家電量販店の再編が加速する――。証券取引等監視委員会は1月16日、ビックカメラ(東京・
豊島区、宮嶋宏幸社長)が不適切な会計処理をしていたとして、同社と新井隆二会長に課徴
金納付命令を出すよう、金融庁に勧告するための検討に入った。
虚偽の決算に基づいて公募増資をし、新井会長が増資時に所有株を売り出した点が金融商品
取引法違反(有価証券報告書等の虚偽記載)にあたると判断したもの。これを受けて、東京証
券取引所も同日、上場廃止基準に該当する恐れがあるとしてビックカメラを監理銘柄に指定した。
ビックカメラの粉飾決算事件が業界再編に発展するのは必至だ。
■当初は脱税事件
ビックカメラに火の手があがったのは昨年夏。当初は脱税事件だった。東京国税局から4年
間で約3億3,000万円の所得隠しを指摘された。
脱税の舞台となったのは、東京・池袋駅東口駅前にあるビックカメラ本店ビル。ビックは2002
年8月に自社不動産の証券化を実施、本店ビルなどを約290億円で特別目的会社(SPC)へ
売却。SPCは匿名組合を通じて購入代金を調達、ビックも匿名組合に対して5%弱にあたる
14億5,000万円を出資していた。SPCを使って不動産を証券化する際、出資が不動産時価の
5%を超えなければ、売却と認められる。ビックの出資は5%弱で売却が成立する。
国税が問題にしたのは匿名組合に対する他の出資者。豊島企画という会社が匿名組合に約
25%に相当する約75億円を出資。同社はビックの創業者である新井隆二会長名義のビック
株を担保に資金を借り入れていたことが判明。豊島企画を実質子会社と認定すると、出資合
計は5%を超え、本店ビルの社外への売却と認められない。国税は売却自体を覆さなかったが、
豊島企画を事業実態がないと認定し、ビックが豊島企画に支払った業務委託費3億3,000万円を
所得隠しとみなし追徴課税した。
■粉飾決算に基づく公募増資
ビックは追徴金を支払い脱税事件は一件落着したが、この問題が粉飾決算に基づく公募増資
事件へと発展していく。ビックに疑惑の目を向けたのが証券取引等監視委員会だ。
ビックはSPCに家賃を支払って本店ビルを使用していたが、07年10月に311億円で買い戻した。
その際、匿名組合との間の清算配当金として受け取った49億円を08年2月中間決算で特別利
益として計上した。そしてビックは決算発表後の08年5月、117億円の公募増資を実施。公募増
資の際に、筆頭株主の新井会長が約8万株を放出、多額の利益を手にした。新井氏の持ち株
比率は59.3%(08年2月中間期)から48.8%(08年8月期)に減っている。
証取委は一連の経理操作を、公募増資を円滑に進めるべく、株価を高める目的で架空利益を
計上したとみなした。新井会長が実質的な株主である豊島企画も、ビックの子会社と認定。
出資合計が5%を超えるため、本店ビルのSPCへの売却を社外への売却と認めなかった。
これを受け、ビックは決算を訂正。02年8月期に本店ビルを売った際に計上した26億円の特別
利益、08年8月期に買い戻した際の49億円の特別利益などを取り消した。その結果、08年8月
期の連結最終損益は41億円の黒字から21億円の赤字に転落した。
問題はさらに発展。08年5月の117億円の公募増資は、赤字を隠した粉飾決算に基づいて実施
されたことになるからだ。これは金融商品取引法違反(有価証券報告書等の虚偽記載)にあたる。
ビックは最悪の場合、上場廃止。新井会長の引責辞任は避けられない。ビックの身売り話が再
燃するのは確実だ。
http://www.data-max.co.jp/2009/01/post_4321.html