三橋貴明スレpart5

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飯田(I:絶対水準としての景気と、景気が拡大しているかどうか
(良くなっているのか悪くなっているのか)。
この二つを区別しないと政策はうまくいきません。
例えばいざなぎ越えと言われた2003年から07年にかけての好景気があります。
一応これは景気の拡大、です。
が、好景気だったのは一年もないと僕は考えています。
勝間(K:つまり絶対水準としての景気は良くなっていない、ということですね。
そもそも好景気って何なんでしょうか。
I:経済学的には、潜在成長率を越えて成長しているかどうか、です。
潜在成長率というのは計測が難しいんですが、今ある資源や人材を全て活かしたら
どの程度モノが生み出せるのか、ということです。
潜在成長率は計測する人によってバラバラの数字が出てきますが、
大変おおざっぱに言いますと、年率2%です。
なので名目GDPから物価上昇率を差し引いた実質GDPで2%以上成長していれば好景気といえます。
K:それは日本だけでなく?
I:はい。潜在性調理いつは、世界的にここ100年くらいそういう水準です。
日本の場合、実質GDPがここ20年、年率0.数%でしか成長していません。
なので、いざなぎ越えといわれる好景気でも、自分たちの暮らしが良くならない、と感じるわけです。
そこで「景気が良いなんてのはイカサマか?」と言われてしまうんですが、景気は拡大しているんですが、
絶対水準としての景気は良くなっていない、ということなんですね。
この程度の拡大ではどうにもならないんです。
K:実感できないんですね。
I:そのせいで、経済成長や景気に対する非常に大きな不信感を生んでしまいました。
さらに、日本銀行や財務省は、景気が良すぎる、と言いはじめました。
K:はあ!?
I:2006年の量的緩和解除の理由の一つが、バブル的に景気が良くなるかもしれない、というものでした。
その予防的な措置だ、と日銀は言っています。
予防も何も良くなってないじゃないかと思うのですが、なんだかよくわかりません。
K:解除は大失敗でした。
I:景気の話で重要になるのはインフレとデフレです。
景気の拡大を継続して、絶対水準で良いところに持っていきたいわけですが、
デフレ状態では不可能です。
デフレで景気が良いというのは、ほとんど形容矛盾です。

K:ハイパーインフレは恐れるのに、デフレは恐れないというのが本当に不思議です。

I:その理由の一つに、デフレで心地よくなる人が結構いるってことが言えると思います。

K:はあ!?

I:(笑) 自分で商売をしている人や、ビジネスの最前線にいる人にとっては、
まさに「はあ!?」としか言いようがないんですが、例えば僕の母親は「モノが安くなった」
と大変喜んでいます。

K:お給料が一定で支払われいる人にすれば、収入は変わらないわけですから
モノが安くなるほうが良いに決まってるわけですね。

I:そういう人びとが初めてデフレの害に気づくのは失業したときと倒産したときです。
そこまで行かないと気づかないというのは、とても恐ろしいことです。

飯田)I:どうやら人間というのは、毎年2%くらい要領が良くなっていくようなんです。
人びとが2%分、より仕事ができるようになっているのに、経済の規模が成長しない場合
どうなるかというと、毎年2%の人が必要なくなっていくんです。

勝間)K:恐ろしい話です。

I:言い換えると、毎年2%の人が失業していくわけです。
アメリカやヨーロッパでは、もちろん経済の成長が2%を下回ることはあるんですが、
平均すると2.5%〜3%で成長しています。
こうなると、いつもちょっと人が足りていないような、そういう状態が維持できます。

K:新しく社会に出る若者の雇用が生まれるわけですね。

I:そうです。
それに対して日本の場合、1%かそれ以下の成長がずっと続いています。
そうすると、だんだん人が要らなくなってくるわけです。
長い目で見ると経済成長の源泉は、人びとが仕事に馴れて、そして新しい発明が生まれ、
付加価値をより多く生み出していくことです。
個々人が2%の成長を繰り返していく中で、新しい産業が起こり、経済全体も成長していきます。
ところが、若者に雇用が足りていないと、2%成長するチャンスがない、ということになりますから、
周囲との格差が生まれますし、経済も長期的に停滞します。
これを防ぐためには、経済が2%成長しないと話になりません。

K:最低限実質成長率が2%ないと社会が維持できないんですね。

I:定常型社会を目指す、とかよく言われますが、定常型社会というのは0%成長のことではありません。
人間の成長に会わせた2%の経済成長がなければ無理です。
こういうふうに言うと、経済成長はもう出来ない、と言い返されます。
これだけ物が豊かな社会のどこで成長するのか、と。
この主張に対する重要な反論は「日本以外全部成長してますが、何か?」です。
むしろ、なぜ日本だけできないのか説明して欲しい。
なぜか日本では若者でも「もう成長をあきらめよう」というようなことを言う人たちがいますね。

K:アメリカもヨーロッパも成長しているのに。

I:はい。
しかも、多くの人が経済成長のイメージとして、米を二倍食うとか、服を二倍買う、という感じでとらえているようです。
付加価値という考え方が広まっていないんですね。
どうしても量で考えてしまって、もっと美味しいもの、もっとデザインの優れたもの、
という質的な経済成長の考え方になかなか至らないんですね。
しかし現実には1970年代に量的な成長というのは終わっています。

K:買い物をするときにいつもより高いシャツを買う、とかそういう成長なんですよね。

I:それと、この本で貧困問題について取り組んでいらっしゃる湯浅誠さんと対談しました。
何が貧困をつくりだしているのか? デフレと不況がつくっているんだ、
ということが、貧困問題を語る人たちの考えから抜けてしまっているように思いました。

K:私も湯浅さんと対談しましたが、そこが議論になりました。
湯浅さんは介護や農業にまわればいい、と言っていましたが、
それだけでは全然足りないと思います。

勝間)K:なぜ日本では景気が悪くなると長時間労働になるんでしょう。

飯田)I:景気が悪くなると、企業は給料を下げたくなるんですが、これはなかなか実現しません。
なので同じ月給で長時間働かせることで時給を下げるわけです。
デフレで売上げが落ちてますから、企業としてはそうでもしないとペイしないわけですね。

K:デフレだからこそ長時間労働になるんですね。
だからインフレ・ターゲットと
総労働時間規制を一緒にしないとだめだと思うんです。
そこで最低賃金だけ上げてしまうと、単に失業者を増やすだけになってしまう。

I:そうなんです。
最低賃金がもし1,000円になったら、地方のサービス業は壊滅です。
例えば東北地方の県庁所在地じゃない市の居酒屋さんは一時間1,000円も稼げているわけがないんですよ。

K:民主党はマニフェストに入れてしまいました。

I:一つカラクリがあるとすれば、日本では最低賃金を守っている企業はほとんどないということです。
守っているのは一部の大企業だけ。
しかも破ったところで目立った罰則もないですし。
なので、もしかしたら民主党は最低賃金を上げると主張しても
実害はない、と踏んでいるのかもしれません。