国際商品がドル建てドル決済で取り引きされることが、
ドルの国際基軸通貨性を維持するために重要な条件であることに異論はない。
米国外で流通しているドル紙幣が60%超と言われている現状で、
ドルが国際決済通貨の位置から外れれば海外で保有されているドルが、
迂回的であっても米国の資産や財に向けられることになり、
米国はインフレが昂進しドルの実質価値は大きく下落する。
(ババになった国外のドルの大半が米国に還流されることになる)
さらに、証券投資などで蓄積されているドル建て金融資産も換金されて米国に流れ込むことになる。
また、ドルが国際決済通貨でなくなれば、ドルを借り入れようとする人たちも減少し、
米国経済主体の主要な利益源である国際金融活動もままならなくなる。
しかし、イラク侵攻の原因が「基軸通貨のドルを守るための制裁」というのは、
子供が後付けでするような説明でしかない。
まず、イラクの権力者であったフセインが、米国政権から「ドル決済を続けろ」と言われて、
なおユーロ決済に固執する意味はまったくないからである。
考えてもみて欲しい。石油代金をドルで得ても、
それをユーロに転換してユーロで蓄積することは容易である。
イラクが輸入する財がほとんどユーロ建てであるのなら、
ドル→ユーロの転換コストがばかばかしいという話にもなるが、
ドルで決済できる輸入財のほうが多いはずだ、
自分がイラクの権力者であると前提して考えてみれば、
軍事侵攻を覚悟してまで「ユーロ決済」にこだわる意味がまったくないことがわかる。
浅慮で「ユーロ決済」に踏み切ったとしても、
最強の軍事国家であり軍事発動を厭わないことがわかっている米国政権から
「ドル決済に戻してくれ、それで戦争は回避できる」と言われたら、そうするだろう。
イラクにとって、「ユーロ決済」は軍事侵攻に見合うだけの固執価値はないのである。
米国政権にしてみても、膨大なコストが発生する軍事侵攻よりも、
経済制裁の解除と引き換えに「ユーロ決済」をやめさせたほうが合理的であることくらいは理解できるだろう。
つまり「ドル決裁」なんてものは戦争の理由になりえないのだ。