「経済学者たちの闘い−エコノミックスの考古学−」
若田部昌澄著 東洋経済新報社 ISBN4-492-37097-8
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492370978/ コラムA(P.8) 日銀理論
金融政策の運営について、日本の中央銀行が奉じている「理論」。むろん、この呼び名は
もともと日本銀行金融政策批判派からつけられたものである。この「理論」はその時々の
日銀の方針に応じて絶えざる進化を重ねているから、一見したところとらえどころがない
ように思われるが、そかし、その理論には明確な「中核」があるといってよい。それは、
中央銀行はハイパワード・マネー(現金、日銀当座預金。ベースマネーともいう)、マネー
サプライ、物価については統御することができず。したがってそれについては責任がないと
いう思想である。そしてこの思想を共有しているという点では、日銀は、中央銀行の「正統
的」思想の継承者である。
もとは、小宮隆太郎氏が外山茂氏などの日銀エコノミストとの論争の中で「日銀流理論」
と名づけたものである(『現代日本経済』)。そのときの争点は一九七三〜七四年のインフ
レについて、過剰なマネーサプライを供給した日銀の責任であった。小宮氏の日銀批判に
対する日銀側の「理論」は、ハイパワード・マネーという概念すらない、きわめて素朴な
ものであった。