ロシアとの関係が悪化している旧ソ連バルト三国の一つ、エストニアの政府機関や銀行の
コンピューター・ネットワークが、約3週間にわたってロシアからの猛烈なサイバー攻撃を受けている。
エストニアは、一部の発信元がクレムリンやロシア政府のコンピューターであると主張し、
北大西洋条約機構(NATO)も調査に乗り出した。ロシアは国としての関与を否定しているものの、
今回の事態は改めて“サイバー戦争”の脅威を想起させている。(タリン 遠藤良介)
エストニア政府は先月末、第二次大戦でのソ連軍の勝利を記念した銅像を首都タリンの中心部から郊外に移転した。
これに対してロシアは「戦死者に対する冒涜(ぼうとく)だ」などと猛反発し、
政財界の有力者がエストニア製品のボイコットや経済制裁を呼びかけるなど両国関係は急激に悪化している。
エストニア外交筋によると、サイバー攻撃は、同国政府が銅像を撤去した4月27日から始まり、
一度に大量のアクセスを集中させてインターネット・サイトやネットワークをダウンさせている。
これまで大統領府や政府、国防省、外務省といった多数の政府機関と主要な銀行や新聞社が
サイトの停止などに見舞われ、一時は携帯電話網や救急ネットワークも攻撃を受けた。
しかも、政府の専門家が調査したところ、初期の攻撃ではクレムリンやロシア政府のIPアドレスが
使われていたことが判明。アビクソ国防相は14日の欧州連合(EU)国防相会議に際して
「現在のNATOはサイバー攻撃を軍事行動とはみなしていないが、この問題は近く解決されるべきだ」と述べ、
NATOが加盟国へのサイバー攻撃をも集団的自衛権発動の対象に含めるべきだとの考えを示した。
クレムリンの報道官は再三にわたってロシアの関与を否定し、ハッカーがクレムリンや公的機関の
コンピューターを装って攻撃を仕掛けている可能性を指摘した。
ただ、この種のサイバー攻撃に対する危機感はテロ対策の観点からも国際的に高まりつつあり、
NATOは事実関係の究明と防衛策の構築支援を目的に電子犯罪の専門家をエストニアに派遣した。
エストニアは1991年の独立後、「IT立国」を国策に掲げて国全体の電子化を進めてきた。
インターネットを利用した無料電話「スカイプ」の開発拠点が置かれているほか、今年2月には
世界初のネットによる国政選挙を行って注目されている。政府機関はほぼペーパーレスで業務が行われており、
今回、電子化が進んでいることが逆に「ハッカー大国」といわれるロシアの標的となった可能性もある。
現地有力紙の記者は「サイバー攻撃はロシアによる『ひそかな制裁』だ。
しかもエストニアにとっては他の経済制裁よりもむしろ影響が大きい」と指摘している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070521-00000011-san-int