うざかったら言ってくだされ。
「ラウジンガー乙 第二話」
AM3:30
dat落ちスレ総数139、そして、420のスレが荒らしによる大量書き込みを受けていた。
そのどれもがいずれは陥落するだろう。慈悲も容赦も無くhtmlへと改編されていくだろう。
次スレへと転送することも出来ないまま、過去ログの底へと落ちていくのだろう。
――ラウンジの終焉。
モナーの脳裏にはその言葉が婉曲的に浮かんでいた。
打ち消しても打ち消しても這い上がってくるそれらの言葉が。モナーは唇を噛み締めた。
『モナー』
「……オムスビか」
『どうだ? こちらからでは、状況が見えない』
「大方予想しうる最悪の経過を経て現在に到る」
『被害は』
「落ちたスレが140、422のスレが既に1000目前だ。敵のギコどもが目を光らせているよ」
『規制はどうした? まさか、施していないなどということは無いだろう?』
「外部からのポートは既に閉じた、だが奴ら、既にサーバ内に侵入を終えている、
『絶対規制領域』も易々と突破されてる始末だ」
『悠長に眺めている場合か?』
「そんなもの……言われなくても分かっている!」
モナーは拳を叩きつけた。テーブルが跳ねる。ただ指先には鈍い痛みが。
息を落ち着かせながら、モナーは続く言葉を吐いた。
「そっちはどうなってる?」
『大方似たような状況だ。だが、この基地はもうダメだ。二分後にスレッドストッパーを作動させる……ただでは死なんよ』
オムスビの声に僅かな自嘲が混ざる。それは、基地を守れなかったことへの後悔の念か。
「オムスビ……」
『構うな、今はそんなことよりも……』
「ああ」
『あのロボだ』
そこは、ラウジンガー制作に多大な貢献を残した人物の部屋だった。
入室したモナーを気にも留めないまま、老人はモニタの戦況を眺めていた。浮遊する綿毛のように虚ろな存在感を保ったまま。沈黙、老人には、ただ深い沈黙があった。
モナーは口を開く。
「出撃許可を頂きたい」
「無駄じゃよ」
高級感の溢れる椅子に座った老人は、表情をピクリともさせず、拒絶の言葉を吐き出した。
「今アレを動かせば、逆にラウンジが危機に瀕することなどヌシでも分かるじゃろう」
ひどく、魂の無い表情だった。悔しさと、悲哀、それが老人からは見て取れた。彼が作り出したラウジンガーが完全ではないという事実に。
「今使わずにいつ使うのです? アレは? このような時のためにラウジンガーは作られたのではないのですか? 博士!」
語気を強める。
「敵に情報が漏れておったのじゃろ? 全く、情報管理がずさんすぎる……
とにかく、敵に情報が漏れておるなら、当然ラウジンガーの保管場所も敵さんには分かっとるはずじゃ。
だというのに、ほれ、見てみい」
博士が示した先、敵の進行区分を表すマップには、不自然に一つだけ赤く染まっていない地区があった。
無論そこにはラウジンガーが眠っている。起動の時をただ待っている。
「奴らがラウジンガーを破壊しようとしないのは、その暴走を期待しておるからじゃ……
残念ながらわしらのラウジンガーは完全とはいえない、算数ドリルを渡しただけで暴走しおるぐらいじゃ」
「パイロットのシンクロ率が高ければ回避可能だ」
「じゃが低ければ暴走だ……おぬしも見ておるじゃろう? 六度目の起動実験の悲劇を」
老人の言葉と共に、モナーの中にはある情景が浮かび上がった。
……咆哮するラウジンガー、所構わずジサクジエンを吐き出し、コテハンランチャーを果てるまで撃ち放った。
五つのスレが巻き添えを食ったその事件は、ラウンジャ達には公にされないままもみ消されてしまった。
実戦起動ともなれば搭載される出力はおよそその五倍……被害は計算も出来ない物となる。
そうなってしまえば、ラウジンガーはラウンジ崩壊のトリガーを引くだろう。確実に、敵よりも迅速に。
だが。
「博士!」
モナーはここで食い下がるわけに行かなかった。どうしても、どうしても。ここが最後の希望なのだから。
あの機械に頼るしか、もう自分らに生き延びる道は無い――
「……起動確率は0,000000001%。それでも、おぬしはやるというのか?」
「奇跡は起こるものじゃない、起こすものです。博士」
その言葉に、博士はしばらく宙を見上げていた。何も無い虚空を見上げ、そのまま。
「……いいじゃろう。だが約束がある」
「約束?」
博士は奇妙に歪んだ、老人特有の笑みを見せ。
「ラウンジを、2chを必ず守ってくれ、もう、あの夏の日を繰り返したくは無い……」
モナーは敬礼を返す。
それは、言葉ではない確かな確約だった。
続くのかも