prelude 「祭」
遠くから、騒ぐ人々の謡が聞こえてくる。
都市を見上げると、いくつかの場所から濃い煙が、あたかも狼煙のように。ところどころ、ビルの窓からは赤い舌が覗いている。
『ゑ~ぢゃなゐか・・・ゑ~ぢゃなゐか・・・』
うねるように響く謡。全てが崩れ去る予兆。
終わりの始まりは、いったい、何処だったのだろうか?
Chapter 1 「落日の時間」
匿名掲示板、日本ではネットワークコミュニティーの中核をこの
古くて新しいシステムが担っている。誰もが好き放題に会話を、しかも
自分の属性を明らかにせずに行える場所は、爆発的に巨大化し、
ネットワークを「使いこなす」うえでこの匿名掲示板、とくに最大手
サイトの「2ちゃんねる」における文化を理解することは不可欠に
なって久しい。
「ちくり裏事情」。玉石混淆な情報が乱舞する、人気のカテゴリー。
本当であるか、嘘であるのか? 裏を取れない、取られることのない、
嘘っぱちから絶対にまともな手段では公開できない情報がそこには
溢れてかえっていた。
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雄飛銀行の誰にも言えない裏事情
1 :ニダーの侵略に抗議する市民の会 :0X/03/XX XX:XX
雄飛銀行では、先日破綻した朝銀から流出した裏資金を、架空口座に受け入れ、
香港経由で北朝鮮に送金しています。嘘だと思うなら、マスコミの皆さん調べて
みてください。
2 :ニダーの侵略に抗議する市民の会 :0X/03/XX XX:XX
口座番号は、本店営業部 普通 0234925 タカムラナオキ です。
先日も香港銀行に二千万円ほど送金されていますが、相手先の口座は北朝鮮の
外交官が管理する口座です。
3 :キリ番名無しさん :0X/03/XX XX:XX
∧∧ ) (´⌒(´
⊂(゚Д゚⊂⌒`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
 ̄ ̄ (´⌒(´⌒;;
ズザーーーーーッ
3かな、3かな?!((( ・∀・ )
4 :名無しさん :0X/03/XX XX:XX
本当か? おい?
5 :名無しさん :0X/03/XX XX:XX
タイーホ決定。
6 :ニダーの侵略に抗議する市民の会 :0X/03/XX XX:XX
嘘だと思われるのは承知しています。
当該口座の残高は現在約1億円。それらはあの潰れた朝銀から不正に持ち
出された金なんです。一度に送金できないはずなので、早めに知らせれば、
日本の税金がそれだけ助かります。
その翌朝、ロイターが「日本の銀行が『悪の枢軸』の資金源?」と
いうタイトルの記事を配信した。その記事内容は、掲示板に書かれた
暴露の内容を裏付けるものだった。
掲示板全体が沸騰した。
ロイターの報道を後追いする形でいくつかの国内ニュースが
この話題を報道する。掲示板には、「ニダーをぶち殺せ!」の煽り
文句が踊り、普通の神経をした人間の眉をひそめさせるような表現が
画面を埋め尽くす。
数時間後には、雄飛銀行本店前で、カメラの群れと警備員が、
右翼の街宣車と警察官が、それぞれ対峙するに至っていた。
「我々ハァ〜テロ国家北朝鮮を支援するぅ〜雄飛銀行に抗議するぅ、
政治結社『国粋塾』であります!」
街宣車の窓から、小さな錘を付けた「斬奸状」と墨痕鮮やかに
書き込まれた文書が投げ込まれ、若い男たちと警察官の間で
小競り合いが始まる。
「このテロリスト!」街宣車のスピーカーが叫びを上げ、応えるように
警察側からは、「あなた達は騒音防止条例に抵触しています!
すみやかにスピーカーの音量を落としなさい!」という警告が返された。
そのころ、もう一つの修羅場は、報道陣側で始まっていた。
「記者会見はいつ始まるんですか!」
「もうすぐです」
「もうすぐっていつなんだ! 会見場は!」「お前広報だろ!」
報道陣と、警備員の先頭に立つ銀行職員との間で、緊迫した応酬が
繰り広げられている。それらのやりとりは、通常では報道されない、
はずだった。
726 :ニュースな名無しさん :0X/03/XX XX:XX
本店前で、右翼と警察が小競り合いしてるね。
727 :ニュースな名無しさん :0X/03/XX XX:XX
報道陣もなんかごたついてるみたいだけど?
728 :ニュースな名無しさん :0X/03/XX XX:XX
だれか状況うぷってYO!
729 :ニュースな名無しさん :0X/03/XX XX:XX
DVカムあるからmpeg逝けるよ〜〜
730 :ニュースな名無しさん :0X/03/XX XX:XX
>>729 (・∀・)! 神!
本来なら報道されないやり取りは、野次馬の手によってネットの海へ
流れ出していった。折からのブロードバンドの普及が、この傾向を
後押しする。各種のアップローダー、そして弾圧されて、急激に
ユーザーを減らしていたかに思われていたWinMX。
もう一つのメディアでも、狂乱は始まっていた。
『ねえねえ、雄飛銀行、ヤバイらしいよ。当座のお金だけでも
下ろしておかないとヤバイんじゃない?』
携帯電話のメールで、OLたちが盛んにやり取りを行っていた。
陸続と集まり出す預金者の群れ。大きな支店では、銀行の周りに
右翼が集まり、小さな支店のATMでは、騒ぎを避けて集まった人で
長い列が形成され始めている。携帯電話の画面には、『混んでいて
おろせないよ!』『どうしよう?』といった文字が踊り狂っていた。
『コンビニATMなら、ひと少ないんじゃないかな? そこから別の銀行
にお金移しちゃえば大丈夫だよ(^O^)/』
誰かの思いつきの言葉が、さざ波のように空間に広がっていった。
その結果、銀行のATMに並ぶのは、ATMを利用することをしない
老人と、コンビニで下ろすなんて事を考えもしない主婦ばかりになり、
銀行の周りにいる預金者は、比較的少ない・・・かにみえた。
しかし、コンピュータのデータからは、確実に預金が失われていた。
だが、それを知ることが出来たのは、データを見ることの出来る立場に
いる職員だけだった。集まる人の数、引き出される金額。一種の
取り付け騒ぎは確かに起きていた。それは支店でも容易に分かる。
ATMに現金を補充する為に働く職員の数は、日常よりはるかに多い。
老人や主婦を中心に、定期の解約も相当の規模にのぼっていた。
これらの事態に対処するため、日銀から現金を運ぶ臨時の便も
到着している。だが、それが経営に影響しているレベルであるとは、
末端の職員に気づける状態にはなかったのだ。
雄飛銀行以外の都市銀行でも、ATMへの現金補充はいつもより
増えていた。引き出し金額が増えているだけでなく、新規に開設された
口座に、即座に雄飛銀行からの振り込みが行われている例も目立って
増えており、雄飛銀行からの他行ATM利用料カウントも通常の数倍に
のぼっていたのだ。
日銀は、雄飛銀行に対し、無制限の資金供給(特融)を行うことを
決定していた。
Chapter 2 「見えない破滅」
折から開催中の通常国会。予算案も採決が終わり、一息ついた
時期に降ってわいたような事件であることは間違いない。議事堂の
赤絨毯を歩む児泉首相に向けて、何本もマイクが突き出される。
『確かに本当だとしたら由々しき事態だね、金融庁長官には厳重に
調査を命じてある。もし本当のことだったら、法に従ってしかるべき
対処をしなければならないだろう』
この発言が為されたとき、金融庁長官にも、首相にも、雄飛銀行が
破綻寸前であることは知らされていなかった。いや、知ることは
出来なかったのだ。日銀自体も混乱していた。データだけが暴走する
取り付け騒ぎ。ネットバンクやATMで「資産データ」だけ別銀行に
移された資産は思いの外多く、雄飛銀行の機能はすでに麻痺寸前
だったのだ。
雄飛銀行各支店では、右翼の起こした騒ぎも暗くなると同時に収まり、
静かに順番を待つ人々がいる以外、一応の平静は取り戻していた。
そこにあるのは、つかのまの静寂。
もう一つの破局も、やはり掲示板から始まっていた。
コンピュータのセキュリティ・・・ウイルスやハッキングを扱う専門の
掲示板に、第二地銀のひとつである、ときわ銀行のネットバンクの
安全性を問う質問が為されたのがきっかけだった。その銀行では、
口座番号と暗証番号で残高照会を行うことが可能で、それがあまりに
不用意ではないのか? というものであった。
512 :名無しさん :0X/03/XX XX:XX
もっとやばいところ・・・見つけたかも。
513 :名無しさん :0X/03/XX XX:XX
どこよどこよ?
514 :名無しさん :0X/03/XX XX:XX
大機銀行、同じシステムで資金移動まで出来る・・・ガ━━(゚Д゚;)━━ン!
515 :名無しさん :0X/03/XX XX:XX
え? 嘘だろ?
半信半疑な人々が、検証を始めた・・・それが事実だと言うことを
理解した板の住人たちは、管理人に電話をし、速やかに発言自体を
削除して、「なかったこと」にすることで急場を凌ごうとした。それらの
行動は、主観的に見れば適切なはずだった。が、正しく遅きに失して
いたのだ。誰が見ているか分からない掲示板においてはたとえ一瞬
だけしかデータとして保持されていなかった情報でも、無限にコピー
されて流通することがある。ほんの30分ほどの時間は、情報を流通
させるに十分すぎる時間だった。
厨房、DQNと言われる少年たちが、他人の口座を弄ぶ遊びを始め、
大樹銀行のネットバンキングシステムは15分ほどで加重負荷による
システムダウンに至る。
噂が噂を呼び、騒ぎが更に大きくなるのに時間は掛からなかった。
もう銀行は信用できない。金は自分で管理するしかない。そう思った
人々が、動き始める。1円でも、100円でも。確保できるうちに現金を
確保しよう、そう考える人々が。24時間営業のATM運用を行っている
銀行は増え、コンビニのATMを24時間利用可能な銀行もそれなりに
増えていたのが騒ぎを野火のように広げ、噂は電子掲示板や携帯の
メールコミュニティを駆けめぐっていく。コンビニATMから、まず現金が
消えた。
翌朝、あらゆる銀行前に人の列が出来ていた。もう、報道は必要
なかった。テレビは銀行にある現金が消えることはない、コンピュータ
システムは安全だ、としきりに叫んでいたが、コンビニATMから現金が
消え、24時間おろせるはずの金が下ろせなくなっているという事態だけで
充分だった。定期も保護される? もはやそんなことは絵空事としか
庶民には考えられなかった。雄飛に続いて大機だ、もう、銀行は信用
できない。並ぶ人々の中に渦巻く感情は、同一のベクトルを向き、
銀行窓口へと矢尻を向けていた。
190 :
ゑ~ぢゃなゐか:02/03/03 21:53
踊れや!ゴルァアアアア!
暴落 ゑ~ぢゃなゐか
\\ 恐慌 ゑ~ぢゃなゐか //
+ + \\ 破綻 ゑ~ぢゃなゐか /+
日本売り ゑ~ぢゃなゐか +
. + /■\ /■\ /■\ +
( ゚∀゚ ∩(゚∀゚ ∩)( ゚∀゚ ) アヒャアヒャアヒャ
+ (( (つ ノ(つ 丿(つ つ )) +
ヽ ( ノ ( ヽノ ) ) )
(_)し' し(_) (_)_)
♪「ええじゃないか」 時に備えて配布中!!!!
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9時と同時に、湯水のように現金が引き出され、30分ほどで、何処の
支店も対処が出来ない状態に陥っていた。日銀は資金供給の手だてを
反射的に講じていたが、その努力も空しく終わり・・・
午後1時、金融庁は、預金封鎖を決定し、それは速やかに実行された。
預金者に払い出す金自体がすでになかったのだ。
Chapter 3 「猛る人々」
銀行前に溢れた人々は、どうすることも出来ずにいた。近くの警察署
から警官がやってきて、人々を整理していたのだが、その警官も、
人々の不安と不満が募りつつあることを肌で感じていた。
「本店・・・に行けば・・・」誰かが呟いた。
何かに導かれるように、人々は電車に乗った。通帳とカードを
握りしめ、自動販売機で切符を買って。何かに憑かれたような目をして。
大手町、日比谷。通常昼間には、オフィス街らしく背広を着た人々が
行き交う街に、様々な服装をした人々が溢れ出す。人々が集まり
出すのと同じ頃に、機動隊所属の警官が集まりだしていたが、
警官の数より人々ははるかに多い。憑かれたような目をして、彼らは
何かを待っていた。
待っているのは、手にはいるはずのない現金?
それとも・・・。
銀行正面入り口の、厚い鉄扉に、何かが当たる音がした。
一人の中年男性が、足下に落ちていた小石を拾い上げ、建物に
向かって投げつけたのだ。
それが、きっかけだった。
一人の若者が、警察官を殴りつけた。
一人の主婦が、金切り声を上げた。
一人の老人が、杖を振り上げた。
人々は、確かに憑かれていた。狂気の波が、人々を包み込み、
染め上げていく。
なだれ込む人々は、全てをたたき壊していった。ATM、カウンター、
そして、その中にいた行員も。彼らは人々の狂気に引き裂かれ、
街路樹に晒された。狂気に怯えた警察官の一人が撃ち込んだ銃弾は、
狂気を増幅させる役にしか立たず、警官一人の無惨な死体と、数個の
撃ち殺された市民の死体が物のように転がった。何人かの警察官は、
狂気に押し流され、暴徒の一部に飲み込まれて行っていた。
狂気は野火のように街を焼いていった。
略奪された銀行からは、いつの間にか炎が上がっていた。
金があると思われている場所全てが略奪の対象になっていた。
サラ金、証券会社。兜町でも暴徒の群れは、いくつものビルを松明に
変えていった。
195 :
金持ち名無しさん、貧乏名無しさん:02/03/03 21:57
経済危機の状態ってある意味お約束の状態だから、そんな予想どおりの未来は
来ないと思われ。結構あっけなく危機は来て去るのかも。えっ危機だったのみたいに。
あっ、予想しちまったから来ないかな、そんな危機は。想像できないほどエグイのかも。
うわー、嫌だなー。ってどうなんだー?
そして、人々は丘に向かった。花崗岩の塔が立つ、国家の象徴がある
場所。永田町、霞ヶ関。日比谷に暴徒が集まりだした段階で、ほとんどの
職員は逃げ去るか、暴徒の群れに飲み込まれていた。数少ない職員が、
自分の持ち場を守ろうと必死に働く努力をしていたが空しいばかり。
暴徒が最初に向かったのは、財務省・金融庁の両官庁。全てが津波に
飲み込まれるように、人の波にもまれ、壊されていく。狂気はその狂気に
犯されていない人間を、引き裂いて生け贄の子羊として狂気の神に
捧げることを要求していたのだ。渋滞に巻き込まれていた高級車から
官僚たちが引きずり出され、暴徒に素手で引き裂かれた。人々は血に
まみれた己の手を隠すこともせず、狂気のもたらす快楽に酔いしれる。
政治家たちも例外ではあり得なかった。見つけられ次第、引き裂かれ、
切り裂かれ、一部の犠牲者は、生きながら喰らわれ、人々の胃袋に
消えさえもしたのだ。
児泉首相は暴徒の指に両目をえぐられた。
梅沢金融担当大臣は、爪で全身を引き裂かれ、内蔵を引きずり出され、
破壊されたセンチュリーの上に磔にされ、暴徒の間を引き回された。
もう、秩序も犯罪もありえない。在ること、それだけが正義になって
いたのだ。
Coda 「狂気、解放」
日比谷公園に、煤け、汚れた人々がうずくまっていた。破壊に飽き、
殺戮に飽き、全てに飽いた人々が。煙を上げる銀行ビル、破壊された
オフィス。複雑な軌跡を描いた風が、オフィスの中から書類の山を
吹き上げて、人々の上に降り注がせていた。花びらのように、
護符のように。
「神宮の御神符が降ってきた」「祭りだ祭りだ」「踊れや踊れや」
人々のつぶやきは、一つのうねりに還元されていく
「ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、よいよいよいよい!」
「ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、よいよいよいよい!」
「ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、よいよいよいよい!」
「ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、ゑ~ぢゃなゐかゑ~ぢゃなゐか、よいよいよいよい!」
人々は踊る。狂気を忘れるための狂気へ、世界を取り戻すために、
狂気を忘れるために。
破壊の後の再生を望んで・・・。
カキコったのは全部フィクションです。
本当になったらやだねやだねということで。
お粗末様。