ニュースサイト「ワイドショー化」を考える
「炎上メディア」と呼ばれる「J-CASTニュース」が炎上した。ダウンタウンの松本人志氏の
深夜ラジオでの発言の一部を恣意的に切り取ったことが批判されているが、ヤフーもこの
記事を取り上げ、スポーツ紙なども後追いした。J-CASTに限らず脊髄反射的な記事はア
クセスを集めやすく影響力も高まっている。一部の新聞社系ニュースサイトもアクセス増
を求めて芸能ニュースや女性タレントの写真を多用している。「ワイドショー化」「衆愚化」
するニュースサイトの行く末について考えてみた。
■炎上メディアが炎上した理由
まずJ-CASTニュース炎上の経緯から説明したい。
5月12日、J-CASTは「松本人志が硫化水素自殺で『放言』『アホが死んだら別に俺はえ
えねん』」とのタイトルで、松本氏が深夜ラジオで、硫化水素を使って自殺する人について
コメントしたことが『ネットで騒ぎとなっている』と伝え、スポーツ紙なども後追い報道した。
しかし、実際には騒動はなく「2ちゃんねるではそれほどの反応はなく、松本さんのニュー
ス批判をむしろ好意的に受け取る皆さんが多かった」(やじうまWatch)。また、ネット上で
は記事を受けてラジオ音声の検証が行われた。松本氏の発言は、硫化水素自殺の原因
がマスメディアの報道にあるのではないかと指摘する流れのなかにあったことが分かると、
J-CASTの報道姿勢に批判が集まり、最終的には吉本興業がJ-CASTに抗議するという、
炎上メディアの炎上という「ブーメラン現象」に見舞われた。
タレントやコラムニストは、時にシニカルに世相や出来事を語ることがあり、深夜ラジオ
では舌鋒が鋭くなりがちだ。前後の流れを無視して、ある言葉を恣意的に切り出すのは、
「言葉狩り」、そして「私刑化につながっていく」ことは以前のコラム「インターネットと『私刑』
化する社会」でも述べたので繰り返さない。
重要なことは、ある種「どうでもいいようなこと」をネット系、新聞社系に限らずニュースサ
イトが取り上げるようになっていること、そしてメディアの相互作用の中でJ-CASTのような
ミドルメディアも「首が取れる」ことが明らかになってきたことだ。
■ミドルメディア+ヤフーのパワー
「首を取る」とはマスメディアの記者らが使う、政治家、省庁や企業トップを辞任に追い込
むことを意味する言葉だ。メディアのパワーの一部は「首を取る」ことから生まれている。
J-CASTは記事のリードはこうだ。
「ラジオでの放言、暴言では、歌手の倖田來未さん(25)が『35歳になるとお母さんの羊
水が腐ってくる』と発言したのが記憶に新しい。倖田さんはその後芸能活動をしばらく自
粛している」
執筆者がどのような意図でこのようなリードを書いたか分からないが、「羊水発言」はJ-
CASTなどのネットメディアが積極的に報道することで火がつき、最終的に倖田氏は芸能
活動の自粛に追いやられた(もちろん、松本・倖田両氏の発言はその内容を考えても並
べるべきかどうか配慮する必要はあるが…)。従来マスメディアの専売特許だった「首を
取る」ことが、ミドルメディアにも見えてきているのは間違いない。
そのパワーの源泉は三層化したメディアの相互作用にある。ブログや掲示板といったパー
ソナルメディアとミドルメディア作用に加えて、ネット界では日本最大のポータルサイト、ヤ
フーがパワーをレバレッジしている。今回の記事はヤフーニュースのトピックスに「松ちゃ
ん硫化水素発言で騒動」との見出しで取り上げられ、一気に知られることになった。アクセ
ス数は「首を取る」パワーの源泉にもなるのだ。
(以下略)
※ソースはこちら
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT11000030052008