運営費のほとんどが自前持ちという岩舟町観光協会が、資金稼ぎにと地場産品の素焼きの土管を使った
スピーカーを売り出した。無数の微細な穴とその独特の形状が生む音は透明感があり、軟らかい。
オーディオ・マニアからの注目も集まり、予約や問い合わせが相次いでいる。
このユニークな商品を発案・製作しているのは、町内で電子計測機器の製造会社を経営している梅沢盛雄さん(58)。
町観光協会は県内でも珍しい「民活運営」。資金のほとんどを会費とイベントでの売り上げに頼る。
会員でもある梅沢さんは、もちろん厳しい台所事情を知っていた。昨年2月、「協会の収入源になるかもしれない」
と浮かんだアイデアが土管スピーカーだった。
元々、音響機器メーカーの技術者で、現在も真空管アンプを製作・販売するほどのオーディオ好き。
「マニアの中には塩化ビニル管でスピーカーを手作りする人がいる。岩舟の土管でも作れるのでは」と考えた。
岩舟・三毳(み・かも)焼の起源は平安時代。瓦や植木鉢などが焼かれていた。戦後、田畑の水はけを良くするための
暗渠(あん・きょ)工事用の土管が主流となった。コンクリート管から塩ビ管にと代わり、ピーク時20〜30軒あった窯元も
今では2軒しかない。
スピーカーは、母なる大地(地球)から生まれたことから「Earthen(アーゼン)」と名付けられた。長さ48センチ、
内径7・5センチの土管がスタンド。スピーカー部分は接続用の変形土管が使われた。
1セット2万9800円。スピーカーユニットを固定する板を天然木を使わずに紙製のものを使うなどして
コストを抑えたという。「でも音には妥協していませんよ」と梅沢さん。
素焼き独特の微細な穴と表面の凸凹が心地よい音を生み出す。試作品をいくつも作り、数百万円もする
知人のスピーカーと鳴らし比べた。ボーカルの音を良くしようと、中音域と中高音域にこだわった。
昨年10月、東京であったイベントに出品した。20代前半の若者はまず形を面白がった。そしてフュージョンのような
スピード感のある音がいいと言ってくれた。40代半ばの男性は、ちあきなおみの歌を聴きながら目を潤ませ、
「いい音ですね」と声をかけてくれた。
スタッフの妻川(さい・かわ)昇さん(46)と3畳ほどの作業スペースで作っている。本業もあり、月産20セットが限度。
すでに最初の出荷分は完売した。現在、とちぎ花センター向かいの町農村環境改善センター「こなら館」内にある
町観光協会などで試聴できる。
梅沢さんはいう。「まず聴いて下さい。口コミ、耳コミでユーザーが増えてくれるのが一番」
ソース:朝日新聞 栃木
http://mytown.asahi.com/tochigi/news.php?k_id=09000000701100004