氷河期ゴミ捨て場 生ゴミ2杯目

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仕事柄統計データや売上データ等の数値を用いて何かを検証することが多いんだけど
出生数で大卒の就職難度を計測する最近流行のコピペは数値の使い方と結論への持って行き方に突っ込みどころが多過ぎるな
…というか、ぶっちゃけ突っ込みどころとか以前に何が言いたいのかすらわからないレベルになっている


「内定率過去最低の2003年度が大卒就職希望者にとって最も就職が厳しい年ではない」
 と言いたいのならその通りだと思う
 ただしその場合はやはり大卒求人倍率(求人数÷就職希望学生数)での比較となり、
「最も就職困難だったのは2000年卒であって、2003年卒は00年卒どころか95年卒・96年卒・99年卒・01年卒よりも楽だった」
 という結論になる

これなら理解できる
で、コピペに使われている求人数/出生数で就職難度の指標を作ろうとする方法だが、
これははっきり言って何がやりたいのかよくわからない

そもそも「出生数」の項目にある数値。これはどこから持ってきたのか?
ネット検索した結果、恐らく厚労省の「人口動態統計」から持ってきた数値であろうということがわかったが
そうなるとますます突っ込みポイントが明確になる

大きな問題点は「出生数」と「大学卒業年度」を結びつけているところだ
ここで使われている「出生数」とは「人口動態統計」から引用したもので、これは各年に生まれた子供の数ということになるわけだが、
この数値を「大学卒業年度」と結びつけて考えるには次のような問題点が発生する

一、「出生数」は年ごとの数値であり、「卒業年度」に照らし合わせるには「年度」ごとの数値が求められる
   1月〜3月生まれの早生まれに当たる子供の数の扱いはどうなるのか?

一、「大学卒業年度」は同じだが「出生年」が違う人がいる(浪人した・留年した等)
   この人たちの扱いはどうなるのか?

一、「出生数」と「大学卒業年度」を結び付けるためには上記の問題以外にも「その年に生まれた子が全員ストレートで4年制大学に入学した」という前提が必要になる
   中卒・高卒で就職した人、専門学校へ行った人、短大へ行った人、6年制医学部へ進学した人、就職も進学もしなかった人、若くして亡くなった人等々の扱いはどうするのか?


ほとんど屁理屈のように聞こえるかもしれないが、数値の比較をする際にはそれだけ根拠となるデータの整合性が必要とされるということだ
 ※まあ、留年浪人等は前後の年でも発生しているだろうしプラスマイナスで見ればそれほど変わらないだろうからおおよその傾向は読み取れるだろう
  ただし、この時点で数値の正確性は失われているので正式な資料としての価値は失われる(「あくまで参考程度」の扱いになる)
更に問題なのは「就職希望者数」の項目
色々調べた結果、どうやらこの項目の数値はリクルートワークス発表の年度ごとの「大卒求人倍率調査」を参照しているようだった
リクルートワークスはこの「大卒求人倍率調査」においては「就職希望者数」を算出するのに
  
>文部科学省「学校基本調査」より、
>@2001年度の大学3年生および4年生の在籍者数(2001年5月1日現在)に進級率および留年率を乗じ、
>A2002年度の大学4年生への進級者数および同年度の4年生留年者数を算出し、
> その合計数[現在の大学4年生の在籍者数]を推計、次に過去5年間の実績を元に、最新年の卒業見込み率、
> 就職希望率及び民間企業就職希望率を推計し、
>B2002年度・卒業予定者数
>C2003年4月・就職希望者数
>D2003年4月・民間企業就職希望者数を推計する(→以上の手続きを各学歴別、文理別に行う)。
                              (引用元は2003年度卒用の「大卒求人倍率調査」)  

としている

こうなってくると、もう各年ごとの数値でしかない「出生数」と比較するのが馬鹿らしくなってくる
そして最後にこのコピペの結論、
「(03年度卒の求人数/出生数=0.355、87年度卒の求人数/出生数=0.354であることから)
  2003年卒はバブル期の1988年卒並みに大卒の職に就くのは簡単だったということです」
この結論への持って行き方はもはやお笑いレベルの浅はかさである
その理由は、「大学卒業年度」ごとの「大卒の」就職難易度を測ろうとしているのに、
最終的に「求人数」に「出生数」をぶつけて比較しているところにある

「大学卒業年度」に「出生数」を当てることの問題については先に触れたとおりだが、
「大卒の」就職難易度を計るというのに「求人数」(これ自体大卒に対する求人数なのに)に「出生数」を当てていることが全くもって見当違いなのだ
「大卒の」就職難易度を計るのであれば「(大卒に対する)求人数」に「(大卒の)就職希望者数」をぶつけなければ意味がない
というかそれこそが「大卒求人倍率」であって、「大卒求人倍率」こそが大卒の就職難易度を計る指標となるわけだ

コピペの理論は、言い方を悪くすれば「03年卒は87年卒の頃に比べて馬鹿も大学に入るようになったから、大学生が増えて、
結果として大卒の求人倍率が悪化して就職が難しくなった」ということだろうが、これは当たり前のことを言っているだけである
馬鹿だろうが何だろうが「大学生が増えた」のに対して「企業の求人数は減った」のだから大卒の就職は難易度は増したと言って問題ない
「出生数が減っているのなら求人数が減っても倍率は変わらないのでは?」という視点からアプローチしていくのなら
「大卒」という括りを捨てて「出生年」ごとの就職難易度を測って行く必要がある

ただしその際には中卒・高卒・専門卒・短大卒・大卒などの各段階別での求人数と求職者数を多段階的且つ交差的に見ていく必要があるし
早生まれの人口や死亡者の人口も考慮して資料を集めていく必要があるだろう
はっきり言って物凄く面倒な作業になると思われる(というか元になる資料が揃うかどうかすら怪しい)


数値を使って何かを検証する時には、
「数値の引用元となる資料はどのような手法で数値を算出しているのか」
「比較する項目は本当にそれでいいのか」
「突っ込まれた時に反論できる確固たる根拠があるのか」
「そもそもその数値は立証したい仮説の根拠となり得るものなのか」
と言ったことを熟考した上で作業して行くことが重要になってくる
実社会での数値検証においてこれを疎かにすると、総ツッコミを受けてボロクソにされるオチが待っているだけだ