消費者庁が生肉そっちのけで蒟蒻ゼリー規制に熱心な理由
2011.06.20 16:00
「食の安全は大切」「消費者のため」お役所が“正論”を振りかざして規制強化を口にする時は、
気を付けたほうがいい。よく見ていくと、その裏では、役人が規制によって食の安全を
“喰い物”にしている実態が浮かび上がる。元行政改革担当大臣の補佐官で
政策工房社長の原英史氏が解説する。
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食中毒で怖いのは、O-157など動物の腸内細菌が原因となる腸管出血性大腸菌感染症。
その患者は年間3000〜4000人にのぼるという。自治体の担当者らは、2002年以降毎年、
厚労省に生肉基準を「罰則付き」に格上げするよう要請していた。しかも、政府は2009年に、
「旧来の生産者寄りの行政から、消費者本位の行政に」という謳い文句で、食の安全を掲げた
「消費者庁」を鳴り物入りで設立した。
以前、汚染米流通事件やBSE(狂牛病)問題で、生産者寄りの行政や、省庁の縦割りが被害拡大を招き、
その反省が消費者庁設立の流れを作った。こんな事故を繰り返さないための新設だったはずだ。
同庁は何をやっていたのか?
実は、彼らが生肉そっちのけで最優先に取り組んできたのが「こんにゃくゼリー問題」。
ミニカップ入りゼリーを子供や高齢者がのどに詰まらせてしまうという問題だった。
消費者庁では昨年、「こんにゃく入りゼリー等の物性・形状等改善に関する研究会」を設置。
「破断試験」や「滑動試験」などを通じて製品の特性を分析し、「豆腐やプリンは破断されるが、
こんにゃくゼリーは破断されない」などの結論を得ている。
そんなことは大仰に実験して証明するようなこととは思えないが……いずれにせよ、この結果に基づき、
昨年12月、ゼリーの形状を「気管の大きさ(内径約1cm)より小さくする」か、逆に
「そのまま飲みこめないようにする」という「参考指標」を公表した。
こんにゃくゼリーによる窒息事故は、消費者庁の把握では1994年以降の17年間で数十件。
なぜ、毎年3000人以上の患者が出ている生肉などの規制より優先されたのか?
それは、いわゆる「すきま事案」の代表だったからだ。「すきま事案」とは、個別法令や
縦割り行政の狭間で取り締まりできない案件のこと。
食品の安全を定める法律には、厚労省の「食品衛生法」と農水省の
「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)がある。
食品衛生法は「衛生上の危害の発生防止」が目的だが、こんにゃくゼリーは「衛生」の問題ではない。
一方の「JAS法」は表示に関する規制なので、こちらでも一定形状を禁止する規制はできない。
こういう事案への対応のため、「消費者庁が不可欠」と強調されてきた経緯がある。
消費者庁にとって、こんにゃくゼリーはいわば生みの親。組織の存在理由証明のため、全力で取り組む必要があった。
だがその陰で、「すきま事案」以外の、生食肉のような典型的な食品衛生問題が疎かにされたのだから、
これでは縦割り行政の見直しどころか、縦割りが1つ増えただけではないか。
※SAPIO 2011年6月29日号
ソース
NEWSポストセブン|消費者庁が生肉そっちのけで蒟蒻ゼリー規制に熱心な理由
http://www.news-postseven.com/archives/20110620_23416.html