保守ですなぁ。
つわけでSSを投下。
しかし、完結しないうちに倉庫行きの気配が……(w
ラウジンガー乙 第六話
AM4:33
手を止める、息を止める、そうして、そうして……
気付く。
「ありえん……この経路は……」
すぐさま博士は脳内に数式を組み上げていく、電卓を必要としない暗算能力は瞬時に結果を導き出した。
その、死出の道のりを。消滅への往路を。
「モナー! モナー!」
右腕を振り払い、博士は机に煩雑していた雑貨を全て殺ぎ落とした。
陶器やガラスの割れていく音も耳に入るが、構わずマイクを引き抜く。そのまま送信ボタンを押し込み、叫ぶ。
『博士、どうした?』
ラウジンガーからの声が、幾分かノイズ交じりで届いてきた。
緊急回線が未だ閉じていなかったことに感謝しつつ、博士は声を荒げた。
「至急帰還するんじゃ、モナー。敵は、敵はそれだけではないッ!」
『どういうことだ?』
息を吸い込む。荒い呼吸が、一度だけ、止まる。
「連中の侵攻が不自然すぎるのじゃ、恐らく連中は同様のコピーを保持しておる」
『コピー……丙、か』
瞬間。
爆発音が、博士の耳に木霊した。同時に。
サーバー負荷が発生した。ラウンジを埋めていく鯖の悲鳴は、九つ。赤い光点が存在を主張し始める。
『仕掛けてきたか』
「……戻るのじゃ、モナー。奴らがダミープログラムを解析し終わるのにかかる時間は、上層部が想定しておる時間の半分にも満たん。時間がない!」
『了解した』
返ってきた言葉は、ただ強い意志に塗れて。
同時刻、防衛本部にて
「お前だったのか」
「ああ、そうだ」
「何故?」
「お前なら、聞かずとも、だろう」
「……分かってはいる」
「ならば聞くな」
「いや、聞こう。何故だ?」
「ここが変わったからだよ」
「ここが? この場所が?」
「そうだ……ラウンジは変わってしまった」
「変わった? 変わった、だと? 閉鎖から開放へ……変わったのはここだけではないだろう?」
「その影響をもっとも強く受けたのはここだ。この世界のうちでもっとも強く改変した場所だ。
……今の現状が分かるか? 幾つ駄スレが建てられてきた? 幾つ良スレが駆逐されてきた? どれだけの時が浪費されてきた?
……それらも全て、変わってしまったからだ。この場所が、この板が。
そして行き着く先は、どこだ? どこにある? そうだ、あの日だ。
この世界が崩壊し、そして再生した夏の日だ。ここが、この場所がその先鋒だろう?
『休憩室』と名付けられたこの場所で、幾つの悲劇が生み出されたと思う? どれだけの負担をサーバーに与えていると思う?
それに比べれば今の我々など、再生への痛みでしかない」
沈黙。
「閉鎖へ、再び開かれることのない世界へ、アンダーグラウンドへ。それが我々の望みだからだ。ただ、過去へ」
男は唾を飲み込んだ。
「いいや、お前は間違っている」
「……何故だ? お前にはこの現状を嘆く気概も残されてはいないのか?」
「そうじゃない。……変わってなどいない、ラウンジは、その表層はいくら変わっていっても、
本質は過去からずっと、ずっと。今でも『休憩室』だ。何も変わってはいない」
「……」
「俺たちは過去を見てはいけないんだ。便所の落書きは、常に新しいものへと書き換えられる。
俺たちは変わっていくことしか出来ない。
新しいものを迎合し、順応していかなければ、俺たちのほうが消えてしまう――それが世界だ、俺たちのいる場所なんだ」
「……」
「その中で、その中では、過去は決定的に遠くにいることしか出来ないんだ
……手を伸ばすことなど出来ないんだよ」
「ああ、それも一つの答えだろう、な」
男は影に銃を向けた。
影が向かっているモニタには、敵に送信された本部の地図が映っていた。
「さらばだ、友よ」
「ああ」
男は引き金を引いた。
モニタに鮮血が飛び散った。
第七話、終わり。