田中秀臣先生の学問的誠実を考える会 47ハゲ目

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179金持ち名無しさん、貧乏名無しさん
負債の実質増、革新を阻害
岩井克人 国際基督教大学客員教授
不況と連鎖、断ち切れ
http://www.nikkei.com/article/DGKDZO52762270T10C13A3KE8000/

 もう一度問い直さなければならない。何がインフレやデフレを引き起こすのか、と。

 商品全体に対する需要が供給を上回ったとしよう。それは大多数の商品が同時に超過需要であることを意味する。
各企業は自分の商品の価格を予想される他の商品の価格に比べて切り上げるだろう。
だが他の大多数の企業も一斉に価格を上げるので、各企業にとっては他の大多数の商品の価格は予想した値以上に上昇することになる。
分権的意思決定の意図されざるマクロ的帰結である。
他の価格の予想を引き上げ、自分の価格をそれ以上に上げても、同じ過程が繰り返され、大多数の価格は予想した価格以上に上昇していくことになる。

 すなわち、総需要が総供給を上回ると、商品全体の価格を平均した物価の実現値はその予想値を必然的に上回り、予想値の引き上げがさらに物価を引き上げるという累積的インフレ過程が始まる。
総需要が総供給を下回ると、逆の過程が始まるが、貨幣賃金など一部の要素価格は下方に硬直的なので、デフレの進行はインフレより遅くなる。

 貨幣量の物価への影響を否定しているのではない。
貨幣量の変化がインフレやデフレをもたらすとしたら、それは物価の予想に直接的に働きかけるか、個人や企業の支出行動に間接的に影響を与えて、総需要と総供給との間のギャップを拡大するか縮小しなくてはならないのである。
いずれにせよ、デフレを引き起こす総需要の総供給以下への落ち込みは、生産の縮小や失業の拡大を伴い、経済を不況にしているはずである。
逆にインフレを引き起こす総需要の総供給以上の膨張は、経済を好況にしているはずである。すなわち、デフレは悪、インフレは善の帰結である。

 話はここで終わらない。デフレそのものが不況を悪化させ、インフレそのものが好況を促進させる。
デフレは個人や企業が抱える金融負債の実質負担を重くし、インフレは軽くする効果を持つからだ。
180金持ち名無しさん、貧乏名無しさん:2013/04/03(水) 01:54:22.27
>>179

 反論があるだろう。
デフレが進めば現金通貨の実質額が増え、資産効果が総需要を刺激して、不況は解消されるのではないか。
デフレ、そして同じ論理でインフレは均衡回復的な働きをするはずだ、と。
英国の経済学者、A・C・ピグーによるケインズ経済学批判の骨子である。
だが今では重視する必要はない。
現金通貨(形式的には中央銀行の負債)の総額は個人や企業の負債(銀行預金も含む)の総額に比べて桁外れに小さく、金融技術の進歩によりその役割が縮小し続けているからだ。

 さらに反論があるだろう。
借り手がいるならば、貸し手がいる。デフレは借り手の負債と貸し手の債権の実質額を等しく増やすから、国債と対外債務を無視すれば、経済全体ではその資産効果は打ち消しあうのではないか。

 だが、残念ながらそうではない。
借り手は支出したいから借り手であり、貸し手は支出したくないから貸し手である。
デフレは支出性向が相対的に高い個人や企業の負担を増やすことで、経済全体でみても総需要に対してマイナスの資産効果を持ってしまう。
181金持ち名無しさん、貧乏名無しさん:2013/04/03(水) 01:54:57.64
>>180

 デフレが進み、借り手が負債の実質負担の重みに耐えきれず返済を延期し始めると、それは不良債権となる。
借り手が万策尽きて倒産すると、その瞬間に貸し手の債権は不良ですらなく、無と化してしまう。
総需要は一層落ち込み、デフレは深刻化していく。
これが1930年代の大恐慌の最中に米国の経済学者、アービング・フィッシャーが理論化した「負債デフレ過程」である。
それは、不況とデフレが互いの原因となる「悪の連鎖」にほかならない。

 それだけではない。
資本主義とは未来の利潤を求めて投資する仕組みである。
その利潤の源泉は「新消費財、新生産方法、新輸出方法、新市場、新産業組織」、すなわちジョセフ・シュンペーターのいう「革新」である。
だが未来の利潤の予想だけでは現在の投資資金とはなり得ない。
どれだけ革新的なアイデアでも、いま資金がなければ利潤を生むことはできないのである。

 ここに金融の本質がある。
金融は、アイデアはあるが資金のない個人や企業が、アイデアはないが資金のある個人や企業から資金を借りて投資し、アイデアを設備や組織、技術や製品の形に具体化させる役割を果たす。
その意味で、負債こそ革新的なアイデアを現実の利潤へと転化する資本主義のテコにほかならない。

 デフレはこの負債の実質額を年々増やしていくことになり、その予想は革新的な活動にブレーキをかける。
デフレは不況を悪化させるだけでなく、資本主義を長期的停滞に導く最も確実な道である。

 逆にインフレは、負債の実質額を年々軽くすることにより、好況を強めるだけでなく、その予想は革新的な活動を促進する働きをする。
冒頭のケインズの言葉に従えば、英国の資本主義とシェイクスピアはともにインフレの落とし子だったというわけである。