社説:民主企業献金再開 改革の本気度問われる
菅直人首相がいくら「マニフェスト(政権公約)に反していない」と強調してみたところで、
「政治とカネ」問題への取り組みが大きく後退した印象は否めない。民主党が、自粛していた企業・
団体献金の受け入れ再開を決めた。
業界との癒着や政治腐敗の原因と指摘される企業・団体献金をめぐり、民主党は昨年8月の衆院選
マニフェストに「政治資金規正法を改正し、その3年後から企業団体の献金およびパーティー券購入を
禁止する」と盛り込んだ。
衆院選後は、献金実績がある企業以外からの受け入れを自粛し、今年に入ってからはすべての企業に
自粛の対象を広げていた。その姿勢は「献金の全面禁止」に向けた強い意欲の表れと国民の目に映って
いたはずである。それが突如の方針転換。献金の全面禁止にかける本気度が疑われるばかりか、またも
裏切られたとの思いが募る。
野党ばかりか「国民には民主党の考えに逆行していると取られる」(前原誠司外相)など党内からも
異論が続出している。岡田克也幹事長は、マニフェストは、当面の措置として国や自治体と大口の契約
関係にある企業に限って献金を禁じているのであって、それ以外は公約違反ではないと強調。公約違反を
唱える党内の声に「新聞ではなく、マニフェストを読んでほしい」と反論した。
だが再開決定は民主党議員でさえ「公約に背く」と認識している。国民がどう受け止めているのかは
推して知るべしだろう。菅首相が「献金によって政策が左右される金まみれの政治とは違う」と力説した
ところで、その違いも国民には伝わってこない。圧倒的に言葉が足りないのだ。
企業献金自粛の代わりに期待した個人献金が思うように集まらず、党内から「政治活動に支障が出る」との
声が強まっていたことが再開の理由らしい。もし「ゴールを明示しているのだから、多少の寄り道には目を
つぶれ」的な発想なら、ご都合主義のそしりは免れまい。
菅首相が衆院予算委員会で「『民主党が受け取らないと自民党に出しにくい』との意見が(企業側から)
あった」と発言したことにも落胆した。所信表明で、カネのかからないクリーンな政治の実現は国民の
要望であり、自分自身の政治活動の原点と述べたのは一体誰だったか。
民主党には鳩山由紀夫前首相と小沢一郎元民主党代表の2人にまつわる「政治とカネ」問題が重く
のしかかっている。政治資金規正法改正をめぐる与野党協議も、野党からの追及に追われっ放しで不調に
終わった。
「内憂外患」が続き、正念場を迎えている菅政権だが、今こそ政権交代を成し遂げた原点に立ち返って
みるべきだ。政治改革は、党の重要な政治課題ではなかったのか。「有言実行内閣」の本領を見せてほしい。
http://www.sakigake.jp/p/editorial/news.jsp?kc=20101103az