映画は韓国版「オーシャンズ11」ともいえる作品だが、香港、マカオ、釜山などアジア全域を舞台に、どんでん
返しが連続する展開や華麗な盗みのテクニックはもちろん、個性あふれる泥棒たち10人の謎めいた背景描写が秀
逸だ。キャッチコピーは、「1つの宝石をめぐる完璧な強奪計画を10人の野心と3つの愛が狂わせる」。大里氏が
韓国訪問時、周囲の人々に勧められたこともあり劇場で観賞し、作品の持つ力が心の琴線を突き動かした。これ
は、大里氏が「シュリ」の日本配給(シネカノンとアミューズの共同)を決意した状況と酷似している。
「すごく似ていますね。『シュリ』も韓国に出張していたときに、『面白い映画が当たり始めている』と聞いて
韓国語のできるスタッフと見に行ったんです。泣けるシーンもあったし、とにかくレベルの高さに驚いた。それ
で『買いたい!』と思ったんです。今回もみんなが口をそろえて『10人の泥棒たち』が面白いというので見てみ
たら、その通りだった。劇場を出てすぐにショーボックス(韓国の配給会社)に電話したんです。そうしたら、
日本の配給権利はまだ空いていると返事があったんです」
「シュリ」は、1999年10月に行われた第12回東京国際映画祭で、主演のハン・ソッキュの舞台挨拶つき試写会が
渋谷公会堂で上映されたことが奏功。韓国に潜入した北朝鮮工作員と、韓国諜報部員の悲恋を描いた作品世界が
口コミで大きな評判を呼び、翌2000年に劇場公開されると興行収入18億5000万円の大ヒットを飾った。
「当時、60館くらいでスタートして、最終的には120館くらいまで拡大していったんですよ。今回はスタートが4
8館。東京都内が8館で、関西が7館。決して小さなアート系の映画ではないですよね。作品が面白いっていうこ
とが口コミで広がってくれれば、際限なく広がりますよね。それを期待しているのですが、日本の映画人口は残
念ながら減っている。たとえいい作品であっても、そのうち見に行こうと思っているうちに興行が終わっちゃう。
映画業界の人たちの努力も足りないですね。ただ、この作品がうまくいけば、いいヒントになっていろいろな試
行錯誤が始まって、楽しいですよね(笑)。とにかく今回は役者がみんな魅力的だし、お芝居が素晴らしい。映
画って、それに尽きるんじゃないかな」
また、今作の魅力を余すところなく理解してもらうために製作した日本語吹き替え版には、豪華な声優陣が顔を
そろえた。山寺宏一、朴ロ美、平田広明、平野綾らオールスター級の面々がずらり。大里氏が韓国で観賞した際、
現地スタッフが日本語で同時通訳したことで、キム・ユンソク、イ・ジョンジェ、チョン・ジヒョン、サイモン
・ヤムらの演技に集中できたことに起因する。「東京で完全ではない字幕を目で追いかけているうちに、肝心の
魅力的な演技や仕掛けがわからなくなって、ガッカリしたんです。それで、吹き替え版を作ろうという話になっ
て。結果的に良かったですよね。138分という尺の長さも感じさせないでしょう?」と、どこまでも観客と同じ
目線を注ぐことを忘れない。
前述の「シュリ」だけでなく、「JSA」「猟奇的な彼女」を日本に紹介したのも大里氏。いわば韓国映画ブーム
の立役者といって過言ではない。それだけに、現在の日本の映画業界については歯がゆさを感じており「日本で
は、映画という文化的に非常にレベルの高い創作物に対して、パッションと義務と責務を負って作っている人が
いませんよね、我々も含めて。それは、ものすごく悲しいくらいに文化度が低いということ」と警鐘を鳴らす。
企画そのものが日本国内のマーケットを意識したものに偏っていることを挙げ、「全世界で受け入れられること
を目的にした映画づくりがなされていないという意味での文化度の低さでは、群を抜いていると思う」と指摘す
る。だからこそ、「何としてももう一度、世界中の人々が楽しめるような映画をつくる努力をしなければならな
い。特に、アジアという大きなマーケットが台頭してきているのに、この追い風に乗ってコンテンツを提供しよ
うとしないなんて、考えられませんよ。全世界を相手にビジネスができるチャンスを自ら怠っていると思うんで
す。世界が注目するような企画をつくらないとダメなんです」と熱い思いを語った。
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