短篇【続リーマン物語】長編

このエントリーをはてなブックマークに追加
188名無しさん@明日があるさ
(1)
「あなた、今日は、かやくご飯作ったの」
「ああ、食べるよ」
杏子は茶碗に山盛りのかやく飯をよそった。
(杏子は俺の浮気を許してくれたんだろうか。昼間、ばったりと街で亜依子と
一緒のところを見られた時は、地獄になると思ったが・・・)
「うまい、これ旨いよ」
重男は少し大げさにいいながら、杏子の作った飯を口に運んだ。
浮気の現場を見られたことについて何も触れられないことに対する
不安もあったが、何より、杏子の機嫌を損ねないことが大切だった。
重男は40代後半でやっと結婚できた。
身長にも恵まれず、運動神経もゼロに近い重男に男としての魅力も
あるわけが無く、ついぞ女性から声がかかることなく、この年を迎えた
のだった。
しかし、安月給の中からこつこつ貯めた蓄財のお陰もあって、
漸く、結婚にこぎつけたのが杏子だった。
杏子は35歳であったが、再婚で前夫とのあいだに子供はなかった。
再婚女性とはいえ、重男が一回り以上も年下の女性と結婚できたのは
僥倖でもなんでもなく、杏子自身、120キロの巨体で男性と二度も結婚
出来たことは想像を絶することであった。
杏子はこの醜面で巨体の自分を娶る男なら誰でも良かった。
ただ、捨てないでくれればいいという女性と,
女なら誰でも良いという男との利害が一致した結果なのだった。