日本の技術の流出

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211金持ち名無しさん、貧乏名無しさん
日経 2011.2.24〜2.26 朝刊

産業スパイに備える 識者インタビュー - 上 -
米クロール東京支社長 佐藤剛己氏

「情報漏れ許さず」明確に

 仏ルノーで起きた電気自動車の機密情報流出は、日本企業に産業スパイのリスクを改めて意識させた。
人材の流動化や経営のグローバル化が進むなか、生命線となる情報をどう守ればいいのか。専門家に聞いた。

―日本企業の現状認識は。
 「新興国の企業が技術力で差を詰めてくるなか、数年前に比べれば、経営情報の漏洩に対して神経を
使うようにはなった。しかし、まだ大半の企業は『お金がない』『人がいない』などを理由にリスクを
過小評価しがちだ。大手メーカーの役員が『海外の企業が技術をまねしたり、盗んだりしようとしたら
防ぐ手立てはないだろう』と言うのを聞いて驚いたこともある。情報漏洩対策を助言する当社への面談も、
7〜8割は事態が表面化してからだ」
―実際に流出は起きているのか。
 「あるメーカーの中国事業所でパスワードが盗まれ、データがサーバーから漏れているケースがあった。
まず緊急措置として別のサーバーを設置して漏洩を止め、原因究明に着手した。研究所から出てきた人
に声を掛け、飲み屋で仲良くなるなどして研究内容を聞き出したり、ヘッドハンターを装ったりする手口
もある。情報を奪うことで競争に勝とうとする動きは現実にある」
「(略)見過ごされがちなのが社内の士気低下を招く点だ。開発に心血を注いだ技術者をはじめ関係者が
プライドや意欲を失いかねない」
(略)
212211:2011/03/04(金) 16:07:39.76
―予防策は。
 「年に1〜2回、第三者の目で情報管理体制を見直す必要がある。(略)平時の注意喚起が、今迫りつつ
あるかも知れない漏洩の予防につながる」
 「(略)ただ、原因の多くは社員のミスや不注意。パソコンの置き忘れや、机の上に資料を山積みに
しているケースなどだ。顧客企業の意識の甘さを実証するため、我々がオフィスから台車いっぱいの書類
を運び出したことがある。昼間なのにまったく気付かれなかった」
―社内の意識を変えるには。
 「情報が外部に漏れた場合、どれほど大変なことになるかという認識を全社員で共有することが大切になる。(略)」
―内部の人間の不正も想定するべきか。
 「会社は従業員に対し性善説で臨むべきではない。米国企業は一般に、人間は間違いを起こす可能性が
あるという前提で対策を立てている。万一、問題が発覚した場合も、できるだけの手は打ってあったと説明できれば、
企業が被る損害を抑えることができる」
213金持ち名無しさん、貧乏名無しさん:2011/03/04(金) 16:09:44.07
産業スパイに備える 識者インタビュー - 中 -
キャノン執行役員知的財産法務本部長 長沢健一氏

社長直轄で情報管理

―日産自動車が提携するルノーから電気自動車の情報が流出した。
 「大変ショックだ。自動車は元々、製造段階の多くのノウハウがあり、新興国に追いつかれにくい面があった。
しかし、電気自動車の時代になり、ソフトウェアの重要性が増せば、ソフトを持っていかれたら大変なことに
なるのかもしれない。当社の主力製品であるデジタルカメラや複写機にも同じことがいえるだろう」
―情報流出を防ぐ体制は
 「知的法務本部の外に製品法務推進室という社長直結の部隊がある。各事業部では対応できない
法律の問題を扱っている。その中に営業秘密管理のグループがあり、全社的なガイドラインを作り、
啓蒙活動をしている」
(略)
―他社との提携で留意していることは。
 「会社の屋台骨を揺るがす機密情報は外に出さない。下請けや開発委託先には伝えざるを得ないが、
何度もお付き合いがあるなど信頼を置く会社に出すのが普通だ。情報に価値がない簡単な部品を
作ってもらう場合は安くやってくれるところに出す。国内外とも同じ考えだ」
 (略)
―内部の人間の流出への関与をどう防ぐ。
 「基本的に啓蒙しかない。会社に敵意を持つ人を作ってはいけない。それが基本だ。日本人の忠誠心
や愛社精神は世界で一番強い。転職社会の米国では5年働いてくれればいい方だ」
 「中国などがもう少し高級なものを作ろうと思えば、人材を獲得するのは当然だ。当社の人間が
狙われる可能性はある。定年退職者に声が掛かっているという噂も聞いた。特別な技術を持つ人は
手厚く遇するなど、総合的に対応したい」
―国への要望は。
 「中国など他の国は立法が早い。産業界の人間として、なぜ日本は立法がこんなに遅いのかと思う。
欧米の官僚は露骨に国益を意識している。日本の官僚は学者っぽいというか、産業界の実態が実は
それほど分かっていない」
(略)
214金持ち名無しさん、貧乏名無しさん:2011/03/04(金) 16:11:21.47
産業スパイに備える 識者インタビュー - 下 -
日本大学大学院教授 土肥一史氏

追跡へ国際的仕組みを

(略)
―最近の産業スパイの特徴は。
 「デジタル技術の発達で、情報の伝達が容易になったことが昔とは決定的に違う。文書からパソコン
やメールの時代になり、紙などの媒体から情報だけが切り離されてどこへでも飛んでいく。ルノー
から流出したとされる情報も中国に入ったといわれているが、最終的にどこへ行ったのかは不明だ。
情報がアナログでもデジタルでも流出先を追跡できる国際的な仕組みづくりが必要になってくるだろう」
―日本政府の対策をどう評価する。
 「国内では不正競争防止法の改正を受けて、営業秘密を保護する制度が徐々に充実してきたところだ。
今後のさらなる改正により、営業秘密侵害罪を争う刑事訴訟で秘密の内容を伏せて裁判できるように
なれば、企業は以前よりも裁判をしやすくなる」
―企業活動の国際化の影響は
(略)
 「研究開発などで他社や外部の研究機関が持つ情報と人材を活用する『オープンイノベーション』も
盛んになっていくだろう。日本企業が海外企業と業務提携するケースも今まで以上に増える。提携相手と、
その下請け企業までを視野に入れ、情報管理体制を構築する必要が出てきた」
(略)
―幹部の流動性も高まっている
 「情報の流出の観点についていえば、企業の人材管理の対象は主に現場の従業員だった。今後は幹部や、
場合によっては社長が競合関係にある企業に移ることも想定しなければならない。逆に幹部をヘッドハンティング
する場合には、対象者が前の会社で得た情報が新しい会社に入り込むことがないよう明確にしておくことも重要だ」
(略)