2012年8月10日(金)付
消費増税法案成立へ―一体改革の原点忘れるな
消費増税を柱とする「社会保障と税の一体改革」関連法案がきょうの参院本会議で可決・成立する見通しだ。
消費税率は2014年4月から8%に、15年10月には10%へ上がる。
国民にとってはつらい負担増だが、赤字まみれの財政を続けることはできない。借金依存からの脱却にようやく一歩、踏み出す。
■現実は「給付先行」
ところが、法案を成立させる民主、自民、公明の3党からは、増税による財源をあてこんで公共事業の拡充を求める声が高まっている。
とんでもない話である。
一体改革の原点に立ち返らなければならない。
少子高齢化に伴って社会保障費は膨らむ一方だ。今年度の医療や年金、介護、子育てなどの給付費は、推計で109兆円余り。保険料ではまかなえず、4割は公費を充てている。
その公費は税金だけではとても足らず、借金である国債を大量に発行して補っている。
私たち国民の社会保障は、政治的に声をあげることもできない将来世代へのつけ回しで成り立っているわけだ。
いまや国債を含む借金残高は1千兆円に迫り、国内総生産の2倍を超す。先進国で例を見ないひどさである。
今回の一体改革では、消費増税5%分のうち、4%分は国債発行の削減に回し、社会保障の充実に使われるのは1%分しかない。「増税先行」と批判されるゆえんだ。
しかし、今の社会保障は、十分な負担を伴わない「給付先行」だと言わざるをえない。このままでは維持できない。
受益者である今の世代が消費税で広く負担をし、借金が拡大するのを食い止める。そうして社会保障が財政を悪化させ、財政の悪化が社会保障を揺るがす悪循環に歯止めをかける。これが一体改革の目的である。
それを公共事業に回そうというのでは、改革の趣旨を無視しているとしか思えない。
■バラマキ許されぬ
自民党は国土強靱(きょうじん)化基本法案を国会に出した。防災対策などに今後10年で200兆円の投資を掲げる。公明党の防災・減災ニューディール推進基本法案は「10年で100兆円」。いずれも、東日本大震災の教訓を強調する。
たしかに災害対策は重要だ。ただ、財政難の深刻さを考えると、どの分野のどんな防災対策を優先し、財源をどうやって確保するのか、徹底した検討が必要である。
そもそも、なぜ事業費の総額が真っ先に出てくるのか。総選挙を意識して、公共事業を全国にばらまこうというのが本音ではないか。整備新幹線の新規着工や高速道路の工事凍結の解除を決めてきた民主党も、意識は似たりよったりだ。
もちろん、経済の活性化は重要だ。ただ、公共事業頼みの政策が財政赤字を膨らませてきた歴史を忘れてもらっては困る。増税に国民の納得を得るには、歳出全体を徹底的に見直すことが欠かせない。
3党が急ぐべきは、一体改革関連法の肉付け作業だ。
社会保障では、医療や年金制度の基本的な仕組みをめぐって意見が異なる。今回の目玉である子育て支援策も、詳細な詰めはこれからだ。
「給付先行」の現実を考えれば、社会保障で切り詰める部分も必要になろう。3党で合意した社会保障改革の国民会議をただちに立ちあげ、検討を始めなければならない。
■税制の全体像を示せ
税制の課題も山積している。
消費税には、所得の少ない人ほど生活必需品などへの支出割合が高いため、負担が重くなる「逆進性」がある。これをやわらげる手立てが迫られている。
増税時の激変を緩和する低所得者向けの一時的な現金給付に加え、どのような対策を講じていくか。
食料品などの税率を低くとどめる軽減税率の導入はひとつの考え方だが、所得の多い人まで恩恵を受け、税収を大きく減らしかねない。消費税制の基本にかかわる問題だけに、早急に結論を出さなければならない。
所得税と相続税の強化も不可欠である。
政府は、課税所得が5千万円を超える人の所得税率を引き上げ、相続税では遺産額から差し引ける控除を減らしつつ最高税率を引き上げることを法案に盛り込んでいたが、3党は修正協議でいずれも削除した。
所得や資産の偏りをならすことは、税制の重要な役割の一つだ。高額所得者や資産家への増税だけで社会保障の財源をまかなえるわけではないが、課税強化策を欠いたままでは、消費増税への理解も進まない。
それぞれの税の長所と短所、税収規模を踏まえつつ、早く全体像を示す。3党はその責任を自覚してもらいたい。
http://www.asahi.com/paper/editorial20120810.html