「敵、ラウジンガー丙、50スレまで接近!」
始まりの刻。
行く末にあるのは崩壊か、胎動か……
「敵前線、第二次強羅絶対防衛線、突破ッ!」
時間と言う名の鉄槌は無慈悲に振り下ろされていく。続いていく、破滅への連鎖。
「残存スレ200を割りましたッ!」
「クソッ、サーバーが持たねぇ!」
終幕へと向け、終幕へと向け、秒針は確実に時を刻んでいく。
「ニダー? ニダー!? ……畜生がッ!」
「誘導厨分隊応答せよ、応答せよ……」
「答えろよ……答えろよ、誰か答えろよォッ!」
返事はもう来ることはなく、遥か彼方へと散っていった言葉はただ霧散して。
マイクの向こう、居るのは、物言わぬ屍でしかなくて。
ラウンジが、消えていく――
ラウジンガー乙 第三話
AM4:15 【ヤバイ】謎ロボ出現【死守】スレにて
「モララー中尉」
呼びかけに、モララーは顔を上げた。
目の前には彼の部下、目の中には白い悲痛、だが強い意志と共にあるもの。
結ばれた口元。敬礼の姿勢を崩してから、部下は言葉を発した。腹から搾り出された力強い言葉を。
「歩ける者は塹壕前に整列しております。最後の総攻撃命令を」
「……ああ、分かった」
返事を終えるまでもなく部下は扉を出、恐らくは塹壕の前へと歩いていったのだろう。その後姿が消えていく。
行かなくてはならない、モララーは行かなくてはならない。
たとえこの身が二度と命を握り締めることがなくても、行かなくてはならない。
――玉砕。
自身、その習慣をあざ笑っていたことがある。何が玉砕か、それを無駄死にというのだ、と。
だが、今ではよく分かる。その崇高な精神が理解できる。玉砕とは、人という威厳と共にあるべき手段なのだ。
ただそれは、奇妙なまでの静寂と冷静さとが同居する狂気なのだ。
……行かなくてはならない。
モララーは部下の後を追い、塹壕へと歩いていった。
既に集合している彼の部下達を眺めながら、モララーは一瞬、一瞬だけ感傷に耽った。
戦場において、彼が一度としてすることのなかった行為だ。
だが、これが最後なのだ、最初で最後の感傷を咎めるものなどどこにいるだろう。
「……防衛線は突破された」
モララーは口を開いた。それは最後の号令となるだろう、だが。
行かなくては、ならないのだ。
「諸君、私は戦争が(以下略」
「……見よ、諸君。我等の前には最大の敵が居る。
我等の後ろには救えるやも知れぬ数十、数万のラウンジャが居る。
ならば、することは決まっている。守るべき民がそこにいるのだ」
一呼吸、ああ、心臓が、冷たい。
「我が分隊よ、我が憂板の士達よ、貴様らの命を捧げに行け」
彼らの目の色は、何色に、染まっていたのだろう。
爆音が響く、時間はない、ためらっている時間などない。さあ、逝こう。
「全員、突撃――――!!」