「構造改革」の政策思想−創造的破壊か創造なき破壊か
http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no167/siten.htm 確かに経済が過熱気味でインフレ懸念が生じている状況では、非効率部門の温存は問題だ。
こうした時には、需要拡大策や非効率部門による資本や労働の保蔵は、クラウディングアウトを
起こし、賃金や金利が必要以上に高騰してしまう。この結果、新規有望部門が参入し難くなる。
しかし、不況期にはどうだろうか。現在のように供給過剰でデフレ懸念が生じている時には、
遊休資源が大量にあるため、需要を拡大しても非効率部門で資本や労働を抱え込んでも、
クラウディングアウトは起きないどころか需要の維持になる。このため、新規有望部門の参入の障壁になり得ない。
逆に、供給サイドを強化する構造改革は皮肉なことにデフレギャップを拡大するだけだ。
現実に、新規有望部門が出てくれば、労働者も投資家も非効率部門に見切りをつけ、自然に有望な部門に乗り換えよう。
もう一つは、不況時は事業家がリスク許容度が小さくなったり、保有する純資産が低下し、
外部資金コストが上昇するため、新規参入が見送られたり、新規の雇用や設備に対し消極的になる点だ。
カバレロとハマーが米国の製造業を対象に行った実証研究の結果は以下の通りだ。
一般に不況下でも果敢に参入するのは技術力に自信を持った事業家だが、
社齢の若い企業が不況で損失が発生し、融資を受けられなくなって退出して、雇用が破壊される。
情報の非対称性で技術力の優劣ではなく純資産が多い企業が外部資金を得やすい。
このため、不況時に参入できるのは純資産が大きい企業に限られる。
不況から時間が経過した後でも、純資産の小さい事業家はなかなか参入できない一方で、
社齢の古い企業のリストラに歯止めがかかる。このように、不況は新規参入を抑制する一方で、
社齢の古い企業の存続を促進する。この結果、経済全体の生産性を下げる。
不況が創造なき破壊となる点でシュンペーターには皮肉な結果だ。
日本でも、景気の良い時期に開業率が高く、廃業率が低く、不況期には開業率が高く、
廃業率が低くなり、需要が冷え込んだ時期に新たな起業が起き難いという常識が当てはまる。