NO1にならなくてもい
いもともと特別なonly one
お前らにとって救いのような歌だな
2 :
掛け算・割り算 ◆IK1D6r/C5g :03/04/18 11:13 ID:vud8AQU3
2とかあれとか
なんだ?そりゃ
っていうか、いもともと。っていう単語あるのかと思った。。。。。
俺にとってのあのコ
↓こいつは日本国民のNO1億5000万
7 :
掛け算・割り算 ◆IK1D6r/C5g :03/04/18 11:17 ID:vud8AQU3
(゚Д゚≡゚Д゚)
8 :
(メ‘д‘)明人ソーラーカー ◆6VCrAmgzvI :03/04/18 11:17 ID:WUi4/NwQ
夜桜が美しいと言ったのは何処のどいつだ。
ライトに照らし出された桜か、月に浮かぶ桜か。
見ろ。深夜に、風に、揺ら揺らゆれる白い桜を。
不気味だ。気持ち悪い。兄貴のオナニー覗いた時と同じ気分だ。
それが妹か、兄か、姉か、弟か、の違いか。
なにが夜桜だ。
感性がイカれちまってんじゃないのか?
いいや。決して断じて、花見に誘われなかったから怒ってる訳じゃない。断じて。
SMAP嫌い、調子に乗りすぎ
SMAPよりBSBのがまだマシ
うひー 気持ち悪いよー
12 :
(メ>д<)明人ソーラーカー ◆6VCrAmgzvI :03/04/18 11:19 ID:WUi4/NwQ
知ってたよ
怖いほど美しい夜桜
怖さと美しさは紙一重
いもうとスレの予感
ちょっといいか
NO.1にならなくてもいい。もっともっと特別なonly one
NO.1=only oneじゃないかと
じゃあね、NO.2の方がNO.1の子より特別な訳ないでしょ?
NO.2が特別だったらNO.1なんじゃないかと?
雰囲気の飲まれてはダメですよ。
NO.1だからonly one なんですよ。
OnlyOne(以下OO)
↓俺のOO
⊂⌒~⊃。Д。)⊃そんなのどっちでもいーよー
キユスレはここですか?
ナンバーテンについて語るか
いもうとは特別なだっちーわいふ
23 :
名無しさん?:03/04/18 11:33 ID:96/Fdric
ぬるぽの花
∧_∧
( ・∀・) | | ガッ
と ) | |
Y /ノ 人
/ ) < >__Λ∩
_/し' //. V`Д´)/
(_フ彡 / ←
>>23
25 :
(メ‘д‘)明人ソーラーカー ◆6VCrAmgzvI :03/04/18 11:36 ID:WUi4/NwQ
妹の花弁
26 :
☆のソーラーカー ◆bdSTARRG.E :03/04/18 11:40 ID:QaSp+VcU
妹のめしべ
妹の蜜
妹の水
これまでのあらすじ
美坂栞は、次の誕生日まで生きられないだろうと医者に宣告された重病患者であった。
彼女の16歳の誕生日まであと一週間……相沢祐一は栞と約束する。その一週間、栞を普通の女の子として扱うと……
お互いの愛を確認しあった次の日、栞は約一年ぶりに学校に登校してきた。最後の一週間を普通の女の子として過ごすために。
こうして、祐一と栞の一週間だけの学生生活、そして、恋人としての時間が始まった。
果たして、二人の愛は何処へと辿りつくのか?
そして、かたくなに栞を拒み続ける姉、香里の真意は?
物語は、栞が弁当を作ってくると祐一に約束した、次の日から始まる……
1月26日 午後12時10分
昼休みの到来を告げるチャイムが教室に鳴り響く。教室内は、弁当を広げ始める者、学食へ向かおうとする者の二派に別れ、早くも動き出していた。
「祐一、今日のお昼はどうするの?」
隣の席の名雪が声をかけてくる。俺は「う〜ん……」と形だけのうなり声を発した。
いつもなら、学食で食べるか、パンを買ってくるかの二者択一で、どちらを選ぶにしても学食に行くのは変わらない。
だから答えは先送りにして、学食に向かいながら考えてもいいことだった。
だが、今日はいつもとは違っていた。昨日、栞が弁当を作ってきてくれると約束してくれたからだ。
だからまず栞と会わなければならないのだが、肝心の待ち合わせ場所を決めていないことに今頃になって気付いてしまった。
「とりあえず学食に行くけど……」
たぶん栞も学食に来ているだろう。それ以外の選択肢は思いつかなかった。
「気をつけて行ってきてね」
「名雪はどうするんだ?」
「香里とお弁当」
見ると、香里が二人分の弁当を広げているところだった。
恐らく香里が二人分用意してあったのだろう……名雪が自分の弁当を持参してくるのは今まで見たことがなかった。
と、香里と目が合いそうになって、俺はすぐに視線を逸らした。
香里に電話で呼び出されたあの夜以来、俺は彼女を自然に避けるようになっていた。
『相沢君、あたしに言ったよね……栞のこと、好きだって』
きびしくそう問い詰める香里の切迫した表情が、今でも妙に生々しく思い出される。
「どうしたの?」
不意に、名雪が俺の顔を覗きこんでくる。
「いや、なんでもない……」
俺はおざなりに返事をすると、腰を上げた。
「じゃあ、行ってくるから……」
名雪に軽く手を振り、廊下へと歩き出そうとした。栞はもう学食で待っているかもしれない。
「あの〜、すみません〜っ」
俺が向かおうとしていた教室の入り口の方から、弱々しい女の子の声が聞こえくる。俺はその声を聞いて足を止めた。
その声には聞き覚えがあった。すぐにその声の主の姿を求める。
「相沢さん、いらっしゃいますか?」
間違いなかった。声の主は、栞だ。
ほどなくして、遠慮がちに教室の扉から半身を出して、教室の中を覗う栞の姿を見て取ることができた。
その胸には、見るからに弁当箱と思われる大きな風呂敷包みを抱えていた。栞は、わざわざ俺の教室にまで迎えに来てくれたのだ。
普通なら、そんな栞の行動を喜ぶべきなのだろうが、この状況では素直には喜べなかった。
今や、教室中の生徒の視線は、俺の名を呼ぶ見知らぬ下級生に集中していたからだ。
「お前、一年生に手をだしていたのか?」
北川が俺の背後から現れて、すかさずちゃちゃを入れてくる。
「いきなり誤解を招きそうなことを言うなっ」
「くそ、可愛い子じゃないか」
北川は本当にくやしそうだった。まあ、ヤツの気持ちも分からないではないが……
恋人の俺が言うのもなんだが、栞は純真で穢れを知らない、おもわず抱きしめたくなるような愛らしい女の子だ。
北川がやっかむのも無理からぬことだろう。
「うひょーっ! スゲー可愛いじゃないかよ!」
「相沢にはもったいないぜ!」
「相沢さん、わたしのお弁当、食べてぇ〜ん☆」
案の定というか、教室に残っていた男子生徒が、一斉に騒ぎ始める。栞は予想していなかったであろう成り行きに、おろおろしているようだった。
「おら、おまえらやめろよな!」
もちろん、俺がそんなことを言っても騒ぎが収まるわけでもなく、逆にそれを受けて野郎達は、さらに調子づいて騒ぎ出す。
「たく、しょうがないな……」
とっとと栞を連れ出そうと、苦笑しながら歩きだした時、ふと香里の姿が目にとまった。
香里は席に座ったままの状態で、ある一点を凝視していた。彼女の視線の先、そこには……妹の栞の姿があった。
俺は思わず足を止めていた。そんな香里の姿に、異様なものを感じたからだ。
香里は、文字通り栞を『凝視』していたのだ。その目を、栞の姿から逸らすことができないという様に、大きく見開いて。
そして香里の身体は小刻みに震えているようだった。机の上に置かれた二つの弁当箱が、カタカタと音を立てていた。
香里は……まるで何かに怯えているかのようだった。
「あっ、祐一さん!」
その声で、俺は香里から再び栞に視線を戻した。栞はやっとのことで俺の姿を見つけたらしく、俺に向かって小さく手を振っていた。
「祐一さぁ〜ん、早くきてぇ〜ん☆」
また野郎連中が騒ぎ出す。俺はため息をつくと、栞の方へと向かうことにした。
香里の様子がおかしいことが気になったが、とにもかくにも、俺は栞を連れてさっさとこの教室から出ていきたかった。
香里には名雪がついていることだし、そう心配することもないだろう。
「祐一さん、お弁当作ってきました!」
俺が香里のことを考えている間に、栞はすでに行動を開始していた。
だが、その姿を見て、俺は思わず眉間に皺をよせずにはいられなかった……
栞はあろうことか、俺の方へと向かっていたのだ。
栞は二日前まで、一年近くもの間学校を休んでいたのだから、こういうことには無頓着なのもある程度は仕方がないだろう。
だけど、こういう状況でそういうことをすればどうなるのか、少しは想像できそうなものだ。
「おいおい相沢、教室で彼女とツーショットかぁ!?」
「見せつけてくれるじゃないか、このヤロウ!」
「俺達にも愛妻弁当見せてくれよー」
教室の中はまさに狂気乱舞の状態となった。
だが、栞は俺に会えてうれしい一心か、そんな野郎共のひやかしなど一向に気にしていないようだった。
栞は俺の前まで来ると、おずおずと胸に抱えていた弁当の包みを差し出してきた。
「えっとぉ……うまく出来ていないかもしれませんけど……精一杯がんばって作りました」
それを受けて……
「うぉおおおおお!! この幸せモンがぁ!!」
野郎連中がはやし立てる。
俺はすぐに栞の手を引いて教室から脱出しようと考えたが、状況はそれを許さなかった。
すでに野郎連中が俺達の周りをぐるりと取り囲んでおり、弁当の中身を見てさらにはやし立てようと待ち構えていたのだ。
さらに女子までもが、その輪の外側から興味津々と俺達の様子を覗っている。逃げ出す隙などどこにもなかった……
「これ作るのにすごくがんばったんですよ〜 新聞屋さんが来る前から起きて大変でした」
栞はそう言って、近くの机にドン、と弁当を降ろすと、その包みを解いた。
包みの大きさから想像はしていたものの、その弁当箱のボリュームには圧倒されずにはいられなかった。
弁当箱は三つ縦に重ねられていた。しかも、その一つ一つが、通常の四倍程の大きさがある。
「これだけで足りればいいんですけど……」
「あ、あのさ……一つは栞が食べるんだろ?」
「え? 違いますよー これ全部祐一さんの分ですよ」
俺は内心「やっぱり……」と思った。
栞は病気のせいか、食が細い。と、いうか、ほとんど食べない。
実際、アイス以外のものを食べている栞を見たことがなかった。
「スゲー! これ全部相沢の弁当だってよ……」
周りの連中はあいかわらずはやし立てていたが、そのハイな状態にあっても、薄々何か異常なものを感じとっているようだった。
次第にそのテンションが下がってくるのが肌で感じられる。
普通に考えれば、一人でこれだけの量を食べられるはずがないのだから、何かおかしいと思うのは当然のことだ。
だが連中は、栞のことを知らない……この子が、あと一週間も生きられないのだということを知らないのだ。
栞は、今という時間を精一杯生きているんだ。それで少々がんばり過ぎて、こういう結果になってしまったのだろう。
俺は栞にやさしく笑いかけると、その頭に手を置いて撫でてやった。
「よくやったぞ、栞」
不思議と、照れはなかった。周りの連中がどれだけはやし立てようと、そんなものはもうどうでもいいじゃないか……そんな気になっていた。
「はいっ、祐一さん」
栞も満面の笑顔で喜んでいた。
「どうですか、私のお弁当……」
栞は、一番上に詰まれていた弁当箱の蓋を開けて恐る恐るそう聞いてきた。
弁当箱の中には盛りだくさんのおかずが詰めこまれており、これを作るのに並々ならぬ努力が費やされたことを自然と物語っていた。
それを見た周りの連中からも「うぉおおおお!!」というどよめきが沸き起こる。これだけ手の込んだ弁当ならば、はやし立てがいがあるというものなのだろう。
「はい、祐一さん」
栞は蓋の開いた弁当箱を両手で持つと、俺の方に差し出してきた。
そして……俺がその弁当箱を受け取ろうとしたその時、それは起こった。
「ゴホッ!! ゲホッ!!」
栞は突然、激しく咳き込みはじめた。身体をくの字に前に折り曲げ、苦しそうに咳き込み続ける。
「栞! おい、大丈夫か!?」
俺はだが、こういう場合どうしていいのか分からず、おろおろするだけだった。
「ゲホッ!! ゲエェッ!!」
栞は苦しく咳き込み続けたが、手に持った弁当箱だけは絶対に落とすまいと、必死に抱えているようだった。
「お、おい、誰か先生を呼んできてくれ!!」
さっきまではやし立てていた連中は、突然の成り行きにただ立ち尽くしているだけだった。俺が怒鳴っても、連中はその成り行きについてゆけず、誰一人動こうとする者はいなかった。
「くっ……待ってろ、栞! すぐに先生を呼んでくるからな!」
俺は、周りを取り囲んでいる連中を押しのけて、先生を呼びにいこうとした。だが、すぐに腕を掴まれ、俺は足を止めざるを得なかった。
「だ、大丈夫……祐一さん……いつものことだから……」
腕を掴んで引き止めたのは栞だった。すでに咳は止まっているようだったが、はあはあという荒い呼吸音が背後から聞こえてくる。
「だ、だけど……」
俺は振り返って絶句した。栞の口の周りには……べっとりと、赤い血がついていた。
「……と、吐血!?」
まだ、はあはあと荒く息をしていた栞は、無理に笑みを浮かべると、左手の袖で口の周りの血を拭った。白かった左の袖は、制服と同じ赤に染まっていた。
「だ、大丈夫だから……」
「だ、大丈夫って……全然大丈夫じゃないじゃないか!!」
吐血……その事実は、もう栞の余命が幾ばくもないということを如実に物語っていた。
そう、栞はまぎれもない重病患者なのだ。
普段の彼女があまりにも普通の女の子のように振舞うので、俺はその事実を漠然としか受け入れていなかっただけなんだ!
「すぐに救急車を呼んでもらうからな!」
「ダメ!!」
栞は俺の言葉を強く拒否した。
「約束したじゃないですか……私を、普通の女の子として扱ってくれるって……」
「でも、今はそんなことを言っている場合じゃ……」
「いいの! それより……お弁当食べて、祐一さん!」
栞はにっこり微笑みながら、俺に弁当箱を差し出してきた。
「……!!」
俺は……今までこれほどの不快感を感じたことはなかった……
あの秋子さんの特製ジャムを口にした時でさえ、これほどの吐き気は催さなかった。
栞の抱え持つ弁当箱は、さっきまで色とりどりのおかずで埋まっていたはずなのに、今は赤一色だった。
まるで無粋にもケチャップをどっぷりかけたような……そんな感じだった。
いや、ケチャップ……のように見えたなら、こんなにも強烈な吐き気はしなかっただろう。
そのどろっとした質感と、黒味がかった赤という色彩、そして、あの独特の鼻につく匂いが、強烈なまでの生理的不快感を俺に与えていた。
そう、栞の弁当は……吐血した血によって、赤く染まっていたのだ!!
「……うぷぅっ!!」
胃の中に残っていたなけなしの残留物が、口の方へと逆流してくるのが感じられた。俺は口を押さえ、必死にそれと戦う。
栞が咳き込んでからは、周りを取り囲んでいた連中もおとなしくなっていたが、また再び騒然となる。
連中の中にはすでに弁当を食べ始めていた者もいたのだ……
はばかりもなく、「げえぇぇ」と唸りながら、その場で吐き出す者が続出していた。
一人が吐くと、それにつられて周りの連中も吐いてしまう……その連鎖で、いまや教室の中は阿鼻叫喚の地獄と化していた。
だが、そんな状況にあっても、俺は一人の女生徒がこそこそと教室を後にしようとしている姿を見逃しはしなかった。
「か、香里!! どこに行く気だ!?」
教室の扉を開けようとしていた香里は、俺のその言葉にびくっ、と反応すると、恐る恐る俺の方を振り向いた。
「妹が血を吐いたんだぞ! お、おまえは……それを見捨てていくのか!!」
もしかしたら、香里は助けを呼ぶために職員室か、保健室に行こうとしているだけなのかもしれない。
だが……俺は香里を逃がしたくはなかった。この状況を、俺一人に押し付けて逃げようとすることだけは断じて阻止したかった。
俺は、この状況をどう処理していいのか、皆目分からないんだ!
誰かなんとかしてくれ! と叫びたい気分だった。
香里は栞の姉だ……あいつにも、この状況をなんとかする義務がある!
「あ、あたし……」
香里は顔面蒼白で、遠目にも震えているのがわかった。
「あ、あたしには……妹なんかいないわ!!」
そう叫ぶと、香里は扉を開け放ち、一目散に教室から逃げ出した。
「ま、待て、香里ぃ!!」
俺は香里の後を追おうと、駆け出そうとする。だが、またもや腕を掴まれ、引きとめられてしまった。
「は、放せ……」
俺は腕を掴む手を振り払おうと、後を振り返った。
「はい、祐一さ〜ん。このハンバーグ、おいしいですよ〜」
振り返った時俺の目の前には、ハンバーグがあった。
栞が箸でつまんで俺の鼻先に押しつけるように近づけてくる。
どろっとした、赤い血が滴るハンバーグを……
「……うぎゃぁあああああああああああっ!!」
それが、俺の精神の限界だった……
俺は咄嗟に腕で、差し出されたハンバーグを払っていた。ハンバーグは空中を舞い、べちゃっ、とガラス窓に当った。
ハンバーグはずるずるとガラスを滑って落ちていく。後に赤い血を残しながら……
だが、俺がなぎ払ったのはハンバーグだけではなかった。栞が手にしていた弁当箱もまた、教室の床に転がっていた。
弁当箱は逆さまになって床に落下したようで、辺りには、弁当箱の中身と、赤い血が散乱していた。
「祐一さん……そんな……」
栞は茫然自失の状態で立ち尽くしていた。
「う、うわぁあああああああああああっ!!」
俺は走り出していた。頭の中は、真っ白だった。
とにかく、ここを逃げ出したいという、それだけしかなかった。
教室を飛び出し、廊下を走り抜ける。
本当は、逃げてはいけない……と分かっていても、その場を逃げださずにはいられなかった。
・・・・・・
どれだけ走っただろう……走っている途中、様々なイメージの断片が頭の中をよぎり、そして消えていった。
夜の公園で栞と約束した時のこと……
俺に抱きついて泣いている香里の姿……
そして……血の滴るハンバーグ
「うげぇえっ!!」
俺は走りながら吐いていた。足がもつれ、地面に倒れ込む。そのまま、両手をついて、げえげえと吐き続けた。
吐き気も一通りおさまり、周りを見渡すと、そこはもう学校の中ではなかった。いつの間にか、靴を履き替えもせずに学校を飛び出していたのだ。
周りの景色には見覚えがあった。今走っていた道は、毎日通学に使っている道だったのだ。
すでに学校よりも家の方が近いところまで来ていた。
俺は立ちあがると、嘔吐物で汚れた口の周りを、制服の袖で拭い、ふらふらと近くの家の塀によりかかった。
幾分はっきりしてきた頭で考えてみる。
今はまだ昼休みの真っ最中だから、この後まだ午後の授業が残っている。
あの後、栞がどうなったのかも気にかかるし……この場合、やっぱり学校に戻った方がいいんだろうな。
だが、俺は塀から背を離すと、家に向かってとぼとぼと歩き出した。とてもじゃないが、もう一度学校に戻るだけの気力は残っていなかった。
それに教室に戻った時、栞の姿がまだそこにあったら……俺はまた逃げ出してしまうかもしれない……そう思った。
どの道無理があったんだ……
死を目前にした重病患者を、普通の人間と同じに扱うなんて……
次回につづく・・・
長文ヨメネ
41 :
☆のソーラーカー ◆bdSTARRG.E :03/04/18 12:35 ID:ldwwdRmK
ここまでくると、よむのめんどくせぇ
読む気も起こらん
43 :
名無しさん?:03/04/18 12:41 ID:XzrHj+I5
花=菊=尻穴ってこった。
なんせ作詞作曲が・・・・・
続き早く読みたい
まだぁ?
45 :
(メ‘д‘)明人ソーラーカー ◆6VCrAmgzvI :03/04/18 13:07 ID:WUi4/NwQ
奇跡は、起きないから奇跡っい(略
46 :
名無しさん?:03/04/18 13:26 ID:0kQSp2iU
クボヅッカンが去年オンリーワンがどうたらと
この歌詞と同じようなことぬかしてたけど
元祖は誰の台詞なんだ?
47 :
(メ‘д‘)明人ソーラーカー ◆6VCrAmgzvI :03/04/18 13:58 ID:WUi4/NwQ
覚醒剤所持で捕まった、なんだっけか、マキハラだか、アサハラだか、そんな奴。
48 :
名無しさん?:03/04/18 14:12 ID:R8cLF/p4
なんで帆船歌謡になったの?
直接関係ないのに
49 :
名無しさん?:03/04/18 14:12 ID:4yiJIvTj
スマッ府の了解を得たのか?
童話になかったけ?
俺のワンコの鼻は世界で一つだけの鼻です。
1月26日 午後11時50分
俺はベッドに横たわり、身じろぎもせずにぼんやりと天井を見つめていた。
結局あの後、自分の部屋に戻ってからずっとこうやってベッドに横になっているだけだ。制服の上着を脱いだだけで着替えもせず、夕食も取らず、ただ、横になっていただけだった。
名雪と秋子さんはずいぶんと心配してくれているようで、何度か部屋の前まで来て話し掛けてきた。だが俺は、「一人にしておいて欲しい」という旨の返事をおざなりに返すだけだった。
こういう場合、秋子さんはそっとしておいてくれる人だ。だから、「部屋の前に夕飯を置いておきますから」と最後に言った後は、二人共この部屋を訪れることはなかった。
腹は減っていた。昼食と夕食を取っていないのだから当然だろう。
だが、何かを食べようという気にはなれなかった。食べ物のことを考えただけで、吐き気がしてくるのだ。
せめて眠ることが出来れば楽なのだが……昼間の出来事があまりにショッキングすぎて、うとうとすることさえ出来ないでいた。
それでこんな時間になっても、ぼんやりと天井を眺めながら過ごしているのだ。
「いったい、どうすればいいのかな……」
声に出して、そう言ってみる。それはすでに何度も自問自答した事柄だった。
栞は相当ショックを受けているだろうな……俺が約束を守らずに、しかも逃げ出してしまったんだから。
弁当だって、台無しにしてしまったし……
だけど、そもそもあんな状態で学校に通うということ自体に無理があったんだ。何事にも、限度というものがある。いくら残りわずかな日々を普通にすごしたいと願っても、症状がそれを許さないのであれば、所詮かなわぬ夢なのだ。
部屋の扉ごしに名雪が教えてくれた話では、栞はあの後、救急車で病院に担ぎ込まれたということだった。だから、栞との約束を守ってやることは、これ以上は無理だった。
だけど、残りの日々を一緒に過ごしてやることは出来る。一週間ぐらいなら、学校を休んで病院で栞についててやることぐらい出来るだろう。
それが最善の方法だと思った。
栞にとっても、俺にとっても。
出来る限りのことをしてやれば、栞だって分かってくれるはずだ……
ドサッ!
突然、ベランダの方から、何かが落ちる音が聞こえてきた。
たぶん雪だろうと思う……屋根に積もった雪が、ベランダに落ちたのだ。
俺はふと、時計を見てみる。蛍光塗料で緑色に光る時計の針は、もうすぐ日付が変わろうとしていることを告げていた。
このままでは、朝になっても眠れないかもしれなかった。どうするにしても、明日は学校を休もう……そう思った。
どうせ栞は、もう学校には来ないのだから……
ドンッ!
その瞬間、俺は布団の中で身を強張らせた。
……今の音は、雪が落ちた音ではなかったからだ。
それは、明らかにベランダのガラス扉に、何かが当った音だった。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
心臓の鼓動が早くなるのが分かる。何かが、ベランダに居る……その考えを、頭の中から追い払うことができなかった。
猫の類ではないだろう……こんな寒い夜は、猫だってねぐらに引きこもっているに違いない。
だとすれば……名雪か真琴……とも考えられる。
実際、名雪の部屋とはベランダでつながっているから、その可能性は高いように思えた。
俺の様子が気になった名雪が、ベランダから部屋を覗こうとしているのかも……
そこまで考えて、その考えを頭から追い払った。
名雪がまがいなりにも覗き行為のようなことをするはずがないし、そもそもあいつが、この時間に起きているはずがないからだ。
真琴の可能性もあるが、最近はあいつもおとなしくなったので、いたずらをしようとしているわけでもないだろう。
じゃあ、いったい……
いや、待てよ……そう言えば、前に一度あゆがベランダから上がりこんできたことがあったっけ。
だとすると、今ベランダにいるのもあゆかもしれない。
あいつは普段何を考えているのか良くわからないところがあるから、また性懲りもなく、ベランダから入りこもうとしているのかもしれなかった。
そう考えて、俺は温かな布団から這い出て、ベランダに続くガラス扉へと向かった。
もしベランダにいるのがあゆなら、少し話をしたかった。
相手が名雪や秋子さんでは、どうしても話が深刻なものになってしまうだろう。
だから、あまり話はしたくなかった。
だが、あゆなら今日の一件も知らないだろうし、他愛無い会話をすることができるはずだ。
さすがに、一人でまんじりともせずにベッドに横たわっているのにも嫌気が差してきていたところだ。あゆと話をして時間を過ごすのも悪くないなと思った。
あの能天気な顔を見れば、今の暗い気分も幾分癒されるだろう……
そう信じ、俺はベランダの扉に掛かるカーテンを開いた。
ドクンッ!!
……カーテンを開いた瞬間、俺は今日二度目の「見てはいけないモノ」を目にしてしまっていた……
ガラス窓から差し込む青白い光が、その異様な物体をぼんやりと浮かび上がらせていた。
それはまるで……クルマに踏みつけられたヒキガエルのようであった。
そんな物体が、ガラスにへばり付いているのだ!
それが何なのかはすぐには理解できなかったが、それが『生きている』ということはすぐに分かった。
二つの目が、真っ直ぐにガラス越しの俺の顔を見つめていた。
口から吐き出された息で、その周りのガラスが、呼吸に合わせて白く曇る。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
俺の心臓の鼓動がさらに早まるのが感じられた。
俺はガラスの向こうのモノと目を合わせたまま、あまりの恐怖に身動きすることも出来なかった。
……そして、それは口を動かした。はっきりと、何を言っているのか分かるように……
ガラスに押しつけたままの口は、まるで軟体動物のように身をくねらせ、俺にこう語りかけてきた。
『ゆ・う・い・ち・さ・ん』
そして、俺は絶叫した。
「うわぁああああああああああああああっ!!」
俺はカーテンを慌てて閉めると、手の届くところにあった本棚をひっつかみ、ベランダの扉の前に倒した。
ドンガラガッシャーン!!
派手な音がして、本棚の中身が部屋の中に散乱する。
次に俺は、ベッドの脚を掴むとそれをひきずってきて、さらに強固なバリケードとした。
今の俺の心には恐怖しかなかった。えもいわれぬ恐怖が、俺の身体を突き動かしていた
さっきのは……間違いなく、栞だ!!
ガラスに顔を強く押しつけていたのですぐには分からなかったが、確かにあれは、栞だった!!
だがしかし、信じられないという思いもあった。栞は今ごろ、病院のベッドで寝ているはずなのだから。
普通なら、こんな寒い夜に、吐血するような重病患者が一人で出歩くなど、自殺行為もいいところじゃないか!
そう考えると、俺の心には、さらなる恐怖が芽生えてきた。
栞は……それほどまでに偏執的に、俺のことを求めているというのか!?
「どうしたんですか、祐一さん!」
俺の悲鳴で目を覚ましたのだろう。秋子さんと名雪が部屋に入ってきた。その後に隠れるように、真琴の姿もあった。
「ああ……うああ……」
俺は恐怖のため、まともに声を出すこともできず、ただそう唸ってベランダの方を指差しているだけだった。
「ベランダに何かいるの?」
その問いかけに俺はうんうんと頷く。
「じゃあ、わたしの部屋から見てくるよ」
そう言って名雪が部屋を出ていこうとするのを見て、俺は叫んだ。
「だ、だめだぁ!! 行くな、名雪!!」
「だ、だけど……」
「ねえ、何がいたんですか、祐一さん?」
「し、しし……」
「え?」
「しおり……栞がいた……」
俺のその言葉に、名雪と秋子さんは顔を見合わせた。
「栞ちゃんがこんなところに居るはずないよ、祐一。あの子、救急車で病院に運ばれたんだよ」
「し、しかし、さっきそこに……」
「……わかりました」
秋子さんは有無を言わせない口調で俺の言葉を遮った。
「私が見てきます」
そして、部屋を出ようとする。
「だ、だめだ秋子さん! な、中に入ってきたらどうするんだぁ!?」
「いいですか、祐一さん。もし仮にベランダに栞さんがいるんなら、それこそ中に入れてあげる必要があるでしょう?」
「いや、それは……そうなんですが……」
「ちょっとベランダの様子を見てくるだけです。すぐに戻ってきますよ」
そう言い残して、秋子さんは部屋を出ていった。
彼女の言葉には、なぜか俺は逆らえない。
……もっとも、それは俺だけではないだろうが。
やがて、一分ほどして、秋子さんは再び俺の部屋に戻ってきた。
「ベランダには誰もいませんでしたよ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ」
そう言って、秋子さんはにっこりと微笑んだ。
「祐一、きっと疲れてるんだよ……昼間あんなことがあった後だし」
「そ、そうかな……」
そう言われると、だんだん自分でも自信が持てなくなってきた。
常識で考えれば、栞に病院を抜け出して、一人でここまでやってこれるだけの体力が残っているとは考えられないのだから。
「さあ、もう寝ましょう」
結局、秋子さんのその一言で、今回の一件はお開きとなった。みんなそれぞれの部屋へと戻っていく。
俺もベッドだけ名雪に手伝ってもらって元の位置に戻すと、再び温かい布団の中へと戻った。
身体を動かしたからだろうか……
さっきまではあれほど眠れなかったのに、目を閉じると、いつの間にか眠りについていた。
次回につづく
おもろい。つづき期待sage
ミ
ミ ( ,,,,,, ∧,,∧
∧,,∧ η ミ,,゚Д゚彡
ミ __ ミ,,゚Д゚彡 (/(/ ミ /)
て" ミ ミ つつ 彡 ミ `つ
⊂ ミ ミつつ 彡 ⊂ つ
彡" ミ 彡"。γ。ミ
∧,,∧ ∨"∨ 彡 ∨"∨ 彡 ∧,,∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ,,,,,ミ,,゚Д゚彡 ミ,,゚Д゚彡 < 高句麗参上!
⊂,,,,,,,,,,,,,,,つつ ミ ,つ \_____
彡 〜ミ ,ミつ スタッ !
ピョン! (/
61 :
名無しさん?:03/04/18 16:06 ID:f7qMMKzz
「栞ちゃんがこんなところに・・
梵ちゃんにみえた
1月27日 午前8時10分
「こんなにのんびり登校するのもひさしぶりだね」
学校の校門の前で、名雪がそんなことを言ってくる。
「そうだな……」
確かに、名雪と一緒に登校して、これだけ余裕で学校に着くことはめずらしい。
大抵は、予鈴を聞きながら校門に駆け込むのがパターンだ。
こうやってすがすがしい気分で校門をくぐれるのは、名雪と秋子さんの心遣いのおかげだった。
朝、目を覚ましてまず驚いたことは、名雪が俺よりも先に起きていたということだった。
いつもなら誰かが起こさないと絶対に起きてこない名雪が、今日に限って俺より先に食卓についていたのだ。
そして次に驚いたのは、テーブルの上に並べられた朝食の豪華さだった。
昨日は全く食を受け付けなかった俺の胃袋も、その料理の前にすっかり食欲を取り戻していた。
名雪も秋子さんも、俺のことを気遣ってくれているのが良くわかった。
本当なら今日は学校を休むつもりだったが、まる一日ぶりに胃袋が満たされると、すっかり気分も良くなってしまっていた。
今日も一日家でごろごろしているのはかえって気が滅入ってきそうだったし、かといって、栞の見舞いにいくほどには気持ちの整理がついていなかった。
昨日の晩の出来事がまだ尾を引いていた……栞のことを考えると、どうしてもあの不気味な物体の幻が、頭の中に蘇えってしまうのだ。
始業の時間まで十分な余裕があったことも手伝ってか、自然と、俺は学校に行くことに決めていた。
「祐一?」
ぼんやりそんなことを考えながら歩いていると、名雪が心配そうに俺の顔を覗きこんできた。
「ふぁいとっ、だよ」
そう言って、笑う。俺も自然と顔がほころび「ああ」と応えていた。
昨日までの暗い気分はすっかりどこかに消えてしまっていた……名雪と秋子さんの二人には、本当に感謝している。
二人が俺の家族であることが、心からうれしいと思った。
学校が終わったら、栞の見舞いに行ってやろう……その時には、そう考えられるようにすらなっていた。
「よ、よお、相沢」
昇降口の前で、クラスメイトの一人(たぶん・・・なんとなく見覚えだけはある)が挨拶してきた。
昨日の昼の一件のせいだろう、その挨拶は妙にぎこちない。
「おはよう」
俺はいたって普通に挨拶を返した。
そいつは、俺の様子が普通であることが、さも意外そうな感じだった。
「なんだ、思ったより元気じゃん」
そいつは「ははは」と笑った。
「相沢君、気分は大丈夫?」
「あんまり気にするなよな」
「相沢、俺で良かったらなんでも相談に乗ってやるぜ」
一人だけじゃなかった。普段なら挨拶もしないで通り過ぎるだけのクラスメイト達が、次々と声をかけてきてくれる。
学校に来る前は、みんなに白い目で見られるんじゃないかと危惧していたのだが、実際は逆だった。
みんな、俺のことを気遣ってくれていたのだ。
やっぱり学校に来て良かった……心からそう思った。
転校以来、クラスに馴染んだと感じられたことがなかっただけに、余計にそう思えた。
「祐一、わたしは先に教室に行っているよ」
俺が昇降口の前ですっかり話しこんでしまったので、名雪がそう言って先に教室に行く。
名雪も、クラスのみんなが俺のことを気遣ってくれていることを、喜んでいるようだった。
結構長いこと話し込んでいたようで、気がついた時には予鈴が鳴っていた。
みんな慌てて教室に向かったので、俺もそれについて昇降口に入ろうとする。
と、その時だった。
「おはようございます」
背後から、声をかけられる。
俺はすっかり気分が良くなっていたし、またクラスメイトが挨拶してきたのだと思っていた。
だから、当然のことのように振り向いて、笑顔で挨拶を返していた。
「よお、おはよ……」
俺の口は、そこで動きを止めた…
「おはようございます、祐一さん」
ドクンッ!!
おおよそ、予想していなかった。まさか、ありえないと思った……
振り向いたその先には……栞が居た。それも、学校の制服姿で!
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
それはないだろう? なんで、こんなところに居るんだ!?
栞は病院に入院しているはずなんだ、それが、なんでこんなところに!!
「祐一さん、昨日はごめんなさい……」
栞がすまなさそうな顔をしてそう言う。
「あんなことしたら、迷惑だっていうことは分かっていたんです。でも……」
そりゃそうだ、いくら弁当を食べさせたかったからって、あれは酷すぎる!
……と思いはしたが、まだ口が硬直したままだったので、言葉にはならなかった。
「でも……でも、私……」
「あ、ああ、別にいいよ……」
やっとのことで口から出たのは、そんな心にもない言葉だった。とにかく、今は穏便に事を済ませたいという思いで一杯だった。
ここで栞に泣かれでもしたら、それこそ泥沼状態だから……
今の俺には、適当に栞を言いくるめて病院に帰らせることしか頭になかった。
「ほ、本当ですか!?」
「あ、ああ……」
「よかったぁ……私、すごく気にしてたんですよ! あんな夜中に部屋に押しかけて、迷惑じゃなかったのかなぁ、って」
「……………………え?」
夜中に部屋に押しかけ……って、ま、まさか……
「だって、祐一さんすごく怒ってたみたいだったから……私、慌てて帰っちゃったんですよ」
……あれのことしかないじゃないか!!
昨日の晩、ベランダから部屋を覗いてたのは……やっぱり、栞だったんだ!!
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
ウソ、だろ……栞は吐血するような重病患者だぞ……それが、あの氷点下の気温のなか、病院を抜け出して、俺の部屋まで来たっていうのか!?
いや、だけど、現に今も目の前に栞が居るってことは、病院を抜け出して来てるってことじゃないか!
「し、栞……な、なんでこんなところに居るんだよ……」
「はい?」
「お前、病院に入院してるはずだろ! どうしてのこのこ学校に来てるんだよ!!」
「どうしてって……祐一さん、忘れたんですか?」
「何をだ!」
「2月1日の誕生日まで、私を普通の女の子として扱ってくれるって、約束してくれたじゃないですか!」
「それはお前の体調が良ければの話だろ……吐血するような奴を、普通に扱えるはずがないだろ!!」
そこまで言って、俺は少し言いすぎたことに気付いた……
栞は俺の目をまっすぐ見つめたまま、涙を流していた。
「ご、ごめん……」
そう、誰だって、夢を見たくなるのは当たり前のことじゃないか……栞のような境遇に陥れば、誰だって……
「……少し言いすぎた。ごめん……」
栞は黙ったままだった。黙って、心の苦しみに耐えているようだった。
「でも、分かって欲しい。やっぱり、無理なものは無理なんだよ……昨日だって、クラスのみんなに迷惑をかけてしまったじゃないか」
栞は涙を流しながら、ただ俺の話を聞いているだけだった。
「俺、学校休むよ。栞が病院に居る間、ずっと付き添ってる。だから、病院に戻ろう」
出来る限りの笑顔を作って話し続ける。
「入院すればもう少し長く生きられるかもしれないじゃないか。一週間か一ヶ月か……それは分からないけど、一日でも長く生きられた方がいいにきまって……」
「そういうこと言う人……嫌いです!!」
俺の作り笑いは、一瞬にして凍り付いた。
栞のその言葉には、すさまじい怒気が含まれていた。ほとんど小学生のような体格の栞に、俺は、完全に圧倒されていた。
「長く生きられた方がいい?……ベッドに縛り付けらるだけの生に、何の意味があるっていうんですか!!」
「う、あ……そ、それは……」
俺は何も答えられなかった。答えられるはずがなかった。
今までなんの障害もなしに、のほほんと育ってきただけの俺が何を言おうと、それは欺瞞でしかないのだから。
答えられるはずが、なかった……
「祐一さんも、同じなんですね……」
「……え?」
「お父さんやお母さんや……お姉ちゃんといっしょ……祐一さんだけは違うと、思っていたのに……」
「あ、あの、栞……」
「お姉ちゃん達も最初は言ってました。ずっと付き添っているから、だから入院しようって……
でも実際には、病院に押し込めて、私をお医者さんに押しつけただけ。邪魔者でしかない私を……体よく捨てただけなんです!」
「ま、待ってくれ、栞! 俺は本気なんだ、ずっと、ずっとお前に付いていてやる!!」
「ずっと?……本当ですよね、それ?」
「ああ、本当だ! ずっとお前の側に付いていてやる!」
「じゃあ一緒に……死んでくれますか?」
「……へぇっ?」
俺は、最初栞が何を言ったのかよく理解できなかった。
間の抜けた声を出して、しばらく突っ立ているだけだった。
死んでくれますか……徐々に、その言葉が頭を埋め尽くしてゆく。
身体中の毛が逆立つのが感じられた。
あまりの緊張に、吸いこんだ息を吐くことさえ出来なかった。
本気だ……その時、俺はそう確信した。栞は、本気で俺に『死んでくれ』と言っているのだと、そう確信した!
そこにはもはや、あの愛らしい栞の姿はなかった。
その二つの眼から、凍てつくような殺気を放つ、畏怖すべき存在があるのみだった。
「あ、あわ、あわあわあわ……」
『はい』とも『いいえ』とも、言えなかった。
どっちを言っても、殺されそうな気が、その時は本気でしたのだ。
もちろん、この状況で栞が俺を殺せるなんて、普通は考えられない。ナイフや拳銃でも持っているのなら、話は別だが……
だが、本気で殺されそうな気がしたのだ。これは、理屈がどうとかいう問題では、なかった。
「本気なら、それぐらいしてくれますよね?」
キーン、コーン、カーン、コーン
始業を告げるチャイムが鳴り響いていた。
その間も、俺達は昇降口の前で、相対したままだった。当然、俺達の周りには、誰一人としていない……
「お、俺……」
「一緒に、死んでくれますよね!」
「お、俺……じゅ、授業が始まるから!!」
俺は、一目散に昇降口の中に飛び込んだ。そして、靴を履き替えず、下履きのまま廊下を走りぬけた。
走りながら思った。俺、昨日の香里と同じことをしてるよなぁ……って。
次回につづく・・・
おもしろ(・∀・)イイ!!
69 :
山崎渉:03/04/19 23:41 ID:???
∧_∧
( ^^ )< ぬるぽ(^^)
続きまだぁ?
71 :
山崎渉:03/04/20 01:28 ID:???
∧_∧
( ^^ )< ぬるぽ(^^)
72 :
山崎渉:03/04/20 02:55 ID:???
∧_∧
( ^^ )< ぬるぽ(^^)
73 :
山崎渉:03/04/20 04:33 ID:???
(^^)
74 :
山崎渉:03/04/20 05:29 ID:???
(^^)
75 :
山崎渉:03/04/20 06:05 ID:???
(^^)
76 :
山崎渉:03/04/20 07:30 ID:???
(^^)
1月27日 午前12時20分
「ねえ、大丈夫、祐一?」
学食へと続く廊下を歩きながらだった。名雪が心配そうに声をかけてきた。
「あ、ああ……」
俺はかろうじて、そう応える。お世辞にも、大丈夫には見えないだろうなと思いながら……
栞を振りきって教室に逃げ込んできた俺は、あきらかに様子がおかしかった。教室に居た誰もが、「何かがあった」と思ったはずだ。
名雪を始め、みんなが心配してくれたが、俺は何も話さなかった。俺の様子があまりにもおかしかったので、一度保健室に行くように促された。
だが、俺はきっぱりと断った。
人があまり居ないところには行きたくはなかった……人の大勢いる教室に居るのが、一番安全だと思った。
栞は本気で俺を殺すかもしれない……そんな恐怖に苛まれていた。ありえない話では、ないと思ったのだ。
俺には一つの確信があった。香里が、なぜ栞を避けるのか?
きっと香里は、今の俺と同じ恐怖を感じていたに違いない。
『一緒に死んでくれますか?』
その言葉を、香里も栞に言われたに違いない……そう俺は確信していた。
それを裏付けるかのように、香里は今日学校を休んでいた。
栞が学校に来ている限り、香里は絶対に登校してはこないだろうという気がした。
「うへぇ、今日も一杯だな」
学食に着くなり、一緒に付いてきていた北川が不平を漏らす。
北川の言葉通り、学食は人で一杯だった。だからこそ、俺はここに来たのだが……
普段なら、ごった返す学食の混雑はうっとうしい以外の何物でもなかったが、今の俺には安心感を与えてくれていた。
「じゃあ、祐一は席を取っといてね。わたし達が買ってくるから」
名雪がそう言う。いつもなら席を取っておくのは名雪の役割だったが、俺を気遣ってくれているのだろう。
「祐一は何が食べたい?」
「なんでもいい……」
実際、何でも良かった。ここに来たのは人が大勢いるからで、食べるという目的は二次的なものだったから。
「うん、じゃあ適当に買ってくるね」
そう言い残し、名雪と北川は食券売り場へと向かった。
・・・
「祐一、食べないの?」
名雪がAランチのエビフライを箸でつっつきながらそう聞いてきた。その隣では、そんなことはおかまいなしと、北川がカツカレーを一心不乱に食べている。
「あ、ああ……ちょっと食欲がなくて……」
もう少し気を効かせてくれると思った……調子が悪そうなんだから、うどんとか、食べやすいものを買ってきてくれると思っていたのだ。
もちろん、「何でもいい」と言った俺が言えた義理ではないのだが、それでもこれはないだろ? と、思わずにはいられなかった。
俺はちらっ、と目の前に置かれた牛丼を見た。途端に、吐き気が込み上げてくる。
別に俺は牛丼が嫌いなわけじゃないし、牛丼は、気分の悪い時でもむしろ食べやすい方の部類に入るとも思う。
牛丼自体が悪いわけじゃない。問題は、その上に乗っかっている紅生姜だ。
肉の上に赤いのが乗っているのを見ると、嫌が上でも、あの血の滴るハンバーグを思い出してしまうのだ。
今朝あんなことがなければ食べられたかもしれないが、今の俺には到底無理だった。
見ただけで吐きそうになってしまう。
「……何か別のものを買ってこようか?」
名雪がまた気を遣ってそう聞いてくる。
「いや、いいよ。何も食べたくない」
牛丼を一目見ただけですっかり食欲が失われてしまっていた。今更何を出されても食べる気にはなれなかった。
「ねえ、何か食べないと余計に調子悪くなるよ」
「いや、いいよ……」
「ちょっとだけなら食べれるでしょ? わたしのを食べてもいいよ」
そう言って、名雪はAランチが載ったトレイを俺の方に差し出してきた。
「イチゴムースも食べていいよ」
もちろん、名雪は好意で言ってくれているのだろう。
デザートのイチゴムースは名雪の大好物だ。というか、『イチゴ』と名のつくものは何でも好きなようだが……
いつもイチゴムースのためだけにAランチを食べていると言っても過言ではない名雪が、俺にそれを薦めてくれている。
本当に、名雪は好意で俺にそう言ってくれたのだ。
しかし……その赤色のねっとりした物体は、余計にアレを連想させてしまう結果となった。
おもわず、口のすぐ近くまで胃液が込み上げてくる。
俺は必死にそれを押さえこんだが、口の中にはすでに胃液の酸っぱい味が広がっていた。
……これが駄目押しだった。もうどうやっても、何も食べられないと思った。
「や、やっぱ、俺いいよ……家に帰ってから食べる」
「そ、そう……」
俺はげんなりとして、二人が食べ終わるのを待つことにした。
「相沢、この牛丼食べないのか?」
しばらくして、北川がそう尋ねてきた。
「食べないんなら、俺が食っちまうぞ」
見ると、北川のカツカレーは、すでにきれいに平らげられていた。
「ああ、好きにしてくれ」
なんでこいつはこんなに食欲があるんだ? なんだか不公平なものを感じた。
昨日、北川もあの血染めの弁当を間近で見ていたのに……しかも、奴は先頭を切って吐いていた一人だった。
きっと能天気な性格なんだろうな……一日経ったら、何でも忘れられるんだろうな……
食欲が無いと言っている俺の前で、ばくばく食っているあたりがいかにもあいつらしい。あいつにはデリカシーのかけらもないのか?
しかも他人の牛丼にまで手をつけるし……少しは遠慮しろよ。
そう思いながら、北川の下品な食いっぷりを見ていた時だった……
「うぐぅ!!」
突然、そんな奇声を発して、北川の身体が硬直した。
「ど、どうしたの、北川君?」
名雪が恐る恐る北川に尋ねる。だが、北川はそれに答えるどころか、ぴくりとも動かなかった。
急いで食べていたので、喉に詰まらせた……と思った。
北川は、硬直したまま、箸を取り落とし、続いて、どんぶりも落とした。どんぶりは一度テーブルに落ちた後、転がって床に落ち「ガチャン」と音を立てて割れた。
「ひゅぅーーーーーーーーー」
北川は、そんな声……いや、音を口から出すと、硬直したままの状態で後向きに倒れた。
ドンガシャーン!!
北川と北川が座っていた椅子が倒れた音が学食中に響き渡り、その瞬間、一斉に学食内の喧騒が掻き消えた。
「……きゃぁあああああああああああっ!!」
北川の近くに座っていた女生徒が絶叫する。それを皮きりにして、再び学食内は騒然となった。
「き、北川ぁ!!」
俺は叫んだ。
北川の身体は床に倒れた状態で、小刻みに痙攣していた。誰がどう見ても、非常に危険な状態であることは明らかだった。
「ほ、保健室、いや、救急車だ、救急車を呼んでくれぇ!!」
何事かと、次々と野次馬が押し寄せてきていた。辺りには怒声と、悲鳴が飛び交っていた。
「誰か早く救急車を呼んでくれ!!」
俺は痙攣する北川の傍らにひざまずき、そう叫び続けた。だが、その声は至るところで飛び交ういくつもの叫びの中に、かき消えていくだけだった……
・・・
ピーポー、ピーポー、ピーポー
サイレンを鳴らしながら、北川を乗せた救急車は走り去った。
北川は生きていた。少なくとも、救急車に乗せられるまでは……
救急車が走りだした後、遠巻きにそれを見ていた野次馬達もぞろぞろと校舎の中に戻っていった。
やがてこの寒空の下、外に出ているのは、俺一人となったようだった。
あまりにもいろいろなことが続けざまに起こったので、俺の頭は完全に混乱していた。
北川が倒れたのは、牛丼を食べたからだ……それだけは間違いなかった。あの牛丼を食べ始めてすぐ、北川の身体は硬直したのだ。
だとすると……もし俺があの牛丼を食べていたら、俺が北川の代わりに倒れていたことになる。
俺は身震いした。俺も、あぶなかったのだ……
……いや、そうじゃない……逆だ!
俺の代わりに、北川が倒れたんだ!
その考えに至り、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「あの牛丼は元々俺が食べるはずだった……本当は、俺が食べて倒れるはずだったんだ!!」
それまでバラバラに別れていた物事の断片が、頭の中で一つの形を成しつつあった。
倒れて痙攣する北川……
牛丼……
『死んでくれますか?』
「……ま、まさか!!」
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
一際冷たい北風が吹き抜けていく。今日はいつもよりも冷え込みが厳しいのだろう。
しかし、それにも関わらず、俺の身体中からは汗が噴き出していた。
俺はゆっくりと辺りを見回してみる。厳しい北風が吹きつけるなか、校舎の外には人っ子一人いなかった。
もし、俺がここで叫び声を出したとしても、強く吹き抜ける北風と、頑なに外界の冷気を拒み続ける校舎の壁によって、誰の耳にも届くことはないだろう。
俺は北川の安否を気遣うあまり、自らの安全をないがしろにしていたことに気付いた。
「……食べてくれると思ったのに」
ドクンッ!!
背後からの声に、俺は恐る恐る振り向いた。本当は、振り向きたくはなかったが、身体が勝手に反応してしまい、振り向かずにはいられなかった。
「し、栞……」
予期していたこととはいえ、その姿を目にすると、恐怖を抱かずにはいられなかった。
視線の先には栞が立っていた。校庭に植えられた木の一つから、半身を出すようにして……
「せっかく祐一さんが食べてくれると思ったのに……残念です」
その言葉も半ば予期したものだったが、それを聞いて、やはりショックを受けずにはいられなかった。
「お、おまえのせいで北川は死んでしまうかもしれないんだぞ! 分かってるのかぁ!!」
俺はありったけの大声で怒鳴りつけた。だが、栞は平然とそれを聞き流す。
「食べ物に毒を入れるなんて、お、おまえはそれでも人間か!! 人を殺して平気なのかぁ!!」
「毒?……それは心外です」
栞はそう言って、服のポケットから薬ビンを取り出した。
「お薬を入れただけですよ。いつも私が飲んでいるものです」
「なに!?」
クスリだって? しかし、現に北川は……
「AZTでしょ、3TCに、プロテアーゼインヒビター……」
栞が取りだした薬ビンは一つだけではなかった。
どこにそんなスペースがあるのかと疑わしくなるほど、ポケットから次々と新たな薬ビンを取り出したのだ。
「……ddcにレスクリプトール、ZDVにd4T……これ全部入れちゃいましたー」
最終的に栞の手には、これ以上は持てないという程の数の薬ビンが握られていた。
「そ、そんなに……」
栞が持っている薬が実際にはどんなものなのかさっぱり分からなかったが、少なくとも、薬局で売っているような類のものには見えなかった。
「祐一さん……相乗毒性って知ってますか?」
「な、なに!?」
「強力なお薬って、間違った組み合わせで飲んじゃうと……死んじゃうこともあるんですよ」
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
栞の口は、不気味に笑っていた。そこからは、罪悪感のかけらさえ見出すことはできなかった。
「……ひ、ひひ、人殺しぃ!!」
「そういうこと言う人、嫌いです」
チキチキチキ
栞はポケットからカッターナイフを取り出した。そして、「チキチキ」という音を立てて刃を出す。
カッターナイフはコンビニでも売っているような、事務用のごくありふれたものだった。普段であれば、そんなものに脅威を感じることはまずないだろう。
だが、今は違った。俺の目は、その鈍く光る刃に釘付けとなっていた。
「一緒に死んでください、祐一さん」
薄笑いを浮かべたまま、栞が突進してきた。
「や、やめてくれぇええええええええええええええええっ!!」
栞は俺の眼前にまで迫ると、カッターを大きく振りかぶり、斬りつけてきた。
俺は必死にそれから逃れようとする。
その切っ先は、あわや俺の喉を切り裂こうというところまで迫ったが、かろうじて避けることができた。
そして、栞は全力で突進してきたため、空振りして体勢を崩していた。
俺はそのスキを逃さなかった。
ありったけの力を振り絞って……俺は逃げ出した。
「うわぁあああああああああああああああああっ!!」
走った。とにかく走った。
校門を抜け、学校から飛び出し、走り続けた。
昨日から走って逃げてばかりだったが、飽きもせずにひたすら走り続けた。
「うわぁっ!!」
走っている途中、靴が脱げて俺は転倒した。救急車を見送るとき、靴を履き替えずに外に出ていたので、上履きのままだったのだ。
俺はしばらく「はあはあ」と荒く息をしながら道路に転がっていた。
なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだ……ものすごく、不条理なものを感じた。
俺が何をしたっていうんだ!!
殺されなければならないようなことを、したっていうのか!?
ようやく呼吸が落ち着いたところで、俺はゆっくりと上体を起こした。
どうやら商店街の近くまで走ってきていたようだった。あのまま走っていたら、多分商店街を突っ切っていただろう……
と、そこで俺は気になって、咄嗟に今来た道を振り返る。もしかしたら、栞が俺の後を追いかけてきているかもしれなかった!
だが……栞が追いかけてきているような気配は、全くなかった。
どんな病気なのかは知らないが、とにかく栞は重病人だ。全力で走る俺に、追いつけるだけの体力があるとは到底思えなかった。
恐らく、追っては来ていないだろう……そう思った。
俺は立ちあがって服に付いた雪と泥を払った。そして、脱げた靴を拾って履きなおす。
一度、学校の方を見た後、躊躇せず俺は商店街の方へと歩き出した。昨日に引き続き、昼休みに早退してしまうことになるが、学校に戻ることだけはできない。
むざむざ、栞が手ぐすね引いて待っているところに戻るなど、愚の骨頂だ。
1月27日 午後5時40分
そろそろ辺りは暗くなろうとしていた。
俺はゲームセンターの店内から、夕日に赤く染まる商店街の通りをぼんやりと眺めていた。
もうそろそろ、帰らないといけない時間だった。
学校から逃げてきた俺は、商店街にあるこのゲームセンターで今まで時間を潰していたのだ。
一度、家に帰ることも考えたのだが、昼間は秋子さんも仕事に出かけていて家には誰も居ない。
家に一人で居るのは心細かった。
栞はあの家の場所を知っている。また昨日の晩のように、ベランダから侵入しようとするかもしれない。
それなら、人の大勢いる商店街の方が安全だと思った。
そういう訳で、俺は別にゲームをするわけでもなく、こうやって店の奥からひたすら通りの方を眺めていたのだ。
栞が現れてもすぐ気が付くように……
幸い、今のところ栞が姿を現すことはなかった。
もっとも、栞が来たとしても店内には店員を含めて10人以上の人間がいる。栞も容易に手を出すことは出来ないだろう。
後は不用意に食べ物を口にさえしなければ安全なはずだった。
だが、その状態をいつまでも続けるわけにはいかない。そのうち店は閉まってしまうからだ。
あと何時間かすれば、ここを出なければならなかった。
だが、暗くなってから店を出ることは避けなければならない。夜の闇にまぎれて、栞が襲ってくるかもしれないからだ。
だから、そろそろ移動しなければいけない時間だった。あと30分もすれば、辺りはすっかり暗くなってしまうだろう。
俺はゲームセンターの店先にまで移動すると、通りをよく見渡し、栞の姿がないことを確認した。そして、家に向かって歩き始める。
この時間なら、秋子さんと名雪も家に帰っているはずだった。
俺は辺りを警戒しながらも、早足で歩き続けた。一刻も早く、暖かい家に辿り着きたかった。
北川を乗せた救急車を見送る時、学食から直接外に出たものだから、俺は制服の上に何も羽織っていなかったのだ。
制服の上着など、この氷点下の気温の下では、着ていても着ていなくてもほとんど変わらないようなものだった。早く家に帰らなければ、本当に風邪でもひいてしまいそうだ。
あまりの寒さに、意識が飛んでしまいそうだった。ひたすら寒さに耐えることしか考えられない。
そうやって、寒さに震えながら商店街を歩いていた時だった……
「祐一くん」
「……どわぁあああっ!!」
突然、俺は背後から名前を呼ばれ、驚いた拍子に思わず尻餅をついた。
「ど、どうしたの?」
恐る恐る顔を上げる。そこには……俺の顔を上から覗きこむようにして立つ、あゆの姿があった。
「な、なんだ、あゆか……」
てっきり栞だと思った俺は、安堵で胸を撫で下ろした。
「なんだはひどいよっ」
あゆは大袈裟な態度でふて腐れていた。
とりあえず、俺は尻をはたきながら立ちあがる。
「悪いけど、今はあゆに構っている暇はないからな」
「ええ〜」
すごく不満そうだった。
「悪いな……」
俺はそれだけ言って、立ち去ろうとした。
こんなところでモタモタしている訳にはいかないし、とにかく早く、身体を温めたかった。
「……ねえ、なにか困ったことでもあったの」
立ち去ろうとする俺に、あゆは真顔で聞いてきた。
「今日の祐一君、なんだか変だよ」
「そ、そうか?」
いつも能天気なあゆが、そんな風に指摘してきたことに少し驚いた。意外と、こういうことには鋭いのかもしれない。
「ボクで良かったら相談に乗ってあげるよ」
そう言ってくれるのはうれしいが、相手があゆではあまりにも頼りなかった。
それに、今はのんびりとあゆと話をしている余裕はない。
「それはありがたいけど……やっぱり、あゆにはちょっとな……」
「えー、教えてよー」
あゆはぴょんぴょん飛び跳ねて不満を漏らす。たぶん、おもしろい話だとでも思っているのだろう。
俺はあゆがうらやましいと思った。こいつには、悩みなんかないんだろうな……
「なあ……女の子って、やっぱ好きな人には側に居て欲しいものなのかな?」
あまりにもあゆがしつこいので、俺はそんな風に振ってみた。
「それはそうだよ」
単純明快な答えだった。
「ああ、そう……」
やっぱり、あゆに聞いたのは間違いだった。
「ねえ……それって、栞ちゃんのこと?」
こいつは、時々こういう「ドキッ」とするようなことを言ってくる。
「あ、ああ……」
「そっか……」
なぜか、あゆは寂しそうな表情をしていた。
「ボク思うんだけど……好きだから側にいて欲しいんじゃないんだよね」
「え? どういうことだ?」
「逆なんだよ。一人じゃ寂しいから、誰かに側に居て欲しいから……だから人は、人を好きになるんだよ」
俺は信じられない思いだった。
あゆが……あのあゆが、哲学的なことを言っている!?
だがしかし、あゆの言っていることは的を得ているように思えた。
香里に、そして恐らく両親にも避けられ……栞は孤独だったんだ。
だから側に居てくれる人を求めた。
それが……俺なんだ。
だけど、その俺にも逃げられた。それで栞は……
栞が恐れているのは死ではないんだ。
孤独
何よりも孤独を恐れている。孤独なまま、死ぬことを恐れているんだ……
「側に誰もいないってことは、とっても辛くて苦しいことなんだよ、祐一君」
なぜかその時俺は、あゆが心の底からそう思っているように感じた。
「だから、栞ちゃんにさびしい思いをさせちゃだめだよ」
最後に笑顔でそう言うと、あゆはくるりと後を向いて走り出した。
「じゃあね、祐一君」
俺の方を振り向きもせずにそう言って走っていく。
夕暮れ時の商店街を走るその後姿は、なぜか寂しげに見えた。
「お、おい・・・」
俺はあゆが立ち去った後も、しばらくその場に佇んでいた。
『栞ちゃんにさびしい思いをさせちゃだめだよ』
あゆはそう言っていた。
無論、俺だってそうしてやりたかった。昨日までは……
それが俺の死を意味するのなら、話は別だった。
1月27日 午後6時10分
水瀬家に帰ってきた時には、辺りはもうかなり暗くなっていた。
家の中はすでに明かりが灯されており、少なくとも誰かは家に居ることを示していた。
俺は玄関の扉を開け、中に入る。そして、素早く扉を閉めて鍵をかけた。
そこで、ようやく一息つく……商店街から家に来るまでの間は、はっきり言って、生きた心地がしなかった。
玄関を見ると、名雪と秋子さんの靴が並べて置かれていた。二人共、すでに家に居るようだった。
俺は靴(学校の上履きだが……)を脱いで中に入ると、一階の各部屋を回って、厳重に戸締りをしていった。
もっとも、こんな季節だから窓は全て閉められており、鍵もほとんどのものがすでにかかっている状態だった。
一通り一階を回ってリビングに戻ってきたところで、名雪と秋子さんの姿がないことに気付いた。
真琴の姿もなかったが、あいつはまだ帰ってきていないのだろう。
玄関に靴もなかったはずだ。
もしかしたら、名雪と秋子さんは二階に居るのかもしれない……
部屋に戻って着替えもしたかったことだし、とりあえず、俺は二階に上がることにした。
「秋子さん、居るんですか?」
階段を登ったところで、俺はそう呼びかけてみた。
だが、返事はなかった。
「おーい、名雪」
こちらも……返事なし。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
なんだか、嫌な予感がしてきた。二人とも、二階にも居ないというのはおかしすぎる!
まさか、すでに栞がこの家に……そんな考えが頭をよぎる。
栞は、北川が死にかけた時も平然としていた。他人が傷つくことなど、一向に気にしていないようだった。
俺と心中するという目的を達成するためなら、名雪や秋子さんを傷つけることなど、あいつはためらわないだろう……
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
……もし、栞がこの家に潜んでいるのなら、今すぐに逃げ出すのが得策だ。あいつには体力がないから、一旦俺が走り出せば追いつくことができない。
だが……俺はその考えを振り払った。
名雪と秋子さんを見捨てていくわけにはいかない。もしかしたら、二人は栞に拘束されているかもしれないのだ。
もし栞が俺を待伏せしているとすれば、一番可能性が高いのは……俺の部屋だろう。
そこに居れば、必ず俺がやってくるからだ。
俺は音を立てないように気を付けながら、再び階段を降りていった。
名雪と秋子さんが今どうなっているか分からない以上、栞をなんとか取り押さえるしかない。
それにはまず、身を守るための武器が必要だ。
俺は、リビングに戻って何か武器になりそうなものはないかと探してみた。
台所から包丁を持ってくれば手っ取り早いのだが、そんな物を使えば最悪、栞を殺してしまうことになる。
後何日も生きていられない重病患者とて、殺してしまえば俺は殺人犯だ。刃物を使うのはまずいだろう……
それに、栞には脅しは効かない。あいつは死ぬことを恐れていないから、刃物を向けられても平然としているに違いなかった。
しばらくリビングを探していると、床掃除用のモップを見つけた。俺はその柄だけを取り外して持っていくことにした。
再び慎重に階段を登る。
二階には、やはり人の気配はなかった。
俺は自分の部屋の前まで来ると、片手でモップの柄を握り締め、もう片方の手でドアノブを掴んで、ゆっくりと回した。
ギィイイイ
かすかに軋み音を立てて、扉が開いた。
俺は、慎重に扉を開けていく。
部屋は真っ暗だった。
モップの柄を両手で構えた俺は、全神経を集中する。
しかし……部屋の中には、誰かが居る気配はなかった。
慎重に半身だけを部屋の中に入れた俺は、手探りで電灯のスイッチを探し、点灯した。
すぐに部屋は明るくなった。
だが……やはりそこには、誰も居なかった。
一気に緊張が解け、俺は「ふう」と息を吐き出した。
栞はこの部屋には居なかった。
では……いったいどこに?
いや、そもそも……栞は本当にこの家に潜んでいるのか?
俺の取り越し苦労だったのかもしれない。勝手に、栞が家に忍び込んでいると思いこんで、一人でバカをやっていただけなのかもしれなかった。
良く考えてみれば、名雪と秋子さんの部屋は調べていないんだ。二人は自分の部屋に居るだけなのかもしれない。
俺が二人に呼びかけた時、あまり大きな声は出していないので、聞こえなかったのかもしれなかった。
大体、一階には争った形跡がなかったし、栞一人で名雪と秋子さんの二人を拘束すること自体、無理なように思えた。
俺はモップの柄を壁に立て掛けると、部屋の中に入った。
服を着替えて、リビングに戻ろう……その時には、二人もそこに居るはずさ……
ドクンッ!!
服を着替えようとして、クローゼットに向かった時……俺の心臓は、一瞬止まりそうになった。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
クローゼットの扉の隙間から、何かがはみ出していた……
それは……チェック柄の厚手の布地だった。
クローゼットの中に入っていた服……がはみ出しているわけじゃない。
あんな柄の服を、俺は持っていなかったからだ。
……にもかかわらず、俺は、そのチェック柄には見覚えがあった。
そう、それは……栞がいつも羽織っている、ストールと同じ柄だった!
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
一気に心臓の鼓動が早くなる。
俺は、あまりの緊張に息をすることもできなかった。
居る……
あそこに……居る!!
栞は、あのクローゼットの中に潜んでいる!!
しかし、高まる緊張とは裏腹に、俺の頭はいたって冷静だった。俺はこういう場合、どうすればいいのか分かっていたからだ。
「クククク……」
思わず、含み笑いが漏れる。
大方、俺が寝入った隙に襲うつもりだったのだろうが……ツメが甘かったようだな。
所詮、栞のオツムも真琴レベルだったということだ。
「さあて……」
俺はいかにも「気付いていない」フリを装って、部屋に入っていった。
そして、机の前まで来ると、おもむろに……
「部屋の模様替えでも、しようかなっ!!」
机を掴むと、渾身の力でもって、それをクロゼットの前まで引きずっていった。
ドカーン!!
勢いあまって、机はクローゼットとぶつかり、派手な音を立てた。
「そうりゃぁあ!!」
俺は休む間もなく、今度は本棚を持ち上げ、机の上へと積み上げる。
ドスン!!
昨日に引き続いて二度目の衝撃に、本棚は分解寸前であった。
「もういっちょう!!」
今度は、ベッドを横倒しにして、机に押しつける。
バターン!!
完璧だった……
これで、クローゼットに入っているのが、例え巨漢のプロレスラーであったとしても、外に出ることは絶対不可能に違いなかった。
「ざまあみろ……」
俺は「ぜえぜえ」と息を切らしながらそうつぶやいた。
死の恐怖が去ると、今度は燃えるような怒りが俺の心を支配し始めていた。
あいつは、俺を殺そうとしただけじゃなく、実際に北川を瀕死の状態にまで追いやったのだ。
北川とはまだ数日間の付き合いだが、俺が引越してきてからの数少ない友達だったんだ!
それを……あいつは!!
「おっと、足が滑った!!」
俺はそう叫びながら、わざとクローゼットを蹴飛ばした。
ドオーン!!
クローゼットに衝撃が加えられた瞬間、その中から「ううっ」という呻き声が聞こえてきた。
栞のヤツは、この状態になってもまだ、クローゼットの中に潜んでいることを悟られたくはないようだった。
「おっと、また足が滑った!!」
俺は再びクローゼットを蹴飛ばす。
ドゴーン!!
すると、またもや中から「ううっ」と呻き声が聞こえてきた。
はっきりいって、病みつきになりそうだった。
昨日からの暗い気分が、一回蹴る度にすっきりしていくのが実感できる。
だがあまりやり過ぎると、身体の弱い栞のことだ……もしかしたらこの中で死んでしまうかもしれない。
さすがにこの状況で死なれてしまうのはまずいので……俺は後一回だけで我慢することにした。
「おっと、またまた足が……」
「そういうことする人、嫌いです」
ドクンッ!!
俺は足を振り上げたポーズのまま、固まった……
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
その声は、間違いなく栞のものだった。だがそれは……俺のすぐ後から聞こえたのだった!
チキチキチキ
耳元で、カッターの刃を出す「チキチキ」という音が聞こえる。
視界の隅から、銀色に鈍く光るカッターの刃が「チキチキ」という音と共にせり出してくるのが見えた。
だが、俺は首を回して後を見るどころか、指一本動かすことができなかった。
すでに俺は、首筋に冷たい金属の感触を感じていたからだ。
もし不用意に動けば……カッターで、喉を切られるのは確実だった。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
罠だ……あのクローゼットは、栞が仕掛けたブービートラップだったんだ!!
栞は、俺が気付くようにわざとストールの端をクローゼットから出しておいたんだ。
俺がこういう行動に出ることは計算済み。
後は……俺が油断するのを待っていたってわけだ!
「た、たた、助けて……」
俺はかすれた声でそう言うのが精一杯だった。首筋に刃物を付きつけられていては、大声など出ようはずがなかった。
「祐一さん、ああいうことしちゃ、いけませんよー」
すぐ耳元で、栞がそう囁く。それは、まるでいたずらをした子供を諭すような言い方だったが、大声で怒鳴られるよりも遥かに大きな恐怖を俺にもたらした。
「あの中に私が入っていたら、どうするんですかぁ?」
もちろん、俺は入っていると思ったからこそ蹴ったのだが、そんなこと口が裂けても言えない。
「わ、わざと……わざとじゃなくて、その、あ、足が滑って……だ、だから、助けて……」
もう自分でも、自分が何を言っているのか分からなかった。ただ「死にたくない」という哀れな生存本能が、勝手に口を動かしているにすぎなかった。
「だ、誰か、助けて……な、名雪……秋子さん!」
「助けを呼んでも無駄ですよ」
自信たっぷりにそう囁く栞。
ドン、ドン
その時、何かを叩く音が聞こえてきた。
それは……クローゼットの中から聞こえてくるようだった。それと共に「うーうー」という呻き声も聞こえてくる。
「どうやら薬の効果が切れたようですね」
「く、薬?」
その時……ようやく俺は理解した。
あのクローゼットに入っているのは……名雪と秋子さんなんだ!!
恐らく栞は、薬で名雪と秋子さんを眠らせて縛った後、クローゼットの中に押し込めていたんだ!
俺は……とんでもない間違いを犯していたんだ。
栞が真琴レベルだなんてとんでもない……
栞の手口は、プロの殺し屋顔負けじゃないか!!
「祐一さん、安心してください……私もすぐに逝きますから」
「い、いやだ……し、死にたくない!!」
こんなことになるんだったら、親について海外に行っておくんだった……俺は、涙を流してそう後悔せずにはいられなかった。
「さあ、二人で一緒に、天国に逝きましょう」
「や、やめて……お願い……やめて……」
カッターの刃がさらに強く肉に食い込んでくる。後は、軽く引っ張るだけで、首の動脈がスッパリ切断されるのは確実だった。
そして、後に待つのは確実な死。
「い、いやだ……いやだ! いやだぁ!!」
どうして俺、こんなことになったんだろ……
可哀想な女の子がいたから、放っておけなくて……
……いや、単にかわいかったから声をかけたような気も……
今更後悔しても遅いんだろうな……
……ああ……寒いのは嫌だなぁ……
こんな寒いところで死ぬのは嫌だなぁ……
……骨は故郷に埋めて欲しい……
せめて遺書を書く時間だけでも欲しかった……
名雪……昔借りた金、返せなくてごめんな……
霊界へと旅立つ、俺への餞別だと思って諦めてくれ……
秋子さん……俺の仏壇に、ご馳走供えてくださいね……
……でも、お願いですから、あのジャムだけはやめてください……
「祐一、ご本読んで!」
すまない真琴……俺、もう読んでやることできないよ……
だって俺、もう死ぬんだから……
……と、そこで俺は、急速に現実の世界へと引き戻された。
さっきまで喉元に当てられていたカッターの感触が、今は消えていた。
素早く後を振り向くと、部屋の入り口のところに突っ立っている真琴の姿があった。
胸にマンガ本を抱え、呆然自失といった感じでこっちを見ていた。
そして……栞は、真琴の方を向いていた。しかも、右手に持ったカッターは宙をさ迷っている。
どうやら、栞のシナリオには、真琴の出現は想定されていなかったようだ。
栞はあきらかに、戸惑っていた。
「うおりゃぁああああああ!!」
俺は考えるよりも先に、身体が反応していた。
ありったけの勢いをつけて、栞に体当たりする。
ドターン!!
俺がよっぽど強くぶつかったのか、それとも、栞が見かけ以上に軽いのか……
栞の身体は、文字通り吹っ飛び、そのさらに背後に突っ立っていた真琴と絡み合って、部屋の外へと転がっていった。
「あうーっ!!」
真琴の悲痛な呻き声が聞こえてくる。
しかし、俺はそれには構わずに、ベランダへと一直線に向かった。
ガラス扉を開けベランダに出ると、一足でベランダの手すりの上に駆け上り、そして思いきり跳んだ。
「とりゃぁあああああああ!!」
宙を舞う感覚。そして、不意に訪れる衝撃。
ズターン!!
足から庭に着地したものの、態勢をくずして顔から地面に突っ込んだ。
だが、一秒もしないうちに立ちあがり、走り出す。
門を抜け、道路へ……
強烈な冷たさが、痛覚を伴って靴を履いていない足の裏に襲いかかる。
まるで、針の山の上を走っているような気分だった。
俺は逃げていた。
栞から……何もかもから……
名雪や秋子さん、真琴のことが頭の中をよぎるが、それはほんの一瞬のことだった。
今の俺には、自分の命より大切なものなど、ありはしなかった……
次回につづく・・・
先が読めない
100 :
擬古侍 ◆SAMURAII.Q :03/04/21 01:51 ID:yhdArkRy
SMAPの「世界にひとつだけの花」正確に言うと、槙原敬之さんの歌かな。
>名前も知らなかったけれど
>あの日僕に笑顔をくれた
>誰も気づかないような場所で
>咲いてた花のように
>そうさ 僕らも
>世界に一つだけの花
>一人一人違う種を持つ
>その花を咲かせることだけに
>一生懸命になればいい
>小さい花や大きな花
>一つとして同じものはないから
>NO.1にならなくてもいい
>もともと特別なOnly one
これがはやっているようだが、どうも腑に落ちない。
それは日本国の性質、国体や、人生観に沿ってないからである。
欧州国では、ランカスター家とヨーク家が薔薇戦争をしたように、
単一で綺麗に咲き、牙(トゲ)を隠している花を美しく思うようですが、
日本は、個人の主張というものが、重んじられている国ではないんだよね。(勿論、
英国の場合には貴賎があり卑しいものの意見は、日本のニッカポッカのような
物を着た似非右翼の主張は誰の耳にも入らないのと同様に)
日本人が一番好き好んでる、花とはやはり桜だね「さくら」
一度に咲き、一度に散る「いさぎよさ」、集団性、はかなさ、
なまめかしさ、あでやかさを重んじる国であり、個よりも公、友情、絆であり
徳の高い民族であることを忘れていないだろうか?
| あなた達は愚行の数々を繰り広げる低脳で無知で強欲な生物です(^^; . |
| しかしこのFLASHを見ればきっと神は御救いになられるでしょう(^^) |
\ (^^)
http://f2.aaacafe.ne.jp/~eagle/flash/flash.htm (^^) /
\ /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧_∧
( ^^ )
(っ) ,,,,l ` γ l,,,,,
\ \/~~.... |。 ~~ヽ
\,,/ | |。田}}\ \
| |。 | ヽ_ヽ
_ | |。 | ゝつ
|\  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧∧
< 山 崎 ! 山 崎 ! 山 崎 ! >
∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨∨
、 、 、 、 、
/っノ /っノ /っノ /っノ /っノ
/ / ∧_∧ / / ∧_∧ / / ∧_∧ / / ∧_∧ / / ∧_∧
\\( )\\( )\\( )\\( )\\( )
1月27日 午後7時30分
ようやくのことで立ち止まった時、俺は水瀬家からかなり離れた場所に立っていた。
名雪や秋子さん達を見捨てて逃げ出したことを後悔せずにはいられなかったが、足を止めたのはそれが直接の理由ではなかった。
足の裏の感覚が完全に無くなっていた。もう冷たいとも痛いとも感じられない。
それどころか、足が地面についているという感覚すら無くなっていた。
まるで、身体が宙に浮いているかのようだ。
この足では、到底走り続けることは不可能だった。
今、栞に襲われたら、逃げきることはできないだろう……
名雪達を助けに水瀬家に戻ることも一瞬考えたが、今の俺の状態では、助けるどころか逆に助けを必要とする立場になることは確実だった。
今はとにかく逃げるしかない。
栞だって、俺が逃げ出した以上、いつまでも名雪達にかまってはいないだろう。
だから、名雪達はあれ以上酷い目にはあっていない……という身勝手な考えで納得するしかなかった。
だが、逃げるにしても、逃げる場所のアテなどどこにもなかった。
この街に引越してきて、まだニ週間かそこらしか経っていないのだ。まだ友達の家にも一度も行ったことがなかった。
それに、逃げるにはまず『靴』が必要だ。
靴をなんとかして入手しないことには、これ以上どこにも行けそうになかった。
街灯がぼんやりと地面の雪を照らす道の真ん中で、俺は途方に暮れていた。
早く解決策を見つけなければ、そのうち栞が追いついてくるかもしれないというのに……俺はただ、身体を丸めてブルブルと震えているしかなかった。
結局、今もまだ学校の制服姿だったから、寒くてしようがない。
感覚の無くなった足とは反対に、上半身は猛烈な寒さに襲われていた。
「くそぉ……せめて上着を着てればなぁ……」
俺は、引越してきてからすぐに買ったダウンジャケットのことを思い浮かべていた。
この街のあまりの寒さに耐えかねて、名雪と初めて商店街に行った時に速攻で買ったものだった。
それを着ると、まるで冬山登山にでも行くような格好になったが、その時の俺は本当にそれぐらいの装備が必要だと思ったのだ。
今も毎日登下校時には、必ずそれを着ている。
名雪はそんな俺の姿を見て「重くない?」といつも聞いてきたが、俺の方こそあいつに「寒くない?」と聞き返したいところだ。
校舎の中でも外でも、いつも同じ格好のあいつは、とても俺と同じ人間だとは思えなかった。
あのダウンジャケットさえ着ていればこれぐらいの寒さはへっちゃらなのだが……あれは教室に置いてきたままだった……
……と、そこで、俺は気がついた。
「……そうか、学校だ!」
よくよく見てみると、今俺がいるのは、いつも通学の時に使っている道だった。
昨日からのパターンからみても、無我夢中で走ってはいるが、無意識のうちに知っている道を選んで走っているようだ。
俺がこの街で知っている場所といえば、ごく限られている。特に学校は毎日行っている場所だから、自然と足がそっちに向かうのも納得できた。
この場所から学校までは五分も歩けば着けるはずだった。それに……俺はさらに重要なことを思い出した。
今日学校に履いていったシューズが、学校の下駄箱の中に入っているはずなのだ!
昼休みに栞から逃げ出す際、俺は上履きのまま逃げた。だから、シューズは下駄箱の中に置きっぱなしになっているのだ。
そこまで考えた後では、何もためらう事は無かった。
俺は迷わずに学校へと向かって歩き出していた。
・・・
真っ暗な昇降口で自分の下駄箱を探すのには苦労させられた。
だがようやくのことで、そこに目的のものを見つけた時には、跳び上がるほどうれしかった。
感覚の無くなった足を無理やり靴に押し込め、とんとんと足踏みしてみる。
まだ足の感覚は戻っていないが、それでもさっきまでの状態と比べれば大分ましだと言えるだろう。
次に俺は、自分の教室へと向かった。
廊下にも明かりはついていなかったが、なんとかそこに辿り着くことができた。
教室の自分の椅子の背もたれには、思った通りあのダウンジャケットが掛かっていた。
俺は急いでそれを羽織る。
その温かさに、思わず涙が出そうになった。
だが……問題はこれからだ。この先、いったいどうすればいいんだろう?
水瀬家に戻るのは危険極まりないし……かといって、この学校にいつまでも居るわけにはいかない。
俺が向かう先なんてたかが知れているから、俺がここに居ると栞が考えても全然不思議ではなかった。
もし栞が来た場合、他に誰もいないこの場所では、助けを求めることが出来ず危険だった。
まずは移動することが先決だった。これからどこに向かうか、それは歩きながら考えるしかない。
俺は、月明かりでわずかに青く照らされる廊下を歩きながら、これからのことを考えていた。
だが、いいアイデアなどそうそう簡単に出てくるはずもなく、途方に暮れてとぼとぼと歩いているだけだ。
八方塞もいいとこだった。
そうやって、一階の廊下にまで降りてきた時のことだった。
階段を降りた俺は、昇降口に向かおうとしたのだが、ふと、廊下の先に視線を向けた。
視界の隅で捕らえただけだったが……そこで、何かが動いたような気がしたからだ。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
目を凝らして良く見てみる。
窓から差しこむ月明かりだけで、ぼんやりと照らされた廊下の先……ここからでは、もし誰か居たとしても見極めるのは非常に困難だ。
しばらく見ていたが、そこに何者かの存在を認めることはできなかった。
だとしたら、さっきのも見間違いかもしれない。
こうやって目を凝らしても見えないというのに、意識せずに、しかも視界の隅で捕らえることなどできるはずがないと思った。
俺は「ふう」と息を吐き出す。少し、神経質になりすぎているのかもしれない……
ドクンッ!!
だが次の瞬間……俺ははっきりとそれを目にしていた。
廊下の先で、何かがわずかに光ったのだ!
それは月明かりを受けて光ったようだった。
嫌が上でも、あの鈍く光るカッターの刃を思い出してしまう。
そしてそれは、あそこで光ったものと同一のモノである可能性が……十分に考えられるのだ!!
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
俺はすぐに後を振り返ると、必死になって走り出した。
ヤツだ……ヤツに違いない!!
栞が追いかけてきたんだ!!
だが、まだ完全には感覚が戻っていない俺の足は、2、3歩走り出したところで早くももつれだしていた。
俺の意思は、足をひたすら前に繰り出そうとしているのだが、肝心の足がそれについていってくれない。
ドターン!!
すぐに俺は、無様な格好で廊下に転がることとなった……
俺は慌てて上体を起こし、後を振り返ってみる。そこには……月明かりを受けて廊下に浮かび上がった、何者かのシルエットがあった。
「う、うひゃ……た、助けて……」
立ち上がろうと必死になるが、すでに腰砕けになっていて、思うように立ち上がることもできない。
そうこうしているうちにも、その人影は、俺の方に近づいてきているのだった。
「う、うは……だ、誰かぁ!!」
俺は廊下に倒れたままの状態で、両手を使って必死に後にさがりはじめた。
「だ、誰か助けてくれぇ!!」
見栄もくそったれもなかった。ただ助かりたい一心だった。
「……祐一」
間近にまで迫った人影が、口を開いた。
「ち、違う、俺は祐一じゃない!! 人違いだ!!」
すっかり錯乱してしまっていた。意思とは関係なしに、口が動く。
「……祐一にしか見えない」
「ゆ、祐一なんて知らない! 知らない!! だから助けてくれぇ!!」
「……でも祐一にしか見えない」
「お、俺は双子の弟なんだ!! 名前は裕次郎だ!! だから人違いだ!!」
「……それは初耳」
「だ、だから、俺を殺さないでくれ!!」
「……はちみつクマさん」
「よ、よかったぁ……」
え?
「……そこに転がってると風邪をひく」
あれ?
栞じゃ……ない?
ようやく落ち着きを取り戻してきた俺は、改めて目の前の人影を見る。
学校の制服を着た、長身の女の子……
長い髪を後で束め、右手には抜き身の剣を携えていた。
そう、そんなヤツは俺が知っている中では一人しかいない。
「ま、舞……」
目の前に立っていたのは、川澄舞だった。
「お、驚かすなよ……」
安堵のあまり、全身から力が抜けていく。
さっき廊下の先で光ったのは、恐らく舞の剣だったのだろう……
「……驚いたのはこっちのほう」
いつものように、無表情にそう言う舞。
「いきなり大声出すから」
「そ、そうだったな、はははは……」
俺は笑いながら、ゆっくりと立ちあがった。
すっかり忘れていた……学校に来れば、最凶……もとい、最強の助っ人がいたんじゃないか!!
そう、今考えられる中では、舞ほど頼もしい助っ人はいない!
舞の剣の腕は達人級だ。栞など、おおよそ舞の敵ではないではないか!!
「ははは……そうか、そうか……はははははっ!!」
俺は死の恐怖から脱したという安堵から、ゲラゲラと笑い始めた。
「……大丈夫? 裕次郎」
舞が心配そうに(?)声をかけてくる。
「はははは、違う違う、さっきのはウソだ。俺は祐一だよ」
俺は笑うのを止め、そう言った。舞はあいかわらず同じ表情のままだったが、恐らく、状況を理解できずに困っているだろう。
「なあ、しばらく一緒に居てもいいか?」
俺は舞にそう聞いてみた。
舞は俺の問いかけに「コクン」と頷く。
舞と一緒なら安全だ。
栞がどんな手を使ってこようと、舞が俺の側にいる限り、目的を達成することはできないだろう。
……いや、「どんな手」でも安心というわけではないか……食べ物にだけは用心しないといけない。
舞なら、毒が入っていると分かっていても口にしそうだからな。
・・・
一時間ほどして、俺の足もようやく正常な状態に戻ってきた。
俺は舞が廊下の真ん中で佇んでいる傍らで、壁を背にして座っていた。
あの後、舞は定位置に戻ると、剣を構えたまま微動だにしていなかった。
そんな舞の姿を見ているだけで、なんともいえない安心感に浸れた。
舞と会った後、すぐに水瀬家に戻ることも考えたのだが、足が元に戻るまで待つことにしたのだ。
栞は油断ならない相手だ……万全の体勢で臨まなければならない。舞がいるからと油断していると、足元をすくわれることになるかもしれない。
なにせこれには、俺の命がかかっているのだ。用心するにこしたことはなかった。
だが……名雪や秋子さんのことも心配だった。
まさか栞が腹いせに名雪達を襲うとは思えないが、万が一ということもある。
「舞、ちょっと話があるんだ……」
俺はそう言いながら立ちあがった。
舞にはまだ経緯を何も話していなかった。舞があの後すぐに『魔』に対する警戒をはじめたので、なかなか声を掛け辛かったのだ。
どのみち俺の足が治るまでは行動を控えるつもりだったし、舞には舞の都合というものもある。
舞は魔を狩ることに人生を捧げているようだから、邪魔するのも悪いと思ったのだ。
だが、そろそろ行動を起こす時だった。
「今まで黙っていたけど、実は俺、命を狙われていて……」
「……来る」
「へぇ?」
俺の話がまだ途中だというのに、突然、舞は剣を構えた。
真剣な表情で、ただ一点を見つめている。
魔だ……タイミングの悪いことに、魔物が現れたようだった。
こうなったら魔を倒すか、魔が逃げるのを待つしかない。
日によっては全く現れない時もあるっていうのに……どうもツイていないようだった。
まあ、こうなったら俺に出来ることはない。舞が手早く片付けてくれるのを待とう……
チキチキ
物音一つしない静まりかえった校舎に……その音はやけに大きく響いた。
ドクンッ!!
その音を聞き間違うことなどありえなかった。なぜなら、それは俺に死をもたらす音なのだから……
チキチキ
まさか……舞が「来る」って言ったのは……
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
廊下の昇降口の方……そこに、こちらに向かって歩いてくる、ひとつの人影があった。
ストールを羽織った、小柄な女の子……
髪はおかっぱで、片手に事務用のカッターナイフを握りしめている。
チキチキ、チキチキ……
カッターの刃を出し入れする「チキチキ」という音を響かせながら、ヤツは近づいてきた。
そう、そんなヤツは、俺が知っている中では一人しかいない!
「し、栞ぃ!!」
「祐一さん、捜しましたよー」
ヤツは、うれしそうに笑っていた。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
来た……来たぁ!!
しかも、正面から堂々と!!
俺は高鳴る心臓を押さえながら、ゆっくりと息を整えていった。
落ち着け……落ち着くんだ!
そう、これはチャンスだ。
水瀬家の時のように姑息な手段を用いられてはやっかいだと思っていたのだが……正面からのぶつかり合いでは、こっちの方が断然有利だ!!
しかも、ここは舞のテリトリー……のこのこ自分からやってくるとは、愚の骨頂もいいところではないか!!
「クククク……」
俺は思わず笑っていた。
所詮、栞もただの女子高生……少し買い被りすぎていたようだ。ここまで頭が悪いとは、思ってもみなかったぜ!
「言っとくけどな、栞……お前が悪いんだからな」
俺は薄ら笑いを浮かべたまま、そう言う。
「少々痛い目にあってもらうが、自業自得なんだからな」
「そういうこと言う人、嫌いです」
栞も、「ニタァ」と笑いながら、言葉を返してくる。
どうやら栞は、まだ自分の置かれている立場が良くわかっていないようだ。
「笑っていられるのも今のうちだ!! さあ、舞! あの殺人鬼を倒してくれ!!」
俺のその言葉と共に、舞は剣を構えて走り出した。
……俺が向いているのとは、逆方向に……
「ふぇ!?」
その瞬間、俺は妙に間の抜けた声を出すことしか出来なかった……
舞は、猛烈な勢いで俺の後方に走っていくと、何もない空中に向けて激しく剣を振り下ろしていた。
ガギッ! ガギンッ!!
その度に、激しい金属音が廊下に響き渡る。
そこには何も見えないが、確かに、何かがいるのだ。
そう、それは……魔
「お、おい、舞!!」
俺は慌てて舞に声をかける。
「……祐一、そっちにも行った」
だが……非情にも、舞はそう言い残して、階段を駆け登っていくのであった……
「う、うそぉ!!」
最悪だった。
前には殺人鬼……
後には魔物……
一瞬にして、俺は絶対絶命のピンチに陥っていた……
「さあ、祐一さん……」
栞が、チキチキ、チキチキ……と音を鳴らしながら近づいてくる。
一方、背後からは、ピリピリと空気を振るわせながら、黒い影のような物体が近づいてきていた……
俺に、逃げ場はなかった。
「うわぁああああああああああああ!!」
俺は前と後を交互に何度も振り返りながら、ただわめくことしか出来なかった。
「た、頼む、たぁ、たぁすけてくれぇ!!」
しかし、どちらもそんな命乞いが通用するような相手でないのは間違いなかった。
このままでは……俺はあいつらに殺されてしまうのは確実だ!!
どちらかを選ばなければならなかった……前か? 後ろか!?
どちらか一方を決めて、突破する以外に方法はない!!
ヘタに戦おうとすれば、もう一方に背後から攻撃されて御陀仏になるのは目に見えている。
やはり今回も、逃げるが勝ちだ!!
だが、それがわかってはいても、俺の脚はなかなか動こうとしなかった。
と、いうより、肝心の命令を出す頭が、どちらに走り出すか決めかねていたのだ。
無防備に突進していけば、あいつらの思う壺だ。
しかし、だからといってこのままおろおろしているだけでは、確実に死が訪れる!
どっちかを決めろ! そして、可能性に賭けるんだ!!
しかし、それでなくても混乱している頭に、それを決定するだけの能力は、もはや残ってはいなかった。
そうこうしているうちにも、栞と魔が間合いを詰めてくる。今すぐにも決断しなければならない!!
「く、くそぉ……こうなったら!!」
俺は意を決した。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺は雄たけびを上げながら猛烈な勢いで走り出した。
どちらに走りだしたのか? それは俺にもわからない。
こうなったら、どっちに向かっても一緒だ……そう考えた俺は、目をつぶってとにかく走りだしたのだ。
俺は自らの命を、運命に委ねることにした!
ゴチン!!
「かはぁ……」
だが……まだ何歩も走らないうちに、俺は額に強烈な衝撃を受けた。そして、後向きに倒れる。
また「ゴチン」と音がして、後頭部に激痛が走った。
その直後、倒れた俺の真上を、何かが猛烈な勢いで通り過ぎていった。
バシッ!!
朦朧とした意識の中で、俺はその光景を見ていた。
栞が、まるで水面を跳ねる小石のように、廊下をバウンドしながら後方に転がっていった。
まるで糸の切れた操り人形を、思いっきり投げつけたかのような……そんな感じだった。
どうやら栞は、今さっき俺の上を通り過ぎた『何か』の直撃を受けて、吹き飛んだようだった。
俺は廊下に倒れたまま、ぴくりとも動かない栞の身体を朦朧とした意識の中で見ていた。
すると、またもや俺の上を何かが通り過ぎていったのだ。
なにか、もやもやとした、黒い影のようなモノだった。
今度のは、ゆっくりと俺の上を通り過ぎ、吹き飛ばされた栞の方へと近づいていった……
ようやく頭が正常に回転し始め、俺は上体を起こした。
額と後頭部が猛烈に痛む。
だが、どうやら俺は助かったようだった。
あの時……目をつぶって走り出した俺は、全然検討外れな方向に走ってしまったようだった。
いきなり俺は、校舎の壁に向かって走りだしてしまったのだ!
それで勢いよく壁とぶつかって、廊下に倒れるはめになったのだ。
だが、それが幸いした。
最初、俺の上を猛烈な勢いで通り過ぎていったのは、恐らく魔が発した衝撃波だったのだろう。
もし俺があそこで倒れていなければ、どっちに走っていようが、俺があの衝撃波を喰らっていたのは間違い無い。
しかし、俺が避けてしまったために、代わりに栞が吹き飛ばされたというわけだ。
水瀬家で真琴が現れた時といい、どうやら俺は、悪運だけは強いようだった。
ドゴォーン!!
突然、廊下の先から衝撃音が聞こえてきた。
見ると、栞の身体が壁に思いきり叩きつけられているところだった。
ドゴォーン!! ドゴォーン!!
それも、しつこく、何回も……
栞は、魔にいいように弄ばれていた。
「……ははは……ざまあみろ」
俺は立ち上がりざま、そうつぶやいた。
栞を助ける気など、これっぽっちも湧かなかった。
当然の報いだとすら思った。
俺はいつまでもその光景に見入っていたかったが、舞の後を追って上にあがることにした。
栞が死んでしまったら、魔が再び俺を襲ってくるかもしれなかったからだ。
・・・
三階で、俺は舞の姿を見つけた。剣を片手にとぼとぼと歩いてくるところだった。
「……逃げられた」
あいかわらずの無表情で、舞はそう言った。
「まあ、そんなに気を落とすなよ」
俺は陽気に励ましの言葉をかける。舞は、怪訝そうに俺の顔を見ていた。
「ああ、俺の方のも逃げちまったぜ。今日はツイてなかったと思って諦めようや」
舞はまだ訝しげであったが、コクンと頷いた。
俺はしばらく舞をここに足止めしておくつもりだった。
今、舞に下に行かれるとまずいから……
この際、栞には死んでもらおうと思った。
魔に殺されてしまったのなら、それはもう事故としかいいようがない。誰にもその死の責任を追及することができないのだから。
それに、ほっといてもヤツは数日後には死んでしまうのだ。ちょいとばかり命日が早くなるだけのことだ。
たったそれだけのことで、俺の精神は安らぎを得られるのだ。これが俺以外の誰かであっても、同じように考えたに違いない。
「まあ、魔もいなくなったことだし、もう少しゆっくりしていこうぜ」
俺はそう言って壁にもたれかかると、くつろぎ始めた。後、最低10分は時間を稼ぐつもりだった。
それだけあれば、栞なら最低30回は死ねるだろう。
念には念を入れといた方がいい。
「なあ、舞も剣を置けよ」
舞はしばらく考えた後、コクンと頷いた。
これで何もかも終わった……
また明日から、ありふれた日常に戻ることができるのだ。
栞の通夜には、香典を奮発してやろうと思った。
一時的にとは言え、仮にも恋人だったからな……それぐらいしてやってもいいだろう。
命を狙われた相手にもその配慮……俺って、なんて心の広いヤツなんだろう。
「……うくっ!!」
俺がそんな取り止めのない妄想に浸っていると、突然、舞が呻いて廊下に膝をついた。
「お、おい、どうしたんだ、舞!?」
慌てて駆け寄る。舞は、右手で左腕を押さえながら苦しんでいた。
「どうした? 痛いのか!」
「……動かない」
「え?」
どうやら、左腕が動かないと言っているらしかった。
「大変だ! すぐに病院に……」
「そんなはずはないのに……」
舞のこんな顔を見るのは初めてだった。
こんなに、焦燥しきった舞を見るのは、初めてのことだった!
チキチキ
その瞬間……俺の背筋に、電気のようなものが走った……
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
お、おい……落ち着け……今のは幻聴だ……
一瞬、あの「チキチキ」という音が聞こえたような気がした。
だが、そんなはずはないのだ。
栞は魔にやられて、今頃は虫の息……いや、死んでいるはずなのだから……
チキチキ
……ま、また幻聴だ……そうだ……そうに違いない!!
「ま、まいったなぁー 俺、耳がおかしくなって……」
「……来る!」
舞はそう叫ぶと、素早く立ち上がって、右手だけで剣を構えた。
「お、おい、舞……」
チキチキ、チキチキ……
もはや、幻聴とは思えなかった……
静まりかえった校舎を、「チキチキ」という音が埋め尽くそうとしていた。
チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ
「……う、嘘だろ……」
そんなバカな話はない! 栞は……ボロ雑巾のようになっていたんだぞ!!
チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ、チキチキ
頭がどうにかなってしまいそうだった。
まさか、死んだ栞が、悪霊となって俺を襲おうとでもしているのか!?
チキチキ、チキ……
不意に、「チキチキ」という音が止んだ。
再び、校舎内に静寂が訪れる。
「……祐一、下がって」
舞が前を見据えたまま、そう言った。
俺は促されるまま、舞の背後へと下がった。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
どれだけの時間が過ぎ去ったのだろう……
ほんの十秒ぐらいだっただろうか……いや、一時間ぐらい経ったようにも感じられる。
舞が剣を向けているその先、階段の方で何かの影が揺らめいた。
俺は呼吸することも忘れ、その一点を食い入るように見つめる。
やがて、窓から差し込む月明かりに照らされて、小柄な人影が廊下に姿を現した。
「し……しおり……」
その姿を見て、俺は息を呑んだ……
栞の額からは、赤い血が、止めど無く流れ落ちていた。その血が、雫となって、ポタ、ポタと廊下に落ちていた。
誕生日に姉から贈られたと言っていたストールは、無残な姿をさらしていた。
それはすでにストールなどと上品に呼べるものではなく、単なるボロ布でしかなかった。
そして、右手に握られたカッターの刃が、月明かりを受けて、青く光っていた……
その姿はまさに、地獄の底から這い上がってきた亡者としか言いようのないものだった。
「祐一さん、知ってましたか……」
ゆっくりと、栞は口を開いた。
「オバケって……カッターで切れちゃうんですよ」
栞が何のことを言っているのか、すぐに分かった。とても受け入れ難いことだったが……
栞がここに居るということは……ヤツは、魔を倒してきたというのか!?
「……おかげで、刃こぼれしちゃいましたー」
栞は、チキチキ、チキチキと、カッターの刃を出し入れしながらそう言った。
到底信じられないことだった。だって、舞ですら苦戦する相手なんだぞ!
それを、カッター一本で倒した!?
そんなはずはない……そんなこと、信じろという方が無理だ!!
……そうか、魔が逃げたんだ。
もう一体が舞に追われて逃げ出したから、栞をいたぶっていた方のヤツも逃げたに違いない。
そうに違いなかった。いくらなんでも、栞が魔を倒せるはずがないのだから。
「おい、栞。謝るなら今のうちだからな」
俺は強気な口調でそう切り出した。この状況で、栞が俺に手出し出来るはずがないのだから、当然だ。
「今謝れば救急車を呼んでやる。そうすれば苦しむことなくあの世にいけるんだ……悪い話じゃないと思うぜ」
「そういうこと言う人、嫌いだと言ったはずです」
栞は俺を睨みつけてきた。その視線に、俺は圧倒されそうになる。
「あなたが死ぬまで……私も死にません!!」
すさまじい殺気だった。その殺気だけで、人を殺せるのではないかと思うほど、強烈なものだった。
「う、うひぃ!」
俺は、さっきまでの強気な態度もどこへやら。思わず後ずさっていた。
それとは対照に、栞は一歩前に踏み出す。
だが、すかさず俺と栞の間に舞が入りこんできた。
舞の剣先は、まっすぐ栞へと伸びていた。
「私の邪魔をするんですね?」
しばしの間。
舞は、答えなかった。
「……なら、仕方ありませんね」
そう言って、栞はおもむろに奥歯でカッターの刃を咥えた。
パキン、パキンッ
……そして、刃を折りはじめる。
その後、チキチキとカッターの刃を送り出し、新たに現れた刃を仔細に眺めていた。
栞は、ニヤリと笑った。
どうやら、新しくなった刃に満足したようだった。
本気だ……
栞のやつ、本気で舞と殺りあうつもりだ!!
とても正気とは思えなかった。栞が舞に勝つことなど、万が一にもありえないことだ!!
栞は、もう少し利口なヤツだと思っていたのに……まさか、これほどの実力差にも気付かない程の間抜けだったというのか!?
よく考えてもみろよ、まず体格からして全然違うじゃないか!
舞は女の子の中では背が高い方だ。それに、その身体はかなり鍛え上げられている。
一方の栞は、小学生でも通用するぐらいの背丈だ。
しかも、死を目前にした重病人な上に、さっき身体中を滅多打ちにされて血をだらだら流している。
もっとも、舞の方も左腕が使えないのだが、あいつはどんぶり片手に魔物と戦えるようなヤツだ。
そんなものはハンデにすらならない!
それから、武器が全然違う!
舞が持っているのは、真剣だ。人を斬るために作られた、純然たる武器だ。
それに引き換え……栞が持っているのは、コンビニでも売っているような事務用のカッターナイフだ。
主に、紙を切ったりする用途で作られた道具だ。おおよそ、武器と呼べる代物ではない。
他にも言い出したらキリがなかった。
二人の実力差は、運や偶然で容易に埋められるほど、浅いものでないことだけは確かだ!
「舞、手加減を忘れるなよ」
俺は別に栞の身を案じてそう言ったわけではなかった。
いくらなんでも、舞を殺人者にするわけにはいかない。舞が手加減なしで立ち向かえば、栞は簡単に死んでしまうだろうから……
しかし、舞は俺の忠告に返事を返さなかった。
舞が無口なのはいつものことだが、頷くくらいしてもいいだろうと思う。
「おい舞、聞いて……」
もう一度、舞に呼びかける。だが、俺はそこで言葉を止めた。
舞は返事を返さなかったのではなく、返せなかったということが分かったから……
舞は……ゆっくりと後に下がっていた。剣を構えたまま、後ずさっていたのだ!
それは到底信じられない光景だった。
舞ほどの剣の達人が、気圧されている!?
舞の額からは、汗が伝い落ちていた。
恐らく氷点下にまで冷え込んでいるであろう、夜の学校の中でだ!
そして、構えた剣の切っ先は、かすかに震えていた……
俺は舞が戦うところを何度も見てきたが、こんなことは初めてだった!
『私は魔を狩るものだから』
舞は、かつて俺にそう言ったことがある。
だが、今の舞は『狩る者』の立場にいるようには見えなかった。
狩られる側の恐怖……今の舞は、俺と同じものを感じているのではないか……そう思わずにはいられなかった。
しかし、いったい舞は、栞の何に怯えているというんだ?
普通に渡り合えば、舞が栞なんかに負けるはずはないというのに……
だが、これだけは言える。
今の舞には、手加減して攻撃できるような心のゆとりがあるとは思えなかった。
まもなく俺は、惨劇を目の当たりにすることになるだろう……
心臓を貫かれるか……それとも、首が飛ぶか……栞が、無残な姿で息絶えることになるのは確実だった。
時だけが虚しく過ぎてゆく……
二人は対峙したまま、一向に動こうとはしなかった。
複雑な気分だった……
舞に、栞を殺めてほしくないという気持ちがあった。
舞は心根のやさしい女の子だ。栞を殺してしまえば、一生そのことを後悔し、苦しむことになるだろう……
できれば、今すぐ剣を収めてほしかった。
だが、そう思う一方で、一秒でも早く栞から開放されたいと願う心があった。
その心は、舞の剣が栞の身体に吸いこまれ、栞が息絶えるその瞬間を、切実に求めていたのだ。
二人の睨み合いは続いていた。
どちらも、責めあぐねているようだった。
この状態が、永遠に続くのではないかとすら思えた。
だが……永遠に続くものなどこの世には存在しないというのが道理だ。
それは、何の前触れもなく訪れた。
二人の均衡を打ち破る、その瞬間が!!
動いたのは、舞の方だった。
身をかがめて走り出したかと思うと、直後、その姿が消えた!
……いや、消えたように見えた。その身体は超人的な跳躍力でもって、今は宙を舞っていた!
「と、跳んだ!?」
恐らく、栞には舞が消えたようにしか見えなかっただろう。後から見ている俺だからこそ、その動作を追うことができたのだ!
殺れる!!
俺はそう確信した。
案の定、栞は舞の動きに反応できていない。
今から動いたとしても遅過ぎる……舞の剣は、確実に栞を捕らえるだろう!!
「!? ぐあっ!!」
その瞬間、一体何が起こったのか、俺には全くわからなかった……
どういうわけか、舞は栞の眼前に着地したと同時に、顔面を押さえて苦しみ始めたのだ。
カラーン……
舞の手から離れた剣が、廊下に落ちて転がる。
「……ど、どうなってるんだ!?」
全くわからなかった。栞は、あの位置から一歩も動いていないのだ。
あのままいけば、舞の剣は栞の肩口にでも斬り込んでいただろう!
だが、実際は、そうはならなかった。
「うっ、うあっ!!」
舞はがっくりと膝をつき、苦しんでいる。その苦しみ方は、尋常ではなかった。
それを見下ろすかのように、栞は悠然と立っていた。
栞が何かしたのは間違いなかった……だが、いったい何を!?
栞は笑っていた。
笑って、俺の目を見ていた。
そして、ゆっくりと口を開け、そこから思いきり舌を突き出してくる。
その舌の上には……何か光る物体が乗っていた。
月明かりを受けてその物体は、鈍く、光っていた……
「……は、はは、刃ぁ!?」
栞の舌に乗っている物体……それは……折る刃式カッターナイフの、刃の1ブロック分だった!!
闘う前、栞が奥歯で折ったカッターの刃……それを、栞は口に含ませていたのだ!
もちろん、その用途は目潰し!!
栞は、最初から目潰しをする為に、カッターの刃を折っていたんだ!!
「うああああ!!」
舞は、廊下に這いつくばって悶え苦しんでいた。
まさか……そんな……
あの舞が、こんな姑息な手段でやられるなんて!!
……!? いや、舞はまだ諦めていない!!
俺は、舞の右手が、ゆっくりと剣の柄に伸びてるのを見逃さなかった!
栞はまだニタニタと、俺に笑いかけている。
すっかり、油断している!!
よし!!
いけ、舞!!
今がチャンスだぁ!!
ドンッ!! ボキボキッ!!
「はぁあああああああああああああああっ!!」
舞が絶叫する。
俺の期待は、絶望に取って代わられた……
舞の手が剣を掴むその直前……栞の足が、その手の上に思いきり踏み降ろされていた!
指の骨が砕ける音が、はっきりと聞こえた。
栞は、舞の行動など、すっかりお見通しだったのだ!
この時点で、もはや舞に反撃する能力など残っていなかった。
片目を潰され、両手とも使えなくなってしまったのだ。
もうこれ以上、どうすることもできなかった……
だが、栞はそれで終わらせるつもりはないようだった。
ストールを舞の頭からすっぽり被せると、廊下に這いつくばったままの舞の身体を、ところ構わず蹴りだしたのだ!
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
舞は、自分の身を守ることもできず、栞の為すがままになっていた。
「へあっ、へあっ、へあっ、へあっ、へあっ、へあっ!!」
栞は容赦なかった。独特の掛け声と共に、ひたすら舞を蹴り続ける。
その光景は、道端に転がったゴミ袋を、子供が遊び半分に蹴っているかのようであった。
「しょ、しょんな……」
俺は呆然として、その残虐行為をただ見ているだけだった……
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
やがて……ストールに、黒っぽいシミが広がりだす。
そのシミは、明るいところで見ていたなら、きっと赤く見えていたことだろう……
負けた……
舞が……負けた!!
ど、どうすればいいんだ……
このままじゃ、本当に舞が殺されてしまう……
助けなければ……舞を助けなければ……
今すぐ、舞を助けるんだ!!
だが……その意思に反して、身体が勝手に後に下がっていく……
また俺は、逃げようとしている?
だって、そうじゃないか……
舞を倒すようなヤツに……素手で立ち向かえるはずがないじゃないか……
俺は……死にたくない
まだ、死にたくないんだ!!
のこのこ舞を助けにいったら、俺まで殺されるじゃないか!!
いやだ……そんなの嫌だ!!
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
栞は舞をいたぶるのに夢中になっている。今なら、気付かれずに逃げ出すことが出来る……
……そうだ……舞の犠牲を無駄にしちゃいけないんだ。
舞だって、俺に逃げてくれと思っているに違いない!
マンガなら、これはそういうシーンだ!!
これは俺の勝手な解釈じゃない。誰に聞いても、そう答えるはずだ!!
なら、今逃げるのは当然のことじゃないか!!
くるりと振り向いて、音を立てないように慎重に足を運ぶ。
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
……まだ大丈夫……まだ、舞ががんばってくれている……
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
廊下の突き当たりまで行けば、階段がある……あと、もう少しだ……
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
もう少し……もう少し……
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
もう少し……
「へあっ、へあっ、へあっ!!」
突き当たりに……来た。あとは階段に向かって……ダッシュ!!
「へあっ!!」
ガツン!!
走り出そうとした矢先、俺の鼻っ面をかすめて、何かが壁に突き刺さった。
それは、俺の進行方向をふさぐようなかたちで、すぐ目の前に刺さっていた。
壁に突き刺さったもの……それは……舞の剣だった。
重さ数キロはあるその鋼の塊が、コンクリート製の校舎の壁に垂直に突き刺さっていた……
「う、うわぁああああああああああああああああああああっ!!」
俺は絶叫した。剣と、俺の鼻の先とは、何センチも離れていなかった。
「祐一さん……」
廊下の向こうに、栞の姿があった。
その傍らには、ピクリとも動かない舞の身体が横たわっている……
「祐一さん、知ってますかぁ?」
栞はゆっくりとこっちに歩きながら話し続けた。
「絶望は、『死に至る病』なんですよー」
「は、はぁああああ……」
「……だから絶望してください、祐一さん。私と、同じ苦しみを共有してください!」
「い、いやだあ……」
「恋人なら、当然ですよね!!」
栞は、カッターナイフを斜に構えて、猛烈な勢いで突進してきた。
「嫌だぁあああああああああああっ!!」
俺は悲鳴を上げながら階段へと走り出した。
ガンッ!!
当然の結果として、顔面を剣の柄に思いきりぶつけることとなった。
その衝撃で、上体が思いきり後方に仰け反って転倒する。
だが、俺は立ち上がりはせず、倒れたまま体を転がして、階段まで移動した。
そして、そのまま階段を転がり落ちていった。
ごろごろごろごろごろごろごろーーっ!! ドスンッ!!
階段の踊り場まで転がっていった。身体中がめちゃくちゃ痛かった。
だが、こんなところで痛みに呻いている暇はない。
栞は、すぐ背後まで迫っているはずだ!!
すぐに立ち上がって、四段とばしぐらいで一気に階段を駆け降りていった。
驚異的なハイペースで一階まで降り、次に昇降口を目指す。
今回もとにかく走り続けた。
校門を抜けて、街中を疾走した。
栞の体力では、そう長くは俺を追いかけてはこれない。
だが、振り向けばすぐ背後に栞がいるのではないかと不安になり、足を止めることができなかった。
俺は走りながら涙を流していた……
恐かったからではない。
痛かったからでもない。
舞を見殺しにしようとした自分が、情けなくて泣いていた……
いくら屁理屈を並べ立てて自らの行為を正当化しようとしても、心の奥では、そんなものに何の意味もないということがよく分かっていたのだ。
「すまない、舞……」
泣きながら、そう呟いた。
でも、走るのは止めなかった。
俺は、逃げてばかりの卑怯者だ……
・・・
気がつくと、俺は林の中に居た。
また無我夢中で走ってきたらしい。どういう道を通ってこんなところに来たのかは、全く覚えていなかった。
そこは不思議な場所だった……まわりをぐるりと木々が取り囲んでいるというのに、月の光が地面にまで差しこんでいた。
ここだけ木が生えていない、ちょっとした空間になっているようだった。
その空間の真ん中に、大きな木の切り株があった。その上に寝転がれるほどの、巨大なものだった。
どうしてこんなところに辿りついたのかさっぱり分からなかった。
こんなところ、一度も来たことがないというのに……
だが、その疑問はしばらく脇に置いておくことにした。
それよりも、栞だ!
栞がここまで追いかけてくるかもしれない。
だとすれば、今すぐここから逃げ出さなければ!
だが、いったいどこへ!?
「祐一君……」
ドクンッ!!
俺は、素早く振り向いた。
「……あゆ」
振り向いた先には……あゆが立っていた。
「おまえ、なんでこんなところに……」
夜中だというのに、なぜあゆがこんな場所にいるのか、俺は不思議に思った。
「ここは二人だけの場所だよ……」
あゆは、俺の問い掛けが聞こえなかったかのように話し始める。
「ボクと祐一君、二人だけの……」
「お、おい……」
「ボク達だけの場所なんだよ……」
あゆが一体何を言いたいのか、さっぱり分からなかった。
「ちょっと待てよ、どういうことだよ、あゆ!」
俺はあゆの肩を掴もうとする。
だが……俺の手があゆに触れる瞬間、突然その姿が掻き消えた。
俺の手は虚しく空を掻き、バランスを崩してその場に転んでしまった……
……と、そこで目が覚めた。
目を開けると、やさしく光が差しこんでくる。
俺は重い頭を起こして、辺りを見まわした。
ちょうど日が昇ろうとしているところだった。地面に積もった雪が、朝日に照らされて輝いていた。
どうやら走り疲れて、いつの間にか寝こんでしまったようだった。
大きな切り株の上に突っ伏すような体勢で、俺は眠っていたのだ。
この切り株のことは覚えていた。
昨日、学校から逃げてきて、ここに迷い込んできたんだ。
そしてその後……俺はあゆに会ったような気がする。
『ボク達だけの場所なんだよ』
だが、その言葉以外には、何も覚えていなかった。
夢……?
「……俺は夢をみていたのか?」
次回につづく
保守 保守 保守
今すごい怖いテレビやってる
コピペスレでつか
どうも考え方が共産主義っぽい
期待保守 面白い!
前スレってどこ?最初から読みたい
134 :
名無しさん?:03/04/23 00:43 ID:2a+p91/V
保守
保守って見る
・x・)っ
1月28日 午後12時30分
腹が減って死にそうだった。
もう、まる一日以上何も食べていないのだから当然だ。
俺は朝目を覚ましてから、ずっと切り株に腰を下ろたままうな垂れていた。
舞のことが気になって仕方がなかった。
廊下に横たわって、ぴくりとも動かない舞の身体……そのイメージが頭にこびりついて離れようとはしなかった。
あの後、舞はどうなったのだろうか……
生きているのか……
それとも……
気になって仕方がなかった。
だが、舞のことが気にはなっていても、俺はここに腰かけて、何をするでもなくうな垂れているだけだった。
精神的、肉体的に疲れ果てていたということもある。
だがそれ以上に、ここを出ていくことが恐かった……
ここは不思議な場所だった。
初めて来た場所だというのに、なぜか懐かしい感じがする
『ボク達だけの場所なんだよ』
夢で、あゆが言っていた言葉が思い出される。
夢の中の言葉を信じるわけではなかったが、なぜか俺は、ここには栞はやってこないという確信を持っていた。
なぜ確信を持ってそう思えるのかは、俺自身、よくわからないのだが……
ただ、これだけは言えるだろう。
ここは今の俺にとって、唯一のサンクチュアリ(聖域)なのだ。
ここに居れば安全だ。
だが、ここから一歩でも外に踏み出せば……俺の命を狙う魍魎の闊歩する世界なのだ。
しかし、いつまでもここに居る訳にもいかなかった。
例え栞がここにはこなかったとしても、このままでは遠からず俺は死んでしまうだろう。
昨日の晩、凍死しなかったのはまさに奇跡としか言いようがない。
一晩中、こんな吹きさらしのところで寝こんでいたのだ。普通なら死んでいてもおかしくないのだ。
もし、昨日の晩吹雪いていたら……と思ってぞっとする。恐らく、今頃は雪に埋もれて冷たくなっていただろう。
昨日は本当に運が良かった。だが、それがいつまでも続くと思うのは、あまりにも楽天的だ。
ここに隠れていれば、栞の魔の手から逃れることはできるだろう。
まさかヤツも、こんな林の中に俺が逃げこんでいるとは思わないはずだ。
だが、次の夜も無事に乗り切れるという保証はどこにもない。
少なくとも、食べ物がなければ体力を維持できない。何か食べなければ、本当に死んでしまう。
今の状態は、実質的に雪山で遭難しているのと何ら変わりはないのだから……
やはり、ここを出ていくしかないだろう。
だが、どこへ行けばよいのか?
水瀬家はだめだ。
あそこは、最も避けなければならない超危険地帯だ。
あの家に俺が戻ってくるだろうということぐらい、誰でも容易に推測できる。栞が、水瀬家を警戒していないわけがない!
そう考えると、学校にも近づけない。あそこも危険地帯だ。
まだこの街に馴染んでいない俺が行くところなど、簡単に絞り込めてしまう。
家か学校か……そのどちらかを張っていれば、そのうち俺が音をあげて姿を現すのは目に見えている。
なら、この街を出ていくというのはどうか?
駅から電車に乗れば、栞の手が届かない安全な場所まで逃げられるはずだ。
一旦街を出てしまえば、体力的にも、時間的にも、栞が俺を捜し出すことはほぼ不可能になるだろう。
だが……そのことを栞が考えていないはずがない。
ヤツが駅で待伏せしている可能性は十分考えられる。
駅も、危険地帯だ……
警察に助けを求めるという手もあるが、これは賭けになるだろう。
余命幾ばくもない重病人の女の子が、強暴な殺人鬼となって襲ってくる……なんて話を警察が信じてくれるかどうか、はなはだ疑わしい。
もし、俺が悪ふざけしていると誤解されれば、きっと水瀬家に連絡されるに決まっている。いや、もしかしたら美坂家にも連絡がいくかもしれない。
そうなれば、栞に自分の居場所を教えてやっているようなものだ。
警察を追い出されたら、すかさず栞が襲ってくるだろう……
これは我慢くらべだ。
栞が死ぬのが先か、それとも俺が音をあげるのが先か……
だとすれば、俺の取る行動はただ一つ。
ひたすら耐えるのだ!
ここに隠れてさえいれば、大丈夫だ。ほんの数日我慢すれば、栞の方が勝手に死んでくれる。
それに俺はもう、逃げ出すのが嫌だった。
いや、誰かを見捨てて逃げることが、嫌だった……
ここに一人で篭っていれば、誰かを巻き添えにすることもないのだ。
だが、そのためには食料をなんとしても手に入れなければならない。
俺は学校の制服のポケットから財布を取り出した。
中を見てみると、千円札が三枚と、小銭が数枚入っていた。
質を問題にしなければ、それなりの量の食料を買うことができるはずだった。
俺は意を決して立ちあがった。
商店街に行って、食料を調達する。そして、またここに戻ってくるのだ。
舞のその後のことは気になるが、のこのこ学校に顔を出すわけにはいかない。
食料を調達するついでに情報が手に入ることを祈るしかないだろう……
・・・
林の中を歩き続けて一時間ほどしただろうか……
俺はまだ木々の間を歩いていた。
昨日の晩、切り株のあるあの場所に来たときには、そんなに時間はかからなかったと思う。
恐らく、道に迷ってしまったのだ。
俺はだんだん焦ってきた。まさか本当にこんなところで遭難するんじゃないだろうな……
だが幸いにも、その不安は長くは続かなかった。
やがて木々が途切れると、開けた場所に出たのだ。
そこはとても広い場所だった。しかも……よく知っている場所だった。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
最後にここを訪れた時には栞と一緒だった。
確か、あの噴水の淵に二人で腰掛けてて……
『私のお気に入りの場所です』
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
俺の生存本能がしきりに危険信号を出していた。
ここは……そう、栞とデートした公園だ!!
超危険地帯だった!!
俺は回れ右をして、慌てて林の中に引き返そうとした。
こんなところをうろうろしていたら、いつ栞がやってくるかもしれない!
だが……その時、俺は一つの人影を見つけた。
誰もいないと思っていた公園に、一人だけ、人がいたのだ。
噴水の脇にある時計を見上げて、一人佇む少女の姿……
彼女ははこちらに背中を向けていたが、俺はそれが誰なのかすぐにわかった。
「美坂……香里!!」
腰にまで届く、ウェーブのかかった長い髪……
間違いなかった。栞の姉、香里だ!!
気が付いたら、俺は香里に向かって歩き出していた。
すぐにここを離れなければならないと分かっていたが、燃えるような怒りが俺を突き動かしていた。
忘れるものか……あいつは……香里は、俺を見捨てて逃げやがったのだ!!
あいつがしっかり栞の面倒をみてれば、俺がこんな目にあうこともなかったんだ!!
俺は香里のすぐ後にまで近づいた。
香里はあいかわらず時計を見上げていて、俺がすぐ後に居ることになど気付いていないようだった。
「よお、こんなところで何してるんだ、香里」
俺は感情を押さえて、ゆっくりとそう言った。
背中ごしにも、香里の焦り様は手に取るようにわかった。びくっ、と身体を振るわせた後、恐る恐るこちらを振り向く。
「あ、相沢……くん……」
まるで幽霊を見るかのような表情で、香里は俺の顔を見つめていた。
しばしの沈黙が流れた。
冷たい風が、二人だけしか居ない公園を吹き抜けていく。
やがて、沈黙に耐えかねたのか、香里が口を開いた。
「ひ、ひさしぶりね……げ、元気だった?」
「元気なわけないだろ……」
俺はぼそりとそう言う。
「ああっ、そ、そう!……じゃあ、あたし用事があるからこれで……」
「おい……ふざけてんじゃねえぞてめぇっ!!」
俺は立ち去ろうとする香里の肩を荒々しく掴んで引き戻した。
「きゃっ!!」
「お、おまえの妹のせいでな、俺は死にかけたんだぞ!! わかってんのかおらぁあっ!!」
「い、いやっ! や、やめて……」
「おまえ、栞の姉貴だろうが! なんとかしろ! なんとかしろよぉ!!」
俺は香里の両肩を掴んで、その眼前で怒鳴り続ける。
「なんとかしろって言ってんだろ!!」
「……放してよ」
「な、なにぃ!?」
突然、それまで怯えきっていた香里の目が、鋭く俺を睨みつけてくる。
そして、肩を掴んでいた俺の手を、力まかせに払いのけた。
「相沢君……あなた、栞のこと好きだって言ったわよね」
「な、なんのことだよ!」
「4、5日前、あたしが電話で学校に呼び出したでしょ。あの時、確かにあなたは栞のことを好きだって言ったわ」
……そう、確かに俺は、香里に電話で呼び出されて夜の学校に行った。
『相沢君、あたしに言ったよね……あの子のこと、好きだって』
香里のその問いに、俺は確かに「ああ」と返事を返した気がする。
もうずっと、昔の出来事のようだ……
「そ、それがどうした!」
「あなた、栞の恋人になったんでしょ?……あの子、ずいぶんうれしそうだったわ」
「そ、それとこれとなんの関係があるんだよっ!」
「恋人なら責任を持ちなさいよね。責任を持って、あの子のことなんとかしなさいよ!!」
さっきまでのおどおどした香里はもうどこにも居なかった。
逆に、香里の方が俺に詰め寄ってくる。
「そ、それは……あいつがあんな女だって知ってたら、俺だって恋人なんかには……」
「あなたって、最低の男ね」
「ううっ……だ、第一、おまえ栞があんなだってこと、俺に隠してただろ!!」
「何言ってんのよ。あたしには、妹なんかいないって、そう言ったはずよ。あなたが勝手に自分で自分の首を締めてただけじゃない」
何も言い返せなかった。
自ら墓穴を掘っていたことは、改めて香里に言われるまでもなく、わかっていたことだったから……
「それより……いいの?」
香里が落ち着き払ってそう言った。
「な、なにがだよ?」
「こんなところをうろうろしてたら……来るわよ、栞が」
ドクンッ!!
そうだった……すっかり忘れていた……
俺は今、非常に危険な立場にあったのだ!!
恐る恐る辺りを見回してみたが、幸いにも公園には俺達二人以外には、誰も居なかった。
栞が、近づいてきている気配はなかった。
こんなところで香里と言い争っている場合ではない。
いくら香里を責めてみたところで、現状を変えることはできないのだ。
いくら香里でも、今の栞を止めることなど、できっこないだろうから……
それよりも、今は一刻も早く食料を調達して、安全地帯にまで戻らなければならないのだ。
「く、くそ……お、おぼえてろよっ!!」
俺はそう捨てゼリフを吐いて、逃げ出した。
なんだか無性に腹立たしかった。なんで俺だけこんな目にあわなきゃならないんだ……
あまりにも理不尽すぎる! どうして俺だけが……
……いや、俺だけか?
香里だって、栞には酷い目にあってたんじゃないのか?
教室に栞が現れた時の香里の狼狽ぶり……あれは異常だった。
香里も、栞に相当な恐怖を抱いているはずだ。
じゃあ、どうして……
どうして香里は、あんな危ないところに一人で突っ立っていたんだ?
次回につづく・・・
147 :
名無しさん?:03/04/23 22:24 ID:2a+p91/V
神キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
このコピペ元ってどこ?
149 :
名無しさん?:03/04/24 09:57 ID:SdzEWryl
神保守
川*・-・)
保守ってみる
152 :
ウサギ帝国 ◆F3Sp/O2hU. :03/04/24 22:38 ID:CE8j8dFT
楽しく読めました。
1月28日 午後3時20分
両手に、食料を詰め込んだビニール袋を抱えて、俺は商店街の通りを油断なく窺っていた。
安全を確認すると、俺はこそこそと隠れるようにしながら歩き出す。
全財産をはたいて食料を買うことには成功したが、ここからが重要なのだ。
食料は、質より量を求めて買いこんだので、かなりかさばる荷物となっていた。
もし栞に襲われても、これを捨てて逃げるわけにはいかない。この大量の食料を抱えたまま逃げなければならないのだ。
しばらく歩いてから、おもむろに路地に隠れて辺りを窺う……これを繰り返しながら移動していった。
栞は一人だ。
水瀬家と学校、その他の場所を同時に監視できるわけではない。今頃は危険地帯のどこか1ヶ所に狙いをつけて張込んでいるに違いなかった。
商店街にやってくる確立はゼロとは言わないが、可能性としてはかなり低いだろう。
だが、油断は禁物だ。あいつには常識はあてはまらない。
病人だとか、女の子だとか考えて見くびっていると、命を落とすことになる。
あいつは病人でも女の子でもない……バケモノなのだ!!
そう考えておかなければならないだろう。
そうやって商店街を半分ほど移動してきたが、栞が襲ってくることはなかった。
俺は薬局の横の路地に姿を隠して、一息いれることにした。
油断は禁物だが休憩は必要だ。こう、気を張り詰めたままでは身体がもたない。
一旦安全地帯に逃げこんでしまえば、栞とて容易に俺を見つけることはできないだろう。
なにせあの場所は、俺自身、昨日までは全然知らない場所だったのだ。栞に見当がつけられるはずがない。
あそこまで戻れれば安全だった。あそこに戻れれば……
「祐一さん」
ドクンッ!!
俺は、自分の迂闊さを呪った……
その声は背後から聞こえてきた。路地の奥の方からだ。
まさか……こんなところで栞が待伏せしていたとは!!
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
だめだ、このまま商店街の通りへと走りだせば、背後から……カッターが飛んでくる!!
だが、両サイドは建物の壁。逃げ道がない!!
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
こうなったら、一か八かやってみるしかない!
だめでもともと、やらなきゃ死があるのみ!!
「うおりゃぁあああああっ!!」
俺は振り向きざま、手に持っていたビニール袋をヤツに投げつけた。
こうなったら食料がどうのこうのとは言ってはいられない。今を生き延びることが先決だ!!
「ふぇ!?」
投げつけたビニール袋は、見事にヤツの顔面を直撃した!
ヤツは「ふぇ?」と間抜けな声を出して……
「……って、あれ?」
「ひどいですよ祐一さん……佐祐理が何かしましたか?」
赤くなった鼻の頭をさすりながらそう言ったのは……佐祐理さんだった。
「な、なんだ……佐祐理さんか……」
すでに走り出す体勢を取っていた俺は、緊張が途切れてその場に座りこんだ。
「驚かさないでくださいよ……」
「驚いたのは佐祐理の方ですよ」
少しむくれて、佐祐理さんがそう言う。
「声をかけたらいきなりビニール袋が飛んでくるんですから」
勘違いだったのはいいが、これだけで寿命が3年は縮んだ思いだった……
……だけど、昨日もこんなことしてなかったっけ?
「す、すみません……」
「あははーっ、いいですよ。佐祐理はもう気にしていませんから」
げっそりとした俺とは対象に、佐祐理さんは笑っていた。
その笑顔を見ていると、今の過酷な状況を忘れて、少しだけ気分が明るくなってくる。
「すみません佐祐理さん。俺てっきり……かと思って……」
「ほらほら、それよりこれを拾いましょう」
そう言って、佐祐理さんは散らばった食べ物を拾い始めた。
「あっ、そんな……俺がやりますよ!」
「いいです、いいです、佐祐理にまかせてください」
結局、二人で拾い集め、あっという間に散らばった食料は、もとの袋に収まることとなった。
「でも、すごくたくさん買ったんですね?」
ビニール袋を俺に手渡しながら、佐祐理さんはそう言った。
「いや、ははは、これにはいろいろと訳が……」
「ああっ、そうかぁ!」
「え?」
佐祐理さんは突然、素っ頓狂な声をあげる。
「祐一さんも舞のお見舞いに行くんですね?」
え?
舞……お見舞い?
じゃあ……舞は……まだ生きてる!!
「それだけたくさんお見舞い持っていってあげたら、舞もきっと喜びますよ」
「あ、あの……舞……入院して……」
「ふぇ? 祐一さん……もしかして知らなかったんですか?」
佐祐理さんは意外そうにそう尋ねてくる。
「い、いや、その……」
「昨日、学校で怪我したみたいなんですよ。佐祐理も詳しいことは知らないんですけど……」
俺は思わず泣きそうになるぐらいうれしかった。
舞は……生きていたんだ!!
だが、決して「無事」というわけではないだろう……
佐祐理さんは、舞の容態を知らないようだが、あの時の舞の状態からすると、恐らく……全治数ヶ月の重体に違いない。
舞が、本当はどんな状態なのか知ったら、佐祐理さんも「あははーっ」なんて笑ってはいられないだろう……
「前にもこんなことが何回かあったんですよ。舞って時々無茶をしますから」
「そ、そうですか……」
とても本当のことは言えなかった。佐祐理さんは、舞の怪我が大したものではないと信じて疑っていない。
舞があんな酷い怪我を負うことになったのは、俺に原因がある……
とても、俺の口から本当のことは言えなかった……
「あっ、そうだ! 祐一さんも一緒にお見舞いに行きませんか?」
「え?」
「舞もきっと喜びますよ」
ニッコリ笑って、佐祐理さんはそう誘ってくれた。
だが、とてもじゃないが、今の俺には舞にあわせる顔などなかった。なにせ俺は、栞に襲われている舞を見捨てて、逃げ出してしまったのだから……
それに、今は一刻も早く安全地帯に逃げ込まなければならないのだ。寄り道をしている暇など全くない。
「あ、あの、すみませんが俺……ちょっと用事があって……」
「……そうですか……じゃあ仕方ないですね」
佐祐理さんはちょっとがっかりしたようだったが、すぐに笑顔を俺に向けてくれた。
「祐一さんも心配してたって、ちゃんと舞に伝えておきますからね」
俺の心は、罪悪感で押しつぶされそうだった。その言葉を聞いたら、舞はどう思うだろうか?
俺なら猛烈に怒るだろう。さっき俺が香里に「元気だった?」と言われた時と、立場的には同じなのだから……
「祐一さん?」
「えっ!?」
気がついたら、佐祐理さんが俺の顔を覗きこんでいた。
きっと、俺は暗い顔をして俯いていたに違いない。
「大丈夫ですか? なんだか元気ないみたいです」
「そ、そんなことないですよ! はははは……」
俺は笑って誤魔化した。
俺の様子がおかしいことに、佐祐理さんは気づき始めているようだ。
なんとか話題を逸らさないと、このまま佐祐理さんに追求されたら、罪悪感に苛まれてつい本当のことをしゃべってしまいそうだった。
「いやぁ、はははは……そ、そのぬいぐるみ、すごく大きいですね?」
俺は、さっきから少し気になっていたことを口にした。
佐祐理さんは、背中に巨大なぬいぐるみを背負っていたのだ。
「あっ、これですか? 舞のお見舞いに持っていこうと思って、さっき近くのお店で買ったんですよ」
こんなばかデカいぬいぐるみ、どこの店で売ってたんだ? と思わずにいられないほど、そのぬいぐるみはデカかった。
しかも、妙に可愛くない。
「これ……なんのぬいぐるみですか?」
「お店のおじいさんの話だと、アリクイさんだってことですけど」
アリクイがどういう動物か、俺はよく知らなかった。だから、そのぬいぐるみが本当にアリクイを似せて作ってあるのかもよくわからない。
「本当は、明日の舞の誕生日に渡そうと思ってたんですよ。でも、舞もアリクイさんがいたら寂しくないと思って、早く渡すことにしたんです」
「そうですか……きっと舞も喜びますよ」
「祐一さんもそう思いますか?」
佐祐理さんはうれしそうにそう尋ねてくる。今の俺には、その笑顔が逆に辛かった。
佐祐理さんが笑えば笑うほど、俺を責めているみたいで、苦しかった。
「大きいし……一緒に寝れるぐらい大きいし……舞も喜びますよ……」
「そうですよねー。中に人が入れるぐらい大きいですからね」
「そうですね、はははは……」
「あははーっ、アリクイさんの中に佐祐理が入って、舞を脅かしちゃいましょうか?」
「そんなことしたら、ぬいぐるみが壊れちゃいますよ」
「そうですよねー。あははーっ」
「はははは……」
「あははーっ」
「はははは……」
「あははーっ」
「はははは……」
「あははーっ」
「はははは……はあ?」
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
突然、俺の生存本能が危険信号を発し出した……
心臓の鼓動がだんだんと早くなってくる。
あまりにもばかげた考えであったが、俺はなぜか、その考えを無視することができなかった……
『中に人が入れるぐらい大きいですからね』
あのアリクイのぬいぐるみ……あの中に、本当に人が入っているのかもしれない……
俺に、近付くために
もしかして、あの中に、栞が入っているかもしれない!?
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
……どう考えても理不尽すぎる!
だが……俺の本能はしきりに『危険』だと叫び続けていた。
いくら栞でも、そんな変則的な手を使ってくるとは到底思えない!
だが、その意に反して、ますます心臓の鼓動は早くなっているようだった。
俺は、あまりの恐怖におかしくなってしまったのか!?
普通なら、どこをどう考えたって、そんな結論に達するはずがないじゃないか!
「じゃあ祐一さん、佐祐理はそろそろ行きますね」
佐祐理さんは笑顔で手を振りながら、行ってしまおうとしていた。
アリクイのぬいぐるみと一緒に……
「……ちょ、ちょっと待ってください佐祐理さん!!」
気がついた時には、俺は佐祐理さんを呼びとめていた。
「ふぇ?」
佐祐理さんは不思議そうな表情をして、俺の方を見ている。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
もしあの中に栞が入っているのだとしたら……佐祐理さんをあのまま行かせるはずがない。
きっと、俺を引きとめるために、佐祐理さんを襲うに違いない!
だが……それはあまりにもばかばかしい考えだ。そんなことがありうるとは到底思えない!
「祐一さん……どうかしましたか?」
「あ、あの……」
どうする? いったい、どうするんだ!?
あの中に栞が入っている可能性は……1%もないだろう。
だが、もし入っていたとしたら……佐祐理さんは命を落とすことになるかもしれない!!
「や、やっぱり……俺も一緒に行きます!」
俺の生存本能は『今すぐ逃げ出せ!』と叫んでいたが、俺は意思の力でその声を封じ込めた。
もうこれ以上、俺のために誰かが犠牲になるのは耐えられなかった。
ほんの僅かでも危険性があるのなら、それを無視することなど、今の俺にはできない!
もし佐祐理さんにまで怪我を負わせたら、俺は本当に舞にあわせる顔がなくなってしまう。
いや、それどころか、舞は本気で俺のことを怒るだろう。
なにがなんでも、佐祐理さんを危険な目にあわせることだけはできない!
それが、俺が舞にしてやれる、せめてもの罪滅ぼしだと思った。
「た、大した用事じゃないから……俺も舞の見舞いに行きますよ!」
「本当ですかぁ!? きっと舞も喜びますよ!」
佐祐理さんは本当にうれしそうだった。
俺は、この笑顔を絶対に守りきってみせる!
そう、心に誓った。
・・・
「このアリクイさんを見たら、きっと舞はびっくりするでしょうね!」
佐祐理さんはあいかわらず嬉しそうだった。その背中に、爆弾を背負っているかもしれないというのに……
俺達は、一路病院を目指して歩いていた。
商店街はすぐに抜け、今は結構広い車道に出ていた。
車道の両脇には立派な歩道が通っており、そこを二人並んで歩いていく。
この道は一度も通ったことはなかったが、佐祐理さんはよく知っているようだった。
「この道沿いには病院の他にも、市役所や図書館なんかもあるんですよ」
つまり、そういう所を俺達は歩いているのだ。
それはともかくとして……病院に着くまでに、あのぬいぐるみの中に栞が入っているかどうかを確かめなければならない。
おおよそ入っているとは思えないが、佐祐理さんが危険な目にあう可能性があるのであれば、どんなにわずかな可能性であっても調べないわけにはいかないのだ。
では、中に人が入っているかを調べるにはどうすればいいか?
答えは簡単だ。触ってみればいい。
中に綿が入っているのと、人が入っているのとでは、触った時の感触は全然違う。
最も簡単でなおかつ確実な判別方法だ。
俺は佐祐理さんの横を歩きながら、左手をゆっくりとぬいぐるみの方に伸ばしていった。
傍目には、佐祐理さんのおしりを触ろうとしているかのように見えてしまうだろうが、この際仕方がない。
佐祐理さんに訳を話すわけにはいかないから、こっそり行なう必要がある。
俺の手が、ゆっくりとぬいぐるみに伸びていく。
あともう少し、もう少し……
……だ、だめだぁ!!
俺はぬいぐるみに伸びていた左手を、あわてて引き戻した。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
だめだ、この方法は危険すぎる!!
もし、中に栞が入っているのだとしたら……ヤツは、俺が近付いてくるのを待っているはずなのだ!
近付いてきたところをカッターでばっさり……切りつけてくるに違いない!!
それに、触ってしまえば、中に潜んでいるということが明確になってしまう。
俺は栞が中に入っているということを確信できるが、栞の方も、俺がそれに気付いたということを知ってしまうことになる。
そうなれば、ヤツはすかさず攻撃してくるだろう。俺が攻撃範囲外に逃げてしまわないうちに、間髪をいれず攻撃してくるに違いなかった。
もし、俺が素早く遠退いたとしても、ヤツは佐祐理さんを攻撃することで、俺を引きとめようとするに違いない。
じゃあ、いったいどうすればいいんだ?
……こうなったら、観察するしかない!
ぬいぐるみに人が入っているのと入っていないのとでは、佐祐理さんの歩き方に違いがでてくるはずだ。
あのぬいぐみがノーマルな状態であれば、大きさからして……1kgから、重くても2、3kgというところか?
だが、もし中に栞が入っているとしたら……
栞は15歳の女の子で、身長が140cmぐらいだから……体重は30〜40kgぐらいだろうか?
……じゃあ、歩き方云々以前に、佐祐理さんが背負って歩けないだろ!
佐祐理さんは女の子なんだから、そんな重いものを背負って平気な顔をして歩いていられるわけがない。
よくよく考えれば、やはりそういう結論にしか行きつかないよな……
……いや、そうとも限らない!
栞は病人だ。今はかなりやせ細っている。
最近はアイスしか食べていないと言っていたから……その体重は30kg未満……もしかすると、20kg前後の可能性もある。
20kgなら、女の子の佐祐理さんでも背負って歩ける重さか?
ならば、まだ疑う余地はある!
佐祐理さんなら少々重くても「あははーっ」と笑いながら運んでしまいそうだからな……
いや、だとしても……もしそうなら、佐祐理さんが不思議に思わないはずはないのだが……
佐祐理さんはあのぬいぐるみを、さっき店で買ったと言っていた。
と、いうことは、栞がぬいぐるみの中に潜んだとすれば、店に置いてあった時以外には考えられない。
普通、20kgもするぬいぐるみを、何の疑いもなく買うだろうか?
いくらばかデカいとはいえ、布切れと綿で出来た代物だぞ。そんなに重ければ、普通おかしいと思うじゃないか。
……いや、佐祐理さんならありうる!
あの人は、なんでも「あははーっ」と笑ってかたずけてしまう人だ。
『あははーっ、このぬいぐるみ重いですね』
で済ませるに違いない!!
なんてことだ……
考えれば考えるほど、だんだんと現実味を帯びてきやがる……
本当に、あの中に栞が入っているというのか!?
「祐一さん、あそこが病院ですよ」
とかなんとかやっているうちに、病院に着いてしまったじゃないか!!
病院は車道を渡った向こう側にあった。横断歩道を渡れば即到着だ!
ただ、今は横断歩道の信号は赤になっている。佐祐理さんも、横断歩道の前で信号が青になるのを待っていた。
だめだ……栞を病院に入れるわけにはいかない!!
このままだと、佐祐理さんは舞の病室に向かう。病室に着いたら、舞にアリクイを手渡すだろう……
そうなると、アリクイは束縛を解かれ、自由に動けるようになる。
もちろん、俺は警戒しているから、それに近付くようなバカな真似はしないが……
もし、アリクイの中に栞が入っていれば、ヤツは怪我で身動きがとれない舞を人質にとるだろう。
俺が逃げようとすれば、動けない舞の身体を、カッターで切り刻むことすらやってのけるに違いない。
俺は、果たして、次も舞を見捨てて逃げることができるだろうか?
俺は、そうまでして、自分だけ助かりたいと思えるだろうか……
……なんにしても、舞をこれ以上酷い目にあわせるわけにはいかない。
では、どうすればいい?
栞に真っ向勝負を挑んでも、俺に勝てる見込みはない。舞でさえ勝てなかった相手に、俺がかなうはずがない!
だが……今なら、ヤツを倒せるかもしれない。
アリクイのぬいぐるみは、佐祐理さんの背中に紐でくくり付けられていている。中に栞が入っていても、身動きがとれないはずだ。
もしヤツを倒すとすれば、今をもって他にないのだ!
病院に着いて、拘束を解かれた後では遅過ぎる!!
幸運にも、今はその絶好のチャンスだ。
佐祐理さんは信号が青になるのをじっと待っている。今の佐祐理さんの注意は、もっぱら歩行者用信号に注がれていた。
今なら、佐祐理さんにも悟られることなく、行動することができる。
栞にバレずに佐祐理さんと意思を疎通する方法がない以上、これから行なうことは、佐祐理さんにも知られてはまずいのだ。
俺は、何か武器になりそうなものはないか、辺りを見まわしてみた。
すると、すぐにあるモノが俺の目に飛び込んできた。
横断歩道のすぐ横で、道路工事が行なわれていた。
そこに、一丁のツルハシが、いかにも使ってくださいとでもいうように、放置されていたのだ!
今は休憩中なのか、工事現場には作業者の姿はなかった。
まさに、幸運としかいいようがない。
俺は、佐祐理さんに気付かれないように、ゆっくりと、ツルハシに近付いた。
そして、手に持っていた食料を下ろして、代わりにツルハシをを拾い上げる。
それは、ずっしりと重かった。
これの一撃を頭部に受ければ、例えどんな人間であっても、即死は免れないであろう。
俺はツルハシを握り締め、佐祐理さんの背後にゆっくりと忍び寄った。
ぬいぐるみは、佐祐理さんの背中におんぶするような形で背負われている。
俺のこの位置は、佐祐理さん同様、その中に入っている者にとっても死角であった。
栞がぬいぐるみの中に入っていれば、一撃で仕留めることができる。栞は、反撃することもできずに息絶えることだろう……
もし、ぬいぐるみの中に栞が入っていなくても、ぬいぐるみが壊れてしまうだけのことだ。誠心誠意謝れば、佐祐理さんならきっと許してくれるはずだ。
だが……少しでも狙いがずれれば、ツルハシは佐祐理さんの頭部を直撃してしまう……失敗は、絶対に許されないのだ!
俺はツルハシを両手で握り締め、後に大きく振りかぶった。
そして、ぬいぐるみの頭部に、慎重に狙いを定める。
少しでもずれたら、代わりに佐祐理さんの頭に穴が開くことになる……
絶対に失敗はできない……絶対に!!
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
ツルハシを振りかぶったまま、俺の動きは止まっていた。
ツルハシを握る手に、汗が滲んでくる。
とてもではないが、このツルハシを振り下ろす勇気が、俺にはなかった……
失敗すれば佐祐理さんが死んでしまう……ということもあったが、もし成功して、中に栞が入っていたとしたら、俺は人を殺したことになってしまうのだ。
魔物や舞に栞を殺させようとした時とは違って、今回は自分の手を汚すことになってしまう。
俺には、本当に人を殺す勇気があるのか?
自然と、ツルハシを握る手から力が抜けていった。これは、俺には荷が重過ぎる……
だが、時間が容赦なく俺を駆り立てた。
車道の信号が青から黄色に変わった。すぐに、それは赤に変わるだろう。
もう迷っている場合ではなかった。今すぐ決行しなければ、横断歩道の信号が青に変わってしまう!
今やらないと、このチャンスを逃してしまうことになる!
このチャンスを逃せば、栞を倒す機会は、二度と訪れることはない!
今だ、やれ!
今すぐ殺れ!!
そうすれば、舞と佐祐理さんは助かり、俺は栞から開放されるんだ!!
俺はぐっ、とツルハシの柄を強く握り締めた。
車道のクルマはすでに全て止まっており、横断歩道を渡る歩行者に、何らの障害も存在していなかった。
そして、今まさに、歩行者用信号が青に変わろうとしている!
俺は意を決してツルハシを振りおろした。
ツルハシの先端は、迷うことなく、ぬいぐるみの頭めがけて真っ直ぐ振り下ろされていく。
殺れる!!
そう、俺は確信した。
『佐祐理さん』
「ふぇ?」
その時、俺は心の中で悲鳴を上げた……
ツルハシの先端が今まさにぬいぐるみの頭を貫こうとしたその時、あろうことか、佐祐理さんがこっちを振り向いたのだ!!
結果的に、ぬいぐるみはツルハシの軌道から外れ、その位置に、代わりに佐祐理さんの頭が入ってくる!!
俺は必死に身体をよじって、ツルハシの方向を変えようとした。
だが、一旦落下方向に運動エネルギーを与えられた鉄の塊は、容易にはそのベクトルを変えようとはしなかった。
……それでもなんとかがんばって、佐祐理さんの頭を直撃することは避けることができた。
ツルハシの先端は、佐祐理さんの側頭部をかすめるだけにとどまった。
ガスッ
……かすめただけだったのだが、佐祐理さんの身体は、横方向にくるっ、と半回転して、「どさっ」と音を立てて地面に倒れた。
当然の結果だった……
ツルハシは岩に穴を穿つための道具なのだから……
それが人間の頭をかすめれば、当然、こういう結果になるだろう。
俺はツルハシを握り締めたまま、倒れて動かない佐祐理さんの身体を、呆然と見つめていた。
辺りには、盲人用信号の『とうりゃんせ』のメロディーが虚しく流れていた。
そんな中で、俺は、佐祐理さんの頭から流れ出した血が、血溜まりになっていくのを、ただ、見つめているだけだった……
取り返しのつかないことをしてしまった……
俺は、取り返しのつかないことをしてしまった!!
舞に続いて佐祐理さんまで……こんな……こんな目にあわせてしまうなんて!!
しかも、今度は自分の手で、こんな……こんな!!
……い、いや、お、俺が悪いんじゃない……
俺は悪くない!!
あそこで、誰かが佐祐理さんの名前を呼ばなければ、こんなことにはならなかったんだ!!
誰かが、あそこで……
誰かが……
誰か……
誰か…………って…………誰?
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
俺はゆっくりと後を振り返ってみた。だが……そこには誰もいなかった。
再び視線を佐祐理さんに戻す。いや、佐祐理さんの背中の、アリクイのぬいぐるみに……
「あーあ、殺っちゃいましたねー」
その声は、思ったとおり、そこから聞こえてきた。
ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ
引き続き、アリクイのぬいぐるみの中から、くぐもった声が聞こえてくる。
「でも、祐一さんのこと、少し見直しましたー。まさかこの作戦に気付くとは思いませんでしたよー」
俺は間違ってはいなかったのだ……やはり、ぬいぐるみの中にヤツは潜んでいたのだ!!
「だけど……ツメが甘かったですね」
「し、しおりぃ!!」
俺は再びツルハシを振り上げた。ヤツはまだ佐祐理さんの背中に紐でくくり付けられたままだ。
こいつの……こいつのせいで佐祐理さんはっ!!
「きゃぁあああああああああああっ!!」
俺がツルハシを振りかぶった時、耳をつんざくような女性の悲鳴が聞こえてきた。
「ひ、人殺しぃ!!」
俺は慌てて声の主を探す。
俺からそう遠くないところに、一人のおばさんが突っ立っていた。そのおばさんは、俺の方を指差しながら、叫んでいた。
「人殺し、人殺しぃ!!」
人殺し……それが俺を指していることは明白だった。
血を流して倒れている佐祐理さん……
その傍らで、ツルハシを振り上げている俺……
疑う余地はなかった。
誰がどう見ても、俺が佐祐理さんを殺そうとしているようにしか見えないだろう……
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない!
今は、栞を殺す絶好の機会なのだ!!
目の前に、身動きとれない状態で横たわっているのだ!!
このチャンスを逃すわけにはいかない!!
「ぶっころしてやらぁあああああっ!!」
俺はおばさんの叫び声が響くなか、アリクイのぬいぐるみにツルハシの狙いを定めた。
「やめろぉっ!!」
だが、俺はツルハシを振るうことはできなくなった。
がっしりとした体格の男が、俺を背後から羽交い締めにしたのだ。
「おまえ、なにしてる!! 正気かぁっ!?」
男は、おそらく工事現場の作業員なのだろう。
その圧倒的なまでの腕力の差の前に、俺は身動き一つ取ることさえできなかった。
「は、放せぇ!! 俺はこいつをぶっ殺すんだぁ!!」
それでも俺は必死に抵抗した。今、栞を仕留めなければ、俺の命がヤバイのだ!!
「放しやがれコンチクショウ!! こいつをぶっ殺さないと、大変なことになるんだぁ!!」
「だめだ、こいつ狂ってやがる!!」
そうこうしているうちに、他の作業員らしき連中も駆けつけてきた。
みんな一様に、喚きちらしている俺と、倒れて血を流している佐祐理さんを見て、驚いているようだった。
「おい、こいつからツルハシを取り上げてくれ!!
「大変だぁ!! 救急車だ、救急車を呼べ!!」
「いや、病院は目の前だ! 直接医者を呼んできた方が早いぞ!!」
「それから警察だ! このバカをしょっぴいてもらうぞ! 」
次第に、俺達のまわりには人が増えてきていた。関係ない野次馬達が、何事かと集まりだしたのだ。
「おいっ、頭から血が出てるぞ!」
「酷い……あの子がやったの?」
「あいつ鬼だよ! あんなかわいい娘に、なんてことしやがるんだ!!」
頭が割れそうだった……
周囲の声が、一斉に俺を責め立てていた。
お、俺は悪くない……
確かに、佐祐理さんをあんな風にしたのは俺だけど……
ち、違う!!
悪いのは、全部あいつだ!! 栞が悪いんだ!!
俺は被害者だぞ? どうしてこんな仕打ちを受けなきゃならないんだ!!
「死刑だ!!」
ドクンッ!!
「あんなヤツ、未成年だからって手加減する必要ねえぜ!!」
お、俺は……死刑……そんな……悪いのは俺じゃなくって……
「死刑にすりゃいいんだ!!」
……こんなことなら、栞に殺されていた方が良かったのかもしれない。
そうだ、俺がとっとと死んでいればよかったんだ。
そうすれば、佐祐理さんだってこんなことには……
俺は残りの一生を、人殺しと罵られながら生きていかねばならないのだろうか……
俺が……人殺し!?
いやだ……そんなの嫌だぁ!!
こんなことなら死んだ方がましだ!!
いっそのこと、ここで栞が俺を殺してくれれば、その方が楽かも……
チキチキ
俺の気持ちが栞に伝わったわけではないだろう。
ただ、栞には、当然の行動だったというだけの話だ。
気がついた時には、ぬいぐるみをくくり付けていた紐は、切断されていた。
そして、アリクイのぬいぐるみが、むくっ、と起きあがる。その腕の先端からは、鈍く光るカッターの刃が顔を覗かせていた。
俺は、その光景を食い入るように見ていた。
いや、俺だけではない。その場にいた全員が、それを凝視していた。
誰もが口を閉ざし、その不思議な光景に見入っていた。
異様に大きなそのぬいぐるみは、人々が見守る中、ひょこ、ひょこ、と愛嬌のある歩き方で、俺に近付いてきていた。
そこで、俺はあることに気付いた。
そのぬいぐるみは……俺に背中を向けて近付いてきていたのだ。
つまり、そのことから考えられるのは……中に入っているヤツは、元々前後逆にぬいぐるみを「着ていた」ということになる。
と、いうことは、栞は佐祐理さんと背中あわせにして背負われていたということで……
俺がツルハシで襲おうとしていたことは……栞には、バレバレだったということじゃないか!!
「は、はは、はははは……」
誰もが口をあんぐりとしてその光景を見守っている中、俺だけが乾いた笑い声を出していた。
アリクイは近付いてきていた。
真っ直ぐ、俺に向かって。
ひょこ、ひょこ、と一歩ずつ、確実にヤツは近付いてきた。
ぬいぐるみの腕の先端から飛び出したカッターの刃を、鈍く光らせながら……
「はは、はははは……お、俺は……俺はやっぱり死にたくないぃ!!」
俺は叫ぶと、渾身の力でもって、俺を羽交い締めにしている男の腕を振り解こうとした。
幸いにも、その男は近付いてくるアリクイに見とれるあまり、俺を締めつける力が弱まっていたようだった。
俺はすぐに束縛から逃れることができた。
「どおりゃぁあああああああっ!!」
そして、男が何が起こったのか理解するよりも早く、俺は、男の身体をアリクイに向けて突き飛ばす。
「うぉっ!!」
男は、体勢をくずして、アリクイ共々倒れこんだ。
チキチキ
「うぎゃぁああああああああああああああ!!」
俺は、男のその叫び声を、背後で聞いていた。その時にはすでに、俺は野次馬を押しのけて走り出していたのだ。
俺は逃げた。また逃げ出していた。
後に、栞と、血を流して倒れている佐祐理さんを残して……
1月28日 午後3時00分
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……はああっ!!」
俺は全力で走りつづけた。必死で、逃げ続けた。
通行人を押しどけ、信号を無視して突っ走る。
背後で、けたたましくクラクションが鳴り響くが、もちろん俺は振り返りなどしなかった。
俺の頭の中に、チラチラとあるイメージが瞬いていた。
佐祐理さん……頭から流れ出した血が、赤い血が、血溜まりとなって広がっていくイメージがチラチラと瞬いて……そしてだんだんと薄れていった。
代わりに俺の頭の中を占拠しはじめたのは、カッターナイフを振りかざして襲ってくる、不気味なぬいぐるみの姿だった!
「あああっ!!」
本来なら、息があがってこれ以上走ることなど出来ないだろう。そんなペースで俺は走り続けていた。
だが、今の俺は立ち止まるどころか、だんだんと走るスピードを上げているのだった。
恐怖が、後悔も、罪の意識も、常識も……その他のあらゆるものを凌駕して存在していた。
そしてそれが、俺に逃げることを強要しているのだった。
しかし……今は、ヤツから逃げきるチャンスであるのも確かであった。
ヤツはまだ俺の遥か後方に居る。
栞には体力がないから、俺を追って走りつづけることができない。それが、俺に与えられた唯一のアドバンテージだ。
しかもヤツは今、あのぬいぐみを着ているのだ。あんなものを着ていては、歩くのでさえ一苦労のはずだ。
もちろん、ヤツはとっととそんなモノは脱いでしまうだろうが、あれを脱ぐのにだって、それなりに時間はかかるはずだ。
とにかく、ヤツは俺を追いかけることに手間取っているはず。このチャンスを逃す手はない!
ヤツが追いついてくる前に、駅に駆け込む……それが俺の作戦だ。
電車に乗ってこの街を後にする。そして、適当な駅で次々に電車を乗り換えていけば、さすがの栞も俺を追いかけてはこれないはずだ。
この方法で何日か日本中を逃げまわるのだ。そのうちに、栞は勝手に死んでしまうという寸法だ。
とにかく駅についたら、一番早く出発する電車に飛び乗るんだ。どこに向かう電車でもいい。
とにかく、栞が追いついてくる前に出発しさえすれば、俺の勝ちだ!
「いける……いけるぞ!!」
これで、やっと栞から開放されるんだ!
だが……
俺は、ある重要なことに気付いて、思わず立ち止まった。
金!!
そう、今の俺は1円の持ち合わせもなかったのだ。食料を買いこむために、持っていた金を全てつぎ込んでしまっていたのだから。
ダメだ……これでは駅のホームに入ることすらできないじゃないか!!
どうする? このまま駅に向かっても、改札口の前で立ち往生するだけだ。
それならいっそ、安全地帯に逃げ込んだ方が……
……でも、食料はツルハシがあった場所に置いてきてしまった。安全地帯に逃げ込んでも長くは持ちこたえられない。
カネ……金さえあれば!!
俺はハッ、として、再び走り出した。こんなところで立ち止まっていたら、栞に追いつかれてしまう!
とにかく、金を手に入れる。金さえあれば、栞から逃げきることが出来るんだ!
俺は即座に決断した。少し遠回りになるが……仕方ない。一度水瀬家に戻ろう。
机の引き出しに、いくらか金があったはずだ。
俺はさらに走るペースを上げた。ここからは、一秒の遅れが生死を別つことになる。
時間との闘いだった。
・・・
水瀬家に着いた俺は、玄関の扉を蹴破るようにして開けると、靴を脱がずに家の中へと上がりこんだ。
秋子さんか名雪が居るのだろう……玄関の鍵が開いていたのはラッキーだった。
もちろん俺も合い鍵は持っているが、それを取り出している時間さえ惜しいのだ。
ドカドカと靴音を響かせながら、二階へと上がっていく。
そして、階段を上がってすぐの扉を、これまた蹴破るように開けた。
部屋は……元通りになっていた。栞をクローゼットに閉じ込めようとして、机やらベッドやらを積み上げたはずなのに……
恐らく、その後秋子さんや名雪が元通りに戻してくれたのだろう。二人はクローゼットに押し込められていたはずだが、きっと真琴が助け出したに違いない。
やっぱり、二人とも無事だったんだ……と喜んでもいいはずなのだが、今の俺の心には、そんな感情はちっとも湧いてはこなかった。
今は、そんなことで胸を撫で下ろしている時間すら惜しいんだ!
俺は机に駆け寄ると、乱暴に引き出しを開けた。
この中に、貯金箱代わりにしているカンペンケースが……あった!
俺は急いでケースを開けてみた。
そして……愕然とした。
「しゃ、しゃんびゃくえん……」
ケースの中には、百円玉が三枚入っているだけだった……
こっちに引っ越してきてから、いろいろと要り用な物を買いこんだし、バイトもしてないし……小遣いだって貰っているわけじゃない。
持ち合わせが減っていて当然だった。しかし、まさか三百円しか残っていなかったなんて……
これでは、数日間日本中を逃げまわるどころか、隣町に行くのがやっとじゃないか!
「祐一?」
その声に、俺は咄嗟に背後を振り返る。
部屋の入り口に、名雪が立っていた。
名雪は、うれしいような、それでいて泣き出しそうな、そんな複雑な表情で俺を見つめていた。
「祐一……無事だったんだね」
名雪は今にも泣き出しそうな声でそう言った。
「ものすごく心配したんだよ! お母さん達も心配してて……」
「どけぇ!!」
「……え?」
俺は名雪を押しのけると、部屋を後にした。
背後から「きゃっ!」という名雪の短い悲鳴が聞こえる。
今は名雪とくっちゃべっている時間などないのだ!
こうしている間にも、栞が俺との距離を詰めているというのに……
とにかく金だ!! カネ! カネ!!
俺は隣の部屋の扉を開けると、中に入った。
ぬいぐるみと、目覚し時計で埋め尽くされた部屋の中に……
俺は部屋の奥にある机に歩み寄ると、おもむろにその引き出しを開けた。
「カネ!! カネ!!」
引き出しの中身を撒き散らしながら、俺はカネを探し求めた。名雪のヤツなら、カネを溜めこんでいるに違いない!
「祐一!?」
背後から、ひきつった名雪の声が聞こえる。
「ちょっと、やめてよぉ!!」
背後からしがみついてくる名雪。名雪は泣きながら、俺を机から引き離そうとする。
「どうしちゃったの? ねえ、祐一!!」
「邪魔するんじゃねえぇ!!」
俺は、ありったけの力を込めて、名雪を突き飛ばした。
「きゃぁあああっ!!」
ドスンと派手な音を立てて、名雪は壁に激突する。
「俺の邪魔をするな!! ぶっ殺すぞ!!」
俺は名雪を睨みつけてそう言った。
これは、俺の生死に関わる問題なのだ。俺は少しも大袈裟に言ったつもりはなかった。
これ以上俺の邪魔をするようなら、本気で名雪を殴りつけるつもりだった。
だが、名雪は床に座り込むと、両手で顔を覆って泣き出し始めた。
「うっ……う、うわぁあああああああああん!!」
俺は再び作業に没頭した。引き出しの中身を物色する。
だが、引き出しに入っていた物を全て撒き散らしても、カネは出てこなかった。
「カネ……カネがねえぞぉ!!」
俺は腹いせに引き出しを引き抜いて投げつける。
ドンガラガッシャーン!!
引き出しは目覚し時計の群を直撃して、盛大に破壊音を轟かせた。
「うわぁあああああああああん!!」
それに呼応するかのように名雪の泣き声も大きくなる。
あまりの焦燥感に呼吸が苦しくなってきた。目の前がだんだんと暗くなっていくのが感じられた。
「どこだ……カネ、カネェ!!」
一刻も早く駅に向かおうとする心と必死に闘った。まだカネが見つかっていないというのに、脚が今にも駆けだそうとしている。
落ち着け……落ち着け!!
カネだ、カネが必要なんだ!!
「カネだ! カネだぁ!!」
俺は机の上の物を手当たり次第になぎ払いはじめた。
「早く、早く早く、カネェ!!」
血走る目で、俺はそれを見つけた。
ぬいぐるみの群の中に、それはあったのだ。
唐突に、錯乱していた俺の頭は集中力を取り戻す。
ぬいぐるみにまじって、陶器製のモノが一つあった。それはネコの形をした貯金箱だった。
周りにあるぬいぐるみと同じような形状をしていたので、見つけ難くなっていたのだ。
俺はおもむろにその貯金箱を掴むと、勢い良く机に叩きつけた。
ガシャーーーン!!
派手な破壊音がして、貯金箱は粉々に砕け散る。そして、辺りにその中身がばら撒かれた。
小銭に混じって、札が少なくとも……十枚以上はあった。しかも、その中には諭吉の顔がかなりの割合で混じっている。
「あるじゃねえかよ……」
俺はぼそりとそう呟くと、小銭は無視して、札だけをかき集めた。
そしてズボンのポケットに押し込める。
これだけあれば、日本の端にまで逃げることだって可能なはずだ!
「うわぁああああああん!!」
俺は部屋を出ていく際に、ちらっとだけ名雪の方を見た。名雪は、床にくずおれて、激しく泣きじゃくっていた。
チクリと、俺の心に痛みが走る。いくら自分の命を救うためとはいえ、この仕打ちは少し酷過ぎたかもしれない……
きっとこの金は、名雪にとっても全財産だったに違いないのだから。
「か、金なら後で倍にして返してやらぁ!!」
一応フォローのつもりでそう言った。
「……うわぁあああああああああああああん!!」
なぜか名雪は余計に泣き出してしまったが、今の俺にはそれに構っている余裕など全くない。
俺は再び靴音を響かせながら、階段を猛然と駆け降りた。
次回につづく・・・
175 :
名無しさん?:03/04/25 16:35 ID:fQNtEAqk
保守党氏ね
176 :
名無しさん?:03/04/25 17:43 ID:9AR5gYIj
178 :
名無しさん?:03/04/26 09:10 ID:Yz901g0Q
保守
179 :
名無しさん?:03/04/26 21:30 ID:Yz901g0Q
保守2
180 :
神:03/04/26 22:57 ID:???
コピペがマンドクサクなったんですか?
182 :
名無しさん?:03/04/27 14:00 ID:+lFqEILn
パソコンの先に並んだ いろんなレスを見ていた ひとそれぞれ好みはあるけど どれもみんなDQNだね
この中で誰が一番厨房だなんて
1000争うこともしないで
2chの中誇らしげに
AA張っている
それなのに僕ら2ちゃんねらは
どうしてこうもヒキー?
一人一人違うのにその中でヒキーになりたがる?
そうさ 僕らは
2ちゃんねら一つだけの厨房
一人一人違うネタを持つ
そのスレを1000いかせることだけに
一生懸命になればいい
まともに読んでた人いるか?
すまぬ。 よんでた。