[追う]荒れる中学校 捕まる生徒 逃げる先生
この半年間に、傷害や窃盗など計5件の刑事事件で、男女10人の生徒が次々に逮捕された中学校が、東京・葛飾区内にある。
教師も、保護者も、子どもたちを抑えきれず、警察の力でも「非行の連鎖」を断ち切ることができない。なぜ、ここまで。
周囲の大人は、これから何ができるのだろうか――。
葛飾区の中でも、新しい住民が多いこの区立中学は、比較的歴史の浅い学校だ。
今年4月、この中学に赴任した校長は、始業式でがく然とした。十数人の生徒が体育館の後ろで、列から離れてたむろしている。
教師が注意しても無視、新任教師があいさつすると、「お前なんか知らねぇよ」とヤジが飛ぶ。体育館が一瞬たりとも静まることはなかった。
その2か月後、3年の女子3人が逮捕された。遊びの誘いを断った2年の女子に、殴るけるの暴行を加え、たばこの火を腕に押しつけるなどした疑いだった。
夏休み明けの9月には、バイクを盗んだ3年の男子が逮捕された。高校生に肝臓を破裂させるほどの暴行を加えた3年男子3人も逮捕された。
先月以降も、よその中学の女子生徒の服を脱がせて写真を撮ったうえ、暴行を加えた2年女子が傷害容疑などで、
換金目的でコミック本50冊を万引きした3年男子2人が窃盗容疑で相次いで捕まった。
逮捕者はこれまでに男子6人、女子4人の計10人。
「同級生が逮捕されても、別の生徒が違う事件を起こす。逮捕されても、『自分は悪くない』と、あっけらかんとしている。こんな中学は初めてだ」。捜査員は驚きを隠せない。
同校では、少なくとも昨年度までの2年間、警察に逮捕された生徒はいなかった。それが昨年2月ごろから、生徒たちの行動がエスカレートするようになる。
教室を抜け出した女子が廊下で雑談を始め、男子は校庭でサッカーに興じる。「学活の時間が長い」と教室の窓ガラスを割る。
非常ベルを鳴らすいたずらも今年の1学期だけで10回に上り、そのたびに生徒全員が校庭に避難した。
きっかけの1つは、ある“事件”だったという。
「指導で生徒に体罰を加えた教師が、保護者から追及された。以来、教師と生徒の力関係が逆転してしまった」。
同校関係者はそう打ち明け、教師が生徒たちから甘く見られるようになったと指摘する。
教師が、髪を染めている男子生徒の親に家庭で注意するよう頼んだが、親から「よけいなこと言うな」ととがめられたこともある。
昨年夏、こうした状況を変えようと、PTAが数人1組で授業中の校内パトロールを始めた。しかし、教室を抜け出た生徒を注意すると、
「うるせぇよ、オヤジ!」とどなられることもあった。今年春には、28人の教師のうち、校長、教頭、生活指導主任を含む15人が異動、希望して去っていった教師も複数いた。
同区では、学校選択制を導入しており、うわさが広まったためか、同校の来年度の入学希望者は定員を大きく下回っている。
ただ、最近になって明るい兆しも見えている。
2学期から毎朝、28人の教師がそろって正門に立ち、登校してくる生徒にあいさつをするようにした。今月中旬には、PTAが、途絶えていた校内パトロールを再開した。
授業の抜け出しや授業中の私語は減りつつある。「早くまともな学校になってほしい」と言う生徒もいる。
赴任から半年余りが過ぎた今、校長はこう考えている。「問題行動の生徒に共通するのは周囲の大人の愛情不足。学校や家庭、地域が真剣に子どもと向き合い、信頼関係を築き直すしかない」
ttp://www.yomiuri.co.jp/education21/news/20041125_01.htm