うものだった。部活動や勉強に追われて、Sの
問題を半分忘れかけていたみたいだった。目の前にあることに目を奪われて、Sの問題はそんな日常のこと
よりも優先順位が下がっていたのかもしれない。
全く気にかけていなかったわけじゃなくて、ときどき思い出してはどうしたかな?と考えることもあったけ
ど、私としては出来るだけ助言をしたつもりだったし、あとはS次第だと思っていたから。休み中にSが行動
を起こして、望んだような結果に落ちついていれば、もう私が口を挟む問題じゃなくなるはずだった。
楽観的な考え方に偏っていたのかもしれない。夏休みの間、私はSと顔を合わせないことで、自分の考えた通り
に物事が進んでいくような気さえした。ふとSとあなたのことを思い出したとき、今頃は案外すんなりとうまく
やっているのかもしれない、なんてことが頭に浮かんできて、本当にそうなったらいいな、なんて考えてた。
多分、Sの顔を見るだけでかなりの負担というか、ストレスのようなものがあったのかも。焦れてもいたし、
もっと強く言うべきかどうか迷ってもいた。休みで一時的にSと会わなくなってから、自然にそういうプレ
ッシャーを目の当たりにしなくて済んだせいで、楽観的になっていたのかもしれない。
でも、そうそう自分の考えている通りに物事が進むことなんてまずない。分かってたつもりなんだけど、
やっぱり実際に突き付けられるとかなりがっかりした。夏休み明けに、私はSからの朗報を聞くことなど
なかった。あんなに想像で浮かれていた自分が疎ましいくらいだった。
つまり、あなたも知っているように、Sはどうやら夏休みの間に一人悶々と考え込んでいるだけだったみたい。
Sの浮かない顔を観た途端に、私の希望的推測は打ち砕かれた。私は、そんなこと言える義理じゃないかもし
れないけど、自分の無力さを痛感した。必死に、それが自称でも、うまくアドバイスしたはずだったのに。
今思い返すと命令口調で伝えればよかったのかもしれないと思うけど、そのときの私は単純に自分の努力
不足を疑ってしまった。伝えるべき言葉に自分の誠意とか、必死さが足りないんじゃないかと思い込んだ。
もっとSにしつこく説き伏せる必要があると思った。
二学期の始業式の日から早速始めようと思っていたんだけど、その日は何故か私とSが言葉を交わすことが
なかった。いろんな仕事をこなしながらも言わなきゃ、言わなきゃと思っているうちに、いつの間にか放課
後になっていた。校内を探して回ったけど、Sはもう帰った後だった。
仕方ないからその日はそのまま、私も帰った。帰りながら、帰りついた後もずっとSのことについて考えて
いた。私自身、随分待ったつもりだった。もうそろそろ、本気で何とかして欲しい、そう思った。Sの相談
を受けた側としても、いつまでも中途半端なままでいるのはきつかったから。
明日こそSを捕まえて、思いの丈をぶつけよう。本気でそうしたいと思っているの?と。誤魔化し続けても
Sがそれを望む限り、いつかはやらなければいけないんだ、と。延ばし延ばしにしても気力が摩り減るだけ
なんだ、と。無駄に時間を掛ければ、その分だけお互いに凝り固まってしまうんだ、と。
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でも、私の意気込みとは裏腹に、Sとそういう話をする機会はなかなか訪れなかった。Sに話しかけようとし
たとき気付いたんだけど、私は少し冷静さを欠いていた。今度は中途半端で終わるんじゃなくて、Sが頷く
まで追い詰める必要があったから、かなり長い時間が必要だった。それに他人の耳のないところで、できれ
ば話を進めたかった。
学校でそんな条件が揃うことはなさそうだった。だから休日にSをどこかに呼び出して、そこで十分に話を
しよう。安直な方法だったけど、そう決めた。あれこれ考えを巡らしてる時間がもったいないような、そん
な気がした。呼び出した後にどういう話をしてSを焚き付けるのか、全く考えていなかったけど。
とにかくその場で私とSが向き合えば、自然に言うべき言葉が出てくるような気がした。例え感情に任せて
支離滅裂なことを口にすることになっても、私が本気で思っていることを心に留めておくことが出来さえす
れば、きっとSだって解ってくれると思っていた。
私は感情が先走るのを静めながらSに声をかけた。ねえ、今度の日曜日は何か予定ある?ちょっと用事があ
るんだけど。2学期が始まってすぐに委員会の仕事とか、席替えとかテストとかいろいろあって、Sに声をか
けられたのは、夏休みの終わりから1週間程経った頃だった。
Sの顔に少し不安げな表情が浮かんだけど、そんなこと気にしていられなかった。大事な用なの、と私は続けた。
詳しく説明するまでもなく、Sには私の意図が理解できたようだった。Sはしばらく考え込むこともなく、あらかじめ
決まっていたような答えを口にした。ごめん、その日は別の用事があるの……。
私は何だかはぐらかされたような気がして、少し呆然となった。結局私はSのことを何よりも考えているつもりで、
その実まるで考えていなかった。空回りという言葉がぴったりくるかもしれない。それは2度目にSとの約束を取
り付けようとしたときに、はっきりと分かった。
Sは私を避け始めていた。
さっきも言った通り、そのとき私はかなり感情的になり過ぎて冷静さを欠いていた。Sのためだと思ってやっていた
つもりだったんだけど、実際は私自身を偽善で満足させ得るだけだった。つまり、私が言葉や行動でSを追い込ん
でから、私がSに救いの手を差し伸べる。自作自演だった。
私はSとあなたを向かい合わせるつもりでやっていた。だから本当はあなたにも、何か言わなければいけなかった。
でも私はうまくいかなかった理由を、Sがなかなか行動しようとしなかったせいだと、決め付けていたような気が
する。そうしてSにばかり何とかさせようとしていた。
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Sもそういうところに気付いたのかもしれない。もしかしたら、ただしつこく責められるのが嫌になっただけなの
かもしれない。どっちが原因にしても、私はSから拒絶された。話しかけようとしても、うまくかわされたり逃げ
られたりした。そんなSに腹を立てても、文句を言える機会すらなかった。
最初はSの豹変振りにただ驚いていただけだった。だって誰かに避けられる、なんてことは初めてだったから。避
けられていることに気付いたとき、私の頭は怒りと悲しみでいっぱいになった。私がSにしてきたこと、全部が全
部Sのためになるとは思わなかったけど、よかれと思ってやっていたのに。
私がSへの抗議や言い訳なんかをいくら考えても、Sはもうそれを聞く気もなかったんだと思う。際限なく沸いてく
る言葉とSのがんとした態度に挟まれて、私は酷く混乱して、空回りして、疲れ果てた。そうやって途方に暮れた
ときにふと思った。避けられるというのはこんなにも辛いものなんだ、って。
Sもこれを経験することになって、ものすごく辛かったんだろうなって思った。もしかしたら最初Sが私に相談した
とき、本当は相談相手が別に私じゃなくてもよかったのかも知れない。私という人間に何とかして欲しかったわけ
じゃなくて、ただ誰かに愚痴をこぼしたくなっただけなのかも知れない。
そういう訳で、私はSの辛さが少しだけ分かったような気がした。でも分かったような気になっても、そのときは
もう遅過ぎた。そんな状況なのにSに同情さえしたけど、私はどうすることもできなかった。Sにはすでに私の言
葉を聞く意思がなかったし、私も何を言えばいいのか全然分からなかった。
もう私がでしゃばらない方がいい、と思った。Sにまだ問題を解決したいという気持ちがあるのかないのか、それ
は私が思い悩むべきことじゃなくなって、完全にS自身の問題になったんだ、と思おうとした。おせっかいで他人
の心情を掻き乱すのはもう止めよう。空回りするのも結構疲れてしまう。
まだ
>>160近辺だけどおもしれー!!! 寝れねーよバガァ!
ゴメン文字レス以後自粛します。
思えばこれまでも、こうやって他人の問題に自分では善意だと思いながら、首を突っ込むようなことが多々あった
ような気がする。当事者達の間に割って入っていって、一応の解決をしてきた、と私は思っていたけど、このとき
のSの場合みたいに過剰に関わり過ぎて、本当は多かれ少なかれその人達に迷惑をかけていたのかも。
でも、私には見てみぬ振りをすることができそうになかった。Sに避けられて、初めて当事者の気持ちが分かった
後では尚更だった。けど、私が関われば新しい問題を作ってしまうことになるかもしれない。そんなことをしば
らく考え込んでいた。何が一番いい方法なのか、って。
結局答えは見付からなかった。今までベストだと思ってやってきた方法しか知らなかった私が、急にそれに
変わるものを探そうとしても、なかなか見付かるものじゃない。こういうときこそ、誰かに相談したりすればよ
さそうなんだけど、私はそうできなかった。
だって、他人に今まで散々独善的な解決法を押し付けてきた私が、今更どんな顔をしてそういう人達に相談すれば
いいんだろう。それに私の場合、不条理に問題がやって来たわけじゃなくて、自分から墓穴を掘って招き寄せたよ
うなものだったから。
だけど、こういうことでもない限り、自分のやってきたことを振り返る機会なんてなかったかもしれない。そう気
付けたことだけでもよかったと思うしかない。……なんて、理性ではそう考えるようにしようとするけれど、これ
まで関わってきた人達を傷付けてきたかもしれない事実と、Sの態度は変えられなかった。
Sの問題を別方向から解決すれば、もしかしたらうまくいくかもしれない。そういう考えが浮かんではいたけど、
そうするための気力が湧いてこなかった。ネガティブな感情に捕らわれてしまって、諦めみたいなものが私の中
にできつつあったのかもしれない。
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とにかくもう、私からSに何かはたらきかけることはできなかった。Sの決意は固いものだったし、私ももうやる
気が起きてこなかった。Sが本当に切羽詰って、私にもう一度協力を頼んでくる可能性。そんな奇跡地味たことを
考えてみたりもしたけど、ありえないことは分かっていたつもりだった。
私はSの問題について、完全に関係のない部外者にならないといけないと思った。奇跡のようなことを考えるのも、
それからのSの動向をこっそりと観察することもやめて、Sの最初の相談を受けたときよりも前の状態に戻らなけれ
ばいけない。さすがに忘れることまではできないけど、それが最終的にSの望んだことだと考えた。
Sは多分、私に相談したことを後悔していたに違いない。私が勘違いして先走ってしまうことを知ってたら、私に
なんか相談しようと思わなかったろう。そこのとこだけはSの失敗だったけど、それ以降問題をややこしくしたの
は私の責任だった。
責任と言っても、Sがそれを償って欲しいと思っているはずがなかった。それに、私も今までのやり方以外でどう
したら解決できるのか、もう何も思い付かなかった。私の責任は行き場をなくしてしまうことになるけど、本当に
もうどうしようもなかった。
はっきり言って、毎日とても気まずかった。針のムシロっていうの、まさにあんな感じだった。同じ教室にいるこ
と自体は何でもなかったけど、Sの目が少しでも私の方を向くととてつもない脱力感、というのか分からないけど、
そんな風に何かを削られるような気がした。
表立って私を批判することはなかったけど、Sの体から言葉にならない言葉とか感情が、私に向かって投げつけられ
ているみたいだった。確かにとても気まずかったけれど、私はSがこういう行動をとるのと同等のことをしてしまっ
たんだ、と思って何も言わなかった。
思い返してみるとおかしな話だった。Sの問題のときは、他人事なのにやたらと張り切ったり根拠のない確信を持っ
ていたりしていたのに、自分が同じ問題を抱えたとなると、全く怖じ気付いて何かと理由を付けながら逃げ回ってい
ただけだったんだから。
Sはこう思っているだろうとか、Sが望んでいないだろうからとか、私は勝手にSの言い分を頭の中で作り上げて、自
分から行動したくないのを、外部的理由で行動できないみたいに錯覚しようとしていたのかもしれない。相談を受け
て、相談者が困惑する程暴走した同じ人が取った行動とは思いにくいけど。
age
そんな状態のまま3年生になって、Sとは違うクラスになった。つまり私は、半年くらいも自分の問題をそのまま何も
せずに放っておいた。途中いろいろと考えたこともあったけど、結局は何もしなかったんだから同じだった。それで
よかったのか、そうでなかったのかはとにかく、Sと離れていくらかホッとしたのも事実だった。
違うクラスになったといっても、ときどきSと偶然出くわしたりして、かつての失敗を思い出してしまうこともあっ
た。Sが相変わらず私に無関心を装って通り過ぎる度、私は暗い気持ちになった。もっと嫌な気持ちになったのは、
そういう機会が増えるごとに、私自身もSに対して無関心になりつつあったことだった。
一種の諦観なのかもしれない。無意識の内に、なかったこととして扱おうとしていたのかもしれない。Sの姿を見付
けたり、Sのことを思い出したりして失敗を思い出す回数が増えるごとに、私の中の後悔や罪悪感みたいなものが少
しずつ、本当にほんの少しずつ、小さくなっていってるような感じだった。
このまま中学を卒業してSと会うこともなくなったら、次第にSのことを思い出す回数も減っていって、Sの顔すら思
い出せなくなって、最後には自分のしたことも忘れてしまうのかも、なんて考えてみたりして、また嫌な気持ちにな
ったりした。私が完全に忘れてしまっても、Sが完全に忘れてくれる保証はなかったから。
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そういうのとはまた別に、漠然と淡い希望を持っているような部分もあった。例えば小さい子が、抱いている将来の
夢とか就きたい職業のことを考えるときみたいに、今の私とは全く違う新しい力を得た未来の自分が、いろんな回り
道をしながらも何とか問題を解決してくれるんじゃないか、なんて。
このままなるようにしかならない、という諦めに近い気持ちと、どんな手を使ってでも解決したい、という気持ちが
私の中に半分ずつくらいあったと思う。随分時間が過ぎてしまったことが諦めを加速させたし、遠い将来に必ず後悔
するという懸念が希望を存続させていた。
だけど当時の私にとって、そのどちらかを選ぶという行為が、とても現実離れしたものに見えて仕方なかった。いや、
選ぶというよりは選ばなくてはいけない、だったのかもしれない。進む先に私を陥れるための仕掛けが組んであるの
が見えていながら、それを回避することと、今その時点で決めることがうまく結び付けられなかった。
定期テスト前夜の心境に似ているかも。ちっともはかどらない勉強の合間に、ふと息抜きなんて言いながら好きな本
を読み始めたりするようなもので、そうしている間にも明日の私の点数はどんどん下がっていってるのは簡単に想像
できるのに、現実味がしなくって勉強しなきゃっていう気が起きない……。
∀・)<書き込めるラウンジ最古のスレ・・・
最古スレに記念
ちょっと違う気もするけどとにかく、今の問題を抱えたままの未来の自分は想像できるけど、その未来の私と今現在
の私との繋がりが把握できなかった。今の私が問題を解決しなかったら、きっと未来の私は後悔という形で今の私に
文句を言いたくなると思う。それは分かるけど、一体私はどうしたらいいというんだろう。
そうやって悶々と考えるだけで、結局私は自分からその問題を解決しようとはしなかった。もっともそうな言い訳を
いくつも準備して、必死に自分自身をなだめすかすことに力を入れた。でも当たり前だけど、自分から見ても幼稚な
言い訳をたくさん用意しても、私の心は晴れるわけがなかった。
どんどん時間は過ぎていった。半分ずつあったはずの相反する気持ちは、だんだんバランスを失っていった。そんな
とき、ふと諦めに傾き切ってしまうことを望む自分を見付けて驚いたり、今のうちから覚悟を整えておこうとするか
のような思考をいつのまにかしてしまっていて憂鬱になったりしていた。
私は、私自身がどうしたいのかを見失っていた。どういう行動に出ても、それからどういう結果が得られても、きっ
と必ず後悔する、という思いに捕らわれていた。私一人では解決できそうもなかった。きっとSもこんなプレッシャ
ーに耐え切れず、私なんかにうっかりこぼしてしまったんだと思う。
ミ・д・ミ
でも私は、誰にも相談することのないままじりじりと過ごしていた。相談相手に困っていたわけじゃなくて、何と言
って説明すればいいのかさっぱり分からなかったから。何が原因でこんなことになったのか、私なりに考えては
みたけど、それはあくまで私自身の見解によるものだから、どうしても私の主観が入ってしまう。
そうなったらそれは説明じゃなくて、ただの愚痴になってしまうと思う。私は愚痴をこぼしたくなかったし、例えフ
ェアな説明をしたつもりでいても、第3者から見たら愚痴だととらえられるかもしれない。そういうのは絶対に避けた
かった。理由はよく分からないけど、とにかくそういうのだけはやりたくなかった。
5月の中ごろ、校内美化だか清掃だかの行事があって、私はクラスから実行委員に選ばれた。形だけに近いような
会合が開かれて、私も参加することになった。ああいうのって、ただプリントに書いてあることをわざわざ全員で確
認するだけだったりする。特に重要でもなさそうなんだけど、放課後私は指定された教室に行った。
Sがいた。入り口の私には気付いていないようだったけど、私は素早くSの姿を確認していた。Sの方を見ないようにし
て席に着き、机の上に配ってあったプリントを熱心に読み始めた振りをした。視線を上げないようにしながら、何で
私はこんなにこそこそしているんだろう、と思った。多分Sと同じ教室にいるのが久し振りだったからかもしれない。
会合が始まっても一度もSの方に目を向けなかった。だからSがどういう反応をしていたかは分からない。ただ自然
な風を装って視線の移動に気を使い、早く定型通りの集まりが解散になるのを望んでいた。読めば分かるようなこ
とを、いちいち言い聞かせるように読み上げていく先生の口調がじれったかった。
作業に使う洗剤だったかワックスだったか、プリントの内容確認がその項目に差しかかったとき、先生がふいに読
み上げるのをやめて私の方を見た。ちょっとあなた、手間だけど職員室前に行ってひとつ持って来て下さい。私が
返事に困っていると、先生はもう違うところをきょろきょろと見渡していた。
仕方なしに私は黙って席を立ち、教室から出て行こうと入り口の方に歩き出した。少しでもこの教室に居たくなか
った、という気持ちがあったのかもしれない。背後で先生がまた誰かを指名した。一人じゃ重いだろうから、あな
たもちょっと行って手伝ってやって。何気なしに振り返って困惑した。Sが立ち上がるところだった。
Sも嫌なら断ればいいのに、ととっさに思った。けどSは私の方に歩いてきた。そのとき久々にSの顔を真正面から見
た気がした。よりによって私とだというのに、嫌そうな素振りも見えなかった。私はといえば、動揺したのがSに伝
わっていないことを祈るだけだった。
570
私とSは無言のまま歩いた。私は歩きながら、先生が私とSを選んだ理由について考えていた。偶然なのか作為的なの
か、どちらにしても納得できるような結論は出なかった。偶然にしては出来過ぎだったし、作為的にしては誰かが得
られるメリットが少な過ぎると思った。
私は終始無言でことを終えるつもりだった。一方的に感じる気まずさだけに注意していた。何かきっかけがありさえ
すれば、これまでじっと考えていたこと、溜まっていた憤りが正確な言葉にならないまま一気に噴き出してくる可能
性があった。そしてそれが何の意味も持たないことも分かっていたつもりだったから。
Sは私の数歩後から付いて来た。職員室までの廊下が、やけに長く感じられた。とにかく余計なことは頭に浮かべ
ないようにして、さっさとお使いを済ませてしまうことにした。私は一度も後ろを振り向かないまま、少し早足気味で
歩いていった。Sの足音も懸命に私の後を追ってきていたようだった。
少々重い程度なら、ちょっと無理しても私が一人で持っていこうと考えていたけど、廊下に並べてある洗剤の缶を見
た途端、無理だと思った。先生が二人指名した理由も分かった。缶の側面に二つ取っ手が付いていて、缶を挟むよ
うにして二人で持てば、女子でも運んでこれるだろうと考えたんだろう。
取っ手を持ってちょっと引きずってみると、30キロくらいはありそうだった。Sが後ろから声をかけてきた。これな
の?瞬間私の頭にいろんなことが過ぎったけど、冷静を努めて言った。そうみたい。そのたった一言を言っただ
けで、私は少し疲労感を覚えた。
取っ手の片方に手をかけたまま、Sが反対側の取っ手を持つのを待った。私の意図が分からないのか、Sは私の
後ろで突っ立っているだけだった。仕方なしに私は、さっきの冷静さを心掛けながら、後ろを振り向かずに恐る恐
るSに言った。反対側、持って。
自分で言った台詞にぞっとした。ぶっきらぼうを通り越して、恐ろしく無機質に聞こえた。あわててSの方を振り返
ってその顔色を伺った。気付かなかったのか、気付かない振りをしたのかは分からなかったけど、Sは私の言葉
に従って隣に回り、反対側の取っ手に手をかけた。
大丈夫、私が変に過敏になっているだけだ、と自分に言い聞かせた。変な気を使ったりしたら逆にまずいことになる。
普通に、普通に接していれさえすれば、こんな状況すぐに終わりになる。私もSも、こんな状況をお互いに望んでいた
わけじゃない。言ってみればこれは、事故みたいなものなんだ、と。
スムーズに事を終わらせるためには、何でもしようと思った。Sが反対側の取っ手を持ったのを確認すると、私はS
に声をかけた。いい?せえの。私とSは同時に腰を上げ、私の左腕とSの右腕にどっしりとした缶の重さが加わった。
私が想像していたよりもずっと重かった。私もSも、慌ててもう一方の腕を取っ手まで持っていった。
必然的に私達は顔を合わせるように向き合うことになったけど、そのままゆっくりと歩き出した。時々無様な蟹股歩
きになったりしながら進んでいった。私は進行方向にだけ視線を向けていた。これを集会の教室まで維持すればい
いだけだ、と何度も頭の中で繰り返していた。
階段を上る途中Sが、ちょっと待って、と言って缶を踊り場に置こうとした。階段を上って少し行けば、もう目的の教室
まですぐだったから、私はそのまま一気に行ってしまいたかった。けれどもう、私がそう主張する前にSが持っていた
方の缶の底は、派手な音を立てて床に落ちていた。
私もゆっくりと缶を下ろした。Sはそれを見て取っ手から手を離し、踊り場に座り込んだ。少し大袈裟過ぎるように
へたり込んでいた。ああ疲れた、とSが言った。私はどうしたらいいのか分からずに、さっきまで自分が握っていた
缶の取っ手を、突っ立ったままただじっと眺めていた。
何で私達がこんなの運ばなくちゃいけないのかしらね、とSが言った。Sの口調にも表情にも、特に意味が込められ
ている様子はなくて、ただ普通に思ったことを口にしているだけみたいだった。相手がSじゃなかったら、私も相応し
い受け答えができただろうと思う。何のことはない、ただの雑談だったなら。
でも私にとってのSは、普通の知り合いとか友達とか、同級生とかいうものからも離れているように感じられた。私
がしたこと、Sが受けたこと、Sがしたこと、私が受けたこと。どれを見てももう私達は、普通の友達のような感覚で
お互いに接し合うことは無理だと思っていた。
保
age
でも、と一方で考えた。確かに望んだ状況じゃないけど、考えようによってはこれは全部をうまく解決するための
チャンスでもあるんだ。私が上手に立ち振る舞えば、これまでのことが全て懐かしい笑い話として私達の脳裏に記
憶されるかもしれない、と。私は自分が、まだ希望を捨てていなかったことに驚いた。
Sだって何気ない風を気取って言葉を発したようだけど、本心ではやっぱり解決を望んでいたんじゃないか、と。今
までのことが私のせいだったとしても、どこか心苦しい思いがずっと引っ掛かっていたんじゃないか、と。私の希望
的推測はここにきて一気に膨れ上がり、私の臆病風を吹き飛ばそうとしていた。
恐らくこの期を逃したら、以後もっと困難になるだろうと思った。ここで何かやって失敗したとしても、今の状況が
続くだけで、何も失うわけではないような気がしてきた。Sが私と同じ事を望むのなら、私とSで協力することができ
る。Sが望まないのなら、以後これまでと同じ状況が続くだけだった。
きっかけは向こうからやって来ていた。あとは私が行動するだけだ。唇を舐めて口を動かす準備をした。Sの発した
言葉に、きっかけを助長するような答えを返さなければいけない。高ぶる気持ちを必死で抑えながら言葉を探した。
ぼそぼそ、と自分でもよく聞き取れないほど小さな声が出た。えっ?とSが聞き返した。
∀・)<
>>1さんは半年ガンガッテるのか・・・
何かが私の中で膨れ上がるような感覚がした。頬がカーッと熱くなって、髪の毛が逆立つのが分かった。血が頭に
上るのと同時に、自分でも信じられないくらい饒舌に私の口が喋り出した。ホントにそうよね。男子とかもいるのに何
でよりによって女子二人に運ばせようとするんだろう。ちょっとセクハラ入ってるんじゃない?
あの先生、何かニヤニヤしてたような気しない?か弱い女子に苛酷な労働を強いて、変な想像でもはたらかせてる
んじゃないかしら。いやそれは言い過ぎかもしれないけど、それにしたっておかしいわよ、男子に頼めばさっさと終わ
りそうなもんなのに。たっぷり時間かけて持っていってやろうよ、それくらい当然だわ。
我ながら、何てつまらないことを言ったんだろうと思う。本当は、私がまくし立てたかったことが、こんな下らないこ
とじゃないことは、自分で分かっているつもりだった。何かが、もしかしたら私自身の保身のためかもしれないけど、
私の言うべき言葉をとっさに摩り替えたのかもしれない。
でも、落ち付いて考えれば分かることだった。しばらく疎遠になっていた相手に、いきなり核心を突くようなことを
誰が言えると思う?どうして私を避けて、意図的に問題を無視しようと努めたの?なんて、この状況でとても言え
なかった。言えるはずがなかった。
Sは私の方を向いた。今度は目を逸らさなかった。私が見ている前で、Sは少し笑った。私も笑い返した。ようやく私
とSとの距離が縮まったような気がした。私が言いたかったことはともかく、Sと気持ちが通じたことが単純に嬉しか
った。これからいくらでも、言いたいことは言える。そう思うことにした。
でも、私とSは互いに顔を見合わせたまま黙り込んでしまった。あんな形で親交がなくなっていた私達が、共通する
話題を見付けるのは難しかった。Sがゆっくりと立ち上がって言った。そろそろ行こうか?それしかないみたいだっ
た。……私はまた先走ってしまったのかもしれない。
辺り障りのない話題を返して正しかったのか、それとも状況を省みずに本当に言いたかったことを伝えればよかった
のか、今でも分からない。確かに私とSを遮る障壁はなくなったはずだった。それ以降、Sは私を避けることを止めた
し、私もそれに応えたつもりだった。
そうやって私達が得た新しい状況は、かつてのそれとは全く別物だったと思う。というより、他人同士が初めて会っ
て初めて創った人間関係みたいだった。全面的に受け入れ、受け入られてという姿勢がお互いにあるにも関わら
ず、絶対にずかずかと踏み入ってはいけない領域があるみたいな、そんな感じになってしまった。
つまり私達は、これまでのことをすっかり忘れるか、思い出さないようにすることで初めて成立する間柄になってし
まったと思う。暗黙の了解とでも言うべきなのか、言葉がなくてもそのところを口に出さない、という決まりは私と
Sとが改めて交友を始めたところから、そう決まっていたような気がする。
Sは何も言わなかったけど、私にとっては脅迫のようでもあった。たち入ったことを追求すれば、いつでも以前の関
係まで戻せるのよ。Sが明言したわけじゃないけれど、私にはSが全面的主導権を振りかざして私を牽制しているよ
うに思えることもあった。
多分私が戸惑っていただけなのかもしれない。いきなりSと同じ教室に放り込まれて、一緒に使いに走れされて久々
にSの顔を正面から見た。Sの方から話題を振ってきた。こんな考えもしなかった展開に追いかけられて、取り乱し
て被害妄想でも入ってしまっていたんだろうか。
どうしてまた私なんかと親交を深めようと思ったのかは分からないけど、以降私達は普通の友達同士になった。Sは
私にいろいろ話してくれたし、私もSにいろんな話をした。お互い家族のこととか、将来のこととか、少し内的な話をす
ることもあった。でも、一度たりともあのことが話題に上がることはなかった。
∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ´_ゝ`)< ふーん
( ) \_____
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( ´_ゝ`)< あらやだ
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age
私はもちろん、S自身も以前の問題を口にしようとはしなかった。本当のことを言うと、最初の方はそれをSに問い詰
めたかった。というより、問い詰める気でいた。いくら私がSの望まない手段を使ったからといって、無視するというの
はどうだろう、と直接抗議したい気持ちがないでもなかったから。
けど、再度私達が近付き始めると、あえてそんなことしなくてもいいんじゃないかな、という気がしてきた。Sは以前よ
り快活になっていた。問題が解決したのか、すでに問題でなくなったのかは分からないけど、とにかくそれを引きず
っている様子は見えなかったから、私が改めてほじくり返すこともないだろう、って。
じゃあ、私が感じていたある種の憤りみたいなものはどこに持っていけばいいのか、という話になるけど、Sとの再会を
果たした私としては、もうそんなこと気にする必要もなかった。Sがまともに口をきいてくれるようになった、それだけ
で十分だと思うようにしていた。むしろそう思い込むことで、私の中の感情を抑えようとしていたのかもしれない。
いずれにしても、どんな形をとってそうなったとしても、一度固まった状況を覆してまで自分の不満を発散しようという
気にはなれなかった。良く言えば私の寛容さ、悪く言えば私の優柔不断さ、となるかもしれない。だけどその時点で
は、私の言わなかったという行動が、私自身にしては最良の方法だと思っていた。
やっと最深部だよ
移転乙
最良の方法、時間がたった今でも、あのときに異なる処置をしておけば、もっとまともな方向に情況が流れたかもし
れない、と思えることもある。今だからこそそう思えるけど、今思っても多分無意味なんだと思う。それに今ベストだ
と思う、思える方法だって、いつ状況が崩れて程度の低い手段になるのか、分かったものじゃない。
つまりは、その時点で最良の方法なんて言って差す手には、何ら最良と思えるような根拠はない、と思う。切羽詰っ
た状況で繰り出される方法はもちろんのこと、長い目で見れば誰だってどんな災厄に見舞われたとしても、その場
限りの妥協案しか考えつかないんじゃないかしら。
でも万に一つ、それよりももっと低い確立で妥協案が的を射ることだってある。それこそ童話のエンディングみたい
に、みんな笑って大団円を迎えました、なんて幸福な結果を得ることだってあるのかも。けれど多分、今の時点で
私がそんなことを考えてみるのは、まるで無意味なことなんだろうな、と思う。
Sと私は、友達の状態のまま卒業式を迎えた。その日までどっちの口からもあのことが語られることはなかったし、
卒業式当日も、やっぱり私達が話し合うこともなかった。ただ私は、学校中に漂う変に感傷的な空気に身を任せ
ていただけだった。いろんなことを思い返していた。当たり前だけど、涙は出なかった。
今までのあらすじ
5行でまとめろ
式の最中、私はこれからの新しい生活のことを考えていた。これまでのここでの出来事を思い出していた。どちらを
考えるにあたっても、例のことが小さく胸に引っ掛かっていた。何度も結論を、しかも毎回同じ結論を繰り返してきた
はずだったけど、それはまた、この期に及んでその存在感を主張してきた。
感傷的な空気に影響されたのかもしれない。卒業式という非日常のイベントが、私達の気持ちを高揚させるのを期
待していたのかもしれない。そういった理由によって、すでに蒸し返す必要があまりないそのことを、無駄に重要視
し始めたのかもしれない。私は変な焦燥感に駆られていた。
もう思い出しさえするな、という気持ちと、今日解決せずにいつ解決させる?という気持ちが同時に私の中に存在し
ていた。私にはどちらがよりまともな方法なのか、すっかり分からなくなってしまった。どちらも同じくらい正しくて、
同じくらい間違っているような気がした。
おかげで起立や着席のタイミングが何度か遅れてしまった。それがさらに私の焦りを強くした。少しでも気を抜けば、
誰かが壇上で喋っている途中にも、つい叫び出してしまいそうだった。将来この日を思い出すたびに、土壇場になっ
て焦り出したことまで思い出すんだろうな、と思った。
今日、Sと二人きりになる機会があれば言おう。考えあぐねた結果、式も終盤に差し掛かったころにそう決めた。状
況に判断を任せることで、少しでも私の負担を少なくしたかった。もうこんなことをいつまでも、いじいじと考え続け
たくなかったから。でも、それも今日で終わらせよう、そう思った。
Sと二人きりになる、というのはどう考えてもかなり確立は低い、と自分でも思っていた。わざと起こり難い条件を課
したのも、本当はまたトラブルを起こしたくない、という弱気な意思の仕業だ、ということは自分でもよく分かってい
た。だからといって、私は私の意思の弱さを責めることはできなかった。
誰だ
誰だ
私は、自己嫌悪も含めた全ての感情を抑えようと躍起になった。覚悟を決めようとする意味もあったし、現実にSと二
人きりになったとき、極力無感動で無表情のまま話すべきことを話したかったから。感情に任せて言いたいことを言
いたいだけ言ったなら、私はきっと後悔する。そんな感じがした。
仮に条件が揃って私が話さなければならなくなっても、冷静さを保ってさえすれば、これが後々いい思い出になると
は考えていなかった。全ては私の言葉を聞いたSの出方次第だ。私はただ誰かが条件を揃えるのを待って、揃いさ
えすれば私が一番良いと思う方法でそれに臨み、また誰かの判断を待つだけだった。
式は何事もなく無事に終わった。在校生たちによって体育館の後片付けが行われた後、今度は親達を含めた謝恩
会が始められた。厳格な卒業式とは違って終始和やかなムードだったけど、私はそれがいつ私の肩を叩いて私に
行動を催促してくるのか、辺りを警戒しながらびくびくしていた。
時間が経っていくに連れて、私に求められる行動のためのエネルギーが、どんどんと減っていくような気分だった。
生殺し、というのだろうか、いつまで経っても、一向に私とSとが二人きりにされるような状況は訪れる気配すらなく
て、まさにそんな感じだった。
謝恩会の最中、私は一度もSの姿を見なかった。あれだけ辺りに気を配っていたはずだったのに、不思議と私の視
界にSの姿を捉えることがなかった。もしかしたらSは、私の計画に感付いて意図的に私から逃れていたのではない
んだろうか?なんてことまで考えたりもした。
そんなことはあるはずもなく、ただ単純に見過ごしていたか、もしくは私が無意識に見ないようにしていたり、もしSの
姿を目にしても、見なかったことにして処理していたのかもしれない。Sが視線から逃れていたとしても、私が自分の
都合のいい解釈をしていたとしても、とにかく私はSを見なかった。見付けられなかった。
しかし、雑然とした人波の中からSの姿を見付けたからといって、それが私をいい方向へと連れて行ってくれただろ
うか?多分焦りや苛立ちというような、ネガティブな感情を逆撫でするだけだったと思う。理由がどうであれ、私とSが
二人きりになる機会はここまでなかったのだから、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
謝恩会が安全だと悟ると、私は次の機会の可能性について考えを巡らした。あらゆる場所とタイミングで、私とSがば
ったり遭遇する確立はゼロではなかった。けれど、具体的なイメージを駆り立てられるほどリアルな想像はできなか
った。どんなに低い確率だろうと、起こるときは起こる。そうとしか言えなかった。
そんな私とは関係のないところで、会は滞りなく進行していったようだった。ときどき聞こえる周囲の音に合わせて、
私も拍手をしたり笑い声を上げたりした。誰かが代わる代わる壇上に上がっていろんな話をしていた。ほとんど耳
に入ってこなかった。
けれど、上の空で話もほとんど聞いていなかったとしても、謝恩会が続いている間は私は安全だった。来るか来な
いかはっきりしないことで悩んだり、実際そうなったときのことを想像したり、また失態を繰り返すんじゃないかと杞
憂したり、とにかく考えるだけで済んでいたから。
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エロシーンまーーだーー?(チソチソ AAry
考えれば考えるほど意気込みが削がれていき、同時に可能性の現実味もあせていくような気がした。このままずっ
と会が終わりを迎えることなく、私もずっと考え続けるだけでよかったのなら、相当の時間が過ぎさえすれば迷い自
体が消えてしまうのかもしれなかった。
周囲の音が急に大きくなったような気がした。すでに誰かが始まったときと同じように壇上に立って、一方的に会の
終了を宣言した後だった。座ったままお喋りを続けていたり、人ごみの中をゆっくり歩き回ったり、さっさと出口に向
かったり、みんな思い思いの行動を取り始めていた。また私は変な焦燥感に駆られた。
次第に人が減っていく体育館に残っていた方がいいのか、出口に向かう人ごみにまぎれて退場した方がいいのか、
私には分からなかった。それが起こるべくして起こるのなら、それは私がどういうことをしようと向こうからやって来る
ような気がして仕方なかった。
私は立ち上がった。下手に動き回りたくはなかったけど、辺りの雰囲気に飲まれて体が勝手に動き出した。頭の中
もそわそわしていた。どこへという目的もないまま、私の足は歩き始めた。歩きながら私は、だんだんどうでもいい
ような気になってきた。誰かが私にやりなさいと言うのなら、やりますと答えよう。それでいい、と考え始めていた。
相変わらずSの姿は見付からなかった。周囲の人達も、自分たちのお喋りに夢中なようで、私を気に留める様子は
なかった。卒業式の終わりだというのに、嫌に華やいだ雰囲気だったのが印象的だった。それは式自体が悲壮感
で包まれているものだ、という思い込みよりもむしろ、私の心理状態が影響していたのかもしれない。
ふいに後ろから声をかけられ、同時に肩を叩かれた。私はいきなり引き戻されたような気がした。恐る恐る振り返る
と、同じクラスだった女子が3人立っていた。彼女達は私の驚きように一瞬怪訝な表情を浮かべたけれど、すぐに用
件を話し出した。この後クラス全員で卒業パーティーやるから、6時に××集合よ。遅れず来てね。
会話はちゃんと改行して「」で収めたほうが見やすいよ。
そんな・・・
私が心配していたものとは違うと分かって安堵するのと、彼女達が要件を告げ終わるのがほぼ同時だった。3人は、
絶対よ、と念を押して早々に私から離れていった。彼女達が片っ端から同じクラスだった人達を捕まえては、一方
的に用件を告げて立ち去ることを繰り返すのを眺めながら、私はやっと告げられたことを理解できた。
私も含めて用件を告げられた人達には、3人は初めから選択肢を与えていなかった。こんな素敵な申し出をむげに
断る人なんかいない、と思っていたのか、それとも用件を言うだけ言ったら、あとは来るも来ないもどうでもよかった
のかもしれない。企画自体よりもちょっと強引な勧誘の方法に、私は少し気後れした。
私がSに対して今からやろうとしていたことも、Sに選択の余地を与えない種類のことがらであることに変わりなかっ
た。それを偶然私とSが二人きりで居合わせたら、という条件で、本来の姿を曖昧にしているだけのような気がしてき
た。つまり、Sのためにそうしたいのではなく、私はただ私の不満を解消したいだけなのではなかったのか、と。
3人組の勧誘には、まだ断り直したり最悪すっぽかすという手段があった。だけどSには、偶然的条件が揃ってしま
えばあとは私の気持ち次第で、S自身がそれを望まない場合の回避する方法がなかった。しかも私がそんなことを
計画しているということも、Sは知っているはずがなかった。
スレタイエロイ
小学生の唯一のオカズみたいな名前だ
私は真面目に私とSの問題を解決するつもりだった。私が誠意を持ってSに伝えれば、きっと分かってくれると思って
いた。せっかく戻ってきたSとの親交が絶たれるかもしれない、というリスクに悲劇のヒロインでも気取っていたせいな
のか、私は私のやろうとしていることが見えていなかった。
Sが以前私を意図的に避けたように、私もSに親交の終わりをちらつかせながら、私の要求を飲ませようとしていた
のだ。さらに騙し討ちのようにしてこそこそ計画を立て、しかもその計画の実行を自分の意思でなく状況に一任した
つもりにして……。いや、もしかしたら私は、Sに仕返しがしたかっただけかもしれない。