気付いたらモララー二人いるし。
鬱。
見据える。
捉える。
敵はそこにいる。
見ろ。
これが敵だ。
ラウンジを滅ぼすものだ。
モナーは息を吸い込んだ。
「ナメンジャネーゾ」
言葉は空に木霊する。
遥かな過去からレスを吸い上げてきたラウンジの空漠に響き渡る。
そして。
眼前には敵がいる。
ラウンジを脅かすものがいる。
ならば。
打ち倒そう。それが、使命だ。
このロボが存在していられる意味だ。
ラウジンガー乙 第五話
相対距離を目算で割り出す、感覚の中で組み上げられた方程式は確実に敵の敗北を導いていた。
単純に、単純に、その結果は全てを示す。
負けるはずなど無い。
敗北へ繋がる回答など、一つも用意されていない。
「……行くぞ」
吐く、血脈が沸騰していく、戦いの予兆に全身が震え。
モナーは操縦桿を押し込んだ。大きく座席が揺れ、ラウジンガーは加速した。
流れていく景色、それらに見とれる時間すらないほど、交差は一瞬。心拍よりも短い刹那に、二つの巨体はすれ違う。
息が、詰まる。
視界は全て遅々として進まず、ただラウジンガーの辿った軌跡が見えた。
ゆっくりと、ゆっくりと、何もかもが時間の束縛から解かれて鈍足に。
右腕が、動いていく。ラウジンガーの「核」、敵にも当然備わっているはずの組織へ、モナーは攻撃を繰り出した。同時に。
――衝撃が。
モナーの全身を揺るがした。数個の赤ランプが点滅を始める。
「――ちっ」
舌打ちを一つ、左肩の制御系が損傷を受けていた。
ボディバランスの微調整を怠っていたことに、気付く。体勢が崩れ、不必要な隙を敵に露呈してしまったのだろう。
だが、憶えた。攻撃の振動も、感覚も、右腕の振り、空気の抵抗、煮沸する意識――
それらも全て、この身に焼き付けた。何よりも強く強く記憶した。
次で、次で何もかもを消し飛ばす。
一切合財のケリをつけラウンジの平和を取り戻す。
「失われたラウンジャ達の重みだ……このドリルは、この一撃は。そしてこの機体は――」
操縦桿を捻る、強引にラウジンガーを突き動かして、地面を蹴りつけた。
それまであった場の概念は崩壊し、ラウジンガーは宙を駆けた。
gzip圧縮を用いた鯖飛躍、敵はむろん、味方すらごく一部しかその存在を知られていない未知の技術。
この速度に、反応できる存在など、皆無。
「食らえ」
視線が。存在しないはずの視線は、だが互いに絡まりあい、牽制しあい、そして。
激突する。振り上げた右のドリルが丙の体を貫く、捻じ込まれる腕は軋みながら、敵の見えざる臓器を抉って。
火花が散った。決定的に世界を区切る赤の閃光が、飛散した。
あとはただ流されていくだけ。下流へ、下流へ、崩れていくバベル、ただどこまでも連なる自壊……
爆発が。空を焦がし始めた。