国家の戦略
「ブッシュ政権は、米国が北朝鮮に対してどんな戦略を採っているか分かって
いるのだろうか?冷戦中、米国政府はゲーム理論の専門家を雇い核の抑止戦略
を分析させていた。ダニエル・エルズバーグ氏など、経済学の博士号を持つ者
が「ゲーム理論と脅迫戦略の実践」などと題された論文を執筆していた。
これらの分析の質はとても高かったが、結論は単純であった:抑止には悪い
行動はこれを罰し、良い行動に対しては報酬を与えるという明確な態度をと
ることが必要であるということだ。」
「当たり前のことのようだが、ブッシュ政権はこの鉄則を破っている。
はっきりさせておこう:北朝鮮の指導者は見てのとおりひどい連中だが
、連中を北朝鮮から放り出す計画を我々が持っているのでなければ、
我々が連中に現在与えているインセンティブを考えてみる必要がある。
あなた自身が金正日になったつもりで考えてほしい。ブッシュ政権はあなたを非難し、
交渉を即座に打ち切ったとしよう。去年のあなたのとった行動はそれ
以前のそれと比較して際立って悪かったわけではなかったが、ブッシュ
氏はあなたを「悪の枢軸」を担う一人だと宣言した。ブッシュ氏はあな
たを「チビ」と呼び、「私はこいつを心底嫌いだ。問答無用にこいつを
何とかしたい。しかし彼らは(ブッシュ氏の側近)、この男をやっつけ
るには金がかかるので急ぐ必要がないと言っている。だからやらない」
と宣言した。」
「ブッシュ氏の「問答無用」な態度は一考に価する。彼の先制攻撃ドク
トリンによると、米国は、実際に援助しているいないに関わらず、
テロを援助していると考えられる国家を攻撃してよいということにな
っている。だが、攻撃するかどうかを決めるのは誰だろう?ブッシュ
氏はこういう、「あなたは、米国がイラクとの戦争に突入しようとし
ているが、それはあなたが決めることではない。決めるのは私だ」。
ブッシュ氏はあなたを悪者と考えており、あなたは何をしても攻撃の
対象になると言うわけだ。
その一方、あなたは核開発に関してフセイン氏より進んでいるのに、
ブッシュ氏はあなたに対して何かを仕掛け始めたわけではない。
そこであなたは、テロ幇助に関してフセインは私よりも上という
ことはないのに、フセインはなぜフセインの方が先に攻撃されるの
だろうかと考える。ブッシュ政権がイラクとアルカイダを結ぶ明確な
証拠をまだ提示したことはないのだ。ブッシュ政権はイラクの石油を
狙っているのかもしれないが、悪の枢軸国の中でイラクの軍隊が一番
弱いと言う事実も指摘しておくべきであろう。
そこであなたは次のように考えざるを得ない:ブッシュ政権は悪者を
声高に非難するが、相手が手ごわい場合は思いとどまる。セオドア・
ルーズベルトの有名な言葉は「くだらないことをしゃべれ、しかし小
さな棍棒を持っておけ」だったっけ?と。」
そしてあなたが去年経験したことは、あなたを更に確信させる。
去年、米国はあなたがウランを濃縮しているとことに気づいたが、
これは1994年のクリントン政権との協定をやぶるものだ。しかし、
ブッシュ政権は、核兵器を作ろうとしている証拠はさほどないにもか
かわらずイラク攻撃には熱心で、北朝鮮問題を軽視しようとしており、
石油の禁輸が精一杯の対応策である。ブッシュ政権は前任者がやったこ
とさえまだやっていないのだ。つまり、軍隊をこの地域(東アジア)
に送り、攻撃に備えるということだ。」
「これに対する平壌の見方は次のようなものだろう:
ブッシュ政権はあなたを邪悪な者と呼ぶ。そして、あなたが核開発を
破棄したとしても援助はない。なぜならそうする事で邪悪な者に報酬
を与えることになるからだ。しかし、ブッシュ政権はあなたを攻撃し
ないと約束するようでもない。なぜなら、ブッシュ政権には邪悪な体
制を崩壊させる任務があるからだ。しかし、戦闘的な姿勢を見せる割
には、米国が戦争をしたいのは軍事的に弱い相手だけだ。」
「北朝鮮のインセンティブは明確である。援助も安全保障も得られそう
にないので紳士的な振る舞いをしても仕方がない。また、北朝鮮の貿
易相手国は最初から中国だけであるから、米国の経済制裁は心配する
必要はない。というわけで、金氏にとって最良の選択は向こう見ず
になることである。それゆえ、米国がイラクのことで忙しい間に核爆
弾を作るのである。
もう一度問うたい:ブッシュ政権は、米国が北朝鮮に対してどんな
戦略を採っているか分かっているのだろうか?」