中小零細企業の味方というふれこみで設立された銀行は、まさに不正まみれだった。
金融庁が、中小企業向け融資を専門に手がける日本振興銀行を、立ち入り検査を妨害した銀行法違反(検査忌避)の疑いで、刑事告発した。これを受け警視庁が、振興銀の本店などを捜索した。
金融庁が、告発に踏み切ったのは当然である。警視庁は徹底した捜査を行い、全容を解明してもらいたい。
金融庁は先月、重大な法令違反があったとして、振興銀に約4か月の一部業務停止を命じた。これに続く告発である。行政処分だけでは不十分と判断するほど悪質ということだろう。
振興銀は、日銀出身の木村剛氏が2004年、東京青年会議所のメンバーらと開業した。
大手銀行よりは貸付金利が高いが、原則として無担保で、成長性のある新興企業などの金融を担うとしていた。
ところが、路線の違いで役員らの辞任が相次ぐなど、当初から経営は迷走状態に陥った。
05年には、木村氏が社長に就任して、自ら経営に乗り出した。07年3月期決算から3年は黒字を出したものの、10年3月期に50億円超の赤字に転落したため、木村氏は引責辞任した。
中小企業専門というビジネスモデルそのものに無理があったうえに、金融庁の検査で、表向きの経営理念とかけ離れた業務の実情が明るみに出た。
例えば、資金繰りに困っている貸金業者から手数料を徴収して貸し出し債権を買い取り、約1か月後に買い戻させる取引だ。
見かけは債権の売買だが、金利にあたる手数料は、年利に換算して46%と、法律の上限をはるかに超える暴利だ。まるで、貸金業者相手の高利貸しである。
このほか、融資先に対して、取締役の過半数は振興銀が推薦する人を就けるよう迫り、経営の支配を図った。拒否すれば担保の追加を求めたという。
業務に関する電子メールを削除するなど、一連の不正の隠蔽(いんぺい)工作もしていた。
木村氏は、小泉政権の竹中平蔵金融相のもと、金融庁顧問を務めるなど、国の金融行政に深くかかわった人物だ。
すでに経営陣から退いたとはいえ、社長、会長として長く振興銀を経営した責任は重い。捜査への全面協力はもちろん、記者会見などで自ら説明すべきだ。
(2010年6月14日01時45分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100614-OYT1T00065.htm