静岡県側の富士山登山口で登山指導や観光案内を行った「富士山ナビゲーター」が夏山の閉山に伴い業務を終えた。
山開きから約2カ月間、昼夜を問わず登山客を見守り続けた“目”から富士山の観光地としての改善点や観光客増による
環境破壊と、富士山が直面するさまざまな問題が明らかになった。(玉嵜栄次)
「頂上行きのシャトルバスは、どこで乗ればいいのですか」
富士山5合目の御殿場登山口。ナビゲーターの女性にこう尋ねるインド人男性の姿があった。男性は
ビジネススーツ姿。女性から「頂上までは歩いて登るしかありません。そんな軽装での登山は無理ですよ」と
教えられると、残念そうに肩を落として山を後にしたという。
「富士山がどういう山なのか、外国人観光客に伝わっていない。今後、これまで以上に外国からの客が
増えることを考えれば、インターネットを使った情報発信の仕方を工夫しないといけないのではないでしょうか」
15日に御殿場市役所で開かれたナビゲーターや県担当者らとの意見交換会。出席者の1人、
御殿場市茱萸(ぐみ)沢の酒井修一さん(53)は県の担当者に改善点をこう強調した。
富士登山者に向け、インターネットサイトで独自に天候情報を発信してきた酒井さんは「登山客が登山ルートを
変更したいときにリアルタイムで情報提供を受けられるようになれば、より安全に登山もできるはずだ」と訴える。
実際、登山道では天候が急変することも珍しくなく、ほんの少しの情報の遅れが、登山者の命取りになりかねない。
■防寒具に雨具…
「軽装者対策として売店で防寒具や雨具の販売や貸し出しを充実させるべきだ」
「観光客の連れたペットの糞(ふん)尿問題が深刻だ」
「外国語表記の看板の増設を」。
ナビゲーターが記した業務日報には、「観光地」としての富士山が抱える改善点が列挙されている。
静岡県は軽装で入山して遭難する登山客が夏場に多いことから、国の緊急雇用創出事業を活用し、
富士宮市観光協会に委託して富士登山の経験が豊富な男女ら34人を富士登山専門のナビゲーターとして雇用した。
外国人観光客の増加を受けて英語のほか、昨年6月に開港した静岡空港の利用した東アジアからの観光客の
ニーズに応えるため、中国語や韓国語の通訳担当も含まれている。
ナビゲーターは7月1日〜9月5日までの期間、富士宮、御殿場、須走の各5合目の登山口に配置。3交代制の
24時間態勢で登山者の案内に当たった。「これまでも定期的に登山者の状況確認はしていた」(同観光協会)が
昼夜を問わず、登山口を見守る人材を配置するのは初めての試みだった。
「ナビゲーターが登山口に居続けることで、われわれが気付かなかった問題が浮き彫りになった」と
同観光協会の遠藤岩男専務理事。「確かに自分たちが誘致した海外からの観光客に『軽装だから登るな』とは
言いにくい。防寒具や雨具の品ぞろえの充実は早く取り組むべき課題だ」と話す。
ナビゲーター事業について、「来年度以降の設置はまだ検討中」(県観光政策課)というが、
遠藤専務理事は「ぜひ続けてもらいたい」と期待している。
■観光か環境か
「記念品にするのでしょうか。富士山の石を上着のポケットや手のひらに隠して持ち帰ろうとする中国人観光客が多かったですね」
富士宮口に英語通訳として配置された浜松市西区大人見町の栗嶋美樹さん(43)は増加する外国人観光客のマナー違反を指摘する。
富士山は自然環境を保護する「国立公園」に指定され、自然公園法で5合目以上からの植物や石の持ち出しは禁じられている。
ただ、栗嶋さんは「国立公園を示す看板も設置されていないので、外国人だと国立公園だと知らない人も多いのではないでしょうか」と
管理者側の不備も問題視する。石の持ち出しのほか、ペット連れ登山客の犬が高山植物を食い荒らす被害もあるそうだ。
一方、交通問題も深刻だ。登山客の増える開山中の数日間は自家用車の乗り入れが規制されるが、解除中には富士宮口を先頭に
10キロほどの渋滞が生じることもあったという。静岡県は富士山の「世界文化遺産」への登録を目指す。だが、こうした観光客による
排ガス問題やゴミのポイ捨て、登山道の破損といった景観破壊は後を絶たない。
「観光客が増えることはありがたい。だが、たくさんの人が来れば来るほど自然が破壊されることも事実だ。観光地を前面に押し出しすぎては、
環境に与える悪影響も避けられない」。県観光政策課の池谷廣課長は観光促進と環境保全の板挟みに頭を抱えている。
ソース(IZA!):
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/environment/442254/