【インフレターゲット】
政府が中央銀行に政策目標として物価目標を与え、中央銀行がその目標を実現すべく努力する
という政策。物価目標としては通常1〜3%、2〜5%程度の数値が与えられる。政府と中央銀行
が目標について合意し、中央銀行が自発的に行なう性善説スタイルのもの、政府が中央銀行に責任
として物価目標を与え、実現できない場合は総裁の責任問題として総裁更迭を行うという性悪説
スタイルのもの、その中間で、中央銀行が与えられた目標実現に最善を尽くし、達成できなかった
場合も国会などで説明のチャンスを与えるというものなど、実際上の制度にはいくつかの種類が
ある。
金融政策の手段については、全て中央銀行に任せられる。通常の買いオペだろうが、買い切りだろ
うが、公定歩合操作だろうが準備金の引き下げだろうが、何でも良い。結果だけが求められている。
財政出動・ヘリコプターマネーなどの財政的手段は中央銀行は実施できないので、この場合は政府
と日銀がアコードを結び、政府が実施する事になる。政府が約束を守らなかった場合は、当然中央
銀行に責任が無いという事になる。
【インフレターゲット実現の障害と、インフレターゲットを取り巻く誤解】
1)物価目標の適切な値が決められるのか?
CPI(消費者物価指数)、WPI(卸売物価指数)など幾つかの物価指数があり、どれを使う
のか、議論が分かれている。常識的にはCPIなんだけどね。そして、物価目標の下限を決める際、
CPIの速報値に1%程度の上方へのブレが指摘されており、物価目標の下限として、どの程度の
水準(0%なのか1%なのかはたまた2%なのか)にするのか、議論が分かれている。1%が適当
だと思うが。
2)中央銀行の政策手段
現在CPIで△1%程度のデフレであるが、インフレターゲットを導入すると、中央銀行が単独で
CPI1%を目指さないといけない。日銀は、責任を全部押しつけられてはかなわないと考えている。
そのために中央銀行と政府の間でアコードを結ぶのだが・・・
3)国債の暴落懸念
デフレ下では資金の運用にリスクがありすぎるため、現金についで安全な資産である国債の金利が
とても低い水準(国債価格高=金利安)にある。インフレターゲットでインフレ期待が生じると、
長期国債の価格が下落し、長期金利が上昇する懸念がある。これは、インフレ期待=景気回復期待
のため株などの危険資産に資産運用のウェートが変わる事で、国債の需要が減るために生じる。
現在順調に国債を発行できている財務省にとって、国債暴落は不安材料である。が、現在の金利
水準(国債価格)が異常なのであり、財務省にはもう少し苦労してもらった方が良いと思う。
また、資金の大半を国債で運用している銀行の収益を懸念する向きもあるが、銀行がインフレ期待
をもってポートフォリオを変更した結果、国債価格が下落するのであり、きちんと対処した銀行は
たいした損失を蒙らないどころか、株価などの上昇によりプラスもありえる。きちんと対処できず
に大損をする銀行があったら、それは自業自得というものであろう。
また、国債価格については、日銀のCPI1%を目指すための金融緩和策として、金利動向を見な
がら長期国債の買いきりオペなどを重視して緩和する事で、ある程度抑える事が可能である。
4)インフレが暴走する懸念
現在、市中には過剰流動性があり、インフレ期待が生じたらコントロールできないのではないかと
懸念する人がいる。これは、シニョリッジ・ヘリコプターマネーなどのリフレ政策とインフレター
ゲット政策を混同している意見といわざるを得ない。インフレターゲットはあくまで目標物価範囲
にCPIを収めるための政策であり、上限もきちんと決められるものだ。インフレターゲットの
インフレ抑制効果に関しては世界中に実績がある。
5)インフレにならない懸念
2)で指摘した中央銀行が抱える不安である。流動性の罠の下では日銀が物価を上げる事はでき
ないというものだ。これについてはバーナンキの背理法で、インフレが起きない事はありえないと
言う反証がなされている。ただし、バーナンキの背理法は時間の概念が無いので、いつインフレに
なるかは証明されない。中央銀行は政策目標を一定期間内に実現しなければならず、不安を感じる
のはもっともである。これは2)の指摘の通り、政府との合意で解決すべき問題である。
現在政府が進めている構造改革はデフレ要因であり、日銀の政策スタンスもインフレ撲滅の0%
インフレターゲットを動かしていない。お互いに相手に責任を負わせようとしているのが現状で
あり、合意が成立しない原因は両者にあると言える。
インフレ・デフレといった物価の変動は、古くは貨幣的現象と言われていたが、最近では経済主体
の物価に対する予想(すなわち「インフレ期待」)が大きな影響を与える事がわかってきている。
政府と日銀による明確な方針転換の意思表明が重要である。
6)インフレは富の収奪だという意見
インフレ・デフレは貨幣の価値の減価・増価を意味する。インフレで貨幣の価値が減価するという
時は、物・サービスの価値が上がる事を意味する。物・サービスの価値の大半は、労働者の賃金で
ある。つまり、インフレは富裕者・不労所得者から労働者への富の移転である。行き過ぎると大変
だが、適切な範囲で行われれば経済活性化を促す。
7)インフレで借金をチャラにするのはずるいという意見
債権者の不労所得を減価すると考えれば、ずるいとも言えない。
というか、あほらしすぎて反論する気になれない。
8)デフレは良いものだという意見
良いデフレというものは、人類の歴史上存在した事がありません。