1 :
名無しさん@明日があるさ:
うんこ漏らしスレで好評だったので立てました。
投下は重ならないよう気を付けてください。
初めての2
3 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:04:06
2006/05/26(金) 00:08:56
風の章
篠田の通勤に利用する田園都市線の電車は今日も混んでいた。
しかし、OLや女子学生の多いこの電車の混雑も、篠田にとって
不満はなかった。
普段は近寄ることすらはばかるような若い女性と体を密着できる
唯一の解放区といってよかった。
背の高い篠田はいつのもように、自分の前の女性の髪のリンスの匂いを
嗅ぎながら、下半身を想像に任せて勃起させるのが日課となっていた。
以前に実家から利用していた東海道線や京浜東北線ではこうはいかなかった。
「あれはダメだったな・・・」
京浜地区の路線は工場に行く人が多いためか、薄汚れたおっさんやアンチャン
ばかりで、女性もまた酷いレベルの女が多かった。
朝の通勤時は混雑する電車で、汚い親父の安っぽいポマードやヘアクリーム
の匂いを嗅がされるのが常で、なまじ、篠田は背が高いため、
電車が揺れた拍子によろけたジジイの頭にキッスしてしまうことも稀ではなかった。
田園都市線沿線に鞍替えしたのは、通勤客の客層が全然違うからだ。
ダンディを気取る篠田は、自分がエリートサラリーマンに相応しい環境が
適しているとい思っていた。
ふと、その時、同じ車両のドアひとつ先の方向から自分の方に顔を向けている
女性に気がついた。
「総務の矢野さん!」
綺麗な女性であった。
篠田は背が高いから、混雑した電車でも向こうは気がついたのだろう。
4 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:05:39
2006/05/26(金) 00:22:52
水の章
篠田は矢野に無言で会釈し笑顔を返した。
篠田は夢想なんかしないで引き締まった顔をしていれば良かったと
後悔した。
美人の矢野も同じ路線であることは知っていたが、今まで同じ車両に
乗り合わせたことは無かった。
これを機会に、今度何かのきっかけで一緒に帰る口実でも作れないかな
とか、もし、自分の前体を密着させてで背を向けて立っている女が矢野さんだったら、
などと不埒なことを考えた。
矢野の豊満な肉体を想像したお陰で、篠田の如意棒はまた元気を取り戻し、
雄叫びを叫び始めていた。
「おっとっと、下手に前の女にくっついたら痴漢と間違われる・・・」
篠田はふくらみ始めた下半身を後ろに遠ざけようとしたが、運の悪いことに、
後ろは丁度どこかの男が篠田の方を向いて立っているらしく、
篠田の尻に男の下半身が密着していた。
かすかに、陰茎と睾丸の感触も伝わってくる。
「ぐええ、気持ち悪・・・」
次の駅で体制を入れなおすしか方法が無かった。
篠田は我慢して、窓の外の景色を眺めた。
ふと、その時、下腹部に若干の違和感を感じた。
「?」
今まで波ひとつない水面に小さな、しかし、しっかりとした揺れが生じた
ような感触が下腹部に広がっていった。
「?えーと、今朝はカレーとスイカ食べただけだよな。ちょっと食い合わせが
拙かったか?」
5 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:07:37
2006/05/26(金) 18:38:20
火の章
篠田はしかし、慌てる必要は無かった。
利用する通勤電車の沿線のおおよその駅のトイレがどこにあるか、彼は
熟知していたのだ。
今までにも、沿線の途中駅で下車して困難を切り抜けたことは何度もあった。
通勤電車の駅間隔は短い。ほんの数分で次の駅に到着するはずであったから、
万一の場合はそこで降りればよい。
その時、また下腹部がジワリと不快な蠕動をした。
篠田の体内警報の段階が一段上がったようだ。
篠田は、こういう場合は全く別のことを考えて気を紛らわせることが時間を
有効に活用できる最善策であることを知っていた。
なまじ、最悪の結果を予想したりして、腹具合を気にすると、腸の蠕動が早まるのだ。
目を閉じて、先週観た「スチュワーデス」のストーリーを思い出しながら別のことを
考えようとした。
その時、電車が減速し始めた。
自分の後ろの男性の股間が、電車の減速に合わせるように篠田の尻に押し付けられたが、
その不快感より、駅に到着するという開放感で篠田は少しも気にはならなかった。
「今日は男にオカマ掘られるところだったな」
電車は次第に減速を強めている。
そろそろホームか?篠田は安堵して目を開けて外を見た。
「!」
電車はまだ住宅街でのろのろと減速していたのだ。
篠田の全身の毛が微かにザワッと立った気がした。
一瞬の気の緩みか、下腹部がまたゴブリと動いた気がした。
「どうした?信号か?トラブルか?」
篠田の体内警報は警戒警報が発令された。
6 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:08:52
2006/05/26(金) 19:11:15
轟の章
「お客様にお知らせします。前の駅で車両がまだ停車しているため、
いましばらくお待ちください」
篠田の顔が強張った。脳内では緊急会議が開かれ対策会議が開かれた。
「いったい、後何分耐えられるのか?何分後に電車は復旧するんだ?」
「大腸の蠕動を少しでも食い止めないと・・・」
脳内では激しく対応が検討され、その間にも、下痢便は小腸を突破し、すでに
大腸の内部を静かに、だが確実に前進を続けていた。
子供の頃、学校でクラスの男が大便を漏らしてしまい、校舎の中庭の手洗い所で
生徒たちに丸見え状態で、見せしめの様に下半身丸裸で先生に洗われている姿は悲惨であった。
その男の子がどんな奴だったか、名前すら覚えていないがウンコ事件の主犯
という汚名だけは未だに覚えている。
漏らした奴も、その現場に居合わせた奴も一生その記憶が途絶えることは無いだろう。
それくらいウンコ漏らしは凶悪な犯罪なのだ。
その時、停まっていた電車がゆっくりと動いた。
「はあ、間一髪か?くそっ、東海道線なら電車にトイレがあるんだよな。
なんでこんなトイレも無いような路線を選んだんだ」
もっとも、トイレが電車についていようが、この混雑では行ける訳が無いことを
承知で毒ついたのだ。
「お客様にご連絡します。次の停車駅にて人身事故が発生した模様で、
前方の列車が動くまで今しばらくお待ちください。」
顔面が蒼白になるのを感じた。
すでに下痢便の第一波は大腸の下部へと集結を始めているころだ。
脳内では警戒警報が発令され、真っ赤なランプが鳴動を繰り返し始めた。
まさか、こんなところでウンコ漏らしの十字架なんか背負うわけいかない。
篠田は必死の形相で危機脱出方法を考えた。
7 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:10:12
2006/05/26(金) 19:34:57
鋼の章
非常装置でドアを開けて脱出するか?それでは降りた途端にそこで穴出して
ウンコするからみんなに見られてしまう。隣のドアには総務の矢野さんがいるんだ。
貧血おこした振りして倒れるか?横になれば時間は稼げる。この混雑でそんなスペース
が出来るか?いっそのこと「ウンコ出そうなんです」と宣言するか?
そうすれば周囲はみんな逃げて空間は出来る。しかし、空間ができて
どうする?そこでウンコするわけにもいかないし、矢野さんが・・・
「ムッ・・・」
敵の勢力の第一波が直腸になだれ込こもうとした。
篠田は必死に下腹部に力を入れ、直腸守備隊により敵勢力を押し返した。
「皇国の興廃この一戦にあり・・・」
今や自分の全人生がこの戦いに掛けられていた。
自分の前の女性が立っているのに疲れたのか、篠田のほうに身を預けるように
しなだれかかってきた。その代わり、お尻に触っても許すといわんばかりに・・・
しかし今はそれどころではなかった。
もし、敵の勢力が直腸への侵入に成功すれば、後は最後の関門は肛門の
括約筋だけしか守るすべはない。
括約筋に活躍してもらわねば、などと駄洒落を言ってる場合ではない。
「ンッ・・・」
第二波が来た。篠田は必死で耐えた。前進が小刻みに震えるのがわかった。
経験上、この波は次第に間隔を狭めてくるはずであった。
そして一気に直腸に攻め入り、強大な勢力を持って肛門を打ち破る作戦で
来るに決まっていた。
8 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:11:34
2006/05/26(金) 19:50:46
泥の章
篠田は以前に浣腸でどれだけ我慢できるか試したことがあった。
その時の実験では、第五波までが限度であった。
腹筋で肛門を閉じるには体力的にそれが限界であることを知っていた。
ということはあと2回か3回で全ての終わりが来るはずであった。
「ウムムッ」
第三波が押し寄せてきた。前進が小刻みに震える。体中に脂汗が滲んで来た。
この電車に乗っている中で俺は一番不幸な境遇だろう。
篠田は自分の運命を呪った。
自分の前の女が後ろを気にし始めた。それはそうだろう、自分に密着している男が
さっきから小刻みに震えているんだからな。
篠田の腹の内部から「グルル・・」という音がした。
それは下痢便のこれから一大攻勢をかける合図であるかのようだった。
篠田は限界だった。
もはや、下腹部に力が入りそうも無かった。もし、これから電車が動き出しても
間に合わないだろう。これからの自分の運命を想像する思考力すらなくなっていた。
第四波が来た。
「フンンッツ」歯をかみ締め、親にすら見せられないような必死の形相で踏ん張った。
「ブリュリュッツ・・・」
ついに敵の一部が直腸に侵入し、その余波で肛門を一撃した。
篠田のケツに生暖かい液状のものが感じられた。
その途端、ゆっくりと、しかしまだ淡い状態で糞便の匂いが湧き上がってくるのがわかった。
9 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:13:20
紺青の章
ううっつ、出てしまった!
ついに下痢便の最前線が肛門を突破してしまった。
しかし、まだ主力ではないので、周囲の人もは屁の匂いと勘違いするのではないか?
全力でを何度も肛門の引き締めたので篠田にはもはや残された体力は無かった。
全身に汗が噴出し、立っているのもきついくらい眩暈もしてきた。
どうする?
いっそここでズボンを脱いでやってしまうか?
かつて、東京駅のトイレで男子トイレの個室がすべて埋まっており、並んでいて
待ちきれない男の1人が、こともあろうに個室の前でケツを出してしゃがみこんで、
こんもりとウンコをして立ち去った光景を思い出した。
同じ、ウンコするにしても綺麗なバナナ状ならまだ許せる。
しかし、今の篠田のケツから放出されるのは、明らかに放射状に飛び散る
下痢便なのだ。ここでケツをだして下痢便をしようものなら、混んでいる電車は
阿鼻叫喚の地獄になることは目に見えている。
絶体絶命・・・・
篠田の目に涙が浮かんだ。成人になってこのかた、映画やドラマを観てさえも
涙を浮かべたことの無い篠田。職場の後輩をいたぶって何人も泣かせてきた篠田。
外の景色がぼんやりと滲んで見えた。
篠田の前にいる女と、後ろの男が必死に篠田から遠ざかろうと身をよじるが、
この隙間もないくらい混雑した電車のなかで逃げる余地は無かった。
10 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:14:17
さっきまで、電車の遅延を職場に連絡する周囲の乗客の携帯電話の会話
がいつの間にかなくなり、周辺が静まり返っていた。
しだいに漂う匂いで、乗客たちも非常事態が起り始めていることに
気がついたようだ。
おそらく、爆心地がどこなのか注意を向けているに違いない。
そして、爆心地が判明すれば、周囲の乗客は被爆を逃れるためにパニックになるかもしれない・・・
「グリュウ!」
篠田の直腸に退去押し寄せた本隊は一気に肛門を目指した。
篠田は法悦の境地に陥ったかのように感じた。
「ブリュリュリュ、ブリュッ」
篠田のパンツに下痢便が大量に放出され、パンツがずっしりと重くなる。
液状の部分は、ズボンの裾から靴の中まで垂れてきた。
「わあ」「きゃあ」
前後の乗客が堪らず悲鳴を上げた。ついに爆心地が判明したのだ。
「窓を開けて」どこからか声が聞こえてくる。
驚いたことに、あれほど混んでいた車内であったはずなのに、篠田の周囲には
ぽっかりと空間が出来ていた。
周囲の乗客はあからさまにこの爆心をした悲劇の男を見はしなかったが、最大限の注意を
向けているに違いない。
篠田は呆然としていた。今度は匂いが漂うなんてものでは無かった。
猛烈な糞の匂いが車内に充満し始め、しかも誰も逃げ道は無い。。
篠田にとって最悪なのは、総務の矢野さんが同じ車両に乗り合わせたことであった。
11 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:15:36
泥の章
人間の脳は、精神の安定を保つために、衝撃的な現実を目の当たりにした
場合、それから意識を遠ざけようとする。
脱糞した篠田はむしろ平然とし、何事も無かったかのように立ち尽くしていた。
周囲の乗客、といっても篠田から一メートルも離れていないのだが、みんな
少しでも距離を置こうと身を捩っており、篠田に悟られぬよう、
この脱糞事件には全く気がついていないよとでも言わんばかりの
振りをしていた。
しかし、何事もなかった振りをしている乗客たちも、実は篠田の動静に最大限の
注意を向けていることは、篠田が少しでも身じろぎをするといっせいに乗客が
身構えるところから判った。
社内の人たちにとって、糞便をズボンから垂らしている篠田はもはやエイリアンか
ゾンビであった。
おそらく、ヤクザでさえも今の篠田の前では道を譲るであろう。
篠田は、場違いにも、そんなことを想像して笑みがこぼれた。
今や、車内に吐き気を催すほど糞便の匂いが充満している。電車が動き出して駅に着けば、
ドアが開いたとたんに乗客は我勝ちに逃げ出すだろう。
その隙に紛れて俺も逃げ出すしかないな・・・そして駅のトイレに駆け込んでズボンを洗って
乾くまで閉じこもるか・・・・
その時、ドアひとつ分離れたあたりで、「エエエッツ」という嘔吐らしき音が聞こえた。
12 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:16:39
微かなどよめきとともに、車内の関心がそっちの方向に向けられた。
ウンコの匂いの次は今度はゲロか・・・・
みんな堪ったもんじゃないな。
篠田は自爆の主犯であることも忘れて自分も第三者であるかのような
錯覚に陥っていた。
篠田の下痢便事故には誰も救いの手を差し伸べる人はいなかった。
それは当然であろうが、というよりどのようなことが救いの手になるのか、
神ですらも想像できないであろう。
しかし、ドアひとつ分向こうでは、ゲロった犯人には「これ使いなさい」とティッシュを
渡す様子とか、「ここに座りなさい」とか救助の手が差し伸べられているのは
篠田とは天地の開きがあった。
車内は窓を開けてはいるものの、下痢便の悪臭に加えて、ゲロの酸っぱい匂いも
漂ってきた。
もう何でもありだ・・・
「ここで俺がゲロったらもはや無敵だな」
人生最大の恥を曝け出した男には冗談さえ浮かぶ余裕が生まれつつあった。
この車内の乗客には、ウンコ事件の男の様子が仔細に語り継がれるであろう。
この時間帯の電車には二度と乗れないな・・・
そう思ったとき、「すみません、もう大丈夫です・・・」ふと聞き覚えのある
声が聞こえてきた。
13 :
名無しさん@明日があるさ:2006/05/31(水) 06:17:41
「!」
あの、声は矢野さんか?
つうことはだ、ゲロったのは矢野さんだ。
俺の下痢便の匂いに我慢できずに同じ社内の女が同じ車内でゲロ・・・
篠田の頭の中はこんがらがってきた。
周囲の乗客もまさか、同じ会社の人間が同時にゲリとゲロをかました
とは夢にも思わないだろう。
「ちぇっ、今度はゲロかよ」
ドアの対面側で舌打ちの声が聞こえた。
「何だ、この野郎!!なんか文句あるのか!」
篠田は思わず叫んでいた。自分のことならまだしも、矢野さんのことを貶す奴は
我慢ならなかった。
ズボンからゲリ便を垂れ流している男の怒り声に、周囲の乗客は恐怖で青ざめた。
パンツからさらに滴るゲリ便が、ズボンからだらだら止め処もなく流れ出る男に
喧嘩されたんでは、近くの人は無傷、もちろん服がだが、では済まないだろう。
もし、数滴でも篠田の液体を浴びれば、その日は終わりだ。
篠田は、舌打ちをした男のほうへ人を掻き分けて行こうとした。
「わっ!」「きゃああ!」
たちまちパニックが起った。
2006/05/28(日) 18:09:59
漣の章
篠田は、自分でも何をしようとしているのか判らなかった。
舌打ちをしただけの男を問い詰めていったいどうしようというのだ?
ただでさえ、乗客の神経が張り詰めて、ちょっとした出来事にもパニック
になりそうな状況であるのに。
電車が停止してしまったことへの苛立ちに加え、ゲリ便の猛烈な悪臭、
それに加え、ゲロの臭の波状攻撃だ。まともな奴でさえ耐えられるものではない。
連結部から隣の車両に脱出しようとした乗客も、ドアを開けたとたんに流れ込む
異臭に、たちまちドアを閉められ、どこにも逃げる道はなかった。
篠田の脳裏に夕刊や週刊誌のゴシップ記事が目に浮かんだ。
「某商社男女社員、通勤電車でゲロとゲリの同時多発テロ!」
いっそのこと、矢野さんとゲロ・ゲリコンビでデビューしてやろうか?
しかし、篠田のゲリ便臭も凄かったが、矢野さんのゲロ臭もそれに
ひけを取らなかった。
「矢野さんの今日の朝飯は納豆とおしんこだな・・・」
これは篠田のみならず、周囲の乗客も同感であっただろう。
何もこんな日に納豆を朝飯にするなんてという理解不能な非難の目を
向ける奴も居るかもしれない。
現に篠田自身も、「すでに消化されつくした俺のゲリ便に比べて、未消化の朝飯を
ゲロった矢野さんの方が罪深いな」などと理不尽なことを考えたりもした。
ともあれ、99%思考停止した篠田の脳内では1%の部分が冷徹な計算を
進めていたのだった。
15 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/01(木) 19:52:07
海豚 編
矢野はドアの側の座席に座って、口をハンカチで覆い俯いていた。
ドアの近くにいたのが幸いした。
端の座席に座っていたおばさんがすぐに席を譲ってくれたのだ。
もっとも、そのおばさんはゲロ溜の側にいるのが嫌で、病人?に席を
譲る親切な人を装って、逃亡しただけのことだろう。
電車が停止して発生したウンコ臭は吐き気を催すほど酷くなったから、
周囲の人もこの匂いでは吐いても仕方ないという、むしろ同情を誘った偶然も
ラッキーだった。
矢野の今朝の朝飯は納豆に大根おろし、ネギを混ぜて仕上げは生卵だった。
実は、慣れない組み合わせで食べたためか、電車に乗る前からちょっと気持ち悪くなっており、
かなり吐き気もしてきたので、次の駅で途中下車するつもりだった。
ただでさえ、気持ち悪いところに、ウンコの匂いが来たから堪らない。
矢野は次第に、胸がむかむかして冷や汗が出始めるのを感じた。
頭の中では緊急事態!緊急事態!のフレーズが飛び交い始めたが、
この混雑の中で何が出来よう。
ドアひとつ離れたところには篠田さんがいるのに、ゲロでもした姿を見られる
なんて、一世一代の恥だ。
まして、自分でも物凄い匂いになりそうな予感があるゲロなのだ。
16 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/01(木) 20:03:10
海豚 編2
「うっ」次第に生唾が湧いてきた。
これはもう無理か?ウンコなら尻の穴で我慢できるのに、ゲロは口を閉じるしか
対処できないなんて許せないわ!などと神に悪態をついても意味がなかった。
かつて、酔いすぎて、吐きそうになったとき、つつましく口をハンカチで押さえたら、
鼻の穴から二本の水柱のごとく、ゲロが噴出した経験を持つ矢野は、
吐く時に口を押さえても意味がないことを知っていた。
この、衆人観衆の中で、美人キャリアウーマンが二本鼻のゲロを噴出すなんて
あってはならないことであった。
矢野は、さも、こんなウンコ臭にはとても耐えられませんとでも言わんばかりの
演技を続けていたが、その目は、自分のゲロをどの方面へ散布すべきかを
模索していた。
矢野の今日のスーツは、自分のコレクションの中ではローテーションの谷間に
あたり、エース級ではなく中継ぎ程度の代物であったが、それでも自分の
ゲロは例え一滴でも掛けたくなかった。
そのため、出来るだけ飛距離をだし、遠くへゲロる必要があった。
他所の人の服に掛かろうが、知ったことではない、文句はウンコ漏らした
犯人に言ってよ。
できるだけ安っぽいスーツの人なら文句言われないかも、と計算し、矢野は
中央付近の方向のおっさんの背中を思いっきり手で押しながら、
自分の下半身は後方へと退けた。
17 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/01(木) 20:31:01
海豚 編3
エロエロエロー。
やった。やったわ。ん、大丈夫、私の服にはかかってないみたい、ラッキー。
矢野の周囲は騒然となりながらも、なおも貧血で倒れそうな演技をする矢野の
ために、ティッシュやハンカチを差し出すものあり、倒れないよう手で支えるものあり、
座席を譲るものありで至れりつくせりだった。
中には体を支える振りをしながら、矢野の尻を撫で回す火事場泥みたいなものも
いたが、半病人を装っている時なので仕方なかった。
矢野のロングヘアーも幸いした。
俯き加減だと、顔の表情はよく見えなくなるので、血色の良くなった顔色を
見破られる心配がなかった。
スーツの後ろからゲロを掛けられたおっさんも、泣きそうな顔をしていたが、
こんな状況で「クリーニング代・・・」ともいえず、黙って自分の不運を受け止めていた。
しかし、ウンコの匂いもさることながら、矢野のお土産も凄い匂いを放っていた。
矢野自身も、自分のゲロの匂いのあまりの酷さにまた吐きそうになるくらいだった。
「電車が動いて駅に着いたら、真っ先にこの場から逃げよう」
これは車内のみんなが同感であったろう。
「今日は遅刻してもいいや、電車が遅れたんだし、篠田さんも同じよね」
でも、自分がゲロしたことばれてないかな、篠田さんに。
そう思ったとき、ドアひとつ前方の方から、罵り声が聞こえるとともに、
乗客の悲鳴が上がった。
とかく日本という国柄は排泄に対しての国民の認識レベルが低い。
それゆえしばしば平坦な人生に、各々の汚点を突如刻み付けられる事になる。
その数は計り知れない、人知れず屈辱で涙した者も多いだろう。
それが人間の機能なので、そこで生まれた物語は文化である。
これは一人のヤンキーの身に起こったとんでもねー話である。
19 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/03(土) 02:02:45
オ?リーマン板にヤンキーか無謀な挑戦、見届けよう
20 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/03(土) 03:37:19
名前欄に題名でもなんでも印つけてくれ
21 :
北野休載:2006/06/03(土) 06:46:46
『剛田さん、おはようございます!』
身長185cm体重90kg老け顔にパンチパーマ
高校生とは思えないいでたちの剛田は不良グループのリーダーである。
『ウッセーよオメーら、爽やかに挨拶なんぞしくさって。』
いつものお気に入りの場所にやってくるなり剛田は悪態をついた。
剛田という男は元来人付き合いが苦手な男である、現在仲間と
タムロしている場所にしても元々彼が一人でいるところに
自然と仲間が一人、二人と増えていっただけで剛田が望んだ
わけではない。しかし剛田の心意はともかく彼の一騎当千
の強さと筋を貫き通す姿勢は自然に人をひきつけるものがあるようだ。
一時は10人前後まで子分が増えた時もあったが剛田の性格の悪さも
あり結局今は三人一組で行動を共にする形で落ち着いている。
『チッ』タバコを捨て、足でしつこく踏み潰す。
剛田は機嫌が悪かった。卒業を間近に控え今後の人生について方々から
耳の痛い話を連日に渡って聞かされ、また剛田もそれを否定できない
のでいかんともしがたい状況が剛田の気持ちを逆撫でするのだ。
子供の頃から引っ込み思案な私のお話
友人達が就職活動で忙しくしてる時、私は既に親戚の工場で働く事が決まっていた。
こんな私にも出会い系で知り合った彼氏がいる。彼は、自分の力を発揮出来る会社に出会うまで信念を曲げず就職しないつもりだと豪語していた。(カコイー!!)
毎日私の部屋とパチスロを往復している彼が私が稼げるようになったら結婚してくれるというので(照)
親戚の工場で働く事を、やめ遅い就職活動をする決断をした。
「と、言ってもやりたい仕事とかないのよねぇ」
フリーペーパーの求人雑誌やパソコンで調べていると新しく更新されていく膨大な数の会社がある。
「なになに?2ちゃんねるスレ検索、紹介アフェリエイトで月300万かぁアフェリエイトってクリエイトみたいなものかなぁ」
「デイトレーダー?なにそれ怪しいデート商法かな」
全部在宅かぁ一度電車通勤っていうのしてみたいんだよなぁ
23 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/03(土) 08:59:03
昔から趣味や、夢がなく流れに身を任せてきた22年間
そんな私が今から就活してもロクな仕事もないだろうと検索していたら
“月収50万以上未経験可“という会社がある。内容はよく理解出来なかったが、未経験可で高収入と言うのに引かれ応募の電話をいれた。面接日はあさっての11時に決まり
早速、彼に報告すると俺と結婚する為に頑張れよと応援してくれた(ウィース!)
私は初めて人を喜ばせる事が出来ると思ってうれしかった。
次の日履歴書と写真を取りにいき準備は万端だ
その夜、彼が突然遊びに来て今すぐ私を抱きたいという
求めらるって幸せ(恥)
でも履歴書書かないとなぁと意地悪言ってみた(キャ)
「面接の時間が11時なら起きてからでも間に合うだろ?早くパンツ脱げよ」
私は仕方ないなぁとか言いつつもヤル気マンマンで下着を脱いだ
24 :
うんこ女:2006/06/03(土) 09:15:52
昨夜は遅くまで愛し合っていたので(イヤン!)起きたのが八時だった急いでシャワーを浴び
履歴書を書いた
時間はぎりぎりだ彼の寝顔にキスをして(デヘッ)私は急いで部屋を出た。
それなのにバスがなかなかこないm(__)m
私は彼からもらった『吉宗』と書かれた時計(彼からのプレゼント)を見ていると
バスは30分遅れで着いた
途中で故障したらしいアナウンスで謝罪していた
「ついてないなぁとにかく早く駅につかないと」
その時、突然腹痛に襲われた「やっぱりかー!!」
なぜやっぱりなのかと言うと私は小さな頃から緊張したり精神的に追い詰められると、必ず腹痛になる体質だった
私は紛らわす為に愛しい彼の事を考えた
バツ1で38になる彼
自分の事を話さないミステリアスな彼
パチンコなんぞ、いつでも辞められると言う意志の強い彼
金は天下の回り物だって私の財布からお金盗む可愛い彼
外食は私の体に悪いからって一度も外食しない彼
全部大好きよ!!(キャー言ってしまった!)
25 :
うんこ女:2006/06/03(土) 09:22:52
そんな幸せにひたっていた私も、とうとう腹痛が誤魔化せなくなってきた。
『んぅっ』
自然と声が漏れてしまう 「嫌だ前の男がチラチラ見てくる!いやらしんだぁ彼にいいつけちゃう!」
グルォォ腹が鳴る「痛ったたた」
なんか息も苦しいな駅についたらトイレに行こう
私の顔はもう平静を装えていないのだろう
チラチラ見てくる男の顔はやたらニヤけていて不気味だ
腹が立つが立てると不味いが腹が立つ無限ループ地獄だった
26 :
うんこ女:2006/06/03(土) 09:28:23
次はぁ小岩駅ぃ終点です。
ほっなんとか間に合った
トイレに走ると並んでいる時間ないし恥を忍んで男子トイレに駆け込んだ
するとさっきバスで私をチラ見していた男がついてきたではないか!
嫌だこんな所までストーカー?個室に入り彼に電話をかける。
『お客さまの都合により只今通話が出来なくなっております。』
なんと…お金を払ってなかったのだ。
彼への電話を諦め、ひとしきり踏張ってみたものの出口に固い便があるらしく出てこないその間も腸鳴が止むことはなかった。
27 :
うんこ女:2006/06/03(土) 09:40:24
吉宗時計を見ると時間がない(T_T)ここは諦めて会社の最寄り駅のトイレまで我慢しよう
トイレのドアを開けるとチラ見男は既にいなかった
最寄り駅までの間も腹痛に耐え何とか漏らさずに着いた
トイレに走ったが今度は人気もなく開いていた。しかし今出さなければ確実に面接遅刻する 頑張る他ない
トイレの中で般若のような顔になり踏張りメイクもよれる
嫁入り前なのにウエーン
『ぅんーーんん』ポチャン
腹の痛さの割にガッカリな便が出た
これでなんとか面接には挑めるかな
面接時間まで20分
最大限の力を振り絞り踏張ってみたが芳しくなかった
28 :
うんこ女:2006/06/03(土) 10:07:12
時計は50分前を差している
会社は駅近くなので、無事着いた…が腹の具合は相変わらずだった。仕方なく会社のトイレを拝借
今度は軽く踏張っただけですんなり出た。
そして面接場所へ
『11時から面接予定の○○です宜しくです。』
さっきは満足する程な快便だったのに
やわらかい下痢便が腸で訴えてきた
「僕も今すぐ出して?」私には聞こえていた。
「さっきの便は出したのに僕は出してくれないの?」
面接官が名刺を渡してきたが私は心の中で便と対話していた。
面接官は何やら質問している
面接官『最寄り駅どこですか?』
便「僕も腸からだしてよ」
私『辛抱して』
つい声が出てしまった…
面接官『?神保町ですか?』
私『あ、いえすいませんこの会社を選んだ理由はですね』
めちゃくちゃである
便「あいつを出してなぜ俺を出さないんだ理由は何だ」
私『そんな事聞かれても、こ、困…る』
面接官『…あのーそれでは今日は何しに…
そして悲劇は起こるのであった。
29 :
うんこ女:2006/06/03(土) 10:27:36
もう少しの辛抱だよ頑張って!
私は便に優しく語りかけた
面接官は私をヤバい奴と思ったらしく内線で誰かを呼びよせた
コンコン、ガチャッ
そして便は
「ごめん、もっもぉこれはダメかもわから…」
私「ダ、ダメだよぉーあーダメェェー」ぶぃゆゆゆゆービュィィィィ!
面接官が呼び寄せた男は何と先程のチラ見男だった
『あ、貴女はさっきの??…うわっくさっっい何だこの匂い!』
『わ、 私帰りますぅ』
面接官とチラ見男は黙って私の後ろ姿を見送った
外に出ると初夏の陽気にめまいを覚えたが彼に電話をかけた
「お客さまの都合により現ざ」プツ
こんな私のお話でした。
30 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/03(土) 13:24:14
前振りは長いのに終わりがやけにあっさりしてるな。ウンコを人前で漏らすということは、一生に一度あるかないかのイベントなので、もう少し描写が欲しかったな。でも面白かった。また期待しますよ。
31 :
うんこ女:2006/06/03(土) 19:34:56
エヘありがとう 頑張ります
32 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/04(日) 10:46:15
すいません、本スレどこですか?
33 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/04(日) 18:21:54
本スレ無くなってるね
34 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/05(月) 13:18:33
うんこ漏らしてノーパンで面接受けるヤツかとオモタら違った
35 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/05(月) 14:24:18
↑ヒントは、そこからきてます
篠田&北野の
続きが読みたいなぁ・・。
37 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/06(火) 17:16:48
本スレ、誰か勃て直してくれ!
(*´д`) シコシコシコシコ
_(ヽηノ_
ヽ ヽ
(*゚д゚*) !
_(ヽっノ_
ヽ ヽ
(*゚д゚*)っ
(彡ηr しこしこしこ・・・・・
. i_ノ┘
⊂(*゚д゚*)
. ヽ ηミ)
(⌒) |しこしこしこ・・・・・
三 `J
39 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/06(火) 21:46:12
40 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/06(火) 22:33:04
海豚 編4
それまで乗客の殆どが一生のうちで二度と経験することの無い「ミックス」された
悪臭の中で静寂を保っていた空間が一気に崩壊した。
矢野の座席の左手には、矢野の置き土産が小さな池を作っており、その周辺の空間は
狭いながらも何人も侵入を拒むであろう、緩衝地帯である。
置き土産の張本人である、矢野でさえもそちらからは目を背け、口をハンカチで
押さえ、少しでも匂いが口腔に侵入しないようできるだけ呼吸を浅くしていた。
ドアひとつ先の方から怒声とともに、「わあ」「きゃあ」という混声合唱が騒然と沸き起こり、
乗客の塊が波の様に動いた気がした。
矢野の置き土産の周辺で人間の鎖のように体を張って池から体を遠ざけていた人たちは、
乗客たちの大きなうねりの波にあえなく押しつぶされ、たちまち池の上に尻餅をつくもの、
ゲロで足を滑らすものなどなど、乗客は騒然となった。
何が起ったのか訳のわからない、矢野の目の前に高価そうなエルメスのシュルダーバック
が落ちていた。
乗客の女性が思わず落としてしまったのだろう。
矢野は思わず、そのエルメスのバックを混乱に乗じて足で自分のゲロ溜まりの方へと
押しやった。
「私がとても手がでないようなバックを持ってるなんて・・・」
単に矢野の妬みに過ぎないが、このような混乱時にも嫉妬心を燃やす矢野の性格が
現れていた。
乗客たちは前方から後方へと逃げようとしているように見えたが、もともと混雑していた
車内で逃げる余地などあるわけが無かった。
あるものは転んで折り重なり、正面では網棚の上に逃げようとアクロバットを演じているものあり、
矢野のゲロも人の波に洗われてもはやどこにあるのかまったくわからなくなっていた。
41 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/06(火) 22:53:00
海豚 編5
矢野は安堵した。
「私のゲロもみんなの服や靴についちゃってもう証拠はないのよ」
これで電車が駅に着けば、矢野は何事も無く普段の朝と同じ感覚で会社に行けば
よかった。
車内に自分のゲロが現場保存の状態で残ったままで降りるのと雲泥の差である。
矢野は完全犯罪に成功した犯罪者のごとく心の中で勝どきをあげていた。
しかし、それはともかく、車内が騒然となるに連れて、ウンコの匂いが強くなってきた。
さっきまでは漂うウンコ臭だったのが、今ではリアルに匂いが感じられてきた。
「おいっ」「わっ」「きゃあきゃあ」
矢野の目の前で人の波が揺れた。
え?篠田さん?
目の前で人並みをかき分け現れた男は、まさしく篠田であった。
な、何をやって・・・
その時、篠田は恐怖のゲリ便男から逃げるために必死に突き飛ばした手により、
窓側の矢野の方へ押しやられた。
「うわ」
思わず、座席の上の網棚に手をついた篠田は、その下の席に矢野が座っているのを
見て動きが止まった。
「矢野さん・・・」
矢野は篠田の登場と共に広がるゲリ便臭に気が遠くなりそうだった。
目の前の男は篠田である。
高価なドルチェガッバーナのスーツを着こなしている男であった。
しかし、今は水も滴るいい男ではなく、ゲリ便滴るくさい男であった。
「こ、こんにちは・・・」
「は、はい・・・」
暢気に朝の挨拶を交わしている場合ではなかった。
42 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/06(火) 23:12:42
海豚 編 6
その時、電車がごとりと動き出した。
篠田の周囲から少しでも逃げようとしていた人並みが電車の起動によって、
ぐらりと動いた。
人の重圧により、篠田の近辺の乗客は篠田のほうへ押され屠殺場の豚のような悲鳴を
上げた。
「押すなあ!」篠田は叫んだが、振り向いた途端に人波に押され、篠田は背中から、
矢野の上に座るように倒れこんだ。
「きゃあああああああ!!!」
恐らく、この車内の中でも一番物凄かった悲鳴だったのではなかったろうか。
矢野は篠田が一瞬背中を見せた瞬間に理解した。
「隣のドアのウンコ犯人はこいつだった!」
篠田が動いた瞬間に篠田の靴に溜まっている液状のゲリ便ががぽっと飛まつを飛ばし、
恐怖で硬直した矢野の正面から、篠田はゲリ便でぐちょ濡れのケツを向けて倒れこんだ。
「うぐううう」
矢野は篠田の尻を胸で受け止め、篠田は矢野の上に後ろ向きで座り込む形となった。
周囲の乗客は息を呑んだ。この不幸な女性は・・・
全身でゲリ便男を受け止めてしまった・・・・
矢野の靴や足元には篠田のパンツに溜まっていたゲリ便の残滓が流れ落ちていた。
電車はその間にも速度を速めていた。駅に着くのはもうまもなくであろう。
篠田は自分のゲリ便が矢野にばれてしまっただけではなく、矢野にべっちょりと浸けてしまった
現実に次のリアクションをどうすべきか考えが停止したままだった。
ゲリ便男とゲロ女がこんな形で合体したことを知る乗客はわずかだった。
これも神の采配だったのだろうか、矢野の完全犯罪は達成したものの、天罰が
下ったようなものだった。
キター(・∀・)
ど・・・どうなんの?これ?
45 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/07(水) 03:32:47
矢野さん…
46 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/07(水) 12:25:13
もう・・・目が離せない!!!!!
矢野さんあんまりいい性格じゃないな。
バッグをゲロのほうに押しやるなんて・・・
ドキドキ(◎-◎;)
☆ チン
☆ チン 〃 ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ ___\(\・∀・)< 続きまだー?
\_/⊂ ⊂_)_ \_______
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
|  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|
| .|/
50 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/07(水) 21:07:36
天空 編1
矢野の今日のスーツは、エース級ではなかったが、
この春、期待の新人スーツとして中継ぎ用に銀座の
松屋で買ったものである。
その淡いベージュ色のスーツとブラウスに篠田の液状の
飛まつが飛び散った。
篠田のパンツは液状の便が柔らかな粘土状に溜まっていたが、
篠田が矢野の膝に座り込んだ拍子に、篠田のズボンの後ろや
裾から、あたかもマヨネーズのチューブを踏んづけたかのごとく、
噴出したのだ。
篠田の上着のお陰で、矢野はゲリ便飛沫弾を顔に受けることは
逃れたがスーツの腹部から下には汚泥のごとくチャーコール状の
粘土を浴びてしまったのだった。
「バ、バック・・・」
矢野はとっさの出来事に、手に持っていた自分のヴィトンのモノグラムを
落としてしまい矢野は青ざめた。
スーツこそ自分にとっての最高品ではなかったが、バックと靴、ブルノーマリ
のそれはサッカーで言えばフル代表の高原と柳沢クラスの品だ。
しかし、矢野ご自慢の靴も、篠田の裾から放出された液状の粘土の山に埋まり、
そしてバック、バックも例外ではなかった。
自分がゲロを吐く時はバックは後ろ手に持ち、靴にかからないように
体を思いっきり前に倒してゲロってゲロからの防衛作戦は成功した
はずなのだ。
それどころか、他人が落としたブランドバックを自分のゲロ溜に押しやる
ほどの余裕があったくらいだった。
一瞬前までは清潔そのものだった矢野は今では下半身にゲリ便を浴びた
スカトロ女に成り果てていた。
51 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/07(水) 21:31:30
天空編2
篠田は作戦が失敗したことを悟った。
自分のパンツが自分のウンコでずっしりと重かった。
これはウンコを漏らした経験のある奴で無いと理解できない感触だ。
自分のウンコでありながら、パンツの中でずっしり溜まったそれが
出来るだけ自分の尻につかないよう、小股でそろりそろりと歩くのが教科書どおりの
ウンコ漏らしの歩き方である。
しかし、篠田は捨て身の作戦に出た。
「こうなったらみんな巻き添えにしてしまえ」
これは作戦というより、自暴自棄である。しかし、美意識の強い篠田は自分を
美化するためにもこれは作戦なのだと言い聞かせた。
不満を漏らした男を追いかけたのはきっかけであり、実は自分のウンコを周囲に飛散させ、
死なばもろともの状況にするつもりであった。
ウンコを漏らした男が1人孤立するのは耐えられなかった。
1人の男がゲリ便溜に突っ立ち、その周辺で乗客たちが見て見ぬ振りをする。
その男の行く末を案じながら。
篠田はその時、小学校の頃のあの時を思い出していた。
寝冷えでもしたのだろうか、篠田はその日は朝から腹の具合がおかしい気がしていた。
四時間目までは何とか持ったのだが、昼の給食を食べた後がいけなかった。
昼休みの間に腹がうねり始めたのだ。しかし、小学校というのは「学校の便所でウンコ」
することは人非人であるとされていた。
五時間目の授業は椅子に座っていることもあり、必死に腹をなだめ叱り付け、乗り切ったが
六時間目は体育だ。
篠田は思い余って先生に具合が悪いので体育を休むと申し出た。
青ざめた(当然だ!)顔色の篠田を見て、先生は「保健室で休みなさい」と
優しく言ってくれたが、これも不運であった。
オオ( ̄□ ̄;)!!
53 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/07(水) 21:48:39
天空編3
保健室でベットに横に成れたのはいいが、根本の問題が解決しない。
美人で若い女保健婦に向かって「ウンコしてきます」などとはいえないのが
小学生なのである。
体育の授業中でみんな外なのだからトイレに行っても誰にも判りはしないのに
トイレにいけないのも,やはり小学生だからなのである。
篠田は六時間目が終われば後は帰るだけだから、家に帰ってから、という
無謀な希望に身を委ねた。
しかし、神は、この不幸な小学生の杜撰な計画を許さなかった。
教室に全員が戻り、先生が終わりの連絡をしている最中に篠田は崩壊した。
次第に教室中に広まってくる糞便の匂い。
生徒たちはさりげなくあたりを見回し、レーダー感度を最大限にアップ、震源地をサーチし始め
るとのちに先生も気づいたように言葉数が少なくなって来た。
教室の緊張が最大限に達したところで、学級委員長の山田がすっくと立ち上がり、
「先生、篠田君がウンコ漏らしました!」
と高らかに報告したのだった。
あの時から、俺はトラウマを背負ってしまった・・・
一瞬の出来事が自分ひとりを全く別の世界へと追いやってしまうのだ。
自分ひとりがウンコを抱えていれば確かに孤高の人だ。しかし、みんなにこれを分け与えれば
みんな同類だ。
篠田は説明不可能な理屈を作り上げ、他の乗客にも自分のゲリ便をお土産に振舞おうと
しただけなのだった。
しかし、乗客たちは中には篠田の犠牲になったものもいたが、大半は巧みに逃げ仰せ、
こともあろうに、矢野さんの膝にゲリ便たっぷりの尻で尻餅をついてしまったのだった。
その時、電車はホームに滑り込んでいった。
☆ チン 〃 ∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ヽ ___\(\・∀・)< 続き早くゥー!!!!
\_/⊂ ⊂_)_ \_______
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/|
|  ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄:| :|
| .|/
ワクワク・o(^-^)o
+(0゚・∀・) + テカテカ +
57 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/08(木) 09:33:57
篠田も矢野もウンコが悪いね!
アッ運だったね!
ハラハラ・ドキドキ(◎-◎;)
59 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/08(木) 20:45:49
紺碧編 1
電車がホームに滑り込むと、乗客たちはその殆どがホーム側のドアに
向かおうとした。
しかし、この混雑であり、しかも先ほどの騒ぎのお陰でみんな体勢がままならぬ
状態が続き、気持ちだけが焦っていた。
篠田は矢野の膝に尻餅をついたが、一瞬のうちに我に返り立ち上がろうとした。
しかし、ここにも神の采配があったのだろうか、篠田が立ち上がろうとしたとき、
足元にあった何かを踏んづけてしまい、もともと不自然な姿勢から無理やり
立ち上がろうとした無理も重なって、矢野のほうにまたもや背中から
倒れこんでしまった。
クソ付きリーガルの篠田の靴が踏んだものは・・・矢野のブランドバックである。
うげえ・・・。蛙の潰れたような声が篠田の尻から聞こえた。
さっきは篠田を膝で受け止めたが、今度はもろに顔で篠田の尻を
受け止めてしまったのだった。
矢野はハンカチで口元を押さえていたので、口への直撃は逃れたが、
横を向いていた顔の側面にはべっとりと篠田のお土産、ゲリ便の
文様が残っていた。
矢野は神経が暴走しそうであった。
いや、暴走していた。
自分に何が起っているのか理解できなかった。
ゲリ便のケツを膝とお腹で受け止めたあのニュルリとした不気味な
感触で呆然としている間に今度はズボンいっぱいに広がった、
そのゲリ汁たっぷりのケツを顔でに押し付けられたのだ。
この茶色い液什が顔におべっちょりと、粘土状の物も口の横にべろりと
ついた・・・
60 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/08(木) 21:23:43
紺碧編 2
人間は自分の想像を超えた現実に直面すると、精神のバランスを保つため、
無意識のうちに現実から逃避するという。
矢野のこのときの状態も全くその通りの防衛機構が働いたのである。
矢野は自分の服や顔に何がついたか、何が起っているかを瞬時に脳内から消し去り、
猛烈な悪臭のさなか、
「あらあ、バックはどこかしら。確かこの辺に。あ、あった、あった良かった」
などと暢気な状況を作り出し、精神の崩壊を防いでいた。
篠田はもはや、気持ちはホームの外に飛んでいた。
ドアが開き次第、逃げるのだ逃げて逃げて逃げまくるのだ。
一刻も早くこの状況から逃げ出したかった。
今日のスーツはダンヒルのオーダースーツを着ている彼にとって、
今日の服装はフル代表の布陣に等しかった。
モスグリーンのスーツ姿の彼を前から見れば、普通の通勤途上のリーマンにしか見えない
はずである。
しかし、後姿はズボンの全面にかけて茶色い染み状の汚泥が広がり、一発で
ウンコ漏らし男とばれる。
電車から出たらどうする?その先のことはわからない。
股間の染みもかなり前部まで染み出してきており、内股で歩かなければ
車外の人にもばれてしまう。というより、匂いで周囲の注目を浴びあっさりとばれてしまうのだが、
彼にはそこまで考える余裕すらなかった。
今日はドルチェ&ガッバーナじゃなかったんだね。
62 :
作者:2006/06/08(木) 21:46:40
>>61 すみません間違えました。
違う名前だったと思って探したんですが、見つからなくて別の服を
でっち上げました。
63 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/08(木) 21:48:35
今日はリアルすぎてキモい
64 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/08(木) 21:52:55
紺碧編 3
電車がホームに着き、ドアが開いた。
乗客たちは悲鳴と罵声を上げながらドアに殺到した。
みんな、もう一刻も早く脱出したかった。
このウンコ男の犠牲にならずに安堵する者、ウンコ汁を被弾し、悪態をつくもの、
ウンコ臭で気絶しそうな者、様々な乗客が逃げ出していた。
篠田は、「こけつまろびつ」という言葉を目の当たりに見た気がした。
本当にこけている者もいるし、足が動かずに四つんばいになって這って逃げているものもいた。
篠田もドアから逃げようとして、それを追いかけてきたと勘違いして逃げるものあり
駅のホームは騒然となった。
ホームで電車を待っていた乗客たちは、目の前に停まった車両から怒号と共に
猛烈な匂いを発する人々が出てきたので肝を潰し、いっせいに後ずさった。
矢野はふと気がつくとホームに降り、電車の側を歩いている。
すぐ側には、矢野のゲロ溜まりに転び服を汚して途方にくれるもの、ウンコの飛沫を浴び
憤っているもの、など敗者たちがかなりの数うごめいていた。
その中には先ほど、矢野のゲロに浸されたエルメスのバックを持っている女性も怒りの
目つきでたたずんでいる。
さすがにエルメスを持っているだけあって、スーツも都会風の高級そうな仕立てであり、
せいぜい、A代表か選抜クラスの矢野の服装では足元にも及ばないレベルの女性であった。
そして麻酔が覚めるがごとく、矢野自身も、自分の置かれている状況を自覚し始めていた。
65 :
作者:2006/06/08(木) 21:54:43
すみません。
同じような内容の連続で自分でもネタ切れです。
これで終わりにします。
お騒がせしました。
>>65 乙!面白かったお(^ω^)
また、おながいします
筒井風味だったな…
>>65 面白かったです!
でも、みんなウンコ漏らして処理する所とかあんまり描かないよね…
その後、誰かに何か言われたとか、どうやって家まで帰ったとか。今度はそういうの含めて見たいです!!
69 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/09(金) 01:43:39
篠田作者さん笑いをありがとう大好きです!
70 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/09(金) 02:48:41
北野編の続きはまだかいな
>>65 気持ちはわかります
うんこ漏らした後って急にネタがなくなりますよね?
『どうしたの?苛ついてるね。おなか痛いのかなー?』
不良の溜まり場にやって来た女はなれなれしく剛田に質問する。
この女、京子は剛田に惚れている。京子に限らず剛田に近寄る女は多い。
やはりリーダー格の不良は老け顔でも
もてるのだと剛田はともかく子分達は深く理解していた。
『そんなんじゃねぇ』剛田はつぶやいた。
男として人生に途方に暮れているなどと言えるわけもなく
剛田は渋くその場を立ち去った。
73 :
剛田:2006/06/09(金) 06:01:54
剛田はしかし進路に対する苛つきももちろんあったが
今日はそれ以上に特別に機嫌が悪かった。
しかし鈍感な剛田は自分の内面の変化に気づく事もなく時間だけが
着実に如実に彼の内部に変化を起こそうとしていた。
単位習得のために三時間目の授業まで出席した剛田であったが
やはり生来の勉強嫌いが災いし結局先の溜まり場、といっても
剛田一人であろうがそこで時間を潰す事にした。
74 :
北野:2006/06/09(金) 06:15:42
教室に向かう途中、北野は重大なミスを犯していたことに
気がついた。『あの黒いビニール袋、トイレの個室に置きっぱなしだった』
急いでトイレに向かうがやはりない、誰かが片付けたということに
なるのだろうが『この分だと学校中に噂が広まっていると考えていいだろう』
北野は冷静に最悪の状況を臭味レートした。
『最悪の状況?これ以上の悲惨な状態にどうすればなれるのか?』
自己を襲った突然の惨事に比べればトイレにビニール袋を置き去りに
した事ぐらい『焼け石に水だな』言葉の使い方を誤る優等生だが
ようはニュアンスがわかればいいという柔軟なスタンスが今の北野には
ある。いや決して『泣きっ面に蜂』ではないのである。
優等生の脆く壊れやすい心はいつしか、強く、長く、深く、広く
人生を雄大に楽しませてくれるだけの余裕を備えていた。
北野は実験室に向かった『ガララッ』
『き、北野く・・・・』
『橋詰・・か』
75 :
北野:2006/06/09(金) 06:35:20
沈黙する二人だがチャイムに救われた。
『キーンコーンカーンコーン・・・』
皆北野の登場に戸惑ったが次におこすべきアクション、椅子に座り先生を待つ
目指して各々の座席に着いた。他の班は独自の空間を形成しているので
存外自由に会話をしているが北野の班は羊たちの沈黙である。やがて教師が到着した。
『起立、礼、お願いしまーす。』実験は班ごとに分かれて行う。
おそらく北野にとってこれはうんこ漏らし後の最初の試練になるだろう。
もちろん最初の試練は敗戦処理に他ならないのだが
強いて言えばこれは社会復帰のための登竜門なのである。
『やってやる』北野は燃えていた。
『今やうんこ漏らしの泣き虫というレッテルを貼られた以上
この状況を持ち直すのは一筋縄ではないだろう。』
状況は極めて悪い。しかし北野には自信があった。
『この程度の実験なら目を瞑っててもできる。俺が
もっとも意識して切り抜けねばならないのは班員(特に橋詰)
の心情の考慮という問題だ』そういう意味では嫌でも会話を
しなければならない実験というのは北野にとって東大の入試
問題を解くのとは違う軍人のような瞬間的な判断力
が必要不可欠であった。
優等生北野にとって簡単だが大変難しい二つの意味を持つ実験が始まった。
76 :
北野:2006/06/09(金) 06:51:23
北野は生まれて初めて本気になっている自分に驚いていた
とてつもなく思考が早いのである。
手始めにこの授業中に起こるアクシデントを徹底的に分析し対策も
それぞれ用意しておく。次に班員の分析である。男2女3、
男は北野とオタク系の男で、女三人は橋詰をリーダーとした
仲好し三人組といったところである。みな北野がウンコマンになる前
までは非常に仲のよかったメンバーである。
『これならすぐに信頼を回復できるな』
実験開始と同時に北野はいつものように率先して動き出した
班員も戸惑いながらもいつもの北野のペースにあわせて
北野の指示に従いながら実験は進んでいった。
北野の指示とは言うもののこの班はいつも北野に頼りっきりだったのだ
だから北野抜きで実験する事などそもそもできないし自分が何をすれば
いいかわからないので北野の存在は貴重であった。
『少しづつなじんで来ている』北野は感じ取っていた。
77 :
北野:2006/06/09(金) 07:05:30
『やっぱり北野君は頼りになるね』橋詰である。笑顔である。
が北野は気に食わなかった『どうやら俺の方が格下になったようだな』
北野の醜態を見た橋詰は精神的に北野の上に立っていたのだ。
『まぁいい、』今やウンコマンとしてポジションを確立しようとしていた
北野であったがそれで全体が和むのであれば安い買い物なのである。
実験も中盤に差し掛かって確かにクラスに溶け込みだした北野であった
予想どうり橋詰は未だに北野に好意を抱いているということもわかった。
思えば橋詰は優秀すぎる北野に対して一歩引いていた感があった
今は三歩距離があるが橋詰の方から北野に歩み寄る余裕がある。
以前は越えられない壁だったが今では格下の男である。
格下というのはあくまでもレッテル面での事なので
中身は優秀な男。橋詰にとっては今以上のチャンスはないのである。
北野もまんざらではなかった。何せこいつの評価を気にしてうんこを漏らして
しまったのだから当然北野にも何らかの感触はあるのである。
和気藹々と実験を進める北野班
楽しそうな橋詰の顔を見て気に食わない男が一人
『よ!うんこ漏らし』北野はこの言葉を待っていた。
78 :
北野:2006/06/09(金) 07:24:20
この男は先の事件で『臭っせ』の一言で北野を泣かした男である。
無論北野にとっては予定通りで寧ろ本当に打ち解けるにはこういう男の
存在が必要不可欠なのであった。
優等生北野、しかし敗北を体験した北野にはとらわれがなく
易々と凡人が攻撃を加えていい相手ではなかった。
その発想力、その行動力、天衣無縫の人間性、
班の雰囲気をぶち壊そうとした男もやはり相手が悪かった。
一瞬凍りついた班であったが北野は融解する一瞬を見逃さずに
崩れんばかりの満面の笑みで反撃を加える
『うん!君は橋詰さんが好きだから』ひょうきんな口調である。
いつの間にか静まり返っていたクラスにそこここと笑いが点灯する。
顔を真っ赤にして退散する男、笑いをこらえる橋詰仲良し三人組。
うんこを漏らした北野は強かった。もはや天馬空である。
北野は実験で成功を収め、いよいよ昼休みが始まった。
北野〜ワクワク!o(^-^)o
80 :
北野:2006/06/09(金) 07:46:41
『最高だったよ』橋詰が北野に近寄る。
北野は幸せを実感していた。しかしこれから食事を
する上で先の脱糞事件の映像がクラスメートの脳裏に浮かばない
か心配でもあった。本来北野は他人に迷惑をかける事を極端に嫌う男である。
そんな北野の状況を察してか橋詰は小声で『気にする事ないよ』と耳打ちした。
北野は不覚にも勃起した。
『橋詰は俺の正室にしてやる』北野はどこか傲慢になっていた。
北野は基本的に昼食を食べるメンバーが一緒である。
教室に戻った北野はクラスメートの冷やかしとも友情
ともとれる妙な雰囲気から脱出しいつもの仲間のいる場所へ行くことにした。
81 :
剛田:2006/06/09(金) 08:15:43
『おなか痛いのかなー?』
剛田の頭の中ではいつしかこの言葉だけが反復されていた。
剛田はようやく自分の腹が痛い事に気づいた。鈍い男である。
進路に対するいらいらももちろんあったが
今日はそもそも気分自体が悪かった。
が現段階では腹の痛みだけで大便が出そうな気配はなかったので
トイレに行くことはなかった。どっちみち目の前に便所があるの
で安全は確保されている。それに剛田はできるだけ我慢してから
用を足す習慣のある男なので必要なかった。
その間もやはり剛田は進路の事で頭を悩ませながら便意が行ったり来たり
と中々苦悩の時間を過ごしていた。昼休みが近づくにつれて
ヤンキー仲間も集まって来た。剛田の分のパンを持ってきた者もいる。
全く有難くない剛田は不機嫌な時間を過ごすがいつもの事である。
メンバーは京子と子分二人、剛田も入れて四人である。
非生産的な時間を過ごしていた剛田だが人生にはそれも必要である。
昼休みが始まって間もなく剛田にとっての重要ファクサー
『おはよう剛田君!』北野がやってきた。
82 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/09(金) 15:54:11
北野と剛田は同じ学校!!
この展開はおったまげた
オオ( ̄□ ̄;)!剛田&北野!
同日、同校、同級生がウンコ漏らすのか…
85 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/09(金) 16:38:07
↑うまいこというじゃないか
86 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/09(金) 19:06:13
「臭味レート」って言いえて妙。
篠田さんと矢野さんも
卒業生という妄想(・・;)
輪廻転生。
89 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/10(土) 06:10:34
剛田と北野作者は同一人物なんでつか?
90 :
うんこ女:2006/06/10(土) 06:43:52
私のお父さん
私のお父さんはサラリーマンです。
家族の為にいつも遅くまで仕事を頑張ってるお父さんありがとう!
今日はお父さんに叱られないよう頑張ります!
忘れもしない小学5年生の授業参観…
前日に出された宿題の作文を読み終え得意げに後ろを振り向くと
父が笑顔で手を振ってくれた。
私は授業そっちのけで後ろに立っている父が気になっていた。
父はこれまで仕事が忙しいらしく授業参観に来る事は、なかったのだが、大好きな父に私の学校や普段どうやって過ごしているかを見てもらいたかったのだ
91 :
うんこ女:2006/06/10(土) 06:52:17
自慢の父親を学友に見せびらかしたい私は、今までにも何度か頼んだ事があった
『お父さんさぁ今度の参観日これる?』
「んー仕事が忙しいんだよなぁ」
いつもならここで諦めていたのだが今回は、もう一押ししてみた
『だってぇ私だけだよいつもお父さんがこないのはぁ』
すると母が「我儘言ってお父さん困らせるんじゃないの!忙しいんだから」
私は大好きな父親をこれ以上困らせたくなかったので諦めた
だがこの時だけは父も一度位はと思ってくれたのだろう
授業参観にきてくれる事になった。
すると母は「貴方ぁ無理しない方がいいわよ?」
私は父の気が変わらないように話をすり替えたりしたのだった。
92 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/10(土) 06:59:46
授業参観の前日、クラスの皆はイベントを明日に控えソワソワしていた
『あー俺、明日嫌だなぁーうちの親父マジこえーんだよ』
『うちも怖いよ!それに明日は国語だしやばいよぉ』
皆、嫌だとか何とか言いながらも、いつもと違う雰囲気を楽しんでいるようだった
私も例外ではなくウキウキしていた『早く明日にならないかな(>_<)いい所見せるんだ!そうだ早く帰って作文の宿題しよっと!』
93 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/10(土) 07:13:49
そして参観日当日…
「ネェネェあの格好いい人誰のお父さん?」
「あっ本当だぁ超格好よくない?」
キャッキャッ
父は歳より若く見え背も高く万人受けするタイプであった
私よ!私のお父さん!!
こうなるであろうと予想はしていたのだが親を誉められるのは自分が誉められている錯覚に陥っていた
なおかつ超ファザコンだった私は正に有頂天だった
『おとうさぁーん!』
私は皆にわかるようわざと手を振った
「あれ篠田の親父かぁ」
「篠田さんのお父さん格好いいね」と口々に言い始めた。
父はしばし注目の的になり照れたのか赤い顔をしている気がした
94 :
剛田:2006/06/10(土) 07:20:20
『ヨォ』と剛田
『き、北野ちゃん・・うんこ漏らしたってほんと?』京子がいきなり質問する。
京子はまたとてつもなく美人だが直情型の人間である。
北野にとってその話題に真っ先に触れてくれるのはありがたいのだが
扱いを間違うととんでもない方向に話が展開するので注意しなければならない。
『うん、授業中に我慢できなくなっちゃって。情けない』
京子の矢継ぎ早な質問はある程度答えを用意していた北野でさえ
対処しきれないほどであった。京子と剛田の子分二人そして北野の
質問のやり取りが続いている中、剛田は腹痛とともに考えていた。
『北野に進路の相談を持ちかけるか?』
『ぐぎゅぅうううきゅるう』いよいよ剛田も我慢の限界である。
『おい北野、お前学校出たらどうすんじゃい?』
『え?僕?別に考えてないよ』
『お前、大学は?』
『行かないよ』
『なんだと?』
まだ聞きたい事はあったがいよいよ剛田の腹も限界に達し
ひとまず便所に向かう剛田。
『剛田あぁぁぁぁああぁああ!!!』
95 :
剛田:2006/06/10(土) 07:54:21
剛田は戦慄した。
『きゃああああああああ!!』
角材を持った男が123・・5人
それが何であるか考えるまでもなく剛田は自己に降りかかった問題に
目眩がした。剛田の状態を察して北野は言い放った。
『剛田、行け』
無論剛田もそのつもりである。
『あ、ああ、すまん』『剛田さん、早く』子分二人も状況を理解した。
ガタイのいい男たちが全力で剛田の元に向かってくる。
『どるぁあぁあああぁ!!』
北野は先頭を走る男に合わせクルリと背を向けると次の瞬間
凄まじいスピードで回転しながら投げ出された北野の左足が男の側頭部に命中した。
子分二人で次の男達にしがみつく。
しかし後続の二人がなおも剛田めがけて突進してくる。
北野は倒れていたがそのまま二人に足払いをする。
『ズシャッツ』一人は転倒させることに成功したが後の一人
が剛田の元へ向かう。剛田はとにかく個室に逃げようとしていた
しかし限界まで溜め込んだ糞便といきなり襲撃されたという恐怖
で今にも漏らしかねない雰囲気であった。非常にゆっくりと前進
する剛田。いよいよ個室に手が届いた。しかし『キィィエエエエエエエエ!!』
人間とは思えない奇声とを張り上げながら残った最後の男が手にした
角材で全力で剛田の肛門を突きたてた。
96 :
剛田:2006/06/10(土) 08:14:52
『グスゥウウ』
『スホゥー・・がっ・・ご・・・・』
剛田はこの時半ば諦めていた。今から止め処もなく流れる下痢便に覚悟した。
『北野の漏らした日に俺まで漏らすとは、これがいわゆる食物連鎖か』
剛田は馬鹿だった。
『北野の奴、優等生なのに喧嘩なんかしていいのか?
いや、あいつは大学には行かんのだ進路には差し支えないだろう』
瞬間的にいろいろと思考した剛田であった、が漏れなかった。
『あれ?まだ漏らしてないのか?』かすかな希望を胸に剛田は個室に
入ろうとする。『キャアァアアアア!!!!』男は突き立てていた
角材を抜きすばやく剛田の左足にタックルをして強制的に開脚状態
にした。『なっムゥーチムゥーチブリュウウビュリュリュリュブリッツシャー』
剛田はキレた。
97 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/10(土) 08:32:18
学校シリーズ凄い。読みごたえあるぜ。
99 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 01:27:08
ウンコの篠田が娘の親父になってるw
オオ!篠田親子p(^^)q
奥さんも・・・(ry
ウンコ一家にウンコ学園…
街をあげてのウンコ祭だね。
102 :
うんこ女:2006/06/11(日) 13:06:40
私は父にいい所を見せようと授業中、何度も手を挙げた
しかし先程、作文を読んでしまったので、なかなか先生に指名されなかった
その度に私は後ろを振り向き、やれやれ…と首を振り父にジェスチャーをした
何度か振り向き父を確認していたのだが、参観というイベントのせいか父の笑顔が自然では、ないのだ
引きつっていると言うか、せっぱつまっている顔
そんな父を見たことは、今までなかったので
「無理に頼んで悪かったかな」などと子供ながらに思ったのだった。
しばらくすると教室内に異変が起こった
103 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 13:32:13
突然、後ろの席のクラスメイトが騒がしくなった
『はぁい!皆さぁんお父さんが来てそんなに嬉しいのかな?静かにしようね!』
先生は保護者が来てるせいか、普段と違い優く叱った
すると一人の生徒が
「先生!なんか臭いんですけどー」
後ろを振り返ると父は笑顔ながらも落ち着きがない様子だった。
そしてその臭いは私も教壇にいる先生もわかる程、強烈に漂ってきた
教室は大騒ぎである
今までにも放屁を、すかす輩がいたが、この臭いは小学生が放つ臭いではない
私は恥ずかしくなった
初めて父に来てもらった授業参観なのに、こんなにクサイ授業になってしまうなんて…
『ちょっと匂うねぇ窓際の人あけてください!』
先生…これはちょっとどころじゃすまないよ…
鼻を腕でふさぎながら振り返り父を見ると
父の笑顔は消え、天井を見上げながらブツブツ言っていた
他の父兄は苦笑いしているのに、父は明らかに浮いている気がした。
『じゃあ次はぁ篠田さん!』
やっと呼ばれたそのとき
「ひゃっい!」
???
私は自分の耳を疑った
全員後ろを振り向く
なんと父が返事をしたのだ、裏返り情けない声で…私はテンパってしまい、呆然としながら父を確認すると
顔を真っ赤にし、落ち着かない様子だ
まさか父が放屁したのか?
104 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 13:43:06
『篠田さんのお父さんかな?じゃあお父さんに答えてもらいましょう』
先生は普段ではありえない満面の笑みで言い放った
すると父はクラス全員の視線を集めながら、こういった
「…しぇ、しぇんしぇーごめんなしゃい、うんこ漏れちゃいまひた」
教室内がどっと湧いた
アハハハハハ
ワハハ
皆、冗談だと思ったらしく大笑いである男子は机をバンバン叩き喜び
女子は恥ずかしさで手で顔を覆っていた
娘である私は涙ぐんでいた
私の父は背が高くてウンコモラッシャーでぇ…
思考回路はメチャクチャになりつつあった
105 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 13:51:58
先生は私と同じに涙ぐみ私を睨んだ
当たり前である、父兄が大勢いる中ウンコを漏らすという馬鹿げた事で恥をかかされたわけだから…
『篠田さんのお父さん?おトイレに行ってください』
担任の笑みは消え、見たことのない冷徹な顔で言い放った
「ひゃいすいましぇん…」
父はよたつきながら教室の戸を開けた
グレーのスラックスの尻部分が、大きく濡れていた
私はすかさず手を挙げ父を追い掛けた
教室は大の大人が、ウンコを漏らした、と言う事実に衝撃を受け静まり返っていた。
私は廊下を走った
泣きながら走った
大好きな父のそば早く行きたくて…
106 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 14:01:01
男子トイレにいき父に声をかけようとドアを開けると
『あっお母さん?お父さんだけど…うん、今、トイレ、やっちゃった、うん…ごめん、うん着替え持ってきて』
便の臭いが充満している中、父は母に電話をかけていた
「…お父さん」
『あっ…アハハごめんな、お父さん…情けない…うっうっ』
私は泣いている父に何の言葉もかけてやれなかった。
キーンコーンカーンコーン
休み時間になりガヤガヤし始めた
『お父さんは今着替え持ってきてもらうから大丈夫だよ』
そんな事を言われても今更どんな顔して戻ればいいのかわからないし
いっその事、転校してしまいたい位だった
107 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 16:58:36
授業参観なんて、いつでもトイレに行ける状態で大人が漏らすってのは
設定に無理があるような・・・
この後に意外などんでん返しがあるんだなきっと。
108 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 17:24:20
私も父も泣いていた
途中、何も知らない生徒が用を足しに、数名来たが
便臭の中泣いている父と娘の絵づらに驚き、用は足さずに出ていってしまった。
お互い話し掛ける事無く時間だけが過ぎていった。
トイレの外はどうなっているかわからない
きっと私と父の話題で盛り上がっているだろう
そして授業参観と聞くたびこの事は語り継がれるのだろう…
私達は、母が着替えを持ってくるのを無言で待っていた。
ピロロロンピロロロン♪『あっお母さん?うん今二階のトイレはい』
『お母さん着いたって』
「 …うん」
『おまえはもう教室に戻りなさい』
プッツーン
私の中の何かが切れた
109 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 17:35:32
「な、なんで?私がこのまま平気な顔して教室に戻れると思ってるの?大体、漏らす前に何でトイレに行かなかったのよー!」
私は泣きじゃくりながらも自分の気持ちを訴えた
父は悲しそうな顔をしてこう言った
「おまえがいつ先生に差されるかわからないだろ?…だからお父さん我慢してたんだよ…ごめんな…」
私はどこに、怒りをぶつければよいか、わからなかった。父の気持ちは、嬉しいがウンコを漏らす位なら来てくれない方が良かったのだ
すると母がきた
「貴方…着替えて帰りましょう」
私は立ち尽くしていた
どうしたって事実は変えることは出来ない
そんな私に母は
「あんたもお父さんの事は笑ってごまかしちゃいなさい」
んな、ムチャクチャな…
小学5年と言ったら色気づき初めている年頃なのに笑って誤魔化せるはずがない
「お父さん…さっきは、あんな事言ってごめん」
『おまえが謝る事ないよ、お父さんが悪いんだから…』
そう言って私は教室に戻る決意をした。
110 :
うんこ女:2006/06/11(日) 18:00:04
教室に戻ると、父兄参加のレクリエーションの話し合いが、されていた
私が席に座ると、
『篠田のオヤジはウンコモラシーィィ!』
と声高々に男子が言い放った
クラスは笑いで包まれ
私は逃げ出したかったが何も聞こえないフリをし目を伏せた
そこには机には大きく
“うんこ”と悪戯書きがされてあった
心臓がバクバクしてきた
少しの時間だが便臭の中にいたせいか吐き気も催していた。
先生は笑いながら私をからかった生徒に注意をした
明らかに父と私を馬鹿にしている…
ん、んーヴーッッッッ!
『篠田さん?どうしました?』 オロロロロロロロ!!!
私は嘔吐してしまった。
…そういやお母さんも若い頃、電車で吐いたって言ってたな…フフフ
クラスメイトが騒いでいたが私は、思い出し笑いをしていた。
汚物に、まみれながら…
ジ・エンド
111 :
剛田:2006/06/11(日) 18:40:02
『オオオォオオオォオオオ』
男の首根っこをつかんだ剛田は片手でトイレの外まで
ぶん投げた。『北野ォ無事か?』
『剛田君間に合ったの?こっちは全員寝てるよ』
『そうか・・・いや、俺も漏らした』
『そうは見えないけど落ち着いてるね』
『そうか?とにかく言わないでくれ』剛田は普段以上に素だった。
惨めな剛田の気分を察して北野は言う
『やっぱり君普通じゃなかったんだね、人間がゴミ袋みたいに
飛んできた時は目を疑ったよ。』
『北野、着替えの用意できるか?』
『もちろん!そこで待ってて』北野がトイレを離れようとする。
『あ、ちょっとまってくれ、さっき頼もうと思ったんだが
一緒に職探ししてくれないか?』少し考えて北野は
『まかしてよ!君ならすぐに見つかるよ』と笑顔で言った。
剛田の不安と腹の痛みはこの時消えた。
112 :
剛田:2006/06/11(日) 18:51:12
『守るぅぅ・・やだ・・また漏らしたの?信じらんない』
剛田は常習犯だった。
『イヤー剛田さん今回もいいもん見せてもらいましたよ』
子分はうんこを漏らした剛田がさも当然であるといわんばかり
の不遜?いや、これは本当の信頼を寄せる人間に対しての反応だ。
『おのれら後で覚えとけよ、北野が来たら動けるからのぅ』
先ほどの騒動が嘘のようにほのぼのとした時が流れていく。
この先どんな人生が待っているか、それは剛田にとって楽しみでしか
ない、もしかすると今回でうんこを漏らすのは最後になるかもしれない
剛田にはそんな予感さえしていた。北野が到着するまでのわずかの間
最後の下痢便の感触をじっくりかみ締める。やがて北野が到着すると
的確に敗戦処理が進行していく。一段落し5時間目、六時間目と何事もなく
時が過ぎていった。
113 :
北野:2006/06/11(日) 19:12:26
授業が終わり放課後の教室に夕日が差し込む。
教室には北野と橋詰の二人。朝の時間の再現である。
ただ朝とは違って橋詰に下心はなく北野にもまた気張った様子はない。
天気は快晴、成績は優秀
北野は朝の自分を思い出して見るが今となっては遠い過去の出来事のようだ。
北野は橋詰に歩み寄ると一言『ありがとう』
橋詰は北野のやさしい笑みに頬を赤らめたのであろうか?それとも単に
夕日で紅潮しているだけなのだろうか?どちらにせよ目の前の男に身を預ける
一人の女であることに変わりはない。北野に抱き寄せられるままに軽いキスをした。
抱擁が終わり、ほどなくして橋詰は言った『じゃあ一緒に帰ろっか』
北野はコロネルが落ちていたであろう場所をチラリと見る。
瞼の裏に鮮明に焼き付いた過去の記憶も嘘であったのかと思うほど何事もない。
『ああ、行こう!』もうそこにうんこ漏らしはいない。
力強い言葉とともに全てを断ち切った北野は新たな人生を歩みだした。
・・・END
みなさま短い間ですがご清聴ありがとうございました。
篠田親子編の結末(・∀・)ヨカッタ!
115 :
吉野:2006/06/11(日) 19:31:52
とかく日本という国柄は排泄に対しての国民の認識レベルが低い。
それゆえしばしば平坦な人生に、各々の汚点を突如刻み付けられる事になる。
その数は計り知れない、人知れず屈辱で涙した者も多いだろう。
それが人間の機能なので、そこで生まれた物語は文化である。
これは一人のスーパーエリートサラリーマンに起こった没落の追憶である。
116 :
吉野:2006/06/11(日) 20:12:12
吉野龍一郎
運コンツェルングループ1000社の跡取りとして生まれる。
幼少より帝王学を始め、あらゆる学問あらゆる武道あらゆる教養
およそ人生に関するありとあらゆる知識を徹底的に吸収する。
『合併?買収?どっからでもかかってこんかい。
運コンツェルングループの全てを受け継ぐ男。
全てを約束された頂点の男。それが俺、吉野龍一郎だ!!』
今回はそんな吉野の政略結婚物語である。
ワクワク(;゚∀゚)
118 :
うんこ女:2006/06/11(日) 22:40:36
>>114さん感想ありがとうございます!
いいわけになりますが携帯だと、思ったような話作りが出来ず
書き込み終えた後にあーすればよかったなどと反省してます。
篠田の名字も最後に出したほうがオチとしては良かったなぁ笑
でも読んでくれる人がいるだけで励みになります笑
119 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/11(日) 23:23:59
登場人物の通う学校は養護学校か?
120 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/12(月) 00:42:39
「趣味は?」
「ありません」
「結婚しましょう」
「いやです」
完
121 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/12(月) 05:38:04
122 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/12(月) 14:46:57
暇だなぁ…
毎日、凄く楽しみにしています。
ありがとうございます!
124 :
吉野:2006/06/12(月) 19:43:10
赤松平蔵
賃コンツェルングループ1200社の首領。
政治、経済をはじめあらゆる方面に顔が利く。
赤松麗子
平蔵の娘、吉野と同じく一流の令嬢として
あらゆる教養を備えている
吉野と麗子はお互いに面識がなく結婚目前でグループ
の合併、そして繁栄を称えるパーティーに出席し面会にいたる。
125 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/12(月) 19:51:24
始まったーワーイ!
待ちくたびれたよ
126 :
吉野:2006/06/12(月) 20:02:08
『坂上さん、今日は麗子さんと会えるんですね?』
黒塗りのリムジンの車内で吉野は付き人に問う。
車内にはSPが4人乗り込んでいるが広すぎる車内は屈強な男が
何人いようとおかまいなしだ。
『さようでございます坊ちゃま、今日麗子お嬢様とお会いになられる
ことは先代からの約束であります。』
『坂上さんは麗子さんがどんな方かご存知ではないのですか?』
『いえ私どももお目にかかった事はございません。
ただ噂によると育ちの良さが全面に表れているとか』
吉野は不安だった、いくら社の繁栄のためとはいえ
相手の顔も見ずにいきなり結婚するというのは時代錯誤にも程がある。
しかしそんな不安もかまうことなく吉野を乗せたリムジンは
予定通りパーティー会場に到着した。
127 :
吉野:2006/06/12(月) 20:21:30
車を降りた吉野は盛大に出迎えられる。
会場はホテルというよりほとんど城である。
『ようこそ!龍一郎坊ちゃま!』
SPに四方を囲まれながら会場へと向かう。
『ま、顔合わせといっても結婚式じゃあるまいし気楽にやるか。』
吉野は今日という一日を楽しむ決心をした。
『ぎぎいいいぃいぃいいぃい』橋が降りるとそこではすでにパーティーが
始まっていた。『この先に俺の約束の人がいるのか』吉野はたじろいだ。
『ゴクリ!』たまらずつばを飲む。『帰りてぇー』
『さぁ、行きましょう』坂上が促すと吉野はゆっくりと歩を進めた。
パーティー会場ではいつものようにハイレベルで余裕の勝者の話題が繰り広げ
られていた。やれ鉄鋼石がどうの石油がどうの、国王がどうのロックフェラーがどうの。
吉野にとってはうんざりする辟易する世界が広がっていた。
128 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/12(月) 21:26:58
スレの題名に釣られてここを覗いた奴はびっくりするだろうな。
どれもこれもウンコ漏らしの話ばかりでw
129 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/12(月) 21:29:07
モラッシーに貴賤なし
130 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/13(火) 09:52:44
アハハハ
131 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/13(火) 17:52:19
今日は、まだか・・・。
楽しみに、しています。
132 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/13(火) 18:52:05
ワテクシも楽しみにしちょります
133 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/14(水) 17:22:42
age
134 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/14(水) 18:17:24
ようやく、今までの全部読んだ。
感動した!
135 :
吉野:2006/06/14(水) 19:39:30
会場に入った吉野は注目を集めていた。
近々グループのトップに立つ人間なので当然と言えば当然だが
吉野にはそんなことよりも結婚相手の麗子の事の方が気がかりであった。
『龍一郎君』
振り返るとそこには威厳に満ちた凄まじいオーラを放つ大人物
赤松平蔵だ。
『始めまして、吉野です』軽い挨拶をする。吉野は油断できなかった。
2、3やりとりをした後吉野は意を決して質問する。
『麗子さんは?』
平蔵は全てお見通しと言わんばかりの薄気味悪い笑みを浮かべて言った。
『今は、そうだな、ドレスアップでもしているのだろう、間もなく来る。
いやぁそれにしても麗子が生まれた時にお父さんにこの話を持ちかけた
のは私なんだよ。感謝してくれたまえ。』
得意げな口調に吉野は内心煮えくりかえる心地だ。
『じじぃー、お前か!下らん事を取り決めやがって』
136 :
吉野:2006/06/14(水) 19:50:41
『はは、ありがとうございます。光栄です。』
赤松との会話が終わると吉野は途方に暮れた。
『ひとまず麗子さん待ちか。』
吉野は改めて周囲の人間に目をやる。
上品な衣装、振る舞い、右も左も一流の人間の巣窟。
女性の中にはキワドイ服を華麗に着こなす者も多い。
『ああ、いいなぁ、麗子さんはどんな人だろう』
男に貴賤なし、吉野にとってはいつもの光景だがやはり
いや、当然股間が膨らむものなのである。
吉野はスラックスのポケットに右手を差し込むと
中指を硬直させた状態でクルリと時計回りに回転させ・・
『龍一郎さん』
ギクリとした吉野は恐る恐る声のした方角に体を向ける。
以下サラリーマンの一日へ続く
138 :
吉野:2006/06/14(水) 20:26:51
『優子さん!』吉野は叫んだ。
優子というのは吉野より2つ年上の女性であるが
吉野は以前から行為を抱いていた。
あまりにも美しいボディライン、吉野の上を行く子悪魔的な性格、
しかもどこか幼さの残る顔つきに力強い目。
努力ではこうは美しくなれない先天的に完璧な女性である。
『ポケットに手を入れて何をしていたのかな君は?』
この女はいつも吉野に対して挑発的な態度を取るのである。
吉野をからかっているのかかわいがっているのかどちらにせよ
吉野に抵抗の術はない。
『ああ、今日もなんて美しいんだ!本当に来てよかった。』
お世辞ではない、吉野は心から思った事をそのまま口にしている。
優子の手を取り手の甲に軽いキッスをした。
打算のない吉野の態度に優子は頬を赤らめる。
『ちょっと、さっきまでその手で何触ってたかわかってんの?』
そんな風に言われれば言われるほどどうしようもなく吉野はギンギンだった。
『申し訳ございません、しかしそれが男というものでございます
ましてやあなたのような方が視界に入ると私ごときでは抗う事がかないませんでした』
吉野は精一杯のユーモアを込めて言った。
もちろんそれは優子だから許される吉野にとっての貴重なひと時なのである。
139 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/15(木) 17:53:47
ま、まだ?
140 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/15(木) 17:55:56
うんこはやく
141 :
吉野:2006/06/15(木) 18:23:51
『しょうがないわねぇ』優子は笑顔でため息をついた。
『でもあなた今日は大事な日でしょ、少しは気を引き締めたらどうなの?』
吉野は無論そのつもりである。
しかし今の吉野の目には優子の方がまぶしく映るのである。
『はい、あなたがそれを望むなら』
吉野は快感に酔いしれていた。が、腑に落ちなかった。
『何悲しそうな顔してるのよ。麗子さん、きっと私なんかより美人よ』
『・・・・・・・・・・・・そんな』
優子以上の美貌を備えた女などいるわけない。美人は美人だろうが
しかし、この女の自信を兼ね備えた謙遜はたまらない。
『じゃあね。あなたの邪魔をするといけないしここで退散するわ』
『それじゃあまた』
吉野は残念だったが確かに今は麗子を優先するべきだと気を新たにした。
『優子さん、後ろ姿も完璧だ』吉野は去り行く美女を最後まで凝視していた。
142 :
吉野:2006/06/15(木) 18:40:59
優子と別れて吉野は再び途方に暮れた。
吉野には今日麗子と面会する以外の用事はないのだ。
陰茎が落ち着いたところで吉野は『腹が痛い』・・・気付いた。
吉野は今朝の食事を思い出す。
『思い出す必要もない。さば缶とご飯だ』
吉野は金持ちにもかかわらずさば缶が好物だった。
今朝も一缶開けてご飯を4杯しっかり食っていた。
『やっぱり食いすぎだったか。まあしかし、用が済むまで我慢できるだろう』
吉野は自信満々だった。なぜなら彼は今までに一度たりとも漏らした事がないからである。
無論それは当然と言えば当然だが吉野の自信はもっと本質的なところにあるのである。
吉野とて今まで幾度となく敗戦のピンチに見舞われたことがある。しかし
ことごとくその危機を回避してきたのである。中には一時間以上の長き
にわたって強大な勢力で押し寄せる下痢便に耐えた事もあった。
普通人には到底なし得ぬ困難である。
143 :
吉野:2006/06/15(木) 19:00:28
吉野は幼少よりあらゆる学問を学び身に付けてきた。
吉野は下痢便を耐え忍ぶにはヨーガの密法が最適である事を
知っている。今回も吉野は自己の安寧を確保するべく
この方法を実践するのである。
『ムン!』吉野は肛門を硬く閉じ、丹田に気を集中させた。
『フッ!コホァー。ふぅ、これでいい、これなら数時間は我慢できるな。』
体制を崩さぬよう気は抜けないが下痢便に対する恐怖と不安は払拭された。
今までもことごとくこの方法でピンチを切り抜けてきた。
今回も吉野が下痢便を漏らすということはありえないだろう。
下痢便の直腸への侵略がピタリと止んだ。
『龍一郎』聞き覚えのある声。親父か・・
集中するまえにトイレ行っとけよw
確かにw
吉野なら30秒くらいで済ませる技を知ってそうだ。
結局、篠田と矢野は結婚したのかw
147 :
吉野:2006/06/17(土) 19:28:34
振り返りつつも吉野は頭部を両手で覆った。
『ガッ!』凄まじいハイキックが吉野の上体を揺らす。
『気を抜くなよ』黒いスーツに黒い靴、黒いサングラス
をした吉野の父親はそう言うとサングラスをはずして
ポケットにしまい込みスタスタとパーティーに溶け込んでいった。
その様子を周囲で見ていたセレブ達は唖然としている。
『ごめんね龍一郎、お父さん嬉しくてつい足が出ちゃったのよ』
母は言った。先ほどのならず者の妻とは思えないほど美人である。
『今日は頑張ってね。私はお父さんと一緒にいるから。』
『そうしてくれ、お母さんといるとまた親父が戻ってくるから
落ち着いてられないよ』
吉野は懇願するように言った。それもそのはずでどこの世界に後ろから
いきなりハイキックを仕掛ける親父がいるというのか。
普段ならば慣れているので大した負担にはならないだろうが
今は尻の穴と丹田から気を抜くわけにはいかないのだ。
『全く相変わらずだな。しかもあんな親父のせいでこんなめんどくせー
パーティーに出席しなけりゃならないのかよ』吉野はムカムカした。
今度はこっちから不意打ちを仕掛けてやろうとひそかにほくそえんでいた。
148 :
吉野:2006/06/17(土) 19:48:05
『しかし遅いな』吉野はいい加減飽きていた。
『また優子さん来ないかな』などと本音の願望が脳内で発生する。
『龍一郎』また親父か・
吉野は身構えたが今回は殺気がない。吉野は父親の脇にいる人物を
視野の端で捉えていたが目をあわすことができなかった。
吉野の全身から汗が噴出しこの場から逃げ出したい感情に襲われた。
精神の瓦解とともににわかに吉野の大腸、いや、
排泄系の全器官がその働きを再開した。
『ドクン、ドクン、グルルルゥゥゥゥー』
『まずい!しかし、嘘だろう』
あまりの出来事に吉野の気のまとまりは失われにわかに下痢便が、
せき止められたダムが決壊したかのごとく凄まじい勢いで
吉野の直腸に向かう。
149 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/18(日) 02:30:12
キャーイヤァー笑
150 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/18(日) 14:22:56
麗子優子龍一郎のスカトロ3Pきぼん。
151 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/18(日) 18:10:17
まだかいな
152 :
吉野:2006/06/18(日) 19:02:48
『いったいどうしたというのだ?』吉野は状況を分析した。
許嫁との顔会わせが目的で今日はやってきた。
そしておそらく目の前にいる人物がそうなのであろう。
先ほどまで抑えられていた腹の痛みは
この人物を視界の端で捉えただけで再発してしまった。
今現在優先される事はトイレに行く事である。
許嫁の顔は未だに直視していない。
吉野はうっすらと許嫁であると思われる異形の者に視線をやった。
『初めまして龍一郎さん、赤松麗子です。』醜悪を極める女はニタリ
と笑みを浮かべた。『がっ・・・ご・・親父!』父親は・・・いない?
『は、初めまして吉野龍一郎です』
吉野はこの圧倒的な捕食者の存在に思考を滅断された。
『ハッ!』周囲がみな吉野と麗子に注目しているのに気付いた。
『グギュゥルルルルルゥゥゥルルゥウウ』
『まずい!、もう肛門がもたない』
吉野は八方塞がった。
153 :
吉野:2006/06/18(日) 19:22:29
『どうするどうするどうするどうするどうするー???』
吉野は半ばパニック状態ではあったが最悪の事態を避けるための
行動に無意識に移った。
『ダッダッダッダッダッ』全速力でトイレに向かう。
『バビュ!、ブリュニチー、ビリュリュチュー』 漏れた!
走行中の吉野のブリーフにこんもりと下痢便が充満するが
すぐさま激しい動きによって太ももまで侵略してきた
しかし100Mを10秒台で駆け抜ける男からは
コロネルがこぼれ落ちる事は無かった。
会場に着くまでにトイレの位置を記憶していた吉野は
勢いを殺すことなく一気に金持ち独特の馬鹿でかいトイレの個室に
逃げおおせた。『ハァハァハァ、』吉野の目には涙がにじんでいた。
傍目には醜悪な許嫁から逃げた卑怯な男と思われているだろう。
『大丈夫だ、少々不自然な態度ではあったが脱糞はばれない』
吉野は自分に言い聞かせた。『ハァハァ、ピ・・・坂上か?
すまないが周囲に悟られないようにトイレに来てくれないか?
この電話も僕だと思われないようにしてくれ』
154 :
吉野:2006/06/18(日) 19:58:28
『・・・かしこまりました』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『龍一郎坊ちゃまおられますか?』坂上はすぐにやってきた。
『10分ほどで全てを準備しますのでどうかそれまで
持ちこたえてください』トイレに踏み込んだ瞬間全てを察した
坂上はそう言い残し吉野の返答を待たずにその場を去った。
10分、吉野にとっては絶望的な長さだった。
それもそのはず先ほどの奇行とこの高級な便所に似つかわしくない激臭
は間違いなくトイレを訪れた人間に吉野の醜態を悟らせるだけの説得力が
あるのだ。会場からはどよめきが聞こえる。
『バレて、はいないだろう』吉野は許嫁に対する言い訳など毛ほどもかんがえず
に現在の難局を攻略する事に全ての精力を費やした。
155 :
吉野:2006/06/18(日) 20:11:53
長い十分間だった。
太宰治はその代表作『人間失格』で
ただ一さいは過ぎて行きます
と真理を穿った名言を残したが今の吉野にその言葉はまるで響かない。
『長い』いつ誰がトイレにやってきてこの激臭に僕を結びつけるやも
知れぬと思うと吉野は生きた心地がしなかった。
『ガチャリ!』心臓が止まりそうになった吉野は一瞬現実逃避
してしまったのかもしれない。ただそのおかげでこの大ピンチを
かろうじて切り抜ける良策を思いついたのである。
『二人・・・か』吉野は自分のプライベート空間に侵入してきた二人
に全ての注意を集中させた。
下痢便の激臭が二人の官能を通して彼らの意識に到達し、
今まさに吉野龍一郎という名前が彼らの心に浮かんだ直後を
見計らって吉野は始めた。
『う、う・・う、ぬ・・・くっふっふ!』
新たな展開(・∀・)ワクワク
157 :
太郎:2006/06/18(日) 22:20:40
とかく日本という国柄は排泄に対しての国民の認識レベルが低い。
それゆえしばしば平坦な人生に、各々の汚点を突如刻み付けられる事になる。
その数は計り知れない、人知れず屈辱で涙した者も多いだろう。
それが人間の機能なので、そこで生まれた物語は文化である。
これは窓際リーマン太郎のしがない敗戦記録である。
158 :
太郎:2006/06/18(日) 22:36:50
『行ってきまーす。』太郎は誰もいない自宅の玄関で一言呟き
今日もまたうだつの上がらない一日が始まった事を確認した。
身長168cm体重58kgスーツは2万円で靴からネクタイまで
全てそろえた、大学はそこそこ有名なとこを出たが特に身になった
とは思えない。就職活動では落ちに落ちて結局しがない三流企業に
内定をもらい現在28歳にして嫁も恋人もいない。
特に将来に希望があるわけでもなくただ食わんがために仕方なく
働いている。もちろんこのままでいいとは思ってはいないが
太郎にはまた自己を変えるような努力も勇気もない。
仕事ももう慣れたし別に不満があるわけではない。
要するに全てが中庸かそれ以下のしがないリーマンなのである。
車の免許を持ってはいるが車は所有しておらずアパートの家賃を
払いながら食っては働きの連続である。
唯一の救いといえば数年で500万近くの貯金ができた事ぐらいである。
太郎は今日も通勤電車片道1時間で会社へと向かうのである。
159 :
太郎:2006/06/18(日) 22:44:33
太郎編と吉野編の同時並行でいきます。
今回は北野と剛田のようなリンクはありません。
独立した個々の物語です。
>>144 僕も自分で書いててつっこんでしまいました。
しかし作者である以上責任を持ってトイレには行かせません。
160 :
吉野:2006/06/18(日) 23:37:49
『う、ポチャン、ふっ、うっ、ぽちゃん』
呻き声を上げながら吉野は残存下痢便を素手で便器に放り投げて
さも今大便の真っ最中であるかのごとく演出した。
トイレに来た二人は凄まじい激臭と呻きに笑いを堪えている
様子だがもちろん龍一郎の前で粗相は許されない。
『これなら漏らしたとは思わんだろう』吉野は擬似排便が板についてきた。
もうこうなれば占めたものでその気になれば1時間でも欺き続ける事が
吉野には可能である。『坂上もそろそろ戻って来るだろう』吉野が
安心したのも束の間で遠くから駆け足で便所に向かって来る気配を察知した。
『な、なんだ?』
『ちょっと、龍一郎さんいるんでしょ?なんなのよあの態度は麗子さん傷ついたわよ!』
優子である。お怒りである。ここは男子トイレである。吉野の下痢便で激臭である。
吉野は坂上待ちである。優子がいると坂上はトイレに入るわけにはいかないのである。
『おわ!優子かよ!、こ・ここは男子便所だぞ!』
161 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/19(月) 01:07:41
カワイソス
う〜ん・・・。
163 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/20(火) 18:52:00
こ
>>162 ありがとう!
期待に、こたえてくれてw
毎日、楽しみにしながら待ってます。
まだかなぁ・・・。
167 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/23(金) 21:09:50
続きー!
ドキドキしながら、
待ってる時が、また楽しい
のよね(^ .^)y-~~~
169 :
吉野:2006/06/24(土) 21:49:50
吉野はしかしすぐさま心を冷静にこの状況を切り抜ける策を考え始めた。
『そうだ!』
吉野この状況である一冊の本を思い出した。
『ドンドンドン!ちょっと、早く出てきなさいよ!どういうつもりなのか
説明してもらうわよ。』強くドアをたたかれて吉野は戦々恐々だ!
吉野の心に浮かんだ一冊の書それはデールカ−ネギー『人を動かす』だ。
もちろん動かすのは優子で今すぐこの便所から立ち去ってもらいたいのである。
しかも吉野が漏らしたという事実は伏せ、優子の怒りを迅速に完全に鎮めなければ
ならない。吉野は優子が自然に便所から納得して立ち去る方法を考えなければならなかった。
170 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/24(土) 21:51:42
こ、この物語が終わるまで俺はずっとウンコを我慢するぞ!
171 :
吉野:2006/06/24(土) 22:03:02
吉野は冷静に状況を分析した。そもそもなぜ部外者の優子がこれほどまでに
怒っているのかを考えた。わかったことは麗子に自分を重ね合わせて
怒っているという事である。とすると優子には軽薄な男と付き合った過去
があるかもしれない。そしてその時になんらかのひどい仕打ちを受けた
傷が吉野が麗子の前から猛ダッシュで逃げ去ったことによって開いたのかもしれない。
そしておそらく今回の吉野の行動は麗子にとっては裏切りであったのだ。
所詮吉野も、いや吉野ほどの男でも女をなめている。
それが優子にはたまらなく、絶対に認めるわけにはいかないのだ。
優子にとってはとにかく吉野が犯した過ちを謝罪させる必要があるのだ。
『迷惑な話だな』吉野は思った。それもそのはずで今回の事は優子には関係
なくそんな過去の男の許しがたい行為を吉野と麗子にあてはめて説教をしようと
いうのは見当違いである。しかし吉野は湧き上がる感情を堪えて優子を満足させるために
『全面降伏作戦』に打って出た。
172 :
吉野:2006/06/24(土) 22:04:51
6行目優子の間違い
173 :
吉野:2006/06/24(土) 22:21:00
『う、うう優子ぉうう すまない!』
全ての感情を全ての激臭を全ての愛を込めて吉野は全力で謝罪した。
そこにひとかけらの嘘もなく吉野は本気ですまないと思っている。
この男は演技もずば抜けて得意なのだ。その上心の隙を的確に捉えている。
これでもまだ便所の前で喚き散らせる女ならそれは悪魔だ。
『龍一郎・・さん・・・』優子の勢いは明らかに衰えた。意表を突かれたのだろう。
『さあもう気が済んだだろう?頼むから早く立ち去ってくれ!』
吉野は心で呟く。『と、とにかく麗子さんに後で謝っときなさいよ!』
『君にこんなに心配されて麗子も幸せだよ。』吉野は念のため
優子がここに来たのは無駄ではなかったと思わせておいた。
『麗子さんを大切にしなさいよ』優子はそういい残してトイレを去っていった。
174 :
吉野:2006/06/24(土) 22:30:27
『ふぃー、読んでてよかったよカーネギー。
あそこで男子便所の権利を主張してても優子の怒りは収まらず
結局僕が不利益を被っていただろう。』
優子の激しい怒りは今にもドアを登ってきかねないものだっただけに
安心も格別である。しかし吉野の絶妙のタイミングも素晴らしかった。
普通ならパニックに陥るところで冷静になれるのはさすがにグループのトップである。
175 :
吉野:2006/06/24(土) 22:46:01
『さすがでございます龍一郎坊ちゃま』言いながら坂上が
全く同じブランドの服を全て揃えて持ってきた。
『さあ全て脱いでください私が処分しておきます』
両手がうんこまみれの吉野は個室で坂上に脱がされ放水され拭かれ
敗戦処理は迅速に進んだ。
吉野が勃起しているのを見て坂上は言った。
『やはり興奮なさりましたか、坊ちゃまには優子お嬢様の方が
お気に召すようでございますね、麗子お嬢様の事は私も
存じておりませんでした。どうなさるおつもりですか?
お気づきとは思われますが優子お嬢様は坊ちゃまに
好意をお持ちです。先ほどの件もそれの表れでしょう。』
『わかっている。しかしまずは麗子さんに謝罪しなければならない』
吉野は悩んでいた。敗戦処理が完了し。吉野は再びパーティー会場に戻った。
176 :
太郎:2006/06/24(土) 23:08:14
『でさー、マジで?、ぎゃっはっは!』
いつものようにホームで電車を待つ太郎は若者の意図的な
誇張とも思える下品な会話に腹を立てていた。
『まったくあいつら真剣に生きているのだろうか?小声でもわかるはずだ。』
レールを一つも踏み外さなかった男はもしかすると少しばかり羨ましいのかも
しれない。しかしそうはいうもののああなりたいとは思わない。
『あんな屑になったらおしまいだ』太郎は自分の方が格段に優れていると確認する。
また太郎はホームで一人文庫本を読む女子高生を発見する。
女はかわいい系であまり本が似合うタイプではないが
太郎の頭の中では清楚な少女として今日も妄想が膨らむのである。
『ああきっとあの子は彼氏とかいなくて、おそらく人の役に立つ仕事
とかやってみたいと考えていて、ああそれであの本はおそらく
何かの参考書で必死に勉強しているんだ』太郎は危険だった。
177 :
太郎:2006/06/24(土) 23:30:49
『たおッ!』不意に腹痛が太郎を襲う。
太郎は妙な声を発してしまった。
振り向く女子高生の目は『軽蔑』だ。
『あれ?』太郎は甘美な妄想とは180度違う現実の女子高生の
反応にガクーリした。
『トイレに行かなければ』太郎はしかし次の電車に乗れないと会社に
遅刻してしまう、遅刻をすればネチネチうるさい先輩にネチネチの原料
を与えてしまう。もたもたしているうちに電車がやってきた。
『プシュー』満員電車だ!先ほどの若者と女子高生も
同じドアから乗車したのでぎゅう詰めである。
『スンスン?いいにおいだ』『クンカクンカ?たまらん!』
『せめー!』若者がぶつくさ言っている。太郎は現実に戻った。
『屑どもめ!きさまらもこの苦しみを味わいやがれ』
『ぎゅるる〜』腹は痛いが十分耐えれる。片道一時間。凡俗太郎の冒険が始まった。
178 :
吉野:2006/06/25(日) 00:51:04
会場に着くまでには吉野は全ての答えを出していた。
ひとまず麗子のところに謝罪に向かう。
『麗子さん』振り向いた麗子に吉野は言った。
『先ほどは申し訳ありませんでした、いきなり腹痛になったものですから
いえ、言い訳するつもりはないんです。というよりその必要もないんです。』
意味深な発言をする吉野。
『いえ、いいんです』麗子はほんとうに気にしていない様子だ。萌えない女だ。
麗子は寧ろ目の前に献上された男をどうやって食べるか思案しているようにさえ
吉野には思えた。『ブルッ』背筋が寒くなる。政略結婚という雁字搦めの
家計でなければ吉野は自由に女性と交際しただろう。もちろん優子とも。
『俺と麗子のことをどこかから優子は必ず見ている』吉野には確信があった。
吉野の胸に熱い思いが込み上げてきた。『らしくない』自分でもそう思えるほど
滑稽な手法だと思った吉野だが己の直感を信じてそれをやるのである。
179 :
吉野:2006/06/25(日) 01:07:29
吉野は麗子の顔をじっくりと見る。麗子は怪訝な面持ちだ。
『なんの未練もないな、よし!やるぞ!』
吉野は走った、再びあのトイレの個室に、吉野は疾走するのだ!
視界の端に坂上の顔が見えた、にっこりと笑っている。『坂上さん、ありがとう!』
吉野は全力で走った。100M9秒台いや、8秒台か?
『ズダダダダダダダダダダッダッダダ!!!』まだ加速する!
ヨーガもカーネギーもない、素の、真の吉野龍一郎だ!
『ダッダダダダダダダダダーバタン』吉野はトイレに到達した。
『ハァハァハァ面白くなってきたじゃないかこんな気持ち初めてだ!』
5分?いや実際にはほんの1分ほどだったかも知れない
しかし吉野の心理状態がそのわずか一分を引き伸ばしたのだ。
血相を変えて便所にやってきた女が一人。
『ちょっと!、龍一郎さん!悪ふざけもいい加減にしなさい!』
『キィー』個室のドアは女が文句を言い始めるとすぐに開いた。
180 :
吉野:2006/06/25(日) 01:31:09
『バッ!』男は文句をたれる女の美しい華奢な体に抱きつくと同時にキスをした。
先ほどの勢いむなしく女は男の胸に崩れ落ちる。
『こんなの・・いけないわ』女は申し訳なさそうに言った。
『わかっている』男はわかっていなかった。
『これからどうなるの?』女は全てを理解していた。
『今より幸せになるだけだ』男は女の体を強く抱きしめ再び何度も何度もキスをした。
女はもう黙ってしまった。男の陰茎は過去最大級にギンギンだった。
『今から行くよ。いいね?』女は黙ってうなずいた。
男は女を抱き上げそのままゆっくりとパーティー会場に歩いていった。
完
181 :
太郎:2006/06/25(日) 01:44:55
182 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/25(日) 02:13:35
恋愛系おもしろかったです乙でした!
太郎編に期待。
184 :
名無しさん@明日があるさ:2006/06/30(金) 03:00:10
太郎マダー?
185 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/02(日) 08:16:48
age
186 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/03(月) 22:51:33
太郎編どうしたんでしょうか。
篠田の話が腰折れしたんで、ストーリーを練るのがいかに
大変かというのが良くわかります。
ストーリーなんてのはゲリ便と同じで出る時はドバアと一気に出るので
それまで気を長く持って待ちましょう。
しかし、エロ話だとセックスに持っていくまでの過程や濃厚なセックスの描写で
話を盛り上げるのですが、ゲリ便をネタに話を盛り上げるのって
難 し い w
187 :
太郎:2006/07/04(火) 06:07:08
ストーリーはできてるし後は書くだけなんですが
その書く作業がorz
申し訳ない、明日あたりで一気に完結まで行きます。
188 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/04(火) 18:43:35
(1)
「あなた、今日は、かやくご飯作ったの」
「ああ、食べるよ」
杏子は茶碗に山盛りのかやく飯をよそった。
(杏子は俺の浮気を許してくれたんだろうか。昼間、ばったりと街で亜依子と
一緒のところを見られた時は、地獄になると思ったが・・・)
「うまい、これ旨いよ」
重男は少し大げさにいいながら、杏子の作った飯を口に運んだ。
浮気の現場を見られたことについて何も触れられないことに対する
不安もあったが、何より、杏子の機嫌を損ねないことが大切だった。
重男は40代後半でやっと結婚できた。
身長にも恵まれず、運動神経もゼロに近い重男に男としての魅力も
あるわけが無く、ついぞ女性から声がかかることなく、この年を迎えた
のだった。
しかし、安月給の中からこつこつ貯めた蓄財のお陰もあって、
漸く、結婚にこぎつけたのが杏子だった。
杏子は35歳であったが、再婚で前夫とのあいだに子供はなかった。
再婚女性とはいえ、重男が一回り以上も年下の女性と結婚できたのは
僥倖でもなんでもなく、杏子自身、120キロの巨体で男性と二度も結婚
出来たことは想像を絶することであった。
杏子はこの醜面で巨体の自分を娶る男なら誰でも良かった。
ただ、捨てないでくれればいいという女性と,
女なら誰でも良いという男との利害が一致した結果なのだった。
189 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/04(火) 18:44:11
(2)
重男と杏子は利害が一致した結果であったが、さて、その肝心な本人同士の
愛情はあったかというと、疑問だった。
二人とも、憧れる人はいても、恋愛など到底及ばぬ世界の出来事と身の程を
わきまえていたからでもある。
従って、言葉の上では「一生を共に生きていきましょう」とか
「あなたのお力になりたいと思います」とか空々しいことをお互い口にしてはいたけれども、
その内心では「身の回りの世話をしてくれる住み込みの家政婦でいいや」
「衣食住付きで多少の小遣いが貰える単純労働なら楽だわ」という、
凸と凹がぴったりとはまっただけのことであった。
しかし、形の上であっても、男と女が一つ屋根の下に暮らせば、避けては通れないのが、
セックスである。
子供も二人生んだベテラン?の杏子に比して、重男は48になろうというのに童貞であった。
男は成人過ぎて童貞であることを一生の恥とする。
右手でいくら鍛えても、それは空想のシミュレーションであり、実戦の場では役に立たない。
しかし、重男は他の童貞男がするように、風俗に身を委ねることさえ出来なかった。
「男は自分で女を捕まえてこそ、本当の自立だ。風俗に行ったからといって、
童貞を捨てたことにはならん」
このような、独りよがりの考えが、ついに童貞のまま、48の年を迎える源となってしまったのだ。
仮に、なんらかの拍子に本当に童貞を捨てることが合っても、周囲の人は重男が
童貞でないことを信じる者はいなかったであろう。
身長は170に満たない足は短く、手だけはなぜか長いという猿の様な体系の男に
何らかの拍子で女とまみえるなどということは、あってはならないことなのであった。
190 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/04(火) 18:45:02
3)
さて、重男と杏子が結婚というより、同居?を始めるまでの数週間を重男は禁欲
して過ごした。
杏子はともかく、初婚の重男は初夜の日に必ずしないといけないという固定観念が
残っていたのである。
まさか、48にも成って人に「結婚するんですけど、最初の晩にあれしたほうがいいんですかね」
などと聞くわけにも行かない。
若い頃ならともかく、自分の年を考えると、いざというとき不発になる恐れがある。
備えあれば憂いなしを、自分に言い聞かせ、恒例の週末のレンタルビデオオナニー祭り
も自粛し、その日に備えて精液をたっぷりと逐電してきたのであった。
さて、いよいよその日がやってきた。
杏子の引越し、といっても家財道具は無く身の回りのものや服が少々だけだったが、
も整理が終わり、簡単に乾杯が済んで、あとは風呂に入って寝るだけとなった。
結婚するまでは、他人行儀な付き合いだったので、あばたも笑窪でまあいいかという
印象だったが、側でまともに見ると、まごうことなく、杏子は不細工だった。
富士額で後ろに縛っただけの髪型はおよそ、女性としての特権を捨ててきたような
いでたちであり、おたふくのお面を強請ったらこうなりましたと言わんばかりの目鼻立ち
をしていた。
しかし、以前は超グラマーに見えた体系も、はち切れそうというより、すでに脇の辺りが
破れかかっており、服装で辛うじて人間の原型を留めているようにも思えた。
本人は三桁ギリギリなどと行っていたが、ぎりぎりどころか、体重は120キロは超えていた
ようだった。
安普請の重男の家の中を杏子が歩くと床が悲鳴を上げていた。
191 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/04(火) 20:48:16
(4)
人は重男が結婚するという話を聞いて驚く。しかも、その相手が13歳も年下の女性と
聞いて腰を抜かす。
こんな男で13歳も年下の女性と?それなら俺なんか女子高生や女子大生が群がったって
おかしくないぞと、羨望、妬みの思いが沸き起こるのであった。
しかし、それは男たち特有の先入観であって、年下の若い女性 = 美人で可愛らしい
という方程式に侵されているからなのである。
現実はそう甘くなく、美女と野獣どころか、女性猪八戒と沙悟浄の結婚であった。
重男は杏子との結婚に備えて、レンタルビデオでポッチャリ女性を借りてみて
おおよその見当はつけていた。
しかし、実物の女性と一度もまみえた経験のなさはいかんともしがたい、
1人で風呂に入って、「今日は頑張ってくれよ」と永年、右手で鍛えてきた
陰茎をしごき上げた。
数週間分の精液を精嚢にたっぷり溜め込んだ重男の男根は重男の期待に
応えるがごとく、勢いよく立ち上がり、どんな相手であろうと突撃してみせます
といわんばかりの体勢を保った。
重男が風呂からでると、入れ替わりに杏子が風呂に入ったが、何といっても独身だった
重男にとって初めての女性である。
裸体を見たい誘惑に駆られたが、我慢し、そっと、脱衣所を覗いてみるだけに
留めた。
風呂場の扉を通して薄く見える杏子の体は予想以上に横に広がり、扉の幅から
はみ出ているかのような錯覚をもたらした。
192 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/04(火) 20:48:40
(5)
重男は思わず脱衣かごの中に脱ぎ捨てられている下着を見てみたい
誘惑に駆られたが、「これからずっと一緒なんだからな」とその好奇心を
打ち消した。
さて、問題はその後だった。
本番?までにどのような工程を踏むのか、重男には皆目見当がつかなかった。
テレビやビデオで若い普通のカップルなら、甘いささやきから始まってベッドに
雪崩れ込むという過程がわかるのだが、経産婦と童貞48歳男の新婚初夜
の最終工程など想像できるわけがなかった。
「くそー、マニュアルみたいなもの本屋で探しておけばよかった」
時代が時代だから、新婚向けのマニュアルはあるだろうが、このカップルの
組み合わせを想定したマニュアルなどあろうはずもない。
「とりあえず、今日のところは疲れたということにして明日にするか・・・」
と思いを巡らしたところに、杏子が湯上りで部屋に戻ってきた。
その姿を見た瞬間、重男は飲みかけたお茶を噴出してむせこんだ。
杏子は杏子なりに女性を主張したかったのだろが、20代の娘が着るような
ネグリジェはちょっと刺激が強すぎた。
いや、この場合の刺激とは体型とのバランスを考慮した刺激であって、色っぽい
という意味ではない。
薄く、下着の見えるネグリジェをまともに電灯の灯りの下で見てしまった、
重男は一瞬、もしかしたら生まれて始めて自分の男根が思いのままに
ならないかも知れないという恐怖に駆られた。
194 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/05(水) 12:53:53
杏子、って私の見た目そっくりだな。
195 :
太郎:2006/07/05(水) 16:42:27
『あいてててて』太郎はつり革にもつかまる事ができない満員電車で
必死に下痢便を我慢していた。
『クセー、誰だ?屁をこいたのは?』ただでさえ気分が悪くなる
状況に置かれているのに下痢便に耐えながら満員電車の混合臭、かてて加えて
他人の屁が自身の嗅覚を直撃してはたまらない。
『ガタンタタン』電車がカーブに差し掛かり乗客が太郎を圧迫する。
『あーやばいな。漏らすかもしれないな。』
太郎はしかし冷静に周囲に意識を配る。
女子高生はこの窮屈な空間で賢明に読書にいそしんでいるようだ。
『やっぱりええなぁ』太郎は瞬間腹痛を忘れる事ができた。
次に先ほどの若造であるが・・静かだ、
『ウハハハ、さすがに満員電車&屁には耐えられないようだな
余裕のない奴らめ』太郎はそれに引き換え下痢便を我慢するという
大変な難事に直面しているにも関わらず冷静さを保っている自分の度量に酔いしれた。
196 :
太郎:2006/07/05(水) 16:56:47
一息入れてもう一度女子高生に目をやる。
先ほどと様子が違う、明らかに顔つきがおかしい。
すぐにわかった。『クソが!』若造グループの一人が女子高生の
尻に手をあてがっているのが見えた。声を出すわけにもいかず
女子高生は押し黙っている。
『注意しよう』思い立った太郎であったが生来の臆病さがいかんなく
発揮され傍観主義という聞こえのいい表現が太郎を支配した。
しかしながら女子高生の表情を見ながら勃起してしまう自分に
罪悪感さえ感じていたのである。
『君!』手をつかまれ頭上に捻り上げたのは女性。
『あなたは今痴漢行為を受けていましたね?』女子高生はコクリとうなずいた。
『7時45分現行犯で逮捕します』女性捜査官はおもむろに手錠を取り出した。
『やってねぇよ!』男が暴れだし、女性捜査官では抑える事ができない。
周囲の人間が男を抑える。やはり一般人ならこの手の若造はむかつくのだろうか?
太郎はそんな事を考えながら目の前の事件に見入っていた。
『やってねぇっつってんだろ!!』激しく抵抗する。
『今なら大丈夫だな。』太郎は口を開いて言った。
『僕見てました、この人に間違いありません!』男は太郎
に向かって憎しみの視線を寄せたが太郎の目は勝ち組の不敵な
笑みであふれていた。
『ぎゅるるるるるー、ぎゅぎゅー』
197 :
太郎:2006/07/05(水) 17:07:27
『ガチャリ!』しっかりと手錠がかけられた。
若者グループは全員凍りついている。
『あななたち、お友達かな?事情聴取したいんだけど次の駅で降りてくれる?』
捜査員はそういうとまた満員電車特有の沈黙が戻ってきた。
手錠をかけられた男は完璧に絶望している。
『いい気味だ、社会のゴミめ』腹痛も忘れて太郎は愉快だった。
ふと女子高生に目をやる、女子高生は泣きながら太郎を睨み返してきた。
『なんだ?、そうか、傍観していた人間だものな、ある意味では最低の行為
だったのかもしれない。』太郎にしては珍しく反省の念が出た。
『ぶりゅ!ブリュリュリュッリュビュリュニチーニチニチニチ!!!』
なんだ、途端車内に激臭が充満する。『なんだ?この臭いは!尋常ではないぞ』
『誰だ?』太郎はあたりを見渡した。満員電車なので時期にサークルが生まれるはず。
太郎はそんな期待を込めてあたりに目を凝らした。女性捜査官も呆然としている。
一分、明らかに乗客の中には吐き気を催している人間もいるようだが。
未だにどこが爆心地なのか判明していない。『これはどういう事だ?』
198 :
太郎:2006/07/05(水) 17:24:34
『ぎゅぎゅーギュチギュチグルルルルル!』いよいよ太郎も限界である。
『く、くそ、同じ車内でこうも事件が多発してたまるか!俺は耐えるぞ!』
気合一発太郎は肛門を捻りあげる。『ピ、ピクククピピク』
肛門そのものの発射準備は断続的に完了している、後は太郎の諦め
を待つばかりといった状況である。
『く、くそう!もう駄目かな、なんの、ハウハウハワウー!』
『ブリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ!アアー!』
一気に出た太郎はもう会社には定刻どおり到着できない事を悟った
今から太郎を中心に先ほどの下痢便事件と絡めて巨大なサークルが
出来るだろう。『捜査員もいるのにこれは犯罪ではないよね』などと
自己弁護する太郎。が、しかしサークルはおろかコロネルさえ発生しない。
臭いはともかくクリーンな車内である。
『フフ、フッフッフ、ファーハッハァ!』太郎は心の中で大いに笑い愉快であった。
『まさか同じ事を考える同士がいるとはな』太郎の下半身にはしっかり
紙おむつが装着されていたのである。よって焦りは微塵もなく先ほどの臭いに
まぎれてもはやどこが爆心地なのか到底判断できない状態なのである。
『ポーカーフェイスというのは本当の余裕がなければできないものだ』
太郎はもはやマジシャンの領域であった。
それもそうであろう。目の前で痴漢が逮捕され凄まじい二人分の下痢便臭
が漂っているのにどこが爆心地かわからぬというのは一般人からすると
不思議の一言なのである。ただ誰かはわからないが太郎ともう一人の戦士
だけが知りうるからくりでよもや大の大人がオムツをしているなどとは
普通の人はまず考えないものである。
199 :
太郎:2006/07/05(水) 17:36:24
『ガタンガタン』電車はしかし車内で何事が起ころうとも正確に進むものだ。
『次の駅で降りよう』太郎はそこで紙おむつを処分する事にした。
『ウウーウェエエエ!』
『誰かが吐いたか?無理もない』太郎自身あまりの臭さと狭さにどうにか
なってしまいそうなぐらいなのである。
『プシュー』駅に着くと。乗車口はまるで避難経路に人が殺到するかのような
『我さき』という感情が先行していた。無論何名かはそのまま乗車するつわものもいる。
ただ、その車両だけが極端にガラスキなのである。
理由も分からず乗り込んだ人が2秒で引き返すほどの下痢便臭。
太郎の目の前には背中がゲロまみれになっている人もいる。
『凄まじかった!』まるで小学生のような感想文を頭で完成させた太郎は
そのまま駅のトイレへと向かった。
200 :
太郎:2006/07/05(水) 17:44:52
『バタン』個室に入ると太郎はまずズボンを脱いだ。
どこにも被害が拡大していない事を確認するとオムツも脱いだ。
その時凄まじい臭いが太郎を襲った。
『ゲハゲハ、まさかここまでひどいとは。』
太郎はオムツを地べたに置き。けつをしっかり拭いてフルチンでスラックス
を穿いた。オムツは駅ゴミ箱に捨て。手を洗いに再びトイレに戻る。
『臭い、車内で嗅いだ最初ぼ凄まじい臭いだ!』
太郎は個室から出てくる男を見た。
『この人は、若者を取り押さえた人だ。』
『あ、あの?』太郎は非常な親近感を持って男に話しかけた。
『あなたもオムツとドッキングしていたのですか?』
今日はここまでにする。
201 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 18:57:48
(6)
「ねえ、お布団のところにいきましょう?それとももう寝ちゃいますか?」
「い、いや、行くよ・・・」
手順も何もあったもんじゃない、いきなり本番開始かよ・・・
重男はなんだか拍子抜けがしたが、それ以前に杏子の肉襦袢の迫力に
顔が少し青ざめるのを感じた。
胸は予想通りでかいというより、巨大なのだが、あきらかに特大のブラジャーで
持ち上げているのが見え見えで肩やわき腹に食い込んでいる。
そして、パンティは穿いているのか脱いでいるのか、出腹に隠れて下腹部が見えない。
重男は布団のところに座って心の準備をしようと気を落ち着かせようとした。
その途端、杏子が重男の上に覆いかぶさってきた。
「あ、あ、」重男は虚をつかれたように仰向けに倒され、杏子の胸元の下敷きになった。
これではゴング開始前に襲い掛かるプロレスである。
「息、息が・・・」
杏子の下で必死にもだえる重男。しかも、杏子は積極的に重男のパンツに手を差し込むと
重男の萎びた男根をしごき始めた。
杏子の片手が重男の方を抱き、片手で股間をまさぐっている。
重男は全く身動きが出来ない。
「あ、あ、上四方固めか」
体重が50`そこそこの重男がその倍以上の体重に押さえ込まれては身動きが出来なかった。
しかし、重男は必死にアテネオリンピックで観た柔道やレスリングの押さえ込み技の脱出方法を
思い出し、肘を杏子のおっぱいの中に潜りこませると、肩を入れ、膝を入れ、何とかうつ伏せ状態に
逃げ延びることが出来たのだった。
「この女とやるのに何で柔道技が必要なんだ・・・」
これが柔道ならあきらかに有効のポイントを取られているところだった。
202 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 19:02:03
(7)
重男の頭の中には30年に渡るテクニックの知識が詰め込まれていた。
もちろん、彼女いない独身歴=年齢という男だから、その知識は全て
エロビデオかエロ本からの引用であり実践したことは一度も無いものである。
「女性をいかせる48手」とか「手クニックで濡れ濡れ」「五分で行かせる指技」
などの知識は豊富でこの点は人後に落ちないつもりであった。
結婚に際しても、自分の永年培った?技で杏子に潮を吹かせてみせるなどと
頓狂なことも想像したりしていた。
しかし、今現実に直面してわかったのは、このダイエットに失敗した猪八戒女とやるのは、セックスというより
殆ど格闘技に近いということであった。
デブ専どころではない、下敷きになったら下手をすると腹上死ならぬ腹下死しかねない。
息を継いでいる重男を見て、杏子が怪訝な顔をしている。
「どうしたの?」
「い、いや、あなたのように積極的な女性は初めてなもので・・・」
言外に今まで経験した女性の中ではと、経験豊富であるかのような含みを持たせるところが
童貞男の悲しさであろう。
この年まで童貞でしたなどとは口が裂けても言えない。
これが30歳くらいまではまだ形のある言い訳ができる。
「仕事が忙しくて彼女作る暇も無く・・・」「職場に女性がいなくて・・・」
しかし、50歳目前の男に童貞であることを言い訳など出来ようはずもない。
それがばれないためにも、今夜は重男が主導権を握らなければならなかった。
「女なんてものはチンコを入れてしまえば善がるんだから・・・」
重男はポルノビデオで仕入れた知識で、女はいきり立ったチンコを入れれば
すぐに喘ぎ声を出すものと本気で信じていたのだ。
指でクリトリスとかいうお豆をいじってあげれば、女性は身もだえして愛液を
噴出するという事実を早くこの手で確かめたかった。
203 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 19:07:53
(8)
杏子は立ち上がると、向こうむきになってブラジャーとパンティを脱いだ。
さっき、パンティは穿いていないと見えたのは錯覚で、実は巨大な臀部と弛んだ下腹に隠れて
見えないだけであり、しかも尻の隙間に挟まった黒いパンティは後ろから見ると、
力士の廻しに見えた。
一瞬、「夏場所はいつからだっけ・・・」などと連想しそうになって必死に頭の中を打ち消した。
早漏の男が、女性とセックスしている時、射精時間を延ばすために自分が逝きそうになると、
畳の目を数えたり思考を他に移して持続時間を延ばすらしいが、ここではその逆の
テクニックが必要である。
とにかく、集中していないと、せっかく勃起した男根が一気に萎む恐れがあった。
一瞬でも気を緩めると、杏子の体型から大相撲の小錦を思い起こしてしまう。
杏子は重男の横に座り込むと、また重男の男根をまさぐり始めた。
杏子は結婚歴があるだけ、男の弱点も知っているようだった。
たくみに重男の男根の裏筋をなぞりながら、睾丸やカリの部分を柔らかくもみ始めた。
漸く、数週間分オナニーを我慢した成果が現れてきて、重男の男根は怒張し始め、
ついには屹立した。
すると、杏子はこんなの当然よといわんばかりの慣れた手つきで、重男の男根を
口に咥えると猛烈に出し入れを始めた。
「あ、待て、待て、あっ」
杏子の真空掃除機並みの口の吸引力と形容できない舌さばきで、重男は止めるまもなく
一気に杏子の口内に放射してしまった。
主導権を握るどころではない、年上の男がいとも容易にものの数分で射精させられてしまったのだ。
しかも、口だけで。
杏子も意外だったらしく、不満顔でティッシュに精液を吐き出すと、「今日はもう無理かしら」
というと、土俵、いや、和室の外に投げ捨てた。
「あ、ああ」
どろりと垂れた杏子のおっぱいを見ながら重男は言葉がでなかった。
204 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 19:12:11
(9)
このままでは拙い。
重男は焦りを感じた。
童貞はともかく、早漏男と思われたんじゃないだろうか?自分のチンコが自分以外の
女性・・・というか女猪八戒の手でいとも簡単に玉砕するということは予想外だった。
精液を極限まで溜めていたので、杏子の容姿でも勃起する自信はあったが、
まさかこうもあっさりと放出するとは思わなかった。
口でこんなに感じてしまうのだから、まして陰部に挿入でもしようものなら、
それこそ漫画に出てくるような三こすり半で終わりそうな予感がした。
杏子が男経験のない処女だったなら、いくらでも誤魔化しができるが、何といっても
子供二人生んだ再婚者なのである。
男の価値は女を逝かせてナンボのものであることは重男もわかっていた。
しかし、あの臀部から想像するに、果たしてあの肉ひだをかき分けて自分のチンコが
奥深く到達できるのだろうか?
杏子を逝かせるどころか、チンコが膣に到達する前にパイズリならぬ、股ズリで自分の方が
逝ってしまったらもう誤魔化しが効かない。
かといって、持続させるためにちょっとでも気を緩めると、小錦とがっぷり四つに組んだ自分を想像をしてしまい、
一気に萎んでしまいそうだ。
杏子が洗面所で口を洗っている音がドタンバタンと聞こえてくる。
「まさか、四股を踏んでいるんじゃ・・・」
どうしても杏子のしぐさは何でも相撲を連想してしまう。
夫婦たるものは、男がおのれのチンコで女を喘がせ、逝かせれば、どんな女も
男の前にひざまずくものだという、それこそエロビデオでしかお目にかかれない
男女観を信じ込んでいるのが童貞男の悲しさであった。
205 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 19:14:55
(10)
杏子は重男があっさり射精したことで、やっぱりこいつは女経験は
殆ど無いと確信した。
どう考えてもこの男はフェラチオは初めてのようだった。
男というものは、女の下着姿を見ただけでみんなチンコを勃起させて、腰をカクカク振り出す
犬みたいなものであるという先入観は昔から持っていたのだが、
自分には裸体で男のチンコを立たせる魅力がない現実も認識していた。
従って、前夫との間でも、常に杏子が口と手で男を勃たせており、そのテクニックは
筋金入りだった。
妊娠前はまだ体に弾力があったので、夫の辛うじてチンコの先端が膣に収まったが、
男根はそれ以上は侵入することはでき無い上に、杏子のマグナム張りの大口径膣口では
夫の亀頭は余裕がありすぎ、手こきしながら、入口で射精させるのが常であったのだ。
にも拘らず、処女膜はぜんぜん傷つくことなくなぜか妊娠した。
その後の出産で処女膜は消えたのであろうが、杏子は事実上男と合体したという事実は認めがたかった。
杏子は体型から想像できるように、体を動かすのが嫌いだった。
だから、専業主婦で雇ってくれる、いや、結婚してくれる男なら誰でも良かった。
専業主婦の地位を保全するためには、何としてでも子供という道具、いや家族が必要な
ため、半ば執念で妊娠したといっても良い。
しかし、何かの拍子に前夫が
「この子たちって、人工授精みたいなもんだな」と口を滑らしたために、思わず夫の
顔に張り手をかまし、漬物石のような頭で頭突きを食らわしたのが原因で夫は
逃げてしまった。
夫が逃げて失業、いや離婚された杏子は仕方なく、スーパーで商品整理のバイトを
細々と続けていたが、あるとき、出入りの業者からいい獲物いや再婚相手を紹介されたのが
重男だったのだ。
206 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 19:17:08
(11)
中学と高校の女の子がいる母親である杏子が次の獲物いや再婚相手を
経済力のみで容姿年齢を問わずターゲットに絞ったからといって、誰が
責められよう。
専門技能の知識も経験も無い怠け者の女の脱出方法としてはこれ以外に
考えられなかった。
年上なんだけど、真面目で女性経験も無かったような堅物でさ、それでも良かったら会ってみなよ。
という口上に、渡りに船とばかりロックオンしたのだが、13も年上であり禿げちょろけた
手長猿がくしゃみしたような貧相な男だとは会うまで一言も知らされなかった。
女性経験も無い堅物とは言いも言ったりで、女性なんか寄って来るわけが無い面妖の
男が重男だったのだ。
杏子は男が家持と聞いて即決で了承した。
結婚すれば専業主婦でも将来離婚した時、婚姻年数一年に付き100数十万の財産分与が
支払われる。
毎年、100万円の貯金ができる住み込みの家政婦になると思えば楽なものだった。
しかも、年上の重男が先に死ねば、自分に残った財産は別居している子供たちと山分けできるし。
いつも、重男と会うときは、矯正下着とウェストを極限まで絞った服装で女性というより人間並みの
体型を保ち、まんまと重男の了解を得ることに成功した。
杏子は事あるごとに、自分がいかに料理や家事が好きであるかを吹聴した。
好きであるということと得意ということは違う。
全てにおいて下手糞というかろくに出来ないのだが、本人は嘘を言っているという自覚は
微塵もなかった。
207 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/05(水) 19:53:35
愛のシルエットさん!旧スレ316からついてきましたよ!
激しく応援(・∀・)ノ 投稿楽しみです。
208 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/05(水) 19:59:19
同じくついてきました
同じくついてきたw
楽しみにしてますわー
わたくしもついて参りました。
ついていきたくなるくらい面白い小説を2ちゃんで読めるとはな〜
211 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 22:45:51
(12)
杏子は子供の頃から巨体ではあったが、苛められっ子ではなかった。
持ち前の気の強さから、むしろ頼りになる姉御という地位を確保して
おり、周囲が杏子という人格を貶す雰囲気は微塵も作らせなかった。
高校のときに、自分の体重を測るたびに80キロ90キロと急上昇を
続ける自分の体に対して、流石に危機感をつのらせた。
下着や学生服・体操服が次第に窮屈になってきているのが気になった。
「もし、100キロ超えたら私は人間でなくなってしまう・・・」
ある日、保健室の体重計でついに100キロ超級のタイトルを手に
してしまった杏子は愕然とした。
体重計は130キロまでしか目盛りがない。
あと、20数キロで女子高生の限界?を超えてしまう!
そして、思春期の乙女が悩んだ末に考え付くのは誰しも同じである。
本を買い漁ってダイエットに励み始めた。
運動して痩せることよりも、真っ先に食べ物を制限して痩せようという、
容易な方法に取り付くのもよくある話だ。
四月から、甘いものを制限してコンニャクを主食とした。
そして、折りしも杏子の胸にささやかに宿っていた初恋・・・
その男の子は別のクラスにいたが、校内でその姿を目にする度に
杏子のプリンプリンした胸はキュンと締め付けられる思いがした。
杏子が街でズボンを穿いて歩いている後姿を見たら、相撲部屋の関係者なら
間違いなく勧誘しそうなこの女子高生にも、川原でひっそりと
咲く黄色いタンポポの花のような恋心が育っていたのだった。
時々、多摩川の土手を歩きながら、その男の子と一緒に歩く自分を
夢想したりするところも、やはり杏子は思春期の女子高生なのである。
「あの人になら私の全てを上げてもいい」
普通の女子高生がいう「私の全て」という、男なら誰でも涎を垂らす切り札も、
杏子に限っては相手にとって凶器になりうるという客観性など、
この女子高生にあるわけが無かった。
212 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 22:47:03
(13)
しかし、ある日、その男の子が彼女らしい同級生と親しげに付き合っているのを
知って杏子のささやかな初恋は終わった。
自分とは釣り合いが取れない相手であることはわかっていたが、それでも失恋の
痛手は大きく、杏子の食欲は減退した。それは夏休み前の暑い日のことであり、
ただでさえ誰しも食欲の落ちる時期である。
杏子の胸に秘めていた小さなタンポポは一瞬にして砕け散った。
そして、杏子の失恋による失意はやがて鬱憤・不満・憤りへと変化し、学校の帰り道
にゴミ箱、看板、壁、空き缶なんにでも蹴りを入れることで鬱憤を晴らした。
お陰で、杏子の通学路のいろいろな物が杏子のローキック・ミドルキックなどで
ぼろぼろになってしまった。
これらの諸条件が幸いしたのか、9月に保健室に行ったついでに、体重計に
載った時、なんと体重が90キロまで減っていのだった。
「!ああ、ミッフィー、嬉しい」
自分のお気に入りのキャラクターのストラップを握り締め、杏子は喜びを
隠せなかった。
努力って素晴らしい!神は見捨てなかった!四月に体重計に載ったときは、
保健の先生は「そーっと、そーと載ってください」なんて壊れるのを心配して
言っていたけど、これからは堂々と体重計に載れるわ!
90キロの体重で堂々としていいかどうかはともかく、杏子は自信を深めたのだ。
しかし、二学期になってからのある日、体重を量ろうと保健室に入りかけたとき、
中から聴こえた話し声は杏子の心臓に太い槍を突き刺したのだった。
「○○さん(杏子の苗字)痩せたように見えたけどこれまでだよなあ」
「あの人、秋から飼料が濃くなるから卒業することには食べごろになるんじゃ
ないですかー」
「あはははっ、牛や豚はそうなんだよね。夏場はいい肉が取れないし」
「最後に体重計に載った時に記念に最大値にマークしときましょうか。
学校創立以来の記録ということで」
「わははははは!」
213 :
愛のシルエット:2006/07/05(水) 23:02:04
(14)
何?何?これ、あたしが家畜?家畜?ザケンナ、クソ、コノヤロ@$%&!?
杏子の脳内が真っ白になった。
杏子は保健室のドアを片手でバーンとぶち開けると、驚愕の目で棒立ちになっている、
保健の先生・同級の保健委員その他の脇を通り、体重計の前まで来た。
そして片足を思いっきり体重計に叩き付けると、体重計のガラスは砕け、 針は振り切って
止まってしまった。それから、また無言で保健室を出た。
杏子はその日から、自分に課せられた制限を一切止めた。
甘いものだろうが辛いものだろうが何でも思う存分に食べ、
ドアを開けるときは、思いっきり開け、足元にあるものは何であろうと蹴飛ばして
まわった。
高校を卒業する頃には、杏子は量ったことはないが、自分がもうすでに無差別級の
体重であることを自覚していた。
そして、もう自分は一生、この体で女性として生きていかねばならないということも
覚悟したのであった。
人はつい、外見で人を判断してしまう。
恋愛なんて甘っちょろいものは無縁だよ、と見えるような面相の男女でも
胸のうちは甘酸っぱい恋心が芽生えていたりするものである。
異性に興味がない男女はいることはいるだろうが、そのような例外はおいといて、
杏子のような女性もやはり、自分の全てを奉げられるような男性と出会いたい
という気持ちを持つのは一般の女性と同じであった。
もちろん、杏子のような女性に「私の全てをあげる!」などといわれて、
全身で飛び掛られたら、殆どの男性はそのボディプレスによって
あっけなくスリーカウントで伸びてしまうに決まっているだろうが。
214 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/05(水) 23:22:20
(*^ー゚)b グッジョブ!!
215 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/06(木) 00:44:06
(・∀・)wktkwktk
杏子、他人に思えない…
私も「全てをあげる」ことが、殺人兵器となってしまうんだろうなぁ。
杏子の顔について書かれてたか忘れたけど、私は極悪不細工だしな。
どうやって一人目のだんなと出会ったのか、マジで関心あるわ。
217 :
愛のシルエット:2006/07/06(木) 22:43:27
(15)
杏子は、高校を卒業し就職した。
就職口を決めるのに難航したが、指の太さに関わらず、電卓を叩くのが
上手いのと、計算が得意なこともあり、服飾品の問屋になんとかもぐりこむことに
成功した。
どこの会社も新人の女性を雇うのは、職場のマスコット的存在としての価値も要求するから
杏子のような、体がはみでた女性は殆どのところで見向きもされなかったのであるが、
杏子の履歴書にある、「体を鍛えていますのでどんな重いものも運べる体力は
男以上に自信があります」の文面に飛びついた唯一の会社がこの問屋だったのだ。
杏子が日課にしているスクワットとダンベルの成果がこの時、役に立ったといえよう。
職場の人はこの新人の女性を見てたまげたが、仕事もすぐ覚え、重い服飾品も
積極的に運ぶのを手伝う力持ちを歓迎した。
同期や先輩とも打ち解け、昼食や休日のお出かけもお供する間柄にもなった。
こう書くと、杏子は一見、普通の女子社員として変わらないように見えるが、
その実は違う。
女性というのは見かけによらず残酷な一面があり、自分より不細工・不恰好な友人を
作りたがるものなのである。それはもちろん、「自分を引き立てる役目として」である。
杏子と一緒にいれば、殆どの女性はか弱く、可愛げに見える。
だから、割と職場でもすぐに友人ができた。しかも、杏子の価値はそれ以上のものが
あった。
杏子と一緒にいれば、ボディガードとしての役割もこなしてくれるという期待が
もてるのだ。
ある時、先輩が以前付き合っていた男に付きまとわれて困っているところを、
その男の腕を軽くひねり上げ、撃退したことから杏子は絶大な信頼をも獲得した。
218 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/06(木) 23:28:14
プロの物書きだな
219 :
愛のシルエット:2006/07/06(木) 23:29:54
(16)
杏子も社会に出て早や五年が経った。
職場の先輩たちの寿退社などを目にするうち、杏子にも女性としての体の
疼きを耐える日々が続いた。
ボディガード兼引き立て役としての役目も、友人たちが男と付き合い始めると、
潮を退くようにその役割も数が減り、杏子は改めて自分の孤独を感じた。
「あたしは一生独身で終わるんだろうな」
「今のような毎日があと何十年続いて、おばあさんになって・・・」
将来のことを考えると暗澹たる気持ちになった。
街に出たら出たで、仲の良さそうなカップルが目に入る。大して美人でも美男
でもない人でもああやって連れ合いができるというのに。
夫婦連れなんか見てると、どうしてこんな不細工な組み合わせがと思えるような
二人連れも結構いるようだ。
端から見ると、杏子のような体型の女性はやはりデブデブブヨブヨのオタクみたいな
男が組合せとしては合っているように見えるのだが、本人の好みはもちろん全然違う。
男も女も、相手には自分に無いものを求めるのが常であって、高齢独身男が身勝手にも
相手の女性には若さを求めたり、デブデブ男がキュートな女性を好むのと同様に
杏子も華奢な男が好みといえば好みであった。
街で好みのタイプの華奢な男を見かけたりすると、「あの体を思いっきり抱きしめ
ることができたらどんなに嬉しいか」
と考えるだけで、年頃の杏子の秘所がぐっしょりと濡れてしまうのだった。
もっとも、強靭な筋肉の杏子に抱きしめられたら男のあばら骨は簡単に折れてしまう
のだろうが。
そんなある日、杏子の愛読しているレディースコミックの中にある広告で
「素敵な男性との出会いをプロデュース!」の見出しを見つけた。
今から十数年前のことであるから、ネットなど無い時代であり、その頃の
男女の出会いはダイヤルQ2などが最盛期になっている頃であった。
220 :
愛のシルエット:2006/07/07(金) 00:00:58
(17)
ダイヤルQ2は杏子もコミックの広告で知っていたが、男女の出会いというより、
サクラで男を釣るだけの仕事であることから、最初から興味がなかった。
男を騙すのではなく、本当に男を釣るのなら興味を示したかもしれない。
しかし、それよりも電話でかわいらしい声で話すことが、到底無理な相談であった。
杏子は高い声を出すよりも地声を低くし、ドスの利いた声を出す方が性に合っていた。
しいて言えば、サラ金の電話番とかで督促の電話を掛ける役目の方が杏子としては
向いているくらいだといってもよい。
現に、勤めている職場でも取引先から「今度新人の男の人入った?けっこう迫力ある
話し方だね」と同僚の人が言われたらしい。
で、先ほどのコミックに載っていた広告に戻るが、そこに載っていたのは文通
による男女出会いの案内だった。
「30年の実績」とか「数万人の方がここで出会いをなされました」あるいは「いろいろな
男女の出会いのキューピット!」の文面に興味を持った杏子はそうそうに案内を
取り寄せた。
数日後に届いた案内を見ると、登録会員は物凄い数の様であった。
男性は有料、女性は入会金だけというのも良かった。ざっと流し読みすると、
男性は20代から60代まで年齢の幅も広く、自己紹介の文もいろいろ書かれていた。
文通相手の募集だけあって殆どの男性はまともな人たちのようである。
いい加減な男なら丹念に手紙を書く、文通など出来るものではない。
「もしかしたら、この中から巡りあえる人が1人くらい出てくるかも・・・」
自分にとっての希望がここに残されているような気がし、杏子の体がカッと熱くなるのを感じた。
221 :
愛のシルエット:2006/07/07(金) 00:14:44
18)
そして入会申し込みを投函して、とりあえずどの男性に手紙を書こうかと物色した。
現在の杏子にとって、及第点なのは二十代前半という年齢だけである。
それ以外は何を取り柄としてよいのか判らなかった。容姿のことを聞かれれば
それだけで除外されるのは目に見えている。
しかし、まだスタート地点に立ったばかりだわ。最初から逃げてどうするの?
「夢で終わってもいい、やるだけやってみろ自分」
普通の女性がこのような夢を描くのなら微笑ましいのだが、杏子の場合では
ターゲットとしてロックオンされる男性がちょっと気の毒になってしまう
といっては失礼だろうか。
そして何人かの真面目そうな男性に会を通して手紙を出してみた。
「自己紹介を拝見して貴方に対して興味を持ちました・・・」
手紙なので同じような文章を何人もの男にコピーして書くのは面倒だったが、
異性に書くのは生まれて始めての杏子にとって、それは楽しみ以外の
何者でもなかった。
もちろん、自分が「ちょっと」太目であることは付け足しておいたが、
うら若き23歳の乙女であることを全面に押し出し、女性としての武器を
最大限に活用したつもりだった。
また、それと同時に、会の雑誌の自己紹介コーナーにも自分の案内を
掲載することにした。こうすると、杏子の自己紹介を見た男性から杏子宛に
手紙が来ることも期待できた。
しかし、男を上手く釣る、いや、射止める内容の自己紹介ってどういう風に
書こうか?
杏子は一週間は悩んだ。「ちょっと太め」と誤魔化すより「私、太ってますけど」
と正直に書いた方がいいんじゃないかなあ?
それとも「おデブちゃんでーす」とかじゃれてみるか?具体的に「100キロ超級
でもいいという方」とした方がわかり易くないか?
杏子の場合、結局は体型の問題に落ち着くのが悲しかった。
222 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/07(金) 01:14:59
書くの飽きたから辞めるわ。すまん
223 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/07(金) 01:58:50
えぇ〜っ?そんなぁ…。
ズコー
225 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/07(金) 02:11:16
>>222 愛のシルエットさんじゃないよね?違うよね?
もっと読みたいし・・・
226 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/07(金) 15:12:19
>>222 愛のシルエットさん、もっと読みたいよう。
はやく重雄に浮気させてかやくご飯を…
>>222は作者ではありません。
話は長くなりますが、もっと続きます。
228 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/07(金) 23:57:10
早く来ないかな?ワクワク
(19)
それからの杏子は、毎日アパートに帰ると郵便受けに手紙の返事が
着てないか確かめるのが日課になった。
文通のやり取りは、始めのうちは会を通して会員同士のやり取りであり、
お互いの住所は知らない。
杏子は郵便受けに、出会いの会の青い封筒を見つけるといそいそとして
部屋で封筒を開け、中身に見入った。
しかし、杏子が会誌を見て手紙を出した相手の返事は、殆どが
「今度は写真を送ってください」とか「一度お会いしたいです」のような、
手紙をやり取りして交際を深めるという内容のものは殆ど無かった。
杏子はこのような出会い系の交際は、手紙で何度かやり取りしてお互いを
よく知ってから逢ったりするものだと思っていたので、一度のやり取りで
いきなり住所を教えあったり、写真を交換するということに戸惑いを感じた。
しかし、そのうちに男たちは女性というものに対して、容姿に重きをおいて
それを知ってからがアプローチの本番だということを思い知るようになった。
杏子が「写真はもう少しお互いのことを理解しあってからにしませんか?」
みたいなことを書くと、全く返事が来なくなってしまったのである。
また、一方で杏子が自己紹介で会誌に載せた方は、独身24歳という年齢が功を
奏したのか数え切れないほどの手紙が来るようになった。
その中身は年齢も二十代から五十代までいろいろで、既婚者からは浮気の相手として
若い人からはセックスフレンドの相手として、その殆どは体目当ての本音を
巧妙に隠した付き合いの申し込みだった。
太めの女性という事実の前に、年齢の若さに目がくらんでのことだろうが、
実際に杏子を目の前にすれば、一瞬にして身震いするのは確実なのであろう
(20)
しかし、直筆の手紙というのは人間性がもろに現れるものである。
誠実そうな男は手紙の内容もしっかりしていて、字も丁寧に書いてくる。
一方、単にセックス目的で女性を求める手段で入会しているような人は、
内容もそっけなく、字もおざなりの書き方でとにかく「すぐに会いたい」
とそればかり書いてきて、数回で見込みが無いとなると音沙汰がなくなる。
杏子は何度かやり取りを経験するうちに、最初から自分の体型を正直に
書くことにした。
そうすると、大半の男は二度と返事が来なくなった。
もっとも、延々と返事が続く男たちも、離婚して年の往った男とか、
僻地で結婚相手に恵まれない高齢独身男とか、あるいはちょっと変態じみた
男とかばかりで、碌な男がいなかった。
始めのうちは、男性との手紙のやり取りは生まれて初めての杏子にとって
、男性に手紙を書いたり返事を読んだりすることは胸がワクワクするような
出来事であったが、次第にうんざりしてきた。
特に40代50代の男たちが「太めでも構いません、あなたの若さに惚れました」
式の相手の女性の年が若いというただそれだけで「結婚を前提に」という無茶な要求には
呆れる思いがした。
男たちって、自分の要求ばかり伝えてくるけど相手の都合とか考えないのかなあ?
杏子の容姿を目の当たりに見たら、まず殆どの男たちは自分の要求を撤回すると
思われたが、それはともかく、女性の方の都合を考えない男のなんと多いことか。
仮に杏子がスタイルが良くても、こんな男たちと付き合うなんて気は起きなかっただろう。
杏子がこれはと感じた男は返事が次第に来なくなり、逆に自己紹介を見て
杏子目指して送ってくる手紙は内容からしていい加減な手紙が多かった。
杏子は次第に気落ちしてもう止めようかと思い始めた。
(21)
そんなある日、出会い系の会から送られてきた青い封筒に入っていた
手紙を見て、杏子はなんとなくいつもと違う雰囲気を感じた。
今までの男たちと違って字がとても丁寧な書き方の男であった。
まるで、女性が書いたのでは?とも思える繊細な字であった。
しかも、その内容が「始めまして。僕は以前から太目の女性に憧れていました。
僕の趣味は・・・」少しも強引なところがなく、控えめで落ち着いた
感じの書き方に杏子は今までに無い感触を覚え、返事を出した。
その男性は、最初から正直に離婚して幼い子供が独りいることや
子供の世話と仕事で忙しい毎日であることなど、自分の置かれている環境
を具体的に書き綴っていることにも好感を覚えた。
何度かのやり取りで、杏子は自分のプロフィールを正直に書き送ったりしたが、
相手のスタイルを手紙で読んで心が浮き足立つのを覚えた。
杏子の好みの痩せ型華奢な男性の様である。
年も杏子30近いがそれほど離れていない。
しかし、なぜ太目の女がいいんだろう?
普通の女性には興味が無いといっていたが?
マザコンでお母さんがデブデブなんだろうか?
疑問はいくらでも湧いてきたが、別に結婚を前提とした文通をしているわけでもないし、
単なる男女の出会いの付き合いだから・・・
杏子もこのような文通でそれから先のことを深く考えていたわけではない。
男性のいい友人でもできないかなという程度の思いだったに過ぎないし、
そもそも子供がいるような男とでは付き合いも限界があった。
しかし、文通は進展すると、住所や写真の交換をするようになる。
相手の男性からついに「写真を交換しませんか」の手紙が来てしまった。
232 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/08(土) 02:11:42
太郎編の続きが激しく気になる
233 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/08(土) 15:01:52
「太郎」って、作者は女性だろう?体調悪いみたいだから気長に待つしかないよ。
234 :
太郎:2006/07/08(土) 15:39:37
男21歳。快便ですが。女だと思われたorz
愛のシルエットさんてプロか?ってくらい文章がスムーズ・・・
楽しませてもらってます。
同じく愛のシルエットさんの文章、大好きです。
ちょっとだけ読もうと思っても結局全部読んでしまう。
読めば読むほど杏子って私似だ。
唯一違うのは、私は既に三十路を越えているという点。
こんな私でよければまんまん貸します。
愛のシルエットさん、今日はお休みかぁ。
残念、でも体を壊したら大変だから待つ。
(22)
杏子は一日憂鬱であった。
「写真かあ・・・」
文通相手の吉宗孝之との甘いやり取りも、自分の写真を見た時点で
終わりを告げる予感がした。
その一方で、好意を感じている孝之の写真を一目見たい欲望にも駆られていた。
仕事の帰り道にスーパーで買い物を済ませると、安普請のアパートに帰った。
杏子の晩御飯は丼である。ただし、丼といってもラーメンの丼だ。
タイマーで炊き上がったご飯を丼に盛ると、スーパーで買った惣菜をその上に
盛り合わせた。
今日はタラコ、きんぴらごぼう、筍の煮付け、トンカツ一枚、ヒジキなどである。
これだけいっせいに盛ると、ラーメンの丼でも山ができる。
杏子は惣菜を小皿に盛るようなことはしない。食べるものは全てラーメン丼の
ご飯の上に載せるのだ。
散らし寿司ならぬ、「杏子風散らし丼」の出来上がりである。
しかし、さすがにトンカツとタラコは一緒には並べずに丼の中で対極の位置に
置く。そこは女性ならではの美意識が働いているといえよう。
ここまでで判ったように、杏子の食器はラーメン丼唯一つである。
これ一つでご飯も食べればラーメンも食べられる。
洗うのは炊飯器とこの器だけなので楽である。
器が一つだけというのは、飼い犬や猫の食器を連想させるが、なに、人に見せる
わけでなし、自分が美味しければ何も問題なかった。
今日は手紙の返事のことを考えていて食欲がなかったので、丼飯は一杯だけにして、
夜食のパンやプリンの用意をしてテレビを見ながら食べようとした。
その時、玄関がピンポンと鳴った。
(23)
「だれだろう?」
玄関までそーっと行くと、覗き穴から外を覗いてみた。
中年の柄の悪そうなおっさんが立っている。
「はい、どちら様?」
「NHKです、集金なんで開けてや」
「うちは契約してませんから結構です」
「契約てな、法律で受信料払わなあかんよってな、はよ、開けてんか」
「ですから結構です」
二年ぶりくらいか、NHKの徴収が来るのは。また担当が替わったんだな。
「あんた払わんつもりか?法律違反!法律違反でっせ!沢野さん!沢野さん
法律違反ということ判ってる?法律犯してどないすんねん沢野さん!!!」
法律違反を強調し近所に聞こえる大声を出して、集金人はドアをドンドン叩いた。
この分では徴収するまで粘りそうな勢いである。
1人暮らしの女性ならまず間違いなくこれで受信料を払ってしまうだろう。
男でも気の弱い人は陥落するかもしれない。
嵩にかかって恫喝する、杏子の嫌いなタイプである。
杏子はドアの手前に行くと、覗き穴から外を見ながらそっとドアの鍵を開けた。
ガチッと音がすると、集金人はドアが開くと思って体をどけた。
杏子はそのまま動かない。
集金人はしばらく待ったが誰も出てこないので、ドアノブに手を掛けドアをそっと
開けようとした。
ドアが開きかけたその瞬間、杏子は片手で思いっきりドアをぶちあけた。
ドガッ鈍い音を立ててドアが集金人に当たった。
「あたたたっ。な、何だこの・・・・」頭と肩をぶつけた男は
中からのっそりと現れたというか出現した化け、いや杏子を見て言葉に詰まった。
沢野杏子という名前と声の感じから、気弱な女性でも想像していたのであろう。
その落差に気勢を削がれたという雰囲気である。
だが、すぐに気を取り直して、片足をドアの隙間にさっと差し入れると、
「お宅、随分受信料溜めてるじゃないの、精算してくれなきゃ困るよ」
と、痛めた肩をもみながら言った。
(24)
ドアを閉められない用に片足を入れるところはさすがに手馴れている。
「ですからうちはNHKなんか見てもいないし、興味ないので契約しない
っていってるでしょう」
その時、部屋の奥から「ガッテンだ、ガッテンだ、ガッテンだ」という音が
聞こえてきた。
「アホ抜かすな!今観てる番組ありゃなんや?人に怪我さしてやな、このまま
ただで済むと思うとるんか?お前が法律違反しとるんやで?警察呼んで
くれてもかまへんで。わいわな払うてくれるまで帰れんのじゃ!!!」
集金人は延々と怒鳴っていたが、杏子は無言で相手を見つめるだけだった。
集金人は、大仏の様に目を閉じているのか開いているのか判らない杏子が
ずっと押し黙っているので少し焦りが出てきた。
と、同時に、ドアの隙間に差し込んだ片足が次第に痛くなってきた。
足を引き戻そうとドアに手をかけたがびくとも動かない。
それもそのはず、杏子はその万力のような怪力でドアを少しずつ閉めて
いるのだった。
「いだだだ、ドアを開けんかいド阿保!あたたた、開けて開けてああああ、
開けてください。開けてくださいお願いお願いしま、、」
「前に来た集金の人はこれで骨を折ったんだけど、話聞かなかった?」
「はえ?は、は、は、は、判りました帰ります帰ります!!」
杏子はドアを緩めた。
集金人は片足を引きずりながら、てめえとかブタとか罵りながら消えていった。
集金人カワイソス私怨
(25)
これでまたしばらくは集金がこないぞよしよし。
杏子の給与の大半が食費に消える以上、受信料といえど無駄にはできない。
杏子は新聞すら取っていないのだ。
部屋に戻った杏子は改めて孝之の手紙を取り出した。
孝之の手紙は日常茶飯事の出来事がそれとなく綴られているだけであったが、
それだけに誠実そうな人柄が伺えた。
他の男の手紙ときたら「初体験はいつ頃ですか」とか「どこどこでなら会えます」
とか、とにかくまどろっこしい手紙のやり取りは抜きにして、
24歳の女性とやりたくて仕方が無いという男の本音が出ているものばかりであった。
中には単刀直入に「いくらなら付き合ってもらえますか」というのもあった。
酷いのは「僕自身を見てください」と書いて、自分の勃起した男根の写真を
送ってくる男もいた。
「バカ丸出し」杏子は笑った。この写真のお礼に女が自分のマンコの写真を送るとでも
思ってるのかしら。
もっとも、杏子の全身像の写真を送ったらみんな引いてしまうであろうが。
だからこそ、孝之への返事に杏子は気が落ち込んでしまうのだった。
そもそも杏子の写真といっても最近のものは無かった。
今の会社に入社した時の集合写真か高校の卒業アルバムか、どれも送れるような
ものはない。
特に、他人と並んで撮った写真は自分の顔の大きさが強調されていて拙い。
しかも、かなり前のものだし。
私の顔なんか相手に知られずにこのままずっと文通が続けばなあ。
と、かたわらの手鏡を覗きながらつぶやいた。
手鏡から顔の周辺がはみ出している。かなり鏡を遠ざけないと自分の顔すら
全輪郭が捉えられない。
とりあえず、返事としては「今、手元に写真がないのでその内お送りします」
と濁して書いた。
>>240 肉以外のひじきなど食べてるのが意外でワロス
(26)
杏子は自分では決して面食いではないつもりだった。
自分のような人間が異性を容姿で好み分けるなどということは、
天に唾を吐くようなことだと考えていた。
しかし、高校のときの初恋の相手は、校内でも有数の美男子だった。
男女の付き合いと無縁の杏子は、そもそも男子を異星人としてしか見ていなかった
のだが、ある日、杏子が落としたカバンをその初恋の男子生徒が拾って
手渡してくれたのだ。
普通の男子生徒なら、杏子のカバンなんぞ蹴飛ばすか汚い汚物でも見るような
目で見て拾うわけが無かった。
しかし、その男子生徒はわざわざ拾って手渡しただけでなく、その時、手で埃を払い
取ってくれたのであった。
人は疎外されているときほど、人の小さな親切や気遣いが心に染みるものはない。
いけてる男子の校内ランキングトップに入ろうかという男子生徒と
校内女子生徒ランキング外で、学校から外に放り出されそうな杏子との落差は
大きいなどという表現では追いつかなかった。
校内で遠めにその初恋の男子が映ると、じっと目で追ってしまう杏子もまた
年頃の女子高生であった。
孝之から手紙が来た。
写真が入っていた。
「ええっ!」
旅行の際に撮ったスナップ写真だろうか。
山を背景にラフな格好で笑顔を見せている。
想像したとおりの優男で華奢。まさしく杏子の好みのタイプだった。
「こ、こ、この人と私は文通しているの?」
この方の直筆の手紙を私は持っているのよ?
何度も何度も写真を見た。
杏子の心臓がトクトクと、いやボッシュボッシュと高鳴った。
改めて、手鏡で自分の顔(中心部のみ)を見た。
絶望だ。
このままでは・・・
(27)
次の休日に杏子は街中を行ったり来たりしてうろうろしていた。
ついに意を決して美容院に入ろうと思っているのだ。
それまで、髪の毛は長くなった分だけ切ればいいという非常にシンプルな理屈で
全部束ねて後ろで結んだ、いや縛っただけの髪形で済ましてきた。
化粧品すらすべてニベアで済ませてきたくらい、今まで美容とはてんで縁が無かったので、
美容院に入ってもどのような扱いをされるのか、注文を出すのか、
皆目見当がつかなかった。
それよりも、美容院ってなんでどれもこれも外から中が丸見えなんだろう?
中の客はみんな美人に見える人ばかりだし、何より自分があの席に座っているところを
外からも丸見えというのが耐えられそうになかった。
「どこか、地下でやっているところは無いかしら」
杏子としては、人知れずビルの地下で、人目につかない場所にある美容院なら
入っていけそうだった。
しかし、自分を変えるしかないのだ。
「槐より始めよっていうじゃない。始めなきゃだめよ」
孝之の写真が杏子の背中を押した。
「いらっしゃいませ!」
店内の店員や客が一瞬息を呑んだように感じた。
杏子はきびすを返したくなったが、下っ腹に力を入れて押さえた。
「ど、どうぞ、こちらへ」
店員がどもるのが気に入らなかったが、案内されて紙を渡された。
どうやら自分の好みを書くらしい。
「へ?ナチュラル?パーマ?アレンジ?巻髪?」
どうするんだろう?ましてスタイリッシュとかラブリーとかいわれても
チンプンカンプンだ。
「あの・・・すみません、どのようにしたらいいかわからないんです」
(28)
女性は得てして残酷になる。
得に自分より劣る女性に対してはより一層。
「お客様としてはどのようなスタイルがお望みなんでしょうか」
「ええっとその、髪にウェーブっての?波ががかった風にして、
顔がもっと小さく見えるように」
応対した店員は必死に我慢したが、頭の手入れをしながら耳を側だたせていた
客はみんな噴出した。
杏子は気にはならなかった。
自分が嗤われることなど、子供のときから慣れていたし、自分が他人の立場だったら
やっぱり嗤っていたらろう。
こんなひっつめの髪型でいきなり来られては、お店のほうも大変だろうが、
そこは運を天に任すしかない。
「窮鼠猫を噛むっていうしね」
さっきから使い方を誤っている諺にすら気がつかなかった。
後はもう店員が「ここはどうしますか?」とか「ここもカットしましょう」
とかいろいろ言っていたが全て「お任せします」で片付けた。
「最初だからウェーブも少なめにしますね」といわれて漸く終わった。
鏡を見ると、髪は確かに注文どうりにカットされて波が出来ていた。
しかし、どうみても試合直後のアジャコングがカツラをかぶったような
違和感がある。
それでも以前に比べたら増しになった気がした。
料金を支払う時、店員が顔を歪めて笑いを堪えているのが手に取るうに判った。
思わず、店員に自分の漬物石ヘッドパットを見舞ってやろうかと思うくらい
腹立たしくなったがそこはじっと我慢した。
美容室での杏子の気持ちが手に取るように分かる('A`)
なんで美容室って、外から丸見えなんだろうな。
251 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/11(火) 21:22:37
私も、ひっつめだよ、前髪はあるけど、夏だし。
私も、美容院で笑われてんのかな…杏子カワイソス………
(29)
髪型を整えてみたものの、顔の造りはいかんともしがたい。
目はまぶたが腫れぼったく上下から目を隠しているようだし、
ほっぺたが膨らんでいるので、鼻を両側から攻めており、何やら
顔の真ん中に孤島のように出っ張っている。
時間とお金が豊富にあれば、女性なら誰しも整形やエステに励むところ
だろうが、今の杏子にはその両方がない。
いや、その両方があったとしても、杏子はそのようなお金を掛けてまで
自分を変えることには興味を持たないタイプであった。
さあ、次は写真だ。
まさか写真屋で撮ってもらう訳にいくまい。
お見合い写真ではないのだから。
背景が風景のスナップであれば一番自然なのだが、わざわざそのような設定を
してまで頼める知人もいなかった。
というわけで、杏子の行った先はスピード写真であった。
証明書に貼るわけじゃあるまいし、人に見せるのにスピード写真とは如何なものかというなかれ、
今の杏子にはそれしか手段が思いつかなかったのだ。
しかし、その代わり、格安で何十枚もいろいろな表情で写真を撮ることができた。
微笑んでみたり、色目で見たり、お茶目にしてみたりと、あくまで杏子の
思い描いたつもりの表情である。
ところが自室に帰って一枚一枚を見てみると、全然思ったように撮れていなかった。
微笑んだつもりの写真は能のお面のように目がうっすらと開いている。
ダメダコリャ。
笑顔のつもりで歯を剥き出しているのは、餌にかぶりつく寸前の獣を思わせる。
ダメダコリャ
目をぱっちりのつもりが額だけ吊り上って、相手にガンをつけてるとしか思えない。
どれもこれも、ダメダコリャだ。
どうしよう・・・・
253 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/11(火) 23:15:23
(30)
せっかく、髪型まで変えたのに・・・・
その時、ふと、端に落ちていた一枚に目を留めた。
たまたま、何も考えていないときに撮れたのであろう、物憂げに斜め下を向いている写真があった。
何も表情を作っていないだけ、自然な姿の杏子の写真であった。
「これが一番自分らしいかな・・・おっぱいも大きく写っているし」
無論、この写真にしたところで自信があるわけではない。
孝之はこの写真を見てがっかりし、これで文通も終わりにするだろう。
杏子の短い、しかし胸をときめかせた文通交際もこれで終わりを告げるのだ。
翌日、最後の手紙を投函した。
「私の写真をつけます。きっとがっかりすることと思いますが、本当の私は
この程度なのです。けれど、今までの文通は本当に楽しかったです。
短い間ですが付き合っていただいて心から感謝しています・・・」
これからまた、職場とアパートを往復する単調な毎日が始まるのだ。
おりしも、職場に行くと、寿退社する先輩が職場で紹介された。
「今月を持って、販売課の山根さんが寿退社されます。山根さん、みなさんに何か一言・・・」
上長の声を課員と一緒に聞きながら、杏子は下を向いていた。
美人っていいな。
あの人もこれから結婚して、家族ができて、将来は孫もできて色んな
人に囲まれて、祝福されて・・・
自分の将来を考えると、孤独感がしみじみ沸き起こってくるのであった。
第一部 完
254 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/12(水) 11:39:06
私も嫁にいけないまま一生を寂しく終えるのかな…
二部も楽しみにしてますよ!
wktk過ぎる
二部すごく楽しみ。最近惰性気味で本をほとんど読んでいなかったけれど
この小説はそれを吹っ飛ばしてくれる。
258 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/13(木) 21:48:53
エロギャグ小説として始まった「愛のシルエット」は長編純愛小説に
変貌しました。
エンディングは感動の涙できっと読み続けることが出来ないと思います。
259 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/15(土) 02:06:18
age
260 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/15(土) 13:57:52
紫煙あげ
261 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/16(日) 03:24:44
二部いつ始まるの?マチキレナイ!
愛のシルエットさん早く二部始めてください。
261さんと同じく待ちきれない!!
263 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/16(日) 22:25:02
>262
待つのも楽しみですよ〜。でも自分もホントは早く読みたかったり・・・
(1)
女性は23歳前後の頃が一番美しく見えるものらしい。
男の目を惹く肉体美を誇るなら、その時を逃してはならない。
良い男を捕まえる勝負どころは23歳の時だ。
テレビで軽薄タレントの会話を聞いていた杏子は、恒例の杏子風ちらし丼に
舌鼓を打っていた。
夏も近いこともあって、今日はウナギを奮発した。もっとも、高くて小ぶりな国産ではなく、
安くて量だけ多い中国産のウナギだ。
中国産は胴体がやたらと太く短い。ウナギというより、幻のツチノコを連想させる
形状をしている。
ウナギだけでは栄養のバランスが取れないので、その上に豆腐を一丁丸ごとと
その脇に胡瓜の漬物、ひじき、らっきょうを配備し、今日も完璧な布陣で夕食に
臨んだ。
「23歳かー。杏子、もう24だっちゃ。もうムチムチのプリンプリンよー」
少なくとも異性関係には使い道の無い、この豊満というより暴慢した肢体は
今後とも、材料運搬要員としては会社からは重宝されるはずであった。
その時、玄関の呼び鈴が鳴った。
は?誰?新聞の勧誘?近所の宗教勧誘?NHKならこの前撃退したはず。
実家からの宅急便ならいいんだけど、レディーのお食事の最中に困るわねー
などとつぶやきながら玄関に行った。
ドアスコープで外を覗くと、横向きの男が立っていた。
はて?誰だろ?
見覚えがあるようなないような・・・
ドアの鍵に手を掛けて鍵を開けようとした瞬間、手が止まった。
と、同時に足が震えてきた。「え?え?嘘、嘘、なんで?ここに」
スコープを覗いてみた。間違いない、外に立っているのは文通相手の孝之であった。
どないしよう、化粧もしとらんし、すっぴんやし。
普段からニベアクリームで手も顔も足も済ませている杏子が、すっぴんもくそもないのだが
そこは女性の本能として、男性の前では常に美しくありたいという気持ちが働いた
だけのことであろう。
(2)
取り合えず、台所の布巾で顔を拭いて、うがいをしてから玄関に出た。
この際、ジャージにトレーナー姿は仕方ない。まさかスーツに着替えて出るわけにも行かないし。
玄関の鍵を開けてゆっくり戸を開けた。心臓が飛び出そうに鼓動を打っている。
「あ、あのどなた様でしょうか」
「あ、はい、吉宗といいます。沢野さんですか?」
「あ、はい、沢野といいます。吉宗さんですか?」
杏子は緊張のあまり、中学生の英語の教科書みたいに孝之の台詞をオウム返しに繰り返した。
「すみません。いきなり来ちゃって。迷惑でしたか?」
「い、いえ、迷惑だなんてとんでもない。でも、なぜここが?」
「あなたの手紙に近所の駅とか利用しているスーパーの名前があったし、
それよりこのアパートの名前」といって孝之は少し笑った。
そういえば、以前に手紙にこのアパートのことを書いたことがあったっけ。
いつ取り壊されてもおかしくないようなボロアパートのくせに名前が
「メゾン・ド・グランドシャトー」という不釣合いな名称なのだ。
杏子はそのことを面白おかしく孝之の手紙に書いたことがあった。
スーパーという目印があれば、交番かどこかでアパート名を聞けばたどり着くのは
容易のはずである。
しかし、杏子はこの後の展開をどうすればいいのかわからなかった。
玄関で立ち話で済むわけが無い。
意を決して孝之をちょっと待たせてから、丼を片付け、万年床や脱ぎ捨てた服、雑誌類はまとめて
押入れに突っ込んで孝之を部屋に招きいれた。
殆ど人の訪れることの無い1人暮らしの部屋である。
乱雑としか言いようの無い散らかりようである。
ktkr
(3)
小さなテーブルにお茶を出さなきゃ、と思いついたときに孝之は
「缶ビール買ってきたんです一緒にどうですか?」
とビールやジュース、つまみ類の入った袋をテーブルに広げた。
気のきく男性である。
杏子は今まで、異性とこのような対面状況で対話をしたことがなかったので
戸惑っていた。
しかも相手は見るほどに孝之なのである。写真から思い描いたとおりの華奢な好みの
タイプである。
「こういう状況をなんていうんだっけ。飛んで火に入る夏の虫?」
またもや諺音痴を曝け出す杏子だったが、言葉に出さないだけましだった。
テーブルを挟んで二人は向かい合わせに座っていた。
杏子は孝之の買ってきた缶ビールに少しずつ口をつけていた。
普段なら一口でも空けられる杏子だが、そこはぐっと我慢して孝之の出方を待っていた。
「写真では殆ど顔が主体だったし、こんなデブデブだと知ってもうがっかりしてるかも・・・」
確かに、客観的に見れば、関取とその付き人の図にしか見えなかったであろう。
「あの・・・今日はどうしたんですか?もう文通してくれないと思ってたんですけど」
杏子はうつむき加減に話しかけてみた。
孝之は優男特有の頬笑みを浮かべると、話し始めた。
「うーん、なんというか、あなたの写真を見て何か惹かれるものがあったんですよ」
「これで終わりにしたくないという気がして、気がついたらここに来てしまって。
迷惑かけて済みません」
「いえそんなこと・・・でも、あの、吉宗さんなら私なんかよりもっと良い人が
いくらでもいるんじゃ・・・」
「いえ、僕はあなたのような方がいいんです。あなたのようなタイプだとなんていうか
くつろげるんですよ。構える必要が無いというか、お願いですからこれからも
付き合ってもらえませんか?」
(4)
杏子は動揺した。
私みたいなドデブタイトル保持者に、普通の?男が言い寄るなんて、ありえない。
「え、まあーその、私は、構わないですけど、こんな女でいいんですか?」
それには応えずに孝之は自分の状況を話し始めた。
離婚して三年になるけど、現在は五歳になる女の子がいること。
今はその子と二人暮らしで家政婦さんに家と子供世話を頼んでいることなどなど。
家は山の手の方らしい。経済的にも潤っているようだった。
程なく、孝之は帰ることになった。
杏子は表まで見送ったが、帰り際に孝之は言った。
「もう文通じゃなくて、時間を見てまたお会いしましょうよ」
「は、はい私のほうもよろしく」
杏子の頭に血が上ってくるのが判った。
孝之と別れて部屋に戻った杏子は興奮を抑え切れなかった。
「ウッシャー!!ウッシャー!!」
ドスンドスンドスンと何度も四股を踏み、両手で顔をパンパンとはたいた。
他人が見れば「気合充分!待ったなし!」とでも掛け声がかかりそうな気がした。
翌日からまた杏子の毎日は希望溢れる明るい日々となった。
懐の定期入れには孝之の写真がちんまりと納まっており、そこまではありきたりの女子学生の
やることと変わりないのだが、折りたたむ定期入れの孝之の写真の反対側には
杏子の顔写真が入っており、定期入れを畳むと杏子の顔と孝之の顔が丁度くっつく
ようになっていた。
他所の男なら、杏子の写真と自分の写真がキスするような入れ方をされていたら、
狂気の悲鳴を上げて取り戻すことであろう。
今度はいつ会えるんだろう?
杏子は二人が町でデートしている風景を思い描いて心がワクワクしてくるのだった。
街で見かけるカップルもブスとブ男の組み合わせは腐るほど見かけるが、ブスとイケ面の
組み合わせはそうはない。
そう思うとなんとなく自分が誇らしかった。
おかえりなさーい!
ラムちゃんしゃべりワロス。なんかかわいーな。
270 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/17(月) 10:16:03
待ってました!情景がくっきりと浮かびます。
一気に読んでしまうけど、また何度も読み返して楽しんでいます。多謝!
デブ専・・・w
272 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/17(月) 15:06:54
毎晩楽しみでしょうがないよ。
(5)
勤務中にも関わらず、杏子は時折定期入れを開いては、中の写真を
覗き見てニンマリとしていた。
「沢野さん集配から呼んでるよ」
同僚社員の声も時々聞き漏らすほど、杏子は気がそぞろであった。
「沢野さん?沢野さん。今日は何か変ですね」
「あー済みません。ちょっと彼氏のことでねー」
「か、彼氏いー?」
同僚は目を剥いた。沢野杏子の口から「彼氏」などという言葉が発せられる
ということは、恐れ多くもあってはならないことであった。
この無制限デブ女は男日照の孤独の余り、妄想に陥っているのでは?と思いながらも、
「あの、沢野さん、彼氏さんが出来たんですか?」と質問してみた。
「えー、まあちょっとね、あ、ごめん、内緒にしてよ、まだまだだから」
といいつつも、実は写真とプロフィールを職場の全員に回覧してでも
披露したい気持ちを必死に押しとどめた。
杏子とて女性である。やはり、自分もいっぱしの女性同様に、付き合っている異性が
いるということをみんなに知って欲しい気持ちがあった。
実は杏子は前日に孝之と初デートをしてきたのであった。
仕事帰りに食事をして孝之の行きつけの飲み屋に行っただけであるが、
杏子としては首尾よくこなしたという感触があった。
孝之の行きつけの飲み屋では常連?や店の主人が目を丸くしたり、食事を
したレストランでは杏子の腹がつかえてテーブルを大げさに移動したりと
些細な?ハプニングはあったものの、最後に駅で別れるまで問題なかった。
それもこれも、杏子がアンアンやハナコ、ヴァンサンカンといった
女性誌で必死に勉強した成果であったといえよう。
(6)
初デートの立ち居振る舞いには一番気を遣った。
混雑している道を歩く時は、大柄な自分が先頭にたち、露払いよろしく
道を作ったし、食事も孝之の注文する品より一段低い値段の品を
チョイスしそれを大盛にしてもらった。
孝之は杏子と歩くことにまったく抵抗がないようで、周囲の人がこのアンバランス
な組み合わせにじろじろと注目しても平気なようだった。
いや、もしかしたら周囲の人は新種の女性ボディガードと連れ立っている
と思ったかもしれない。
ともあれ、このようにして杏子は自然に孝之との交際を深めて行ったのである。
そして数ヵ月後に逢った時、孝之は言った。
「今日俺のマンションに来ませんか?」
「え、いいんですか?子供さんが帰っているんじゃないんですか?」
「うん、一度会ってみない?結構可愛いよ」
孝之のマンションは小田急線沿線の住宅街にあった。
杏子はエントランスに入った時から、別世界に赴く探検家のように興奮した。
テレビではドラマでよく見るものの、このような洒落た豪奢な建物に
入るのは初めてである。エレベータに乗るときは他の住民にじろじろ見られて
恥ずかしかったが、何よりエレベーターに乗ったとき、ブザーが鳴らなかった
のが良かった。
杏子はデパートなどでエレベーターに載った時、重量過多でブザーが鳴ることで
何度恥ずかしい思いをしたことか。
エレベーターのブザーが鳴った時は、普通は最後に乗った人の責任?であろうが、
杏子はなんとなく自分が悪いような気がして、先に乗っていたにも関わらず
奥からのそのそ出てきて、自分から降りたりするほど気を遣っていたのだ。
もし、孝之とエレベーターに乗ったときにブザーが鳴ったら、これはもう
乙女としては致命的である。
この敬虔なる乙女はこの先も、この障害を克服していかねばならないのであろう。
(7)
孝之の部屋に入ったとき、五歳くらいの女の子が駆け寄ってきた。
「パパお帰りー」
続いて奥から高齢の女性が出てきて挨拶をした。
その人がどうやら家政婦さんのようであり、孝之と何やら言葉を交わすと
帰って行った。
「パパ、このオネエチャン誰えー?」
「パパのお友達。今日もいい子だったか?」
端から見ると微笑ましい父娘の会話である。杏子は羨ましさを禁じえなかった。
小奇麗な住居に可愛い娘。自分には一生、縁のない光景のような気がした。
どうしてこんな平和な風景の中から前妻の人は抜け出したのだろう?
バツイチの人を前に誰しも抱く疑問だったが、そこはやはり当事者でないと
判らない問題があったのであろうと自分で納得した。
幼児というのは好奇心の塊である。
突然訪れた、脂肪と筋肉の塊のような杏子にも、巨大な縫いぐるみの様な親近感
が湧くらしく、杏子の後を着いて回った。
それもあろうが、幼稚園以外では年寄りの家政婦が相手で退屈なのだろう、
若い杏子のほうが遊び相手としてはうってつけだった。
「お絵かきノート見せてちょうだい?お名前は?理沙ちゃん?すごいねー
自分で漢字で書けるんだ。私も漢字で書けるよ。ほら、杏子っていうの」
子供と同じ目線で話せる、というか子供レベル思考の杏子は孝之の子供、
理沙のいい相手になった。
この日から杏子は孝之の自宅にも頻繁に顔を出すようになり、一年後に
ついに孝之から同居を申し出てきたのであった。
同居キター (・∀・)ワクワク,ドキドキ
愛のシルエットさん、最高〜☆
連ドラより、おもしろいです!
>277
それ禿同!!
連ドラ全然興味ない自分だけど、愛のシルエットさんのは
気になってしょうがないよ〜
279 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/18(火) 09:32:53
愛のシルエット、本当に楽しみ!
淡々と書いてて、作者の顔が見えないところがまた余計に惹かれる。
>>279 そうそうw
下手に出てきて感想のレスにいちいちコメントされたりすると
萎えるのでこのまま、このクオリティでがんばってください!
超楽しんでますw
(8)
現在では、低反発ウレタンの開発により高級枕がブームである。
しんなりと頭を包み込むその柔らかさは、絶妙の寝心地を与えてくれる。
枕だけでなく、マット全体が低反発ウレタン素材になっている商品もある。
全身が柔らかく包み込まれる感触は、あたかも自分をこの世に生んでくれた
母体に帰還したかのごとく、安心感をもたらし、全身に安らぎをもたらせてくれる。
杏子は孝之を起こさないよう、ゆっくりと呼吸していた。
孝之は射精したあと、杏子の乳房の間に顔を埋めたまま寝入ってしまったのだった。
「これじゃあ、まるでベット代わりだな」
全身肉布団仕様の杏子の肉体は、孝之にとって非常に居心地が良かったようだ。
最初は杏子の下腹部の膨らみを、あたかもパン生地を捏ねるがごとく、
押したりもんだりして手触りが「気持ちいい」を連発していたが、当時は低反発素材が市販されていなかった
だけにその弾力が、ベット代わりにうってつけだったようだ。
一方、杏子はあれほど期待していた初めてのセックスに若干の失望感を感じていた。
予想どおり、自分の太ももが邪魔をして、孝之の勃起した男根は杏子の秘心にたどり着く
ことなく、太ももとの摩擦で孝之は果てたのであった。
「結局、処女のままかあ」
熱く火照る秘心を片手で慰めながら、杏子は次回に期待するしかなかった。
(9)
孝之と付き合い始めて、杏子は孝之との「有事」に備えた準備に取り掛かった。
杏子は下着はパンティの代わりに特大のショートパンツで代用していたが、
男性に見られても恥ずかしくない、特大のショーツとブラのセットを買い求めた。
さすがに東京は広く、杏子のような特大サイズ専門の店に行けば既製品で売っている
店があるのが助かった。
一方で、高校生の時から読んでいるレディースコミックで、本番の知識は充分すぎる
ほど持っていた。
腰の角度はこういう感じで、挿入する時はこうやって足を開いて、フェラはバナナ練習して
こうやってなどと、家で実戦に向けた演習を欠かさなかったくらいである。
「絶頂」ってどんな感じなんだろう?
男の人って「絶頂」の時に射精するんだよね。
初めてでも「感じる」ことが出来るかしら?
一緒に「行く」ってどんな感じなんだろう?
でも、まあ相手はベテラン?なのだし、向こうが誘導してくれるに違いない。
自分はなんと言っても「処女」なんだから。
全て、想像でしか思い描けないセックスに杏子は期待を掛けていたのだった。
男性に誘われてからアタフタしたり、どぎまぎするなんて女性失格なのよね。
常にその心構えができてないと。
と、杏子は孝之と会うときは、いつホテルに誘われても動揺しないよう常に臨戦態勢で臨んだ。
下着は洗いたてを着、胸の谷間を強調してセクシーさを前面に押し出した。
いつか来るであろう「本番」、これを乗り越えないことには、単なる「お友達」
であって、「男と女」ではない。
私もついに本当の「女」になるのだ。
(10)
次第に、孝之の視線が杏子の豊満過ぎる胸元に集中してくる手ごたえを感じていた。
「もう少しで釣れる・・・」
杏子が高校のときに水泳の授業で着替える時、学年でも飛びっきりのスタイル美人の女子生徒
が、なぜか豊満な胸を隠して着替えるのに気付いた。
貧乳ならわかるが、誰もが認める完璧なスタイルなのになぜ?
と、堂々と秘部すら隠そうともせずに着替えている杏子は疑問に思っていたが、
ある日、その理由が判った。
その美人生徒は乳首が墨のように真っ黒けなのだ。しかも乳輪が黒々とでかい。
色白なだけに乳首の黒さは余計目立つ。
弘法も筆の誤りで乳首を黒く塗ってしまったのか。
色素の問題だから、乳首が真っ黒ということは陰部も・・・
それに反して杏子の乳首はなぜか、綺麗な桃色で淡いさくらんぼのようであった。
ということは、杏子の秘所も自分で見たことはないが淡いピンク色???
神様がトドかゾウアザラシのような杏子の肢体に唯一、お情けで恵んでくれたのがこの
ピンク色の可愛らしい乳首であったといえよう。
案の定、渋谷のラブホテルで杏子の乳首を目の当たりにした孝之は、それに
夢中になった。
杏子がこれで私も「女」になれるかも、と期待したその結果が先の通りだったのだ。
初めっから上手く出来るわけないよね、と自分を慰めながら孝之を腹の上で
あやしながら眠りについたのである。
それからしばらくして、孝之から一緒に暮らさないかという手紙を貰い、
杏子は天にも昇る気持ちになった。
「こ、これって、プロポーズってこと?ほんまか?ほんまやな!嘘やったら
どついたるで!!」
杏子にとっては、孝之と暮らせるということも魅力的だったが、同時に
子供の理沙とも一緒ということが素晴らしいことにも思えた。
あの微笑ましい家族の一員になれる。
1人っきりの寂しい日々から抜け出せる。そのことが何より嬉しかった。
(11)
「沢野さんどうしたんだろ、唇が腫れているんじゃないか?」
「プッ、課長、ち・が・う・ん・です。沢野さん口紅塗ってるんですよ。初めてみたいですよ」
「ええー?赤がきついんじゃないー?あれじゃ顔をドアにでもぶつけたと思われるよ?」
「ふふっ、男でも出来たんじゃないでしょうか?最近やけに機嫌がいいし」
「ほんまか?へえー沢野さんがねえ。あの子がねえー」
「ちょっと沢野さんこっち来て」
「はい何でしょうか?課長」
「あのー、いち男性としての忠告なんだけどね。そのー、口紅、もっと薄い色にしたほうが
いいと思うよ」
「ええー、ダメですかこれ。そうですかあ・・・」
「まあ、君の好みでその色がいいんだろうけど、見た目のバランスが・・・」
「いえ、別に好みじゃなくて、これ試供品で貰ったのを使ってみただけなんです」
「・・・・・」
さあ引越しかあ。
家財道具は揃っているから身の回りだけでいいと言われたけど、確かに・・・殆ど
粗大ゴミにしかならないものばかりだわ。
理沙が会いたがっているからいつでも来てくれって言われているし、私が行ったら
家政婦さんもいなくなるから家のことを代わりにしなくてはいけないし、もう大変。
会社はどうしようかな。
孝之さんと相談して続けるか辞めるかを決めよう。
(12)
杏子は自分が辞める日のことを思い描いた。
「えー、こほん、本日は沢野さんが寿退社されることになり・・・」
いつかは、先輩に先立たれ、いや、先を越され惨めな思いをしたが、今度はキューピットは
私に矢を立てたのだ。
職場はどよめく。そんなバカな。あってはならないことだ。どっきりテレビだろ。
きっと、売れ残りのお局たちは寄り添って歯軋りしながら、杏子を睨みつけることだろう。
あんなトドにくっつく相手って、どんな奇人変人なんだ?類人猿じゃないだろう、とか影口を
叩くかもしれない。
そこでおもむろに、孝之の写真を見せるのだ。
職場の人たちがおおおーーと衝撃を受ける場面が目に浮かぶ。
「ちょっとさあ、沢野さんぶきみじゃん」
「そうそう、朝から時々ニタアって顔が緩んでるの。怖いよね」
「これってさあ、大仏が笑いをかみ殺した顔だよね。あれでお経でも唱え出したら
私気絶しちゃうよ」
職場の女子社員がこんな会話をしているとは露知らずの杏子であった。
ある日の夕刻に、杏子の職場の数年先輩である、背の高いジャミラと背の低いカネゴンが
杏子のところへやってきた。
ジャミラとカネゴンというのは、杏子が勝手に付けたあだ名である。もちろん心の中でしか使わない。
「沢野さん。今度おうちに遊びに行ってもいいかしら」
唐突であった。普段は昼飯を一緒に食べるくらいしか付き合いのない二人が家に行きたいだと?
恐らく、売れ残りお局陣営が最近の杏子の不自然な態度に男の匂いを嗅ぎ取ったに違いない。
そこでこの二人に杏子の自宅調査を命じたのではないか?
お局の職場の女性の男に対する嗅覚は凄いものがある。
良い人と付き合っているなら祝福してあげないととか、寿になるよう協力しましょうとか
綺麗ごとを並べるが、その実は、単なる興味本位と自分が置いてきぼりになる妬み満載なのである。
(13)
ジャミラとカネゴンが自宅に来てもばれることはない。
写真は定期入れにしまってあるし、孝之が自宅に来ることもない、殆ど杏子が孝之の
家に行くのだ。
でも、まだ孝之との関係が完全に軌道に乗ったわけではないので、職場の人にはまだ
知られたくなかった。
特にお局陣営には。知られると、きっとあの手この手で仲を裂くような手を講じてくるだろう。
「ええっと、散らかっているし、とても人が上がれるような部屋じゃないし・・・」
「ちょっと寄るだけですよー。メンドクサーとかいう名前のアパートがどんなのか見たいし」
「メゾン・ド・グランドシャトーです・・・」
「ああ、それそれ、良い名前ね。もし迷惑だった遠慮するけど?」
癪に障るジャミラだ。先輩に切り上げ口調でこう言われて断れる後輩などいるわけがない。
お局陣営に指図されたのだろうが、ジャミラとカネゴンたちも杏子の男関係の調査に
興味深々なのだ。
もし、孝之のことがばれたら、今度はどうやって知り合ったのかとか、どれだけ付き合っているのか
とかそれこそ退職するまで追及されることだろう。
どこの職場でもありえる光景なのであろうが、杏子はこういう職場の人間関係がわずらわしかった。
「じゃあ、今度の日曜にでも来てください」
ジャミラとカネゴンはそのあだ名の通り、簡単には男が寄って来そうもないレベルである。
しかし、割れ鍋に綴じ蓋の言葉があるように、それなりに相応しい相手が現れるものだ。
従って、この正座したトドのような杏子にどんな相応しい相手がいるのか、
みんなが興味を持つのも仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
wktk
288 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/19(水) 12:25:24
杏子に負けてる私…
誰かもらってください。
エロとIDって似てるね、なんとなく
やっぱ面白いーーーー
むちうですよ。
291 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/19(水) 23:53:01
最初の頃、杏子にはあんまりいい印象なかったのになあ・・w
なんだか今は杏子派になってしまったよw
本当にこの作者さんはすごいです。
興味本位で読んでみたら、ついつい・・・
この引き込まれ方がイイ!いつも更新を超楽しみにしてます!
作者さんありがとう!
14)
杏子の職場にいるお局勢力は、50代の1人を筆頭に40代が3人の計四人おり、
社内のなかでは「四天王」の異名で呼ばれ、周囲から恐れられていた。
杏子が入社した頃は、お局はまだ三人しかおらず、この三人が総務・購買・営業の各課に
点在した事務室のフロアは、「バミューダトライアングル」と呼ばれていた。
もし、上司か男性社員の誰かがこのお局の1人を叱責しようものなら、たちまち
残りの二人も加わり三人が結束して叱責した相手をやり込めるのであった。
この三人の点在する三角地帯は鬼門である。絶対に1人でも怒らせてはいけない。
すなわち、バミューダトライアングルと恐れられた所以である。
社内の女性人にとって、お局の勢力がトライアングル状態の頃はまだましだった。
憂慮すべきことは数年前に更なる悪化の兆候を見せたことだ。
長年、独身だった女性社員の1人が40代に突入したのだ。
結婚願望の強い女性でも、40代の声を聞くと諦めの境地になってくる。
事あるごとに、お局たちの誘いを受け、そのまま絡め取られるようにお局たちと
一心同体の身分と成り果てた。
つまり、お局軍団に「新入幕」を果たしたのである。
お局軍団の筆頭は50代で、人呼んで「般若」と呼ばれていた。
この「般若」というあだ名は杏子が思いついたものではない。
男性社員の間で広まっていたのだ。この50代の女性社員は普段はおたふくのように
優しそうな顔をしている。ところが、いったん機嫌を損ねると急変し「般若」のごとき
表情が変わるらしい。
中途で入社した人や、新人の社員などはそのことを知らずに怒らせて「般若」
を見てしまった社員がいるそうである。
それはあたかも、大魔神が変化するが如く恐ろしいものであるらしい。
杏子もその話(誇張がだいぶ混じっているだろうが)を聞いて、この四天王に相対する
時は戦々恐々としていた。
(15)
杏子がこの四天王の怖さを知ったのは、昨年のことである。
数年先輩の女子社員がお見合いを継続中という情報をどこから仕入れたのか、
この四天王はあっという間に社内に話を広め、しかも、その女子社員の仕事を
他の人間にどんどん割り振り始めたのだ。
つまり、近々退職するんだから、今から引継ぎの用意をというわけだ。
ところが、当の女子社員はまだ結婚が決まったわけでもないし、また子供が出来るまでは
退職するつもりもなかったのだ。
しかし、四天王はそのような理由を一願だにせず、さっさと送別会の準備まで始める
始末だった。
その女子社員が泣く泣く退職して行った日が、まだ杏子の目に焼きついていた。
恐らく、何かで四天王の気に障ることをしたのではないだろうか?
それにしても、四天王は寿退社する女性に対してはことのほかきつい態度になる。
彼女らも独身で若いうちはちやほやされ、自分の将来に希望を持っていたが、適齢期を過ぎ、
もはや結婚とは無縁の年齢ともなると、若い社員が幸せ一杯で結婚する姿は堪えるのかもしれない。
そういう意味では、若くても将来は男には縁無く終わるのがまず間違いない、
杏子のような存在は四天王にとってもなんら問題ない存在であった。
しかし、それだけに、杏子が男性と付き合っているなどということは、お局たちに
とって許しがたい?ことである。
人は誰でも、自分より劣った人が、クラスに、職場にいると安心するものである。
自分が最下位ではないという安心感が心の平穏を保つのだ。
それを裏切るかのような杏子の交際は、許しがたいことになるのではないだろうか。
杏子は恐れた。
お局たちに知られると、仕事を減らされる虐めから始まり、退職を強要してくるに
違いなかった。
上司たちも、結婚して居座られるより、また新人のイケイケギャル(当時の流行)を
雇うほうがいいに決まってるので、寿退社は歓迎している。
その四天王に指令を受けたであろうチビノッポのコンビがついに家宅捜索に来るのだ。
今日初めてこのスレに来ました。
ブックマークしました。
これからも楽しみにしています。
(16)
「うわあ、凄い建物ねえ。メゾン何とかっていうより、倒れ荘のほうが合ってるんじゃない?」
カネゴンの無遠慮な物言いに杏子は苦笑した。
言われなくても自分自身が一番良く判ってるわよ。一階の住民なんか、二階に私みたいな巨漢
が住んでいるのを知って、地震の時は怖がっているくらいだから。
「ねえ、ここって家賃いくらなの?」
やっぱり最初はこれか。
これが「カネゴン」と云われる所以である。彼女は何でも値段を知りたがる。
社員が珍しいものを持っていたり、新しい服を着ていたりすると、目ざとく見つけて
値段を知りたがるのだ。そして値段を聞いて、どこそこならもっと安いのがあるとか
もっと安いのでいいのを知っているとか、とにかくお金に換算して品物の良し悪しを
決め付ける性癖があった。
杏子の部屋に招きいれられてからも、部屋の備品のお値段に対する質問は止まらなかった。
かたや、ジャミラの方は、お土産のケーキ類を差し出すと、さっそく室内をサーチングし始めた。
杏子は二人のお茶の用意をしながら、憂鬱な気持ちになった。
これからいろいろ詮索されるんだろうなあ。とにかく、神経を尖らせて私が男と付き合っている
ことをばれない様にしなければ。一応片付けてあるし、男物はないし大丈夫だよね。
「急に来てごめんね。ところでさあ、沢野さんメディック工業の納入の人知ってる?あいつさあ・・・」
しばらくは、会社の取引先の社員とか職場の男たちの話題で時間が経った。
杏子は、もしかしたら私の杞憂で今日の二人は単にお茶だけしに来たのかもしれないと、寛いだ気分になった。
「あの戴いたケーキ出しましょうか。お皿に分けますよ」
「ああ、お願い、ところで灰皿ある?無かったら表で吸うけど」とジャミラが言った。
「あ、はい。ありますよ」杏子は言って戸棚から出した。
ジャミラは一瞬、間を置いてから言った。「沢野さん、タバコ吸うの?」
はっ、しまった!以前に孝之のために買っておいたのが・・・杏子はタバコは吸わなかった。
「いえ、はい、たまに・・・です」
「ふーん。どんな銘柄?」
くそっ、どんな銘柄だと?油断したっ。灰皿を置いとくなんて。
(17)
銘柄?銘柄?えーとタバコなんて吸わないから判らない。銘柄言ってもさらに突っ込まれたら・・・
その時、カネゴンがとりなすように言った「いいじゃないの、何吸っていても。それより部屋の中で吸うと
カーテンや服が黄色くなっちゃうよ?」
「いえ、いいんです。どうせ引っ越すから・・・」
「引っ越すー?」
ジャミラとカネゴンが同時に言った。
くそっ、またバケツをひっくり返した。いや、墓穴を掘った。杏子のバカバカ!
このコンビは上手い具合に駆け引きが出来ている。
「どこに引っ越すの?」
「いえ、引っ越せたらなあってことです。ここって倒れ荘だからw」
二人はそれ以上は何も言わなかった。
ジャミラが口を開いた。
「この前、渋谷であなたが歩いているのを見たって人がいるのよ」
えっ?渋谷?確かに孝之と丸山町のラブホテルに行ったけどまさか・・・
「い、いえ、違うんです。あの人は単なる知り合いの人で・・・」
「はあ?あの人って誰?男と一緒だったわけえ?」
しまったっ。トラップだったか?杏子は自分のバカ正直さに我ながら呆れた。脇の下に冷や汗が出てきた。
「あの人っていう男性は、さぞかし男前なんでしょう?いいわねえデートできる相手がいるなんて」
ジャミラは勝ち誇ったように次々にストレートを繰り出してきた。
「いえ、違います。そんなん思い過ごしです!」
杏子は知らず知らず声が大きくなっていた。
「まあまあいいじゃないの。プライベートなことなんだからさ」
と、カネゴンがその場を取り繕うように二人を抑えた。
まるで、取調室で刑事に尋問を受けているようだった。ガンガン突っ込む役がジャミラで
それを抑える役がカネゴンという役回りは、テレビの刑事物で見慣れた風景だ。
その時、カネゴンがこともなげに杏子に言った。
「沢野さん、料理の雑誌がいくらかあるけど自炊するの?」
また!もうほんとにやばい。孝之との生活に備えて料理の勉強を始めていたのだ。
「さ、最近ちょっと暇だから。カロリーとかそろそろ制限しようと思って・・・」
その時、杏子は愕然とした。ジャミラが見ている視線の先にあるものは・・・
(18)
育児雑誌の「プチタンファン」が積まれている場所だった。
独身の女性の部屋に育児雑誌があるということほど不自然なことはない。
もし、このことも「追求」されたら、杏子は堪りかねてゲロ(白状)してしまうかも知れなかった。
というよりも、このような私的なことで、職場の同僚が刑事と容疑者のような関係で相対することが
異常であるということに、この三人にまったく気付いていなかった。
が、しかし、ジャミラはその雑誌を見ても何も言わなかった。
話題は自然に年末の休みや帰省の話に変わっていった。
「沢野さんは実家は神奈川だっけ?正月は帰省するんでしょう?」
「はい、いえ、行きません」
「どうして?正月くらい顔を見せなさいよ」ジャミラが言うと、カネゴンも「そうよ、年に一度くらいはね」
「いえ、行けないんです。来るなって言われてるので・・・」
へ?二人は目を丸くした。「来るなって?実の娘なのに?お父さんもお母さんも?」
「父は私が4歳の時に死にました。今は兄夫婦と母だけなんです」
「お父さんが・・・そう。でもどうしてなの?」ジャミラはしつこく追求するのに向いている性格だ。
「・・・兄が私を嫌っていて。その・・・私がこんな体型だから側にいるのを嫌がるんです。
子供のときから自分の友達には、絶対私という妹がいるのを知られないようにしてたくらいだし」
杏子は俯いた。
「だから、私、卒業と同時に家を飛び出してここに来たんです」
「まさか、卒業してから今まで一度もってことじゃないよね?何回かはお母さんに逢っているんでしょう?」
杏子は答えなかった。
「お兄さんはともかく、その兄嫁さんとか、お母さんはどうなの?あなたの味方にならないの?」
「いえ、あの・・・兄が結婚したのを知ったのはずっと後で、母の手紙で知って・・・
だから、兄嫁は私のことは何も知らないはずです・・・」
(19)
カネゴンが唸った。「そ、それじゃあ、実の妹なのに結婚式すら呼ばなかったってこと?」
「とんでもないお兄さんねえ。あなた悔しくないの?お母さんも同じように考えてるのかしら」
杏子はもう話題を変えたかったが、いったん入り込んだこの流れを止めようが無かった。
「母はきっと、兄夫婦に気を遣っているんだと思います。だから、たまにですけど手紙は
くれています。私がおとなしくしていればいいことなので、実家には顔は出しません」
ジャミラは黙って窓の方を見ている。カネゴンは眉間に皺を寄せて不機嫌な顔で押し黙った。
ふと、ジャミラは窓の下の台の上から小さな写真たてを取り上げた。
「これなんだろう?タンポポかな?沢野さん押し花作るの?」
「あ、はい、タンポポが好きなんで。実家の側の多摩川の土手で取ったんです」
「実家の側?それじゃあ随分古い押し花?」
「ええ、高校の時、失恋した時に記念に・・・」
「沢野さんも乙女チックなとこあるんだあw」
この時、初めて部屋に三人の笑い声が響いた。
「タンポポって目立たない雑草だけど、なんだか自分に一番合っているような気がして」
「そう。あなたもタンポポみたいにしぶとく生きていけるから似てるかもね」
ジャミラとカネゴンの調査団?が帰る時、杏子はスーパーに行く途中の道まで二人を送った。
「じゃあこっちから駅に行くから。今日はごめんね。休みの日に時間潰して」
「いえ、ケーキ久しぶりでした。美味しかったです。」
家を出てから、カネゴンはなぜかずっと黙ってついてきていたが、杏子の顔をじっと
見つめて言った。
「沢野さん。あなた幸せになるのよ。いい?きっと幸せになるのよ!」
隣で、ジャミラは黙って頷いていた。
二人と別れて、スーパーに向かう道すがら、杏子はなぜか涙が溢れてくるのを感じた。
それは止め処も無くいつまでもいつまでも流れ続けるのであった。
同じ人間が書いたとは思えない、すごいわw
>>299 > 「沢野さん。あなた幸せになるのよ。いい?きっと幸せになるのよ!」
> 隣で、ジャミラは黙って頷いていた。
> 二人と別れて、スーパーに向かう道すがら、杏子はなぜか涙が溢れてくるのを感じた。
> それは止め処も無くいつまでもいつまでも流れ続けるのであった。
>>205 > 妊娠前はまだ体に弾力があったので、夫の辛うじてチンコの先端が膣に収まったが、
> 男根はそれ以上は侵入することはでき無い上に、杏子のマグナム張りの大口径膣口では
> 夫の亀頭は余裕がありすぎ、手こきしながら、入口で射精させるのが常であったのだ。
今日のは切ない話だなあ・・・。
でも孝之とは結局離婚しちゃうんだよなあ、
なにがどうなってそうなるのだろう。
302 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/21(金) 13:39:42
>>301 そそw
そこがすんごい気になる・・・w
孝之はいい人そうだし・・やむを得ない事情系かな??w
>>205に離婚の原因が書いてある訳だが…
どうやって重男の話しとつながるのか?
304 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/21(金) 19:00:17
>>303 ほんとだwwww
あの孝之がそんなこと言うなんて〜〜〜www
ますますますますwktkしてまいりました〜(・∀・)楽しみっ!!
(19)
ジャミラたちが杏子の自室を訪れてから、しばらくは職場の方は何事も無かった。
「別に心配することなんかなかった。ほっとひと安心ね。」
さあ、頭を切り替えてクリスマスの準備でも掛かるか。
理沙のプレゼントを作らなくてはいけないからね、今年は。
杏子は昼休みに配送部の倉庫の裏手の屋根の下で、裁縫の雑誌を広げるのが
日課になっていた。そこは社員たちの目に入らない場所なのだった。
ある日、そこに入りかけたとき、一瞬息が止まった。
そこには、お局のトップである「般若」が立っていたのだ。
杏子は一瞬、自分のことで待ち伏せしているのかと思った。
杏子は思わず引き返そうかと思ったが、返ってそれが不自然であることに気付いて、
控えめに「こんにちは」と挨拶をした。
でもなぜ、こんなところに般若が?しかもいつものおたふく笑顔ではなく、沈んで
いるように見える。
「沢野さん。ちょっとあなたに聞きたいんだけど」
来た!どう答えるか?。つーか、正直にいうしかないじゃん。もうどうにでもなれや。
「あなたたちね、私のこと嫌ってる?嫌な人だと思ってるんでしょう?」
はあ?何いってるの?この人?
「え、い、いえ。そんなこと無いです。仕事もいろいろ教えてくれるし・・・」
「そう・・・ならいいんだけど」
会話はそれだけだった。
般若はそれだけいうと、本館の方へと戻っていった。
(20)
クリスマスが近づいていた。
孝之は、イブの日は仕事で帰宅が深夜になるということだったので、杏子が孝之の
マンションに泊まることになっていた。
その晩は、杏子が娘の理沙と二人でクリスマスを楽しむ予定になっていたのだ。
杏子は理沙へのクリスマスのプレゼントは、お手製のキティちゃんの縫いぐるみに決めており、
12月に入ってから、自室で少しずつ縫っていたがもう完成間近であった。
理沙の体格と殆ど同じ大きさに作っているそれは、きっと気に入ってくれるだろう。
毎日布団で一緒に抱えて寝てくれるかもしれない。
そう想像すると、糸を縫いこめる指にも力が入った。
ある日、職場での昼休みに配送部の倉庫の隅でリボンの形を作っていた。
あとはこれを家に持って帰って、キティの頭につければいいのだ。
その時、同じ配送部の田部というおっさんがやってきた。
田部は人呼んで「ドンベイ」のあだ名のある高齢独身男である。
どこの職場にもお局がいれば、高齢毒男もいる。
ドンベイもその1人で、うだつの上がらない風体も冴えないこの男は、
この会社生え抜き50代のおっさんであった。
このおっさんは、平気で杏子の体に触るので杏子は嫌いだった。
若い肉布団の杏子の体は、弾力があるので尻や胸をちょくちょく撫でるのが
面白いらしい。
他の女子社員なら「セクハラっ!!!」と騒ぐので、おとなしい杏子にだけ馴れ馴れしく
触るのだった。
そこには「お前なんかどうせ相手にする男いないんだろう?触られるだけでもありがたく
思え」という、勘違い男特有の傲慢さが潜んでいるのだが、こんな歯抜けジジイに
触られてありがたく思う女性などいるわけが無い。
力なら杏子のほうが勝っているので、杏子が得意の「張り手」でも一発咬ませばドンベイは
吹っ飛んでしまうのだが、いかんせん生え抜きの男性社員にそこまで出来なかった。
(21)
杏子は、またセクハラドンベイが来たとうんざりして手を休めると、ドンベイは
驚くべきことを口にした。
「おい、ダンプ(杏子のあだ名)。知ってるか?ナンバー2が般若と喧嘩したってよ」
「ええ?それって、四天王のあの二人が?信じらんなーい。うっそー」
「うそじゃねえよ。そもそもな、ナンバー2が今度結婚するって事、お前知らねえだろう」
これは凄いことだった。
ナンバー2というのは、お局の仲間、四天王の二番目の地位?にある幹部であり、
トップの「般若」とツーカーのはずだった。それが喧嘩とは?
しかも、信じがたいことに、ナンバー2が結婚する?彼女はもう50になろうかという
大年増のはず。
「ナンバー2は本当に結婚・・・するんですか?」
「信じられんが本当だ。年末のビックニュースなんだなこれが。
年は同じくらいで子持ちの再婚男だとよ。あの年じゃあ再婚はしょうがないな。
だけどやっぱりあの年でも男は欲しかったんだろうキヒヒヒッ」
嫌らしい笑い方だ。大方、頭の中はあのことしか想像してないのだろう。
「でも、なんで喧嘩を?般若とは仲が良かったのに」
「そこだ!ナンバー2は結婚してもここを辞めるつもりがないんや。
それが般若の気に触ったんじゃねえか?それか、お局の仲間のくせに、自分だけ結婚して
売れ残りババアの仲間から足抜けするってことが許せねえんじゃねえかな」
ドンベエはにたりとヤ二のついた歯をむき出して嗤った。
「般若の奴は自分より幸せになる奴はとことん追い出しにかかるからな。
これからが見ものだぜ」
お局の一角が壊れる。これは女性社員にとって一大事であった。
今まではこの四人の支配によって、社内の女性組織は沈静を保っていた感があるが、
もし、四天王のスクラムが崩れれば、若手社員による動乱に発展する恐れがあった。
よく言えば民主化、悪い方向だと無政府状態か。
四天王によって、社内恋愛を潰された人、結婚間近の女子社員を追い出す道具として
使われた人、機嫌を損ねてハブかれた人などなど、恨みを持っている人は多い。
もし、クーデターともなれば、トップの般若が追い出されるのは明白であった。
(22)
数日後、ついに問題が表面化した。
ナンバー2が、結婚の挨拶を各部署にして周ったのだ。
その時の挨拶が「この度、結婚することになりまして名前は・・・」に始まり、
「でも、仕事はこのまま続けますので今後ともよろしく・・・」だった。
今まで、結婚した若手女子社員を追い出してきた張本人が、自分は居座ると宣言したの
だから、これは問題であった。
上司は退職を勧めたらしいが、本人は拒否したらしい。
般若に反旗を翻し、仲間から抜けると宣言したらしい。
社内ではあれこれとうわさが飛び交っていた。
いったんチームワークが崩れると組織は脆い。
四天王はもはや存在せず、般若も単なるいち年配女子社員でしかなくなった。
杏子が総務課を訪れた時、般若が若い女子社員に「ちょとこれをやって頂戴」
と頼んでいたが、「今忙しいので後でします」と断られるのを目撃した。
以前なら到底考えられないことである。
凋落というのは凄まじいものがある。
配送の社員の話では、般若は今では何でもかんでも自分でやらないと
仕事が進まないらしい。以前の般若なら声一つで余所の課の社員まで使っていたのに。
でも、ナンバー2が翻ったお陰で、これから若手は結婚しても退職しなくても済むだろう。
会社側としては困ったことだろうが、今の社会では結婚を理由に退職はさせられない。
「あなたたちって私のことを嫌ってる?」
以前に倉庫の裏で、般若が杏子に言った言葉が思い起こされた。
寂しげに1人で倉庫の裏に立っていた般若の姿を思うとき、なぜか杏子は憎めない
気持ちになったのである。
(23)
クリスマスイブの夕方、杏子はケーキと大きなプレゼントを持って孝之のマンションに
行った。
料理は家政婦さんが拵えてくれていたので、理沙と一緒に遊べる時間はあった。
理沙はキティちゃんの縫いぐるみに目を丸くし、思ったとおり、その晩はずっと
抱えて手放さないほど喜んでくれた。
その晩は二人でお風呂に入り、一緒に布団で寝た。
理沙はキティちゃんと杏子に挟まれて、安心するように寝入った。
杏子はこんなにも自分を慕ってくれる理沙という存在が、孝之以上に嬉しかった。
子供の頃から、孤独な人生を歩んで来ただけに、それはひとしおであろう。
理沙はお母さんと三歳の頃に別れた。
私は理沙の年の頃、父親と死に別れた。
杏子の父親の記憶で一番印象に残っているのは、何かの折に父親が
「杏子は本当に別嬪じゃなあ」といったことである。
別嬪という意味がわからなかっただけに、その言葉が子供の記憶に強く残っているのだ。
「小さい頃の私って本当は別嬪だったのかも。まさかね」
苦笑いしながら、杏子は眠りについたのである。
311 :
不細工:2006/07/21(金) 23:07:28
別嬪ウラヤマシス…
しわしわ中年オヤジがデブ女にはまる小話から始まってここまで来たかと感無量。
ただ、エヴァンゲリオンを見た人間としては、話の収拾が大丈夫であろうか気になるところ。
行けるところまで行ってくれ。
毎日更新をチェックしに来ている自分w
もうとりこです(・ω・)ドキドキ
(24)
理沙が寝入ってしばらくしてから、杏子はリビングに戻った。
孝之が帰るまでは寝るわけに行かない。
孝之はよく仕事が遅くなるらしいけれど、いったいどんな仕事をしているんだろう?
家政婦さんが近所だからいいようなものの、普通ならこんなに遅くまで子供の
面倒を見てくれるところなんかないだろうに。
ぼんやりとテレビを観ていると、孝之が帰ってきた。もう十二時も回っている。
「お帰りー。食事はいいんですか?お風呂なら用意できてますけど」
「うん、風呂だけにする」
短い会話で、孝之が風呂に入る間に台所を片付け、寝る準備をした。
孝之の家に泊まったときは、一緒に寝るのが恒例となっている。
ほどなく、孝之がパジャマ姿でやってきた。
今日は遅いから、そのまま杏子のお腹を枕にして寝るだろうと思いきや、杏子のパジャマを
脱がせにかかった。
「え、疲れているんじゃないの?」
といいつつ孝之の男根に目をやると、それは凛々しくすでに怒張している。
杏子も今日こそはという希望に胸を膨らませながら、その怒張した男根を優しく
手でしごき始めた。
孝之が杏子の巨大な胸に顔を沈めている体勢で、杏子は孝之の男根を自分の秘所に導こう
としたが、相変わらず自分のお腹と大腿部が邪魔をして届きそうに無かった。
このままでは、また太ももの摩擦で発射される・・・
杏子は孝之を仰向けにして、自分が上から覆いかぶさる体勢に体を移動した。
孝之はどうするんだ?というような表情をしたが、黙ってなすがままになっている。
(25)
杏子は孝之の男根を手でしごきながら、精一杯両足を広げ、男根を秘所にあてがった。
「ああ、もっと開脚できるように柔軟体操の練習しなきゃだめね」
自分に言い聞かせながらも、亀頭が膣の入り口に入っていく手ごたえを感じた。
「ああっ入った?入ったの?」
手で握り締めた孝之の男根が膣の入口をこすったとき、杏子は今までに無い快感
が全身を襲うのを感じた。
「ああ、もっと、もっと奥に、入ってっ!!」
その時、たまらず孝之が暴発した。杏子の手絞りが強すぎたのだろうか。
杏子は陰部の精液を拭きながら、また一歩前進したかなと充足感を味わっていた。
しかし、レディースコミックでよく見かける、激しく男根で子宮を突かれ絶頂に達するなどということは
相当遠い道のりのような気がした。
孝之は放出が終わると、そのまま杏子のお腹で、膝枕ならぬお腹枕で寝てしまうのが常である。
ぶよぶよの杏子の胸やお腹は孝之のお気に入りなのだ。
今回は孝之の精液は多少なりとも杏子の中に入ったのかどうか。
早く孝之さんの子供が欲しいな。孝之さんも避妊しないところを見ると、子供ができても
いいと思っているのだろうか?
理沙の弟か妹ができれば四人家族だよー?
私はもう一人ぼっちじゃなくなるんだ。子供の頃からずっとのけ者だったけれど、
もう一人ぼっちじゃないんだな・・・
小学校の頃からだった。
杏子の体が目立って他の児童よりも太めになって来たのは。
杏子が一番耳にした、自分に向けられた周囲の言葉。
「お前、邪魔だ」
太めになればなるほど、通行の邪魔、邪魔で見えない、遅くて邪魔、なんでもこの調子だ。
班編成では一番邪魔扱いで、どのグループも杏子を班に組み入れるのを嫌った。
教室で杏子の後ろの席の生徒が、杏子が邪魔で黒板が見えないといったときから、
杏子はずっと最後尾の席に座らされた。
(26)
人は皆、見かけで判断する。デブデブというだけで愚鈍、にぶい、頭も悪いと決めてかかる。
しかし、それどころか、杏子は太い指ながらも手先は器用で裁縫は得意なのだ。
体の動きは鈍いが運動神経も悪くない。文学が好きで大家の作品は網羅している。
根は素直で気は優しいところがあるのだ。
しかし、誰もそのようなところを見ようとはしない。評価してくれる人はいない。
中学・高校と進んでも、クラスメートと話をすることはあっても、友人といえる
ような人は1人も出来なかった。
この体型で生まれるんだったら、何で男にしてくれなかったのかと、何度も神を恨んだ。
男に生まれていれば、相撲でも柔道でもラグビーでもなんでも通用したのに。
でも今は違う。ようやく、自分が求める世界にたどり着いたような気がした。
「大事にしなくてはね・・・」
正月は孝之は休みは取れるのだろうか?理沙ちゃんと二人で何して過ごそうかな?
そう考えているうちに、杏子は孝之の頭を腹の上に乗せたまま眠りについた。
今日は年末の御用納めである。
勤務は午前で終了し、午後からは大掃除で今年も終わり。ようやく正月休みが来る。
社内は年末の慌しさと正月休みの期待感で普段よりざわめいていた。
昼休みに杏子は寒さを避けて外には行かずに、倉庫の中で1人で本を読んでいた。
下を向いて本を読んでいると、目の前に人が立った。
「!」般若?
「いつもごくろうさん」
「は、はい」般若がいったい何の用?
「沢野さん良い人と付き合ってるんだって?」般若はおたふく顔で笑顔を作りながら言った。
ええっ!なんでそれを!くそっ、ジャミラの奴、ばらしやがったなああああ!
「はい、でも付き合っているっていっても・・・」
杏子の顔が強張ったのを般若は押し留めるように遮った。
「あ、いいのよ。別にどうこうしようってわけじゃないから」
(27)
「若いっていいわねえ。あなたもチャンスがあるなら後悔しないよう、思い切って頑張りなさいよ」
「はい・・・」
「実はねえ、吉井さん(ジャミラ)たちからあなたのことを聞いたのよ。でも、あの二人は
良い人たちよ。沢野さんを応援したいから、みんなでそっと見守りましょうって言い張ったの。
誰も何も言わないけれど、みんなあなたの恋が実るように陰から応援しているのよ。」
「そうだったんですか」
般若は少し笑いながら言った。
「こうみえても、私もあなたくらいの年の頃は何度も失恋したのよ。いつの間にかこんな年になってしまったけれどね。
確かに、若い人が結婚するのを見ると妬み心が湧いてくるんだけど、取り残されたようで本当は私寂しいのよね。」
側の椅子に腰掛けると般若は続けた。
「部下が結婚して、子供が出来て、幸せ一杯という話題を聞くのが辛かったのよ。自分にはこの先も永遠に
こない幸せなんだと思うとね。
この前、岩佐さん(四天王のナンバー2)が結婚すると聞いて、びっくりしたわ。あの人、もう一生独身で過ごす
って前々からいっていたから。でも、それ以上に幸せそうな彼女の顔を見て、ああ、やっぱり1人で生きていく
のって大変なことなんだなって、改めて感じたわ」
「あの、梅田さん(般若)ももしかしたらこの先、良い出会いがあるかもしれませんよ?」
般若は笑って何も言わなかった。
今や、社内では女性社員の中で孤立してしまった般若を思うと不憫ではある。
しかし、この程度のことで般若と関わり合いになるのはごめんだった。
「沢野さん。もし結婚しても、子供ができても仕事を続けていいわよ。社長にもそういう環境が必要だって
直談判したからもう大丈夫よ」
へえっ?こりゃなんと?どういう心境の変化?社内で働く女性にとっては朗報である。
これなら般若も女性社員に嫌われることも無くなるのでは?
「あなたには言っておくけれど、もともとうちの社長は結婚した女子社員は辞めさせる方針だったの。
でも、今の時代にそんなこと公にできないから、私たちに内々でそう仕向けるよう役割を持たされて
いたのよ」
(28)
ええーっ?四天王は意地悪で退職を強要してたんじゃないのお?
「体のいいリストラみたいなものね。みんなに嫌われるし、いい役回りじゃなかったわ。でも私たちみたいな
年増がここで生き残るにはそれしか方法がないし、それに若い社員にたいするやっかみがあったのも
事実だしねw」
「これからは会社も変わるから、沢野さんも頑張ってね」
「は、はい分かりました」
般若は去っていった。実情を知った今となっては、「般若」というあだ名はもう似つかわしくない。
杏子は今まで知らなかった般若の本当の人柄に触れた気がした。
大掃除も終わり、事務部門の社員が一同に集まって御用納めの訓示を受けていた。
社長の挨拶が終わると、総務部長がみんなに向かって言った。
「最後にみなさんにお知らせがあります。総務課の梅田さんですが、今月末、つまり本日をもって
退職されることになりました。梅田さんは38年の長きに渡り当社に貢献されて・・・」
ええーっつ!社員がどよめいた。
あの般若が辞める?女性社員の最高実力者とまで恐れられたあの般若が・・・
全く唐突だった。誰も今日で辞めるということを知らなかったのだ。
杏子は周囲を見回しながら、誰もが驚きの色を隠さないのを見てそう思った。
「それで、さっきはあんなこと言ってたんだ」
般若は、本当は自分はそんなに悪い人間じゃないよってことを、私にだけでも知って欲しかったんだろうか。
何も知らない周囲の女子社員たちは喜色満面の表情だ。
般若の挨拶を耳にしながら、杏子は般若の顔を見ることが出来なかった。
杏子は帰り際にジャミラのところに行った。
「あの、梅田さん(般若)から聞きました。ありがとうございます」
「別にたいしたことは言ってないよ。それより私も来年はいい相手が見つかるよう頑張んなきゃw
社内も風通しが良くなるみたいだしね」
その時、杏子は改めてジャミラやカネゴンみたいな人がいるこの会社を辞めたくないなと思った。
319 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/22(土) 18:23:12
で、杏子はいつ漏らすんだ?
読めば読むほどスルメ!味大サービス〜 wktkで応援してます
age
322 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/25(火) 23:43:32
↑どっちやねんな!
323 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/26(水) 22:15:29
続き読みたい
324 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/26(水) 22:41:39
続き
杏子は離婚した。
杏子は泣いた。
完
>>324 これはそもそも50前の中年オヤジの話が発端で、杏子の物語は外伝だったはず。
作者さんは書きたいこと書くだろうし、それぞれのキャラで書きたい人は自分がつなげばよかろう
wktk
じっくりうpを待ってます(・∀・)ドキドキ
327 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/27(木) 19:50:58
しえんあげ
328 :
愛のシルエット二部:2006/07/28(金) 01:33:07
(29)
「あの・・・。お仕事はいったいどんなことされてるんですか?」
「あ、ああ、ちょっと金融関係をね」
これではどんな職業なのかわからなかった。
仮に内容を説明されても、経済に疎い杏子に判るはずが無かった。
杏子は正月の間、ずっと孝之の家に泊まりっきりでもう殆ど夫婦同然の同棲状態だった。
理沙もすっかり杏子に懐いてしまい、もう家族も同様の生活になっていた。
杏子としては何も不服はないのだが、落ち着いてみると孝之のことを何も知らない
のが気になった。
彼は何の仕事をしているのだろう?両親や兄弟は?前の奥さんはどうしてるの?
付き合いの過程ではお金は不自由してないように見えるし、マンションも賃貸ではなく
購入したもののようだ。
しかし、正式に結婚したわけでもない杏子がそれ以上を追求するのははばかられた。
それよりも、杏子は今の状態を維持することの方が大切であった。
孝之と三人で出かけることが多くなったが、近所の好奇な目や外での周囲の視線は
慣れるのに時間が掛かった。
孝之と理沙は実の親子だから似ているし、絵になる組み合わせだったが、杏子は明らかに
異質な存在だった。
そもそも、理沙と似ていないのは仕方ないにしても、孝之とのペアはバランスが取れてない。
男の目は「プッ、何を好き好んでこのデブをw」、
女性の目は「なんでこんなブスがこの男なわけえ?」というパターンの視線にも慣れてきた。
職場の人たちも杏子の相手を知らないが、もし、一緒に出かけているところを見られでもしたら、
同情心など吹き飛んでしまうに違いない。
329 :
愛のシルエット二部:2006/07/28(金) 01:33:58
(30)
杏子としては、いつまで続くのか判らない幸せの日々であるが、
それだけにいっそう確実なものにしたかった。
そのためには、やはり女性としての一番の願い「孝之さんの子供を産みたい・・・」
杏子がそう願うのも無理は無かった。
三人で初詣に近くの氏神様に行った時、杏子がお願いしたのは「子供を授けてください」である。
正月も明けようかというある日、孝之は突然杏子に言った。
「ちょっと横須賀の方に行かないか?」
「はい。いいですけど何かあるんですか?」
「うん、まあ海でも観に行こう」
そうそうに、孝之の愛用のアウディに乗って、三人で神奈川の方へと出かけた。
横浜のみなとみらいで車はいったんレストランに入り、昼食を取ることにした。
孝之の車といい、レストランといい、杏子のスーパーブランドルックでは気後れがした。
「少し、服装も見合うようなものにしなければね・・・」
そう思っていた矢先、理沙が思いがけないことを言い始めた。
「おばあちゃんのとこ、行きたくない」
???おばあちゃん?
すると、今向かっているのは孝之さんのお母さんの家?
孝之さんの両親のことは全く知らないが、なぜ今そこに行くの?
杏子の脳内では?マークが飛び交ったが、孝之に問いただすのが怖かった。
やがて車は横須賀の繁華街を抜けて高台の方へと向かった。
やっぱり、海ではなくて・・・
杏子は緊張した。孝之の両親てどんな人なんだろう。私みたいなのが付いて来たら
怒るのでは?
とある一軒家に車を停めると、理沙は勝って知ったるが如く玄関前に向かった。
杏子もそれに習い、側に立つと孝之が来て言った。
330 :
愛のシルエット二部:2006/07/28(金) 01:35:04
(31)
「俺の実家だよ、入ろう」
杏子は逃げ出したくなるのを我慢して後に続いた。
玄関の中に入り、孝之が声を掛けると、出てきたのは痩せた老婦人である。
その女性は「まあ」と驚いた声を出したが、それは杏子の姿を見てのようである。
どうやら、ここに来ることは知っていたらしかったが、女性を連れてくるとは
話して無いようだった。
部屋に通されても、老婦人は杏子に一言も話をすることも無かった。
それよりも、理沙のほうが気になった。
普通なら、おばあちゃんのところに行けば喜ぶはずなのに、理沙も杏子の側に
ついているだけで、全然そのおばあちゃんに親しむ様子がない。
孝之は部屋に入るなり、いきなり言った。
「今度、結婚することにしたから」
「ええっ?誰と?」
「この人と」といって、杏子を指差した。
「ええっ!!」今度は孝之の母と杏子が同時に声を上げた。
なんと唐突な・・・。でも嬉しい。しかし、孝之の母の顔は・・・苦々しげな表情だ。
「あんな女に逃げられた挙句、今度は・・・。あなたは子供がいるのにもっと・・・」
母親の言葉を遮って、「じゃあ急ぐから」というと孝之は立ち上がった。
観音崎の公園で理沙とボール遊びを楽しんでから、杏子は思い切って聞いた。
「あの・・・、さっきの方はお母さんですか?」
「ああ、一応な」
「あの、お父さんは・・・?」
「とっくに死んだよ」
そっけない言葉に杏子はそれ以上聞けなかった。しかし、これで本当に孝之と結婚できるという
喜びの方が体に充満していくのを感じた。
(32)
マザコンの孝之の好みが、杏子みたいな肉布団の体つきなのだから、孝之の母親ももしかしたら、
杏子のような超豊満のタイプかと思ったら、以外にもかなりの痩せ型であるのが
不思議だった。どうりで孝之も痩せ型なわけである。
それとも、孝之が母親の愛情に飢えてその反動で杏子の様なタイプを好むようになったのか、
それは定かではない。
杏子は正月休みが明けると、いよいよ引越しの準備に入った。
あとは結婚届を出しさえすれば引っ越せる。
理沙と養子縁組をすれば、晴れて親子になれるのだ。
「あの、結婚式だけど、俺って再婚だしいろいろ事情があって式は挙げたくない
んだけどいいかな?」
杏子も異存はなかった。杏子とて披露する知人などいなかったし、そもそも式に
呼べる血縁がいない。
もとより、母親には手紙で連絡するつもりであった。
「ここに引っ越したら仕事は辞めろよ」
確かに、幼稚園に通う理沙の世話があるので今の会社は辞めなくては送迎
すらできない。
正月明け早々に杏子は職場の上長に退職の旨申し出た。
上長は、残念だ、もったいないを連発したが、その本心は、また若い子を雇えるという
喜びの方が表情に出ていた。
杏子はあえて、結婚の理由は出さずにあくまで一身上の都合とした。
退職の日に、例のジャミラとカネゴンの二人が杏子の下にやってきた。
「沢野さん。今日でお別れね。上手く行ったのね。相手の人はどんな方なの?」
職場の女性としては、結婚する同僚の相手がどんな男なのか気になるところだ。
まして、杏子の様な女を娶る男とは?
杏子は観念して孝之の写真を見せた。この二人には世話になっているので、無視する
訳に行かないのだ。
果たせるかな、二人は口を開けてポカンとした顔をした。
「ど、どうやって知り合ったの?どこで?なんでえ?」
信じられないという表情の二人に適当に返事を誤魔化しながら、漸く杏子は会社から
脱出することが出来たのだった。
(33)
孝之と同居し始めてからも孝之の帰宅は相変わらず遅かった。
早く帰る日はあっても、すぐに自分の部屋に閉じこもってどこかに電話を
したり忙しそうだった。
「いや、ここはもう少し我慢のしどころ・・・」
「追加をいれないと損が・・・」
「僕を信じてください・・・」
ところどころ、電話の内容が聞こえてくる。いったい何を?家に帰ってまで仕事なのかしら。
しかもこんな時間に。疑問は尽きないが、どんな仕事なのかわからない以上、
詮索しても仕方なかった。
二月の終わりに、理沙が幼稚園から手紙を貰ってきた。
「三月のお雛様を、お母様方と一緒にお祝いしたいと思いますのでぜひご出席ください」
理沙のお母さんかあ。理沙は相変わらず私のことを「オネエチャン」と呼んでいるけど
私でいいのかなあ・・・。
理沙に聞いてみた。「私が理沙のママとして行くのよ?いいね?」
「うん、オネエチャンがママでもいいよ」
意味が判ってるのかな〜?でも嬉しい。送迎のよそのお母さんたちも初めは変な顔を
していたが、最近は少しずつ打ち解けてきたしね。
幼稚園でのひな祭りは杏子にとって、生涯忘れられない思い出となった。
理沙が元気に歌う姿を見たり、一緒に紙製の雛人形を作ったりし、理沙の笑顔を見ていると
杏子は本当に幸せを感じるのであった。
杏子の母親からの手紙にも「逢いたいけれど今は邪魔になると思うので、もう少し落ち着いたら
逢いたい」みたいなことが書いてあり、杏子としても一刻も早く自分の幸せな姿を見て欲しいという
気持ちが湧いてくる日々でが続いた。
予感がして繋いだら、新作が!!!!!(・∀・)イツモwktkシテヨンデマス
どんどん興味深げな設定が明らかになってくるのが楽しみ!
(34)
そんなある日、孝之が相変わらず遅く、まだ帰っていない時分に電話が鳴った。
「吉宗の家か?」
「はいそうです」
「お前、誰や。吉宗はおらんのか」
「まだ帰宅してませんが・・・」
「ちっ、しょうもない」
「あの、帰ったら電話さし・・・」
「ガチャ!」
誰だろう?不機嫌で柄の悪い口調・・・
その晩、孝之に電話があったことを話すと、ちょっと嫌な顔をしたが何も言わなかった。
それから数日は何事もなかったが、ある日、孝之が夜になっても帰宅しなかった。
今までこんなことはなかったので、杏子は慌てた。
事故にでも?それとも浮気?仕事なら連絡くらいはくれるはず。浮気でも黙ってってことないだろうに。
仕事なら当然仕方ないが、浮気でも杏子は仕方ないと思っていた。
孝之ほどの男なら良い女がむしろ寄って来るだろうし、それに満足にセックスもできない杏子では、男が性欲を
満たせるはずが無い。
一番嫌なのは事故である。それだけはどんなことがあっても無いことを願っていた。
殆ど眠れずに一夜が明け、理沙を送迎バスに乗せて杏子が部屋で不安に悩んでいると、電話が鳴った。
「杏子。俺だ」
「あっ。どうしたの?どこにいるの?」
「悪いけどな。今からちょっと来てくれ」
「どこ、どこかの病院?大丈夫なの?」
孝之は言葉少なにある場所を口にした。杏子はメモを取ると、すぐに身支度をしてそこへと向かった。
電車を乗り継いで、後はタクシーだ。ビルの一室にいるらしい。
孝之の指示したビルの入口でタクシーを降りると、入口には見るからに柄の悪そうな若い
男が1人立っていたが、杏子が入口に立つとあっけに取られたような顔をした。
(35)
「お前、吉宗の?」
「はい、家のものですが」
「はあ?ほんとかよ」
男はゴキブリを口に入れたような苦い顔をすると、「三階に行け」といって
後をついてきた。
ビルの中の各階表示を見ると、三階は犬川産業としてある。
杏子は訳がわからなかったが、とにかく三階に向かった。
三階で若い男がドアを開け、杏子に入れと促す。杏子が部屋に入ると事務所であり、数人が
仕事をしていたが、さらに奥に通された。
奥のドアを開けると、二十畳ほどの広さの中央に応接セットがあり数人の男が周囲に立っており、
窓側の事務机には中年の男が1人座っていた。
孝之は?と見回すと、いた!応接セットの横の壁際に座り込んでいる。
が、顔が殴られたのか腫れているのが目に付いた。
杏子が声を発するより先に、周囲の男たちの口が先に開いた。
「なんだこりゃあ」「これがこいつのカミさんかよ」「使えねえよ」
な、何なんだこの言われようは。何を言ってるんだこの男たちは。
「あの、どうしたんですか?主人はどうかしたんですか?」杏子はやっとそれだけ言った。
すると窓側の中年の男がゆっくりと話し始めた。
「けっ、しょうがねえなあ。よりによってこんなババアかよ」
ババア?何なんだこいつは?初対面の人に向かって言う言葉か?
子供の頃から虐げられてきた杏子にも自尊心はある。永年の経験から忍耐力は持っているが、かといって
心中が穏やかに済むわけではない。
「あのな。あんたは知らないだろうけど、こいつがさ、俺にとんでもねえ損をさせやがったのよ」
「損?ですか?」
「ああ、俺にうまいこと投資話を持ちかけて、散々いいこといった挙句にもうこっちは散々なわけよ」
「あのどれくらいですか?弁償なら・・・」
「まあ最後まで聞けよ。それでな、弁償できねえってこいつがいうから、じゃあお前の嫁さんでも
代わりに出せよって話をつけたところだ」
(36)
「でも、私なんか・・・」
「たりめえだろ!!こいつの嫁がまだ若いっていうから、ソープにでも沈めりゃ俺の損を肩代わり
できたかもしれねえのに、こんなデブじゃあ風俗でも使い道ねえだろ!!」
何ー?ソープ?すると私は品定めに呼び出されたのか?損失の穴埋め?いったいいくらなんだろ?
杏子は言葉が出なかった。
「でも、でも、働いて少しずつでも返し・・・」
「バカヤロウ!!それだけじゃあねえんだよっ!!」壁際の男が怒鳴った。
「お前の旦那はな、専務の娘さんにとんでもねえことしてくれたんだよ!」
は?娘に?浮気?ここの専務の娘と浮気?杏子の頭の中が一瞬白くなった。
杏子はやはりと思った。孝之は外に女がいたのか。普段、予期はしていてもいざ実際に直面すると手が震えた。
投資話でお客?に大損をさせた挙句、その娘と浮気じゃあ言い訳なんかできない。
「うちの主人がお宅の娘さんと浮気をしたのなら、弁解の余地もございません・・・」
その途端、立っていた周囲の男たちが爆笑した。「あははは、こいつ、こいつ・・・」
「何が可笑しい!!!」
事務机の中年が怒鳴った。
「おい」と中年男はひとりの男に顎をしゃくった。
すると、その男は杏子にとんでもないことを説明し始めたのだ。
「お前の旦那が浮気した相手はな。いいか、専務の娘さんじゃなくて、娘さんの婚約者なんだよ」
「ええっ?婚約者?男?主人は男と浮気したんですか!」
壁際に立っている男の中には必死で笑いを堪えているものもいる。
杏子の思考が停止した。脳内のシノプスがかなりの数、ショートしてダメになったような気がした。
キタ━━━━━━(・∀・)━━━━━━!!!!
微妙に杏子を応援し始めてる自分がいるw
どうなっちゃうの!?wktk
同じく杏子ファン(・∀・)ノ
心理描写が引き込ませる書き方で、とてもいいんですよ〜
339 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/28(金) 13:18:18
ものすこい展開だ!
続きwktk!
340 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/28(金) 23:59:13
孝之はバイだったのか・・!!
この物語には完全に引き込まれているよ
続きを楽しみにしています
(37)
そんな、そんなバカな・・・孝之が・・・
杏子の頭の中は、何もかもが渦巻いているようだった。
「あの、あの、主人はあなたの娘さんが付き合っていた男の人と付き合って
いたってことですか?」
事務机の前の椅子に腰掛けている、周りに専務と言われた中年の男に聞いた。
専務が黙ってタバコを咥えると、側の若い男がすぐさま火を点けた。
「お前、本当に知らねえのか。それともとぼけてるのか?」
「知りません。だって、たかゆ・・・、主人は結婚して・・・子供もいるんですよ?」
周りの男たちがまた偲び笑いを漏らした。
「おいデブ。お前、こういう奴はな」といいながら、壁際のひとりの男が孝之を蹴飛ばした。
「親や世間にばれないように、女と結婚して子供をつくることなんか茶飯事なんだよっ」
「それに」男は続けた。「こいつが男好きってのは誰もが知ってることだよ」
カッと杏子の全身が熱くなった。
それじゃあ、孝之はホモ?おかま?おなべ?ゲイ?何だか知らないけど、偽装するために
結婚を繰り返したの?
んなバカな。孝之は今まで本当に私に優しかったわっ!私には本当に良くしてくれた。
上辺だけのものじゃない!私は信じてきたのよ!
「信じられない・・・他の人と間違えてるのよ」
ワハハハハ!!たまらず立っている男たちが笑った。
のみならず、壁際の男は杏子を指差して言った。
「お前、こいつのあれを咥えてあげたか?こいつが他所の男のケツにぶちこんだ
クソまみれのチンポをお前は・・・」
「オリャアアアア!」杏子がいきなり突進した。
ドガッ!!
(38)
杏子が低い姿勢で、その壁際の男にぶちかましを食らわせたのだ。
以前の会社で、材料の搬送を手伝ってきたのはだてではない。
150キロ近い体重を支える杏子の下半身は強靭だ。
その重戦車並みの突進力で、漬物石のような頭を胃袋に直撃された男は、反動で後ろの壁に
頭をぶつけ、カメレオンのように舌をだらんとたらしたまま眼をむき出して昏倒した。
「おうっ!」「なんだこりゃあ!」「ゴラアッ!!」周りの男たちが罵声を浴びせてきた。
今度は側の男が杏子の髪をわし掴みにした途端、杏子はその男のマワシ、
いやベルトを両手で掴むと、壁まで押し付け、渾身の力を込めて膝を男の股間に蹴り上げた。
杏子の膝に、グニュリと男の男根、そして二個の睾丸がひしゃげるような嫌な感触が伝わってきた。
その瞬間、男の顔は「あれ?」というような表情で動きが停止した。
そして、間を置かずに杏子は動きが止まった男の顔を両手で支えると、
得意の漬物石ヘッドパッドを男の額に食らわしたのだ。ゴクッとぶつかる音がすると、
男は無言で、マネキン人形の様に手足が固まった状態で崩れ落ちた。
男たちに喧嘩を仕掛けてどうするとかの戦略が杏子にあるわけが無い。
素人の女が五・六人の男に喧嘩を売るのは狂気の沙汰であろう。
そこには、ただ、ただ、やるかたない杏子の憤りだけがあったのだ。
この部屋の男たちをみんなぶちのめしたかった。
「オラアッ!」「てめえこんなことして!!」などと、他の男たちは吼えるが誰も掛かってこない。
その時、机の側に立っていた背の高い男が黙って杏子に近づいてきた。
無言であるのが不気味だった。
杏子は身構えた。男は杏子の目の前に来ると、いきなり足を杏子の膝に飛ばした。
「あっ」
(39)
さすがに喧嘩慣れしている。一撃で杏子はがくっと膝をついた。
体重が重いだけに、足を狙われると脆かった。しかも、関節を狙われたのではなおさらである。
杏子が体勢を立て直すまもなく、今度は横殴りのケリが杏子の頭に飛んできた。
もんどりうって杏子が倒れるや否や、他の吼えていた番犬、いや男たちがハイエナのように
群がって、といっても三人くらいだが、飛んできて杏子の体中を蹴飛ばし始めた。
杏子はアルマジロの如く必死に体を丸め、防戦一方になる。その時、
「もういい!止めろ!!」と机の専務が声を出した。
「お前ら、こんなデブ女に何手間取ってるんだバカ! しかも素人じゃねえか!」
専務と言われた中年の男は机から立ち上がると、杏子のところに来て話しかけた。
「今日のところは、これで帰ってくれ。うちの若い奴も二人傷んでるんで、これで
おあいこだ。あんたの旦那の責任についてはまた考えるからよ」
杏子は黙って頷くしかなかった。
杏子は蹴られても全然堪えてない。全身の脂肪と筋肉が緩衝材となって体を保護しているのだ。
孝之は殴られて顔に痣が出来ているが、それは当然であろう。
それだけのことをしたのだ。
いや、それだけでは済まない。これからどうなるのか?
二人は一階に連れて行かれ、その専務の部下の運転する車で自宅まで送り届けられた。
杏子は顔はやられていないが、孝之は顔に痣が出来ているので、理沙には会わせられない。
病気だということにして、孝之は自室に閉じこもらせたが、杏子も蹴られた足を
少し引きずっていた。
孝之は何も杏子に話をしなかったし、杏子も何を話せばいいのか判らなかった。
(40)
次の日、孝之は会社を休んだ。それはそうだろう。こんな顔で会社に行ける訳が無い。
杏子は理沙を送迎バスで送ってから、孝之の部屋をノックした。
孝之は床に座ってベットにもたれていた。
「あの・・・。怪我はどうですか?」
「ああ、大したことはない。明日には出れると思う」
杏子は聞きたいことが山ほどあるのだが、何から聞いていいのか、また聞いてもいいのか
迷った。
「あの・・・専務さんて方、いくらくらい損したんですか?」
「・・・二千万」
「に、二千万!!そんなに!」
「ああ、でも俺が何とかするから」
杏子はうろたえた。
「何とかするって、そんな大金どうするんです。理沙が学校に上がったら私も働く・・・」
「お前は気にしなくていいって言ってるんだよ!!」
話は核心に近づいた。
「あの・・・それから・・・どうして私と結婚してくれたんですか?」
孝之は答えなかった。
「この三人家族じゃダメだったんですか?私はあなたを信じてここまで・・・」
「今更しょうがないだろ」
「しょうがないって、孝之さん、理沙もいるんですよ。それに、この先もし赤ちゃんが・・・」
孝之は杏子の顔を見ると、吐き捨てるように言った。
「お前に子供が出来るわけないだろう。そもそも入らないんだから。それともパンダみたいに
動物園で人工授精でもしてもらうか?」
今まで優しかった孝之の言葉に、思わず杏子は孝之の顔を手で叩いてしまった。
はっと気がつくと、孝之は鼻血を垂らし、怯えた顔つきで杏子を見ていた。
杏子は決して本気ではなく、軽く叩いたつもりであったが、
その分厚い手のひらは、痩せた孝之の顔に衝撃を与えるに充分すぎたようだ。
杏子はうろたえた。
(41)
「あ、ああ御免なさい。そんなつもりじゃなかったの」
杏子は慌ててハンカチで孝之の顔を拭こうと近づくと、孝之はこれまでにない怯えた
表情で窓際まで後ずさった。
それもそうだろう。昨日の乱闘劇で、杏子の迫力を目の当たりに見ていたのだから。
孝之の杏子に対する印象は、完全に変わっているに違いなかった。
杏子は怯える孝之にそっとハンカチを手渡すと、キッチンに戻って椅子に座り込み、涙を流した。
そして、次の日、孝之は夜になっても家に帰ってこなかった。
杏子はまたもや不安に駆られる晩を過ごしたのである。
あの、何とか産業にまた捕まったのだろうか。会社には行ってるのだろうか。
翌朝、理沙を幼稚園に送ると杏子は迷った。
何とか産業に行ってみたかったが、所在地のメモを捨ててしまっていた。
住所も判らないのだ。会社の名前も忘れた。
孝之の部屋の中を探って、孝之の会社の名刺を見つけようとしたが、どこにもそれらしき
ものが無かった。
そうこうしているうちに、理沙の園児バスが帰って来る時刻になったので、待ち合わせ場所に
出かけた。
「理沙にはなんて誤魔化そう。パパが出張ってことにするかなあ」
杏子は思案しながら園児バスの到着を待った。
園児バスが着てみると、理沙が乗っていない。
??
「あの、うちの理沙は?」杏子はびっくりして、同乗している園の先生に尋ねると、
女性の先生は複雑な顔をして言った。「あの吉宗さん。詳しいことは園長先生に聞いて
ください」
「ええ?何のことです?理沙はどうかしたんですか?どういうことですか!」
「ええ、ですから・・・ご主人さんが今日、理沙ちゃんを引き取りに来られて・・・
私も良く知らないんです。すみません」
杏子の頭が真っ白になった。
「孝之さんが理沙を・・・理沙を・・・」
何がなんだかわからない。どうなっているの。孝之さんは理沙をどうするつもりなの?
孝之との軋轢はこれだったのか・・・これは杏子に味方するなあ
自分だったら我を忘れて痛恨の一撃か。更なる展開がwktkすぎる!!!
348 :
名無しさん@明日があるさ:2006/07/29(土) 12:12:07
すごぃ・・・・
楽しみに待っていた甲斐があった〜〜〜。
孝之すげー憎いなw
杏子に同情してるあなたたち!
私と結婚しなさい。
そ、そんなストレートで・・・
杏子って、自己チュー性格ブスかと思っていたけど
色々な事情が彼女を変えていくんだろうね。
続きがUPされていても、されていなくても
一日に何度も覗いてしまうw
早く続きが見たいよーーー
このクォリティの文章を無料かつ匿名で送信するなんて!
内容が内容だけに出版できないのか知らんが
こういう文が読めるから2chは止められん!
354 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/01(火) 15:51:18
激紫煙あげ!
(42)
「オネエチャン、このお舟が終わったらパレードだよね!」
「お腹も空いたなあ」孝之も続く。
理沙は、生まれた初めてのディズニーランドでは、スモールワールドの人形を観るのを
一番楽しみにしていた。
色とりどりの世界の人形の中を、ゆっくりと杏子たちの乗ったボートが進んでいく。
理沙が歓声を上げる中、ボートは終点に近づいてきた。
理沙は早くも、ディズニーランド名物のパレードを観にいくのに気がせいているようだ。
「はいはい、次はパレードに行きましょうね」
ボートが終点に着くと、次々と乗客が降り始めた。
「オネエチャン!早く早く」
理沙と孝之は手を繋いで足早に出て行こうとする。
杏子はなぜか、前の座席にお腹がつかえて体が抜けない。「ええ?なんで?」
「オネエチャーン」理沙たちはもうずっと向こうだ。
「待って!待ってーー!」杏子はボートの中で身悶えた。
ふと、気がつくと、杏子はマンションのダイニングテーブル座っていた。
もがいていたのはテーブルに対してだった。
外は日が暮れ、夕闇になっており、部屋はしんと静まり返り誰もいない。
「理沙・・・」
ここ数日の出来事が、一瞬にして頭の中を駆け巡った。今日、家に帰ってから
テーブルに突っ伏して泣き、そのまま寝てしまったらしい。
服の袖はまだ涙で湿ったままである。
「これからどする?」はっきりしていることは、孝之が家を出て行ってしまった
らしいということだ。愛娘の理沙を連れて行ったということは、もうここには
戻ってこないのか?
数日前の、孝之の杏子に対しての恐怖におののく姿を思い出すと、それ以外考えられなかった。
(43)
「でも、このマンションや外の車は孝之さんのものよ。まさか全部置いていける
わけないもの。その内、二人ともきっと帰って来る、絶対に返ってくるさ」
根拠があるわけではないが、今の杏子はそうでも信じないとどうかなりそうだった。
二人がいつ帰ってきてもいいように、部屋は綺麗にしとかなきゃね。
冷蔵庫も二人の好物を入れておかなきゃね。
杏子は理沙の部屋に入ると、机の上の写真を見つめた。そこには、一月の終わりに三人で
ディズニーランドに行ったときの写真が収められていた。
数日後、インターホンが鳴った。
「帰って来た!!」
杏子は勇んで玄関に飛んでいき、戸を開けた。すると、そこには男が二人立っている。
小さい方の男は、この前のあの事務所にいた奴だが、もう1人のやや背が高いがっしりした
体格の方は見覚えが無かった。
貧相な小男の方は、杏子が事務所で暴れ始めた時、甲高い声で「オリャア!!」とか
「ッケンナ!!」と叫んでいた男だ。
喚き声だけは勇ましいものの、他の男の後ろから出てこず、杏子が倒れると
真っ先に飛び出してきて杏子を蹴飛ばしたので良く覚えている。
「お、おう。いたんだな。」小男はもう1人の男の体に半身を隠しながら言った。
「何か?」杏子はいぶかしげに答えた。「主人ならいませんよ」
「そうじゃねえ。ちょっと事務所まで来てもらいてえんだ。専務が呼んでるんでな」
「何で?」
「何でもいい、。とにかく来いっつってるんだよ!」
杏子はゆっくりと玄関から廊下に出た。
「お?お?何?何?やんのかコラ!」
小男は今度は完全に連れの男を盾にして横から顔だけ出して言うのだった。
(44)
「訳も説明せず、ついて来いというのは乱暴じゃないですか?」
杏子はゆっくりと言った。けっして怒ったわけではない。杏子の目はまぶたが上下から
膨らんでいるため、表情がつかめない。
怒っているのか、冷静なのか、それとも寝ているのかわからない、感情が読めない顔ほど
相手を畏怖させるものはない。
「まあ、まあ、落ち着いてください。姉御さん、こちらの失礼も謝ります」
連れの男がとりなすように言った。姉御?あたしは一介の主婦よ?お前に姉御と呼ばれる
筋合いは無い!
杏子の心を見透かしたように、連れの男は続けた。
「武勇伝はお聞きしましたよ。でも、今日はうちの専務がどうしてもご相談したいことが
あるということなので、ぜひ一緒に来ていただきたいんですよ」
「相談ってなんのですか?」
「だからよ!それは来ればわかんだよ。ここじゃあ言えねえんだ。早くしたくしろ!」
小男が肩から顔を出して怒鳴る。
こいつらは下っ端だから内容は全然知らないんだな。そのくせ、偉そうに威張りやがって。
「あんた、そんな言い方で専務さんに連れてこいといわれてるの?」杏子は小男の前に進み出た。
その時、連れの男は小男の前からさっと身を引いた。
突然、「盾」が無くなった小男はあたふたし、片手で股間を抑え、片手で頭を覆いながら、
「お?お?やんのか?やんのか?こらタケ。こいつを止めろ!」
口では威勢がいいが、しぐさはまるで様にならない。
恐らく、事務所で杏子が他の男の股間に膝蹴りを食らわせたのが強烈に印象に残っている
のだろう、内股で股間を手で防備している姿は滑稽であった。
これで女言葉を使えばオカマそのものである。
(45)
タケと呼ばれた男は苦笑しながら、「すみません、ここは先輩の顔立てて来て貰えませんか?」
と謝った。
どうやら小男が「先輩」で連れのタケはその手下らしい。タケも可哀想だ、こんな「先輩」じゃあ。
事務所に向かう車の中、運転しているタケが言った。
「それにしても、姉御さん、貫禄ありますね。話に聞いたとおり、往年の長州力を
思わせます」
「何よ、その姉御って。それに誰が長州力だなんて言ったの?」
タケは黙り込んだ。その隣の「先輩」がタケを睨んでいるのが見えた。
杏子は無言で助手席の「先輩」の髪をガシッと片手で掴んだ。
小男は「あたあたあた、すみません、すみません」と必死で謝った。
「ふん、レディーに向かって口が悪いんじゃない?昔、喧嘩したとき、相手の
髪を掴んで頭の皮までめくれたこともあるのよ?」
これは嘘だったが、小男は真っ青になって「もう言いませんもう言いません」
といいながら両手で拝むようなしぐさをした。
運転しているタケは、声こそ出さないものの必死に笑いを堪えていた。
それで杏子はやっと手を離したが、その手には抜けた毛がかなり手に残ったのだった。
事務所に入ると、またこの前と同じ部屋に通された。
杏子にはここなら孝之のことも判るかもしれない、という期待もあった。
部屋には窓際の机にこの前と同じ、専務がふんぞり返っており、その他の面々も
この前と同じような男たちが立ち並んでいた。
専務の側には、この前杏子を倒した無表情の背の高い男もいる。
小男が専務に向かって「へへ、この通り連れて来ました。手ごわかったんですが、俺が
・・・」
「黙ってろ」専務の側に立っている背の高い男が口を開くと、小男は静かになった。
立っている位置といい、言葉遣いといい、この男はかなりの幹部らしい。
他の男たちと違う風格があった。もしかしたらこの男だけは本物のスジ者かもしれない。
(46)
専務が口を開く。
「いや、来て貰ってそうそうなんだがね。奥さん、吉宗は行方不明でしょう?」
「はい。あの、何かご存知で?」
「うーん、まあね。実はね、吉宗から奥さんの離婚届を預かってるんだよ」
「り、離婚届けっ!」杏子がこの部屋で愕然とさせられるのは何度目だろう。
「な、なぜ?なんでですか!それにあなたとどういう関係が!?」
万一に備えて、周囲の男たちが杏子を後ろから囲んできた。
専務が口を開いた。
「お前らは席を外せ」
残ったのは専務とその隣の背の高い男だけである。
用心棒は背の高い男だけで充分ということか。
「まあ、手短にいうと、吉宗はあなたと離婚したいということでな、この用紙に
サインしてくれればいいんだよ。で、子供なんだが、女の子はあんたが
養子縁組してるそうだが、実の父親の方に渡して欲しいということだそうだ。
おれも吉宗から電話でそういわれただけで詳しくはわからん」
「そんな一方的な話がありますか?私は理沙を手放したくないし、離婚だって・・・」
背の高い男が口を開いた。
「判ってる。そういうと思った。だがな、子供はあんたが生んだんじゃない。
それに、吉宗の気持ちもあんたから離れてるとしたら?」
「・・・・」杏子は返事が出来なかった
隣の男が言葉を継いだ。
「専務は吉宗のお陰で、娘さんの縁談も潰されたんだ。あんたとこだけ、のうのうと家庭円満
という訳にも行くまい」
専務は頷いた。
「吉宗もこの離婚でケジメをつけたことにしたいんだろうな」
(47)
孝之が幼稚園から理沙を連れ去って、音沙汰が無い以上、専務の言うとおりなのだろう。
でも、家はどうするの?もう帰って来ないの?
「それでだ。話は本筋になるんだがな。吉宗が俺の損失の穴埋めをしなきゃならん
ことは知ってるよな」専務は続けた。
「はい」
「吉宗はな、あのマンションと外車をその弁償にあてると言ってるんだ」
「ええーっ?」
「だから、うちとしても、早くあんたに出て行って欲しいんだわ」
「それで呼んだんですか・・・」
杏子は思案した。
「もしサインもしないし、出て行かないと言ったら?」
専務は一瞬睨むような目つきをした。
「いえ、いいんです。サインします。孝之さんが戻ってこないのならいても仕方ないし」
専務は今度はほっとした表情になった。
ここでサインするだけで、孝之とここの専務がもめずに済むのなら構わなかった。
「でも、お願いがあります。三ヶ月、いや二ヶ月だけ離婚届のサインを待ってください!」
今度は専務の顔が、へ?と不思議そうな顔になった。
「それはなんでだ?その間によりを戻そうとでも・・・」
「いえ、違います。事情があって・・・その代わりマンションはすぐに出ます。
処分してもらって結構です。お願いします」
終わりの方はなぜか杏子の声は涙声になっていた。
専務は訳がわからずも隣の男と顔を見合わせたが、「うむ、まあこっちとすりゃあ、
家と車さえ処分できれば異存はないさ」専務は納得した様子で答えた。
「急に出て行けといってもあんたも物入りだろう。ここに300あるから持って
行きな」
専務は分厚い封筒を出した。
「専務、そこまでする必要が?」背の高い男が口を挟んだ。
専務に物言いするほど偉いのか?こいつは。
(48)
確かにマンションを出て行くとなると物入りなのだ。このヤクザもどきは余計な口を
挟むんじゃねえよ。と杏子は心の中で毒づいた。
「半分は吉宗からのお詫びだそうだ。半分は俺からの餞別だ。まあ、あんたの男気・・いや
女気・・でもないか、どっちでもいい、潔さに免じてのことだ」
杏子はしばらく、じっとしていたが、気を取り直したように、封筒を手にした。
「おい、下まで送っていけ」専務が言うと、背の高い男が杏子の先に立った。
杏子はエレベーターの前で男に聞いてみた。
「あなたはここの社員ですか?」
「いや、派遣だ」
時節柄、ヤクザの世界も派遣社員というのがあるのだろうか?恐らく、用心棒として出向でも
しているのだろう。
「さぞかし、立派な組からなんでしょうね」
「組?なんだそりゃ。俺はグッドウィルからだよ」
「・・・・」
マンションに帰ってから、これからのことを考えると気が重かった。
当座の蓄えはあるものの、まず住まいを見つけなくてはいけないし、
その他にも解決すべき問題が山積しているのだ。
相談できる友人を持たない彼女にとって、もはや頼れるのは一人しかいなかった。
でもその前に、まず病院に行かなくては・・・
362 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/02(水) 01:02:23
グッドウィルワロスwww
363 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/02(水) 07:45:30
病院?
妊娠!?
364 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/02(水) 08:39:41
ああもう杏子が気になってしょうがない自分が通りますよ。
急展開にハラハラしてます。
・・・小男タマ潰れても生きてたのねwwかなり態度がワロスwww
365 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/02(水) 11:21:27
>>364 ん?小男は玉やられてないんじゃね?
>恐らく、事務所で杏子が他の男の股間に膝蹴りを食らわせたのが強烈に印象に残っている
のだろう
(49)
杏子はマンションの部屋で荷造りをしていた。
自分がここに来た時と違って、今度持ち出す荷物は多い。
自分のものは最低限で良かったが、理沙の持ち物はできるだけ多く持って行きたかった。
今度いつ理沙に会えるのか、会えると言う保証は無かったが杏子は思い出の品を
どうしても置いていく気になれないのだ。
「それと電化製品もだねー」家に残したものは全部処分すると専務に言われているので、
引越し先で使えるものも持ち出す必要があった。
引越し先は多摩川に近い川崎の方である。
どうしてもそこでなければならない理由が杏子にあるのだ。
今日は午後に引越し先のアパートに行く用事があった。
荷造りを途中で止め、マンションの廊下に出たところで、向こうから歩いてくる男に
気付いた。
この前迎えに来た二人組の若い方の男、「タケ」とか呼ばれていた男である。
杏子が立ち止まって見ていると、タケは笑顔で言った。
「やあ、お出かけですか?」
「ちょっとね。で、何なの?今日は」
「ええ、そろそろ引越しの準備はどうかなって」
杏子はちょっと考えたが、部屋にタケを入れた。
「ふーん、結構進んでるみたいですね。ところで合鍵があったら貰えませんかね」
「カギ?どうするの?どうせもうすぐ引っ越すからいいけど」
「ええ、そろそろ不動産屋に査定で見てもらうんでね。まだ追い出すわけじゃないですよ」
タケは部屋を周りながら言った。
「結構いい間取りですねえ。これならいい値段がつきそうだ」
「姉御、このマンション売ればうちの専務も充分お釣りが来るってホクホク顔でしたよ」
杏子は顔をしかめた。「その姉御というの止めてよ。名前があるんですから」
「吉宗さん?ま、いいじゃないですか。うちの犬川の奴らはみんな姉御って言ってますよ」
「じゃあ、カギはこれ。あたしはこれから出かけるから、ご自由に見てください」
(50)
「お出かけですか?駅ですか?」
「まあ、そういうこと。引越し先も見とかないといけないしね。すぐに出て行くって大見得
切ったのが災いしたわ」
「送りますよ。カギさえ貰えばこっちの用は済んだんで」
「ええー?川崎の方よ?」
タケが送ると言って下に下りてみると、車はなんと、孝之が持っていたアウディだった。
しかも、助手席にはこの前の「先輩」こと小男が乗っていた。
先輩はタケに続く杏子の姿を認めると、びっくりした表情で食べかけていたハンバーガー
を口に入れたまま固まった。
ドアを開けてタケと杏子が乗り込んだ。
小男はハンバーガーを飲み込むと「タケ、お前・・・」
杏子は出来るだけ優しく声を掛けた。「こんにちは。お元気?ホホホホ」
「なぜこちらの方はお部屋にいらっしゃらなかったのかしらあ」
小男はドギマギしながらも精一杯、威厳を保ちながら言った。
「い、いや、タケもそろそろ一人前だからな。これくらいの使いは1人で任せようと
思ってな」
「そうのなのお?本当は私に会いたくなかったのではなくて?」
小男はやや焦りながら言った。「いえとんでもないです。姉御さん1人の家にに男が二人も乗り
込んだんじゃ失礼だし・・・」
「そうじゃないでしょう。あたしが鍵を渡すのを渋って騒動に巻き込まれると思った
んじゃないのお?」
タケがとりなした。「まあまあいいじゃないですか。先輩も立場があることだし」
小男はほっとしたようだった。
「おいタケ、それでどこへ行くんだ?」
「はい、姉御の引越し先です」
「へ?何でまた」
「はい、鍵は貰ったんで、ついでに」
「えー?」小男は渋面になった。
「迷惑でしたらあたし降りますけど?」
小男は慌てた。「いえ、とんでもない。どこへでもお供します」
(51)
道中、退屈なので杏子は質問してみた。
「犬川産業って何をしている会社?」
小男が答える。
「産業廃棄物の処理や運搬さね。ちゃんと免許登録している会社だ」
「そうなの。あの専務というお方が一番偉い人?社長になるわけ?」
「うんにゃ、社長は隠居してるんだが、まあ専務が実務で一番偉いんだな」
「じゃあ、その専務さんに今日みたいな役目を仰せつかるあなたは結構信頼されているのね」
小男はちょっと機嫌が良くなった。
「まあ、そういうことだな。専務もここ一番って時は俺に頼むからな」
こいつは単純なだけなのかアホなのか、何とかもおだてりゃ木に登るか。
杏子は続けた。
「やっぱりねえー。この前あなたが来られた時にあたしも、てっきりあなたが幹部の方かと
思って慌てちゃった」
小男は嬉しそうに言った。「まあ、そうだろうな。よくそう言われるんだよ」
「でも、やっぱり勘違いだったみたいね」杏子が言った途端、タケが堪らず噴出した。
小男は黙り込んだが、顔が怒りで赤く染まっているのが後ろの杏子にもわかった。
別に小男に恨みがあるわけではないが、杏子の今までの経験では、こういう奴ほど、
自分より弱いものに対しては嵩にかかって苛めるタイプであることを見抜いていた。
だから、知らず知らずのうちに懲らしめる気持ちが働いてしまうのだ。
「でも、あたしも性格が悪くなったなあ」家族がばらばらになった気持ちのすさみが
随所に現れて来ているのかも知れない。
(52)
タケが口を開いた。
「吉宗さん、初めは自分だけ家を出て行くつもりだったみたいですよ」
杏子は驚いた。ええっ?何で?じゃあ理沙は置いていくつもりだったの?
「それが、専務に実の父親のくせに子供まで見捨てるのかって言われて、子供さんも
連れて行ったようですね」
杏子は初耳だった。
「じゃあ、じゃあ、理沙は本当は置いていくつもりで・・・。で、今はどこに」
「それは誰もわかりません。電話だけのやり取りだったみたいで。それに専務もマンションと
車で弁償してもらうってことで、居場所まで突き止める必要も無いですし」
杏子は納得できなかった。
「それなら・・・あたしも連れて行ってくれれば良かったのに・・・。どうして
あたしは置いてけぼりなの・・・」
「それは、まあ、吉宗さんが男色だってことが奥さんにばれたんだし、挙句に一文無し
になったんじゃ、もう旦那の立場なんてないでしょう」
「あたしは、あたしは、それでも良かった・・・三人で暮らせるのなら・・・」
杏子にはわかっていた。理由はそれだけではない。
孝之は杏子に恐怖を感じたのだ。倒錯した愛情を求める孝之は、杏子に対してどこまでも
深く包み込むような母性愛を求めていたのだ。
ところがその優しく包んでくれるはずの母体が、牙を持っていることを知って絶望したのだ。
杏子はうなだれた。
「主人は何をして専務さんに損を掛けさせたんでしょうか?」
「さあ?よく知りませんが、先物取引らしいですよ」
「サキモノ?」
杏子も良く知らない世界だった。どうやら専務に投資話を持ちかけて大損させたことだけは
間違いないらしい
370 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/03(木) 23:00:12
次が待ちきれない・・(;´Д`)ハァハァ
(53)
三人の乗ったアウディは多摩川を越えて川崎に入っていった。
「田園調布から多摩川を越えると町並みが違いますね。どのあたりです、次の住まいは」
タケが言った。
杏子はしばらく道沿いに眼をこらしていたが、
「ああ、この辺でいいわ。あのマンションのところ」
前方には豪奢な10階建てのマンションが見える。
小男は驚嘆したように声を出す。
「へえー。こりゃ凄えマンションだな。今いるところより立派じゃねえか」
タケも同感だったらしく、「ルクレール・・・か。えらく奮発しましたね」とつぶやいた。
マンションの前で杏子は車を降りて、二人に言った。
「えへっ。あたしはここに住むとは言ってないよ。このマンションの裏のすみれ荘なの。
じゃあね」
あっけに取られる二人を残して、杏子はマンションの裏手に向かった。
杏子はすみれ荘の部屋に入って一息ついた。
なぜここにアパートを見つけたのか。これからはどうしても人の手を借りる必要がある。
だから、ここでなければいけなかったのだ。
荷物を置くと、外に出て商店街を抜ける。子供の頃から見慣れた風景の多摩川の土手に上がり、
川沿いを歩き始めた。
いくつもの野球場が川沿いに並んでいる。高校を卒業して以来だ、ここに来るのは。
土手の斜面に腰をかけ、少年たちが野球している姿をぼんやりと眺めた。
もう六年になるか・・・ここを離れて東京に行ったのは。
中学の時から、よくここで昼寝をしたなあ。学校も面白くない、友達もいない。
家に帰っても面白くないし、ここでぼんやりと野球や空を眺めているのが好きだった。
失恋した時のタンポポを摘んだのもこの辺りだったなあ。
ああ、あそこのバックネットの壁がたくさん凹んでいるのは、
あたしが八つ当たりして蹴飛ばした痕だわ・・・。
杏子は大の字になった。青空の中に雲が流れていた。
また・・・いちから・・・やり直しかな・・・・
(54)
「杏子、杏子っ。起きなさいっ!」
はっと杏子は起きた。杏子の母親が側に立っている
「あ、母ちゃん。久しぶり」
「久しぶりやないでえ。こんな所で寝てしもうて。遠くから見たら浮浪者の行き倒れに
見えたで、みっともなか」
杏子の母親は夫の転勤で西日本を転々としてきたので、あっちこちの訛りが混ざっている。
杏子が小さい頃、川崎に転勤し、それ以来定住しているが、いったん身に付いたものは
変わることがなかった。
母親は杏子の隣に腰を下ろした。
「今日は掃除のパートが早番やさかいに今時分来れたけど、何やの?相談って。
六年ぶりに逢いたいい言うんやから、余程のことかい?前に手紙で結婚する言うたけど
どうかしたんか?あんた少し痩せたみたいやな。お腹は相変わらずでしゃばっとるけど」
母親の口数が多いのは昔からだが、久しぶりの娘との対面で気分が高揚しているのかも
知れなかった。
「うん、あんな、母ちゃん・・・。あたし、離婚したの・・・」
杏子はやっとそれだけ言った。夫を早くに亡くし、女手で二人の子供を育て上げた
母親に心配を掛ける杏子は、自分が不甲斐なく思えた。
母親はそれほど驚く様子も無く言った。
「そうかい。そりゃいろいろあったんだろう。仕方ないさ、気を取り直して
また、縁があるかもしれないし・・・」
「うん、それでね。あたし・・・この近所に引っ越してきたの」
「はえ?何で?この街に住むの嫌や言うとったでないか?」
「母ちゃんの手助けが欲しいんよ」
「何で?あんたもう1人で生活できる違うの?」
杏子は口ごもった。
「あんね。お腹にね子供が出来たの・・・」
「ええっ?誰の?離婚する相手のかい?相手は知ってるんか?いつ生まれるんの?
あんた1人で育てるのかい?どないするのこれから!」
(55)
杏子も判らなかった。でも杏子の心の中ではっきりしているのは、「どんなことがあっても
この子を産んで育てる」ということであった。
「相手の・・・前の彼は行方不明なのよ。この前病院に行ったら、もう五ヶ月に入っている
って。あたし、ここで産んだらしばらく働けないから・・・。母ちゃんしか頼れる
人いないの」
母親はしばらく言葉がなかった。
しばらく逢っていない娘が結婚して人並みに暮らしていると思いきや、離婚し、しかも
妊娠して戻って来たのでは、親として返す言葉も見つからないだろう。
「で、そのアパートはどこね。そこで今後のこと決めたらええがね」
母親と杏子は立ち上がった。
杏子が離婚届けにすぐにサインしなかったのは、お腹の子供を私生児にさせないためであった。
あくまで、戸籍に父親として孝之の名前を載せてから離婚するつもりである。
また、専務のところで餞別として300万円出された時も、本来の杏子の気性からすると、
叩き返すところだが、ぐっと我慢して受け取った。
それは取りも直さず、生まれてくる子供の為だったのだ。出産すればしばらくは仕事ができない。
杏子には少しでもお金が必要であった。
杏子の貯金などと合わせれば、一年は何とか働かなくても大丈夫そうである。その後のことは
また考えればいい。
子供を産むのが初めての杏子にとって、精神的にも母親の支えが必要だったのだ。
漸く、世田谷のマンションから川崎のアパートへの引越しが終わった。
マンションは部屋が五つもあったが、アパートは二部屋である。しかし、半年前まではアパート
にいたので苦にならない。
電化製品も洗濯機や電子レンジくらいしか持ち出さなかった。そもそも今度の部屋にそれ以上は
収まらない。結局、小型テレビや小さなタンスを買うという余計な出費が増えた。
(56)
引越し業者が荷物を積んで、最後にマンションを出るとき、それを見届けに来た例の二人組、
小男とタケに「残りの家具は全部あなたたちに上げるから」というと、二人は歓喜の声を
あげ、喜び勇んで家具を分け合った。
特に、大型テレビをせしめた小男は喜色満面で「姉御さんありがとうございます!」と、今までの
恨みも忘れて何度も繰り返し礼を言った。
家具調達品は自分のものだから、買取屋に出して現金にすることも考えたが、もう杏子は
一刻も早くこの思い出の染み付いたマンションから離れたかった。
アパートに引っ越して一ヶ月、杏子は時折、理沙が幼稚園で自分にプレゼントしてくれた
お雛様の紙人形を手にとって眺めた。
ママのお腹にいるのは、理沙の兄弟だよね・・・。
女の子だったら理恵、男の子だったら孝志って名前にしよう。
杏子のお腹もだいぶ成長してきているようで、時折、赤ちゃんが中で動いているのが
判った。
犬川産業の専務も、マンションの処分が済むと杏子の離婚届を郵送してきて、後は勝手に
出してくれという態度だった。後は日付を入れればいいだけになっている。
杏子としても、子供が生まれたら離婚届に親権を記入してすぐに出すつもりである。
孝之をこれ以上、束縛するつもりはなかった。
杏子の母親も、仕事帰りにアパートに寄って買い物を届けたり、一緒に食事をしたり
するようになった。
母親も家に帰っても息子の嫁とあまり顔を会わしたくないように見えた。
そこはやはり、どこの家庭でもあるように、実の娘との方が気さくに会話が出来るもの
なのであろう。
「杏子が結婚できるなんて夢にも思わんかったけど、子供まで出来るんやなあ」
「兄さんの子供、学校に上がってるの?」
「真一は早かったさかい、孫はもう来年小学校さね」
「母ちゃん相変わらず変な言葉だなー。関西訛り、直らないねもう」
「そんなん、もうこの年になったらあかんて」
(57)
二人で会話している時は、普通の冗談が出ていたが、台所に立って炊事をする母親が
時折、手で涙を拭っている姿が眼に入った。
杏子は「ごめんな母ちゃん」とつぶやくことしか出来なかった。
杏子が小さい頃から、肥満のために疎外されてきたことぐらい、母親ならお見通しである。
子供の手や足に痣ができて帰ってくれば、学校で苛められていることを見抜けない
母親なんていないだろう。
他所の子供どころか、実の兄にすら邪魔者扱いされて家を飛び出したひとり娘。
離婚されて将来の生活もままならない状態で子供まで産む。
母親としては辛い気持ちであるに違いないだろう。
杏子が幼児の頃は、あんなに可愛かったのになぜ?今は無き父親が「杏子はほんとに可愛い」
と言っていたのは、お世辞ではなく本当だった。それが父親が亡くなると、急激に太り出して、
当時の面影は微塵も残っていなかった。
今や、実の兄とも似ても似つかない杏子はいったいどうしてしまったのだろう。
「さて、夕方の散歩に出かけるかな」杏子は腰を上げた。
その時、誰かが呼び鈴を鳴らした。
?
今日は母ちゃんは来る予定ではないけど?またNHKの勧誘か?
玄関に出てみると、タケだ。
「あ、ここでしたか。表札が旧姓なので手間取りましたよ。ちょっと来てください」
「何?どしたん?」母親なまりが混じった。
「いいからいいから。さ、早く」
表に出てみると、向こうにアウディが停まっている。
杏子を認めたのか、ドアが開いた。
「あっ、理沙!!理沙!!」杏子は駆け出していた。
「オネエチャーン!」理沙も飛び出してくる。
飛びつく理沙を抱きしめると、杏子はもう涙声で言葉が続かなかった。
「理沙、理沙どこにいたの、もう、絶対に離さないよ!」
376 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/04(金) 03:03:54
理沙ちゃんに逢えてよかった〜〜〜。+゚(゚´Д`゚)゚+。ワーン
なんてとこで終わるんだ〜〜〜
>女の子だったら理恵
・・・まんま自分の名前です(´∀`*)ポッ
378 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/04(金) 08:49:40
やっぱり赤ちゃんがいたのね…よかった。
理沙ちゃんとはどうなるのかなぁ?
379 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/05(土) 04:24:49
二人目の男との結婚の間に、まだまだ続く杏子の生活。どう繋がるのか。
心を捉えて話さないお話だなあ・・・作者さんありがと。
380 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/07(月) 06:30:32
紫煙です!
381 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/08(火) 00:49:01
保守
382 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/08(火) 17:22:22
激しく紫煙!!
383 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/08(火) 18:07:49
しえん&きたいあげ
384 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/08(火) 23:28:54
続きまだかな〜
385 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/09(水) 02:03:42
ぉぉ・・今夜あたりかな・・などと思っていたんだが・・w
いやいや、、せかしたらダメダメ・・
じっくりで・・いい作品をお待ちしていますo(_ _)o ペコッ♪
(58)
アーイアイ、アーイアイ、オサールサーンダヨー。
アーイアイ、アーイアイ、ミナーミノクニカラー。
「理沙ー。何でさっきからお猿さんの歌ばかり歌ってるの?」
「うーんとね。赤ちゃん見てると何だか歌いたくなるの」
「あはは。そうか。赤ちゃんはお猿さんみたいだからねえ」
杏子は、自分の乳房に食らいついて母乳を吸っている理恵を眩しそうに
見つめた。
「赤ちゃんはねえ、生まれたときはみんなお猿さんみたいなんだよ。
でもその内、理沙ちゃんみたいに可愛くなるよー」
杏子の母親は病室の窓を少し閉めて、カーテンを引きながら言った。
「年取ってもおばあちゃん、お猿さんみたいだよー」
「理沙、そんなこと言うもんじゃないの。おばあちゃんも若い時は可愛かったん
だから」
そういいながらも、杏子は理恵がお猿さんはともかく、自分のように豚さんにならないか
一抹の不安があった。
「理恵ちゃん大きくなったら、あたしと一緒に幼稚園行けるかなあ。おばあちゃん」
「そりゃ無理だわ。理恵が幼稚園行くころは、理沙は小学校いってるがな」
夏も終わり、秋になりかけた頃、杏子はついに赤ちゃんを産んだ。
巨漢の杏子の腹から出たのは一匹、いや、一人だけであったが、その片手に乗るくらいの
赤ん坊でも、杏子の肉体にとっては難産であった。
一般的に、肥満した肉体はその脂肪分が子宮を圧迫し、難産になるのが普通であった。
そもそも、本来の男性器との結合すら満足にしていない、杏子が妊娠したこと自体
僥倖であったが、杏子自身、恐らく一生のうちで二度と妊娠はできないであろう
ことは予測に難くなかった。
(59)
しかし、これで漸く出生届けを出し、離婚届にも二人の親権を杏子に定めて役所に
提出できたのだった。
杏子の母親は、最後まで離婚届を出すのに賛成しなかったが、杏子の意思が固いのを見て
役所に足を運んでくれたのだ。
孝之も身軽にならないと次の人生を歩めないだろうから・・・
杏子は最後まで孝之のことに思いはせたのである。
本当は、理恵の顔を一目でいいから見て欲しかった。
二人の子供は私が育てますから安心してください。
孝之が理沙を可愛がっていたことを見ても、孝之は子供の父親としては充分責任を
果たしていたと思う。
理沙は何も言わないけれど、本当は父親が消えてしまったことに対して、私同様に
ショックは残っているに違いない。
あの日、犬川産業の小男とタケが理沙を連れてきた日。
杏子はドアから出てくる理沙に続いて、もしや孝之もという期待が胸に湧いた。
しかし、後から降りてきたのは見慣れた?小男だったのだ。
杏子たちが感激の対面をしている間は、二人は黙って待っていてくれたが、
杏子はとにかく、二人ともどもアパートに連れて行った。
そして、理沙が帰って来た過程を漸く聞くことが出来たのだった。
孝之は犬川産業の専務に叱られて理沙を連れて行ったものの、やはり足手まといに
なったらしい。
やむなく、横須賀の実家に預けたものの、孝之の母親は孫の相手が不得手というより、
逃げた嫁の子として憎んでいるくらいだった。
杏子と離れた理沙は、そのうちみるみる元気が無くなり、毎日シクシク泣いていたそうだ。
孝之は孝之で、転々としながら仕事を探す毎日で理沙の相手もしてやれず、このままでは
理沙が可哀想でならないということで、母親と相談して杏子の下へ連れて行くことに
したのだ。
(60)
ところが、孝之は専務に内緒で杏子に引き渡すつもりだったが、マンションはすでに
引き払われており、杏子がどこに行ったか孝之にはわからない。
そして、何日も逡巡したあげく意を決して、タケに連絡してきたのだった。
専務は堅気なので、自分の子供を粗末にする人間には容赦ない。
専務に相談しても、怒られるのが落ちである。そこで下っ端のタケに、理沙を帰したいが
とダメ元で相談を持ちかけたのだった。
タケは小男と相談したが、「女の子は女親のもとにいるのが一番」という結論に達し、
会社の人間には内緒で理沙を預かってきたのだった。
それもこれも、以前に杏子がマンションを引き払う時に、気前よく家具調達品をこの二人に
分けてあげたのが効いていたのだろう。
二人は杏子のためなら多少のことは嫌がらなかった。
他人に恩は売っとくものだ。どこでそれが生きるか判らないと杏子は思った。
小男が言うには、孝之は以前よりやつれており、「いつかは奥さん(杏子)と子供を
迎えに行くんだろうな」と聞いたが返事はしなかったそうである。
杏子もそれを聞いて、黙って頷くしかなかった。
杏子の母親は、理沙が杏子の元に帰って来た翌日に杏子のアパートを訪れ、仰天は
したものの、さすがに長男の孫の面倒を見てきただけあって、幼児の扱いは
手馴れていた。
翌日には子供服をたくさん買ってきて、その他にも幼稚園の手続きやらいろいろと
雑事をこなしてくれた。
「お母ちゃん、いつも仕事の邪魔してごめんな」
「ああ、気にせんでええよ。パートじゃけん少しは融通が効くんやさかいに」
「うん。理恵が保育園に行けるようになったら私も働かからね」
「今はそげんこと考えんこと。あんたは子育てだけに専念すればいいんよ」
黙って大人の会話を聞いていた理沙が口を挟んだ。
「ねえ、おばあちゃん。あたし、いつから幼稚園行けるの?」
「うん、ママがもうすぐ退院するからね。そしたら行ってもいいよ」
理沙が飛び跳ねた。「わーい。また幼稚園行こう。行こう」
(61)
秋も深まり、理沙が幼稚園に行っている間、杏子が理恵を寝かしつけてまどろんでいると、
玄関の呼び鈴が鳴った。
昼間っから誰だろう?いぶかしげに玄関に出てみると、そこに立っていたのは
何と、杏子の兄である真一であった。
「あ・・・」杏子は言葉が出なかった。そもそも、実の兄であるのに実家で同居
していた子供の頃から、殆ど国交断絶状態で口を利いたこともなかったのだ。
真一も戸惑って何を言おうか迷っている様子だったが、「ちょっと、いいかな」
というので、杏子は中に招き入れた。
真一は杏子より五歳年上でもう30はいっているはずであった。
「母さんから話を聞いたよ・・・」
ここ何ヶ月か、母親の外出が多くなり不思議に思っていたところ、ある日真一の奥さんが
義母の部屋で、真新しい幼児向けの服や絵本を見つけたのだそうである。
真一の子供は二人とももう小学生である。幼児向けの物を買うのはどうみてもおかしい。
母親も最初のうちは、知り合いの子供のために買ったと誤魔化していたらしいが、
女性の口が隠し事を封じることができないのは、古今東西、未来永劫変わることが無い。
「あなたたちに迷惑はかけないよ」
杏子の母親は息子夫婦に断言した。
ちっ。なんてことしてくれたんだ、母ちゃん。兄ちゃんにばらすなんて。
兄ちゃんは、何だって実家の近くに住むんだって、文句言いに来たんじゃないか。
今更、ここを引っ越せって言われても困るよ。
私は絶対にここを動かないからね。どんなことがあっても・・・
「あの・・・。杏子、昔はいろいろと、その、あったけどな。まあ、今は別だから・・・」
「え?何が?」
「まあ、とにかく赤ちゃんおめでとう」
杏子としては意外であった。文句を言いに来たはずの真一がおめでとうとは?
「じゃあ、これで帰るわ・・・」
杏子は訳が判らなかった。が、しかし、真一は文句を言いに来たことでないのはわかった。
(62)
翌日、仕事帰りの母親がアパートに寄った時、杏子は聞いてみた。
「昨日ね、兄ちゃんが来たんよ。何でだろ。母ちゃんばれたの?」
母親はさほど驚いた顔もせずに夕飯の用意をしてた。
「うーん。ばれたんだよ。それでねえ真一から預かってきたものがあるんだよ」
母親は杏子の前に封筒を置いた。
杏子が手にとって見ると、分厚い。しかもその中身は何と、お札であった。
「ええっ?何で?兄ちゃんがこれを?私に?」
「うん、昨日、杏子に渡そうとしたんだけどできなかったってさ」
「昨日これを?どうしてまた?私はてっきりここに住んでるのに文句言いに来たと
思ったのに」
「あの子も、大人になって子供の親の気持ちが判って来たんじゃないかねえ。
子供の頃はあんたを散々煙たがっていたけど、あんたが家を出てから苦労し続けている
のを聞いて、何だかしんみりしてたからねえ」
昔の罪滅ぼしか・・・
杏子は分厚い封筒を手にして、初めて兄妹の絆に触れた思いがした。
考えてみれば、真一も小学生の時分に父親と言う精神的支柱を失って、辛い思いをしてきたに
違いない。
その反動が不細工な妹に向けられたのか・・・
ともあれ、最近の杏子の周りにはなぜか良い人が寄ってくる。
一年前までは天涯孤独の自分だったのに、なぜなんだろう。
今は命よりも大事な二人の子供もいる。
杏子の心の中に沸々と生きる希望が湧いてくるのを感じた。
第二部 完
391 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/10(木) 01:47:04
ああ、作者さんいつもお話をありがとう。
全然予測の出来ない展開に、毎回ドキドキヤキモキしながら杏子のことを
みています。杏子に良い風が吹きますように。
392 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/10(木) 05:48:34
ありがとう、ありがとう!!
杏子、いい人たちに囲まれて、幸せになってよかったねぇ。
次がますます楽しみです。
このスレ重いw
394 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/12(土) 01:58:34
第二部お疲れ様です。
次も楽しみにしてます。
395 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/16(水) 11:24:21
続き見たいな…
396 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/17(木) 19:51:49
待ってます。
397 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/18(金) 12:55:23
きたいあげなの!
(1)
三十歳の半ばも過ぎた頃から、重男は結婚を意識するようになった。
勤め先の食品会社では、男性社員は30を越えるあたりからぽつぽつと
妻帯者になり始め、40過ぎると過半数はもう子供がいるのが普通である。
どこの職場でもそうだが、男は所帯をもって一人前という古風な考えが
未だに根強く残っているものだ。
現代は40代でも独身は男女珍しくないが、それでも高齢の独身男は何かと
肩身が狭いような風潮がある。
同じような能力、年齢の社員がいても、所帯を持っている男の方が出世は早い。
出世のために結婚を望むわけではないが、自分も一端に所帯と言うものを
持って、家庭生活を築いてみたいと重男は思うのであった。
いや、一人前の男になりたいというのは建前であって、実のところ、単調な毎日に
飽き飽きしているだけじゃないのか?それ以上、自分の本心を覗くのは止めにした
方が無難だ。
結婚しようにも、自分の風体はどうだ。
ちびとまでは行かないが、小柄で、およそ男としての力強さを感じさせないひょろひょろ
した体型。
なぜか、手足がアンバランスに長く、メガネを掛けている様から陰でメガネザルと揶揄される
ような外観。
床屋で髪を整髪する度に、額の前部守備隊の髪が後方へと退却し始めているのが気になって
いた。
このままでは取り返しがつかなくなる。
禿ちょろけたメガネザルでは、尚のことどんな女も相手にしてくれなくなるぞ。
重男は未だに童貞である。性欲は一人前に青春の頃から沸々と沸き起こっていたが、
かつて、それを受け止めてくれる女性に出会ったことは無かった。
このような恵まれない男性にも、神は風俗という恩恵を世の中にもたらして
くれているのだが、女性と付き合ったことの無い男性にありがちな、女性を神聖化
してその存在を美化する男にとっては、商売女と交わることにいささかの抵抗が
あるのであった。
(2)
重男の職場は食品製造会社で惣菜を作ってスーパーに卸していた。
従って、職場や取引先のスーパーなどにはパート・アルバイトの女性はいくらでも
おり、その気になれば交際相手など入れ食い状態のはずであった。
ただし、それはあくまで「まともな」男性の場合であって、重男がその恩恵を
被ることなど、宝くじ並みにありそうも無かった。
「拝啓 井桁重男様
先般、井桁様よりお申し込みのありました、エントリーナンバー5453の女性の方
ですが、先方よりお断りのご返事を戴きましたのでここにご連絡します」
ああ、またか。
重男は用紙を封筒に突っ込むと、呆けた表情でしばらく身動きしなかった。
入会している結婚相談所からのいつもの連絡であった。
これで何度目だろう、足掛け十年経っても未だに婚約にさえ辿りついたことが無かった。
男性はまず条件だ。学歴・身長・収入・容姿それらが劣っていれば、いくら性格が温厚とか
気は優しくて物静かですとか、人柄にいい条件を並べても見向きもされない。
たまに、バツイチで子持ちの女性が引っかかることがあるが、漸く交際というか
面接にこぎつけてもそこで落とされる。
30代後半から、結婚を意識し始めてから結婚相談所の虚しい返事を受け取り続けて
はや十年もの歳月が経とうとしていた。
何よりたまらないのは、常に自分の方が選ばれる立場であって、自分が相手を
選べる立場でないということだ。
たまに、自分が登録されている女性の中から気に入った女性を選んで、相談員に話を
持ちかけると、相談員はたいてい渋い顔をする。
相談員は仲人じゃないんだから、勝手に組み合わせを判断するな、と重男は心の中で
毒づく。
相談員は「私は数百件を御成婚まで導きました。その経験から申しますと・・・」
お前の経験なんかどうだっていい。俺にも選ぶ権利はあるだろう。何のための
会費なんだ。俺みたいな長期会員には極上の女性を紹介せんかい!
と、心で叫びながらも、重男の口から出るのは、「そうですかあ。何とかその経験を
生かしていいお相手を紹介お願いしますよ」という、我ながらに情けない言葉ばかりである。
(3)
重男は他県に両親は健在であるが、次男であるために同居する予定は無い。
これは独身男にとっては強みではあるが、もちろん決定打ではない。
十年近く相手が決まらなかったことでも解る。
自分にとって、何が決定打なんだろう?自己PRにいつも悩むのであった。
趣味は?野山の散策です。なんか年寄り臭いなあ。映画とかは観ますか?レンタル
で済ませてるんで。旅行とかされるんですか?えーと修学旅行以来・・・日帰り
ばかりですね(苦笑)。音楽とか聴かれますか?えーと、年末の紅白で一年分済ませて
いるんですよ。・・・・
結婚相談所の相談員は言う。
「女性と交際するのに話が続かないでしょう、これじゃ」
「趣味の幅をもっと広げないとダメですよ。テレビの番組をもっと観るとか、
今の女性たちに何が受けているとか、何か相手にピンと来るようなものが
無いと、不利な条件を挽回できませんよ?」
不利な条件か・・・・
そうだよなあ、学歴・収入・容姿・年齢、何をとっても光るものが無い中年男性に
寄り付く女性なんてなかなかいないよなあ。
役職は年功序列で係長という名前がついているものの、大企業ではないので、吹けば
飛ぶような飾りである。せいぜいパートのおばちゃんに偉そうな態度が取れるだけである。
重男の相談所の交際相手希望年齢に、35歳までと書いて提出したところ、相談員の
年配女性は目を吊り上げた。
「どうして交際相手が35歳までなんですか?」
「どうしてって、その、丁度私の年齢と釣り合うかと思って・・・」
「あなたは40代後半で、相手に十歳近く年下を望むのはちょっと高望みでは
ないですか?逆に女性の方で十以上も年上の男性を望む人はいませんよっ!」
「はあ、では40歳くらいまで・・・」
「いえ、ダメです。あなたの場合は年上も範囲に入れたほうがいいです」
「ええー?50歳まで?」
「そうです。そして再婚子供ありでも可にしましょう。そうすれば確実です」
(4)
こいつら本当に俺のためを思ってるのか?何が何でも組み合わせて成婚謝礼金
ぼったくるだけだろう。
重男は悔しかったが、確かに自分の実力を客観的に判断すればそうなのだろう
と考えざる負えなかった。
「井桁さん、3・4・4です」
「ええー、なんで今日はそんなに少ないんだ?予備連入れたのか?」
「入れたけどみんな逃げです」
「ちっ」
重男は舌打ちをした。一連の数字は、職場の隠語で惣菜の材料加工・製造・製品加工の
パートの人数割である。
通常は5人ずつで、フルに働けば5・5・5の15人がいるのだが、パートの
おばちゃんたちは家庭の都合や気まぐれで、よく休むのでアンバランスな人数に
なることがよくある。
そこで休日に当たっている他の人に緊急呼び出しをかけるのだが、それもいろいろ
理由をつけて逃げられるのが常である。
「こんな時に俺にカミさんが入れば、あてがうのになあ」
結婚相談所には絶対に聞かせられない台詞である。
重男が身の程知らずにも、結婚相手に若い女性を求める理由には、職場で中年のおばちゃんを
見すぎていることがある。
時間にルーズ、おしゃべり、無責任、派閥を組んでの抗争、気に入らないとすぐに辞めてしまう。
真面目な女性も少なくないのだが、抗争に巻き込まれるとみんな嫌気が差して
辞めてしまう。
残るのは神経の図太い猛者ばかりであり、むしろ重男の方はそういう人たちに辞めてもらいたい
くらいであったが、これが世の常なのであろう。
(5)
やれやれ、今日は納品する品数が追いつかないぞ、どうするか。
スーパー花輪の店長に謝るしかないな。あいつ、俺より年下の癖に煩いんだよなあ。
「井桁さん、花輪の店長から電話です」
「え?まだ今日の納品午後だぜ?なんだろ」
重男は電話を取った。
「もしもーし」
「井桁さん?すぐにこっち来てよ。お客が怒ってるんだ」
「あ、はい。わかりました」
また何かパックに問題があったのか?虫か?味か?何か混ざったのかなあ。
重男が車を飛ばしてスーパー花輪の事務室に駆けつけると、店長の木下が睨みつけるように
重男を待っていた。
「あの、何か不都合が・・・」
「不都合がじゃねえよ!また惣菜に髪が入っていたってよ!」
30歳を少し超えたばかりの木下は、40代半ばの重男にオカラの混ぜ物のパックを示した。
重男が見ると、確かにまだラップが取れていないオカラのパックの中に長い髪が
一本混じっているのが見えた。
「あの、お客様は・・・」
「とっくに帰ったよ!店長の俺が直々にお詫びしてな!」
「申し訳ございません、この責任は当方の手落ちでありまして・・・」
「毎回同じこと繰り返すんじゃねえよ!いい加減こんなことやってるんなら
仕入先変えるからな!」
「はっ、申し訳ございません。二度とこのようなことが無いように職員一堂・・・」
(6)
重男も自分の立場をわきまえていた。
店長の潰された体面を元通りにすること。客の前で恥をかいた店長が、年上の取引先の社員を
怒鳴りつけることで少しでも元通りになるのなら、何でもするのだ。
周囲の社員やパートの人たちの前で、店長の取引先に対する権力の大きさを示せれば
それで結構収まる。
ただし、後でお詫び料をこっそり届けることが前提である。
「ま、今後はきっちりとな、気をつけてくれないとな。うちはお客様の信用が第一
でやってるから。成増食品さんとは永いだけに信頼してるんだからね」
はいはいそうですか。後でお詫び代しっかり届けろってことですよね。
「はい、うちの職員にも今後は二度とこのようなことがないよう厳しく・・・」
重男は何度も頭を下げた。
俺って人に頭を下げるのにうってつけだよな。
子供の頃から謝り続けて来たような気がする。
社長ももっと俺に感謝してくれなきゃいけないよ。俺の前任者は花輪の専務を怒鳴りつけて
首になったらしいし、俺みたいな腰の低い男だから花輪との取引がはかどってるんだ。
と、重男は自分を誇らしく考えていたが、その実情は少し違う。
重男はもともと事務部門だったのだがトロイということで、製造の管理といっても
パートのおばさんの管理にまわされたのだが、口八丁のおばさんたちにやられて
いつもメソメソしているのを今度は取引先の対応にまわしたのだ。
こいつなら、どんな理不尽なことを言われても口答えしないということで。
いつも怒鳴られることに慣れすぎたのか、ある日、重男がデパートで瀬戸物売り場に
いたときにこんなことがあった。
重男が瀬戸物を品定めしようと、そっと手に持ったときに、真横から
「触っちゃダメだといってるだろ!!」
と怒鳴られて、反射的に瀬戸物を置いて「は、はいー」と情けない声を出した。
よく見ると、怒鳴ったのは普通の若い男性で、その男性は重男の近くにいる自分の子供が
瀬戸物に触ろうとしたのを見て怒鳴っただけなのであった。
重男の方を見て噴出しそうになっている子供の母親の姿を尻目に、重男はそそくさと
逃げた。
つづきキタ━━(゚∀゚)━━ッ!!
重男キタ━━━━━━(・∀・)━━━━━━!!!!
406 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/20(日) 02:40:36
作者さんは男性なのか女性なのか・・
どちらの描写も上手で、それすらわからーんw
407 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/20(日) 08:36:58
私はずっと男の人だと思っていた
重男にも同情…
私でよければもらってよ。
重男にも歴史あり!なんか大河小説ですな。
俺は作者さんは女性だと思っていた。「濡れ場」を即物的に表現するセンスは男にはあまりないから。
(7)
「ちょっと、イゲさん。また惣菜二人辞めるんだって?あんたも社員管理
しっかりやってくれないとさあ。辞めるたびに、はい次、はい次じゃないんだよ?」
製造部長の飯田が重男を呼び止めて言った。
イゲとは何だ?井桁という名前があるだろう?部長とはいえ、重男より少し年下だから
か、さすがに「君」と言わずに「あんた」で抑えているのは認めるが、人の名前を
略すんじゃねえよ。
と心の中で叫びながらも、重男は媚びる笑顔を作りながら飯田に顔を向けた。
「はい、私も鋭意努力はしてるんですが、家庭の事情があるらしく・・・」
「そこをなんとか引き止めるのがあんたの役目だ。新規募集の広告にどれだけ
費用が掛かると思ってるんだ。そんな余分があったら、他のパートさん達の時給に
まわしてるよ。同じ時給で頑張って何年も続けてくれている人たち
に申し訳ないだろう。」
「はあ、ごもっともです」
「とりあえずは、生鮮部門から応援をまわすから支障の無いように配置してくれ。
それから、花輪からのヘルプは断れよ。クソの役にも立たないんだから」
「はい、そのように致します」
けっ。部下の俺を叱咤するのは構わない。しかし、それが何でいつも他のパートや
社員のいる「製造現場」でこれ見よがしにするんだ?
部下の俺をを叱るなら事務所に呼んでやればいいじゃないか。
いつも俺が現場にいるときに、通りがかった振りをしてこれだよ。
わざわざ、社員のいる前で年上の部下に叱責する自分の力を誇示しようというのか?
俺に恥を掻かせて苛めることに快感を覚えてるのか?
しかも、必ずみんなの前でパートさんを持ち上げるような言葉を混ぜやがってこの点数稼ぎが。
(8)
と、いいつつも、永年他の社員の目の前で年下の上司に叱られ恥を掻かされることに
慣れきってしまって、むしろマゾスティックな快感を覚え始めているのは
重男のほうであった。
花輪のヘルプというのは、成増食品とスーパー花輪の特有のパート人材交流で、
お互いが繁忙期などに臨時的にパート社員を互助し、乗り切るというやり方で、
花輪の社長が考え出したものだ。
人材交流といえば聞こえはいいが、要するに花輪が余分な人材を押し付けるだけであり、
大企業の出向みたいなものである。
スーパーから成増食品に来たパートさんは時給が低いのですぐに辞めてしまう。
これが狙いなのだ。
成増食品は長続きしないパートを受け入れ、しかもその間の賃金は支払うのでこんな
人材交流は止めたいのだが、大口取引先の意向なのでしかたなく受け入れているのが
現状である。
「おい、イゲ。来週面接やるから、後で事務所に来て書類見といてよ」
総務の山下が重男に声を掛けた。こいつは重男と入社歴がさほど変わらないが課長である。
あ、あのなあ。部長がイゲというからって、何でお前まで略すんだよ。
井桁と言え、井桁と。
と、心で毒つきながらも重男は「おっ、もう応募来ましたか。今度こそいいのが来るかなあー」
と笑顔で返事をするのが精一杯だった。
作者さん、いろんな裏事情に詳しいなぁ…
(9)
「係長、ちょっとこっちへ」
重男は販売部長に呼ばれた。
会議室に行くと、総菜課の杉田課長も先に来ており、1人でコーヒーを飲んでいた。
末吉販売部長は重男を席に座らせるやいなや、口を開いた。
「イゲ君はここ半年の材料・販売の相関データファイルを見たかね」
「は?出た?、ほあいる?ですか?」
末吉はいらいらして言った。
「データファイル!君にはでーたふぁいると言わねば通じんか?」
ああ「でーた」か。あのパソコンに出てくる奴のことか。
なら、最初から「でーたふぁいる」と日本語的発音しろよ。
この部長はカタカナ語を使うときには、いつも気取って外人っぽい言い方するからこっちには
さっぱり解らない。
きっと、こいつは学生時代に英語の授業の時は「しっかり下唇を噛んで」とか「舌を丸めて」
とかいう先生の教える基本に忠実だったに違いない。
その癖、外人とは一言も会話できないんだから笑わせる。
と重男は内心で毒つきながらも、「は、はあ、その、よくは見ておりません」と返答した。
末吉部長はため息をついて、「杉田君、説明してくれ」と言って、コーヒーに手を伸ばした。
杉田は特徴のあるメガネにちょっと手をやって、重男を睨みつけた。
「ここ数ヶ月、急に花輪さんのところへの販売数が落ちてきてるんだけど、心当たりは
ないのか?僕もデータは把握しているけど他の販売先が伸びてきているんで、
花輪への落ち込みには目が行かなかったんだよ。
君は花輪が主だからてっきり気付いている と思ったんだが・・・」
重男は意外だった。
「え?は、はあ、えーと。よく把握してませんでした」
(10)
ダン!!と末吉はテーブルを叩いた。
「自分のメインカスタマーを把握してませんとはなんだ!!」
重男は黙って俯いた。
「自分で花輪からオーダー受けて加工にリクエストしてるんだろう?
それでなんでデクリーズ(減少)に気付かない?」
末吉は今度は矛先を杉田課長に向けた。
「花輪は他所のカンパニーから総菜を入れているということはないのか?
課長ならとっくにインベスト(調査)に動いていてもおかしくないよ?リサーチしてないのか?」
杉田はメガネをつんと指で押し上げると、「はい、直ちに調査したいと思います」
と言って首をかしげた。
「しかし、他の生鮮部ではいつもどおり発注なのにちょっと変ですねえ」
部長はコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「じゃあしっかりリサーチしとけ。総菜はうちの特徴で、ラバーコスト(人件費)
かけて作ってるのにこれじゃあ、オートメーション化したほうがいいかもな」
重男には部長のいうことはさっぱり意味が解らなかったが、課長は何とか判るらしい。
カタカナ語を混ぜればとれんでぃだとでも思ってるのか?日本語で話せばいいのに。
やれやれ。製造部長に怒られて、販売部長に怒られてか・・・
どこの会社でも同様だろうが、部長同士というのは反目し合っている。
そのつけが重男のような弱部に周ってくるのだ。
ある意味、社内の潤滑油として重男の様な人材は必要不可欠である。
もし、重男がいなかったら、部長同士で直接火花を散らすことになり、社内は穏やかでは
すまない。
重男の様な、柳に風の役目を果たす社員は逆になかなかいない貴重な人材といえよう。
(11)
「そういう意味じゃあ、俺には特別手当を出して欲しいよな」
重男は惣菜課の事務員のところに向かった。
女性事務員がパソコンに向かっている。
「加納さん。ちょっと惣菜の出たファイルを見たいんだけど・・・」
女子事務員はキーボードの手を休めて、きっというような目つきで重男を見た。
「データファイルですか?それならあそこのパソコンでも見れます。ファイルは共有ですから」
こいつ、俺が機械に音痴なの知ってていうんだよなあ。
「いや、、僕、ちょっと見方わからないんで・・・、あなた出してくれませんかね」
加納はため息をついて、「ファイルネーム一覧を棚からから持ってきてください」
若い女性事務員に当然の様に指図されて、重男は棚から分厚い帳簿を引き出した。
「そこの青いページに目録がありますから。それじゃない!青い方!」
いつも通りの尖がった声だ。
何で管理職の俺がこんな小娘に命令されて怒られてるんだ?
本当なら、俺がひとこと言ったら黙ってデータを見せるのが本当だろう!
と思いつつも、「あ、これか、これこれ。これを画面でお願いしますよ。えへへ。
コーヒーでも入れましょうか?」
と相変わらず愛想を良くする事しか出来なかった。
おかしい。
確かにスーパー花輪への納入パック数が減っている。
花輪の店長は俺には何も言わなかった。通常なら、店長の方から「もっと増やしてよ」とか
「最近これ余るからしばらくこれは減らして」みたいなことをいうので、それに慣れきっていて
自分で管理してなかったのだ。
俺の知らないうちに仕入れ先を変えているのか?
重男には判らなかった。
とにかく、スーパー花輪に行って店長に会ってみるか。
(12)
車を運転しながら重男は考えた。
成増食品の惣菜に関しては、機械パックではなくて昔ながらの手作業盛りだ。
機械なら分量はきっちり計量できるが、人間が盛り付けると量は不安定だ。
しかし、価格は重量計算で値段ははじかれるから問題は無いし、それ以上に特徴と言えるのは、
女性の手盛りだと、いかにも美味そうに盛り付けられることである。
パートの主婦が盛るのだから当然と言えば当然である。
混ぜ物など特にそうだ。野菜や肉がバランスよく混ざって入ればこそ箸が進む。
末吉販売部長は機械化をしてパートの人件費を削りたいらしいが、それでは成増食品の
特徴がなくなってしまう。
しかし、それとは別にあの問題は・・・・
重男はスーパー花輪に着くと、事務所に向かった。
花輪の店長は運良く事務所にいた。
「あー?井桁さん何用?」木下は椅子にふんぞり返って、足を組んだ。
「えー。まあー、その何ですな。ちょっと気になることがありまして・・・」
重男が疑問点をたどたどしく説明すると、木下はにやにや含み笑いをした。
「いつ気付くかと思ってたんだけど、あなたもにぶいねえ。今になってやっとかい」
こいつ、俺をからかったのか?
「しょっちゅう顔出すんだから、たまには惣菜のコーナー見てみればいいのに。
一目瞭然だよ。よその製品を増やしたんだ」
「ええっ。どうしてですか?今まではうちのに限定していたじゃないですか?」
重男は驚いた。何か不都合でもあったのか?ならばなぜ言ってくれない?
木下店長は頷いた。
「いや、驚くことは無いですよ。むしろあなたに感謝されるかもしれない」
「は?何かあるんですか?」
「実はですね。二駅先の美岬町にですね、ここと同じ規模の新規店舗ができるんですよ。
いや、いや、驚かないで。で、そこに入れる生鮮食品や惣菜加工品の仕入先を
現在調査しているところでね。
その地区の食品会社から試験的に一部ここに入れてもらったんですよ」
(13)
重男は初耳だった。いつも「りさーち、りさーり」とオウムのように繰り返す販売部長も
知らない情報だろう。あのバカ、自分では何も「りさーち」してないじゃねえか。
「そこでだ。その地区には小さい食品会社しかないし、またうちの特徴である成増食品の
素材も生かしたいと考えてるんだよ」
木下は人差し指を立てると、にやりと笑みを浮かべた。
こいつ、田村正和の真似がきつすぎる。顔が全然似てないし、髪型だけじゃねえか似てるのは。
「と言いますと?」
「新規店舗にお宅の生鮮食品や惣菜を採用してもいいかなってこと」
重男の体がカッと熱くなった。
足が震えるのが解った。
「で、で、では。うちの品を扱っていただけると?」
「ま、まだ決まったわけではないよ。そもそも新規店舗の話自体がオフレコってことで」
木下は椅子をくるりと回すと背を持たれた。
「まあ、お宅とも付き合いが長いからねえー。そこら辺はよろしく頼むよ」
よろしく頼むよの意味は判っている。こいつの口利きで成増の売り上げが左右されるのだから、
袖の下くらいどうってことない。
「ははっ、かしこまりましたーっ」
重男は大げさに挨拶を済ませると、店舗の中に入った。
冷蔵食品コーナーに行って、他の食品会社の製品も見てみようと思ったのだ。
狭い陳列コーナーに入ると、向こうから大柄な制服姿の女性社員がこっちに歩いてきた。
(14)
その貫禄ある歩き方は、まるで花道を入場してくる力士の様にも思えた。
女性社員は重男を一般のお客と思ったか、「いらっしゃいませ」と小声で挨拶すると、
重男の横をするりとすれ違った。
「へ?」なんて柔軟な女だ。1人で通路を塞ぐくらいのデブデブなのに、体をくねらせて
するっと俺の横を通り抜けた。
また新しいパート雇ったのか。
しかし、重男の肩がちょっとだけ、その女性の巨大な乳房に触れたので得をした気分になった。
木下店長は面食いで可愛い人しか雇わないはずなのに、なんであんなデブがいるんだろ。
あれじゃあレジに体が収まらないぜ。
陳列棚の他社惣菜を見ると、やはり機械パックで大量製造されたものであった。
これならコストでは太刀打ちできないかもしれないなあ。
でも、木下店長はうちの製品を採用してくれると言った。
これは大金星だぞう。俺が大口注文取り付けたようなものだからな。
ひょっとすると、金一封どころか、課長に昇進なんてことに・・・
重男はにたにた笑いながら店を後にした。
社に戻って、課長・販売部長らに花輪の新規店舗のニュースを聞かせると大騒ぎになった。
新規店舗で成増食品が採用されるなら社長賞ものである。
「井桁君、君ならいつかやってくれると信じていたよ!」
部長はナイスアタック、ナイスジョブと何度も繰り返して重男を持ち上げた。
その晩は部課長に宴席に借り出され、どんちゃん騒ぎであった。
重男は久しぶりに、一人前になった気分というのを味わうことが出来たのであった。
出 会 い の 予 感 !
しーげーおー!しーげーおー!(・∀・)イイアジダシテルネ
イイヨイイヨ
(15)
ええっと、次はエントリーナンバー6番か。
石川沙織さん・・・写真は結構イケテルなあ。
おっ、美人・・・凄いな。何でこんなところに来るんだろ?
重男は惣菜課長の杉田とともに、臨時のパート社員採用面接に出席していた。
正社員の採用なら、部長と課長が面接に臨むのだが、パート社員の場合は課長と係長である
重男がその役目を担わされていた。
何より、パート社員はすぐに現場に立たされるので、現場の管理職が人物を見る必要があった。
杉田課長は志望動機や経験、勤務体制への適応性など、次々と応募者に質問していく。
「えーと、実務経験は特に無かったわけですか?」
「はい、実家で家事手伝いをしていて、それから結婚しましたもので」
ショートカットの石川が、可愛らしい笑みを浮かべながら答えていく。
「趣味は料理とありますが、どの程度お出来になりますか?」
「はい、独身時代は料理教室に長く通っていまして、料理の本に載っている
献立なら殆ど素材から調理して造り上げることができます」
へえー、こんな美人に作ってもらえるのなら、どんな料理でも俺は平らげるぞ。
重男はちらちらと、石川の胸の膨らみに目を向けながら、そっと履歴書を覗いた。
昨年離婚か・・・。幼稚園の娘さんがいるんだな。バツイチか・・・・。
「今は親元で同居しておられるんですね。娘さんの世話もご両親に手伝って
いただいておられると」
「はい、送り迎えも母に手伝って貰えるので、お仕事には支障ないかと思います」
「具体的な志望動機は何でしょう?」
「はい、こちらで食材の加工からおかずなどの製品を製造されているので、自分の
経験を生かして製造のお手伝いをしたいと思いまして」
「経験と言っても、あなたの場合は家庭内だけですよね」
杉田課長はちょっと意地悪な質問をした。
石川はちょっと困ったような表情をしたが、すぐに答えた。
「はい、でも一般のお客様も家族と思って、心を込めて作るお手伝いをしたいと思います」
(16)
重男は感心した。石川沙織の困ったような表情も魅力的だ。
何かしら知的な雰囲気を漂わせているのがいい。
彼女を高価な金魚だとすれば、今日面接した他のおばさんたちは、
ハゼかドジョウにしか見えない。
32歳か・・・。俺と10以上も年が離れている。製造にこんな美人がいたら・・・
「井桁君、何か質問は?」
重男は我に返った。
「い、いえ、特には」
「では結果については、今夜電話でご連絡差し上げます」
杉田課長の挨拶で面接は終わった。
10人全ての面接が終わった後で、杉田と重男は会議室に残って採用者を選別した。
杉田はまず、二人の女性の履歴書を取り上げた。
「この二人は以前にスーパーで食品加工の経験があるし、年齢的にも子供が大きく
問題ないだろう」
重男にも異存は無かった。
「そして残る1人だが・・・」杉田は迷っている風に見えた。
「あの、もしかして石川さん・・・ですか?」
「うむ、君はどう思う?経験者なら他にもいるんだけどね」
重男はここが踏ん張りどころと感じた。
「はい、まだ若いし、調理に対する意気込みも充分ですし、パートさん程度なら問題ないのでは
ないでしょうか」
杉田はちょっと考えたが、「しかし、あの製造スタッフの中で上手くいくかな」といった。
重男は継いだ。
「今のメンバーじゃ似たもの同士で固まりすぎますし、職場に少し違う風を入れる意味でも
石川さんは適任かと・・・」
「そうか。そうだな。じゃあこの三人ということで」
(17)
なんだ、結局、課長も美人に目がくらんだんじゃないか。
しかし、これで石川沙織さんは俺の直属の部下と言うわけだ。
うひひひ。大事にしてやらんとな。何といってもバツイチで旦那はいないんだから。
特に何かを意識しているわけではないが、重男は心がウキウキしてくるのを感じた。
本館の通路を歩いていると、総務の山下が重男に声を掛けた。
「井桁さん。面接どうでした?」
山下は三十代前半の青年係長だ。
年は重男とは10近くも離れているのに、役職が同じ係長というのも
腹立たしいことだが、そもそもは彼のような優秀な人材が井桁を現場に押し出してしまったのだ。
しかし、役職は同じでも彼が重男を先輩としてちゃんと立ててくれるところには、
重男も好感が持てた。
「何で気になるんだ?たかがパートの採用に」重男はいぶかった。
「はあ。あの、石川さんていう人採用されますかね」
重男はドキとした。
「君がなんでそんなこと気にするんだ?石川さんがどうかしたのか?」
「ええ、彼女が応募書類持参してきた時、僕が受け付けたんですよ。他の人は
みんな郵送なのに珍しく持参でしてね。」
ふーん。そうかあ。あれだけ美人だとみんな印象が強いんだな。
「採用されたよ。ここもたまには毛並みの違う人を入れないとな。
生活にくたびれたようなおばちゃんばかりじゃ、雰囲気も暗いし」
山下は顔をほころばせた。
「そうですか。良かったあ。でも何ですよね、あの人、知的な雰囲気ありますよね。
こんな汚い工場なんかより、お稽古事の教師って感じがします」
重男は山下に付き合う気はなかった。ライバルとこれ以上話をする気はないのだ。
(18)
「石川と言います。よろしくお願いします」
翌週、製造部のお惣菜加工の現場に現れた石川は、他の同僚の前で挨拶をした。
十数名の現場にその日から三人が加わった。
実務に不慣れな石川がどれだけ頑張れるか、重男を初め他の男性も不安を感じていたが
これは時間が解決してくれるであろう。
特に、一番気に掛けているのは総務の山下であり、何かにつけ製造現場を覗きにくるので
ある。
重男もいちおう、お惣菜部門の最古参の野方に挨拶はしておいた。
野方は50代半ばの女性で、惣菜では一番の古株であるが、それだけに知識・経験も
持ち合わせている実力者である。
「野方さん、今度の新人は経験が無い人もいるので仲良くやってください」
野方はサンショウウオのような顔をジロリと重男に向けると、
「フン。いつもは中途採用なんか放りっぱなしで預けるくせに、美人だと待遇も違うのかね」
「いえ、そういう訳では。野方さんの経験をみっちり教え込めば、いい人材になると
思えばこそ」
「まあ、どれだけ続くかって事だねーあははは」
野方はサンショウウオの様な口をガバリと開けると笑った。
重男は時々、石川本人に声を掛けた。
「どうですか。仕事大変じゃないですか?」
「はい、でも盛り付けや味付けはとても楽しいです。いろいろやりがいがありますよ、
ここの仕事は」
うんうんと重男は頷いた。これなら長続きしそうだ。
それから一ヶ月ほどたった頃、重男はスーパー花輪の木下店長に呼ばれた。
「井桁さん。ヘルプを二・三人寄こして欲しいんだけど」
ヘルプ?応援か。
「棚の整理もあって、うちのパートだけじゃ追いつかないんでね。頼むよ」
(19)
会社に戻って、重男は悩んだ。
花輪に応援に出すとすれば、通常なら新参のパート社員だ。
ということは、最近入ったあの三人しかいない。石川沙織さんもかあ・・・
沙織が惣菜のパートに似つかわない美人であるだけに、花輪の店長の下に
差し向けるのは不安が伴った。
しかし、従来からの取り決めごとなのだから仕方がなかった。
案の定、総務の山下が不安一杯という表情で重男に詰め寄ってきた。
「どうして石川さんを花輪に出すんですか。あの店長じゃ嫌気が差して
すぐに辞めますよ、彼女」
「君には関係ないことだろう。文句があるんなら課長にいえよ」
重男も心配なのは同じだった。花輪の店長は女子社員に手癖が悪いのでも有名だ。
重男はサンショウウオ、いや、野方のところに行った。
「石川さん、どうでした?働きぶりは」
「まあ、働き者だね。何でも文句言わずにやるし、後は慣れだね。材料を盛る手つきは
なかなかだよ。むしろベテランといっても良いかも」
「花輪からヘルプ依頼来てるんだけど、やっぱり石川さんしかないよな」
「そりゃそうさ、新人が行くってのが決まり事だろ?年功序列を崩したら仲間がただじゃ
すまないさ。エコヒイキは止めなさいよ」
重男は諦めた。
来週から石川もスーパー花輪に行ってもらうしかない。
花輪の店長である木下は、成増から応援に来た三人を見て顔を綻ばせた。
「井桁さんのところにもこんな女性がいたんだ。今まで隠していたのかい?」
嫌な野郎だ。変な手を出したらただじゃすまないぞ。
重男は心の中で木下を罵った。
(20)
「じゃあ、おかず担当のお手伝いと言うことで、よろしくお願いします」
重男は花輪を後にした。
花輪に応援に行けば、少しだが時給も上がる。以前にはその待遇の良さを気に入って
むしろ行きたがった社員もいるのだ。
石川さんももしかしたら喜ぶかもしれないし・・・
それから、一ヶ月ほど経った頃、重男が出先から会社に戻ると、杉田課長が待ちかねた
ように重男を呼んだ。
「すぐに会議室に来い」
重男と課長が会議室に入ると、なんと、そこには総務の山下とそして花輪に行っている
筈のパートの石川がいた。
「あっ。これはいったい、ど、どうしたんですか」
重男は驚いた。
石川に代わって山下が重男に説明した。
石川さんが花輪に出向してから、しばらくはオカズ関係の手伝いをやらされていたが、
その後、石川だけ木下店長の事務所に配置換えとなったそうだ。
で、本人もいろいろ考えたが、自分には向いていないようなので退職したい、
ということらしい。
パートの社員がさしたる理由もなく辞めるのは良くあることで、杉田課長も深くは考えずに
「代役を早く立てんといかんな。イゲさん、代わりの人を花輪に行かせてやりなさい」
とだけ言うと、席を立った。
後に残ったのは、重男と石川、そして山下だけである。
「山下さん、君ももういいよ」重男は言った。重男は直接、石川に真相を聞いてみたかったのだ。
しかし、山下は立ち上がらずに石川に質問した。
「あの、石川さん。本当の理由は何だったんでしょうか?言いにくいことでも聞かせて
貰えませんか?何か問題があったのなら、会社の方としても対策していかないと
いけないし、今後もうちから花輪さんの方に手伝いを派遣するので、問題は
はっきりさせておきたいのです」
(21)
こら、こら、こら。
それは俺様が石川さんに聞こうと思っていることだぞ。
何で関係の無いお前が横から口挟むんだ。
「実は僕もちょっと心配で、花輪に行った他のパートさんにも時折状況を聞いてみたんです。
そうすると、石川さんが店長の事務所に配置換えされてから、急に元気が無くなったって
聞いていたので心配してました」
重男は目を丸くした。
山下の奴、俺に隠れてそんなことしてまで状況を探っていたのか?
重男はうかつにも、石川がそのような状況になっていたとは知らなかった。
何度か花輪には顔を出しているのに・・・
石川はずっと下に俯いていたが、やおら顔を上げると話しはじめた。
「実は・・・。店長さんの事務所に移されてから・・・。店長が俺と付き合うように
って強要し始めたんです」
重男と山下は顔が強張った。
やはり思ったとおり、あのクソ店長は手を出してきたか!
「で、あなたは拒否したんですよね」山下が言う。
「はい、でも最初はよく解らなかったんです。なぜか親切で、時給を五割り増しに
するとか、現場なんかいいからここで事務だけしていればいいとか、言っていたので」
石川は目を伏せた。
「でも、ある日、帰りに送っていくと言われて、車に乗ったら、ホテルに入っていったんです」
ええーっ?。重男と山下は同時に唸った。
(22)
「私は必死に断りました。でも、店長は断るならいいけど、それならお前はもう
首だっていいました。
私が、首になってもいいですっていうと、それなら首だ。成増との取引も考えるって
いったんです」
山下は顔が固くなっていた。
「そ、それで大丈夫だったんですか?」
「はい、私も、それなら花輪の本社にこのことを話しますって言ったんです。そうしたら
取りあえずは許してくれました」
重男が言葉を継いだ。
「大丈夫だよ、断っても。店長だってちょっと脅してみただけだろうし」
「私、もうあそこでは働きたくありません!」
石川は強い口調で言った。
「店長も嫌ですが、それ以上に・・・」
「それ以上にって、他にあるんですか?」
「はい、オカズ品の売れ残りのパックを剥がして、日付を新しくしてまた売ってるんです」
やれやれ、そういうことか。そんなことはこの業界じゃ珍しくない。
「でも、それは別に構わないと思います。お客を騙してるのかもしれないけれど、
材料が無駄にならないし、売れ残りを全部処分なんか出来ないのは解ります」
石川は顔を上げた。
「でも許せないのは、パックの計量を誤魔化してることです。一割近くも重い値段を
つけているんですよ?」
はあ?計量?
重男と山下は愕然として次の言葉が出なかった。
(23)
重男はパニックになりそうだった。本当なのか?勘違いじゃないだろうな。
しかし、この女どうして解ったんだろ。
「ど、どうしてパックの重さを誤魔化しているってわかったんだい?」声がしわがれた。
「私、料理を作る時、ちゃんと計量しながらやるので、見ただけで大体重さが解るんです。
パックを見たとき、実際の重さより多い重さが記入された値段シールを貼っていたんです」
重男は唸った。
木下店長ならやりかねない。
成増食品は、パック詰めした惣菜を花輪に卸している。
花輪では従業員がそれを一個づつ計量して、値段シールを貼って販売しているのだ。
やろうと思えば成増食品でもそこまで全部できるのだが、木下店長は納入量を正確に
把握するためと称して、花輪に持ち込まれてから計量して値段シールを貼っていた。
そして、その計量する際に、実際の重量より一割程度多い数値が出るように計量器に
細工をして、重量を誤魔化しているのだった。
花輪は、成増食品から入荷した重量より一割程度多い値段をつけて店頭でお客に売る。
その差額は店長である木下の懐に入っているのだろう。
重男や成増食品が数字を誤魔化しているわけではないので、こっちには何の責任も
無いはずだが、そのような細工をスーパーがしているのを知らなかったで済むだろうか。
木下店長は、一割未満の細工ならお客を誤魔化せると踏んだのだろう。
だが、一個あたりの量が少なくても総量となると結構な金額である。
(24)
しかし、この女はたいした目を持っている。高給な肉類なら、消費者もグラム数に目を
光らせるが、100gや200g程度の惣菜でグラム数まで真剣に見る人はいない。
よくも見ただけで重量の誤差に気付いたものだ。
だが重男は言葉に詰まった。
「う、うーん。話はわかった。しかし、このことは僕の方で対処するから、あなたの
方からは問題にしないでくれ。というのも、木下店長の問題であっても、話が公に
なると、成増と花輪の取引全体に影響を及ぼす恐れがある。
花輪としてはお客の信頼を裏切ったんだから、それを卸している会社も世間では
無関係とは見なさないかもそれないし」
山下が割って入った。
「そ、それで石川さんは店長にそのことを言ったんですか?」
「いいえ、こういう世界では良くあることなのかなと思って・・・」
山下は気色ばんで言った。
「あって良いわけが無い。これは業務上横領ですよ。犯罪だ!」
「いや、山下君、確かにそうだが、ここで告発なんかしてみろ。その影響は成増の
屋台骨に響くくらい大きくなるぞ。おれが何とか止めさせるから、しばらく
静観してくれないか」
山下もことの重大さに気付いてきたのか、口を閉じた。
重男は質問を続けた。
「で、花輪を辞めることを店長には言ってきたのかい?」
「いいえ、黙って一昨日から休んでます」
「ええっ。それは不味い。こちらから連絡しないといけないな」
しかし、石川は言う。
「大丈夫だと思います。先日の夕方、事務所でいきなり店長に抱きしめられて、
あたしそれが嫌で逃げて外の倉庫の陰で泣いていたんです」
山下がまた怒り心頭という顔つきになった。
あとで諌めとかないと、こいつ、若いから木下店長に直接文句を言いに行きかねないぞ。
(25)
「そうしたら、よく知っている女性社員の方が声を掛けてくれて、訳を話したら、
それなら私のほうから店長には話をしておくから、もうここには来ない方がいいよって
いってくれたので、それっきり休んでいます」
重男はちょっと驚いた。スーパー花輪では店長の木下の権力は絶対だ。
その人に意見というか、何かいえるような女子社員なんかいるわけがない。
「その人は偉い人なのかな?普通の社員?」
「はい、まだ勤め始めてから、そんなに長くないそうです。私が子連れで離婚したので
境遇が似ているってことで、よく話はしていたんです」
「ふーん、その人も離婚してるんだ」
「ええ、子供さんが二人いて。でもなんか、私と違って堂々としていてすごくしっかりした
雰囲気の人です」
重男はあれ?と思った。
「もしかして、その堂々としてるって人、太ってごっつい感じの人?」
「はい、お相撲さんのように、かなり横幅があります」
あー。やっぱりあいつか・・・。あの陳列棚のところですれ違った。
でも、あんな普通のおばさんが店長に言えるのかな?
きっと今頃は首になってるぞ、これは。
「井桁さん、どうしますこれから・・・」
山下が不安そうに重男に声を掛けた。
問題が複雑で今後どうするかが思いつかないのだ。
それは重男も同様だった。
433 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/25(金) 06:04:33
イイヨイイヨ!!
434 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/25(金) 19:45:14
すごい!
断片が繋がっていく運びは、プロの作家だよ
出張の移動中に暇潰しでみたのだが、続きが気になるぢゃないかー。うずうず。
436 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/25(金) 23:54:28
マジで電車男のよーに、出版とかできそうな・・・
エロなとこを何とかうまいことしたら、映画化とか!
主演女優は「ややぽっちゃり系」じゃないと辛いかもしれないけどww
437 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/26(土) 13:42:32
主演女優やらせてください。
438 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/27(日) 00:14:52
いや、是非私に。
439 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/27(日) 00:27:25
じゃあ、どうぞどうぞ
(26)
うーん、どうしようか。問題が多くて何から手をつけるかなあ。
重男は困ってしまった。
今、ここで解決できることはない。とにかく一旦、時間を置くしかなさそうである。
重男は沙織を見た。
「石川さん。これからどうしますか?ここで仕事を続けられませんか?」
沙織は目を伏せた。
「はい、続けたいのは山々ですが、あの店長のことが気になって、ここでは続けられ
そうもありません」
山下が口を開く。
「でもねえ、石川さん。ここを辞めたからって、すぐに次の仕事が見つかるとは
限りませんよ?あなただって、面接の時に五社くらい断られてきたって言ってたじゃ
ないですか?」
「はい、それは確かに・・・。でも、それは私が仕事を選り好みしたためであって、
接客業は向いていませんが、清掃とか工場の組み立てとかなら何とか・・・」
「しかし、そんなんじゃ時給も低いし、せっかくのあなたの特技も全然生かせない
じゃないですかっ」
山下は次第に詰問調になってきた。泣きそうな表情になる沙織を見て重男は、
「まあ、まあ山下さん。今ここでどこう言っても始まらないよ」と山下を抑えた。
しかし、山下はまだ収まらない様子で、「ここにいれば、誰もあなたの邪魔をしないように
僕が守ってあげられるのに」というと、沙織は一瞬、目を見開いて山下を
見ると、両手で顔を覆った。
あ、あ、こいつ、1人でいい格好しやがって。
そういうのは俺が言ってこそ意味があるんだ。
お前ってホント、石川さんの前でいい格好し過ぎ。
第一、お前がここにいることさえ場違いなんだぞ!
(27)
重男は心の中で山下を罵った。
沙織さんを守るのは上司としての俺の役目だ。
「では、石川さん。どうでしょう、一週間ほど休まれて考えてみてください。
その間の給与はお支払いします。このような状況になったのも、ある意味、
わが社の責任でもありますから。
それで、お気持ちが変わらないのでしたら、退職の方向で考えるということで」
重男は自分なりに考えた最高の妥協案を出した。
石川は重男を感謝を込めるような目で見つめた。
「はい、ありがとうございます。でも、一度醒めた気持ちは変わらないので
これで失礼したいと思います。ご心配ばかりかけて本当に済みませんでした」
今度は、山下が泣きそうな顔になった。
「石川さん・・・。明日からどうするんです?」
「はい、新聞のチラシとか、ハローワークとかあたって仕事を探します。長く休めるほど
余裕はございませんので」
というと、沙織は席を立った。
沙織が部屋を辞去してから、山下は重男に宣言するように言った。
「石川さんをなんとかしてやります。僕が」
「何とかって、おい。どうするんだ」
「仕事を探してやるんです」
重男は苦笑した。
「あのなあ、あの人は、実務経験が何も無いんだぞ?あの年ではいちから接客業なんか
無理だし、特技の調理関係なんて経験者しか雇うところが無いよ」
山下は蔑むような目で重男を見た。
「僕は、あなたのように他人事みたいな顔は出来ないんです」
「ひ、他人事?俺がいつ・・・」
重男が最後まで言い終わらないうちに山下は部屋を出て行った。
(28)
ここはスーパー花輪の二階店長事務所である。
店長の木下は、椅子にふんぞり返って鼻毛を抜いていた。
くっそー。あの女、今日も休みか。一昨日のあれが効きすぎたかなあ。
ちょっと抱きしめたくらいで、なんだ。生娘じゃあるまいし。
子持ちの三十路女が何を気取ってやがる。
今までは若い娘だって、小遣いつかませれば平気で足を開いたってのに。
しかし、もう少し時間を掛けるべきだったかな。
逃した獲物は惜しいというのは本当だな。
それより、心配なのは、成増に戻ってこのことを言わないかだよな。
もし、喋っていたら、むしろこっちが店長婦人の座を狙われて、迫ってこられて
迷惑してたって言いふらすからな。
成増がどちらの言うことを信じるか、ははは。入って間もないパート
社員と、取引二十年の花輪の店長とだ、結果は目に見えてる。
思考を中断させるように、ドアがノックされた。
「失礼します」
誰だ?聞いたことの無い声だ。
「どうぞ。ん?何だ君は。整理ばかりやっている人だよな?」
うわ、でけえ女。側で見ると異様だわ。
「はい、沢野といいます」
「で?何用?ここは店長室だ。むやみにパートふぜいが顔を出すようなところじゃ
ないぞ」
「はい、それは重々承知しております」
「で?用件。早く言え」木下店長は得意の田村正和ばりの髪をかきあげるしぐさを
しながら促した。
「はい、こちらの事務所をお手伝いしておりました、石川さんなんですが」
「あ?石川?・・・あいつがどうしたんだ?」木下はやや緊張した。
(29)
「はい、実は一昨日・・・」
「お、一昨日どうしたんだっ!」
女子従業員は一瞬、ぎょっとしたような顔で木下を見たが、構わず続けた。
「はい、夕方に加工食品の片づけを手伝って貰ったんですが、余りにものんびり
しているので、私が文句を言いました。そうすると、彼女は泣いてしまって、
『あたし、こんな所、もう辞める』といって帰ってしまったんです」
木下は一瞬ポカンとしていたが、気を取り直していった。
「じゃ、じゃあ、石川はお前にそんなことを言われたから、怒って辞めたんだな?」
「はい、私のせいでこんなことになってしまって、申し訳ありません」
女はぺこりと頭を下げた。
木下はもう、いつもの調子に戻ったようだ。
「あのなあ、お前の様なごっつい奴に文句言われたら誰だって辞めちまうぞ?
少しは自分ってものをわきまえろや。鏡で自分の姿を見てから注意しろよ」
女は苦笑しながらまた頭を下げた。
「よし、わかったからもういい。お前は戻れ。それからこのことは他の奴には
言うなよ。その代わり、お前は仕事を続けていいから」
「ありがとうございます」
女はまた頭を下げると、出て行こうとして立ち止まった。
「あの・・・」
「何だまだ何かあるのか?」
いかつい女は制服のポケットから何やら取り出した。
「これ・・・。生肉の計量器に載せてあったんですけど、シールと目方が違うんです」
木下は心臓を掴まれたような気がした。
(30)
手の震えを必死に隠しながら、女従業員からキンピラごぼうのパックを受け取ると
シールを見た。230グラムとある。
「計量器のメーターは200gちょっとしか指して無かったんです。計量器のメーターが
壊れたのかと、牛乳を載せたらぴったりだった・・・」
「解った!きっとおかず担当の計量で手違いがあったんだろ。俺の方で注意しておくから
お前は気にするな。いいな!後は店長の俺が指導することだ!」
「解りました。ではこれで失礼します」
女がドアの外に消えると、木下はキンピラのパックをゴミ箱に叩き込んだ。
くっそー。偶然にしては出来すぎてる。
誰かがばれるようにしてるのか?おかず関係で計量を担当する奴らは特別手当で口を
封じているし、そもそもこんなことを公にして、自分の職を失うような
ことをする奇特な奴はいない。
それとも本当に偶然置かれていたのか?
わからん。
しばらく、計量の誤魔化しを止めるか?いや、いや、せっかくの小遣い稼ぎ
を止める事は無い。
用心しながらやれば大丈夫だろう。
木下は漸く落ち着きを取り戻すことが出来た。
沙織が成増食品を去ってから二週間が過ぎていた。
重男はここ何日も予定外の外歩きで疲れ果てていた。
今日も夕刻に社内に戻って、惣菜部の中を一通り覗いてから、休憩室でコーヒーを
飲んでいた。
(31)
以前は、沙織さんの笑顔を見るのが嬉しくて、外歩きから会社に戻るのが楽しみだったが、
今は深海魚の集団みたいな、おばちゃんの群れしかいないのが残念である。
さっきも、惣菜部の重鎮である山椒魚のおばちゃんに「補充はどうなっているの?」
と声を掛けられて、
「石川さんみたいな美人は二度と来ないよなあ」と力なく答えたが、
「なに言ってるの?根菜類の補充よ!朝言ったでしょう!」
と恥を掻いたところだった。
重男は、やおら、カバンから封筒を取り出して数枚の書類をめくって見た。
二週間にわたる成果が漸く実ったのだ。
「井桁さん!ちょっといいですか?」ふいに声を掛けられた。
山下だ。こいつのちょっとって、ちょっとじゃ済まないことが多いから嫌だな。
「今日ですね、石川さんの家に電話してみたんですよ」
「え?何でお前が?」
重男は、呆れたような目で山下を見た。
「ええ、もう、二週間経ってるんで、仕事先見つかったかなと思って」
「で、どうだって?」
「それが、やっぱり、難しいそうです。経験不問のところは給与も安いし
長続きしそうに無いところばかりだって」
重男はそうだろうな、という表情で相槌を打った。
「30越えていて経験不問なんて、そう簡単にいい仕事あるわけ無いよ」
「無いよって・・・。僕は何とかしてやりたいです・・・」
山下は手に握りこぶしを作って下を向いた。
山下の握りこぶしはスジが浮き上がるほど力が入っている。
(32)
重男は静かに言った。
「実はね、いい話を見つけたんだ」
と言って重男は書類を山下に見せた。
「私立の介護老人ホームなんだけどね。うちが献立の素材だけ加工して降ろしているんだよ。
ここでね、調理・盛り付けの補助が出来る人を内々で募集してるんだ」
山下がびっくりしたように顔を上げた。
「本当っすか?どんな内容なんです。石川さんにできそうですか?」
「まあ、落ち着け。仕事は聞いてきたが、石川さんの能力が充分に生かせる職場だと思う。
それに試用期間中は時給だが、その後は正職員として採用されるということだ」
山下はあっけに取られた表情だったが、すかさずひったくる様に書類を取って目を走らせた。
「その、場所は?ああ、これなら石川さんのところから通勤も可能ですね。
で、見込みはあるんですか?」
「うむ、うちで惣菜の加工・盛り付けが充分勤まったと言ったら、それならいつでも
いいから来てくれと・・・」
「やったー!!井桁さん!やったじゃないですかあ」
山下は、恐らく入社して以来初めて重男を尊敬する眼差しで見た。
山下は意気込んで言う。
「井桁さん。そうと決まったらすぐに石川さんに知らせてあげてください!」
重男は山下を見て言った。
「それは、君がやるんだ」
「は?」
「君がこの職場を見つけてきたんだ。俺は関係ない、いいね」
重男は知っていた。
山下も一生懸命、彼なりに石川のために職探しに奔走していたことを。
「さあ、書類はこれだ。持って行きなさい」
山下は頭を下げて、搾り出すように言うのがやっとだった。
「井桁さん・・・ありがとうございます・・・」
447 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/27(日) 08:21:03
重さん.。゚+.(・∀・)゚+.゚カコイイ!!
この二人ならお互いを大切にして、すごくいい夫婦になれそうだ!
はじめの頃の「初夜」シーンと結び付かなすぎる…
(33)
重男は外回りの中、真夏の暑さに耐えかねて喫茶店に避難した。
係長と言う肩書きではあるが、部下は女子社員数人しかおらず、
実働部隊は1人で賄っているのが常である。
「せめて1人でも男の部下がいればなあ」
仕事を分担できれば、製造部と得意先の往復もかなり減るのだが、
それは利益の薄い中小企業の辛いところ。ギリギリの人数で我慢するしかない。
冷えたアイスコーヒーを口にしながら、ひと時の憩いを過ごす重男で
あったが、ここのところずっと腹の底に残っているもやもやがまた
鎌首を持ち上げてきた。
石川さんの就職の件は、取りあえず解決した。
山下のサポートもあって、問題なく勤務に励んでいるらしい。
つい最近、山下が重男に話したところによると、この前、沙織さんの五歳になる娘さん
とも一緒に逢って食事をしたらしい。
「沙織さんの娘さんか・・・」
娘ともども山下に会うということは、沙織の山下に対する信頼の表れなんだろうな。
山下ならきっと石川さんを幸せに出来るだろう・・・
しかし、あの石川さんが口に出したスーパー花輪の惣菜の計量の誤魔化しは
どうするか・・・
一週間前にスーパー花輪に顔を出した時に、重男は惣菜のパックをを十点ほど買い上げて、
社に戻ってから計量してみたのだ。
そうすると、やはり、全部数%〜10%程度の水増しがなされていた。
(34)
うーむ。たかだか、100gや200g程度の品を10グラム前後浮かせても殆どの人は
気付かないだろうなあ。
しかも、巧妙にシールの数値どうりのパックも混ぜてあるし、全部が全部水増しじゃない
というところも目くらましの一つなんだろう。
しかし、花輪の売り上げはレジの記録に残って集計される。
成増からの請求書とで惣菜の材料売り上げとを比較すれば、入荷した材料より多くの
材料を販売していることは、税理士や花輪の本社経理が監査すればばれてしまうぞ?
考えられることは二重帳簿・・・しかない。
成増から入荷した材料の正式な帳簿と、水増し入荷した架空の帳簿の二種類があるのか?
これはますますもって由々しき事態だ。
俺が知ってしまった以上、黙認すれば万一問題が発覚した時に同罪になる。
俺の性格からして、知りませんでしたなどと言いぬけできないだろう。
それどころか、木下店長の狡猾な人間性はきっと成増と組んでやったと嘘で塗り固めるに
違いなかった。
仮に木下店長だけの問題で終わっても、こんな不正を起こせるような安易なシステムで
取引をしていた成増食品なんか、花輪の本社は今後切って捨てるに違いない。
「どう転んでも逃げ道が無い・・・・」
重男は頭を抱えた。
うちの課長や部長に真相を言うべきか。
俺のような、いち担当者の手に負えることではない。
しかし、彼らとても打つ手に苦慮するのは俺と同じではないか?
スーパー花輪の本社に事情を話したところで、「今まで成増さんとの取引量が多かった
のは、木下がこのような不正を働く見返りとしてではなかったのかね?」
と指摘され、成増一社独占状態の惣菜・生鮮関係を競合他社と分割されるか、
最悪の場合、成増そのものとの取引を解消されるのがオチだ。
(35)
「いっそのこと、木下店長に直談判するか・・・」
これは相手と腹を刺し違えるほどの勇気がいる。
重男は気が重くなるばかりであった。
数日後に重男は外回りのついでにスーパー花輪に寄った。
そこに出向して来ている成増食品の社員に渡す給与明細や書類があったのだ。
丁度昼過ぎでスーパーは平日とはいえ、これからお客も増えてくる時間帯であった。
重男が、建屋の中の社員専用通路を歩いている時、店内から怒鳴り声が聞こえたような
気がした。
「何だ?」
生鮮加工の部屋から店内に顔を出すと、「店長を呼べ!!」
という怒鳴り声がして、小さな人だかりが見えた。
重男が小走りに駆け寄ると、やや背の高いスポーツ刈りの40前後の男と、
髪の毛がだいぶん後退して天頂に残すだけとなった、腹の出た小太りの40台半ばくらいの
オヤジが、レジの女性社員に食って掛かっているところだった。
見ると、惣菜のパックが何点かレジの上に並べられている。
重男の全身に冷たいものが流れるような気がした。
レジの女性はひたすら「申し訳ありません」を繰り返しており、傍らにいるもう1人の
女子社員も「まもなく店長が参りますので」と必死になだめている。
すでにこの騒ぎを絶好の暇つぶしとばかりに、観客、いや買い物客が遠回りに集まり
始めており、成り行きを興味しんしんの目で見守っていた。
漸く、呼ばれた木下店長が人をかき分けかき分け登場した。
「お客様、何か不都合でもございましたでしょうか」
二人組みの男のうち、小さい小太りの男が店長に詰め寄った。
「おう、おう、こりゃ一体なんだ?このオカズはよう、目方誤魔化してるのかよう!」
木下は顔が青ざめた。顔が青ざめたのは重男も同様である。
「は?どういうことでしょうか?」
「これだよこれ。このスパゲッティサラダはよう。5グラムも少ねえじゃねえか!」
(36)
木下はしかし、動揺を見せずに落ち着いて答える。
「はあ、しかし、五g程度の誤差でしたら、機械で盛り付ける以上多少は
一部に間違いがあっても・・・」
「ばかやろう!これ全部機械のせいだって言うのか!」
小男は一喝すると惣菜関係のパックを7つばかり指を差した。
「これ全部10グラム近く足りねえぞ?いんちきだろう!」
その時、スポーツ刈りの背の高い方が口を挟んだ。
「店長さん、うちのヤマさんが言うのは嘘ではないですよ。この計量器で全部
測ってみたんですから」と言って、片手に持っている小さな測りを示した。
周囲の観客からどよめきの声が上がった。
「ええー」「まさかあ」「そんなこと」多種多様のざわめきが起り始めた。
木下店長は顔が赤くなり、「そ、そ、そんな、これは何かの間違いであって・・・」
必死にこの場を凌げる言い訳を考えているのは明白であった。
重男は考えた。
オカズパックの計量は全部が全部水増ししているわけではない。
恐らく、あの二人組はあの小型計量器でオカズコーナーのパックを手当たり次第に計量して
水増し分が大きいパックだけを選んで持って来たに違いない。
とすると、ここの事情を知っている者?
目的は?ゆすりか?
木下は周囲の観客?の手前、ここで問題解決を試みるのは得策ではないと判断したのだろう、
「取りあえず、事情は事務所でお聞きしますので・・・」と場を変えようとした。
しかし、小男は「何でここで説明できないんだ!できない事情でもあるのか!」
と動かなかった。
騒ぎを聞きつけた警備員が「店長、警察を呼びましょうか」と条件反射的に木下に
耳打ちをしたが、木下は「バカ!万引き犯じゃないんだぞ。こちらのお客様は
苦情を申し立てているんだ。わざわざ問題をややこしくする気か」
といなされてしぶしぶ後に下がった。
(37)
しかし、警備員が店長に近づいて耳打ちしているのを見た小男は憤った。
「あー、お前、何?何?俺たちがゆすりやたかりだと思ってるの?
普通の買い物客を何だと思ってるのお?俺たちゃいちユウザアとして説明責任を
要求しているだけだぜえ!」
木下は焦る。何より、目の端に重男の姿を入れたことが拍車を掛けたようだ。
オカズの材料を納入している業者に目方の水増しがばれる。これは問題だ。
木下は「とにかくお話は事務所でお願いしますよ」といって小男の肩に手を掛けて
連れて行こうとしたその時、小男はもんどりうって転がった。
レジ台に体をぶつけ大きな音を立てた。
観客が悲鳴を上げる。「わあ!」「きゃあ!」「やめてええ!」
「うあああ、痛てえ苦しい・・・タケ、タケ、助けてくれ」腹部を押さえて、芋虫の様に
体をくねらせ苦悶表情で身を捩らせる。
背の高い男が駆け寄る「ヤマさんどうしたんだ、大丈夫か、しっかり」体を抱えた。
しゃがみこんで見上げて言う「店長、何も暴力まで振るうこと無いじゃないですか」
木下は青ざめて首をぶるぶる振って否定する。
「そ、そんな。僕は何もしていない。肩に手をかけただけ・・・」
「今、腹を殴ったでしょう。力で我々の声を押さえつけようと言うことですね!」
「い、いや違う・・・」
木下は呆然と言い訳するばかりだ。遠くの方で「救急車!救急車!」という
叫び声も聞こえる。
重男は一部始終を見ているが、木下が小男に力をかけたように見えなかった。
小男はあきらかに演技であろう。
木下が合気道の達人でもない限り、手を触れるか触れないかの状態で男をひっくり
返すことなどできるわけが無い。
(38)
背の高い方の男は小男の上半身を抱え起こし介抱している。
重男もどうしていいかわからない。
店長の木下は、お客に怪我をさせたとなってはもはやただで済む問題でないとばかりに、
完全に気が抜けたようになっている。
その時、「大変申し訳ありません。私が計量器の壊れたのを知らずにシールを
貼ったんです」という声が聞こえた。
その瞬間、小男を介抱していた男は「あっ」と言うなり、小男を放り出して立ち上がった。
小太りの小男はいきなり放り出されて「ゴッ」と頭を床にぶつけ、今度は本当に頭を抱えて
床を転げまわった。
木下はここぞとばかりにチャンスを見逃さなかった。
「何!君か、こんなことを仕出かして!お客様がお怒りだ。お店の信用問題だぞ!」
お詫びの声を出した女子社員が前に進み出た。
あっ!
重男は声が出そうになった。
あの女だ。
以前、すれ違った、あのごつい女。石川さんが話しに出していた女か?
しかし、なぜ?こいつも店長とグルなのか?重男の脳内では疑問が目まぐるしく駆け巡った。
木下は勢いがついたように言った。
「お客様、申し訳ございません。こちらの従業員の不手際でご迷惑をお掛けしまして
今後このようなことは・・・」
(39)
小男に「タケ」と呼ばれた背の高い男が答えた。
「店長、俺たちは因縁つけてるんじゃねえんだよ。こういう誤魔化しが許せないんだよ
どうするんだこのパックはよう」
木下より先に太った女子社員が口を挟んだ。
「はい、私の間違いでしたが、今後、二度と計量の間違いは起こさないとお約束します」
「店長よう。約束するんだな?間違いならしょうがないから俺たちは文句は言わねえよ。
その代わり、これからは時々本当に間違いないか、重さ調べるからな?今度見つけたら、
その場で消費者センターと本社に話を持っていくからな」
木下は青ざめた表情で答える。
「はい、迷惑かけて申し訳ありません。二度とこのようなことの無いよう、
社員に指示を徹底します」
しかし、周囲の観客たちは収まらなかった。
「今日のオカズはどうしてくれるの?」「もう買ったのよ!」「今並んでいる品はどうすんだ?」
店長は止む負えず決断を下した。
「お客様にご迷惑をお掛けしたお詫びに、本日に限り、オカズコーナーは全品半額と
させていただきます!」
周囲の買い物客は歓声をあげてオカズコーナーに殺到した。
残ったのは当事者たちばかりである。
「タケ」は店長に向かって、「じゃあ約束したぜ」というと小男と連れ立って店を出て行った。
さっきまで死にそうに腹を押さえて身をくねらせていた小男は、なぜか平然と歩いている。
太った女子社員はペコリと店長に頭を下げた。
「すみません。出すぎた真似をして。何とか場を収めたかったもので・・・」
しかし、木下店長は憎憎しげに太った女子社員を睨みつけると、
何も言わずに足音も荒々しく事務所へ戻っていった。
(40)
重男はことの成り行きを自分なりに解読してみた。
店長は事務所にあの二人を連れて行き、何がしかの口止め料を払って場を
収めたかったんだろう。
しかし、あの太った社員のせいでみんなの前で計量を守ることを約束させられたから、
二度と誤魔化しが出来なくなった。
でもなあ、あの二人組は強請りじゃないよなあ。強請りならこんなところで騒がずに、最初から
店長に証拠のパックを突きつければ口止め料が貰えるんだし・・・
普通、男が惣菜の目方くらいを気にするか?わざわざ計量器まで手にして?
それに、あの女子社員はなんだって自分が間違いましたなどと言ったんだろう?
あの女が計量の誤魔化しをしていた主犯か?
よく理解できないが、何はともあれ、お惣菜の計量問題が片付いたことは確かだ。
なにはともあれ、重男の肩の重しが一気に取れた気がした。
重男は社に戻るそうそう、スーパー花輪での出来事を総務の山下に伝えた。
「そうですかあ!それは良かったですねえ。これで成増の方も問題なく取引が続けられるし、
目出度しですよー」
「うむ。石川さんにも教えといた方がいいだろうな。しかし、あの太った女はなぜ
ああいうこと言ったのかがちょっと理解できないんだが・・・」
山下も額に皺を寄せて言う。
「そうですねえ。以前に沙織さんに聞いたところでは、商品の並べ替えとか主にやっている
人で、加工品の方はタッチしてないようでしたが・・・」
俺は石川さんと言っているのに、こいつは沙織さんと呼ぶか・・・
上手く行ってるんだな・・・
重男は苦笑しながらコーヒーに手を伸ばした。
杏子カッコイー
しかし近頃ゴツイ女だとか太った社員とか書かれてばかりだから
名前忘れちゃいそうだvv
458 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/29(火) 05:52:20
女ですが、杏子に惚れました…
最近、更新頻度が上がってくれてすごく嬉しいです!
作者さん、これからも頑張ってください!
でも、無理せず、身体壊さないようにね。
459 :
名無しさん@明日があるさ:2006/08/30(水) 19:15:52
うわぁ。
最初からずっと読んじゃいました。
続きが気になる〜。
作者さん、よろしくお願いします。
460 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/01(金) 15:45:46
タケコンビの律儀さが光ってる!杏子もますます冴える!
もう激しくwktkミラクル!!
無料でwebに公開してくださって作者さんありがとう(・∀・)
どこかで出版されて冊子になったら、是非買いたいです。
461 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/06(水) 18:38:51
保守
(41)
木下は事務室に戻ってからも憤懣やるかたなかった。
惣菜関係の計量の水増しがばれてしまい、今後は上澄みをくすねることが
出来なくなってしまった。
しかし、あの二人組の男は何だってあんなところで騒ぐんだ?
こっそり俺に文句を言ってくれれば、それなりの口止め料で収まったかもしれない
のに。
まあ、あのデブ女が出てきたお陰で水増しが計量の間違いで今回だけだった
ということになり、お客たちも納得したしな。
今までずっと水増ししていたという事実がばれないだけでも良しとするしかないか。
だけど、あのデブ女はどうも不気味な感じがする。
前に、俺の前にあのでかい顔を出して「計量が違う」とかいってゴボウのパックを
見せたかと思うと、今日は関係も無いのにしゃしゃり出てきて
「私が間違えました」などと言い出すし。
うーん、訳がわからん。
とにかく、今はしばらくおとなしくするしかない。
それにしても、あの女・・・
木下はちょっと思案すると、電話を取った。
「あー、花輪の木下だが。惣菜課の杉田さんいる?ちょっと呼んで・・・」
事務所で書類の整理をしている重男のところに杉田課長がやってきた。
「イゲさん。花輪の木下さんから連絡があってさあ、うちから花輪にヘルプで出向
している二人を帰すってさ」
重男はちょっと驚いたが、沙織がいなくなって人手が足りないところだったので、
むしろほっとした表情になった。
「ほう、そうですか。まあ向こうも時期的に手が空いてきたんじゃ・・・」
「ところがさあ、向こうの職員を1人付けるからそれも一緒にってことなんだよ」
「はあ?今度は向こうがこっちに1人出向ですか。また人員整理ですか」
(42)
スーパー花輪から成増食品にパート社員を出向させることは珍しくなかった。
しかし、それは要するに人員整理なのだ。
花輪から成増に来ると、賃金が下がる。
最初は花輪から来た社員も我慢するが、給与の目減りは月日が経つごとにボディブロー
のように効いてきて、いずれは退社していくのである。
花輪は余剰人員や店長の気にいらないパート社員を、よくこの方法で追い出していた。
方や、成増から花輪に出向していたパート社員はせっかくいい賃金だったのに、また
元に逆戻りなので不満たらたらである。
「じゃあ明日からその三人が来るから、君が配置・指示するように」
杉田課長はそれだけいうと部屋を出て行った。
元からここにいた二人はともかく、花輪の元社員はどう扱うか。
まあ、長続きしないんだろうから、適当に雑用でも宛がっておくか。
重男はそう決めてまた書類に目を落とした。
翌日、スーパー花輪に出向していたドジョウとヒラメという、重男が密かにつけたあだ名
の二人が出社してきたので、以前に従事していた惣菜の加工部へ配置指示を出した。
しばらくして、事務員に客が来ていると呼ばれたので、重男は事務所に戻ると、
そこにはなんと、あの計量パック騒動の時のデブデブ女が来ていた。
「あっ?」
ということは、花輪から追い出された社員とはこいつのことだったのか?
「え、えーと。あなたが今日からこちらに来られる方ですか?」
「はい、そうです。よろしくお願いします」
デブ女はペコリと頭を下げた。
重男は驚きながらも、「と、とにかく会議室へ。経歴書とかお持ちですよね」
とその女を誘導した。
「えーっと履歴書を拝見。沢野さんですか。はあ、花輪さんには二年お勤めだった
んですねえ。 お子さんが二人と・・・。レジの経験は?生鮮とかは?事務の経験は?・・・」
次々と履歴を聞いていく。
(43)
あまり実用的な経験はなさそうだな。やはり、雑用程度で茶を濁すしかないか。
そして、重男が一番嫌な役回りなのがこの瞬間である。
「で、向こうでお聞きになっているかもしれませんが、うちでの賃金はこのように
なっておりますが、いいですか?」
金額を聞いて相手の女性の顔が曇った。
みんなそうなのだ。花輪から来た社員で、この提示で困った顔をしない人はいなかった。
ここで何年も勤めれば、いずれは加給で花輪に追いつくが、最初はどうしても差がついてしまう。
それはともかく、この女性が育ち盛りを二人も抱えている家族構成からみて、
こんな賃金で生活がやっていけるのかという、何か申し訳ない気持ちが沸き起こっていた。
裕福ならこんなパート仕事なんかしてないだろうし、恐らく生活保護受けているのかも
知れない。
だが、彼女は計量パック水増し問題を解決した功労者なのだ。
成増食品の危機を救ってくれたといっても過言ではない。
何とかしてやりたいが、重男みたいなぺいぺい社員には如何ともしがたかった。
「もしもし、もしもし」
「あ、はいはい」沢野の声で重男は我に返った。
「この条件で構いません。よろしくお願いします」
沢野という女性がにっこりと笑ってペコリと頭を下げた。
「そうですか。うちも細い商売してるもので、みんなこれでお願いしてるんですよ。
今後とも頑張ってください」
重男も頭を下げた。きっと長続きはしないだろうなと思いながら。
(44)
「で・・・、ちょっとお聞きしたいんですが」
重男は気になっていたことをこの際、聞いてみた。
「以前、向こうで世話になっていた石川さんご存知でしょう?あの方を
助けていただいて、お礼を申し上げます」
沢野は思い出したように、目を細めた。
「ああ、石川さんね。ちょっと店長に苛められてたみたいだったから。
あの店長は美人にはすぐに手を出すから。石川さんのためにも良くないところでしたし」
「それで、あの。えーと、ついでにちょっとお聞きしたいのですが、あなたは本当に
オカズのパックの計量を間違えてシールを貼ったのですか?」
沢野はぎょっとした顔をしたが、すぐに答えた。
「とんでもない。今まであそこの計量が水増ししてたなんて、石川さんに言われるまで
知らなかったくらいですよ。あれはね、お芝居なんです」
「というと?」
「石川さんがあそこを辞めるときに、店長が嫌らしいのはまだしも、オカズ品の
水増しが公になったら大変なことになるというので、私が止めさせるからと約束したんです」
重男は言葉が出なかった。
この女は何か、男以上に仁義というかそういうものを大事にする人だ
という印象を受けたのだ。
「まさか直接、店長に言うわけにも行かないし、匿名の手紙とかも考えたりしたんですけど、
店長をちょっと懲らしめてやりたいなと思いまして」
沢野はちょっとお茶に口をつけて続けた。
「私の古くからの知り合いの男の人たちに訳を話して、芝居を打ったんですよ。
あれで、店長は二度と計量の水増しなどという誤魔化しは出来なくなったでしょう?」
うーむ。確かに。
重男は黙って頷くしかなかった。
466 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/06(水) 23:42:45
待ってました!!
(45)
重男は沢野を伴って、惣菜の加工所へと向かった。
顔役?のオオサンショウウオのおばさんに紹介するためだ。
サンショウウオは例によってガバリと口を開けて「ここもコロコロ人が入れ替わるね」
と言ったが、それほど期待してない様子であった。
とりあえずは、見習い程度から始めてもらうしかなかった。
いつまで続くか解らないが・・・
秋も深まり、冬の足音が聞こえてくるある日、重男が工場の側を通りがかった時に、
正門の近くで沢野が高校生くらいの女の子と立ち話をしているのを見かけた。
あれ?だれだろう。可愛いな。沢野さんの娘さんか?
しかし、彼女は34歳くらいだと思ったが・・・
事務所で沢野の履歴書を見ると確かに高校一年の子供がいた。
あの女性は成人するかいなやで子供を産んでるのか?
それにしては・・・・似てない。
母親があれなら、娘もデブでなければバランスがとれないではないか。
なぜに、娘はあんなにスタイルがいいんだろ。しかも目がくっきりして美人だ。
まあ、人の家庭だ。俺がどうこういう権利は無いしな。
と、思いつつも、あんなに可愛い娘がいたら父親はどんなに誇らしいだろうなあ。
と羨ましく思うのであった。
(46)
それから数日後、惣菜のサンショウウオが重男のところにやってきた。
「係長、花輪から来た惣菜の新人なんですけど、年明けには辞めるかもしれない
っていってるんですけど」
重男はやはり来たかと思ったものの、なぜか、沢野に関してはもっと長続き
するんじゃないかという予感もあっただけに、ちょっと意外であった。
「もう慣れたころかと思ったけど、やはりここの賃金じゃ無理だったかな」
「いえ、そうじゃないんですよ」
サンショウウオは真面目な顔つきで言った。
「下の娘さんが春休みに手術するんで、二月からその準備とかで仕事する
余裕がないんだって」
重男は驚いた。
「手術ー?下の子っていくつ?何の手術?」
「娘さんは小学校六年だって。心臓が悪いらしいですよ」
「心臓?心臓・・・」
重男は驚くばかりであった。
昭和の世代の重男にとって、心臓の手術と聞けばもうそれは大変な病という印象しか
なかった。
しかも、小学生の子供なのだ。沢野の心労が思いやられた。
「中学に入る前に治したいから春休み前にする・・・」
重野の耳にはサンショウウオの声が入らなかった。
離婚して女手一つで子供を育てて、その上、子供が重病の心臓病か・・・
心臓の手術なんていったら途方も無い費用も掛かるに違いない。
ほら、よく新聞なんかで見かける大手術の費用を工面するための何とかチャン基金とか
あるくらいだし。
こんなパートの収入なんか焼け石に水だよなあ。
本筋とは関係ないが、出向・パートの賃金の上下がデリケートな問題というのが興味深ったりする byおさん
まるで現場にいるような描写
というか、今まで惣菜コーナー裏においでではありませんか?
それくらいすごい。杏子が本当にいてくれたらなあ・・・
きゃー!!
待ってました。
(47)
「係長、もう少し早くなりません?カーチカーチじゃなくて、カチカチくらいに」
「うん、やってるんだけど指がどうもね」
重男は済まなさそうに事務員の園田に言った。
昼休みの少し前に、重男は事務の園田専用のパソコンの前に座っていた。
重男はパソコンの使い方を殆ど知らず、総務の園田に頼み込んで使い方を教わっているのだ。
「あの、ちょっと調べたいことがあってね。今のパソコンってインターネットとかいうので
辞書代わりに何でも調べられるって言うらしいから・・・ちょっと使い方だけ・・・」
事務員でも古参に入る三十路前の園田は不機嫌そうな目を向けながらも、
一応は管理職である重男の頼みに渋々付き合っていた。
画面の立ち上げ・終了くらいは良かったが、そもそもダブルクリック自体が
重男にとっては難しかった。
中年以降の男性にとって、マウスのダブルクリックはパソコン道への最初の関門である。
これができるか如何によって、このまま一生パソコンと決別するか、
システムエンジニアへスキルアップするかくらいの難関なのだ。
「じゃあ、クリック速度の設定を遅くしますから」
園田は重男からひったくる様に荒々しくマウスを手にすると、画面のメニューから
次々と操作して設定を変えた。
重男は恐る恐るマウスを手にすると、今度は出来た。
「ありがとう、できるよ。これで調べる時はどこを?」
「この画面の、この四角にカーソルを持ってきて・・・。そう、そこでクリック。
そして文字をいれて。半角キーを押してから!そこじゃない、左の上!
左って画面じゃなくてキーボードの左上!」
(48)
一周り以上年下の事務員に怒られながらも、何とか「えきすぷろーら」で調べられる
ところまで来た。
「じゃあ、私は食事に行って来ますから。ごゆっくり調べ物してください」
やっと山姥が消えた。
いくら俺がパソコンアレルギーだからって、あの言い方はないよな。
あーやだやだ。あんなにヒステリーだから三十路で男が出来ないんだよ。
俺も人のことは言えないが・・・・
「さてと・・・」
画面にキーを打ち込もうとして、重男の頭にちょっと別のことが浮かんだ。
そう言えば経理の山崎が前にあれが凄いといっていたな。
ちょっとだけ、ならいいだろう。どんなものか見るだけだ。
重男は四角います目に「えっちがぞう」と打ち込んで変換した。
「エッチ画像」という文字に変わり、リターンしてみた。
「おわ。凄い種類があるんだな」
どれどれ、無修正・・・ふーん。これなんかどうだろ。
「うわ、凄い」
画面に色とりどりの画像が現れては消え現れては消えた。
無修正って・・・。うわー、いいのか?これ。毛まで丸見えだよ。
みんな凄い体してるなあ。
これは、おっと、これも。乳首がこんなんありかあ。
えー、何々?あなたは十八歳未満ですか?、圧倒的に十八以上だよーん。
エンターだ!
(49)
重男が美女の群れを次々に眺めていると、なぜか急に画面のカーソルが
動かなくなった。
マウスをどう動かしても動かない。キーボードのあちこちを押しても画面は
固定したように変わらなくなった。
そう言えば、画面のあちこちでさっきまで点滅していた画像も点滅してない。
重男の背筋に冷や汗が流れるような気がした。
「どうする?これ、どうしたらいいんだ?こんな映像のままじゃ・・・」
パソコンのスイッチを切るか?
しかし、重男は園田にくどいほど言われたことを思い出した。
「パソコンを終わるときは、画面の終了ボタンから終了してください。
絶対に本体のスイッチを切らないように。それ間違えるとシステムが壊れて
最悪の場合はインストール・・・」
「はーどでぃすく」だの「くらっしゅ」だの言われても全く意味がわからない。
あれだけ言われているのにスイッチを切ったりしたら。
そもそも、これは園田専用のパソコンなのだ。俺のなら壊れてもいいが、あいつのを
壊したら・・・
というか、すでに壊れているんじゃないのか?画面がうんともすんともいわないし。
重男は進退窮まった。
もうすぐ園田が戻ってくる。肝心の調べ物どころか、こんな画面を見ているのが
ばれたら、もう一生、園田に頭が上がらないだろう。
重男はモニター画面のスイッチを切った。
画面は消えたがパソコンは入ったままだ。
もはや、小学生がいたずらを先生に見つかって怒られる心境と変わらなかった。
(50)
「調べ物は済んだんですか?」
いつの間にか、山姥、いや園田が背後に来ていた。
「あ、いや、画面がね・・・。動かなくなったんで・・・」
「固まった?フリーズしちゃったの?一度に色んな画面を見ようとするとそういうことが
起きるのよ。あれ?パソコン切ったの?」
「い、いや、画面だけ」
重男は恐る恐るモニターのスイッチを入れた。
浮かび上がった画面を見て、園田は息を呑んだ。
「調べものってこれですか?」
重男は最早必死である。額に汗が滲んできた。
「い、いや。違う違うんだ。これはちょっと、その前にって見ただけで
これは関係ないんだよ。ごめん、余計なことして、悪かった」
「ちょっとどいてください」
園田は冷たく言い放つと、重男と席を代わり、キーを操作し始めた。
結局、パソコンのどこかの部分のボタンを押すとパソコンは「ピー」と音を
立てて画面が暗くなり、それから低い唸り音を立てながら動き出した。
「人のパソコンでこんなことして面白いですか?」
重男は返事が出来なかった。
「結局、何を調べようとしてたんですか?」
「うむ・・・。知人の子供が心臓病だっていうからちょっと病気のことをね・・・」
園田は振り向いた。
(51)
「なんていう病名ですか?」
「いや・・・。まだそこまでは。それで心臓関係の病気がどんなものか・・・。
でも、もういいや。帰りに本屋にでも寄って本で調べるから。
俺にはこういう機械は扱いが難しいからね」
重男は諦めるしかなかった。
事務員のパソコンでエロ画像を見ていたなどというのでは、とんだ大恥である。
重男は午後は外回りであった。
社内にいて気まずい思いをするよりは、外に出る方が気が紛れた。
「山姥の奴、他の社員にばらしてるかなあ。女はこういう噂を広めるのって
音速より早いからな。惣菜や生鮮の方にもエロ係長という噂が・・・」
想像するのも嫌だった。
重男が夕方遅く外回りから惣菜の事務室に戻って見ると、自分の机の上に茶封筒が置いてあった。
中身を出してみると、A4判に印刷された分厚い紙の束である。
見ると、どれもこれもいろいろな心臓病に関する内容であり、数十枚はあった。
園田がネットで検索して印刷してくれたのに違いなかった。
「あいつ・・・」
重男は、もう園田のことを山姥と呼ぶのは止めようと誓ったのだった。
477 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/08(金) 01:46:03
約2名を除いて、みんないい人だーーーーーー。・゚・(ノ∀`)・゚・。
ω`)ドキドキハラハラもするけど、ホントに癒される文章だね・・・
園田さん、いい人だ。・゚・(ノ∀`)・゚・。
480 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/08(金) 12:57:20
連載に向いてるよね。
しかし、だれかまとめサイト作ってくれないかなぁ…
俺?
ダメダメ、ダブルクリックもできないし、パソコン教えてくれた事務員のパソコンでエロ画像見てて怒られたくらいだから。
他人のパソコンでエロ画像見てフリーズって。
私の隣の席の48歳独身オヤジがまんまやらかしたことじゃねーかーwww
(52)
重男は園田から貰った心臓病のファイルを自宅で読み返してみた。
しかし、そもそも病名がわからないのでは全くの手探り状態である。
全ての病名や症例を諳んじても意味がない。
解ったのは、心臓病の治療と言うのが重男の想像より遥かに進歩している
ということだった。
半世紀前まで治療できなかった症例でも、現在では手術によっては数週間で退院できる
のである。
しかしそれにしても小学生の子供に手術をするというのが痛々しい。
「治りやすい病気だといいんだがなあ・・・」
重男はつぶやくのみであった。
十二月に入ってから、食品加工の品が多く出るようになり、職場は残業が通常となってきた。
当然、パートの連中も社員と同じように残業に励む者も出てくる。
安い賃金だけにこういう時期が稼ぎ時なのだ。
重男が外注先から戻ってきた時、工場の出入り口にランドセルを背負った小学生の
女の子が立っているのを見た。
門の側を通りかかった時、重男はふと、その女の子が気になって声を掛けた。
「君、だれか待ってるの?」
女の子ははっきりした声で返事をした。
「はい、母とここで待ち合わせをしてるんです」
ふーん、うちの職場のママさんの子か。
主婦が多い職場だけに、子供が迎えに来たり待ち合わせたりすることは珍しくない。
しかし、どこかで見たような・・・。あっ、あの子に似てる!
以前、やはりここでパートの沢野が高校生くらいの女の子、つまり娘と立ち話していたが、
その子に雰囲気が似ている。
ということは、この子が沢野の下の娘か?
(53)
「君・・・、もしかしてさわ・・・」
「あー、理恵、来てたの。ありがとう」
沢野だった。
沢野は重男をちらりと見ると、小さな手提げに入った包みを子供に手渡した。
女の子はそれを手早く自分の手提げカバンに入れ、
「じゃあ、お母さん、帰るねー。早く帰ってきてねー」と返事を返し、
笑顔で手を振ると駆け出していった。
重男は思わず、沢野に向かって
「あ、いいんですか?走ったりして」
「はあ?」
「だって、心臓が悪い・・・」
「え?どうして係長さんが理恵の病気のこと知ってるんですか?」
沢野の顔に警戒心が浮かんだ。
重男は自分の間抜けさを呪った。いつもこうなのだ。
「いや、あの、あなたが娘さんの病気でのために今度辞めるかもしれないと・・・」
沢野の顔に今度は驚きが加わった。
「え?どうして私が辞めるって知ってるんです?まだ係長にはお話してないのに」
重男は力が抜けた。口を開けば開くほど泥沼に陥る。
こういう間抜けさは昔から俺の特徴なんだよなあ。
「いえ、ちょっと小耳に挟んだもので・・・」
「そうですか。辞めることはいずれお話しようと思っていたんです」
「あの、それで娘さんはどんなご病気なんですか?」
沢野はすぐには答えなかった。
(54)
職場の上司とはいえ、家庭内の事情まで話す必要があるのだろうか、という思案を
しているようである。
重男は思い切って言ってみた。
「僕の知り合いにも心臓を患った人がいたので、ちょっと他人事とは思えなくてね」
沢野は、そうですかとつぶやくと、
「心臓といっても大したこと無いんですよ。心房中隔欠損といって生まれつきなんですけど」
重男はすかさず自分の脳内にあるデータファイルをめくった。
そこで、うろ覚えではあるが心房中隔欠損症という病名がさほど重い病気ではないことを
思い出し、少し安心した。
ちょっとは、心臓に知識があることを言って安心させるかな。
「それでさっきは走っても大丈夫だったんですね。この病気なら日常は普通の子と変わらない
らしいし」
「こういう病気をご存知なんですか?お医者さんも絶対に治せるからといってるので
私も不安はないんですけど・・・」
「お医者さんがいうのなら絶対に大丈夫ですよ。今の医学は進歩が著しいですからね」
重男はさらに沢野を安心させるような口ぶりで答えた。。
そして、重男は以前から気になっていた核心をこの際、突いてみた。
「あの、ところで、こういう病気ってかなり費用が掛かるんじゃないんですか?
会社としてもできるだけあなたに負担が生じないよう、支えになりたいと
思うのですが・・・」
だが、沢野は笑顔になり首を振った。
「いえ、それでしたらご心配いりません。子供のこういう生まれつきの病気は
自治体の扶助がでるので治療費は一切掛からないんですよ」
重男は拍子抜けがした。
(55)
え?そうなの?何百万も費用が掛かるんじゃないの?
何かずっと気に病んで損した気分だなあ、俺。
沢野は「じゃあ失礼します」というと加工場へと戻っていった。
やれやれ、俺の思い過ごしか・・・
病気も重症ではないようだし、そんなに他人の俺が心配することでもなかったのかな。
さっき、沢野が理恵とかいう子供に渡していた物が何であるかは解っている。
重男の会社はオカズを主にした食品の加工会社なので、余分なオカズを社員たちが
持って帰ってもいいことになっていた。だから主婦・独身を問わず、パート社員たちは
みんな夜の食卓に並べるべく、退社時にはその日の分を持ち帰るのだ。
この特典は食品会社ならではの物であり、賃金が安くてもこれで生活費の元が取れるし、
また、これが魅力で長期に仕事を続けている人も多い。
重男も独身ゆえ食事のためによく持ち帰っていた。
恐らく、沢野は最近残業が多いため、子供にオカズを持ち帰らせて先に夕食を
食べさせているのだろう。
女の子の姉妹だから自分たちで夕食は作れるのだろうし。
(56)
しかし、治療費が掛からないとはいってもそれは病気に関してであって、育ち盛りの
娘二人を育てるには経済的にも厳しいだろうなと想像された。
さっき、沢野を見たとき気付いたのだが、沢野は作業用の白い前掛けの下の服は
袖が擦り切れているくらい着古した薄い服であった。
他の主婦たちは季節ごとに服装はころころ替えてくるのに・・・
あの体型だから服も特注で割高になるんだろうな。
子供はこざっぱりした服装で全然みすぼらしくなかった。
自分の分を削ってでも、子供には惨めな思いをさせないよう気に掛けているんだろう。
そう想像すると、何の力にもなってあげられない自分がいかにも無能に思えて
腹立たしかった。
「けっ。所詮は赤の他人なんだからな」
理恵とかいう子供の、屈託の無い笑顔を思い浮かべながら、重男は本館へと戻っていった。
しーげーお〜 杏子達が気になりだしたしーげーお〜(・∀・)アアンモウジレッタイ
488 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/09(土) 17:32:05
いい話に展開していけばいくほど、最初の頃のキャラへどう繋げるのかが心配に(*´д`;)
(57)
クリスマスも近い年末の慌しい季節。
街中は忘年会でどこも賑わっていたが、重男は今日も真っ直ぐうら寂しい
自宅に戻ってきた。
1人暮らしゆえ、万年アパート暮らしである。
パチンコ・競馬などの金の掛かる趣味も無い。
飲み屋三昧するほど酒も余り好きでない。というより飲み仲間などいないのだが。
それゆえか、真面目に20年以上勤めた集大成としての貯金は、中古のマンションが
購入できるくらいまでは貯まっていた。
この前、正門で沢野に向かって「会社の方でできるだけ力になる」などと言ったのは
でまかせである。
中小企業の成増食品が、病気とはいえ個人の事情に援助などするわけが無い。
重男はこっそり自腹を切ってでも、沢野の子供のために力になりたいと思っていた。
使い道の無いお金を貯め込んでいるよりお金が生きるだろう。
そう思っただけなのだ。
年末年始はどこの神社にお参りしよかうかな。
テレビを観ながらそう考えていると、電話が鳴った。
「もしもしー、重男ー?」千葉にいる母親からだ。
「ああ、俺、何じゃあね?」
「ああ、あのねー、今度の25日にこっちに出てこんか?どうしても話したい
ことがあるんじゃて」
「話って?電話でできないんか?」
「それがねどうしてもな、来てもらわんとな、いけんでな」
要領を得ないが、おおよそ想像はつく。
「じゃあ、行くさ。昼頃で良いか?」
「んだ、んだ、よかっぺ。じゃあ待っとるべ」
(58)
ふう。
千葉の両親が、またどっかから見合いの相手を探して来たに違いない。
今までにも年に一回あるかないかの間隔で、地元の女性と見合いをさせられた。
もっとも、重男が40代に突入するとその回数は激減したが、母親の電話での口ぶりは
過去の経験からして間違いないだろう。
千葉の田舎に住む両親が、重男の見合い相手を探してくれることは感謝しているが、
正直な話、重男は期待してなかった。
自分の結婚相手くらい自分で探すなどと大見得を切るわけではないが、
両親の持ってくる話で碌な相手がいた試しがない。
やけに年が若い娘だなと思うと、アマゾンの奥地から連れてきたのではないかと
思うような醜女だったりするし、明らかに人類から逸脱しているような女性の
話が多かった。
重男もテナガザルもどきなのだから人のことは言えないが、それでも猿は一応、
類人猿なのだ。
普通の容姿・年齢でも、×2女性でそれぞれの夫の子供を抱えているとか、
夫が自殺した年上の後家さんとか、病気の両親を抱えているのでそのまま養子に入って
くれとか、碌な話はなかった。
どれもこれも「かなりの訳あり」なのだ。
自分でも身の程をわきまえているから、「普通の」話が舞い込むなどとは
夢にも思わないが、それにしても両親ももう少し配慮が欲しい。
自分の息子にそんなものを宛がってまで結婚して欲しいのだろうか。
ともあれ、気の乗らない重男はクリスマスの日の午前中に、東京から千葉方面へ向かう
内房線の特急に乗った。
(59)
夕べはクリスマスイブで社内も活気だっていたな。
パートや社員の主婦たちはもとより、家族持ちの男性社員たちも定刻後はいそいそと
家路に向かったし、みんな家族団らんでクリスマスケーキとか囲んだんだろうなあ。
そういえば、山下の奴、大きな包みを抱えていたな。
きっと沙織の娘へのプレゼントを持っていったんだろう。
山下と沙織の家族団欒を思い浮かべたが、重男は別に羨ましいとも思わなかった。
沙織のような一級の美人と所帯なんか持とうものなら、重男は家では緊張の連続
であろう。
重男みたいに美人に慣れない男は、自分の一挙一動に気を遣うことになる。
美人の奥さんの前では、鼻をほじくることもできないし、屁をひることもできない。
重男にとっての理想の家庭は、くつろげる場所なのである。
テレビを観ながらそのまま涎を垂らして寝てしまっても、そっと布団を掛けてくれる
ようなのんびりした家庭の方が肌に合う。
そんなことをつらつら考えていると、ふと、下腹部に差込が来た。
「む、今朝は早かったからトイレに行ってないし、今頃おはようさんかな?」
前夜に1人クリスマスイブなので刺身とか日本酒で贅沢三昧したのがいけなかったのか?
特急電車は千葉を過ぎて木更津に向かっている。
まあ、時間はあるし、トイレにでも行ってくるかな。
重男は連結にある列車のトイレに向かった。
だが、トイレは使用中である。
重男は座席に戻って新聞をまた読み始めたが、下腹部のうねりは次第に大きくなってくる。
「列車の名前は『さざなみ』なんだけど俺のお腹は大波だな・・・」
次第にいらいらしてきた。
車内の連結についている「トイレ使用中」ランプがずっと付きっ放しなのだ。
(60)
いったいいつまでクソをたれてるんだ?
他人の都合も考えろ!
俺のお腹も限界に近いんだぞ。
重男は一瞬、木更津で降りて駅のトイレに行くことも考えたが、指定席券が無駄になるのと、
次の列車では昼に間に合わないことを考えると、それも躊躇せざる負えなかった。
それよりも、長クソを垂れている奴のせいで自分の都合が左右されることの方が
腹立たしい。
列車は木更津を発車し、浜金谷へと向かう。
重男はトイレに向かった。
トイレは依然、使用中である。
扉をトントンと叩く。
中からトントンと返って来た。
人がいるのか・・・・
「まだ掛かりそうですか?」
「・・・・」返事が無い。
「あの・・・」重男が続けようとすると、
「うるさい!!!」中から怒鳴られた。
こいつ・・・
中からの怒鳴り声にびっくりして、思わず重男は脱糞するところであった。
やばい・・・冷や汗が全身に湧いてくる。
緊急事態である。
今日、見合いをするかもしれないというのに、ウンコを漏らして行けるわけが無い。
45歳にもなる息子がウンコの匂いをぷんぷんさせて、両親に「久しぶりー」などと
言ったら両親はどう思うか。
必死の思いで壁に手をつき、ウンコの進行を食い留めた。
もう漏れそう、これはやばい。
(61)
べ、別の車両へ・・・
重男は内股で肛門の力を緩めないように、最大限の気を配りながらそろりそろりと
後方の車両へ向かった。
神よ、神よ、ご先祖様、お助け下さい。
重男は最大の危機に直面しております。
重男の過去の罪をどうかお許し下さい。
時折、電車の揺れによろめき、最早これまで、己の人生も終わったかと思われたが、
三両目のトイレが空いているのが見つかった時は、重男にはトイレの扉に後光が
差しているかのごとく思えた。
すっきりしたところで座席に戻ってみると、まだ連結のトイレは使用中ランプが点灯している。
重男はトイレのところに行って、連結のドアを閉めた。
トイレの前に行くと「まだですかー?」ドンドンと戸を叩く。
途端に中から、「うるせえ!!」と怒鳴ってきた。
まださっきの男だな。
ようし。
重男は渾身の力でドアを何度もガンガン足蹴りして、
「いつまで垂れてるんだこのクソ垂れ!!」と怒鳴った。
そして「一生そこから出るなボケ!!」と捨て台詞をするとすばやく車内の自分の座席に戻って、
新聞を読む振りをした。
案の定、連結のトイレから出てきたのであろう、目を血ばらせた厳ついおっさんが
車両のドアを荒々しく開けて出てきた。
「誰だ?トイレを蹴ったのは!?」
大声で怒鳴る。
男は肉体労働者なのだろう、筋肉が隆々としている。
車内の乗客は一瞬びっくりするが、男の荒々しい雰囲気に全員目を伏せた。
重男も当然、無関心を装って、新聞に目を通す振りをした。
(62)
こんなのと関わったら命がいくつあっても足りない。
千葉の半島は気性の荒いのが多いのだ。
重男は新聞で顔を隠していたが、そっと新聞の外を覗いてみると、一瞬総毛だった。
通路にその男が立って重男を睨んでいた。
「おめえじゃねえか?さっきトイレ蹴飛ばしたの?」
重男は精一杯平静を装って答える。
「い、いえ、僕はずっと新聞見てましたから知りません」
男は諦めたように離れたが、今度は他の男性に噛み付いていた。
余程頭に来たんだな。
ウンコの邪魔をされることくらい嫌な物はないし。
だけどお前は占領しすぎなんだよ。
俺が漏らしてもお前が責任とってくれないだろ。
列車は浜金谷駅に着いた。
トイレを蹴飛ばした相手が見つからなかった男は、腹立ち紛れに車内のドアを
蹴飛ばすと降りていった。
やれやれ、助かった。それにしてもあの男、ざまあみろだったな。
重男が窓からホームを見ると、電車を降りた男はホームの階段を出口に向かって上っていった。
次の駅は館山である。間もなく発車するだろう。
もう二度とこの男と会うこともあるまい。
男が二階の通路から線路を隔てた向こうのホームの改札前に下りてきた。
まだ悔しいのか、こっちの列車を睨んでいる。
(63)
その時、重男はちょっと悪ふざけをした。
男が向こうから重男の方を睨んだ時、重男は男に向かって大きく口を開け、
「ばーか、ばーか」と口真似をしたのである。
挙句にアッカンベーと舌を出して見せた。ついでに指でファックユーの真似もした。
いくらアホでもこれは通じる。
ホームの向こうの男は一瞬立ち止まって、あっけに取られた表情になったが、
トイレを蹴飛ばした相手が判ったことも相まって、鬼の形相になったかと思うと、
仕返しのために列車に戻るべく、猛然とホームの階段を上っていった。
「ははは、もう俺を捕まえようたって無理だよ」
特急列車はもう出発する、間に合うわけが無い。
しかし、何か胸騒ぎがした。重男の本能が危険信号を出している。
さっきから全然電車の発車のベルが鳴ってないよ?
次の瞬間、真っ青になった重男は脱兎のごとく車内を走り始めた。
しまったっ。この駅から先は単線なので、上りの電車が来ないとここから先は特急と言えど
動かないんだっ!
(64)
ローカル線ということをすっかり忘れていた。
あの男に捕まったら口げんかでは済まない。
お見合いの日に顔中青あざだらけで行けるか?
47歳にもなる息子が顔中青あざになって歯が折れて、親に「久しぶりー」なんて言えない。
重男は車掌に助けを呼ぼうかとも思ったがそんな悠長な時間は無かった。
空いているトイレに駆け込むと荒々しく戸を閉めた。
猛獣から逃げ延びれた・・・・
外の通路を荒々しく駆けていく男の足音が聞こえた。
男もまさか、このまま電車に乗って館山までは付いて来ないだろう。
発車するまでの辛抱だ。
やがて、上りの電車が到着し、列車の発車するベルが鳴り、
漸く特急さざなみ号は動き出したのである。
特急電車は漸く昼前に終点の千倉に着いた。
ここからはバスなのだが。
時間を知らせといたためか、兄の伸一が車で迎えに来ていた。
「やあ、久しぶり」
「ああ、母ちゃんたち元気じゃろか」
「元気、元気、みんな病気もせんでよ」
よくある兄弟の会話を楽しみながら、重男は実家へと向かった。
しげお、見合い前にこのおはようさん騒動。GJ!
さりげなくうんこ漏らしネタを盛り込んでくるところがスゴイ(・∀・)!
499 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/11(月) 05:53:19
親が病気なのは「普通じゃない」のか……。
子供の心臓病のことは妙に親切ぶるくせに、
結婚相手の親の病気は「マイナス」と捕えるなんて最悪。
感じ悪い。
500 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/11(月) 06:38:08
親が病気なのは仕方がない。けど、
「親が病気だから婿さん(嫁さん)募集してます」
って親の病気を結婚したい理由にするのがおかしいだろ。
501 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/11(月) 11:39:49
なら、病気の親がいるから養子に入ってくれ、とか訳のわかんないことを書いてる作者が最悪。
502 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/11(月) 12:06:24
>>501 訳の分かんないことを言ってるのはおま(
作者さんを責めなさんな〜
社会の泥を赤裸々に書いていてとても潔いと思う。
ぶっちゃけ、深層心理ではそのとおりに思っている人間はマジで存在するぞ?
口に出して言わないだけだ。
そんな目に合うことを想像できない方だったなら、あなたの幸運を心から賞賛する。
嫌味でなく、恵まれた環境に育ったことを本当にうらやましく思う。
結婚相手に病気の親の面倒を見てもらう気マンマンだったらそりゃ碌なもんじゃないと
思われてもしょうがないわな。
で実際お見合い市場にはそんなのもいるけど、やっぱ敬遠されてるよ。
505 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/11(月) 17:22:57
結婚した相手、もしくは結婚したい相手の親が既に病気とかなら話は別だが、
初対面のお見合いの相手親がもしそういう状況だったら
やはり勘弁して欲しいと思うのは、まぁ自然な感情じゃないのかね〜・・。
だらだら物語を読むだけでなく、たまにはこういう議論もいいんじゃないか?
ここは「愛のシルエット」専用スレじゃないんだし。
>>499さんも一つの問題提起をしてくれたという見方も出来る。
俺も気持ちはわかるよ。自分に病弱の両親がいて、それを禄でもない条件だと言われたら
気分悪いしね。
でも世間は善意で生きる人ばかりじゃない。
善人である反面、エゴイズムの側面も持ち合わせているわけだ。
確かに、相手の条件がどうであろうと、結婚に積極的になるという生き方もあるけど、
そんなに強くなれない人もいるんだよ。
作者氏個人の意見と登場人物の語りを区別できん人がおる。
509 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/11(月) 23:11:28
>>508 全くだ!!
作者さんは今までのまま、オリジナルを貫き通してくださいね!
>>506 たしかに「愛のシルエット」専用スレじゃない罠。
これが始まってから、他の作者が降臨しなくなってる。
それはそれでどうかと思うが。
長編はいいが、元のモラシーネタから遠ざかって
ダラダラ続けるのもどうかな。
愛のシルエットさん・・・
万が一板&スレ移動になったとしても、ついていきます!
生活板時代から追っかけてますよ(・∀・)
生活板出身だったのか?
513 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/12(火) 09:36:49
514 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/12(火) 21:53:45
最初から読み直してみると、初めの頃と比べて矛盾点が山ほどあるな。
物語の整合性という点では所詮は素人の域をでない。
515 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/12(火) 22:24:22
妙に細かい業界内の話を入れる割につじつまがあわないってwww
516 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/12(火) 22:59:31
それでもこの話は好きだ
518 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/12(火) 23:52:54
うん。自分もかなり好きだ。
519 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 03:46:12
美人がいたりブスがいたり、イケメンガいたりブ男がいたり、登場人物のキャラクターに
魅力?があるのかな。細かい設定のミスは置いといて。
骨子は人間関係の表現だと思うがどうだろう。
520 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 05:58:52
俺はもうイラネ
作者のマスターベーションに付き合うの秋田。
生活板に帰れよ。
521 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 06:09:53
で、お前はなんでここにいるの?
522 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 06:16:37
>>520が新しい話題か話を提供するべきだと思う。
自分の言葉に責任を持てよ。貶すだけなら俺でも出来る。
523 :
愛のシルエット作者:2006/09/13(水) 07:37:19
皆さんに大変ご迷惑をお掛けしております。
ここ数日の皆さんの書き込みでいかに自分が一人よがりであったか、
反省することしきりです。
特に、自分が占有してしまったがために他の書きたい人の機会を逃して
しまったかもしれないことに責任を感じる次第です。
結論として、このような小説は自分でサイトなりを立ち上げそこで
披露するべきと思いますので、いつか別の場所で続編を書いてゆきたいと
思います。
長い間応援してくれたみなさん、ありがとうございました。
愛のシルエット 完
>>523 えええ〜〜〜〜???
こんな半端でやめられるほうが嫌だよー
人が賞賛されてるのを妬む奴は必ずいるんだから
そんなのより楽しみにしてる人を重要視しては?
(´;ω;`)愛のシルエットさんがいなくなっちゃうのは嫌だ!
526 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 08:33:22
ぎゃ!!
1番恐れていたことがぁあああ・・・
人気者には必ずアンチがつきものだよ!
しかも、うるせーこと言ってんのひとりだけぽいしwwww
でも、もし本当にこのスレでもう書かないということなら、
どこかで続編見せてもらいたいなぁ。
つか、愛汁の作者さんいなくなっちゃったら、このスレ終わりなんじゃねーかとw
きっと深夜に書き込みをされるだろうと思って
毎朝必ずパソコンを立ち上げました。
残念でなりません。
できればここで続けていただけたらと思いますが、
作者さんのお考えということなら仕方ないのですね。
いずれ別サイトで読めるということを楽しみにして
その日まで待っていたいと思います。
528 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 15:22:42
やめていいよ、糞漏らし
529 :
愛のシルエット作者:2006/09/13(水) 16:15:25
意を決して「創作文芸」版に場所を移動しました。
向こうはプロもどきが沢山いるので環境はかなり厳しくなると思いますが、
もう少し頑張ってみようと思います。
私も残念でなりません・・・
色々といいたいこともあるのですが
作者さんが一つの結論をだしてしまったのですから
その意思を尊重するよりほかないですよね。
ありがとうございました・・・
531 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 16:24:08
>>528 おまえが代わりになるくらいの文書いてみろ。
それから言えw
書いている間に作者さんが!!
ではちょっと覗いてみます・・・
533 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/13(水) 16:40:18
誘導plz
>>533 どうも創作文芸板はそういう板では無いようで落ち着き先はまだ流動的な模様。
毎朝、チェックしてから一日の準備をするのが日課だったのに…
楽しみが無くなりました…orz
どこかで続編期待します!!
(´・ω・`)落ち着き先が決まったら教えてくださいな・・・
いつも楽しみにしていたので・・・
537 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/14(木) 11:28:55
ありがとう
>>536さん!いってきます(・∀・)ノ
でココに誰もいなくなっちゃうのか?
とりあえず
>>520あたりが次の話だせよ
540 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/15(金) 16:36:13
ここに誰もこなくなったら笑うなw
まぁ、まずは
>>520がんがれ。
520じゃないけど、漏らし小説に戻る前に
>>406-409で話題になった作者さんの性別の続き。
おそらく30代後半のお見合い経験が豊富な女性だろう。
「それにしても独身の40男っていうのはどうして…」
という思いを執筆で昇華。作者さんに幸あれ。
・・・かやくごはん食べたい。
542 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/19(火) 00:06:39
愛のシルエット作者さんいなくなっても誰かが違う作品をupすればいだろage
寂れちゃったねw
544 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/20(水) 15:44:41
いなくたってどうせうpするやつなんかいないのに
545 :
太郎:2006/09/21(木) 07:19:27
あの、クオリティは落ちますけどうんこ漏らしなら私書きます。
愛のシルエットさんが書きはじめた時そろそろ止めたくなっていたので
『よしキタ!』とばかりにそのまま書くのを止めましたが・・・
しかしこのスレはもううんこではなくなってしまったのですね。
私はうんこが大好きです。さようなら。
546 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/21(木) 09:43:03
太郎、戻って来い。うんこの原点に戻ろうよ。
547 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/21(木) 10:25:14
うんこはうんこで、なかなか読み応えあったぜ?w
548 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/21(木) 13:42:20
ああっ、もうダメッ!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ ああっ、もう
ダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!あたし、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!!!
ムリムリイッッ!!ブチュブチュッッ、ミチミチミチィィッッ!!!
おおっ!ウンコッ!!ウッ、ウンッ、ウンコッッ!!!ウンコ見てぇっ ああっ、もう
ダメッ!!はうあああーーーーっっっ!!!
ブリイッ!ブボッ!ブリブリブリィィィィッッッッ!!!!
いやぁぁっ!あたし、こんなにいっぱいウンチ出してるゥゥッ!
ぶびびびびびびびぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!ボトボトボトォォッッ!!!
ぁあ…ウンチ出るっ、ウンチ出ますうっ!!
ビッ、ブリュッ、ブリュブリュブリュゥゥゥーーーーーッッッ!!!
いやああああっっっ!!見ないで、お願いぃぃぃっっっ!!!
ブジュッ!ジャアアアアーーーーーーッッッ…ブシャッ!
ブババババババアアアアアアッッッッ!!!!
んはああーーーーっっっ!!!ウッ、ウンッ、ウンコォォォッッ!
549 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/21(木) 16:06:27
終わったな・・・
さようなら・・・
551 :
1:2006/09/23(土) 03:04:34
見ない間に(笑)
過敏性腸症候群の私がうんこ漏らしスレで
篠田小説を読み
作者をこのまま埋もれさせるのはもったいないと感じ
立てたスレなんです。
皆さんが好きな題材で小説を書いたり
それを読み楽しんだり出来たらと思って、、、
私もグッジョブうんこ女として書いてましたが、
文才がなく皆さんを楽しませる事が出来ないと感じ
足が遠ざかってしまいました。
ですからきっかけは、うんこでしたが、
楽しければうんこじゃなくてもいいと思ってます。
リーマン物語2が立てられたら嬉しいです。
552 :
太郎:2006/09/23(土) 07:53:39
200の続き
『君だったのか』50前後であろうか?風貌も太郎が老けただけといった感じである。
話かけたのはいいが太郎は次に何を喋っていいのか途方に暮れてしまった。
ただどこか落ち着き払った目の前の男に尊敬の念を感じているのある。
『ちょっと待ってくれ』男はそういうと手にしたオムツをビニール袋に入れ
トイレのゴミ箱に捨てた。
『慣れている』太郎は男の行動が非常にスムーズに、どこか堂々としている
ところに見入っていた。
処理が済み、手を洗った所で男は言った。
『なんだか腹が減ったな、飯でも食いに行かないか?』
太郎はこの後会社に行かなければならないのである。
しかもただでさえ遅刻が確定しているのにこれ以上遅れると
厄介な事になりかねない。
しかしこの時の太郎は普段ならそう考えるところを目の前の男の
不思議な魅力であろうか?あるいは同胞意識であろうか?
『行きます!』即答だった。
553 :
太郎:2006/09/23(土) 08:20:18
見ず知らずの男と並んで歩く。
凡俗太郎にとってそれは初めての経験だったがしかし周囲の人間には
まるで親子のような関係に見えたであろう。
喫茶店に着くまでの間話ははずんだ。
先の電車事件を筆頭に、仕事の事、会社の事、人生の事、果てはオムツのブランド
まで次から次へと互いの共通点が見出される。
会話に夢中になっているうちにいつの間にか喫茶店に到着していた。
『今日は私のおごりだ。存分に語り合おう』『ゴチになります!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『いつもあの電車なんですか?』
『いや今日だけ特別にこっちに来ている、普段は東京の地下鉄だ。
しかし危なかったよ。嫌な予感がしたんでオムツをしていたん
だがやはり別の土地で過ごすというのはわずかの期間でもストレスになるらしい。』
『そうですか』太郎は残念だった。せっかく気の合う通勤仲間が出来たと
思ったのにもうこの人と会う機会はないのだ。
554 :
太郎:2006/09/23(土) 08:42:03
『ピピピピピピピピピピピ』オーソドックスな携帯の着信音がなり男は電話に出た。
『ん?どうした?夕方には家に着くよ、食べる。プレゼント?用意してるよ。それじゃ。』
『すまないね、妻からだ』
太郎は思った。
『この人は一人前の大人なんだ、僕との共通点も多いけど家庭を、子供を
守っている、その点で同じ社会人であるはずの僕とは歴然と違う。』
そんな太郎の心情を見抜いて男は言う。
『君は今の仕事に不満があるのかい?』
『それが・・・わからないんです。淡々と仕事をこなしていますし、
今の所大きな問題もなく生きてこれました。それで良いとも思っていませんが
悪いとも思っていません、ただ何か足りないんです。』
『君は私の若い頃にとても似ている、その通り、良くもなければ悪くもないよ。
大事なのは君が納得するかどうかだ。その点で君はわからないと感じたり
何か足りないと感じているんだよ。』
『しかし僕は自分がどうあればいいのかわからないんです、
さっきもあなたのように直接痴漢行為を阻止しようとせずに
どこか傍観していました。』
555 :
太郎:2006/09/23(土) 09:30:02
『かもしれないね。君は傍観者だった。しかし私が阻止したのは痴漢行為
ではない。怒りという私の感情なんだ』
『えっ?それはどういう?』
『端的に言うならムカついたんだ、あの若造に
だからあの男が暴れ出した時ここぞとばかりに取り押さえてやった
捜査員に感謝されちゃったよ、個人的感情で行動しただけなのに
しかもよそ者の私が、その上その後激臭を放つ私が』
『wwww』
『わかったかい?私はただその時の気持ちに従っているだけなんだ。
君が思っているほど立派ではない。しかし感情に任せすぎるのは良くない
人生で何を選択するかは自分の意志と相談しなければならない。
君が私に話しかけたようにね。』
『僕は自分の意志がわからないんです。』
『そう言うところも私と似ているね。いいだろう、ひとまず意志は置いといて
向上心という物について考えてみようじゃないか?君は向上心
が2種類ある事を知っているかい?』
556 :
太郎:2006/09/23(土) 09:49:33
『向上心は向上心でしょう?2種類もあるんですか?』
『いや、ないよw』
『あると言ったりないと言ったりどういう意味ですか?』
『君の言うとおり向上心は向上心なんだ。ただよほど自分の心
に注意を払っている人でないと向上心を他の感情とごちゃ混ぜに
しちゃってるんだ。』
『その感情とは何なんですか?』
『恐れだよ。』
『恐れ?向上心と何の関係もないじゃないですか?
僕は恐れの事を向上心だと思ったことはないですよ。』
『では君は向上心とはどんな気持ちか知っているのかい?』
『知ってますよ。あの気持ちは、とにかく上達したい、うまくなりたい
って気持ちでしょう?』
『では君はそれをどんな時に感じたんだい?』
『えーっと大学受験とか就職試験とかかな?とにかく成績上げないと
いけないから貪欲に勉強しまくりましたよ。もう随分昔の話ですけど。』
『それ、向上心じゃなくて恐れなんだよ。』
557 :
太郎:2006/09/23(土) 10:25:48
『君は今まで、こうなったらやばいから努力する、大学に行けないとまずいので
勉強する、とか働かなくちゃいけないから就職する、など全ての行動の出発点
が恐れだったんだよ。だから例え大学に受かっても、就職できても、
君にとっては危険回避をしたに過ぎないんだ。だから嬉しくもないし
納得もしないし努力も苦痛になる。』
『本当の向上心はそうなったら楽しいから努力するってだけで
いやいやするわけでもなく苦痛にもならない。ダイエットだって
太ってるとやばいから仕方なくするって人は大抵苦痛の末に失敗するけど
痩せたら良い事があるって思ってる人は楽しく成功するんだよ。
向上心と恐れって似てるし、起こすアクションも同じかもしれない。
でも結果に物凄い差が生まれるんだ。』
『さあそこで質問だ。君は向上心から行動したことがあるかい?』
『ないと思う。それにそんなの僕だけじゃない、殆どの人間が
恐れで行動してるんじゃないかと思う。』
『だからこそ君がそれをやってみたときに価値が生まれるんだ。』
太郎は心を揺さぶられた。男は続けて言った。
『みんなが本当の向上心から動いていたら君がどんなに立派になっても
目立たないよ。でも今はまだ殆どの人間が恐れで行動してる。
そのうちにこっそり君だけレベルアップしてしまえば良いと思わない?』
『それは、その・・・はい、僕は自分さえよければいい人間です。』
558 :
太郎:2006/09/23(土) 10:51:55
『www、それに君にはやりたいことも、それをするだけの貯えもあるね?』
『???どうしてそれを知っているのですか?私は今日始めてあなたと出会ったのですが?』
『よし、じゃあこんなところにするか。意志ってのはそのうちわかるよ。』
男は太郎の話を打ち切った。また太郎も敢えて聞こうとはしなかった。
勘定を終えいよいよこの男と分かれる事になった。
太郎にとってはかけがえのない教えの塊であったこの男と別れる事は
どこか悲しく、最後に名前だけでも知りたいと思い、名刺を差し出そう
とした途端男は言った。
『さっきから私は君とこうやって長い間お話しているけれども私は一度も名前を
聞かないね?あなたにとって私とは今ここにいる人間以上ではないからです、
私にとってもそうです、お互いに今日の日の事は胸にしまっておけばよろしい。
そしてまた長い月日の間、再び会う機会あれば大いに語り合おうではないか。
それまで元気でな。さようなら。』
559 :
太郎:2006/09/23(土) 11:19:13
太郎は喫茶店の前でしばらく立ち尽くすと、再び電車に乗り
会社に向かった。とっくに正午を過ぎ無断欠勤なのか大遅刻
なのかなどとネチネチとしぼられたが全く意に介さなかった。
一月経ち、太郎は変わっていた。会社での仕事への集中力は凄まじく
職場では彼のあまりの変貌振りに毎日噂の的だった。
ある日彼はネチネチ上司に辞表を提出した。
上司は言った
『なぜ辞めるのか説明したまえ。第一辞めてどうするんだ?
他に当てはあるのか?最近は妙に仕事っぷりがいいが世の中そんなに
甘くないぞ。見なかった事にしてやるからさっさと仕事しろ。』
太郎はまっすぐに上司の目を見つめて言った。
『申し訳ない、もう恐くないんです。』
上司はあまりの太郎の大きさに声が出なくなった。
会社を離れようとするときある女が立ちはだかった。
それは太郎が好意を抱いていた女性である。
しかしここ一月、仕事に打ち込む太郎はすっかり彼女の事を忘れ
自分の道を邁進していた。
『そういえば、彼女の事も恐れていたなぁ。』
改めて自分の変化に嬉しさがこみ上げる。
女が言わんとすることが太郎にはわかったので一言だけ言った
『一緒に居たかったらついて来いよ、俺は君の事恐くないよ。』
女は太郎に抱きついた。
完
560 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/23(土) 15:42:36
純文学としても「太郎物語」は面白い。しばらく間を置いて、続編で続けてくれませんか?
561 :
太郎:2006/09/24(日) 04:53:00
今からまたうんこです。僕には何が純文学なのかわかりません。
太郎はもう書けませんし、別のストーリーを書きます。
このスレはのんびり埋めていきたいと思っています。
たとえどれだけ過疎になろうが一人になろうが1000までは・・・
562 :
高村:2006/09/24(日) 04:55:27
とかく日本という国柄は排泄に対しての国民の認識レベルが低い。
それゆえしばしば平坦な人生に、各々の汚点を突如刻み付けられる事になる。
その数は計り知れない、人知れず屈辱で涙した者も多いだろう。
それが人間の機能なので、そこで生まれた物語は文化である。
これは信念の高校教師高村の敗戦教育である。
563 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/24(日) 05:37:07
男40歳、公立高校教師、担当は数学。未婚。
実直な人柄だが性格は適当。特技はTVゲームを20時間以上ぶっ続けで出来る事。
頭がいいのか悪いのかわからない。受け持ちのクラスの成績は頗るよい。
が、本人は授業中チョークをほとんど握らない。
黒板に書く必要性を感じていないわけではなく指が汚れるのが嫌なのである。
生徒の事を真剣に考えるが真剣に女生徒の尻を観察する時間の方が多い。
その事でしばしば問題になり教頭に注意を受けたり生徒に倫理を説かれたり
する事もしょっちゅうであるが基本的には周囲に好かれている。
しかし昨今の過敏な社会情勢で高村のいやらしい目つきがしばしば
問題になり、さすがに自粛しなければならなくなっている。
しかしそれで止める高村ではなくすぐまた問題が発生するのである。
『んんっ?』月曜朝8時、高村起床。
高村は目覚まし時計を持っていないので朝は適当に起きる。
学校が目の前のボロアパートに住んでいるのでHRには間に合う。
もちろん教師としては立派に遅刻である。
『今日はまだ日曜日?』などと自分に甘い考えをしてみるが
そういう時に限ってしっかり月曜日なのを高村は認めたくないが
時間が時間なのでさっさと仕度しなければならず嫌々起きた。
『高村誠、今から尊いお勤めを果たしてきます・・・あー面倒クセェ!!!!』
高村は家を出た。
564 :
高村:2006/09/26(火) 11:27:18
age
565 :
名無しさん@明日があるさ:2006/09/26(火) 13:23:10
GJ!
566 :
高村:2006/09/26(火) 14:21:20
漆原麻美24歳、国語教師、美人(篠原涼子似)、未婚。
理屈っぽい性格で高村の存在が何かと気に食わない。
基本的に仕事には真面目であるが自分の是認できないもの
は徹底的に排除しなくては気がすまない性格で生徒とも
よく口論する。反面自分を慕ってくれる人間に対しては
非常に献身的でややおせっかいですらある。
だが度量が狭いためか土壇場に追い詰められると伝家の宝刀、
感情的に泣き出すという事もある。
高村より年下の彼女だが住んでいる1Kのマンションは
高村のそれと比べるとまさに月とスッポンで勝ち組の女性
を彷彿とさせる。朝7時彼女も一生懸命働くため学校へと向かうのである。
567 :
高村:2006/09/26(火) 14:36:10
『先生オハヨー』女生徒の元気な声が高村の耳に届く。
『おはよう』寝起きの不機嫌な、投げやりな挨拶で一応の礼儀
を全うする高村だがいつものことである。
これが高村の以外な魅力で教師の中には挨拶を返さない人間もたまにいる。
これは最悪であるがかといって教師の方から元気よく『おはよう!』などと言われては
こちらも大きな声で挨拶しなければいけないかのような一種の脅迫観念に
囚われるので声は小さいが必ず返してくれる高村は朝から非常に楽な相手なのである。
『おはようございます。』言われるたびに高村は『おはよう、おはよう』と
まるで呪文のように挨拶を返す、そしてそれが彼にとって最も自然なのであり
生徒もそういうものであるとしっかり認識しているので何の違和感もない。
校門をくぐり校舎に入ると高村は職員室にも立ち寄らずにそのままHRへ
向かうのである。
568 :
高村:2006/09/26(火) 15:16:09
『ガララッ』ドアを開けて手ぶらで入室。
高村は挨拶を省いているのでいきなり用件から入るのである。
『欠席は?いないな。提出物は・・・なし・・と。』
『何か連絡あるか?・・・なし。』
『せんせー?』一番前の席に座る事情通である。
女というものは、いや人間というものはどうしてこうも野次馬根性があるのか。
また高村という男はどうしてこうも口が軽く生徒に情報をねだられるのか。
とにかく基本的に生徒は学校に刺激を求めているのである。
『なんだ?』薄々感づいてはいたが高村は敢えて聞いてみる。
『土曜日に漆原先生がマジギレしてるの見たんだけどどうしたの?』
『俺にもよくわからん。いきなり因縁つけられて気が付いたら1時間
ぐらい説教されてた。どうも気に入らないらしい。』
『えっ?超ウケルんだけどw相当嫌われてるよね。現国
の時とかボロカス言われてるしwww』
『イエーイ!』なんとも形容しがたいひょうきんな声と表情で
ガッツポーズをとる高村。そのまま退出、職員室へ向かう。
569 :
高村:2006/09/26(火) 15:50:13
『高村君、また遅刻か。』教頭がぼやく。
『クビにしてくださいこんな人』教頭に懇願するように高村に敵意をむき出し
にするのは国語教師漆原。
『第一生徒に示しがつかないじゃありませんか、この人よりは生徒の方が
よっぽど早く学校に登校してますよ。』
『いや、しかし彼は教師としては優秀だよ。生徒の信頼も厚いし
経験の浅い君にはわからないかも知れないが彼は誰よりも大人だよ。
もちろんルールとしての遅刻には厳しく対応させてもらうがね。
それ以上の事はいくら君が美人だからといって関与できるもんじゃない。』
『教頭、そういう言い方は火に油を注ぐようなもんです。』
『なんですって、もう一度言ってみなさい!』
『あなたは美人です。ウヘァw』あらん限りのあほ面で
高村はこの場を乗り切ろうとする。
『パン!』爽快な効果音とともに高村の顔が揺れた。
『その馬鹿な顔を近づけないで下さい。』漆原はそう言うと
さっさと授業に出かけた。
『あんなに気の強い女見たことない。』
『私は君のような軽い人間を見たことがないよ。
彼女の指導しっかり頼むよ。近いうちに必ず挫折するんだから。』
『随分嫌われたみたいですがね。まぁなんとかやってみますよ。』
570 :
高村:2006/09/29(金) 15:43:42
『キーンコーンカーンコーン』一時間目の授業が始まった。
高村は職員室を出、教室に向かう。
国語教師漆原が既に授業を開始しているのが横目で見えた。
『ええケツしとるわ』
きつい性格の女の体ほどエロく見えるのはなぜなのか?
手の届かない存在ほどかえって想像力が働き、本能を掻き立てる
のではないか?手の届く存在になったとき大抵その物の価値は落ちる。
などと考えながら高村は教室に入った。
『テスト返すぞー相川ー・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・渡辺
平均点は78、100点は無し。かなり難しめに作ったからまぁまぁかな。』
クラスはわぁわぁきゃあきゃあ盛り上がっている。
それが落ち着いたところを見計らって高村は言う。
『一人ぐらい100点取る奴おると思ってたんやけどなー
お前ら数学好きな奴おるか?』高村が挙手を求めるが誰も反応がない。
『じゃ嫌いな奴は?』ほぼ全員が手を挙げた。
『なるほどなぁ、でも付焼刃の数学力なんか受験では通用せんぞ。
かといってお前らはがり勉するタイプでもないしな。
かといって数学が好きな人間とそうでない人間の数学力っつぅのは
像と蟻ぐらいの差があるからなぁ。』
『お前らがむしゃらに勉強してても力付かん、
数学の前にまず物事を好きになる方法を知っとけ。
自分の意志で好き嫌いを決める方法が世の中にはあるんや。
好きになればお前ら全員どんな分野だろうが大成できるやろ。』
高村がそれを話始めたとき
『ガシャーン!しばくぞボケェ!』
『ちょっと行ってくる、見に来たい奴は来てもかまわんが少人数で来いよ』
クラスがざわつき、高村は隣の漆原の授業に向かう。
571 :
高村:2006/09/29(金) 16:20:13
高村が教室に着いたとき漆原は頭を抱え込んで地面にへたりこんでいた。
廊下にガラスが飛び散り体の大きな男子生徒がどうやら主犯のようであった。不良だ。
『どうしたぁぁぁああああ』けが人がいない事がわかると高村は
わざと大げさなリアクションでクラスに呼びかけた。
『こいつが俺の事カス扱いしたから。』男は高村に言った。
『そうなんですか漆原先生?下を向いていないで答えてください。』
高村が促すが反応はない。
『漆原先生?漆原麻美?麻美?マミ?おーいマミたーん?』
教室の雰囲気が一転するがそれでも漆原に変化はない。
『駄目だこりゃ。あっちの世界に行っとるわ。おい、お前
なんでまたカス扱いされたんだ?』
高村が聞くと男はヘラヘラ笑いながら『俺が平均点を下げてるから、8点だったんだ。
でも馬鹿にされるのは我慢ならなかった。それだけじゃない、俺が不良だから
いつも露骨に態度で表されてムカついてたんだ。ま、こいつだけじゃないけどな、
どいつもこいつも俺を避ける。体も大きいしみんな俺が怖いんだ。先生も俺が怖いだろ?』
『いや全然。』高村はそう言うと生徒と一緒にタンカでさっさと漆原を保健室へ運んでしまった。
『重すぎるぞこの女ぁ』精一杯重そうな振りをしてしっかり笑いを確保しておく高村。
『お前らは自習しとけ、どうせ次は俺の授業や』
572 :
名無しさん@明日があるさ:2006/10/12(木) 18:52:45
つづきがみたい
573 :
高村:2006/10/18(水) 12:30:34
あげ
574 :
高村:2006/10/18(水) 12:57:17
『フー、スマンな手伝わせて。お礼にパンツでも見とけ』
『え?い、いいんですか?』
『いいわけないだろ。でもばれなきゃ良いかもしれない。』
『せっ先生!』
『どうした何色だった?』
『あっ、そっその、黒です』
『高校生にもなって何うろたえてやがる、どれどれちょっと失礼って
おわっ!ば、馬鹿これはいわゆるノーパソじゃねーか!』
『と、とにかくもうさっさと教室に戻るぞ。自分の胸にだけしまっておけ。』
『は、はぁ。』
575 :
高村:2006/10/18(水) 13:21:26
二時間目が始まった。高村は先ほど事件のあったクラスでまた授業である。
『とりあえずテストかえすぞー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『漆原先生だが、保健室で休んでおられる。すぐに復帰できると思うが
その時は大変殺伐とした雰囲気になるので覚悟しておくように。
特に垣内君は今後彼女とどう接していいか非常に困難を感ずると思いますが
彼女は子供なので君のほうからどんどん話かけていくように。』
淡々と話を進めていく高村だが、事件の首謀者垣内は考えていた。
『高村はなぜ俺を恐れないのだ?俺の方が体もでかいし
いきなり殴りかかるかもしれない。あれはやせ我慢とかそういうレベルじゃない。
今まで何人もの人間、クラスの奴でさえよそよそしい態度を取るから
俺には人間の汚さがわかる。漆原は露骨だったが、それは他の人間でも変わらない。』
授業が終わり。垣内は高村に問いただした。
『先生は俺の事が恐くないと言いましたね?なぜだ?』
『それがわからんのか?案外お前は馬鹿だな。』
しかし垣内は腹を立てずに続ける。
『しかし俺は体もでかいし力も強い、先生が恐くないはずないんだが?』
高村はため息をついて言う。
『お前がどれだけ強くても、俺が恐がる必要はないだろう?なぜそれがわからん?』
『どうしてですか?それが俺には不可解だ。』
高村はじーと垣内の顔を見て、言った。
『目の前の人間が悪人ではないからだ。』
576 :
太郎36歳:2006/10/18(水) 13:32:51
とかく日本という国柄は排泄に対しての国民の認識レベルが低い。
それゆえしばしば平坦な人生に、各々の汚点を突如刻み付けられる事になる。
その数は計り知れない、人知れず屈辱で涙した者も多いだろう。
それが人間の機能なので、そこで生まれた物語は文化である。
これは脂の乗った男、太郎が久々に敗戦してしまう話である。
577 :
名無しさん@明日があるさ:2006/11/02(木) 13:54:08
高村作者さん調子はどー?
578 :
太郎36歳:2006/11/03(金) 16:48:19
もう、駄目かもしれない。
長いことうんこ書いてなかったからうんこに結び付けられない。
また私自身がうんこに満足したのかとにかくうんこに滑稽味を見出せない。
うんこを面白いと思っていない人がうんこ話を書けるわけない。
うんこってどこが面白いの?
579 :
名無しさん@明日があるさ:2006/11/03(金) 19:07:21
それは君が排便の辛さから遠ざかっているからじゃないのかね。
もう一度経験せよ。
あの、極限まで我慢せねばならない排便に耐える苦しみの境地を。
極限の苦しみ、悲しみの中からドラマは生まれる。
愛のシルエットさん、追い出さなきゃよかったのに…
581 :
名無しさん@明日があるさ:2006/12/05(火) 01:16:20
優しく微笑む陽光 朝露を含んだ薔薇
憂いを含んだその眼差し 上気した頬
582 :
名無しさん@明日があるさ:
みんなで少しずつ作れば?