米国ペンシルバニア州で小児科専門看護師をしているラディナ・オズボーンさん(32歳)は、住居の大家に民事で訴えられ、同州フォルクロフト地方裁判所に被告として出廷していた。
原告である大家のジュヌビエーブ・ズムダさん(77歳)が厳しい視線を浴びせる中、オズボーンさんは答弁に答えていた。
民事訴訟の原告と被告は、少なくとも訴訟の主題となっている利害に関しては、お互い敵同士である。
淡々と利害を争う場合もあれば、互いに憎悪をぶつけ合いながら決着をつけようとしている場合もあるだろう。
被告のオズボーンさんは、答弁に答えている最中、自分をにらみつけていたはずの原告ズムダさんに
異変が起きたことに、法廷内の誰よりも先に気づいた。
オズボーンさんは言う。「彼女が突然震え始め、白目を剥いたのです」
ズムダさんは、怒りのあまり身震いして白目を剥いたのではない。発作を起こしたに違いない。
そう確信した瞬間、自分が被告であり、ズムダさんが自分を訴えている原告であることなどオズボーンさんの脳裏から消し飛んでいた。
オズボーンさんは自分の席を離れて、ズムダさんのもとに駆け寄り容態をチェックした。
ズムダさんは呼吸をしておらず、脈もなかった。心肺停止に陥っていた。一刻の猶予もない状況だった。
オズボーンさんは、ズムダさんの体を床に横たえた。
ズムダさんの鼻をつまみ、ズムダさんの唇に自分の唇を重ねて、息を吹き込んだ。
懸命に心肺蘇生術(CPR:cardiopulmonary resuscitation)を続けるオズボーンさんを裁判所の職員の1人が手助けした。
誰かが助けを呼びに行った。
まもなく救急隊員が到着した。除細動器で蘇生を試みると、ズムダさんの心臓が再び鼓動を開始した。
ズムダさんは最寄の病院に運ばれ、入院することになったが容態は安定しているという。
オズボーンさんは1年ほど前からズムダさん所有の賃貸物件の賃借人になっている。
民事訴訟の具体的内容は明かされていない。
“子供に良いお手本を”などと言っているほどなので、まさか家賃滞納とか、そういう“悪いお手本”的なことではないはずと信じたいところ。
また、現段階ではどうなるか不明だが、今回のことで、ズムダさんがオズボーンさんのことを見直して訴えを取り下げるなどという展開もありえる。
実際には、オズボーンさんが実施した心肺蘇生術のおかげでズムダさんが息を吹き返したのではない。
救急隊員が持ってきた除細動器が彼女を蘇生させた。
だが、自分の命を救うために懸命の処置を行ってくれたことを後で聞いて、ズムダさんは少なくともありがたく思ったはずである。
オズボーンさんはキャリア7年の現職看護師だが、病院の外で心肺停止に陥った患者に遭遇し、
心肺蘇生術を実施したのは、さすがに今回が初めての経験。
奇しくも、自分を訴えている原告を救ったことになるが、自分がヒーローになったようには感じていないという。
ただ、今回のことが自分の子供たちにとって良いお手本になればいいな、と考えている。彼女は言う。
「誰かが倒れたとき、自分がその人を助けることができるのなら助けに行く・・・それに尽きます」
自分には死に瀕している人を救いうる知識と技術と経験がある。
ならば、倒れた人が自分と敵対している相手であろうとなかろうと、その人を助けるために最善を尽くす・・・
という美徳をオズボーンさんは実践して見せたことになるだろう。
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