小山の兄弟殺害:下山被告・死刑判決 地裁「血も涙もない犯行」 /栃木
◇地裁、責任能力を認める
「兄弟を川中に投げ落とす際、兄弟のぬくもりを肌で感じていた。あまりにも血も涙もない非情な犯行
だ」――。小山市の兄弟殺害事件で殺人などの罪に問われた下山明宏被告(40)に8日、宇都宮地裁で
死刑が言い渡された。飯渕進裁判長は「極刑をもって臨むのはやむを得ない」と判決理由を述べた。
公判は昨年12月に始まり、検察側は「幼い兄弟をまるでごみのように川に投げ捨てた残忍さは、まさに
鬼畜の所業」と死刑を求刑。弁護側は「覚せい剤の影響による心神耗弱」「居候した兄弟と父親により心身
ともに追い詰められた」と主張し、死刑の回避を求めた。飯渕裁判長は、「犯行時の記憶は鮮明で犯行自体
に計画性も見られ、完全に責任能力を持っていた」「親族などに頼むことも考えられたのにメンツを気にし
て怠った」と弁護側の主張を退けた。
◇主文読み上げにも、表情変えぬまま−−下山被告
午後3時、下山被告は黒い半袖シャツで入廷した。開廷後、飯渕裁判長は「主文は詳細になるので、理由
から述べます」と言って、判決の朗読を始めた。
飯渕裁判長は下山被告の犯行を「自己保身のため、あろうことか4歳と3歳の幼児を亡き者にしたことは、
罪の重さから言って物欲や情欲に基づく動機とも違わない」と厳しく指摘した。朗読は1時間以上に及んだが、
下山被告は終始落ち着いた様子で微動だにせず、判決に聴き入った。飯渕裁判長が「罪を減じるだけの事情が
あるとは言い難く、極刑はやむを得ない」と結論付け、「主文、被告人を死刑に処する」と読み上げた時も、
下山被告は表情を変えることはなかった。
判決言い渡しの瞬間、廷内にはざわめきが走り、喪服姿で兄弟の遺影を抱いて見守っていた祖母(63)ら
遺族は、泣きながら裁判官に向かって一礼した。
判決後、県弁護士会館で会見した弁護団は、即日控訴した理由について「兄弟の父親が我が物顔で居候し、
『出て行ってくれ』と言い出せない被告は精神的に追い詰められていた。死刑を避けうる情状がある」と述
べた。
◇「死刑判決が出て、本当にうれしい」−−兄弟の祖母
閉廷後、祖母(63)は兄弟の叔母(24)と会見に臨んだ。祖母は「死刑の判決が出て本当にうれしい。
だが、死刑になると、下山が一斗と隼人のところに行ってしまうのが心配。(下山被告について)憎いとしか
感じない」と話した。兄弟の父親(41)=覚せい剤取締法違反の罪で服役中=には、電報で知らせるという。
また、児童相談所については「自分の足を使って、家庭訪問をして虐待を防いでほしい」と述べた。
会見後、遺族は兄弟が投げ込まれた間中橋へ向かった。
◇適正、妥当な判決−−吉松悟・宇都宮地検次席検事のコメント
事件の重大性、凶悪性を考えると、適正かつ妥当な判決だ。
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■判決要旨
被告は感情の赴くまま兄弟に激しい暴行を加え、明らかな傷が残ったため、兄弟の父親に発覚するのを恐れて
殺害に及んだ。生命の尊さを軽視した余りにも身勝手で理不尽な動機であって、酌量の余地は到底認められない。
もっとも被告が兄弟に対し暴力を振るうようになった背景には、親子を同居させたことによる精神的重荷が
影響していたことは間違いない。しかし被告は父親と一緒に覚せい剤を使用するなど、積極的に退去を求めなか
った。なお被告は覚せい剤使用の影響を主張するが、犯行時の行動やその後の供述から判断すると、責任能力に
は何ら影響はない。
殺害の方法は、眠っている兄弟を急流に投げ込むという、水死の可能性が非常に高く、死体遺棄的側面もあわ
せ持った残酷な態様で悪質性が高い。
被告は犯行の際、兄弟が川中に落ちたことを冷静に確認し、安心感まで抱いたとされている。被告の言葉を
借りるならば、作業として素早く済ませる気持ちで、1度ならず、2度にわたって兄弟に対する殺人を平然と
実行した、余りにも血も涙もない非情な犯行と評さざるを得ない。
なお兄弟にとって惜しまれるのは、父親を含め周囲の大人が危険の芽を未然に摘まなかったことである。児童
相談所の対応は誠に遺憾と言わざるを得ない。
厳しい遺族感情や社会に与えた影響などを考えると、被告に対して極刑をもって臨むのはやむを得ない。
(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050909-00000002-mailo-l09