●オバマノミックスが招く日米中三国同盟●

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27佐藤総研
■オバマノミックスが招く「米中同盟」と日本の生き筋
−三国同盟による新世界秩序の可能性−

◆オバマノミックスと米国債引き受け◆
政府の対応遅れで日本経済はボロボロになり、大きく痛むであろう企業の3月決算を
経て、失業者が路頭に溢れる事態に突き進んでいる。
今回の世界同時不況の元凶である米国は、共和党の反対の中、オバマノミックスとい
われる70兆円規模の大型景気対策法案を2月中旬に成立させた。
しかし、金融機関や自動車ビッグスリーへの資本注入も合わせれば、200兆円とも
言われる国債発行の引き受けを消化することはミラクルに近く、今後は如何にこれを
やり遂げるかが焦点になる。

ヒラリー国務長官の2月16日からのアジア4カ国訪問は、本音ベースでいえば日本
と中国に米国債を引き受けてもらうための交渉が最大の目的だろう。

金融工学商品の市場崩壊によって欧州が、そして石油下落によってロシア・中東が大
きな痛手を負っている中、米国債引き受けを出来るのは、日本と中国しかない。
28佐藤総研:2009/02/15(日) 22:21:20
◆日本の景気対策財源◆
さて、能天気な麻生政権の下、日本経済は崩壊に一直線に進んでいるが、民主党の行
財政改革を中心とした政策も、中長期的には必須ではあるが財政中立的な平時モード
の政策であり、この未曽有の世界同時不況に対応し切れていない。
真水で20〜30兆円規模の対策が必要だと自民党内からも声が上がっているが、先
ずその財源はどうするのか。
今議論に上がっているのが、@従来の赤字国債・建設国債に加え、A政府紙幣発行、
B無利子・相続税非課税国債である。

従来の赤字国債・建設国債の発行について言えば、オーソドックスな手法だが700
兆円を超える国債残高を考えれば世論の賛成を得るのは難しいだろう。

次に政府紙幣であるが、借金が増えないで財源が手に入るのであるから真に善い策で
あるが、円安誘導が起こり唯でさえ貿易保護主義がトピックになっている中、各国か
ら袋叩きに会いかねない。
ハイパーインフレへの懸念は、デフレ下では当面ないとしても、スイッチオンで何時
でも既存の国債残高をチャラに出来るという事なら円は通貨としての信用を失うだろ
う。
ここまでの飛び道具を行うのは、革命後や敗戦時の様な特別事態に限られ、未曾有の
世界同時不況と雖も、もし本当に実行するためには客観的、自動的、自律的、普遍的
且つ国際社会が認める発行制限額算出の仕組みが必要である。
筆者は少なくとも現時点ではその仕組みをイメージ出来ない。
29佐藤総研:2009/02/15(日) 22:22:01
無利子・相続税非課税国債は、借金の元本は残りスカッとしないが、その分発効に規
律が保たれ政府紙幣に比べれば現実的である。
但し、日本では元々相続税を払うケースは僅かな富裕層に限られるから、この国債購
入分については、たとえ出所がアングラマネーと思われても所得税調査を行わないと
いうような仕組みが加わらないと購入が進まない恐れがある。

余談だが、上記の財源策に加え、筆者は分野別新型国債を提唱している。
分野別新型国債を発行してファイナンスし、成長が期待される新産業分野等に国家プ
ロジェクトとして投資し、よってGDPが伸びた分を利息の代わりに国債購入者に配
当する。
どうやって正確にGDP寄与度を測定するか、どのように投資資金を流し込むか等、
本当に実現するためには突っ込み所満載であるが、投資家の目によって各々の国家プ
ロジェクトが監視されるというメリットはあるだろう。

いずれにしても、財政中立政策では、日本経済と日本社会は崩壊してしまうと筆者は
見ており、財源策については、よくよくメリット・デメリットを洗い出し具体化した
上で比較検討し、程度の差はあれ何らかの飛び道具を使うべきと考える。
30佐藤総研:2009/02/15(日) 22:22:23
◆日本の景気対策の中身◆
さて、次にこうして得たとする財源をどのように使うかが問われる。
早急に総需要を喚起し雇用を作り出す必要がある。
ここで考えられるのは、@港湾、治水、道路等の従来型公共工事、A学校耐震化工
事、電線地下埋設、羽田空港拡張整備等の「新型」公共工事、B環境・安全技術、新
エネルギー・食糧水資源、福祉ビジネスへの投資等である。

先ず、特効薬と言われる従来型公共事業は土地収用費用に消える分も多く時間が掛り
乗数効果も落ちており、第一、作り終わった後の稼働よる経済効果を生まないものが
多い。

次に、取りあえず「新型」とカテゴライズした公共工事であるが、学校耐震化につい
ては、即効性があり規模が大きい。
電線地下埋設については、即効性は劣るが同じく規模が大きい。
しかし、これらは安全・利便を産むが、工事完成後の稼働による経済効果は従来型公
共工事と同じく多くは期待出来ないだろう。
これに対し、羽田空港拡張整備は騒音対策等の調整に時間が掛かるが、確実に産業イ
ンフラに成り得る。

環境・安全技術、新エネルギー・食糧水資源、福祉ビジネスへの投資等については、
これからの成長が期待出来、リターンが期待される分野である。
しかし、個別に見て行く必要がある。
環境・安全技術については、人が生きてゆくのに不可欠なものは将来も需要はあるだ
ろう。
しかし、地球温暖化対策については、気候変動等を引き起こすと言われるが、まだ
分っていない部分も多く、環境バブルを演出されている気味もあり、喫緊でないもの
は後回しと国際社会の中で梯子を外されるリスクが伴う事を計算する必要があるだろ
う。
31佐藤総研:2009/02/15(日) 22:22:54
新エネルギー・食糧水資源については、太陽光発電、バイオマス、燃料電池等は環境
ビジネスと重なる部分である。
また、原油の値段が短期間に3分の1になるように国際社会に翻弄されるのは環境ビ
ジネスと同じであるが、経済発展に伴った中国の「爆食」等を考慮すれば、いずれ世
界的に不足することは確実であり長期的にはペイすると思われる。
なお、たとえペイ出来なくとも、エネルギー自給率ほぼゼロ、食料自給率の40%の
日本が投資することは安全保障の面からも正しい選択である。

介護等の福祉ビジネスは内需の拡大に寄与し、またセイフティー・ネットの一部とし
て、現在は政府の補助と制度の整備が必要な分野であるが、本来介護や医療を必要と
せず健康長寿であるのが理想的な姿であるから、過度にビジネスの視点を強調し病人
や介護認定者を作り出す事があれば本末転倒であり、注意が必要である。

以上見てきた事を踏まえ、景気対策には即効性、将来のリターン、安全保障、投資リ
スク、社会への副次的な作用を考慮し取捨選択の上、直接投資、補助金、税制での優
遇等の手段と組み合わせトータルなプランを組み上げることが必要である。
32佐藤総研:2009/02/15(日) 22:23:18
◆「米中同盟」なのか?◆
さて、オバマノミックスにより発行される大量の米国債引き受けに戻ろう。
中国は成長率が落ち、これ以上失業者が増えると共産党政権が転覆しかねないため、
地方政府分も含め50数兆円とも言われる大型景気対策を本気で実行中であり内需転
換を図っているが、少なくともここ10年は依然として米国の巨大な市場なしには中
国経済は立ち行かない。
また、既に巨額の米国債を保有している中国は米国と運命共同体的な気味もある。
中国が米国債下落で多大な損失覚悟で、米国債売りを仕掛け一気に覇権を取りに行く
と見る過激な論者もいるが、駆け引きの最終的なオプションの一つに過ぎない。
中国は、元レート安値維持等と引き換えに、米国債を引き受けることとなるだろう。
実際に経常収支と財政が黒字であるためその余裕がある。

一方の日本も、巨額の米国債を持っている上、米国の消費に支えられている事は中国
と同じであり、外為特会や郵貯、あるいは前述の財源策で得た金で、米国債を引き受
ける事となるだろう。

ここでオバマノミックスに伴う日米中の利害関係から今後予見される事を整理する
と、凡そ以下のようになろうか。

@日本が、先端環境技術を米国に提供←→ 米国は、開発資金を日本企業に投資
A日本が、環境技術を中国に提供  ←→ 中国は、市場を日本に提供
B中国が新規米国債応札      ←→ 米国は、中国の元レート安値維持を容認
C日本が新規米国債に応札     ←→ 米国は、現状以上の見返りを日本にせず
D中国が更に新規米国債応札    ←→ 米国は、覇権の一部を中国に割譲
33佐藤総研:2009/02/15(日) 22:24:11
@ABは日米中にとって、また日米中が中心とならなければ現下の世界同時不況は収
められない以上即ち世界経済にとっても良いが、CDは日本の国益を損なう。
Cは、いつもの事ながら、たとえ日中が米国債を引き受けても米ドルの下落リスクが
大きい以上割が合わない。
Dは、いま直ぐ起こる事ではないが、世界経済が今後大きく中国内需頼みになり、米
国始め欧米が、ソマリア沖の海賊対策で艦隊派遣要請するのみでなく、将来の太平洋
の覇権分割に繋がりかねない空母艦隊創出を容認している事を見れば、将来的には決
して絵空事ではない。

巨龍を大海に放つ訳には行かないが、世界は、米国に代わる中国の巨大市場を必要と
している。
オバマノミックスにより招かれた「米中同盟」のカギ括弧が外れる日は10年20年
のスパンではやがて来る可能性が高い。
日本は今から、「日米中三国同盟」もオプションの一つとして、この新旧2超大国と
渡り合い、新国際秩序の青写真を描きつつ、安全と繁栄を内容とする長期的国益を確
保する戦略を立てるべきである。

佐藤鴻全@佐藤総研