「逝く」って辞書に載ってないんだね

このエントリーをはてなブックマークに追加
16名無しさん?
腕を掴むと、その華奢な体が瞬時で強張った。彼女なりの防衛本能なのだろう、
両膝を胸元へ寄せ、空手となっている右手は、掌を強く握り締め、腕全体で胸元から口元に掛けてを蓋っている。
その震える腕、震える足で、私の興味を誘う物を隠そうと試みているのだろうか。
私の掴んだ左手も動こうとはしているが、その力は、あまりにも、あまりにも弱い。
その全ての仕草が私の興を一層誘う。

「お願い、やめてよ…」

言葉の音階が一音一音、心地良く響く。
怯えた瞳、自然と溜まる涙、一つ一つの反応全てがあまりに心地良い。

その左手を軽く引き寄せてみると、想像よりずっと容易くその体は動く。
正面を向き合う姿勢になった。
朝露の如くか。斯くもこの少女は、飛び散り消え入りそうに、脆い。

「…これは、大変美しゅうなられましたな」

思いつき、目線を合わせたまま、胸元で強張らせたままの右手の小さな拳を、
空いた左手で、一本一本、無理矢理開かせて見る。
無理矢理という言葉が言過に思われる程に抵抗が無い。
一つずつ、一つずつ、私を拒否する反射を崩してゆく。
17名無しさん?:02/01/30 14:42 ID:???
その解いた指を軽く撫でながら、濁っているであろうと自覚される微笑を送る。
彼女の表情から私のそれが推察通りである事が察せられる。

「う、嘘だよね?あの、これ以上なんにも、しない、よね…」

これに私は無言を持って返答とする。
彼女は何とするだろうか?絶望の色を深めるだろうか?反駁を覚えるだろうか?
彼女の瞳を見つめながら指を撫でまわし続ける中、彼女に対する興味ばかりが脳裏で先行する。

「ね、待ってよ、だって、私・・・あの、変と思わない…」

無言であったのが彼女の焦りを産んだのか。珍しく多弁を弄してくる。
しかしやはり血量の不足に目眩を感じるのか、
語尾に行くに連れてその語気は聴き取れないほどか細くなり、つれて頭が重く垂れ下がる。
つくづく、本当に興を覚えさせる少女だ。

彼女の指を弄くっていた左手をその顎にやり、軽く持ち上げてみる。
向き合った彼女の顔は、一際血色が薄い。本当に、透き通る様に思える。
目眩を抑える為か右下に流したままの目線が更に情を誘う。
18名無しさん?:02/01/30 14:45 ID:???
「ゃだぁ…」

漏れたと表現するのが正しい、か細い声。
頭痛が走っているのだろう、眉は強く顰められ、
瞳孔は開き気味であまり機能していず、顔立ちをより虚ろに彩っている。
同じく虚ろを感じされる口元からはか弱い吐息が漏れているのが判る。
その虚ろなままの彼女が私に目線を合わすと、そこで、一筋の涙が零れ落ちた。

長らく忘れていた官能が体を襲う。
この少女の独占。それは、何と心地良い衝動を覚えさせるものか。
それはさぞかし甘美なのだろう。さぞかし素晴らしいのだろう。
思いつつ彼女を見つめていると、彼女がまた別の興をもたげる言を漏らす。

「て…離して…」

そのあまりに小さな要求、そして叶えられぬであろうとの絶望に佇むその表情。
それほどまでに、この少女にとって私は強大なのかと考えると、一層彼女への興味は高まる。
彼女の懇願を叶えてみようと掴み続けていた彼女の手首を自由にするが、
しかし抵抗は全く無く、その左手はぱたりと力無く地面に落ちるのみだった。

諦めからか。その様も私を満足させるものであった。
19名無しさん?:02/01/30 14:46 ID:???
彼女の透き通った肌の全てを存分に愛でる事にする。
左手をそのまま彼女の頭の後ろに回し、体全体を床に軽く寝かしつける様に降ろし、
寝かせた彼女の上に、私の体を浮かせて重ねる。
屋内灯の明りが私の体で遮られ、彼女の体は初めて影を帯びた。
その姿は、やはり興を誘うに十分値する物だった。
影の中で逆に良く映える、彼女の一筋残った涙の跡を撫であげると、
その度に、嗚咽にしゃくりあげるリズムとはまた違った動きが見える。
いつ何によって尽くとも知らぬ興味が、私を蓋い続けている。

私は嘘を付いた。どこが嘘なのかを思い返す興味は無い。
ただこういう科白を思いついたのだ。

「申し訳ありません……亡き妻の面影を、私が思い出として美化している、
妻の最も美しかった頃を、貴方は私に思い起こさせるのです……」

それは、彼女にとって最後通牒の意味合いでしかない。
その宣告に、彼女はどのような色に変わるのだろう。
それ以外の興味は私は無く、それに私は興味を覚えた。その為に、私は嘘を付いた。

彼女は左手の指を噛んだ。
既に確した未来への想像に絶望したか、その絶望に耐える為か、それとも単に嗚咽を抑える為なのか。
或いは私を拒否しようとするただの本能なのかもしれない。
あらゆる想像を発起させるその全てが、私にとってあまりに健気で儚く、美しい。
そしてその少女が今、紛う事無く私の自由なのだ。